1話目は連載初期に書き上げたものということもあって至らぬ点も多く、いつかリベンジしたいという気持ちがあったので、こうして2話目を投稿できたことを嬉しく思います。
多少は成長してる!……はず(苦笑)
明日はハロウィンのお祭りとあって、ブロッサムヒルの街並みは独特な喧騒に包まれている。
騎士団の詰所がある王城内も例外ではなく、通常の討伐任務に加えて子どもたちに配るお菓子や出し物の支度に明日の打ち合わせと大童である。
非番の花騎士たちが積極的に手伝ってくれたおかげで、どうにか予定通り作業を完了させることができそうだ。
各所から届く支援要請も落ち着いて来たことだし、執務室に戻って当日の警備人員とシフトの確認でもしようかと足を向けると、部屋の明かりが点っているのが確認できた。
不思議に思い中に入ると、執務机の周りでゴソゴソと作業中のディアスキアに出会した。
「ここをこうしてっと。後は団長さんが帰って来る前に……って、あれ、団長さんもう帰ってきちゃったの!?」
確か巡回任務に出ていたはずだが、そんなところで何をしているのだろうか?
「あっそれは少し前に終わって帰ってきたんだけど、団長さん居なかったから。べ、べつにイタズラを仕掛けてたわけじゃないからね!?ホントだよ!?」
こちらは何も言っていないにも関わらず、動揺した様子を見せるディアスキア。
これでは何かあると言っているようなものだが、構わず彼女の方へ歩を進めていくとそれを察知したディアスキアが身を竦ませるのが分かった。
きっと叱られると思ったのだろう。こちらは怪我が無いかの確認がしたかっただけなので、俯いて少し低い位置にある彼女の頭を優しく撫でてやる。
すると、ディアスキアは呆けたような表情でこちらを見上げてきた。
普段は飄々としている彼女の珍しい表情に新鮮味を感じていると、放心状態から復活したのか口を開く。
「あ、あの、団長さん?どうして……」
どうして怒らないのか?という質問なら、執務室の有り様を見れば一目瞭然である。
最後にここを出たときに散らかし放題だった机周りはきれいに片付けられ、書類の束をひっくり返す覚悟だった明日のシフト表も目の前に用意されている。
他の花騎士が片付けた可能性もあるが、非番の者を含めて今もみんな作業中なのだ。
何より、ディアスキアはイタズラ好きな面こそあるものの、猫の手も借りたいような状況で人を困らせるようなことはしない。
そう断言してやると、こちらを見上げる彼女の顔が真っ赤に染まっていく。
「う、うぅ~……。
団長さん、ボクを信じてくれるのはありがたいんだけど……あまりそういうのは、正面切って言わないでほしいかなぁ……」
言葉のわりに満更でも無さそうなところを見ると、ただの照れ隠しだろう。だんだん小さくなっていく語尾がこれまた可愛らしい。
「もぉ~、ホント恥ずかしいからそんなこと言わないでってばぁ~!団長さんの意地悪!」
耐えきれなくなったのか、なおも頭を撫でようとするこちらの手をすり抜け、ディアスキアは逃げるように執務室を後にしたのだった。
そして翌日、ハロウィン当日だ。
知徳の世界花も街の雰囲気に合わせて施された装飾がライトアップされ、作業に参加していた者たちも満足気な表情だ。
普段は関係者以外の立ち入りが禁止されている王城内も一部が解放されており、花騎士同士の模擬戦や演劇、声自慢大会と様々な出し物が訪れた人々を楽しませていた。
憧れの花騎士と間近で触れ合えるとあって、あちこちで子どもたちの歓声が上がっている。
そんな中、普段は訓練場として使用している一角に一際多くの人々が集まってきていた。
「こんにちは~。
ボクは花騎士のディアスキア!
今日はい~っぱい楽しんでね♪」
その人だかりの中心にいるのは、深紅のドレスに黒のマントというドラキュラの衣装に身を包んだディアスキアだ。
腰に提げられている双剣も、仮装に合わせて意匠の施された特別製である。
十分に人が集まったのを見計らい、彼女は徐にステップを刻み始める。
花騎士の常人離れした身体能力を、日々の鍛練で磨き抜いた体捌きで振るう流麗な剣舞。
先程までの人懐っこい雰囲気からは一転、数多の害虫を翻弄してきたその技のキレに、声を出すのも忘れて魅入る人々。
人を楽しませるイタズラが大好きな彼女の事だ。それを堂々とやっても許されるイベントの準備を怠ることはないだろう。そうでなくても、根は真面目なのが彼女の良いところだ。きっとこの日のために相当な練習を積んできたのだろう。
本人に直接言っても照れてはぐらかされるだろうが。
フィナーレに向けて激しさを増していくディアスキアの剣舞に、辺りの喧騒とは別種の興奮が最高潮に高まっていく。すると、先程まで引き締められていた彼女の表情がふっと緩む。
この見事な剣舞こそ、最後の仕掛けを際立たせる仕込みであるとでも言うように……
「それじゃあ、そろそろ?最後の……お楽しみ♪」
打ち合わせ通りの合図を確認し、事前に用意しておいた大きな風船を城壁の上から放つのとほぼ同時、ディアスキアの身振りに誘導された視線がそれを捉え、正確な投擲に割られた風船の中身―大量のお菓子がカラフルな紙吹雪と共に人々の上に降り注ぐ。
嬉々としてお菓子を取り合う子どもたちと、彼女を称える割れんばかりの歓声。
舞い踊る紙吹雪の中、優雅にドレスの裾を摘まみ上げて一礼する姿に惜しみ無い拍手がいつまでも鳴り響いていた。
帰路に就く人々の表情はどれも満足気で、準備に時間を費やした甲斐はあったようだ。
後片付けもその大半が終了し、人々の喧騒に害虫が誘われて来るのを想定して辺りを巡回していた花騎士の部隊も先程最後の部隊が無事に帰還したことを確認している。
執務室の窓から見下ろす先では、一仕事終えた解放感から打ち上げを敢行する花騎士たちの賑やかな声が聞こえてくる。
明日から通常業務が待っていることを考えると注意するべきなのだが、上から黙認の通達が来ているので常識の範囲内なら問題ないだろう。
そう結論付け、このまま休むか騒ぎに混ざりに行くかを思案していると……カチッという音とともに執務室の電気が消される。
「えへへ♪じゃーんぷ!」
視界が覚束ない中、元気な掛け声と共に勢いよく押し倒されてしまった。
状況を把握できずに混乱する頭で、聞こえた声の主がディアスキアであることに辛うじて思い至るが、彼女はこちらが考えをまとめるまでの時間を与える気は無いようだ。
暗がりの中、何とか事態を把握しようと目を凝らしてみると、曖昧な輪郭がこちらの顔に近付いてくる気配が伝わってくる。
その意図に気付いた時には既に手遅れだった。思わず目を閉じた瞬間……ちゅっと柔らかい何かがこちらの唇に触れる感覚。
時間にしてほんの一瞬。こちらが目を開けたときには、彼女は部屋の電気をつけるべく身体を離した後だった。
そんな彼女が手に持っているものは……マシュマロ?
2つ並べたマシュマロは、なるほど唇のようにも見える。食紅だろうか?赤く着色されているあたり、芸が細かい。
「あはははっ♪団長さん、顔が真っ赤だ~!」
おそらく、昨日の意趣返しなのだろう。
ケラケラと楽しそうに笑っている彼女を見ていると、怒る気も失せていた。
その代わり、未だ笑いを堪えている様子の彼女をしっかりと抱き締めてやる。
「んっ、ちょ、ちょっと団長さん!?
酔った時のママたちじゃ無いんだから……恥ずかしいから許して~」
ジタバタともがいてはいるが、本気で抵抗する意思はないようだ。となれば、こちらも言葉通り離してやる理由はない。
やがて諦めたのか、彼女の方からもそっとこちらを抱き締め返してくれる。
真っ赤な顔のままこちらを見上げる視線。
その瞳が閉じられるのを確認し、今度はしっかりと唇を重ねるのだった。
ということでハロウィン回、もといディアスキア回いかがだったでしょうか?
人気投票組に押されて当日を迎える前にハロウィンイベントが終了するという事実に気付いたときは焦りましたが、何とかイベント中に書き上げることができました。
楽しんでいただければ幸いです。