花言葉:「遊び」「悲哀」「変わらない愛情」など
イベントでは常に泰然としたお姉さんという印象でしたが、寝たきりになってしまった当時の妹さんと同じくらいの年の子には弱かったりと、お迎えしてみるとまた違った魅力のある方ですね。
ファイルAではクリパのアタッカーとして優秀で、嫁のオジギソウと一緒に害虫どもをバッタバッタと薙ぎ倒しております。
チャリッ……チャリッ……
静かな部屋に手の内で擦れ合うダイスの音だけが響く。
その静寂を破ったのは、肩と太腿が大胆に露出されたバニーガール衣装に身を包んだ女性だった。
「ここにいたのね、ヒヤシンス。そろそろエントランスに来てちょうだい。」
オーナーがいないと締まらないでしょ。と、床に届きそうなほど長い艶やかな金髪を揺らしながら悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
彼女はブプレウルム。私がオーナーを務める船の上の移動型カジノ『パルファン・ノッテ』でディーラーを務め、同じ花騎士でもある女性だ。
私は親しみを込めてブプと呼んでいる。
「あっ、もしかして最近よく訪ねてくる団長さんのことでも考えてたのかしら?だったら邪魔して悪かったわね。」
言うに事欠いてそんな冗談を言ってくる。
……あら、それはブプの方じゃない。ご自慢の長いお耳が嬉しそうよ?
「えっ、ウソ!?」
慌ててウサギ耳に触れ、直後にブプはしまったという表情を浮かべた。彼女の金髪から顔を出している長い耳は飾りなどではない。感情に応じて動いたりもする。けれど……もしかして図星だったかしら?
「はぁ……敵わないわね。とにかく、もうすぐオープンなんだからね。」
諦めたように降参のポーズを取ると、彼女は一足先にホールに向けて歩き出すのだった。
派手なイルミネーションが照らすホールに、カード1枚、ダイスの目1つに一喜一憂する人々の声が彩を添える。
ポーカーにルーレット、クラップス……乞われるまま様々なゲームに興じるものの、やがて懐が寒くなった者たちが意気消沈といった様子で去っていくのは同じだった。
害虫の被害を受けた先でお客様になるべく勝たせるように指示することはあるけれど、今日のところはそういった制約は一切なし。全スタッフが本気の勝負を楽しんでいる。
辺りを見回してみると、何人かのスタッフは好敵手と言えるような相手と出会えたようで、白熱した勝負の熱を間近で感じようと多くのギャラリーが押し寄せているテーブルがチラホラ。
新人のアステリカリスなどは、若干押され気味なようで、先程から「なんてこったー!」という彼女の絶叫が常連の誰かさんとハーモニーを生んでいる。
羨ましく思いつつ、負けるのも良い経験と今回は譲ることにした。いつの間にかブプに横取りされていたけど……
「今日も盛況のようだな。」
手持ち無沙汰になって独り遊びに興じていると、最近だけですっかり聞きなれてしまった声に呼び掛けられて視線を上げる。
ブプと話していた件の団長さんだった。
「君が欲しい!」
当時、少なくとも私としては初対面だった団長さんの第一声がこれだった。
ホールが静まり返ったような錯覚に陥るほどの衝撃に、私は思わず言葉を失ってしまった。
今まで数多くの男性からアプローチをされてきた(一度も受けたことは無かったけど)が、あまりに唐突な愛の告白だった。
「先日の害虫討伐での身のこなし、指示の出し方、是非とも我々の騎士団に来てくれないか?」
情熱的なお言葉は嬉しいのですが、そんな唐突ではどうお返事をして良いやら……は?
「うん?」
思わず呆けた声を出してしまった。どうやら盛大な勘違いをしてしまったらしい。
職業柄、相手の視線や仕草からある程度は考えを読み取ることができる。
落ち着いて改めて見てみると、発言の意図が別のところにあることくらい直ぐに分かったはずだ。それだけ、彼の一言に動揺させられたということでもあり、何だか負けた気がした。
その日はたいした話も聞かずに追い出してしまったが、それからも彼はこうして折を見ては訪ねて来るようになったのである。
「いや、あの時は申し訳なかった。それで、やはり良い返事はもらえそうに無いのかい?」
この人は、外見だけで言い寄ってきた他の連中とは違う。
たまに、帰りの遅れた彼を所属する花騎士らしき女の子が迎えに来ることがあるけど、どの子からも慕われているのが伝わってくる。私をあからさまに威嚇してくる子さえいるくらいには。
今のところ、私は決まった騎士団には所属していない。こっちの仕事もあるし、何より……
「やはり、妹さんのことか。」
こちらの葛藤を先回りして核心を突いてくる。
幼い頃、2人で居るところを害虫に襲われた。
何とか撃退には成功したけど、その時に砕けた武器の破片が妹に当たり、彼女は今でも眠り続けている。
妹のことは、パルファン・ノッテでも一握りのスタッフしか知らない。
そんなことまで話してしまっているあたり、私は彼に惹かれているのだろう。
ええ……ごめんなさい。
でも、だからこそ、寝たきりのあの子を差し置いて幸せに手を伸ばす気にはならなかった。彼からの誘いを受けるわけには……
「ヒヤシンスも素直じゃないわね。」
それでも団長さんが何か言いかけたところで、いつの間にか聞き耳を立てていたブプが割り込んでくる。同じく様子を伺っていたギャラリーを引き連れて。
「ここはパルファン・ノッテよ?ここで意見を通したいなら勝負に勝てば良い、そうでしょ?」
そう言う彼女の指し示す先にはルーレットの盤が置かれている。
「なるほど、ならば赤に賭けよう。」
「さすがは団長さん、話が早いわね♪ヒヤシンスもそれで良いかしら?」
ええ、問題ないわ。
これ以上やっても押し問答が続くだけ、それならブプが言うようにこの場に合った遣り方で決着をつけるのが道理。
「よし、それじゃあ……」
異様な静けさの中、すべての視線が集まっているのではないかという状況で、今……ルーレットが回転を始める。
「オーナー、御遊戯中のところ申し訳ありませ……ひっ!?
あ、あの……害虫です。たくさんの害虫が!」
ホールに駆け込んで来たスタッフが自身に集まる視線に腰を抜かしてへたり込んでしまった。それでも要件を伝えきったのは称賛に値する。
それはさておき……
「っもう!良いところなのに……」
「ヒヤシンスさん、ブプ先輩。私ならいつでも行けますよ!」
結果が出るのを待っている余裕はない。ゲームは一時中断。お客様の誘導はスタッフと団長さんに任せて、私とブプ、アステリカリスの3人で船のデッキへと向かう。
パルファン・ノッテはゲームが大好きだった妹が目を覚ました時、いつでも遊べるようにと用意した遊び場。
害虫なんかに奪われる訳にはいかない。そして何より……勝負の邪魔をした彼らをを許すわけにはいかなった。
害虫の討伐そのものは呆気なく方が付いた。
大型の害虫もおらず、先程までの汚名返上にやる気を漲らせたアステリカリスが魔力銃で次々と害虫を撃ち落としていく……私とブプは彼女が撃ち漏らした幾匹かを処理するだけで良かった。
そして、肝心のルーレットの結果はというと……
「本当に良いの、団長さん?害虫に水を差されたようなものだし、やり直しでも……。」
「いや、今回は残念だけど潔く引き下がるよ。」
討伐が終わり、遊戯台を確認してみると、玉が落ちていたのは黒の7番。私の勝ちだ。
結果を確認し終えたギャラリーはそれぞれのゲームに戻り、団長さんも迎えに来た花騎士と共に屯所へと帰っていった。
「ヒヤシンスさん、本当にあんな中途半端な形で良かったんですか?」
納得のいかない様子のアステリカリス。でも、既に切り替えて仕事に戻っているブプレウルムを見て渋々と持ち場に戻っていく。
ブプは気付いたのだろう。
団長さんが「今回は」潔く引いただけなのだと。近い内に、彼はまたパルファン・ノッテを訪れるはずだ。きっと、今回の件で味をしめて。
女性視点って難しい……
思った以上に難産となってしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。
秋はイベントが盛りだくさん!
現実はコロナ下でイベント自粛が続いていますが、創作の世界では自由にいきたいと思います!