とある花騎士団長の庭園   作:とある花騎士団長

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前々から構想はあって少しずつ書いてたけど、投稿したら何か時期ものみたいになった、そんな作品。


9.「敏感」と「鋭感」の寝坊助花騎士③ ―ありし日の副団長―

連日の害虫の出現で討伐任務が立て込んでいたとはいえ、さすがにこれは……。

暫くぶりに覗いた執務室で待っていたのは、書類の重さに悲鳴をあげる机だった。置くスペースを確保できなかったらしい紙の束が床にまで積み重なっている。

あまりにもあんまりな光景に同情してくれた数名の花騎士達が手伝ってくれたものの、直近の討伐任務が控えている者から早めに帰らせたので、今残っているのはオジギソウただ1人である。

だいぶ夜も更けてきた頃、船を漕ぎ始めた彼女にも早めに部屋に戻って休むように勧めたのだが、副団長としての責任感からか中々了承してもらえない。

しかし、限界を越えた眠気は意志の力でどうにかなるものではなく……。

「すぅ……すぅ……。」

暫くすると穏やかな寝息が執務室に響き始めたのだった。

 

 

 

それからしばらくの後、期限が迫っていた(一部は既に過ぎていたが)ものは片付いたので、少しの罪悪感に苛まれつつ、気持ち良さそうに眠るオジギソウの肩に手を置く。

「はわぁっ!?私寝てません、寝てませんよ~。……って、団長様。もしかして、もうお仕事は片付いちゃいました?」

触れた瞬間に飛び起きたオジギソウだが、万全な状態の彼女なら触れる前に気付かれてしまうのでやはり疲れが溜まっているのだろう。

彼女が枕にしてしまっていた書類の束は、起こしてしまいそうで手を付けることはできなかったが、確認したところ期限の迫ったものではなく今日のところはここまでで構わない。そう告げると、しょんぼりと項垂れてしまった。

仕事を残したまま自分だけ寝てしまったのが許せないのだろう。

そんな彼女の頭を優しく撫でながらいつもありがとうと働きを労う。

「いえ、これでも私、副団長ですから~。結局最後までお手伝いできませんでしたし……。それでは、私はこれで失礼しますね~。」

眠たげな瞳を擦りながらではあるものの、退出際のお辞儀は欠かさないオジギソウ。そんな律儀な姿に苦笑しつつ、彼女の足音がしっかり遠ざかっていくのを確認する。

本音では途中で寝落ちしないか部屋まで見送りたいところではあるのだが、そんなことをすれば余計に恐縮させてしまいそうなので止めておく。

確保できた貴重な睡眠時間を無駄にしないためにも、手早く身支度を済ませて床に就くのだった。

 

 

 

翌朝、執務室を訪れたナズナに起こされはしたものの、時計を確認すると普段に比べれば大分遅い時間だ。彼女なりに気を使ってくれたのだろう。

執務机に積んであった書類もきれいに片付けられており、最終チェックと提出まで済ませてくれたようだ。起きてからやるつもりだったのだが、有能な補佐官のおかげで午前中は一気にやることがなくなってしまった。

「オジギソウさんが副団長に就任してから団長様の遅刻や提出物の遅れが大幅に減っていますからね。これくらいなら喜んでお手伝いしますよ?」

確かに、油断すると通路の真ん中で寝落ちしていることもあるのがオジギソウである。彼女を伴った会議では時間に余裕を持って行動するようになった。さらに、団長としての失態は副団長の評価にも直結するため、普段から気を付けるようになったと言われればその通りかもしれない。

「はぁ~、オジギソウさんは団長様に愛されているようで羨ましいですね。今まで団長様が書類の提出を遅らせる度に代わりに怒られていたのは私だって言うのに!」

おっと、これはやぶ蛇だったようだ。機嫌を損ねてしまったナズナを宥めつつ、久しぶりにゆったりした時間を過ごす。

一通り愚痴をぶちまけて満足したのか、ナズナは執務室を後にしていた。オジギソウはまだ現れる気配がない。連日の討伐任務で疲れも溜まっている様だし、今日は特に緊急の用件があるわけでもないのでこのまま休ませておきたいところではあるのだが、これ以上は責任感で萎縮してしまいかねない。そう考え、重い腰を上げたところで、乱暴に執務室の扉が開けられ、数名の花騎士が飛び込んできた。

 

 

 

執務室を訪れた花騎士たちに引きずられるままにたどり着いたのは、普段とは別の喧騒に包まれた訓練場だった。

見物に集まった花騎士たちで人垣が形成され始めており、中の様子は判然としないのだが、打ち込み用に設置された案山子の陰に小さな人影を認めた。

最初は見学に来た子ども当たりが誤って迷い込んだのかと思ったのだが、その人影には今まさに探そうとしていた人物の面影があった。

「副団長さん、妹さんがいたんですね~。可愛いです~。」

「うーん、そのような話は聞いたことないですけど……。」

「断じて本人?」

「そんなまさか……とも言い切れないわね。この騎士団なら何が起きても不思議じゃないわ。」

そう、外見が幼いことを除けばオジギソウにそっくりなのだ。しかし、定期的に家族宛の手紙を書いている彼女自身からも妹がいるといったような話は聞いたことがない。

理由はわからn ……いくつか思い当たる節もあるので、あれはオジギソウ本人と考えた方が良さそうだ。

ここに集まった花騎士もその点は共通認識を持ったようで、五感が鋭い彼女を刺激し過ぎないように人垣も遠巻きになっていた。

しかし、人が集まったこの状況が良くないのは変わらない。持ち場に戻るように指示を飛ばしつつ(原因と思しき人物の捜索も一緒に指示した。)、彼女を怖がらせないようにゆっくりと近づいていく。

が、距離を詰めると余計に案山子の陰に隠れてしまった。怯えているというよりも、何かを恥じらっているような……と、そこであることに気付き、元々が訓練のためにその場に残っていた花騎士たちに追加の指示を出す。

当然と言えば当然のことだが、合うサイズの服がなかったらしく、彼女はまともな服を着ていなかったのだ。

 

 

 

場所は変わってオジギソウの私室。

「うん、これで良いわね。やっぱりこの格好が1番しっくりくるわ。」

ウィンターローズの王族御用達ファッションブランド「アスファル」オーナーの娘でもある花騎士、サフランから入室の許可が下りたので中にお邪魔すると、サイズ以外は見慣れた花騎士としての衣装に身を包んだ彼女がいた。

曰く、花騎士の衣装はおしゃれなものが多く、子ども受けも良いことから試作品として趣味で作っていたものがたまたまサイズピッタリだったらしい。

代金は支払うと申し出たのだが断られてしまった。「代金のことが気になるなら、今度アスファルで何か買って行って。」と、さりげなく実家の宣伝を済ませ、エキナセアと約束があるからと部屋を後にした。

サフランが退出したことで、部屋には自分とオジギソウだけが残される。

暫くは着せてもらった服を眺めたり触ったりと落ち着かない様子だったが、やがて何かを言いかけて迷っている雰囲気が伝わってきた。元来恥ずかしがり屋なオジギソウであるが、今目の前にいるのは見知らぬおじさんであるのだから当たり前である。騎士団に配属された当初のオジギソウがちょうどこのような様子だったなと懐かしさと少しの寂しさを感じる。

しかし、こんな時の対応は既に学習済みだ。ただ、彼女の準備ができるまで待ってやれば良い。

「あの……、あなたが団長さま。ということでよろしいでしょうか~?」

意を決して発せられたのは、そんな確認の言葉だった。

「ああ、それで間違いない。」

そう応じると、彼女は得心がいったように普段彼女が使用している机へと向かっていき、いくらかの紙の束を抱えて戻ってくる。その内のいくつかには見覚えがあった。

読んで良いのか?そう確認を取ると、僅かに頷くオジギソウ。本人(?)の了承があるとはいえ少し気が引けるのだが、一番上に重ねられた昨夜書かれたと思われる1枚を確認する。

「今日は書類仕事を手伝っていたのに、気付いたら私だけ先に眠ってしまいました。

団長様は笑って許してくれるけど、任務でも終わった後は1人だけ怪我もしてないのに団長様に背負ってもらって……これでは副団長失格です。」

やはりこれは両親への書きかけの手紙で間違いない。昨夜のことを気にしていたらしいことが文面から伝わってくる。それに、読み進めていくと気になる一文があった。

「イエローチューリップさんに頼んでいたお薬が今日出来上がったそうで、手紙と一緒においてありました。これでもっと団長様のお役に立てるはずです!」

……やはりというか、原因はこれしか考えられないだろう。頭を抱えていると、オジギソウがおずおずと声をかけてきた。もしかしたら話しかけるタイミングを図っていたのかもしれない。

「今の私は、その……花騎士、なんですか?」

それはまたしても確認の言葉。おそらく、彼女の両親からの手紙や先程の書きかけの文章からおおよそのことを把握しているのだろう。これくらいの年の子どもならパニックになってもおかしくない状況なのにたいしたものだ。

「ああ、それも間違いない。」

自信を持って返してやると、顔を真っ赤にして慌て出すオジギソウ。

「あの、えっと……あぅぅ。それなんですけど、本当に私なんかが?確かに手紙にも書いてあったんですが。それに副団長だなんて……。」

「私、痛がりだし、人の多いところも苦手です~。それに、今もこうして団長さまにご迷惑を……。そんな私が誰かの役に立つなんて……」

俯く幼いオジギソウの姿は記憶がないはずなのに昨夜の彼女と重なって見えた。もしかしたら、彼女が日頃から抱えている根が深い部分なのかもしれない。最も信頼している花騎士の悩みすらまともに見えていない様だと、自分の方こそ団長失格ではないか。

彼女の頭に手を置き、今度はしっかりと「そんなことはない 」と断言する。急な大声で驚かせてしまったが、構わず続ける。彼女が『騎士団の誇る大切な副団長である』と。

オジギソウは謙遜するだろうが、実際彼女の働きは非常に大きい。今のような過密スケジュールで討伐任務がこなせているのも、彼女の鋭い五感を活かした斥候のおかげで、一度の任務における部隊の損害が最小限で済んでいるからだ。

「……その言葉、今の私にもちゃんと伝えてあげてくださいね~。約束、ですよ……。」

一瞬、呆けたような表情を浮かべたオジギソウだったが、最後にそう告げると糸が切れたように眠りに落ちた。

安らかに寝息を立てている彼女をベッドまで運んでいると、捜索部隊に引き摺られるようにしてイエローチューリップが連行されてきた。

手紙の文面からして頼んだのはオジギソウからのようなので少しやり過ぎたかもしれないが、報告がなかったのは問題なので別室で聞き取り調査を行うこととなった。

 

 

 

聞き取りの結果、本来オジギソウに渡すはずだった抗睡眠作用付の疲労回復薬とは別の若返り薬を渡してしまっていたことが判明した。

本人も薬を渡した直後に診療に出ていたため、今まで騒ぎのことを知らなかったとのこと。

今回は依頼したのがオジギソウからであることや、薬の効果が1日程度で切れることから厳重注意のみとなった。

 

 

 

翌朝、無事元の姿に戻ったオジギソウが1日飛んでいる日付に気付いて軽くパニックを起こしていたが(着ていた服は再びサフランに頼んで着替えさせた)、それ以外は平和な1日が流れていた。

幼い彼女との約束を果たすべく、一昨日の夜と同じく2人きりになった執務室でオジギソウに語りかける。

やはり顔を真っ赤にしていたが、どうやら断片的に記憶が残っているらしく『妄想で自分に都合の良い夢を見た』程度に思っていた様だ。

副団長としての責任感が強いのも結構だが、どうか無理はしないで欲しいと念を押す。

彼女が大切だというのは決して『副団長である彼女だけを言っているわけではないのだから』とも。

それを聞いた彼女ははにかんだ笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

余談だが、昨日の出来事は悪戯好きな2人の花騎士によって『団長が真っ昼間から小さな女の子を副団長の部屋に連れ込んでいた』という誤解を招きそうな表現で伝えられており、事情を知らない者たちへの説明に追われることとなった。

 




ということでこどもの日(昨日だけど)に合わせて投稿した感じになったけどちまちま書いてたらたまたまそんな感じになっただけの作品です。
今回は名前登場させてないだけで特定の原作キャラを意識しているのが何名かいるのですが、うまく伝わってくれると良いなー。

今回イエローチューリップ登場させたけど、ちょっと扱いが可哀想かなと思ってみたり、場合によってはオリキャラとすり替えることも検討しています。
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