とある花騎士団長の庭園   作:とある花騎士団長

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ウサギゴケ
花言葉:「夢でもあなたを想う」
今回のカムバックチケットのおこぼれでお迎えできた子。
お花の子たちは全員成人しているとのことですが、成人とはいったい……。運営の表現の限界に対するチャレンジ精神を感じる。


6.「夢でもあなたを想う」甘っ子花騎士 ―現実の幸せ―

「……それでは、今こちらにお連れしますね。」

事務的な会話をそう締めくくると、ナズナが執務室を後にする。

今日は我が騎士団に新人の花騎士が配属される日だ。先日騎士学校を卒業したばかりとのことで、手元には彼女の学生時代の成績などをまとめた書類が並べられている。

何の気なしに書類を捲っているナズナが小柄な少女を引き連れて戻ってきた。視線を向けると彼女の方も自分を見上げていたようで視線が重なった。

ウサギを思わせる耳付きのポンチョを被り、新雪を思わせる真っ白な髪はツインテールにまとめられている。

「……優しそうな人。あの花騎士さんと同じ雰囲気がするの。」

ジッとこちらを観察していた少女から唐突に言葉が発せられた。その意味を計りかねていると、慌てたように言葉が続いた。

「あっ、何でもないの!ウーちゃんの名前はウサギゴケなの。団長の役に立てるようにがんばるから、この子と一緒にお願いしますなの。」

その少女、ウサギゴケの言う『この子』というのは右手にはめられているウサギのパペットのことだ。一見分かりにくいが耳の部分が刃物になっており、害虫の装甲をも貫く武器でもある。深々と頭を下げる彼女にこちらこそと応じて、宿舎の案内はナズナに任せることにした。

 

 

「とぅ、なの!」

ウサギゴケが最後まで抵抗していた大型の害虫に止めを刺し、その体がチリとなって消える。

「やったうさ!う~さ♪う~さ♪」

「えへへ、やったね!」

「やったし…これで、いい夢、見れそう…zzZZ」

お互いの健闘を称えあっている花騎士たちを見て安堵の息を漏らし、抜き身になっていた自身の剣を鞘に納める。ツキトジはウサギゴケが止めを刺したのを確認すると寝てしまったようなのでいつものように自分が背負う格好になった。

彼女も騎士団に慣れてきた頃だと思い、普段一緒にいることが多いウサギノオやススキ、ツキトジたちと初陣を組んだのだが、戦闘中でもマイペースなメンバー揃いで正直不安もあった。しかし、さすがのイタズラコンビも初任務の彼女に配慮したのか(移動中を除けば)真面目に取り組んでくれ、こうして無事に害虫の群れを討伐することができた。ウサギゴケもいつ寝落ちするか分からないツキトジを気にかけつつ、突っ込みがちな2人の死角を的確に補う立ち回りを見せていた。さすがに先輩相手に指示を出すようなことはなかったが、このまま経験を積めば指揮官の才能があるのかもしれない。

「ウーちゃん、こういうのは得意なの。みんなの役に立ててウーちゃんとっても嬉しいの!」

そう語る彼女の頭を撫でてやると満面の笑みを浮かべていた。帰り道は起きる気配のないツキトジを背負いつつイタズラを仕掛けてくるウサギノオとススキを捌いてと忙しかったのだが、予想以上の成果に揚々と宿舎への道を歩くのだった。

 

 

その日の夜中、任務の報告書をまとめていると、執務室の扉を叩く音が響いた。

「団長、今大丈夫なの?」

僅かに開いた隙間から遠慮がちに顔を出したのはウサギゴケだった。心なしか、自分の姿を確認してほっとしたような雰囲気がある。時間を確認するとそろそろ日付も変わろうかという頃で、本来なら部屋に戻って休むように促すところなのだが、そんな様子が気にかかり迎え入れることにした。

飲み物でも用意しようと席を立ったのだが、入室の許可をもらった瞬間、ウサギゴケはそのまま自分の胸に飛び込んできた。慌てて抱き止めると、その身体が震えている。

初任務で恐怖により身体が動かなくなる新人の花騎士は多いのだが、彼女の場合はそれが遅れてきたのかもしれない。まだ戦場に出すには早かったかと思い、謝罪の言葉を述べるとウサギゴケは抱きついた体勢のままで頭を左右に振って否定する。

「花騎士さんが死んじゃった日の夢を見たの…。」

消え入りそうな声の返答。最初の自己紹介の時にも言っていた花騎士のことかと訪ねると、今度は頷きが返ってくる。

「泥棒さんをしてたウーちゃんにも優しくしてくれて、何かあったら騎士学校を頼れって言ってくれたのもその花騎士さんなの。」

貧しい地域で生まれ育ったウサギゴケは、盗みや時には人を脅して日銭を稼いでいたことを以前に話してくれていた。まだ幼かった彼女は失敗することも多く、辛いことがあった時は幸せな夢を見て紛らわしていた、と。

「幸せなことは夢の中にしか無いんだって、ウーちゃん思ってたの。でも、その花騎士さんが現実でも楽しいこと、嬉しいことはあるんだって教えてくれたの。」

「花騎士さんが死んじゃってから言われた通りに騎士学校を頼ったら団長にも会えたの。でも、あの人みたいに優しい団長を見てると不安になることがあるの。いつか団長もあの人みたいにって…。」

そんなことにはならないと彼女に言ってやることはできるが、立場上それが難しいことは自分でも良く分かっているつもりだ。極力自分も含めて誰も傷付かないで済むような作戦を心がけているつもりだが。

「今日の任務、ウーちゃんの役目は団長がやるつもりだったの?」

疑問系ではあるものの、ウサギゴケが確信を持って質問していることが伺える。どうやらお見通しのようだ。今回は偶々ウサギゴケがその役目を担ってくれたが、あの2人の行動は読めていたので、自分がフォローするつもりでいた。

「世界花の加護もないのにそんなことしたら危ないの。団長は安全なところでウーちゃんたちに指示だけ出してくれれば良いの!」

しかし、と応じそうになったのだが、ウサギゴケはより強くしがみつき、悲痛な表情で見上げてくる。

「ウーちゃん、今とっても幸せなの。優しい団長に出会えて、花騎士の仲間もたくさんできたの。あの花騎士さんが言ってたみたいに、楽しいことや嬉しいことが夢の中以外にもあるって信じれそうなくらいなの。でも…。」

嗚咽混じりに語る彼女が少しでも安心できるように抱きしめてやる。

「ぐすっ…。やっぱり団長は優しすぎるの。今だってお仕事の途中だったのに…。ごめんなさい、なの…。」

気にする必要は無いと頭を撫でてやると、少しずつウサギゴケの震えが収まっていくのを感じる。

「団長は、ぜったい…害虫なんかに殺させないの…。そのためにも、ウーちゃん…もっと、強く……すぅ…、すぅ…。」

やがて完全に落ち着いた頃には静かな寝息が聞こえてきた。この騎士団にいることが幸せだと言ってくれた少女がもう2度と悲しい思いをしなくて良いように、これからの任務はより慎重に臨まなければならない。穏やかな表情で眠るウサギゴケを見つめながら、気持ちを新たにしたのだった。

 

 

 

「まったく、騎士団長ともあろう者が何をしているんですか!最初に入室したのが私だったから良かったものを…。ウサギゴケさんもウサギゴケさんですよ?」

「……面目ない。」

「ごめんなさいなの…。」

翌朝、ウサギゴケと共に正座でナズナのお説教を受けることとなった。

完全に寝入ったウサギゴケはしっかりと抱きついたまま離れてくれず、起こすのも忍びなかったため苦肉の策で彼女を抱いたままソファーに毛布を敷いて横になったのだが、朝一で報告書の進捗状況を確認しに来たナズナに発見されてしまったのだ。間一髪ウサギゴケが起きて事情を説明してくれなければ今頃憲兵に引き渡されていたことだろう。

ただ、夜中に執務室に向かって歩いていくウサギゴケの姿は何名かの花騎士に目撃されており、その後自室に戻らなかったこともあってしばらくは恰好の噂の種となったのだった。

 




実はGoogle Play版とDMM games版を同じ名前でプレイしているので、もう1方でお迎えできた子の話も近い内に書きたいですね。

ああ、筆が遅いとこうして描きたい子ばかり増えていく…。
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