計画性皆無で時期を微妙に逸したダイマです。何か前話出したときに他の娘書くとか言ってた気にするけど気にしない。
先日、指揮を任された任務での功績が認められてまとまった休暇を頂けました。せっかくなので実家の両親に会いに行くつもりだったのですが、先手を打つように『お祭りの景品で貰ったけど私たちは行く宛がないから』と、ウィンターローズにオープンしたばかりのレストランのペアチケットが送られてきました。
前回帰省した時、「誰か良い人はいないの?」と聞いてきた母の言葉に思わず真っ赤になってしまったので、気を使ってくれたのかもしれません。ただ、ちゃんと渡せるかな…。
その不安は的中でした。執務室の扉の前に立ったのは、今日だけで何回目でしょう。
扉の向こうの気配を探ってみると、団長さまが羽ペンを走らせる音が聞こえてきます。ヒノキさんやツキトジさんがお昼寝をしていたり、ウサギノオさんやススキさんが遊びに来ている様子もありません。今なら…。
「団長様に用事ですか?オジギソウさん。」
「はわぁっ!?」
中の様子に神経を集中しすぎたせいで、他の人が近付いてくる気配に気付けていませんでした。必要以上に驚いた反応をしてしまい、声をかけてきた相手のナズナさん―見ると、大量の書類を抱えています。も驚いている様子でした。
「あっ、ごめんなさい。驚かせるつもりは…って、オジギソウさん!?」
ナズナさんは何か言いかけてましたが、私は既に全速力でその場を離れていました。うぅ…ナズナさんには次会ったときにちゃんと謝らないといけませんね。あの書類の量ですし、せめて扉を開けてあげるべきでした…。
「はぁ…。」
このため息も、何回目だったでしょうか…。
先ほどの反省も踏まえ自室のベッドに腰掛けながら執務室の様子を伺っていたのですが…。
「忙しそうだな、団長さま…」
辺りはだいぶ暗くなってきたのですが、まだ作業中のようです。ナズナさんが書類を運び込んでいるのも気配でわかりました。
花騎士の皆さんも何人かが執務室を訪れていましたが、団長さまの忙しさに鬼気迫るものを感じたのか、あまり長居する方はいらっしゃらない様子でした。
チケットを両親の元へ送り返すことも考えたのですが、せっかく送ってくれたのに悪いですし。でも、ナズナさんが抱えていた書類の量が思い出されます。でもでも、私だってできるなら団長さまとお食事行きたい……。
「はぁ……。」
堂々巡りになってきたので、ベッドに横になって思考を打ち切ります。
定期的に書類を運んでいたナズナさんも、既に自室に戻ったみたいです。
愛用の枕を持って、身嗜みを整えて、お気に入りのクマのぬいぐるみを……あれ?
いつからそこにあったのか、鏡に映る私が首を傾げるとその弾みで頭の上から落ちたクマのぬいぐるみが私の腕の中に収まりました。しばらく見つめ合っていると、不思議と励まされている気がしてきます。
「取り敢えず、団長さまにお話はしないとですよね~。」
私は自室を後にしました。
ポケットの中にチケットが入っているのを確かめてから念入りに深呼吸。今度は周りに他の人の気配がないことも確認済みです。ノックをするべく腕を上げると…扉を叩くはずの手が空を切り、前のめりになった私の身体は、次の瞬間には団長さまの腕の中にいました。
「ふぇ!?」
突然のことに思考がついていきません。それは団長さまも同じの様子で、私を抱き締めた体勢のまま固まっています。
どうやら、今度は周りに気を取られた分、中への注意が疎かになってしまったみたいです。うぅ…団長さまが絡むと意識の配分がうまくいきません…。
でも、今はそんなことよりもこの体勢は…。
「ご、ごめんなさい~!」
停止していた思考が、驚きと恥ずかしさで一気に沸騰して、団長さまを振り切って逃げ出そうとしました。でも、慌てすぎて足はもつれ、私はその勢いのまま床に倒れ込んでしまいました。
「痛い、痛いよぉ……。」
敏感すぎる私の身体には強すぎる衝撃。痛みで起き上がることもできず、幼い子供のようにグズる私を、団長さまは執務室のソファーに寝かせて簡単な手当をしてくれました。
恥ずかしさで合わせる顔もありません。ただでさえ忙しい団長さまの貴重な時間を頂いているのに、仕事の邪魔をしただけでなく、子供のように泣きじゃくった挙げ句、手当までしてもらうなんて…。
かけてもらった毛布を頭まで被り、ここへ来た目的も忘れてへこんでいると、団長さまが毛布越しに私の頭を撫でながらクスクスと忍び笑いを浮かべている声が聞こえてきます。
「ああ、すまない。バカにしてるわけじゃないんだ。オジギソウが騎士団に来てすぐの頃を思い出していた。『痛みに慣れるための特訓』だったかな。あの時は扉に激突してたけど。そう言えば、あの日は何か言いかけていたような…。」
相変わらず毛布を被ったままの私に構わず、団長さまは懐かしそうに話し続けます。その内容には、私にも覚えがありました。
痛みに慣れるためというのは建前で、本当は恥ずかしがって満足に自分の気持ちも伝えられない自分を変えたくて、団長さまに無理を言って抱き締めてもらったこと。結局、あの日は1番伝えたかった言葉も伝えることはできませんでした。
このままだと、私はあの日から何も変わっていません。
「あっあの、団長さま!」
私が身を起こすと、団長さまは私の様子を察して話を聞く体勢をとってくれます。
あの日伝えようとしたことに比べれば、なんてこともない言葉。そう思うとすんなりと言葉は出てきました。チケットを取り出しつつ、
「これなんですけど、私と一緒に行きませんか?」
団長さまの忙しさを考えればダメで元々。この一言の為に、私はなぜこんなに悩んでいたんでしょうか。あまり期待せずに団長さまの返事を待っていると。
「この仕事は後に回しても問題ない。これも明日頑張ればどうにか…。少し日程の調整が必要だが、あの相手先であれば…。」
団長さまはチケットを凝視したまま何やら難しい顔でぶつぶつと呟き始めました。
「あの、団長さま?」
「ん?あぁ、せっかくのお誘いだし、ぜひ一緒に行かせて欲しい。」
「へ?」
あっさりと団長さまの了承を頂けました。でも、嬉しさよりも疑問が先に来ます。
「えっ…でも、私の方から誘っておいてあれですけど、お仕事は…」
未だに執務机の上で山積みになっている書類に視線を向けながらその疑問を口にしました。すると、
「元々オジギソウと休みを過ごせるように、ナズナに無理を言って仕事を前倒ししていたんだよ。仕事の目処が付いたら、こちらから誘うつもりだったが、先を越されてしまったな。さすがにウィンターローズ行きは想定していなかったから、明日からというのは無理だが、明後日までにはどうにかできそうだ」
事も無げに言い切りました。ここでまた思考が一時停止。照れくさそうに苦笑を浮かべている姿を見ているにつれて、徐々に言葉の意味が理解できてきます。
「団長さま、すっごく、嬉しいです~!」
今度は自分の意志で抱き付く私を、団長さまがしっかりと受け止めてくれます。
ここでふと、自分から抱き付くところまであの日と同じ状況だと言うことに気付きました。伝えられなかった言葉。今なら、言えるでしょうか?
「団長さま…。わ、私…、」
あの日と同じ、ううん、あの日以上にドキドキと自分の心臓の音が大きく聞こえます。だって、今の私はあの時以上に…。見上げる視線の先には、同じく目を逸らさずに私のことを見つめてくれている優しげな瞳。
「私、団長さまのことが…大好き、です~!」
やっと、言えました。でも、そこが限界でした。
考えてみれば、一日中団長さまの様子を観察していたせいで、日課のお昼寝もほとんどしていません。極度の緊張からの達成感がトドメとなって、私の意識は団長さまからの返事を聞くことなく微睡みに沈みました。
翌日目を覚ますと、自室のベッドではないところで目覚めたことにまず驚きました。その後、ここが団長さまの寝室であることに気付き、昨日のことを反芻して一通り赤面した後、今度は全部夢だったのでは無いかという不安に駆られます。
実際に私はこうして団長さまのベッドで寝ていたわけですから、全てが夢ということはさすがに…。
でも、もしかしたら団長さまを振りきろうとして転んだ先から全部……。
嫌な考えばかりが浮かんでしまい、不安で泣きそうになります。
団長さまは既に起きて仕事を進めているようで、寝室から執務室に続く扉の先からは紙同士が擦れる音やペンを走らせる音が聞こえてきます。しかし、あの量なら約束なんて無くても早めに片付けたくなるので、何の判断材料にもなりません。
結局、中々起き出してこないことを心配した団長さまが涙目で寝室内をウロウロしている私を見つけ、昨日の出来事が夢ではないことを聞かされることになるのでした。
次こそ、次こそは団長さまからの返事を頂くまで意識を保ってみせます!
目標を新たに、一先ずは明日のデートを気兼ね無く楽しむために、大量に積まれた書類を2人で片付けていきます。
団長さまにはせっかくの休みなのに申し訳ないと謝られましたが、昨夜に邪魔をしてしまった分を取り返さないといけませんし、何より副団長という立場で書類仕事を片付けていれば、堂々と他の花騎士さんの前でも団長さまと一緒にいられるのでまったく苦になりません。
2人で作業をしたおかげで、昼頃には仕事を片付けることができました。なので、明日に備えてこれから揃ってお昼寝です。
デート、楽しみだな~。
本当はデート当日まで描くつもりが、導入部だけで先に挙げた2作品の2倍に迫る長さになってしまったので切りました。とはいえ、個人的にはこの話はここで終了というのもありかなとは思っています。無いとは思いますが、希望等が出れば追記という形でデート本編もアップしたいと思います(そもそも書き上げられるのか)。
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