VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~ 作:no_where
その日も、特に何事もなく、学校での一日が過ぎた。
放課後のホームルームが終わると、滝岡と原田の二人が声をかけてきた。
「やっと終わったなー。言うて、これから部活だけどさ」
「そうだね。前川は?」
「俺はまっすぐ帰るよ。家の手伝いをしたいしさ」
滝岡は野球部で、原田もバスケ部に所属していた。うちの中学は部活への所属は自由なので、俺は去年からどこにも所属せず、普通に帰宅部だ。1年の頃からまっすぐ家に帰るのが常だった。
「あっ、でも一応、今日は図書館に寄るかな。麻雀の本を返したいから」
「そっか。んじゃあ、また明日――って、明日土曜じゃんよ。休日も練習あるし、また三日後なー
「こっちも同じだね。じゃあ、また週明けに。前川」
「おー、二人とも、部活がんばって」
「任せとけ」
教室をでて、手を振って別れる。二人の向かう部室棟とは逆の方向へ歩いてゆき、正門に続く階段を降りた。自転車に乗り、通いなれた通学路を、朝とは反対に逆走していった。
(今日、風つめてぇ。陽が沈むのも早くなってきたな)
進む途中、交差点を一本横に折れて、市内の方に向かっていく。頭上を走る新交通システム、地元の人間からは『トラム』と呼ばれている電車とわずかに並走して、あっという間に追い抜かれた。
さらに、旧線と呼ばれる、市内を結ぶ駅との境。都市開発のあおりを受けて、新旧様々な建物が立ち並ぶなか、目的地の図書館が見えてきた。
3階建てで真新しく、結構な蔵書量と規模がある。なんでも地元の有名なデザイナーを起用したとかで、遠目からだと、沈む太陽が図書館の外観に折り重なった時に、角度によっては、オーロラのように輝く工夫がしてあるらしい。常連のじいちゃん達が話していた。
(ついでに、別の本を借りていこうかな)
自転車を停めて館内に入った。この図書館の1階には小説の類が並び、普段から結構な人が行き交っている。2階はジャンル毎の本でわかれ、麻雀の本はここで借りた。3階は郷土資料が中心だ。ここから上にあがることは滅多にない。その踊り場にあたる階段で、
「――あの、前川くん…」
ふいに声をかけられた。振りかえり、視線を下ろしていくと、見覚えのある女子生徒がいた。
「西木野さん?」
「こ、こんばんはっ」
「え? あぁ、こんばんは」
午後5時すぎ。外もまぁまぁ暗くなっている。確かに、そんな挨拶をしてもおかしくない時間だよなと、ちょっと見当違いなことを考えた。
「どうしたの?」
「あ、え、えっとですね…前川くん…」
「うん」
ついでに、俺の苗字を呼ばれたのも初めてな気がして、ちょっとだけ緊張した。
「……」
「……」
会話が止まった。
「もしかして、昼間の件?」
聞いたのは昼休みのことだ。少し視線が重なっただけ。それでも普段、クラスの女子と接点がないから、それぐらいしか思い浮かばなかった。
「で、です。そうです」
「そっか」
「それであの…さっき教室で…帰るとき、図書館に寄るって、聞こえたので……」
「えっ、それで追ってきたの?」
「いえっ!? あっ、ちがっ、ちがいまっ! 違わなくないけどごめんなさいっ!」
「え、どっち?」
「はわっ! 追いかけてきたというわけではなく…っ、その…ニュアンス的には追いかけてきたんですけど…!」
結局どっちなのか。学校での印象だと、友達とは普通に喋っていたり、授業中に先生にあてられても、普通にハキハキと応えている感じがこれまではあった。
長い黒髪。肌の色は少し薄くて細身。外見と比較した時の彼女の性格、立ち振る舞いには、目に見えるイメージと大きなズレがない。
――先入観による外見と、中身が一致している、クラスメイトの女の子。単なる『他人』。俺の中での『西木野そら』さんに対する評価はそれが全てだった。
「…わ、わたしは、前川くんのことを…」
緊張してるのか、それとも男子が苦手だったりするのか。西木野さんは、堰を切るように言った。
「…お、追いかけてきました。どうしても少しだけ、お話をしてみたくって…すみません…」
「いやべつに謝らなくても。もしかして、西木野さんも、あの本を借りたかったとか?」
「そ、そうではなくて…きょ、興味はあるんだけど…」
「麻雀に?」
「っ! はい! 麻雀大好きですっ! キッカケはっ」
「――あ、ごめん西木野さん、場所変えていい? ここ通る人の邪魔になりそう」
「は、はい! ですよねっ!」
「2階のこっち行った先に、自習スペースあるからさ。そこで座って話してもいい?」
「よいですっ、とてもよろしいかとっ!」
西木野さんは見るからに緊張していた。ちょっと意外だったのは、男子から人気のある女子って、割と誰とでも、普通に喋れたりするんじゃないかって、勝手に思っていた。
それで正直、一瞬だけ「俺のこと好きだったりする?」とか疑ってしまい、こっちの心臓も早くなってきた。
窓際、夕日がそっと差し込む自習室に移動する。普段この時間帯は、近くにある、進学塾に通う高校生たちが占めていることが多い。けれど今日は運よくテーブル席があいていた。
「西木野さん、一応、ノートとか参考書を広げといて」
「えっ…」
携帯電話、スマートフォンのご利用は避けて、電源も切ってください。という張り紙を横目でそれとなくうながした。返事が来てから、小声でささやいた。
「勉強してない人たちの利用はできないから。司書の人が来た時に、普通にダベってるだけだと、追いだされるかもしれない」
「わ、わかりました。ですね、だね…っ!」
「あっ、けど、西木野さん、普段から図書館《ここ》利用してるんだっけ?」
「…え? してませんけど…」
「あれ。最初にクラスの自己紹介の時に言ってなかったっけ。図書館にも行くって」
「あ、あー、あーれはー…」
学校でだされた、数学の課題を開いて向き合うと、西木野さんはやっと、落ち着いたように苦笑した。
「ごめんなさい。あれ、ウソなんです」
「え、そうなの?」
「はい…あ、あの、みんなをだますつもりはなくて…ほら、わたしって、外見がこんな感じじゃないですか。だから趣味が読書って事にしといて、あとは適当に図書館に通ってるって言っとけば、学校から直で帰れて、普段が楽なので」
「…そ、そうなんだ」
それはつまり、周囲をだましてるのでは? とか思ったけど、あえて黙っておいた。
「それで、えっと…なにか聞きたいことがあるんだっけ」
「そうですっ、そうでしたっ…実を言うと以前から、前川くんにお聞きしたいことがありまして……!」
「いいけど、西木野さんって、いつもそんな口調なの?」
「あへっ!? なにか失礼でしたか…っ!?」
「いや、なんていうか、妙にかしこまってるっていうか」
「すみませんっ、クセなんです!! ま…前川くんとは、ほとんど初対面みたいなものですしっ」
「同じクラスだけどね」
「すっ、すみませんっ、そうではなくて…わたし、距離感とるのヘタクソなのでっ!」
西木野さんは、うつむいてしまう。顔を赤くして縮こまっている様子が、なんかとても可愛かった。
「それじゃ、喋り方に関しては、西木野さんが楽な感じで。俺も茶々入れてごめんね」
「いえっ…ありがとうございますっ」
「それで、改めて聞くけど、どうしたの?」
「そ、そうですね。なにからお聞き致しましょうか…」
そこでまた、間が開いた。
「……」
「……」
とりあえず、数学の問題を、空いた時間を利用して解いてみる。
「……」
「……」
普通に一問、二問、とけてしまった。
「……あっれぇ? おかしいなぁ。最後の文章問題、答えがヘンになっちゃった…代入した値、間違えたかなぁ?」
「西木野さん?」
「はい、なんですか?」
「いやそれ俺のセリフ。聞きたいこと、あったんじゃ」
「~~っ! すみませんっ!!」
ガタッと勢いよく立ち上がり、頭をさげる。すぐにあわてて座りなおす。
「ぁ~~、ご、ごめ、ごめんなさ…っ! 悪気なくて…っ!」
ものすごく赤面していた。くしゃっとなった、形の良い眉と、目元を両手で隠す。長い前髪も顔を覆うのを手伝って、心なしか、肩がふるえていた。
「西木野さん」
そんな女の子に向けて、俺は意識して『スイッチ』を入れた。
「そういえば、麻雀、好きだって言ってたね?」
「……え?」
「聞きたいことがあるんだけど、よかったら、いいかな?」
「……ぁ、えと、はい…」
「俺、昨日ね、ネットのブラウザの麻雀やってみたんだ」
「あ…もしかして、てんほう、です?」
「うん。そんな感じだったような気がする。天空の天に、後ろの漢字が難しめ?」
「鳳凰の鳳ですね。中国の伝説の鳥で。やっぱり鳳凰で合ってる気がします」
「へぇ、じゃあきっとそこだね。それでさ、俺ほんとうに初心者だから、カンとか、チーとか、あとポン? ぜんぜんわかんなくて。とりあえず選べるのは、全部選んでみたんだ。そうしたら、役はそろって上がれるはずだったんだけど、できなくて。なんでかわかる?」
「はい、わかります。それ、フリテンだったからです」
目に見えてエンジンがかかってきた。眼がキラキラしている。
「ふりてん?」
「語源はきちんとあるんですけど、ひとまずおいときましょう。前川くんの言った、カン、チー、ポン、いわゆる鳴きと呼ばれるアクションを行うとですね。相手の捨て稗を拾って上がりやすくなる代わり、リーチができなくなって、役の位も1つ下がっちゃいます。ですから最低でも2ハン以上の役を作らないと、そもそもテンパイしても上がれない状況になったりするんですよ」
怒涛の解説だった。
西木野さんは、すごく頭の回転が速い子なんだろう。ただ時々、ちょっと周りが見えなくなる。でもべつに、悪いことじゃない。
合わせる。思考の回転速度を早める。
『目前の彼女に集中する。』
「あぁそっか。やっぱり難しいとこなんだね。本を読んでも、イマイチ理解できないっていうか」
「そうなんです。本当にそうなんですよ。この辺りのルールが、麻雀が難しいって思われてる理由です。テレビゲームで言えば、チュートリアル込みで、少しずつ解放されていくはずのシステムが、いきなり最初から全開放、アンロックされているようなものでして、条件は満たしてるはずなのに上がれないとか、MPゲージが溜まってるのに、なんで必殺技の召喚魔法が撃てないんだろう。って思って、マニュアルのヘルプを読みはじめるんですけど、そのヘルプに書いてあることが、そもそも難しくてわかんねぇ。このゲームは自分には向いてないんだ。もういいよ、やめるわ。ってなりがちなんですよね!」
「あ、なんとなくわかる。最近のゲームが親切すぎる反動とかもあるなのかな。麻雀って、いざ一人で覚えようとすると、数学の新しい公式とか、英語の単語とか文法を覚える感じで、印象的には『勉強』が先に来るよね」
「そーなんですよ! わかる! 前川くんの発言わかりみ深い! でもでもっ、そこさえ乗り越えると、一気に面白くなって、後はもう、沼なんですよ、沼っ! その先は宇宙です!!」
「う、宇宙…あぁうん、宇宙ね…わ、わかるー」
これはなんだろう。自分の『接客スイッチ』をONにしたら、西木野さんの『押してはいけないスイッチ』も入ってしまった気がする。しかし、もう後には引けなかった。
「西木野さんって、もしかして、麻雀上手かったりする?」
「全然ですっ! 全然弱すぎですっ! 最弱ですけど、実は強くてイキってましたとか、ほんとありえませんからっ、そんなことをおっしゃったら、プロに殺されてしまいます!! このクソザコが、調子のりやがってよぉ…って!!」
うん。たぶん、自分を卑下して、勢いで言ってるのは分かる。
プロはそんなことは言わない。麻雀プロのこと、なんも知らんけど。
「そうなんだ。でも西木野さん、俺なんかよりは強いよきっと。初めて三日目で、フリテンってなに? あぁそういうこと。ってレベルだから」
「みんな、最初はそうです。最初から強い人なんていません」
変わらず、彼女の顔は赤いままだけど、その赤さに負けず劣らず、瞳はひたすらにキラキラと輝いていた。本当に、麻雀が大好きなんだろう。
「わたし、麻雀の実力は、たいしたことがない、ヨワヨワのヨワだって、分かってるんですけどね。でも、大好きなんです。麻雀というゲームそのものだけじゃなくて………麻雀を仕事として、プロで活躍されている方々、その思想や人生論にも共感できるし、好きなことで、生きていくにはどうすればいいのかなって。そんな事をぼんやり思っちゃった時に、麻雀の実力とか、運とか、そういうのって、普通に、この世界の事に当てはまるんだなって」
「――あぁ。それで、宇宙なんだ」
「はい。わたしの信じるものが、ひとつ、あの中にあるような気がしているんです。この世界と繋がっていたら、素敵だなぁって」
彼女は口にした。ついさっきまで、本当になにも知らなかった、クラスメイトの女の子。その素顔が俺の前にさらされている。
「あはは。ごめんね……イミフな自分語りとか、引くよね」
「ぜんぜん。最後の話、すごく面白かった」
「ほ、本当っ、ですかっ!?」
「本当。俺、かくしごとはしても、ウソはつかないから」
「…あははー」
西木野さんは、今度はちょっと恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ…わたしも本当のことを言います。実は以前から、前川くんの事が気になってました」
「えっ」
「しかも今日、前川くんが、麻雀をやりはじめたと聞いて、これはもう、図書館まで後をつけて、直接お話をさせてもらうしかないという考えに至り、実行動に移してしまったわけです」
「そ、それは、うーん。ちょっと…引くかも」
「あぁあああああ!! すみませんっ、まことにこの度はぁっ!」
「ちょ、西木野さん、今さらだけど、若干声が大きい。司書さんが地味にこっち見てるから」
「…まことに……もうしわけ…たいへん…遺憾でありまして……」
「大丈夫だから。謎の政治家モードに入らないで。顔あげて」
今日までほとんど話したことはなかったけど、西木野さんは率直に言って、変な子だった。見事なまでに、外見と中身が一致しない女子だった。
「…ごめんね…わたしも、それはちょっとどうかな…ストーカーっぽいかなとは思ったんだけど…気付いたら、実行動に移ってた」
「あ、うん」
ひとつだけ確信した。西木野さんは、怒らせてはいけない。ぜったいに。ヤバそうだ。
「でもいいなぁ。それだけ好きなことがあって」
「え?」
しかしそんな胸の内は隠して、俺は笑顔を浮かべる。うちの店でお客さんを相手にする時のように、ゆったりと話しかける。
「麻雀が本当に好きなんだなーって。それをキッカケに、行動につながったわけだよね。たしかにそう聞くとびっくりするけどさ。よく考えてみたら、俺、そこまで自分を動かせるっていうか、原動力になるほどの趣味とか、特技がないなって思ったんだ。だから、今は西木野さんのことがうらやましい。単純にすごいなって」
「……あ……」
もう一段階、顔が赤くなる。沈みかけた西日にあてられた表情の中に、
「ありがとう」
屈託なく花咲く、女の子の笑顔を見つけた。
「っ、その、なんか俺、えらそうだったらごめんね」
「そんなことないよ。わたし、今すごく嬉しい。前川くんなら、もしかしたら――わかってくれるんじゃないかって、勝手な期待してたの」
「それなら、よかったけど。うん…」
こっちまで顔が赤くなりそうだった。心臓がいそがしい。一方で、頭が冷静に計算機を叩いていた。感情的に「やっぱり俺のこと好きなのかな」って思いそうになるものの、つじつまが合わない。と感じる俺もまた存在していた。
「西木野さんって、やっぱり普段から麻雀やるの?」
「…うん。やってる。超うってる」
「超ってことは、稗の読み方とか、役の名前も覚えてる?」
「うん。そのぐらいは、全然よゆうだよ」
今度は、ちょっと自信ありげな顔になった。
「西木野さんは、普段誰と打ってるの?」
「え?」
「さっきも言ったけど、俺まだ初心者でさ。今度、うちの常連のじいちゃん達と打とうかって話になってるんだけどさ。まだスムーズには打てそうにないんだよね」
「な、なるほど…」
「だから、もし良かったら、西木野さんが打ってる人たちの中に、俺も入れるなら、麻雀教えてもらえたら助かるなって」
「……え、えとー……」
変な質問をしたつもりはなかった。ただ、西木野さんは、すごく解答に困ってるみたいで、しぼりだすように言った。
「わたし、リアルでは打ってないんですよね…」
「へっ? リアル?」
「だから…その…ネットの麻雀オンリーでしてね…?」
「あっ、あそこ、天鳳で打ってるの?」
「う、うん…。他にも、M☆Jと、麻雀ファイオクラブと、FANGAMESのサイトの麻雀と…」
「ぜんぶネット?」
「……(こくり)……」
察した。いろいろと、俺は察した。いやまぁ、うん。確かにね?、女子中学生が、わたしの趣味は麻雀ですとは言い難いだろうし、リアルで一緒に打ってくれる相手を見つけるのも、実際に難しいと思う。だから、ネットで麻雀が打てるサイトに片っ端からアクセスして、アカウントを取って、ジャンキーのように打ちまくり、その中に宇宙の真理を見出すのも、ごく自然の流れなんだろう。
そんな時に、リアルで麻雀を打ってるクラスメイトを知って、ストーカーよろしく後を追いかけて、面と向かって自分の素顔を暴露してしまうのも、割と自然な流れだと思うんだよな。うん。
「西木野さん」
そうして、俺は思ったんだ。
「今週の週末。また常連のじいちゃん達が、家に来てくれると思うんだよね」
「…え、あっ、うん…?」
「迷惑じゃなかったら聞いてみようか? 次に麻雀打つ機会があったら、友達を一人連れてってもいいかって」
「……あ」
お節介を焼いてみたい。クラスメイトの、ちょっと? 情緒不安定な女子を楽しませたい。ほんの少しでも『自由』だと感られる時間を与えてみたい。
「……でも、迷惑じゃない……?」
「大丈夫。うちの近所のじいちゃんズ、ちょっと変なところあるけど、普通に愉快な人たちだから。あとこの提案、完全に俺の自己満だから。断ってもぜんぜん平気」
「ふわぁ…!」
口元がぽっかり開く。腕時計を見れば6時になっていて、外はもうだいぶ暗くなっていた。
「前川くんっ! 行きたい。わたし、リアルで麻雀打ってみたい、ですっ!」
はずむ気持ちをおさえるように、本当に嬉しそうな気持ちをのぞかせる。今度こそ、自分の心臓が高鳴る音を聞いた。
「オッケ。じゃあ今度聞いてみるよ。たぶん、今週末のどっちかに顔をだしてくれると思うから。集まるのは早くても来週以降になると思うけど、大丈夫?」
「大丈夫です! 麻雀が打てるなら、来世だろうが待ちます!」
「いや、死なないで。そこまではかからないから、生きて」
心臓の音が、まだまだうるさい。集中力が欠けてしまう。面と向かって顔をあわせづらくて、彼女の表情から真意が読みとれない。
「じゃあ進展があったら、週明けまでに伝える形でいい?」
「うん! 大丈夫! あっ、連絡先もあった方がいいよね?」
少し緊張しはじめている俺とは逆に、西木野さんの口調は、ずいぶんと打ち解けたものに変わっていた。
「前川くん。迷惑じゃなかったらアドレス交換しない? あっ、でも館内だと、ケータイ禁止なんだよね」
「そうだね、一回外にでてから交換しよっか」
そして俺たちはそろって、席から立ち上がった。
「あ、忘れてた。借りてた本、返却しないと」
「なんて本ですか?」
「うん。これ」
学生鞄の中から、借りていた本を取りだして見せる。見せたら、
「ぴゅふぉおおわああああっ!?!?」
何故か奇声をあげられた。アニメ絵に馴染みが無かったのかもしれない。俺がなにか訂正するよりも早く、キリッとした、メガネマダムな司書さんがやってきて、
「 お 静 か に 」
威圧された。
* *
本を返却して、図書館の外にでた。自転車置き場に集まり、図書館の外灯のした。スマホの番号を交換して、SNSアプリのグループも作って加入した。
「わ~、ありがとう! 連絡、楽しみに待ってるね!!」
「うん。ひとまず早くて、明日の昼ぐらいだと思ってて」
「了解ですっ!」
うれしそうに笑う。軽やかな足取り。俺は自転車のカギを差し込んで、ストッパーを外した。徒歩でやってきた西木野さんを歩道側へ。俺が車道の方に立って、トラムの駅まで並んで歩いた。
新交通機関。頭上に続く歩道橋。改札口に続く階段を数段あがったところで、くるりと振り返った。
「またね、前川くん! 今日は本当にありがとう!」
「うん。またね」
彼女は、むじゃきな子供みたいに手を振った。俺もまた、その背を見送ったあと、自転車のサドルにまたがって、後はまっすぐ家路につく。
(変な一日だったな)
なんでもない、普通の一日のはずだった。クラスでも可愛いと言われてる女の子と、こんな風に話せるなんて、思ってもみなかった。だけど、可愛いという印象よりもずっと、
(うん。変だった。変な子だった)
つい表情がゆるんで、口元がほころんだ。今日はなにもかも、ヘンな一日だったなと思う。頬にあたる風が、なんだかとてもあたたくて、仕方がない。
* *
――やっぱり、彼だった。
わたしの『とあるスキル』によって、彼も間違いなく、そうだろうという確証はあった。まさか麻雀をはじめていたとは思いもよらなかったけれど。正直嬉しくて、ドキドキが止まらなかった。
スマホを取りだす。
私用ではない方。合計16桁のパスロック。
わたしと、かのじょ。
ジブンたちの、生年月日。
2010092320240601
画面が切り替わる。表示されるアイコンは、普段使っているものよりも、ずっと少ない。メーラーを起動する。たった1つの宛先だけが表示される。グループアイコンだ。
to.【桜華雪月】
title.先日の、eスポーツの案件とVTuberコラボの件について
明日、クロちゃんと、プロデューサーに
ご相談したいことがあります。
詳細につきましては当日、スタジオの方で直接
お話ししたく思います。
取り急ぎになり申し訳ありません。
それでは失礼いたします。