しばらく嫁回書いてない&某所でのやり取りが刺さり過ぎて書きたい欲を制御できなかった模様。
突貫工事のため、普段以上の乱文にご注意ください
( ノ;_ _)ノ
終業時間を間近に控えた夕暮れ時、太陽が地平線の向こうに半ばまで沈み、窓越しに見える町並みを街灯の仄かな光が包み始める頃、控えめなノックの音が執務室に響き渡った。
ちょうど抱えていた仕事の目処が付き、凝り固まった身体を伸ばしていたタイミングだったため、慌てて居住まいを正しつつ入室を許可する。
「失礼します、団長様~」
こちらの返事を聞き、一拍置いてから丁寧なお辞儀とともに顔を出したのは1人の花騎士……オジギソウであった。
巡回任務の指揮を任せていたのだが、無事に帰還したらしい。
「えへへ♪ 心配しなくても、怪我とかはありませんよ~」
こちらの視線の動きから質問を先読みしたのか、その場でくるりと回って自らの無傷をアピールするオジギソウ。
言葉通り元気そうな様子に安堵しつつ、場合によっては彼女の実力を信用していないと思われかねないことに気付いて渋面を作る。
しかし、そんなこちらの葛藤など“すべてわかっています”とでも言うように、オジギソウは柔らかな笑みを浮かべるのだった。
「……報告は以上になります~」
簡潔な説明を終え、オジギソウがペコリと頭を下げる。
一緒に提出された報告書には、巡回中に遭遇した害虫の種類や数はもちろん、“巣”が形成されそうな地点の情報が事細かに記されていた。
「敏感」「鋭感」といった花言葉を持つオジギソウは、花騎士の中でも特に優れた五感を持つ。
それを利用した探知能力は非常に精度が高く、逃げ足も兼ね備えた彼女の斥候としての活躍は目覚ましいものがある。
任務における功績を評価され、副団長就任を果たしたのも団の全員が認めるところだ。
実際、オジギソウが着任してから任務中の負傷者は大きく数を減らしており、一般人の被害も……
「あ、あの~。 団長様?」
ふと、こちらを呼ぶ声に思考を中断される。
見ると、両手で顔を隠したオジギソウがしゃがみこんでいるではないか。
実はどこかに怪我でもしていたのでは?
慌てて席を立ち、駆け寄ろうとしたのだが、オジギソウが待ったをかける。
「あっ、いえ……怪我をしてた、とかでは無くてですね?
ただ、難しそうなお顔で団長様がどんなこと考えてるのかな~って、それで……」
言われて気づく。
服の袖でも隠しきれていない部分。彼女の耳と首筋にいたるまで、夕焼けの光が差し込む執務室内でもハッキリとわかるほど真っ赤に染まっていたのである。
つまり、こちらが心内で彼女をべた褒めしていたことを察知し、照れくさくてしゃがみこんでしまった……ということらしい。
この後、オジギソウとまともに会話ができたのは終業の鐘が辺りに響いた後になるのだった。
「ご迷惑をおかけしてすみません、団長様」
ようやく落ち着きを取り戻したオジギソウと応接用のテーブルで向かい合うと、深々と頭を下げられた。
仕事も片付いていたことだし、こちらとしては気にする必要はまったくないのだが、それで折れるオジギソウではない。
「でも、副団長としてこのままってわけにはいきませんから~」
確かに、副団長という立場上他の騎士団所属の花騎士や団長たちと公的な場でやり取りをすることは多い。
花騎士が悩んでいると言うのなら、力になるのも団長の務めだろう。
「……っ! ありがとうございます、団長様」
満面の笑みを浮かべるオジギソウ。なおさら力になりたいという思いが込み上げてくるのだが、実際どうしたものだろうか。
彼女の両親は躾に厳しかったらしく、これまでの公的な場における立ち振る舞いも完璧といって差し支えない。
悪いと言うわけではないが、花騎士の中には所属する騎士団の団長でも呼び捨てや愛称で呼ぶ者も多いため、きちんと様付で呼ばれる様子を羨ましがられたこともある(移籍要請は丁重に断っておいた)。
元来の恥ずかしがり屋な性格は一朝一夕でどうにかなるものでも……うん?
「……団長様、何か良い方法が?」
こちらが何か思い付いた気配を察したのか、身を乗り出すようにオジギソウが問いかけてくる。
ただの思い付きのようなものなので躊躇したのだが、 言うだけならタダというものだ。
「呼び捨てにしてみる……ですか?
私が、団長……様を?」
考えたこともなかったのだろう。
言葉を噛み締めるようにオジギソウがゆっくりとこちらの提案を復唱する。
自分や先輩の花騎士はもちろん、騎士学校を卒業したばかりの新人にも敬語で接するのがオジギソウである。
決して悪いことではなく、公的な場を想定するならむしろ褒められることなのだが、慣れた相手にくらい砕けたやり取りをしてみれば何か心境に変化があるかもしれない……そう思っての提案だった。
「えっと……それは、考えただけでかなり恥ずかしく……」
実際に言うところでも想像したのか、再び顔を真っ赤にして顔を覆ってしまうオジギソウ。
予想以上の反応に、今度はこちらが慌てる番だった。
普段の彼女にならまず言われることは無いだろう呼称をこの際に言わせてみたいという下心が無かったわけではないのである。
平常時のオジギソウなら間違いなくバレてお説教の流れだが、それも不可能な程に我を失っているらしい。
無理に急ぐことでもないわけで、彼女に無理をさせるのもしのびなく他の方法を考えよう……そう話を切り出そうとした時だった。
「……だ……ょ……さ……」
顔を伏せたままのオジギソウが、蚊の鳴くような声で何やら囁いているのが分かった。
こちらが気付いていなかっただけで、彼女の方は何度か口に出していたらしい。
聞こえるか聞こえないかの囁きが何度か繰り返された後、徐に顔を上げたオジギソウが目を合わせたままハッキリとその呼称を口にする。
「団長……“さん”!」
呼び捨てではなかった。しかし、彼女なりに精一杯妥協した上での呼称だったのは疑うべくもない。
「やっと、言えました~。
うぅ……でも、やっぱり恥ずかしいです~!」
達成感に満ちた笑顔は一瞬。
耐えられなくなったのか、あっという間に執務室を後にするオジギソウ(それでも退出時のお辞儀は忘れない)。
本気で駆ける花騎士の後を追うことなどできるはずもなく、しばらく彼女の立ち去った後を見つめ続けるしかないのだった。
翌朝、よほど恥ずかしかったのかこちらとまともに視線を合わせることもできないオジギソウの様子に騎士団内で良からぬ噂が出回ったのはまた別の話である。
というわけで突貫工事した久しぶりの嫁回でした……
一貫してこちらを立て、様付で呼んでくれる女の子が不意に砕けた口調に……ヤバない?
……はい、戯言言ってないで執筆に戻りますです