花言葉:「内気」「はにかみ」
初期実装が最低レアリティである☆2からの☆6別Ver.実装確定と、控えめに言って快挙ですよね……これでこそ花騎士!
花言葉の通り内気なところもありますけど、直向きで素直な良い子……実装までに石貯めなきゃ!
薄暗い部屋の中で目が覚めた。
寝起きでぼやけた視界がはっきりしてくると、カーテン越しに見える夜明けの空がどんよりとした灰色の雲に覆われていることが見て取れる。
梅雨明けにはまだ早いため仕方ないと言われれば仕方ないのだが、こうも曇天が続くと気持ちまで滅入ってくるというものだ。
文句ばかり言っていても始まらないので重い腰を上げて身支度を始めるのだが、早速響いてきたパラパラという雨音に、ついつい溜め息がこぼれてしまう。
時刻はまだ早朝とは言え、普段であれば多くの花騎士が鍛練に精を出している時間帯である。
しかし、この天気では訓練場に足を運ぶ者も疎らのようで、城内は静けさに包まれていた。
憂鬱な気分のまま執務室で事務仕事を片付けていると、文官が1通の手紙を手に入室してきた。
フラスベルグ峡谷に設置されている警備詰め所から送られたもののようだが、それ自体は特段珍しいことではない。
フラスベルグ峡谷はベルガモットの南東、リリィウッドとの国境線にある峡谷である。
急峻な渓谷地帯として知られるベルガモットバレーでも特に起伏が激しく、そんな土地柄にも適応した害虫が多く生息していることから春庭全土でも屈指の難所と言われている。
一方、国境沿いということで両国にとって重要な行路でもあり、国家の威信にかけて警備が行われている要所でもあるのだ。
だからこそ、定期連絡という形で国内の全騎士団長に警備情報は共有されている。
今回もそうだろうと高を括っていたのだが、一目見た瞬間にいつもと違う雰囲気が感じられた。
その要因となっている一角へと視線が引き寄せられる。
見間違うはずもない、偽造不可能な魔力による押印……王家の紋章。
それはつまり、この手紙がベルガモットバレー女王、シュウメイギク様からの正式な指令書であることを意味していた。
震える手を何とか動かして開封し、内容を確認するや否や執務室を飛び出してある場所へと向かうのだった。
そもそもがおかしな話だったのだ。
ただの定期連絡であれば、一括送信可能な電報を用いれば済む話である。
個別の騎士団宛に送られてきた時点で“その可能性”を考慮するべきだった。
“まさか自分の指揮する花騎士から”なんて口にしようものなら、彼女に指摘できる立場ではないじゃないか!
「わ、わっ私にフラスベルグ峡谷への赴任要請ですか!?」
斯くして、指令書の内容を伝えられた花騎士、シクラメンは素っ頓狂な声を上げた。
入団当初の彼女であれば、「私にはそんな力ありませんよー」と弱音が返ってきたことだろう。
だが、(見上げる瞳いっぱいに涙を浮かべているものの)今の彼女はしっかりとこちらを見据えて次の言葉を待っている。
そのまっすぐな視線を受け、公的な指令書である以上手続きが必要ではあるが、決して強制ではないことも一応説明として加えておく。
しかし、考え込む素振りを見せる彼女の答えは何となく分かっていた。
伊達に騎士団の創設当初から苦楽を共にしてきた訳ではない。
「内気」を花言葉に持つシクラメンは、とても引っ込み思案な花騎士だった。
自分の持つ力に自信がなく、時にはそれが要因となって失敗を繰り返す日々。
だが、それでも今、彼女はこの場に立っている。
自分に自信がないからこそ、誰よりも努力を重ねてきた。
どれだけ弱音を吐いたとしても、決して逃げなかった。
その成果が、こういった形で確かに実を結んだのである。
「正直、私なんか足元にも及ばない人がたくさんいるのにどうしてって気持ちはあります」
「でも、団長さんや騎士団の皆が……ううん、こんな私に勇気をくれる皆さんの期待に応えたい。
私、そう思うんです!」
顔を上げ、照れくさそうに笑いながらもしっかりと言い切ったシクラメン。
それはいかにも彼女らしい……しかし、その宣言は強い決意に満ちている。
そんなシクラメンに呼応するように、いつしか曇天の空に一筋の光が射し込んでおり、彼女の旅立ちを祝福しているように感じられたのだった。
あれから数日が経った討伐任務終了後。
騎士団のメンバーが一堂に介し、盛大な宴会が催されていた。
シクラメンがフラスベルグ峡谷詰め所へ赴任する件は一応機密事項扱いではあったのだが、この日までに騎士団の誰もが知るところとなり、送別会の開催と相成ったのである。
今回の赴任は移籍の類いではなく、赴任期間が満了したら戻ってくるから送別会なんて大袈裟だと本人は遠慮ぎみだったのだが、最後は仲間からの要望に押し通されたらしい。
こちらとしてもしばらく彼女と会えなくなることを寂しく思っていたため、開催には大賛成である。
それにしても……騎士団に所属するほとんど全員が揃った宴会場を眺めながら独りごちる。
宴会で良く見る顔ぶれは今さらとして、普段はこういった場にあまり顔を出さない面々まで揃っているのは、やはりシクラメンの人望があってこそなのだろう。
篝火花ーシクラメンの別名である。
花の咲く様が夜道を照らす篝火に似ていることからそう呼ばれているのだが、騎士団における彼女の存在も、正にその通りなのだと思う。
シクラメンが仲間たちから慕われているのは、優しい人柄だけではなく長所を見抜く能力に長け、それを活かすように立ち回るからだ。
そんな事を考えていると、件の人物がこちらの方に近付いてくるのが見て取れた。
ちょうどこちらからも話しかけようとしていたところなのでそれは良い……良いのだが、どこか様子がおかしい。
足取りは覚束ず、何より目が据わっている。
これはもしや……
「……ヒック! 団長さ~~ん」
酔っているのか?
そう確認する暇もなく、シクラメンがこちらの腕に絡みついてきた。
アルコールのせいなのか普段よりも高い彼女の体温を間近に感じて、思わずドキッとしてしまう。
取り敢えず手近にあったジョッキの中身を呷ることで落ち着こうと試みてみたものの、彼女は構わず追撃を繰り出してきた。
「ふわぁ~~っ! 団長さんが2人もいます~!
あっ、でも……」
悩む様子を見せるシクラメンに、どうしたのかと問いかける。
会話を続けていればいずれ落ち着くだろう……そう考えてのことだったのだが、これが失敗だった。
「団長さんが2人もいたら私、どっちの団長さんに……お持ち帰りしてもらえば~ヒック! 良いんでしょう?」
危うく口内のアルコールを吹き出しそうになった。
何名かの花騎士が近くで同じセリフを聞いていたのだが、酒の席の冗談と受け取ったらしいのが幸いだった。
中には悪乗りして私も!と名乗り出る始末である。
何とかその場は落ち着いたものの、暫くするとこちらの腕に引っ付いたままのシクラメンが規則正しい寝息を立て始めたではないか。
何人かの花騎士が彼女を部屋まで運ぼうと試みたのだが、本当に寝ているのかという有り様で中々引き剥がすことができない。
「団長さ~ん、ここに戻ってくる頃には私……もっとお役に」
本当に酔って寝てるんだよな!?
シクラメンからの返答はないものの、心なしか腕に絡みつく力が強くなるのを感じてもはや溜め息しか出てこない。
「うちの出世頭を襲ったりしないでくださいよ~」
結局、そんな弄り半分の掛け声を背に彼女を部屋まで運ぶ役目を申し付かったのである。
いや、そんな言うなら誰か一緒に来てくれよ!
そんな心からの叫びは一笑に付されてしまうのだった。
ということで、見事6年越しの人気投票総合1位に輝いたシクラメンさん(なぜ敬語?)を書かせていただきました。
並み居るシクラメン団長殿には何を当たり前なことをと言われてしまいそうですが、「お持ち帰り~」のセリフって季節限定ながら本当に実装されてるボイスなんですよ!
寝室もそうですけど、普段は清楚が服着て歩いてるような子がこういう積極的な仕草を見せてくれるって良いですよね……