花言葉:「霊感」「優しい憂鬱」「インスピレーション」等
天使を意味する花の名前を冠しながら、花騎士を目指した理由から普段の言動までその内容は実に欲望丸出しという……だがそこが良い!
珍しくこれといった業務が予定されていない休日の朝、優雅にコーヒーを啜りながら久方振りの自由を満喫していると、その静けさを打ち破る者が現れた。
「おはようございます、団長さん! 今日は可愛いアンゼリカさんに付き合って見ませんか?」
執務室の扉を蹴破る勢いで現れたのは花騎士のアンゼリカである。
そこはかとなく嫌な予感がするものの、これといった用事が無いのも事実。加えて、今日が何の日であるかを少しも意識していなかったかと問われれば、答えは“No”と言わざるを得ないだろう。
いかにも意識していませんという表情を装いつつ、渋々といった体で頷きを返す。
だが、そんなこちらの機微など彼女には関係ないらしい。
「流石は団長さん! そう言ってくれると信じてましたよ!
じゃあ“コレ”お願いしますね♪」
若干タイミングを被せるよう何かの入った包みを手渡された。
中身にはまだ分からないのだが、少なくともこちらが想定したものとは違うらしい。
意気消沈としているこちらを置き去りにしつつ、彼女は着々と用意を進めていくのだった。
アンゼリカに連れ出された先は、多くの人々でごった返す広場だった。明らかに熱量の違う一角の中心に我々の姿はあった。
「はいどーも、皆さん初めまして! 私花騎士やってるアンゼリカって言います。
今日はバレンタインデー! と言うわけで、チョコレートのプレゼントにやって来ましたよ!」
「「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」」
彼女の一挙手一投足に視線の集まる様はさながらアイドルのステージだが、透き通るような白い長髪に清楚な見た目、頭には天輪が輝き、その姿はまさに“地上に遣わされた清らかな天使”そのもの。
そんな彼女が人々を守る希望の象徴“花騎士”でもあるというのだから、現在の状況も納得の一言だろう。
騎士団長としての贔屓目を差し引いても、アンゼリカの“容姿”ならアイドルにも引けを取らないと太鼓判を押しても良い。
自分はと言うと、角と羽の生えた白馬(ユニコーンというやつだろうか)のきぐるみを着せられ、ひたすら用意されたチョコレートを彼女の前に並べる作業に勤しんでいた。
文句の1つでも言ってやりたいところだが、今の状況では後が怖い。この人混みが捌けたら……と、機会を伺っていると、それまで元気に笑顔を振り撒いていたアンゼリカがある一点を指して手招きするのが見えた。
自然と道を空ける人々。
その先にいたのは幼い女の子だった。
突然の事態に目を丸くしていた様だが、憧れの花騎士から自分が呼ばれているという喜びが勝ったのだろう。最初はおずおずと、徐々に速度を上げて彼女の元へ駆けていく。
アンゼリカは走り寄ってきた女の子と視線を合わせるように膝を折ってしゃがむと、綺麗に包装されたお菓子の包みを差し出した。
「ありがとう、花騎士のお姉ちゃん!」
満面の笑みを浮かべて元いた場所へ戻って行く女の子。それを慈愛に満ちた笑顔で見送るアンゼリカ。
そんな一幕を皮切りに、それまで遠巻きに眺めているだけだった子どもたちが続々と人混みに加わっていく。
どうやら異様な雰囲気に萎縮してしまっていたらしい。その状況を作り出していた者たちは互いに気まずそうな表情を見合せつつ、今度は幾分大人しく人混みに加わるのだった。
「いやー、チョコレートを配ってるだけでチヤホヤされるって最高ですよねーバレンタイン!
これで一ヶ月後には返礼を取り立てる権利が得られるなんて……楽しみですね♪」
余ったチョコレートを噛りつつ、ゲスいせせら笑いを浮かべながらそんなことを宣うアンゼリカ。執務室に戻ってきた第一声がこれである。
その姿は少し前まで慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた者と同一人物だとは到底思えない。
「まぁ良いじゃないですか? あの人たちもこんな可愛い女の子からバレンタインのチョコレートを受け取れて喜んでたんですからお互いにWIN-WINってことで♪」
調子の良いことを言うアンゼリカだが、言ってることそのものは事実なので扱いに困ってしまう。
それに、市販品を詰め直しただけとはいえあれだけの数を用意するにはそれなりに時間が掛かったはずである。最近の任務や訓練に消極的だった訳でもないため、打算の上とはいえたいしたものだ。
「ふぇ? だ、団長さん!?」
まさか褒められるとは思っていなかったのか、対面でチョコレートを頬張っていたアンゼリカが一瞬呆けた表情を浮かべたかと思うと次の瞬間顔を真っ赤に染める。
ここまで素直に照れる彼女はあまり拝めないため、悪戯心が湧いてきた。
やれ、気配りが細かいだの。
やれ、意外と努力家だの。
とにかく褒めて褒めて褒めまくる。
花騎士を目指した理由を問われれば玉の輿とお金儲け、周りからの称賛のためと答えて憚らない彼女を良く思わない声があることも知っている。
しかし、そのくらいなら程度の違いこそあれど誰でも少しは抱いている願望ではないだろうか?
実際、文句こそ言うものの与えられた業務はしっかりこなし、訓練も欠かしていない彼女が楽をして目的を遂げようとしている様には見えず、ただ素直なだけと考えるのであれば好意的に捉えることもできる。少なくとも責められる謂れは無いと個人的には思っているのだ。
「うぅぅぅ……!」
終いにはすっかり恥ずかしさからか俯いてしまい、少々やり過ぎたかと反省したのだが、意外な反撃を受けることとなった。
「そんなの、団長さんに気に入られたいからに決まってるじゃないですか!!」
突然の大声に怯んでいると、アンゼリカがさらに言い募ってくる。
「今日のことだって本当は団長さんを独り占めするための口実で、団長さん用のチョコレートだけはこうして手作りして……あっ」
…………は?
彼女の手には今日配ったものとは違うラッピングの施された箱が握られていた。
「あぁ、もう! はい、これ!
このアンゼリカさんが徹夜して作ったんですからしっかり味わってくださいよ!」
それだけ言うと、アンゼリカは箱をこちらに押し付けて執務室を出ていった。「一ヶ月後、楽しみにしてますからね~!」というお決まりの言葉と共に。
翌日、去り際のアンゼリカのセリフを聞き付けた花騎士たちによって情報が拡散され、当日にチョコレートを渡そうと自分を探し回っていた者たちから詳細を聞き出されることになろうとはこの時は想像もしていなかったのだった。
何とか当日に間に合った!
そしてクズという個性も突き抜ければ魅力になるという不思議。
別のキャラでもそうですけど、声を当ててる方の演技力もあって凄く人間味のあって好感の持てるキャラクターだと思います。
そして、祝通算UA5000回!
これも一重に稚作を読みに来てくださっている皆様のおかげに他なりません。この場を借りて感謝を。
投票イベを終えて少し燃え尽きぎみですが、その分は執筆に回したい願望。
書いてみたい子が恐ろしいほど貯まってるんですよね(苦笑)