とある花騎士団長の庭園   作:とある花騎士団長

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アブラナ
花言葉:「快活な愛」「競争」等
先ずは別Ver.実装おめでとう、アブラナ!
私はアプリ版開始後に始めたので最初から金や虹枠の花騎士が居る状態でしたが、初期から続けられている歴戦の団長の中には頼りになる戦力としてお世話になった方も多いのではないでしょうか?



30.「快活な愛」と「競争」の負けず嫌いな花騎士―熱き想いを胸に―

「ここが貴方の執務室になります。

任命式に関してはこちらに……後は提出資料についてもまとめられているので必ずご確認下さい」

そう言って立ち去る文官にお礼を述べつつ、これから自分が主となる部屋と改めて向き合う。

最低限の調度品のみが揃えられた簡素な部屋に、先んじて送られていた私物を詰め込んだ段ボールが積み上げられている。

書類の確認と荷解きのどちらを優先させるかしばらく逡巡した後、取り敢えず客間も兼ねた空間に荷物が積み上がっているのは問題だろうという結論に至り(今のところ来客の予定は無いが)、後者を優先することにしたのだった。

 

 

 

「……うおっ!?」

傾きかけた日が差し込む執務室に、良い歳をした男の無様な声が響く。

あらかた荷解きを終えて真新しい椅子に腰を落ち着けようとしたのだが、安物の硬さに慣れた体は経験の無い柔らかさに体勢を崩してしまったのだ。

誰もいなかったことに安堵しつつ、今度は慎重に少しずつ体重を預けていく。

こんな調子では騎士団長の威厳などあったものではないので、何度か腰を上げ下げして感覚を体に染み込ませることにした。

そんな傍から見れば不審極まりない屈伸運動を続けていると、来客を告げるノックの音が響き渡る。

予想だにしないタイミングでの訪問に慌てて体勢を立て直そうとするも叶わず、盛大な音と共に椅子から転げ落ちてしまった。

「ちょっ、今凄い音が……何してんのよアンタ」

突然の音に驚いたのだろう。来訪者である金色の長髪をツーサイドアップにまとめた少女が慌てたように入室してきた。

腰に片手剣を提げていることから花騎士だと予測できるが、いったいどんな用件だろうか?

「……アンタ本当に団長?なんだか胡散臭いわね」

こちらの疑問には答えず、訝しむような視線を向けられてしまった。

だが、打ち付けた臀部を擦りながらの無様な格好では反論のしようもないというものだ。

倒してしまった椅子を直してから改めて用件を尋ねると、疑いの眼差しを残しつつも彼女はこちらをビシッと指差してきた。

「まぁ、良いわ。あたしはアブラナ。害虫との戦いは、絶対にあたしたちで終わらせるの。

新人だからって、適当な作戦を指示してきたら承知しないんだからね!」

アブラナ……その名前には聞き覚えがあった。

ここまで案内されている時に教えてもらった、自分の下へ配属される初めての花騎士。

彼女自身、騎士学校を出たばかりの准騎士のはずだが、戦いを終わらせるとは大きく出たものだ。しかし、そのために努力を積み重ねて来たのはこちらも同じである。

情けない初対面で既に幻滅されているかもしれないが、どうか力を貸して欲しい……そう言って右手を差し出すと、一瞬キョトンとした表情を浮かべるアブラナ。

拒否されるか?そんな不安が過ったものの、不敵な笑顔を浮かべながら彼女はしっかりとこちらの手を取って握手に応じてくれたのだった。

 

 

任命式を終えて正式に騎士団長の仲間入りを果たしたものの、駆け出しの騎士団長にいきなり世界の命運をかけた任務が割り振られるといったお伽噺のような展開は無く、所属する団員もアブラナ1人だけなので、正直“団長”と名乗って良いかも微妙なところである。

当然、新米の騎士団長と花騎士に任せられるような依頼がそう何件も舞い込んでくる訳はなく、専ら2人で訓練をして過ごすことが多かった……のだが、ここで少々問題が発生した。

きっかけは初日に行った模擬戦である。

「はぁ!?あり得ないんですけど!」

ここまで10戦打ち合ってこちらの全勝。後半は熱くなりすぎたアブラナが直線的に突っ込んでくるだけだったため、試合にすらなっていない有り様だった。

当然両者が(正確にはアブラナが)全力を出していれば、こちらがいくら鍛えていると言っても世界花の加護を持つ花騎士と勝負になるわけがないのだが、同じ条件ならリーチの差もあるしこんなものだろう。

しかし、アブラナはそれで納得しない。

「もう1回よ!次こそあたしが勝ち越してみせるんだから!」

負けず嫌いなんて生易しいものではない。

こうなってしまったアブラナは文字通り勝つまで続けるのだ。

地団駄を踏んで悔しがっている彼女を眺めながら、初日の汚名を返上しようと意気込んでみたものの、全勝はやり過ぎたかもしれない……そう思ってしまったのが更なる過ちであった。

「…………」

初めて彼女の1本が決まった瞬間、最初は喜びに震えているのかと思ったがとんでもない。

続けて感じたのは震え上がる程の怒気。

「今、手加減したわよね?」

有無を言わさぬ口調であった。

土下座せんばかりに謝罪の言葉を並べ、仕切り直しを進言することで何とか静まってくれたが、その後も直線的に突っ込んでくるだけなのにこちらの手加減だけは目敏く見つけ出すアブラナとの模擬戦は終わりが見えない。

結局、この日はお互い体力の限界まで打ち合ったせいで翌日の業務に支障をきたし、2人揃って上司からお説教を受けるはめになったのは言うまでもない。

 

 

 

「……ちょっと、真面目にやってるの?」

書き上げた書類をチェックしていたアブラナが修正で赤く染まった書類を突き返してきた。

いくら期限に迫られているとは言え、これは酷い。

「はぁ……どうしてアンタは実戦以外ポンコツなのよ」

期限に余裕があるからと事務作業をサボっていた挙げ句、こうしてアブラナに泣き付いた結果である。

改めてお礼を述べるが、そんな暇があったら手を動かせと言わんばかりにスルーされてしまう。

最後の書類を書き終える頃には、とっくに日付も変わってしまっていた。

「まったく、期限の迫った書類があるから訓練する余裕がないなんてこれっきりにしてよね?

あたしは早くイチゴに追い付かなきゃいけないんだから!」

全面的にアブラナの言う通りなので、こちらはひたすら平身低頭に徹する。

イチゴと言うのは彼女と同期の花騎士で、騎士学校時代は仲の良い友人であると同時にライバルだったらしい。

任命式の時にチラッと見かけた記憶では、規模・実績ともに申し分ないベテランの団長が率いる騎士団に配属が決まっていたはずだ。

規模の大きい騎士団の新人も最初は雑務や訓練がほとんどと聞くので、一律に配属された騎士団の規模で計れるものではないと思うのだが……

「少なくとも、アンタみたいな醜態を晒すようなことはしてないでしょうね」

ぐぅの音も出ないとはこういうことを言うのだろう。

 

 

 

「あっ、もしかしてアブラナちゃんが配属されたところの団長さんですか?」

訓練場に向かう途中、早朝の廊下に心当たりのある呼称が響いたので振り返ると、ピンク色の髪を肩ほどのツインテールにした女の子がこちらに駆けてくるところだった。

「こうしてお話するのは初めてですね。

わたし、イチゴって言いますぅ」

互いのことを知ってはいたものの、直接話したことは無かったので最初はアブラナを探しているものとばかり思ったのだが、どうやら別件らしい。

「えへへ、アブラナちゃんって優しくて良い子なんですけど、ちょっと誤解されやすいところがあるから……」

イチゴの言葉に苦笑が浮かぶ。

こちらの情けない話でも散々吹き込まれているのだろう。

アブラナがイチゴを仲の良い友人として慕っているように、彼女の方も件の団長を様子見に来たといったところだろうか?

「はわぁっ!?とんでもないですぅ。

アブラナちゃんはむしろ……」

「ちょっと団長!いつまであたしを待たせる気……って、イチゴじゃない?」

アワアワとこちらの推測を否定する言葉の途中で、待ちきれなくなったアブラナがここまで出向いてきたようだった。

そう、これから懲りないアブラナと模擬戦の約束をしていたのである。

「ちょっと、ニヤニヤなんかしてどうしたのよ?

言っておくけど、今日こそあたしが勝ち越してやるんだから覚悟しておきなさいよ!」

こちらの笑顔の意図を取り違えたアブラナが生意気なことを言ってくるのだが、最近は少しずつ実力で1本を取られることが増えてきたので、うかうかばかりしてられない。

「ねぇ、アブラナちゃん。今日はわたしも混ざって良いかな?」

イチゴからの提案に、アブラナが笑みを深くしたのが分かる。

「良いわね……同じ相手ばかりで変な癖がついても嫌だし」

念のため団長さんから許可をもらってくるというイチゴを一度見送り、待ってる間にとさっそく互いに木刀を構えて向き合う。

毎日のように模擬戦を続けた結果、周りにはちょっとした人垣が形成されるようになっていた。

特に決まった合図のようなものはない。

実戦にそんなものは無いからだ。

不意を突かれたのだとしたら、油断していた方が悪い。ただ、この静寂もそう長くは続かないだろう。

そんな思考の刹那、間合いを詰めたアブラナに応じるように剣筋を塞いだ木刀が乾いた音を響かせたのだった。

 




なっ、何とかイベント期間中に上げることができた……実質アウトなんですが。
クリスマス、新春と書きたい子は決まっているのですが、今年も隠し玉用意してそうですよね……ユアゲ(苦笑)
好みの子が実装されて欲しいような懐具合が心配なような……複雑な心境です。
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