とある花騎士団長の庭園   作:とある花騎士団長

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35.「信頼」に応える優等生花騎士②―据え膳食わぬは団長の恥―

冬の夜更けの凍てついた外気が頬を刺し、寝間着の上に羽織ったコートの襟を掻き合わせる。軽い散歩のつもりでまともな防寒対策をして来なかったのは失敗だった。

風邪をひく前に戻らなければ……そう踵を返しかけたのだが、ある物音がその足を引き止める。

微かではあるが確かに響くハンドベルの音色。

引き寄せられるように音のなる方へ足を向けると、やがて視界に映ったのは予想通りの人物だった……花騎士のコーレアである。

金色の髪が月光を浴びて輝くその姿は、ハンドベルの音色と合わさって実に幻想的だ。

あまりの美しさに惚けていると、こちらに気付いたコーレアが慌てて駆け寄ってくる。

「団長さま!?もしかして、起こしちゃいましたか?

すみません、音量には気を付けていたつもりだったのですが……」

しょんぼりと項垂れるコーレア。

どうやら演奏が中断されてガッカリした表情を浮かべていたのを悪い意味で受け取ってしまったらしい。

寝付けずに散歩をしていただけだと正直に白状したのだが、余程慌てていたのか、つい言わなくても良いことまで口走ってしまう。

彼女の演奏であれば毎晩就寝前にお願いしたいくらいだ、と。

「えっと、あの……」

案の定、コーレアの方も困惑したような表情を浮かべている。だが、今さら引っ込みもつかないのでひたすらに彼女の演奏を誉めちぎっていく。

「えへへ♪ ありがとうございます、団長さま。

私の演奏が聞きたくなったら、いつでも声をかけてくださいね?」

暗闇の中でも分かるほどに顔を真っ赤にしたコーレアが穏やかに微笑む。かなり恥ずかしいことをした自覚はあるのだが、彼女の笑顔が見れたのならその甲斐もあったと思うのだった。

 

 

 

「いかがでしたか、団長さま?」

日の暮れた後の執務室に演奏を終えたコーレアの元気な声が響く。

驚いたことに、彼女はあのやり取りがあってから毎日のように演奏を披露しに来てくれていた。

期待の込められたその視線にいつもながら見事な腕前だったと称賛を送り、言外に求められるまま頭を撫でてやる。

「んっ、団長さまのなでなで……気持ち、良いです……」

途端に弛みきった声を上げるコーレアを眺めつつ、執務室が防音仕様になっていて良かったとつくづく思う。

別に疚しいことは無いのだが、普段は真面目で礼儀正しく、いかにも優等生といった風貌のコーレアが頭を撫でられて蕩けきっている様は何と言うか……非常に目の毒なのである。

一時はこの有り様を恥じた彼女からの提案で矯正を試みたこともあったのだが、なでなでの間隔が空く毎に些細なミスを繰り返すようになってしまったためお互いに開き直ってしまったのだ。

自分だけが彼女のこうした一面を見ることができる……それを役得と思ってしまうのは不謹慎だろうか?

 

 

 

なでなでを終えた後もコーレアの放心状態は続いていたのだが、不意のノックであっという間に正気を取り戻すと、こちらと距離を取る。

その変わり身の早さに苦笑しつつ返事を返すと、慌てた様子の文官が入室してきた。

「団長殿、お寛ぎのところ申し訳ありません。

実は急ぎの書類が……」

入室と同時に彼女の抱えた書類の束が目に入り嫌な予感はしていたのだが、すまなそうな声音でそれは確信へと変わる。

大方、事務仕事を溜め込んでいた他の騎士団長が討伐任務を理由にこれ幸いと決裁だけで済むような書類を丸投げしてきたのだろう。

文句の1つも言ってやりたいところだが、こちらも似たようなことは日常茶飯事なので拒否するわけにもいくまい。

幸い、明日は大した用事もないので(だからこそ白羽の矢が立ったとも言える)徹夜をするはめになったとしてもたいした問題はないだろう。

頭を下げる文官に労いの言葉をかけつつ、コーレアにも先に休んでもらおうと口を開きかけたのだが、彼女は既に書類の1枚に目を通し始めたところだった。

「私も明日は非番ですから。

2人ならきっとすぐに終わりますよ♪」

それだけ言うと優先度の高い順に書類の束をどんどん仕分けしていく。

発しかけた言葉を飲み込み、感謝の言葉を伝えるとこちらも作業に取りかかる。しかし、どうしても申し訳なさが先立ってしまう。

しっかり者で皆からの信頼も厚いコーレアは指揮官としての適正も高く、普段から頼ってしまいがちな自覚はあった。

最初に訪ねてきた目的にしても、自分の余計な一言で彼女の負担を増やしてしまっているのではないか?やはり無理を言ってでも先に休ませるべきではないか?

そんな思いに駆られていると

「明日はせっかく2人ともお休みですし、これが片付いたら最後まで団長さまに甘えても……なんて言うのはわがまま過ぎますか?

ご褒美は頭をなでなでしてもらうだけで貰いすぎなくらいなのに……」

驚いて彼女の方に視線を向けると、顔を真っ赤にして熱に浮かされたような表情のコーレアと目が合った。当然、彼女がそれを望んでいるのなら断る理由などあるわけがない。

今すぐ彼女を押し倒さんとする衝動を必死に抑えつつ、曖昧な返事をした後はひたすら無言で目の前の書類を片付けることのみに注力したのだった。

 




と言うわけで、投票イベ開始前に何とか嫁の1角をダイマ。
何か最近徐々に1話が短くなってるような?仕事が繁忙期なんです許してください( ノ;_ _)ノ
オジギソウのダイマも書きたかったけどイベ中は周回に注力するのが筋だよな……でも、ニューカマー最推しのあの子はイベント中に布教回をアップしたい願望。
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