VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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 配信終了後、そのまま音響用のスタジオで、カロリーメイト等で軽食をすませ、ノンストップで『フェス』のモードに移動した。実行した対戦数は計10回。結果、そのすべてに勝利した。

 

 1試合にかかった平均時間は、マッチング待機時間などを含めて15分。時間に換算すると計2時間半だ。人の集中力がもっとも持続するのは、その程度が限度だと言われている。

 

「おつかれ。二人とも」

 

 ゲームに夢中になってる時はわからないが、疲れというのは、絶対に残っている。しかも内容的には、同じことを繰り返すわけだから、無意識にプレイが雑になってくる。

 

「ひとまず休憩しよう。レートポイントもけっこう稼げたし、対戦相手も強くなってくるはずだから」

「わかった~、はー、頭が疲れたー」

「疲れたね。もう4時が近い」

 

 昼間は、あまり胃を持たれさせないのを意識したので、今はけっこう腹が減っていた。 

 

「あと60戦かー。先は長いねぇ」

「やろうと思えば一日で出来ないこともないけどな」

「あたしは余裕」

「いやいや、食事はきちんと取ろうぜ。できることなら睡眠も。試合やっても負けたら意味ないし」

「そうね。ところで二人は、明日の夕方までには、電車乗って帰るでしょ。どういうプランにする?」

「うーん。来週の日曜、ネクストクエストの方で、残った試合を中継するんだったよな。何試合ぐらいやれそう?」

「見てる分には、3試合ぐらいがちょうどいいと思う。合間に軽いトークなんかをはさんで、時間的には、ちょうど1時間」

「そうだねぇ。放送枠は2時間を予定してるから、他にもいろんな告知とか、挨拶とか、あとトラブルが起きた時の事を考えると、それぐらいがちょうど良さそうだよね」

「ってことは、あと57試合か。今日は7試合やって、明日、俺と西木野さんが帰るまでに、午前と午後で10試合ずつ、合計20試合を終わらせる。残る30試合は、月曜以降、学校から帰ってきて、3人で時間合わせて、ディスコード使いながら、毎日5試合をノルマにして終わらせる。どうかな?」

「いいと思います~」

「同じく。ただもう少し予定を詰めた方が良い。明日は15、15の30試合ぐらいを進めてる。そうしたら、後が楽になる」

「だな。平日以降は、なにかトラブル起きて、時間取れないこともあるかもだしな」

 

 予定の打ち合わせは、とりあえずそんなところで収まった。

 

「………えーと、それで再確認だけど、あかね?」

「なに?」

「西木野さんはともかく、俺も、今日は泊まっていいのか?」

「そのつもりで来たんじゃないの?」

「そうだけど。親にもきちんと許可もらったけどさ」

 

 まさか、一人暮らしだとは思ってなかった。

 

「ってか、女の子の一人暮らしとか、危なくね?」

「問題ない。警備会社のシステムとは契約してる。鍵は、そらと、ごく一部の人間にしか渡していない」

「…いやまぁ、そうかもしれないけどさ」

 

 来る時も、専用のエレベーターに乗ってきたわけだ。だけど、

 

「さびしくないか?」

「問題ない。あたしには、この子がいる」

 

 あかねはそう言って、スマホの画面を見せてきた。

 

 

 どーもー。ハヤトっち~。

 うちのご主人を心配してくれてありがとーねー。

 

 

 胸元に黄金色の懐中時計をぶら下げた、ゴスロリ衣裳の猫耳娘が、割とやる気なさげに、ひら~り、ひら~り、手を振った。

 

「あたしには、この子を含めた、良き理解者が大勢いる。直接的に触れ合えずとも、音にして言葉を交わさずとも、指先で数多の思想を交わすことができるから」

「でもさ、食事とかって…」

「きちんと自炊できている。あたしの私生活は、この子を通じて、愚兄に連絡が行く。だらけて、不衛生な日々を送ってると知れたら、本家に強制送還。なので適度にしっかりする」

「そっか。あかねはすげぇな」

「よき」

 

 褒められて満足です。と言ったようにうなずかれた。本当は、毎日一人で食事をしてたら、さびしかったりするんじゃないかって思ったけど、そういうのは『余計なお世話』なのかもしれない。

 

 ――で、遠回しにしてしまった、当面の問題は、

 

「俺、一応男なんだけど」

「それが?」

「夜寝る時は、こっちの部屋に戻ってきた方がいいよな」

「なんで? …あぁ、なるほど」

 

 あかねは、こっくりとうなずいた。分かってくれたか。

 

「部屋も寝具はちゃんとある。たまに愚兄もここ寄るから、今夜は祐一が使ってくれていい。サイズは合わないだろうけど、寝る時用のスウェットもあるから、それ使っていい。ぜんぶきちんと洗濯してる」

「…あ、はい…その…女子力高いですね…」

「きちんとやってるから。一人で」

 

 またうなずかれる。今度は心なしか、得意げだった。

 

「違うんだなぁ、あーちゃん」

 

 対して反対側からは「まったくこの子は、んもー」とでも言いたげな、わたしはわかってますよ的な顔の女子がいた。 

 

「あーちゃん、我々は、女子ですよ、女子一同なんですよ。そして彼は男子」

「うん。しってる」

「我々の方が、数的には優勢といえど、かよわい女子なんです」

 

 パワー系女子が、主張した。

 

「つまり彼は、己の情欲に負ける自信があり、ひいては責任問題として、世間をお騒がせする可能性があるからこそ、この部屋の床の上で寝泊まりさせて頂いてもよろしいでしょうかと、そのように提案してるわけですよ」

「――――おい、あまり調子になるなよ。貧乳女子」

「ひにゅっ!?」

 

 あっ! いかん、つい。

 

 最近、西木野さんの女子パラメータが、俺の中でうなぎ上りに激減しまくっているために、つい、仲の良い男子と同じ対応をしてしまったぜ。

 

「ひ、ひん…っ! ひんにうって、ちょっ、待ってよぅ!」

「待たねぇよ。誰が情欲に負けるって? 悪いけどさぁ、俺の中で西木野さんは、もうかなりの割合で芸人化してんだよ。桃色範疇《エロカテ》に入ってねぇんだわ。むしろ、桃色要素が欠けすぎてて、心配しちまうぐらいだぜ?」

「わかる。祐一、それね」

「だよな。西木野さんは、根本的に女子としての成分が欠けてるんだよ」

「ほんま。わかる」

「せやろ」

「たった3文字で同意を交わし合わないでよ!! ひっ、貧乳かどうかはともかくっ! セクハラはよくないよっ!!」

「俺も意味合いとしては、パワハラ的な言い方されたよな?」

「そ、そんなことないもんっ! わ、わたしは、前川くんのこと、信頼してるからっ! だからいいんだもんっ!」

「祐一、情欲に負けてもいいんだって」

「ちがうの~~!! 待ってよそういう意味じゃないよ~!!」

 

 赤い顔であわてる彼女を前に、俺たちは顔を見合わせた。

 

「あたしのパートナー、カワイイでしょ」

「まー、うん」

 

 とりあえず、今日は冷たい床の上で、寝ないで済みそうだった。

 

* * *

 

 スタジオを後にして、今度は彼女の家におじゃました。同じ様にスマホで玄関のロックを外す。すると、その先はさっそく部屋が一望できるリビングになっていた。

 

 大きな窓には夜色のカーテン。床はタイル張りで、ブラウンのソファーが置かれた一角にだけ、長机とカーペットが敷かれている。アイボリー色の壁中には、大きな液晶モニターを持つテレビが、直接埋め込まれていた。

 

「おぉ…なんか、ちょっとカッコイイ部屋だ」

「ねー。わたしも同じこと思ったー」

「機能的なだけ」

 

 部屋の反対側には、システムキッチンと、食事を行うテーブルが用意されていた。中央に置かれた花瓶の中には、一輪の赤い花が彩られている。

 

 全体的にどことなく、普段くらす住居というよりは、プライベートな事務所といった感じの雰囲気だった。

 

「祐一。寝室は向こうのドアの先ね。トイレとバスはこっち」

「わかった。ありがとう」

「二人とも、今日のご飯どうする? 一応、昨日の間にカレーを作っておいたから、それでよければあたためる」

「おぉ、すげぇ。よかったら食べたいな。手伝うよ」

「わたしもー。お昼ほとんど食べなかったら、おなかすいたー」

「ん、わかった。じゃあ、あっためるね」

 

 それから三人で、あかねが作ってくれたカレーを、電子調理器で温めて、机の方に運んだ。食器を用意して、机を拭いて、コップに水いれて。

 

「いただきます。…んっま!! なんだコレ!」

 

 一口食べて、驚いた。

 

「あかね、天才かよっ!!」

「大げさ」

「いやいや、そんなことないって。美味いって」

「ねー。あーちゃんの作るご飯、すごく美味しいんだよ」

「レシピ通りに作るだけ。カレーは特に簡単。道具もいいし」

 

 向こうの、ステンレスのシンク。そこには、真新しい圧力鍋が、電子調理器《IH》の上に、まだそのまま乗っかっている。おかわり自由とのことだ。

 

「あの鍋ってさ、もしかして材料入れると、勝手に調理してくれたりもする、高性能なやつ?」

「そう。IH対応の最新圧力鍋。すぐれもの」

 

 自分で作ったカレーを食べながら、こくんと、うなずいた。

 一見すると無表情だけど、むしろあかねの場合、こうした態度を取ってくれた時の方が、内心では喜んでいるのかもしれない。

 

「あかねってさ、電気製品に強そうだけど、家電とかも好きだったりする?」

「割と。投資もしてるし」

「投資? 投資って、もしかして、株のこと?」

「そう。小学生の時に覚えた。あたしが初めて投資した家電の会社は、最初は小さかったけど、ここ数年で急成長した。今ではその会社の新作モニタやったり、ネクストクエスト絡みでの、新しい企画の立ち上げや、人材の橋渡しなんかも、ちょっとだけ任されてる。みんな、機械関係に強いから、分野は違っても、いろいろ勉強になるし、新しい方向性のアイディアが生まれることもある」

「すげぇ。あかね、もう働いてんだな」

「すごいのは、みんな。あたしは教えてもらってばっかり」

 

 こくん。とうなずいた。

 

 銀の匙を運ぶ。何気ない所作は優美で、きちんとしたマナーを習熟した経験があるように見えた。正直、最初はちょっと変わった子だなって思ってたけど、こうして話してみると、途端にすごい女の子だなと、改めて思った。

 

「祐一も、家電に興味ある?」

「あ、いや、俺はそうでもない。実は、うちの母さんがさ。最近、昔から使ってた鍋の焦げ跡が取れなくなってきたから、新しいの欲しいなって言ってたりするんだけど、やっぱ最新の道具にすれば、味も変わるかな?」

「変わる。近年は一人暮らしの人間が増え続けてるから、各社ともに、デザインより、基本性能重視の傾向を取るようになってきた」

「ネットでバズれば、口コミで一気に広まるもんねぇ」

「だよなぁ。値段がそこそこ高くても、鍋とか調理器具って、十年単位で使えるし、性能が確かならそっち買う大人は多そう」

「そういうこと。個人の興味や、趣味が細分化した現代において、長期的な継続販売が見込めそうな商品、特に日用品に関しては、質の良い物が、消費者のアンテナにかかる率が上がった。単純にクオリティの高い商品が支持されるのは、よきこと」

 

 やっぱり嬉しそうだった。ともすればこの先、家電に詳しい女子というのは、料理のスキルと相まって、一種の『女子力ステータス』として、再評価されたりするかもしれない。

 

「いやぁー、あーちゃんは、将来良いお嫁さんになれるよねぇ」

 

 対して。この女子は。

 

「…時に西木野さん。貴女は料理ができるのですか?」

「できるよう。カレーだって作れるよ~」

「本当に?」

「ちょ、前川くんっ、なにその疑いの眼差しはっ!」

「そらは、料理できない」

「はぁ…やっぱりかよ…」

「ちょ! できるって言ってんじゃん! ため息つかないで!?」

 

 女子力のない女子が、スプーンをくわえながら「失敬だな君たちは!」という感じで怒りだした。そんな彼女のパートナーは、やはり冷静沈着に問いかける。

 

「そら、包丁使える?」

「使えるよ!」

「最近持ったの、いつだった?」

「………………………お、おととい」

 

 女子力低いの、バレるの早っ!

 

「おい、そこの容疑者A。目をそらすんじゃねぇ。あかねさんの目を見て、正直に言え。わたしは包丁が使えませんってな!」

「違うってば! 昨日のご飯はお魚だったの! 煮付けたの!! 包丁いらなかったの!!」

「んじゃ、一昨日は、なに食べた?」

「えーと…確か、パスタ?」

「茹でただけじゃねーかっ!」

「さっ、サラダとか切ったし!!」

「サラダとかってなんだっ! サラダは調理済みの商品名だ! さては貴様、キャベツとレタスの区別もついてねーな!?」

「つくよ! さすがにそれぐらい分かるよ!!」

「よーし。だったら後で、トマトを買ってきてやる。トマトのヘタの部分を切りとって、綺麗に三等分させてやる。ついでにリンゴの皮を途切れさせずに剥かせてやる。序の口だろう」

「祐一。ダメ。そんなことさせたら、そらの指が無くなる」

「…っ! 悪かった。確かに、無茶振りすぎたよな…」

「…いい度胸ですわねオメーら。わかったわ。トマトでもリンゴでも、丸くて赤い物、なんでも持って来いよ。やってやんよ。包丁使えるってところ、目にもの見せてやんよ!!」

 

 パワー系女子から、圧倒的なオーラが立ちあがる。

 

「な、なんという戦闘力だ…っ! 包丁を持って、野菜と果物を切るだけで、ここまで悲壮な覚悟を決められる女子を、俺はいまだかつてみたことな、」

「…………」

 

 ぎゅ~~~~っ、と。

 

「無言かつ全力で足踏むのやめてくれる!?」

「…………」

「ごめん。今回は完全に調子のりました。マジ痛いんで勘弁してください西木野さん」

 

 調子にのって、女子に、女子力を問いかけるのは、やめよう。

 

 

 カレーを食べて、食器を片付けたあと。まずはスマホで『LoA』の公式ホームページを確認した。

 

 公式サイトの方では『フェスの中間発表』として、各チームの、現在の暫定順位が表示されていた。

 

 その順位は多少、データベースサーバ上に反映されるまで、タイムラグがある。かならずしも正確とは言えないものの、つい1時間ほど前に、10勝した俺たちのチームデータも反映されていた。

 

 

『全国ランキング:

 アリーナ・フェスティバルモード』

 

『連盟戦(アジアサーバー)』

 

 第83350位。チーム名『V-Tryer』(日本)

 成績:10勝0敗。

 レーティングポイント:1145pt

 

チームメンバー:

【KINGx5】↑↑↑HAYATO↑↑↑:グランドマスター

【QUEENx3】【ROOKx2】Clock_Snow:ダイアモンドB+

 Sorano.Sakura:プラチナC

 

 

「わたし達、8万位だって。1チーム3人だから、単純計算で、この1週間で24万人以上のアクティブプレイヤーがいるってことだよねぇ」

「固定3バの『連盟戦』だけで、この人数。同時に野良の方でも開始してるから、てきとうな概算だけど、アクティブユーザー、最低でも60万はいるはず。全盛期の最大手スマホRPG並み」

「オンラインのRPGならまだしも、対戦ゲームでその数って、やっぱり半端ないんだろうな」

 

 日本で対戦ゲームは大々的に流行らない。日本人は、課金額で勝負が決まるゲームしかやらない。とか言われていたのが、ほんの数年前の話だ。

 

 前にならえ。というわけではないけれど、人の言葉なんて、流行の推移の前に対しては、なんの役にも立たない気がする。

 

「レーティングポイントって、全員『1000pt』からのスタートなんだよね?」

「そうだよ。通常のフェスの方は前回の結果――【KING】【QUEEN】【ROOK】の称号を取得してたら、初期値が高めに設定されるけどな。今回の『連盟戦』は、初の3バ固定モードだから、全チーム一律で『1000pt』からのスタートになってる」

 

 基本はこの値を参照にマッチングして、対戦相手が決まる。最初の10戦は運が良かったのか、俺たちと同じ『一週間遅れて開始しました』という強豪チームが相手に来ることはなかった。

 

 だいたい初期値の『1000pt』前後を、行ったり来たり。チームとしては『エンジョイ勢』とか呼ばれる3人組だった。

 

 フェスでは、自分たちが勝てなくても、70戦まで終えると、特定キャラクタのスキンだったり、ゲーム内で使える有料ポイントを取得することができるから、基本的に参加して損はない。

 

「それで、一位は?」

「うん。日本人だねぇ」

 

 

 第1位:チーム名『All For One』(日本)

 成績:50勝0敗。

 レーティングポイント:2108pt

 

チームメンバー:

【KINGx5】xxXBuzzER-BEateRXxx:グランドマスター

【KINGx5】loli is justice:グランドマスター

 Fujiwara:ブロンズE

 

 

「ヤバイですね!」

「ヤバイ」

「ヤベェわ」

 

 このチームが現在、2位以下を大きく突き放して、ぶっちぎりの単独首位だった。日本国内はおろか、海外のゲームプロも入り混じっているだろう大会で、50連勝は快挙と言える。

 

「やっぱり、この人たち、上手いよね」

「最大取得数の決まってる【KING】の称号は、このチームが確実に1枠とりそう」

「ていうか、最悪、これ以上プレイしなくても、最終日終わってもギリギリ【KING】の枠に入ってるかもしれない」

「そうなの?」

「うん。通常のフェスなら全然足りないけど、連盟戦の方は、どのチームも練度が高めで、実力が拮抗してるから、上位が団子状態になってるんだわ」

 

 俺はスマホの画面をフリックしながら、液晶モニターを下げていった。2位のチームの成績ですら、45勝5敗。3位が47勝9敗。

 

 それ以降のチームも、消化した試合数が多少は異なるものの、あきらかに勝率が奮ってはいなかった。

 

 最初こそ、他チームを圧倒して勝ち上がってきたものの、そこから同じような実力のチームとぶつかって、勝ったり負けたり。という感じだろう。

 

「祐一くんの言うとおりだね」

「…え?」

「ほら、上位のチームは、どこもまだ70戦終えてないから。祐一くんが最初に言ってたよね。弱いチームは今日あたりに70試合すぐ終えるかもだけど、そうじゃないチームは、確かにどこも、まだ試合数に余裕残してる感があるなーって」

「あぁうん…」

「どうしてわかったの? 場合によっては、調子のいい時に、ささっと70試合やっちゃった方が、お得だったりしない?」

「それは、」

 

 本当は、名前の呼び方が変わっていたのが、ちょっと気になったけれど。まぁ良いや。

 

「基本的にはさ、試合達成の報酬が美味いから、どのチームも70試合はこなすんだ。そんで【ROOK】以上に入れると、報酬内容も少しオマケが付くんだ。その上で、レーティングポイントを基準にマッチングが繰り返されると、システム上の仕組みとしては必ず、それなりの実力に応じたところに落ち着く」

 

 そうなると、つまり、

 

「レーティングポイント全体としての平均値、および分布図は、日を経過すれば上昇する。待っていれば、自分たちよりも弱いチームが、同程度のチームを倒して勝ちあがってくるから、比較的、そこまで強くない相手が選ばれる割合が高い」

 

 あかねが、俺の言いたい事を代弁してくれた。

 

「そういうこと。つまり、今日と明日の休日で、全体の試合消化数が一気に進むじゃん。そしたら中には、実力不相応なチームが、マッチング運なんかもあって勝ちあがってくるから、そこを叩こうって話」

 

 だから、少しでもチームの勝率を上げたいなら、

 

「スタートダッシュで70試合すべてこなすよりは、レーティングポイントのボーダー見つつ、ゆっくり消化した方がいいわけだ」

「はぁ~、なるほどっ。すごいなぁ」

 

 西木野さんが、嬉しそうに褒めてくれた。

 

「なんていうかね、読みが深いんだなって思った! やっぱりすごいね。そういうところ、わたし全然気づかなかった。昨日も、祐一くんの話を、へーそうなんだーって、スルーしちゃってたもん」

「こればっかりは経験則だよ。レート帯の最上位にいる連中って、基本的に勝ち星が増え続けていくから、やってない分だけ、順位は下がるんだ。だからもうちょっと探っていくと、さっき、あかねが言ってくれたような法則が浮かぶんだよ」

 

 二人で彼女を見つめると、また無言で「こくり」。

 

「……」

「……」

「……」

 

 …。

 

「いや、あの、あかねさん? なにかコメントをお願いしますよ」

「はい。そうです」

 

 俺たちがそろって噴きだした。

 

「そら、これってやっぱ照れてんの?」

「うん。あーちゃん、照れ屋だからねー」

「てれてない。ちがう。ジジツを肯定しただけ」

 

 わかりやすい反応だった。なんだっけコレ。

 こういうの、ツンデレって言うんだっけ。五十年ぐらい前?

 

「でもでも、祐一くんと、あーちゃんの言うことが正しいなら、1位のチームって、ほんと強すぎって話になるよね」

「まぁ、”ブザー”と”ロリ”の二人は、プレイヤースキルが飛びぬけてるからなぁ。fujiwaraって人のことは分からないけど…」

「ランクが『ブロンズE』って、全然ゲームやってないってことだよね?」

「そのはず。誰かの、サブアカ説」

「やっぱりプロゲーマー?」

「うん。ブザーとロリのマナーが悪質なのは、プレイヤー達の間でも有名。だから、いわゆる『裏名義』で、プロが参加した」

「まぁ…ありえない話ではないよな。他の可能性あげるなら、別界隈のプロが参加してるとか」

「あー、その可能性はあるねぇ。麻雀プロも、オンラインのMMOにドップリハマって、廃人プレイ継続中で、アップデートされる度に、最前線の攻略組で走ってるとか聞いたことある」

 

 隙あらば麻雀。いや、麻雀しろよ。

 

「割とよくある話。将棋のプロが、アイドルガチャで300万溶かしたとか、囲碁のプロが、ソシャゲのイベントで最上位報酬を取得するために、マラソン72時間走り続けたとか。しかもその直後に公式戦があって、対局中に寝てたとか。

 あとは、野球選手が新作のゲーム買いに並んでて、試合に遅刻しそうになった挙句、ゲームを入れた袋を抱えて、全力疾走しながらスタジアムに入っていったところをネットにあげられたり。そういう話には枚挙がない」

 

 いやいやいやいや。

 将棋しろよ。囲碁しろよ。野球しろよ。

 

 アンタら、自分のゲームに専念してくださいよ。大人でしょ!

 

「まぁ仕方ないよねぇ。人間だものー」

「…話が脱線したけど、1位のチーム、このまえチート疑惑があがってた」

「えっ、そーなの、あーちゃん?」

「それ多分、このチームが強すぎるからだろ」

 

 なにせ『50連勝』だ。実際、ブザーとロリの二人に相対して、動きや思考を模索して、せめて対処を考えてないと瞬殺される。

 

 そういうプレイヤーを相手にした時に、まっさきに「チートか?」と疑ってしまうのは、わからないでもない。

 

「祐一の言う通り。実際、真偽を確かめるために、ブザーが生放送してた時の動画に、ユーザーがSNS上でアドレスを張りつけたりして、誘導してた。二人も、ちょっと見てほしい」

 

 あかねに言われて、教えてもらったアドレスを打ち込む。繋がった先は、昨日の夜、金曜に行っていた実況配信のアーカイブだった。

 

「けっこう長いな。3時間ぐらいあるぞ」

「うん。動画最後の20分ぐらいまで、スクロールでとばして。見て欲しいのはそこ」

「? わかった」

 

 なにか伝えたいことがあるのか、とりあえずその辺りまで飛ばした。すると、スマホのスピーカーを通じて、

 

「「クソが! マッチしねーぞッ!!」」

 

 叫んでいた。

 

「わわっ、びっくりしたっ」

 

 隣に座る、そらも同じ様子で、俺たち二人はボリュームを最少まで下げた。

 

「昨日の夜、時間的には、あたし達がディスコードでやりとりしてた時間。ブザーのチームも、フェスのモードで対戦していた」

「あぁ。そらが限界オタクモードに突入してた時間か」

「祐一くん。なんでよりによって、そのシーンなのかなぁ?」

 

 にこにこ。不穏な笑顔。これ以上言うと、物理的な女子力が発揮されそうなので、口を慎むことにした。

 

「だけどこれがどうしたの? 50連勝して首位独走してるなら、レーティングが高すぎて、マッチングしないのは普通じゃない?」

「ん、そらの言う可能性はある。ただ、この時は20分近くマッチングしていない」

「マジか。ちょっと異常だな」

 

 ものすごく人が少ないゲーム。いわゆる『過疎ってる』ゲームならわからないでもないが、全盛期のソシャゲに等しいアクティブプレイヤーを抱えるゲームで、20分もマッチングしないのは、ネットワーク回線上に、なんらかのトラブルが起きている。

 

 あるいは、

 

「他チームが、この実況配信を見て、対戦を避けてるか」

「そ…そんなことって、あるの…?」

「ある。さっき、祐一の言った、レーティングポイントの平均化と分布の話の補足になるけど。全試合を終わらせないのはわかる。ただそれにしても、上位陣のチームの消化数が『少なすぎる』」

「少なすぎるの?」

「あー、確かに、あかねの言う通りかもしれない」

「どういうこと?」

 

 考え方を整理して、もう一度伝える。

 

「理想的な試合消化の進め方は、明日の日曜が終わるまでに、ゆっくりと、70戦全部を終えることなんだ」

「あれっ、最終日まで待たないの? ポイントの平均値は上がり続けるっていうのが、祐一くんの理論なんでしょう?」

「そうだよ。だけどそれは『試合数に上限がない』場合の話だ。最初の方にも言ったけど、ぶっちゃけ弱いチーム、そこまでゲームに対して本気で取り組んでない。参加報酬だけもらえればいいチームは、この土日で、70試合すべてを終える予定のチームも少なくないよな。確か昨日も、そらが言ってたけど、このモードは、リアルの『3人の予定が合ってないと参加できない』わけで」

「うん、言ったねぇ。社会人のゲーマーさんも多いだろうから、やっぱり土日に、3人そろって遊ぶんじゃないかなーって」

 

 同意を得てから、話を続ける。

 

「でも、社会人のゲーマーだからって、みんながみんな、強いとは限らないわけだよな。中には親子でチームを組んで、楽しく参加してたりするかもしれないし」

「あ、そうだねぇ」

「じゃあ普通に考えると、そういうチームの平均値が上がってきたのを――ちょっと言い方悪いけど、倒しやすい最大のチャンスって、来週の土日よりは、フェス日程の折り返しになる、今週末なんだよな」

「そう。最終日まで試合を余らせておくと、逆に、本来のレーティングポイントに相応しい、強敵しか残ってない状況になる。すべり込みで、急いで試合を消化しようとするチームも、ないとは言えないけど…」

 

 あかねの言葉を、今度は俺が補足する。

 

「自分たちの予定がとつぜん合わなくなった。急な都合が入って、最終日の土日に出られなくなった。もし、そんな事になったら、単純に試合数が余って、参加賞もらい損ねることになる」

「そう。最初、そらが言ったように、上位の層は、社会人のゲーマーも多いはずなのは確か。だから、予定は未定になる。思った通りにはいかないってことが、よくわかってるはず」

「なるほど~、だから、あーちゃんは、祐一くんの説は正しいと認めた上で、全体の進行が遅すぎるって言うんだね」

「TRUE。理想を言えば、上位でも60数試合までは進めてもいいと思う。でもどのチームもまだ、50試合とちょっとしか消化してない」

「んで――その理由が」

 

 

 「「雑魚共が!! 怖気づいてんじゃねーぞボケ!!」」

 

 

 コイツだ。

 

 

「「クソが!! ガチでマッチしねーわ!! いま様子見してる連中は、全員二度とゲームすんな!! おまえら退屈なんだよ!!」」

 

 現在のランキング順位は、公式ホームページで発表されている。その中でも抜きんでた成績を持つチームと、プレイヤーが確認できたら、同じ上位陣は、そのプレイヤー名なり、チーム名なりで検索をかけるだろう。

 

「「テメェ自身じゃ、なにも生みだせねぇ分際で、提供されるエサにすらガッつくこともできねぇ負け犬が!!!」」 

 

 それで、本人が『実況配信』してるページに行き着くわけだ。まさに今、対戦相手を探している画面が映れば、いったん様子見の姿勢を貫いて、「対戦相手が決定しました」というメッセージが映ったら、自分たちもマッチングを開始するだろう。

 

 「「つくづくテメェらは無能なんだってことを刻んで、おとなしく死んどけ!!!」」

 

 そうすることで、少なくとも、50連勝中の、単独首位ブッちぎりの1位に当たることだけは、避けられるわけだ。

 

 試合数が、期間内に無制限に行えるなら「じゃあオレらがチャンピオンを倒してやんよ!」とイキるのもありだが、フェスのモードでは、期間内に『70試合限定』と定められている。

 

 『たかがゲーム』に、真面目に取り組んで、確実に上位を狙っていくようなガチ勢だったら、まぁ、普通に避けるだろう。

 

「うぬぬぬぬ~! なんか悔しいねっ、わたし達は遠慮なく戦って、やっつけてやろうよっ!」

「今のレートポイントだと、そもそも選ばれないけどな」

「というか、フリーの試合で、負けたの忘れてる?」

「修行したもんっ、強くなったもんっ、次は負けませんし!」

「意気込みだけは買う。そらは、それでいい」

「がんばれよ。パワー系アイド――ぐはあっ!?」

 

 隣から、ノータイムで裏拳がとんできた。女子力が発露されるまでの上限値が、どんどん低くなってはいませんか?

 

「あーちゃん、今度ボディブローのやりかた、教えて?」

「よき」

「やめてよくない。内臓系へのダメージは大人になってから如実に影響でそうで怖いからっ!」

 

 とりあえず、頭を下げた。身の安全という意味で、将来への便宜を測っておくことを忘れないスタイル。

 

「でも、わたしちょっと思ったんだけど。配信してるんだったら、自分たちの情報が、相手に全部筒抜けになってるよね? それってすごい不利じゃないの?」

「そうなんだよな。その上で、50連勝してるんだから、チート使ってるって疑うユーザーも、少なからずいるだろ」

「実際どうなの?」

「してない。と思う。少なくとも、ブザーの配信では、本人のプレイヤースキルが飛び抜けて高いだけで、すべての動作が正常に行われてるように見えた」

「俺も、アイツはやって無いと思う。配信のアーカイブも、何度か見にいったことあるけど、単純にクソウメェって感じたぐらいで、まぁなんつーか、使う必要がないっていうか」

「ロリも、ゲーム中での発言が問題で、公式からアカウント凍結されたりしてるけど、プレイ内容には異常がないからって、解除されるような人間性だから、チートはまずしてない」

「じゃあ、このフジワラさんは?」

「その人も、多分してないだろうな。万が一、チート使ってるとしたら、当然ブザーのアカウントにも影響でるし。今後、アイツが配信上で同じようにイキっても『チーターを味方に入れてた奴が偉そうなこと言ってやがる』って、批判しかでないから」

「そう。ブザーの最大の強みは、態度は悪いものの、発言にはすべて正当性がある。ひいては『ゲームの環境そのもの』に、一部とはいえ影響を及ぼしているということ。自分たちが、ルールになってしまっている」

 

 それは間違いなく、すごいことだ。

 

 大勢の人間が、このブザーという存在を含めた、たった3人の動向を窺い、対策を立てた上で動いているのだ。

 

 『たかがゲーム』内の出来事とはいえ、自分たちの人生の中で、そんな風に扱われる。名実ともに、明確たる【強敵】として認められるなんて、どれだけの人間が、そんな風になれるだろうか。

 

 

「「今日はもうヤメだ!! 

 雑魚同士で乳繰り合ってろカス共が!!」」

 

 

 ハンパない暴言をまき散らして、アーカイブは終了した。

 

「…ロックだなぁ。個人配信の動画で、再生数がミリオン超えてるのに『いいね』1割以下とか、はじめてみるぞ…」

「その1割以下の信者は、仮にブザーが自殺でもしたら、同じ方法で自殺しそうね」

「怖い事いうなよ」

 

 まっくらのモニター。停止した画面をしばらく見やり、次の思考の行きつく先を探していると、

 

「うーん…」

 

 そらが、ちょっと首を傾いでいた。オレと同じく、そんな様子に気付いたあかねが、声をかける。

 

「どうしたの、そら」

「うーんとねぇ。この…ブザーさん、って『VTuber』だよね?」

「へ?」

「なに言ってるの?」

 

 俺たち二人が、同時に変なモノを見つけた顔になる。

 

「『VTuber』って。どこにも、3DCGモデルが映ってないぞ」

「あっ、えーと、そうじゃなくて。いわゆる中の人? が『VTuber』だよねっていうー」

「…ごめん、そら。なに言ってるか、ちょっとわかんねぇ」

「同じく」

 

 聞けば、そらは目をぎゅっと閉じて「えーとえーと!」と、人差し指を上に向けて、ぐるぐる回す謎の行動を取っていた。

 

「つまりね、わたしが言いたいのは、このブザーさんの声についてなんだよ。これ、合成音声っていうか、言っちゃうと、AIのリアルタイム自動変換機能を使った――」

「【セカンド】?」

「そうそう。これ【セカンド】使ってるぽいんだよねー」

「…マジで?」

 

 驚いた。動画のシークバーを、適当な位置まで戻してから、もういちど再生してみた。

 

「「雑魚がよ!! 怖気づいてんじゃねーぞ!!」」

 

「「今様子見してる連中は、全員二度とゲームすんな!!」」

 

「「おまえら退屈なんだよ!!」」

 

 

 遠慮も、容赦もない、ドスの聞いた声だった。

 

 ただ、真剣に聞いてみたところで、10代後半から、20代ぐらいの、不良というか、ヤンキーというか。まぁとにかく、そういう感じの人物が喋ってるようにしか聞こえない。

 

「ダメだ。俺にはわかんねぇ。あかねは、わかる?」

「…言われてみると、確かに…ほんの少しだけ、クセを感じる。セリフの内容と動画の状況が噛み合ってない。1秒にも満たない時間だけど、本当に少しだけ、ズレを感じる」

「…そう言われたら確かに。そんな気がする」

 

 本当に言われて気づくレベルだ。間違い探しをするように、目を凝らせば気づく。対戦中「クソが!」と、条件反射で舌打ちするようなシーンが、本来のブザーの反射神経と比較すれば、ほんの一瞬だけ遅い。ような気がする。

 

「マジかぁ。これ【セカンド】使って配信してたのかよ。俺、ブザーの対策練るために、けっこう動画見たけど、マジで全然気づかなかったわ」

「…ミスディレクション。VTuberを使って配信してるなら、必ず、その姿が画面上に映っているはずだという『思い込み』。映っていないから、素の本人が配信しているはずだと、勘違いする」

「すげぇな。やっぱコイツ、人の裏を取るのが得意っていうか、俺とはべつの意味で、人間心理の読みあいに長けてる」

 

 姿をくらまし、相手の背後を取り、一撃で仕留める。

 

 ブザーが最も得意とする、LoAのヒーロー『スカーレット』の基本戦術だ。もしかすると本人は、自身の配信状況が見られている、情報が筒抜けになっているという、本来なら不利な状況ですら、独自の考えに基づいたうえで、裏を取って立ち回っているのかもしれない。

 

 情報戦には勝っている。相手チームの暗殺者の動きが手に取るようにわかる――その心理を、暗殺者本人に利用され、結果的に敗北してしまう。

 

 そんなことはできない。不可能だというプレイヤーもいるかもしれない。ただ実際、このチームは現状1位であり、50連勝中なのだ。

 

「なるほど…確かに、このチームとは、俺でも当たりたくねーわ」

「勝てる気がしない?」

「んー、実際やってみないとわかんねーけど、とにかくヤバイ。ってのは分かるじゃん」

「【最強】になるんじゃなかったの?」

「さすがに、無策で馬鹿正直に挑んでも、どうにもならんってのはバカにもわかってるよ」

 

 そうだろ、と。

 心の中で問いかけた。

 

「でも真面目に、そらはすげーよ。俺の時もそうだけど、よく気づけるよなぁ」

「えへへへ。もっと褒めて~。わたしのスキルが、ついにお役にたてる時がきたようだ~」

「…いや、役にはたってないよな?」

「役にはたってない。ブザーの声がVTuberだとわかったところで、なにか対策が取れるわけでもないし」

 

 ですよね。しかし本人は、まだ「どや顔」を崩していない。

 

「あれぇ、いいのかな~? まだわかっちゃってる事あるんですけど~? 二人にお伝えしなくてもいいのかな~?」

 

 なんだこの女子。ここぞとばかり、上からチラ見してきやがる。

 

「…そら様。どうかこの無学な下僕めに、一体なにがわかっちゃったのか、ご教授願えませんでしょうか」

「いいでしょう。その素直な心意気に応じて、特別にわかっちゃったことを、教えてしんぜましょー」

「ありがたき幸せ」

 

 ガマンだ俺。大人になればこんな理不尽、きっと山のようにあるんだ。

 

「ほら~、言うぞ、言うからね~、ちゃんと聞いてよね~」

「…ハイ…」

 

 今は貧乳な同級生の女子だが、将来は巨乳の美人上司になっていて、酒を飲んで軽く酔っぱらった感じで絡んでいるという、そんな現実には絶対にありえないシチュエーションを、全力で妄想して、耐えしのぶんだっ

 

「ではでは、ズバリ言っちゃいましょう。ブザーさんの正体は、わたし達とおんなじぐらいの歳の、女子だと思われますっ!」

 

「……」

「……」

 

 俺とあかねが顔を見合わせる。聞く。

 

「その女子って、俺らが知ってる相手とか?」

「いえ全然。わたし自身、聞いた覚えはないと思われますねっ」

「…」

「…」

 

 俺は改めて、彼女に聞いた。

 

「そらさん。どや顔になってるところ、たいへん申し訳ないんだけど。その情報、今はなんの役にも立たないよね?」

「やっぱりそらは可愛い。思考が単純でまっすぐ、犬っぽい」

「い、犬じゃないよ!」

「いいや、犬以下だねこの女。なんの役にもたたねぇ――痛ぇ! なんだよっ、さっきから俺にだけ女子力発揮してんじゃねぇぞ、このアマ!」

「いつか役に立つもんね! 犬以下でもないし!」

「その時は全裸で感謝してやるから、今は叩くなっつの!」

「脱がないで感謝してよ服着ろバカァっ!!」

 

 わけのわからない殴り合い(一方的な攻撃)に発展する。

 

「二人ともそこまで。時間もおしてるし、フェスの続きしよ」

「せやな。とりあえず、俺たちも勝ち進めていかないと」

「もー、わかったよぅ。がんばろうね。二人とも」

「おう」

「ん」

 

 俺たちはふたたび、LoAを起動する。『たかがゲーム』の先に、一体、なにがあるのか。手にした液晶画面の向こう側へと、確かめにいく。

 

 

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