VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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 ゲーム開始1分で、まずは理解した。

 

「コイツら、雑魚じゃねぇな」

 

 中央のジャングルで奇襲を狙った瞬間、動きで察知した。姿をくらませる茂み《ブッシュ》への隠れ方、レーンの位置取り、前に出すぎず、かといって後ろへも下がり過ぎず。

 

 mobaの序盤。ジャングラーと呼ばれるキャラクターの役割は、どのキャラクターよりも素早くレベルをあげることだ。

 

 自陣付近の両左右、中立地帯に存在する、経験値を持ったモンスターを素早く狩って周る。可能であれば相手側のジャングルにも入り、モンスターを奪っていく。強さが横並びでない時間帯――つまり『自分だけが強い間』に、レーンに強襲をかけ、相手ユニットを撃破する。

 

 突出した戦闘力で、ゲームの流れそのものを、ブッ壊す。味方を勝ちに結びつける。日本では『背負う』と称し、海外でも『carry』と呼ばれる試合運びだ。

 

 mobaというゲームジャンルにおいて、勝利に直結する点取り屋。それがジャングラーの役割だ。このポジションを占めるプレイヤーの出来高によって、ゲームの勝敗が半分以上、決まると言っても過言じゃない。

 

「――おい、ロリ。あとフジワラ。相手のJG《ジャングラー》に注意しろ。感覚的に最上位マッチでやってるのと変わらねぇ」

 

 ヘッドホンと録音マイクの先、立ち上げたディスコードの方に音声を介して、連絡を取りあう。

 

「マージでぇ~? プロのサブアカに当たっちゃった感じ~?」

「かもな。おまえらの方はどうだ」

「んー…そだねぇ」

 

 PCで起動した、ディスコード上でのやりとり。別タブには、youtubeの実況配信画面を開いてある。5万人程度の同時視聴者がいて、発言に反応したリスナーのコメントが加速した。

 

『相手JG、プロ級なん?』

『けどランク、プラチナだったよね?』

『っていうか上手い下手って、もうわかるものなの?』

『上手けりゃ、わかるよ』

『相手も、明日から始まるフェスに向けて練習してんだろ』

『べつキャラで潜ってんのか』

『じゃあ、残り二人もプロの別アカか何か?』

『ウォーミングアップかと思ったら、ガチマの予感』

 

 横目でそれを見送り、ディスコードの音声に耳をかたむけた。

 

「ブザーちん。こっちはそうでもないね。ゲームに慣れてる感はあるけど、まぁ悪くないんじゃないですかー。っつーぐらい」

「その呼び方やめろや。クソロリ犯罪者」

「あー、ひどいなー。っていうかー、ブザっち、配信中でしょ~。そういう発言から誤解が広まって、ボクのアカウントに警告メールが来たりするんだよぅ。本当にBANされたら、どう責任取るんだよぅ~。ぷんぷん!」

「黙れカス。テメェが素でそんな名前つけてんのがワリィんだろうがよ」

「まー、そうなんだけどー。実際のロリには手ぇだしてないんでぇ、そっちの動画配信内で、ちゃんと弁明しといてプリ~ズ」

「キッメェ。テメェマジ頭イってんじゃねーのか。ゲームの腕前がまともじゃなかったら、ぜってぇ、チーム組んでないわ」

「そんなこと言わないでよ~。ブザーちんだって、ボクがパーティ申請しなかったら、友達少ないじゃん~」

「友達とか必要かよ」

 

 ハハッと、せいせいするような声がでる。

 

「ブザーちん、世渡りヘタ?」

「犯罪者の、テメェよりゃマシだよ。ってかよぉ! フジワラァ! 返事しろや!」

「…はい、なんでしょうか。マスター……」

「いやいや、あのさぁ、なんでしょうか。じゃねーんだわ。テメェとマッチしてる、対面の実力をさっきから聞いてんだろ」

「…そうですね。強くは、ないかと…」

「ハッキリしろや! 弱ぇのか?」

「…弱い、かと。相手3名の中では、もっとも表示されたランクに適した実力かと思われます…」

「おし。ブチ殺しにいくわ。フジワラ、上手くタワー下まで誘い込め。ぜってー前にでるな。ロリ、1対2になったら上手くさばけよ。死んだら殺す。ガチ通報するからな」

「…了解です。マスター…」

「こっちも、りょー♪」

 

 ジャングルのモンスターを狩る。

 

 

 【Level UP!!】

 

 

 表示されると同時、画面を即座にタップ。

 ステータス画面を開いて、ボーナスポイントを『筋力《STR》』と『敏捷《QUI》』に全振りする。

 

 俺の操作するアサシンタイプの『スカーレット』は、完全に一撃必殺に特化したヒーローだ。耐久性能はクソだが、それをさしおいて、全ヒーロートップクラスの瞬間火力をほこる。

 

 

【 skill code Execution. Stealth-hood! 】

 

 

 使用できるヒーローは全員、3種類のスキルを持っている。1番目のスキル『ステルスフード』を発動。

 

 通常、ヒーローは茂み《ブッシュ》に重なっていれば、相手の画面から姿を隠すことができるが、このスキルを使うと、通常のフィールドにおいても、常時画面には映らない。

 

 効果時間もかなり長い。ただし攻撃をするか、受けるか、どちらかの判定が発生すると、即座に効果は終了する

 

「フジワラ、カウント合わせろ。10」

「…了解しました。9…」

 

 8秒後に奇襲をしかける。

 

 目的地に向かいつつ、二本の指先で、スマホの画面端をフリックする。こうすることで『視界が移動する』。

 

 フジワラの操作するヒーロー『アテナ』と、敵チームのヒーロー『セイバー』が、開けた場所で、剣と槍を交差して、戦闘している様子を窺った。

 

 HPゲージは、おたがい、ほとんど削れていない。

 『ミニオン』の数も互角といったところ。戦況は5分。

 どちらも余裕がある状況だ。

 

 特にフジワラの使う『アテナ』は、タンクと呼ばれる、HPと守備に特化した重戦士タイプだ。自力で敵の撃破は、まず狙えない。

 

「カウント6」

「…5…」

 

 俺はステルスを維持したまま、防衛タワーの置かれたレーン上に突撃する。『ミニオン』と呼ばれるNPCの兵士が、両チームの『城』から生みだされ、2本あるレーンを、まっすぐに前進する。

 

「…誘い込みます…」

 

 フジワラの『アテナ』が、あえて敵の一撃を受ける。ひるんだように見せかけ、一歩分だけ前線を退いた。

 

 ミニオンの除去は、本来ならば相手チームの『セイバー』の方が速かった。そいつは自分が優勢だと見ると、両手に持った大剣を意気揚々と振りあげ、刀身を光輝かせた。

 

 

 【 skill code OVER_BREAK Excalibur!!! 】

 

 

 各プレイヤーの『スキル3』

 いわゆる必殺技。

 このゲームの説明では『オーバーブレイク』と呼ばれる。

 

 『セイバー』のMPが半分以上も消耗する。収縮したエネルギーを凝縮させた。振り上げた聖剣の一撃を、叩きつけるようにして放つ。解放された光のエネルギーが、進軍していたミニオンすべてを食らいつくして殲滅した。

 

「3、2」

 

 『アテナ』のライフも大きく減少している。9割から4割にまで落ち込んだ。対する『アーサー』のライフは変わらず8割をキープしている。1対1でやりあえば、キルが取れる致死圏内。

 

 

 【 skill code Execution. Bash! 】

 

 

 1、

 

 すると思ったとおり、相手の『アーサー』は、追い打ちで通常スキルまで解放した。『アテナ』を追撃する。その間に十分距離を詰めた俺は、視界を操作する『スカーレット』に戻す。

 

 

 0

 

 

【 skill code Execution. Minerva-Thrust! 】

 

 

 俺の指示通り『アテナ』が動いた。一時撤退する素振りをみせ、そこから反転攻勢するように、手にした槍を『セイバー』に向けて繰りだした。ヒットストップを確認。

 

 

 【 system call. Enemy player stunning!! 】

 

 

 敵の『セイバー』が、状態異常の『スタン』を受ける。完全に行動不能。時間にして1秒。たかが1秒。しかしその1秒があれば、

 

「too easy. ――ぬりぃんだよ。雑魚が」

 

 

 

 【 skill code OVER_BREAK Dead-END!!! 】

 

 

 

 飛び込む《ダイブ》。

 

 左右に手にした、白銀の短刀が朱色のエフェクトに染まる。

 

 

 【CRITICAL HIT !!】

 

 

 スカーレットの、オーバーブレイク。秒間16連撃の物理ダメージに加え、レベルに応じた固定ダメージを対象の1体にブチ込む。

 

 パーセンテージに換算すると、1秒で通常攻撃の2000%以上だ。防御力が比較的高めの『セイバー』だろうが関係なかった。そのライフは、瞬きする暇もなく、消し飛ん

 

 

 【 skill code Execution. "見敵壱矢"! 】

 

 

 「――――!?」

 

 

 【 system call. player stunning!! 】

 

 

 俺に『スタン』が入る。とっさに指二本で、スキルが放たれた射線上を確認するが、なにも映らない。かなり遠距離から、的確にスキルを当ててきた。

 

「んだよクソがッ!!」

 

 偶然にしては出来すぎている。狙って当てたというのなら『相当』だ。

 

 どちらにせよ、ステータス異常の効果によって、俺のスキルが中断された。時間にして1秒未満。確実に仕留められたはずの『セイバー』は生きている。それでも残りライフはミリだ。

 

 あとはもう、通常攻撃ですら殺せる。

 

(イケる。トドメを――)

 

 スタン解除まであと1秒。イラつきが、画面を連打させようと焦らせる。しかし次の判断は無意識だった。

 

 

 

 退け。

 

 

「退けッ!!」

 

 本能をそのまま声にだす。ディスコードの向こう側にいるだろう、フジワラにも聞こえるように叫ぶ。その直後、俺より早く『スタン』から立ち直った『セイバー』が焦った様に撤退していく。

 

 完全に『殺った』と思った獲物に、逃げられる。

 

 屈辱だった。

 

 意識を切り替える。ジャングルに繋がるブッシュの方に最大限の注意を払う。

 

(どこのクソだかしらねーが、コンマ1秒以下のタイミングを、狙って撃ちやがったな!! やってくれんなぁ、おいッ!!)

 

 ブンブン、頭の血管がさわぎたてる。間髪いれず、俺もスタンの硬直が解けると共に後ろに下がった。即座に追撃が来ることはわかっていた。が――

 

 

【 skill code Execution. "抜刀弐式"!! 】

 

 

 そいつはさらに読んでいた。

 

 『まるで俺が、追撃をせず、撤退するところまで読みきっていた。』

 

 その上で、あらかじめ、退路を防ぐように『スキルを置いた』。 

 

 

 【HIT !!】

 【system call. player has been slow!! 】

 

 

 スカーレットのライフが大きく減少する。紙切れにも近い守備力。1番と2番のスキルを立て続けに食らっただけで、ライフが瀕死状態まで減少。さらに『移動力低下』のオマケ付きだ。

 

 

「クソッタレがぁッ!!」

 

 

 『スタン』と違い、行動ができないわけではないが、3秒もの長時間にわたって、移動速度低下のデバフが継続する。

 

 

「やってくれんなァ!!!!」

 

 

 暗殺者にとって、自らの命にも等しい機動力を削がれた。

 動きが、まるで亀のようにトロい。当然、その時を狙いすましたように、不可視の茂みから、相手チームのジャングラーが姿を見せる。

 

 

 ――よぉ、ブザー。

 

 

 民族的な緑衣を纏った、近接タイプの剣士『リンディス』だ。

 

 3種のスキルが、すべて『連携技』として繋がっていて、スキルの1、スキルの2と順番に発動しないと、もっとも強力な必殺技、オーバーブレイクが打てないという制約を負っている。

 

 

 ――レート戦以外で会うのは、初だよな?

 

 

 強いか、弱いかで言えば、強くはある。と言える。

 

 ただ、使用状況が限定されてしまうので『超上級者向け』だ。味方には来てほしくない、もっとシンプルに強いキャラクターを選べだのと、そういった評価が大体のところだ。

 

 

 ――悪いな。とりあえず、落ちとけ。

 

 

 が、日本を含めたアジアサーバでは『リンディス』の評価は、海外のメタスコアと比べても、一段階高くなっている。

 

 なぜか。

 

 

 【 skill code OVER_BREAK "三天乃羽々斬"!!! 】

 

 

 『コイツ』のメインだからだ。 

 

 

「テメェッ!! ハヤトだなッ!!!」

 

 

 『天王山ハヤト』とかいう、痛々しい性格の『VTuber』が、このキャラを使って、無双しまくっていたからに他ならない。

 

* * *

 

(よし、仕留めた)

 

 その確信を持って、最後のスキルを発動した。

 

 

 【 skill code OVER_BREAK Aegis-Shield!!! 】

 

 

 ――――が、

 

 

 【 system call. NO-DAMAGE!! 】

 

 

「あっ、マジかクソッ!」

 

 フィールドから落ちてきた、深紅の盾に阻まれる。

 

 全ヒーローに用意されているオーバーブレイク。アテナの3番目のスキルは『イージスの盾』だ。距離無制限。特定のポイントに、あらゆるダメージを『100%カットする』という、超高性能の防御フィールドを発生させる。

 

 LoAプレイヤーにとって、満場一致の『OPスキル』だが、使いどころが難しい。攻撃を防ぐには、相手の攻撃タイミングを確実に見極める必要があり、しくじれば、ただの空打ちになってしまうからだ。

 

 

【 skill code Execution. Stealth food ! 】

 

 

 その隙をついて、スカーレットが撤退する。

 結果。俺たちは共に、千載一遇の好機を逃してしまった結果に落ち着いた。

 

 暗殺者が姿を消した直後、その反撃を警戒したが、ライフがあまりにもないから、直接仕掛けては来ないだろうと判断する。姿を消して、おそらくは撤退を選択しただろう。

 

 アテナも安全な位置まで下がっていった。ライフの回復が可能な自城まで、リコールを選択したはずだ。

 

「スイ、クロ。俺もいったん下がる」

 

 身をひるがえし、ジャングルの中に戻る。時間経過でリスポーンしたモンスターを狩りとって、レベルアップする。

 

「ふえぇ! ハヤト君、ごめん~! 前にですぎたー!」

「大丈夫だ。こっちも落ち着いた。仕切り直しだな」

「ハヤト、キル取れなかったワケ? つかえない」

「サーセン。アテナの必殺で防がれやした…」

「援護きてよ。役立たず。ロリつよすぎ。レーン押されてる」

「ただちに参ります」

「やだー! ハヤト君いかないでぇ!! わたしの対面、ランクはブロンズEなのに、超強い~! ランク詐欺なの~! つよつよのつよだよ~!! わたしの『セイバー』の方が、ミニオン処理できるスピード速いはずなのに、進まないの~!!」

「それで上手く誘い込まれて、オバブレ吐いたところを、カウンターの形で狙われたね」

「ふぇ~!! 読みあいが完全に上級者のそれだよ~!! しんどいぃぃ、開始5分で頭つかれたぁ~!!」

「そこの豆腐メンタルはおいといて、実際どうなの、スイが対面してるブロンズも、やっぱサブ?」

「さすがに、そこまでは分かんねぇ。とりあえず、次はジャングルでモンスター狩りながら、クロのレーンに寄る。悪いけどスイは、自陣のタワー下で、耐える形で頑張って」

「ふぇぇ! 了解だよ~!」

「はよこい」

 

* * *

 

「――おい、ロリ。相手のジャングル、ハヤトだわ」

「へ、マジでぇ~? なんでわかったし~?」

「んなもん、ヤってりゃ一発で分かるわ。テメェもジャングルでマッチしてみろ。楽しめるぜぇ」

「あー、レート有りのラダーの方で、ちょくちょくマッチはするけどねぇ。敵に回ると、めっちゃくちゃにやりづらいんだよねぇ。息を吐くように、こっちの嫌がるとこ突いてくるしさぁ」

「ハハハ。ちげぇねぇ。ところでよ、フジワラ、さっきはサンキューな。イージスが無かったら、確実に落ちてたわ」

「…お役にたてれば、光栄です…」

 

 ぼそぼそと。相変わらず、陰気くせぇ喋り方をする。もうそれだけで、ウゼェっていうか、口調がアニメのキャラみたいなことも相まって「クソオタが、普通に喋れや」という罵詈雑言が、喉元までせりあがった。

 

 

『なぁ、相手ハヤトってマジ?』

『まさかの野良王降臨か?』

『最強のリンディス使いがきてしまったか』

『なんだよ。やっぱハヤトも、サブだとチーム組んでんのか』

『ハヤト…友達おったんか』

『相手二人は誰やろ。リア友か?』

『ハヤトて学生なの?』

『声優志望の専門学生という説が濃厚』

 

 リスナー達が、コメントで勝手なことを言い合う。

 

「俺の見立てでは、中学生以下だけどな」

 

『えぇ? さすがにそれはないでしょww』

『高校生ならまだしも、中学生www』

『ガチならおもしろすぎるww』

『リアル厨二wwwwww』

『どうかなぁ。ハヤト、あぁ見えて頭いいぞ。狙って演技してる節あるし、賢しい女子ならともかく、リアルにヒーロー願望のある厨二男子が、あのキャラ付けで立ち回るのは無理あるわ』

 

 ゴミカスのような意見の中にも、たまには「惜しいな」と思えるものも混じってくる。

 

 せっかくだから、1つ、アドバイスをしてやることにした。

 

「リアル厨二なら、こんなもんだろ。その意見が絶対に正しけりゃあ、14歳で大学卒業するような【天才】なんて、過去に一人もでてこねぇだろ。ちなみに割合的には、男の方が多いんだぜ」

 

『ゲーム上手くてイキってりゃ、天才すかwww』

『それが当たり前なら、世界変わりすぎるわwww』

『実際はぜんぜん、変わってねーぞ。この世界』

 

 そうか。変わってねーか。

 だったら、なにも言うことはない。

 

「失せな雑魚。なにも変わってねーのは、おまえらだよ」

 

 まず第一に、フィジカルな面での成長と、メンタル面での成長を同一視することが、そもそも間違っている。

 

 そして、そういう頭脳面での天才は、ゲームなんかを遊ぶはずがない。もっと有意義な研究だか、素人にはわからない、壮大ななにかに携わっているはずだと思いたがる。そういう思い込みこそが、本当の意味での、限界だ。

 

『何様だよ』

『お前のチャンネル、もう見ねーわ』

『たかがゲームに夢中になって、バカみてー』

 

 リスナーが減る。ごていねいに、低評価を押して去っていく。俺はその様子を、ニヤニヤしながら眺めていた。

 

「――あぁ、確かに。ガチの中学生かもしれないよねぇ」

 

 ディスコードの向こうから、ロリが言う。

 

「だってさぁ、だとしたら、ちょおおおぉぉ萌えるんですけどおおおおぉぉ!!!!!!!」

 

 ロリが叫んだ。キンキンした声で、やかましく。

 

「おじさん、カワイイおんにゃのこが大好物です!! いただきまぁす!!」

 

 宣言した。

 

「おいリスナ―共。そこの害人、運営に通報していいぞ」

 

* * *

 

 

【 skill code OVER_BREAK Parade of the Curse!!! 】

 

 ロリの操るヒーロー、キュベレーが、3番目のスキルを開放する。本来はこっちの味方であるはずのミニオン、それから中立のモンスターたちの魂が、相手の支配下におかれてしまい、自陣に向かって突撃をしかけてくる。

 

loli is justice:

「ボクはああ愛してるんだああぁあ君たちをおおおおぉ!!!」

 

 しかも本人は、ごていねいに、わざわざ、ゲームのチャット機能を用いて、高速で打ちこみながら突進してきた。

 

 

【 skill code Exectution. Initiation eye! 】

 

 

 青白い顔で、頭からすっぽりとフードを被った宣教師のようなヒーロー。黄緑色の瞳を爛々と輝かせ、両手を広げて宣言する――そんなモーションに合わせ、

 

 

loli is justice:

 へい女子ィ~! 怖くないよぉ~? 一緒に遊ぼうよォ~!

 

 

 どこまでも、わざわざ、痛いチャットを打ち込んでくる。

 

 

Akane:

 キモい。近寄るな

 

loli is justice:

 キモくないよぉ~、ちょっとぬるっとしてるだけだよぉ~

 

Akane:

 試合が終わったら、通報する。

 

loli is justice:

 やめてよぉ~、またアカウント凍結されちゃうぅ~

 

Akane:

 バンされろ。二度とゲームやるな。

 

 

 もはや場外乱闘だった。レートに影響しない、身内の乱闘なら、こういう悪ふざけも起こるのかもしれないが、この『ロリ』に関しては、普段のレート戦でもこんな感じだ。

 

 

loli is justice:

 ヘイヘイ! アゲていこうぜぇ~! 

 ゲームは楽しんだモン勝ちだよぉ~!

 

 

 こんな感じで現在、アジアランク2位。マジのランカーだった。もちろん、悪質なハラスメント行為として、実際にアカウントが凍結されていたこともある。

 

 それでも本人はゲームを辞めず、毎シーズンに開催される『フェス』ではちゃっかり【KING】まで上がるのだから、ヘンな固定ファンを山ほど抱えている。

 

 ツイッターもやっていて、基本的には日本語でのツイートで身悶えている。IP元も日本だし、「日本人ですか?」という質問に「もちろん日本のキモオタだよっ!」と、なぜか自信満々に返している。

 

 おかげで、海外のLoAユーザーからは、日本人ランカーは、どいつもこいつも、変な奴しかいない。というのが通説になりつつある。まったくの言いがかりだ。

 

 

loli is justice:

 おっとぉ、ハヤトくぅん、そこの茂みに隠れてんねぇ。

 ボクのドラゴンたんが見っけたってさ~

 

 

「ハヤト、なにやってんの」

「いや、見つかるのは織り込み済み。これ以上離れると、スキルの射程から外れる――ってか…」

「えっ、相手の人、今、ハヤト君って言った…?」

「言ったな。さっきの立ち回りで、”ブザー”にバレたのかもしれない。アイツとは、最上位ラダーでよくやり合ってるから」

「ど、どうしよう。マズい?」

「…まぁ、俺はいいけど。二人がマズイんじゃないか?」

「あたしは平気。このアカウント、しばらく稼働してないし。それに普通は、別アカのキャラクタの動きを見ただけで、べつの誰かが特定できるとかないから、平気でしょ」

「わたしも、アカウント自体作ったのが最近だから。っていうかむしろ、クロちゃんの言う通り、言いがかりって思うのが普通なんじゃないかなぁ?」

「じゃあ、後で追及されたら『人違いです』で通そう。ゲームは最後まで続行で。このチーム、優勝候補だろうから、録画した後で3人で反省会を開こう。絶対に有意義なものになるから」

「わかった」

「うん。がんばろう! どうせなら勝つぞー!」

 

 俺たちは相談を終え、目前の世界に集中する。

 

* * *

 

【skill code Execution. Flamme Geist!】

 

 

 対面するヒーロー『シャナ』。

 物理属性と魔法属性を兼ね備えた、バランス型の魔法剣士は、広い攻撃範囲を備えている。

 

 

【skill code Execution. Flamme sword!!】

 

 

 炎の精霊と、焔の剣を異世界から召喚し、それぞれをべつの場所で攻撃する、非常にトリッキーなタイプのヒーローだ。操作難易度は当然難しいが、クロは、元々マルチタスクの系統が得意らしい。

 

 そのランクに相応しい二種の炎を操って『キュベレー』に操られたミニオンと、モンスターを焼き尽くしていく。

 

「ハヤト、スキル始動いける? あんたの狙撃でスタンさせたら、あたしのオバブレでキル狙えるはずだけど」

「いや、視界確保が先だ。ブザーなら、絶対ステルスでこっち来るはずだから」

「わかった。レーンクリア優先する」

「頼む」

 

 手近な茂みに向け、アイテムボックスから松明《トーチ》を投げていく。このアイテムを巻くのは、このゲームにおいては地味ながら効果的だった。

 

 特にステルススキルを持った『スカーレット』のようなヒーローに対しては、スキルの解除効果もあるので、奇襲を取られないように立ち回るには、余裕があれば、こうして松明を投げるのも重要な作戦になる。――が、

 

(…いない?)

 

 奇襲を仕掛けられそうな場所に、まったく反応しない。

 「まさか」と思った時だった。

 

 

【 Your team player has Killed by Enemy!! 】

 

 反対側のレーンで、キルが発生した。

 

「うわー、やられちゃったよー…」

 

 ふにゃふにゃした声が、ディスコードの向こう側から聞こえてきた。

 

「…スイ、また前にですぎでしょ…反省してなかったの…?」

「ご、ごめんよぅ。今度こそいけるって思ったら、しゅばって、森からアサシンが飛びだしてきて、ずばって、やられた~!!」

「あー…的確に、こっちの弱点を突かれてる感ある」

「うん。スイの存在が、確実にアキレス腱的な認識をされてる」

「ふえぇ~! 麻雀やりたいよぅ~! そうだ、今夜はこんな物騒なゲームはやめて、三人で平和に麻雀しよ。徹夜で♪」

「いやいや、スイさん。明日も平日だよ。学校いこうな?」

 

 中学生の時点で、徹夜で麻雀していて、学校サボりましたとか。

 せっかく麻雀界のプロ達が、日夜懸命に尽力して「麻雀ってコワそう」というイメージを払拭しているのだ。

 

 明るい陽ざしの当たるものになり始めているというのに、たった一人の電脳アイドルのせいで、「やっぱ麻雀ってヤベーわ」と、一瞬で台無しになってしまうじゃないか。

 

「スイ、現実逃避はダメ。それにまだゲームは終わってない」

「ふえぇ…反射神経が必要なゲームは苦手なの…麻雀界に帰りたいよぅ…!」

「暇な時に音ゲーでもダウンロードして、反射神経あげたら?」

「いやー、それが…音ゲーも無理ゲーなんだよねぇ…」

 

 俺たちが必死にレーンを維持してる間、復活待ちのスイは、手持無沙汰に「てへっ♪」と可愛く笑っていた。

 

「スイは運動できるくせに、ゲーム反応鈍すぎ」

「ぶぶー! 運動もそんなにできないもんねー!」

 

 なぜか得意げだった。

 

「まっすぐ走ったり、泳いだりするのは得意だけど、ジャンプの要素が入ってくるだけでもう無理だね!」

「…あたしのパートナーは、犬以下だった…?」

「フリズビーの特訓すればいいんじゃね?」

「は、ハヤト君まで、そういうこと言う~!」

「今度買っとく。フリズビー」

 

 そんなことを言ってる間に、守る者のいなくなったレーンのタワーは破壊された。状況は悪化する。

 

「よーし、ふっかぁつ!! お二人ともっ、ご迷惑おかけしてすみませんでしたっ、自分これからっ、戦場に舞い戻りますんで!」

 

 うおおおおぉぉ、と。

 

 アイドルらしからぬ雄たけびをあげて突進し、

 

 

 【 Your team player has Killed by Enemy!! 】

 

 

「……」

「……」

 

 享年、18秒。

 

 反対側のレーンで、おそらくは待ち伏せされていただろう、暗殺者に、コロコロされていた。

 

「…あ~、ほら、やっぱり、わたしこと、スイは可愛いから…!」

「黙れヘタクソ」

「ぴゃあ!」

 

 ディスコード上のチャットが、不穏なものと化す。

 

「クロ、その、ほら、たかがゲームだから! ゲームで喧嘩するなよ! 楽しくやろうぜ!」

「こっちは、遊びでやってんじゃないけど? ハヤトは違うんですかぁ?」

「…うっ、それはまぁ…」

 

 ゲームは遊びじゃねぇんだよ! 仕事なんだよ!!

 

 手ぇ抜いてんじゃねぇよ! こっちは本気なんだよ!!

 

 ――ネットでは、事ある毎にネタにされるフレーズだが、今回に限っては、割と笑えない状況だった。

 

 そしてそのまま、有利を取られた俺たちは、

 

 

  【LOSE】

 

 

 敗北した。

 

「と、とりあえず、二人とも、おつかれ……」

「……」

「……」

 

 初戦からこれとは。相手が悪かったとはいえ、気まずい。

 

 『フェス』の開催は明日から。

 

 とはいえ、レート変動が起きる『70戦』を消化するのは、開催期間中の2週間の間であれば、いつでもいい。しかし【KING】を狙うなら、最低でも70戦のすべてをこなし、積極的に、勝ち星を稼いでいく意識が、なによりも大切になる。

 

「あのさ、スイ」

「…う、うん…ごめんね…ハヤト君が最初ね、上手くカバーしてくれたのに、台無しにしちゃった…」

 

 しょんぼりしている。クロが言っていたから、というわけではないけれど、なんだか確かに、ハスキー犬みたいな大型犬が、耳を垂らして、うつむいている絵を想像してしまった。

 

「俺さ。負けてくやしいって、だいじだと思うんだ」

「…え?」

「『たかがゲーム』だけどさ、たとえば、野球やサッカーなんかのフィジカルスポーツを『たかが球遊び』ってバカにして、どっかであきらめたら、上達って、そこで終わると思うんだよね」

 

 俺は、PCのモニターに向かって、告げる。

 

「ゲームも一緒でさ。それに飽きる時、興味がなくなる時って、いつなんだっていうと『勝てなくなった時』だと思うんだ。だから、今しょんぼりしてるスイも、必要以上にフォローしないクロも、きっと、もっと上手くなれるよ」

 

「……」

「……」

 

 伝わるかは、わからない。なんだか、単に、どこかで借りてきた、耳に聞こえのいい言葉を並べているだけかもしれない。

 

「スイ、クロ、今日はさ、ディスコやめよう」

「…え?」

「どうして?」

「各自、まずは好きなように、ゲームをプレイしてみよう。それでまず、勝っても、負けてもいいからさ。とにかく試合内容は全部PCの方に録画して、それをもとに、予定通り三人で、時間がある時に検討して、作戦をたてよう」

「…ん。悪くないわね」

「で、でも、フェスは明日からだよ?」

「2週間あるから、どこかで時間合わせて、まとめて試合をこなしていこう。ただ二人は生放送の都合もあるから、ちょっとタイトなスケジュールになるけど。ひとまず明日は、まずは、俺たち3人が納得のできる作戦をたてることを、優先しようぜ」

「わかったわ。…スイ。さっきはごめん」

「ううん。平気。わたしこそごめん。ハヤト君がいるから、もう絶対大丈夫だって、調子のってた」

「3対3のゲームだからね。俺がそこそこ上手いって言っても、フォローできる範囲は、どうしても限度があるから。それに相手が上手いと、さっきみたいに逆に裏取られて、負けることだってあるし。さっきの試合は、俺も下手だった。っていうか、”ブザー”の方が一枚上手だったかな」

「さっきのアサシンの人って、やっぱり上手いの?」

「上手いよ。アイツが敵に来ると、あきらかに勝率落ちるんだ。逆に味方に来ると、だいたい勝てるっつーか」

「ふえぇ、すごいんだねぇ」

「”ブザー”は、実況配信もしてる。ただ、あたしはあまり好きじゃない」

「暴言がひどいんだよなー。味方がミスしたら、怒鳴り散らすように、クソとか、カスとか、ひどい時は、死ねとか言いだすし」

「…うぅ…そういうのはヤダなぁ……今のも配信されてたら、わたし、やっぱりなにかバカにされてたのかな……」

「mobaは、どうしても、そういうのが付いてくる。eスポーツが反対される主流のひとつに、フィジカルなスポーツ、あるいは、将棋や囲碁なんかと違って、いわゆる『民度』が低いというのがあげられる」

「あ、聞いたことあるかも。麻雀もね、プロの人たちは、キチッとした感じで打たなくちゃいけないんだって。対局中にお喋りしてたらダメだっていうのが、あったりするんだよ」

「隙あらば麻雀」

 

 クロが、即座に突っ込む。

 でも、空気はずっと、やわらかくなった。俺も続く。

 

「ちょっと話は変わるけどさ。VTuberの二人が、楽しくゲームをやってる様子を見せるのもいいけど、もし、これから行政や政治的な思想が絡んでくるなら、真剣にっていうか、キッチリした感じで、礼儀正しく、真摯に、ゲームに取り組んでます。っていう姿勢を見せるのも大切かもしれないな」

「ん。あたしもハヤトの意見に、全面的に同意する」

「なるほど。そっかそっか~。うーん、すごい! クロちゃんもそうなんだけど、ハヤト君ともこうやってお話ししてると、いろんなことが浮かぶよねっ!!」

 

 本当に、嬉しそうに言われしまう。俺も自分の表情が自然にほころんで、明るい気持ちになっているのを自覚した。

 

「ねぇねぇ、ハヤト君!!」

「うん、なに?」

「明日の予定って、ひとまず、3人で今日のプレイ内容を見直したり、意見交換というか、作戦会議をすることになったんだよね!」

「そうなるね。また学校終わって、家に帰ってから、全員が都合の良い時間にディスコ立ち上げて、打ち合わせするのが良いと思う」

「うんうん、それもいいけど。ハヤト君、明日わたしの家に来れないかなぁ?」

「…え?」

「こうやって、ディスコードとかで、お話するのもいいけど、やっぱり直接教えてほしいっていうか、コーチ的なのを、隣でしてほしいっていうか、ダメかなぁ?」

「…………いや、その、それは、まぁダメじゃないというか…だけど俺、西木野さんの家を知らないといいますか」

「じゃあ明日、一緒に帰ろうよー。学生証のIDカードがあれば、平日の朝と夕方は『トラム』の料金タダになるから、大丈夫だよー」

「いや、うん。金銭的なアレは大丈夫だろうけど、もっとこう…根本的な問題が存在しませんか?」

「えっ、なにか問題ある?」

「…………」

 

 おい、アイドル(仮)。

 

「なるほど。いいんじゃない?」

「クロさん!?」

「ハヤト、あんたは仮にも、このゲームにおいては、あたし達になんらかの貢献を果たすことを約束してるんだから、スイの意見は至極まっとうよ。やりなさい。やれ」

「……」

 

 おかしい。

 俺の抱いている、アイドルのイメージと、なんか違うぞ。

 

 古いのか? 

 この話題に関しては、俺の想像力が古臭いのか?

 

「…わかった。じゃあ明日放課後、おじゃまさせてもらいます」

「やったぁ! ありがとう、ハヤト君!! 大好きなプロレベルの人から、直接ゲームのコーチングをしてもらえるなんて、普通無いもんねぇ。えへへへ、得しちゃったなぁ」

 

 モニターの向こうから、本心でそう思ってるんだろう声が、ふわふわと、綿菓子のような甘さを持って、聞こえてくる。

 

「ハヤト、あきらめなさい」

 

 それから、普通に察しの良いクロの方は、含み笑いをするような声音で告げてきた。そしてまた、同じぐらいに察しの良い俺も、気づいていた。

 

(…これはアレだな。恋愛感情に発展するフラグ的なの、皆無なやつだわ…)

 

 時々、どっかで目にするやつ。

 

 『はたして、男女の友情は成り立つか』

 

 俺はこの時だけは、確信した。

 相手が『西木野そら』の場合、この命題は、普通に成り立ってしまうのだった。

 

 

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