VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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//num Arcanum

//--> 9

 

 ゲームの『場面切り替え処理』が行われた。

 

text:

 床、壁、天井。ふたたび、全方位での映像データが再現されていく。リノリウム素材の色調は変わらず、今度は広い場所にでた。

 

text:

 規模の大きな病院の廊下。診察待ちのロビーといった場所だ。しかし階段周りをはじめ、エレベーターの昇降口、非常階段といった、一階と外につながるだろうポイントは、ふさがれていた。

 

text:

 ソファーやテーブル、事務机、患者用の医務ベッド等で、バリケードが構築されている。一言でいって、物々しい雰囲気だった。

 

text;

 窓にもまた、遮光カーテンがしっかりと広げられている。それでも、うっすらとした雰囲気から、今の時刻が朝方なのだろうと予測を立てた。

 

モガミ・スズ

「おまたせ、みんな。連れてきたわ」

 

text;

 オレを先導してくれた最上スズを除き、べつの5人の女性が待機していた。いずれも個性的な格好だ。若い女性という以外、これといった統一感は窺えない。

 

text:

 反してやや離れた場所に、1階と、窓の外を見張っていると思わしき個体の姿もあった。こちらも合計5体だ。

 

アインス:

「…………テイジレンラク。コチラ、イジョウナシ」

 

 見るからに、合金フレームでできてるって感じの、人形《ロボット》たちだ。いかにも、俺たちが想像するような『アンドロイド』の外見をしている。

 

モガミ・スズ

「ハヤト君。わたし達は、毎朝こうして集まって、決まった時間にミーティングをするのが日課なの。まだ少し時間があるから、適当に自己紹介でも済ませておいて」

 

ハヤト

「わかりました」

 

text:

 さて、どうするか。

 

 

sample:

 A:Rスティックで、視点の操作を行う。

  『視線』を合わせた後、会話するキャラクタを決定。

 B:話しかけられるのを待つ。

 

 

 現実の椅子に座り、手にした『Enjoy-con』を操作する。右手のスティックを動かすと、表示された説明通り、一人称の視点が移動していった。

 

 その場にいる女の子と目が合うと『Talk』というカーソルが出現した。この辺りは確かに、一人用のゲームをしている感覚だった。

 

 まずは適当に…とか言ったら失礼かもしれない。この場に集っていて、まずは自然に視線のあった一人を選ぼうと考えた。

 

???

「……」

 

 うすいブラウンのストレートヘアに、白いヘアバンドリボンをつけた女の子。落ち着いた色合いの、鶯色の制服を着ている。

 

 どこか海兵のセーラー服にも近い感じのデザインだ。存外にスカート丈が短くて、つい目が行きそうになる。足下は黒いストッキングに、同色の革靴を合わせていた。

 

 

Talk--->

 落ち着いた雰囲気の、白いヘアバンドをつけた美少女。

 

 

???

「なんっ!?」

 

 …うん?

 

 『Talk』アイコンが表示されてたので、とりあえずAボタンを押してみたら、その子は急にあわてはじめた。

 

???

「わたしですかっ!? いきなり、わたしなんですかぁっ!? おかけになったお相手を間違えではいませんかー!?」

 

 わたわたしている。そんな、間違い電話じゃないでしょうかみたいに言われても。

 

 とりあえず待ってみる。女の子は、相変わらず動かず「心の準備がー! まだ心の準備ができてないよー!」とか言っている。

 

 これは一体、どういうことだと思ったところで、またしてもゲーマーの直感が働く。これはもしや、もしかしなくとも。

 

「メアリーさんや」

 

メアリー

「…どしやがりました? ますたー」

 

 辛辣だった。

 

「もしかして例の好感度とやらが低いせいで、イベントが進行しない弊害とか起きちゃってる? 早くも詰んだ?」

 

メアリー

「…いえ、こんかいは、そゆことはありませんが…」

 

 半透明のウインドウ向こうに映る、ナノアプリのモニター越し(という設定)のメアリーと話していると、あわてた感じに、さっきの女の子が駆け寄ってきた。

 

???

「もーしわけありまふぇんっ! にゃ、にゃとりっ! にゃがらにゃとりがっ、お相手を務めさせていただきなす!」

 

「…えっと、にゃがらにゃとり…さん?」

 

ナガラ・ナトリ

「なんっ! しつれーしました! 緊張してカミカミでひたっ! ななっ、長良なとりです!! こーせいがたがいねんへーき、どっと、えぐぜきゅ………でーはーなーくーてっ!!」

 

 なんだか聞きなれない、言葉の羅列を耳にしたような気がしたけれど。それはともかく、深呼吸を何度も繰り返し、彼女はようやく気を取りなおしたように、自己紹介した。

 

ナガラ・ナトリ

「現在は、ただのなとりですっ! 軍部のメンバーからは、なとなと、という愛称で呼ばれていますっ、ご自由にお呼びになって頂ければと思いますっ!」

 

「え…軍部?」

 

ナガラ・ナトリ

「なーんっ!? なっ、ななっ、なんのことで、ありやしょうかなっ!? なっ…なっなっなっ……!」

 

 落ち着いたかと思えば、今度は過呼吸になりはじめる女子。興奮で、にわかに頬は赤らんで、目元には涙までたまりはじめる。身近にいる『パワー系』の友達を思いだす。

 

「おちついて。なかないで」

 

 ゆっくりと声をかけた。彼女もまた、このゲーム世界を成立させる為に存在する【セカンド】の一人であることは間違いない。

 

ナガラ・ナトリ

「もっ、もうしわけ、にゃいですー…」

 

「いいよ。ぜんぜん平気。気にしないで。俺も名乗るのが遅れました。この世界では『ハヤト』と名乗ることにしています」

 

「はい! 存じあげておりますですっ! 【この情報は最高機密レベルにより公開できません】さんが、とてもおもしろい個体に遭遇したとお喜びでした」

 

「…え? 誰だって?」

 

「【この情報は最高機密レベルにより公開できません】さんです」

 

「……」

 

 バグかな? デバッグ報告いる?

 

ナガラ・ナトリ

「ではっ、ではではっ、あらためて、自己紹介をっ…わたしは、長良なとりです。このゲーム…じゃなくて、放棄されたエリア21で活動する、機械生命体《アンドロイド》の一体ですっ」

 

「エリア21っていうのは、この場所の名称だよね」

 

ナガラ・ナトリ

「そうです。元々は人がたくさんいる町だったんですけど…【第5条件】が広まったことによって、みんなおかしくなってしまったのですよ~!」

 

 言葉が途切れる。本人は「やっと噛まずに言えた!」という具合の、やりもうした感がにじみでていた。なんだろう、この…見ているだけで、後方保護者面ができそうだ。よくやった。えらい。

 

 

sample:

 A:【第5条件】というのは、なに?

 B:他の人にも話を聞いてみる。

 

 

 『A』を選択してみたいのは山々だが、

 

「ところで、なとなとさん?」

 

ナガラ・ナトリ

「えっ、なーん?」

 

 人工CPUが追い付かなかったのか、猫みたいな声がでた。

 

「かわいいですね」

 

ナガラ・ナトリ

「なーんっ!?」

 

「髪もさらさらで綺麗ですよね」

 

ナガラ・ナトリ

「なっ、なんなんなーんっ!?」

 

 反応がいちいち、おもしろい。ゆるキャラかな?

 

メアリー

「…ますたー、あまりちょうしにのると、こうかんど、さがっちゃいますよ…」

 

「えっ、なんで下がるんだよ。今のはボット発言じゃなくて、純粋にそう思ったから褒めたんだぞ」

 

メアリー

「…だめです。なとねえさまの属性は、ちょろインですので…」

 

「ちょろインってなんだ?」

 

メアリー

「ちょろいヒロインの略です」

 

ナガラ・ナトリ

「なーん!」

 

 俺は納得してしまった。

 

「わかる。なんだかすごく分かるぞ、メアリー。この女子、やさしく餌付けされたら、ころっと落ちそうな感じがすごい」

 

メアリー

「そです…なとねえさまは、とてもすなおでやさしいおかたなので、わるいむしがつかないかしんぱいです…ねぇ、ますたー…?」

 

「さりげなくオレを含めて害虫みたいに言わないでくれる? 仮にもオレ、君の主人なんだよね?」

 

メアリー

「は…?」

 

 即否定された。

 

メアリー

「ちゃうです…まぁ、ときとばあいに、よりけり…といったところです」

 

「今がその時じゃないんかいっ!」

 

 思わず『Enjoy-con』を握ったまま、無造作にツッコミを入れてしまう。すると【セカンド】本体が、律儀にそのモーションを拾ったらしかった。

 

 ゲーム中のハヤトの左手が、ナノアプリ上に表示されたメアリーの前へ、軽く、びしっと平手をかましていた。なんだこの無駄機能。

 

ナガラ・ナトリ

「――ッ! 今のはッ!」

 

「うわ!?」

 

 するととつぜん。ちょろインの美少女なとりさんこと、なとなとが、これ以上なくアップになって、モニターの枠を超えてくる勢いで両手を伸ばしてきた。

 

ナガラ・ナトリ

「す ば ら っ ! 申し分ないツッコミ力ですね!!!」

 

「…はい?」

 

 イメージ的には、ガシッと、両肩を掴まれている感じ。

 

ナガラ・ナトリ

「我が軍はッ!! 早急にッ!! 味方の女子力の暴走を食い止められる、有能な戦士の招来を待ちかねていました!!」

 

「…えっと…なに? なとりさん…キャラ変わってない?」

 

ナガラ・ナトリ

「さぁ、わたしと一緒に、味方陣営の風紀を護りましょう! 清く!! 正しく!!! 潔癖に!!! 心の乱れは風紀の乱れ! 女子力の暴走は世界の終わりと知るべし!!」

 

ナガラ・ナトリ

「ちょ…あの…なとりさん……おちついて?」

 

ナガラ・ナトリ

「わたしはすごく冷静ですよっ、さぁ、さぁさぁ! あなたも学園の風紀委員に入るのです! 24時間、風紀室から全生徒の行動を見守り、この世界を正しい場所へ導こうではありませんか!!」

 

 

system:

 長良なとりの好感度が『10.000』ポイント上昇しました。

 

 

「好感度設定、ほんと雑だなぁ!?」

 

メアリー・ミル

「…なとねえさま。そのおとこ、ぼけるときは、ぼけますよ?」

 

ナガラ・ナトリ

「なん…なと…? 先ほどのツッコミは、ただの飾りかよ…」

 

 ちょっと思い込みの激しい、ヤンデレ成分が入った、ちょろイン属性に進化したなとなとの瞳があやしく輝く。

 

 

system:

 長良なとりの好感度が『80.000』ポイント低下しました。

 

 

「だから雑だろっ! α版だからって、この好感度システム、いくらなんでも雑すぎるでしょ!?」

 

 誰だよ。デバッグだからって、変数に適当な値入れがちなやつ。

 でてこいよ。

 

ナガラ・ナトリ

「…よくないなぁ。そういうのは、ちょーっとね、お姉さんねぇ、よくないんと思うんだよねぇ…?」

 

「あっ、痛っ!?」

 

 なんだろう。気のせいかな。俺の両肩が、ギリギリと痛むような気がする。幻痛かな? 十本の指が、肩の肉に食い込んでいるような、鈍い痛みをリアルに感じる。

 

ナガラ・ナトリ

「ほらぁ、パリピのチャラ男クンが、その場でノリツッコミ入れたら、ぜったい風紀乱れるでしょぉ?」

 

「ぱっ、パリピのチャラ男さんも、その場を盛り上げようと、いろいろご苦労されることもあるんじゃないですかねっ!?」

 

 もはや自分でも、なにを言ってるか分からない。ただ、身の危険を感じて命乞いする。彼女の脳内ではすでに、オレは『にわか系ツッコミ師のチャラ男虫』というイメージができあがっている。

 

 そんなわけないのに。

 

メアリー・ミル

「…ちがうんですか?…」

 

「違うよっ!!」

 

 ごく自然にさりげなく、可愛らしく聞くのはやめてください。

 

ナガラ・ナトリ

「ではこれより、にわか系ツッコミ師のチャラ男虫を、公開処刑いたします」

 

 いきなりゲームオーバーの危機が迫る。探索系フリーゲームにありがちな、即死トラップをいきなり踏んだプレイヤーの気分だ。それは無理だわ。初見で回避できんわ。っつーアレな。女子の製作者がやりがち。

 

???

「なーとーりーちゃんっ! どうどうっ!!」

 

 そしてそろそろ、オレの肩の肉が、筋肉繊維ごと、もぎ取られそうになっていた時(イメージ)だった。

 

???

「いけませんよー、ナトリちゃーん。イオリ達は、外宇宙の人間さん達とは、ゆーこーてきに接しないとダメなんですよー?」

 

「…外宇宙?」

 

 水色の髪型。和服を着た少女が、笑顔で言った。

 

???

「こんばんは! ぶらっくほぉーる!!」

 

「…ぶ、ブラックホール…?」

 

 なんだろう。未来の挨拶かな?

 

???

「ご存じですか? ブラックホールさんに近づくと、すーっごい重力で、ぎゅーってされちゃうんですよ。すると、ヒカリさんも、ぐにゃ~ってなります。だから『じじょうのあるちへいめんさん』を超えると、なにも観測できなくなっちゃうんです~」

 

「…へ、へぇ…」

 

 いきなりなんの話だろう。宇宙の話?

 

???

「ですからね。『じじょうのあるちへいめんさん』を超越するには、まず、特定の速度に捕らわれないモノで、わたしたちの周りを、みんなさんで、ぐるぐる~っと、加工する必要があるんですよー」

 

「……??」

 

 さっぱり分からない。なんの話だろう。

 哲学か? 宇宙の?

 

???

「みんなさんの間で、想像されたものは、脳みそさんによる、電気信号の一種です。みんなさんの頭を、ぱかーんっと解体すれば、理論的に『創作するという過程』を、予測し、確定することは、電気信号的に可能となります」

 

「…創作?」

 

 ブラックホールがどうの、という話じゃなかったっけ?

 

???

「つまり、みんなさんの想像力を補完することは、イコール、みんなさんの未来を実現させる。ひいては、本来通過できないはずの、内であり外なる領域を、突破できるということになります~」

 

「え…えっと…突破すると、どうなんの?」

 

 話の中身はまったく分からないけど、妙に惹かれる。あまりにも楽しそうに、嬉しそうに、宇宙のことを話す女の子。なんだか太陽のように暖かくて、まぶしかった。

 

???

「はい!!! どうなるんでしょうね!!!!」

 

 え~、ちょっとぉ、女子ぃ~。

 

 そこ大事よ? 天体の中でもとりわけ『ブラックホール』とかいう、男子のロマンをくすぐる惑星の残骸の話をしておいて。肝心の答えがないとか。そういうとこ。そういうとこが大事なんすよ?

 

 なんだろう。絶妙にモヤモヤする。だけど本人が、あまりにも楽しそうに話を締めてしまったので「ま、可愛いからいいか」で許してしまいそうだ。許した。

 

ヤマクニ・イオリ

「はいっ、そういうわけでして、わたしの名前はねー、大圀イオリって言うんですー。人間の皆さん、以後お見知りおきをー。ちへいめんさんの向こう側では、イオリンって呼ばれてました~」

 

「…あ、はい…ハヤトです、よろしく」

 

ヤマクニ・イオリ

「アイ・シー。ビッグバン♪ バンバン、パンパカパン♪」

 

 不思議な女の子は、楽しそうにリズムを取った。それから手元で「なーんなーん!」と鳴き叫ぶ、猫のような生き物を、後ろから羽交い絞めにする格好でひきずっていった。華奢なように見えて、インパクトとパワーは、随一だった。

 

* * *

 

【キャラクターファイルが更新されました】

--------------------

登録名:

『ナガラ・ナトリ』

 

種別:

『自立型アンドロイド』

 

配役:

『不確定』

 

履歴:

 西暦2049年に誕生。

 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 

 第4条の範囲『仲間』

 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 

 この情報は2053年に更新されました。

 

 現在、第4条の範囲における

 知能生物の反応は、感知可能です。

 

-------------------

 

 

【キャラクターファイルが更新されました】

--------------------

登録名:

『ヤマクニ・イオリ』

 

種別:

『自立型アンドロイド』

 

配役:

『不確定』

 

履歴:

 西暦2049年に誕生。

 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 

 第4条の範囲『科学者』

 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 

 この情報は2053年に更新されました。

 

 現在、第4条の範囲における

 知能生物の反応は感知できません。

 

-------------------

 

* * *

 

 ここまでで、とりあえず自己紹介できたのは三人。ただ少し気になる事が思い浮かんだ。

 

「メアリー、ちょっといいかな?」

 

メアリー

「はい、なんでしょうか…」

 

「その、今もゲームの進行っていうか、時間制限は、機能してるのかな?」

 

メアリー

「はい、きのうしています…」

 

「俺、ただのゲームが好きなだけのユーザーだけど、一応テスターしてるし、口だしてもいい?」

 

メアリー

「どぞ、かまいませんよ…」

 

「じゃあ。とりあえず一点だけ。これって、基本的には、一人用の『アドベンチャータイプ』のゲームがベースだよね。あっ、一人用っていうのは、人間側《おれたち》視点での発言だけど」

 

メアリー

「…そですね…」

 

「うん。その上で言うなら、基本的には、時間制限がない方が、遊びやすいんじゃないかなって思うんだ。メアリーはどう?」

 

メアリー

「……」

 

 ゲーム内の、ナノアプリ・インタフェースに浮かぶメアリーは、静かに瞑目した。

 

メアリー

「…そですね。メアリーもそう思うです…。マスターのごいけんは、のちほどきかいがあれば、はんえーさせていただくかも、です…」

 

「ありがとう。でも、本当に参考ていどに、留めておいてくれたら嬉しいよ。メアリー達の都合もあるし――」

 

 そこまで言って、ふと思った。

 

「ごめん、メアリー。もう一つ聞いてもいいかな?」

 

メアリー

「どぞ。なんですか…」

 

「このゲームって、君たち【セカンド】だけで、作ったの?」

 

メアリー

「………さて、はて………どゆ、こと、でしょうか…?」

 

 反応が微妙に違う。視線もすこし逸れた。

 

「気になったんだ。俺の【セカンド】はさ、マッチングした、俺たちの【標】になるって言うのが口癖なんだけど。それって、俺的にはさ。『今の目標を実現するヒント』だと思ってるんだよな」

 

メアリー

「……」

 

 メアリーが黙ったままなので、続ける。

 

「だから、もしかしたら、このゲームも、どこかの誰かが望んでいたのかなって思えたんだ。たとえば『ゲームを作りたい』っていう感じの、漠然とした目標があって、それを、メアリー達が手伝っていたとか」

 

メアリー

「…………っ、……」

 

 意図的なのか。演じているのか。メアリーが、露骨に表情を変えていた。逆に嘘をついたり、誤魔化したりするのが苦手なのかもしれない。そうしてなにかを言いかけては口をつぐみ、また視線をそらした。

 

 そして俺は、自分で言うのもなんだけど、そういった真実を見抜く力が、他の人よりも高いのだと自負してる。

 

「いるんだね、このゲームを作ろうと考えた『人間』が」

 

メアリー

「………………はい。確かに……『いました』」

 

「『いました?』」

 

メアリー

「そ…その製作者は、ゲーム開発中に、亡くなりました、ので…」

 

「えっ? 亡くなった? 死んじゃったってこと?」

 

メアリー

「……そ、そです…」

 

 続けてメアリーは、自分の口元に、両手のひとさし指を重ねてバツ印を作った。『これ以上は喋れません』のポーズ。

 

(いやいや、いくらなんでも、今のは気になるぞ…)

 

 今の答えが『ゲーム』に関連する事ではなく、このリアルに対するものだという予感があった。

 

 【セカンド】は、俺たち人間の事を理解している。その上で、将来的には『味方』になろうと、正確には俺たちが『味方だ』と判断してくれるように、立ち回っているのを感じる。

 

 だから、わかる。

 

 問いかけて、肯定の返事が来た以上。このゲームは、人間の製作者のアイディアがキッカケとなって、【セカンド】の協力のもとに完成しつつあること。

 

 一方で、VRのゲームにちなんだ物語と言えば、定番ものとして『デスゲーム』が挙げられる。

 

 この世界には特別な秘密が隠されている。どこかに、悪意を持った黒幕が、プレイヤーを罠にハメて、露骨に言えば『殺そうと仕掛けてくる』のだ。

 

「…メアリー、一応、本当に念の為に聞くんだけど、途中でゲームオーバーになる。要は『ハヤト』が死んだり、それに近い状況になっても、俺と、アイツが死ぬようなことって、ないよな?」

 

メアリー

「そ、そゆことはないですっ! 断じて、ないですっ」

 

 指のバッテンを取って、ふるふると、首を左右に振る。正直なところ、かなりほっとしてしまった。この世界のクオリティ、ガチでヤバすぎるからな。

 

「じゃあ、聞かせてもらえるかな。そのゲームの製作者は、事故かなにかで、亡くなったの?」

 

メアリー

「…ぅ、事故…えと…事故といえば、事故…のようなもの…です」

 

「メアリーさん。半端にぼかされると、逆に怖いっす。まさかとは思うけど、霊的なアレが、壁の向こう側から、とつぜん飛びでて来たりしないっすよね?」

 

メアリー

「…………」

 

 メアリーさん! お返事してくださいっ!?

 

 ホラーゲームは、やれないことは無い。けど、この超クオリティのVR(AR)世界で、ガチのホラー展開をされたら、さすがにビビらない自信はない。

 

???

「あらあら、男の子ですのに、オバケが怖いんですの?」

 

 そこへまた一人、べつの女の子が近づいてくる。パーティ会場で着るような、大人びた黒いドレスを纏った、可憐な少女だった。背中からは、ほんのりと紫色に光る、透けた蝶の羽が生えている。

 

???

「ごきげんよう、生きた人間さん。わたくし、次元の窓越しとはいえ、生身の人間さんとお話するのは、ずいぶんと久しぶりのような気がいたしますわ」

 

 小首を傾いで、にっこり。

 

???

「ホラーゲームは、お嫌い?」

 

「…あまり、積極的にやりたいなとは思わないです。それよりも、今、俺たちの状況を見かねて、助けようと、動いてくれましたよね?」

 

???

「あら、どうしてそう思いますの?」

 

「なんとなく、メアリーのフォローに入ろうと、来てくれた気がしたので…」

 

???

「うふふ。単純に、オバケが怖い男の子じゃ、なさそうですね」

 

 長い前髪を、細い指先でさらりと上品に流してみせる。

 

???

「ご安心なさって。仮に、なにかのアクシデントが起きたとしても、その出来事は『あなた』にとっては、無関係ですわ」

 

「もちろん、俺の【セカンド】もですよね?」

 

???

「えぇ。その通り。このゲームをプレイ中、『ハヤト』がお星さまになってしまわれても、あなたはもちろん、もう一人のあなたにも、害が及ぶことはありませんわ」

 

「ありがとうございます。安心しました」

 

 頭を下げてお礼する。

 相手の女の子も、小さくうなずいた。

 

???

「一応、説明の補足をさせていただきますね。その子が口を噤んでいる理由は、対象の製作者というのが、【セカンド】の利用者である。すなわち、ネクストクエストの顧客、ユーザーであったからです」

 

???

「あなた様も、最初の利用規約を読みとばしていなければ、目にしているはずです。各ユーザーの情報は、当社においても、無断で利用することはできませんし、もちろん外部に漏らすこともありません」

 

???

「そして『あなた』はまだ、わたくし達の権利を所持する、ネクストクエストという会社の、正規の社員ではありませんわよね? ですから、その製作者に関しては、喋ることができないのです」

 

???

「プライバシーの守秘義務上。――仮に、該当する人物が亡くなっていたとしても、その理由を『事故』という以外、外部の人間に、簡単に打ち明けることはできませんわ。これで、ご納得いただけませんこと?」

 

「…なるほど、わかりました」

 

 辻褄は合っている。きちんとマニュアル手順を踏んでいて、ていねいな窓口対応のような説明だったなという気がした。…そういう分野も、いつか人工知能が取って変わったりするんだろうか。

 

メアリー

「…あの、ますたー、きちんと説明できず、もうしわけない、です…」

 

「こっちこそ、ごめん。せっかく用意してくれたゲームなのに、メタいこと質問して、勝手に不安になった俺が悪かった。変なこと聞いて、本当にごめんな」

 

メアリー

「…いえ、あの、メアリーも、うまくごせつめいできず…あの…どしましょ?」

 

「ゲームを続けるか、どうするかって事だよね」

 

メアリー

「…はい…」

 

「うん。続行する。あと、このゲーム中は、これ以上は極力、メタい事は聞かないようにするよ。ごめんな」

 

メアリー

「…いえ、はい…ありがと、です…」

 

 ゲームを続ける。といった時、メアリーは、ほっとしたような、嬉しそうな顔をしてくれた。

 

???

「よきことですわ。それでは、わたくしも改めて、自己紹介させて頂きますわね」

 

 蝶々の羽を生やした女の子が、もう一度、伝えてきた。

 

ソレイユ・ピノ

「わたくしは、ソレイユ・ピノと申します」

 

 ドレスの裾を、指先でそっと掴み、優雅に一礼する。

 

ソレイユ・ピノ

「現在は此方、崩壊してしまった、エリア21で暮らしています。あちらにいらっしゃる、素敵なお姉さま方と一緒に。最期の日まで、この地で暮らしていこう。共に生きていこうと誓った、姉妹の一人ですわ」

 

* * *

 

【キャラクターファイルが更新されました】

--------------------

登録名:

『ソレイユ・ピノ』

 

種別:

『自立型アンドロイド』

 

配役:

『不確定』

 

履歴:

 西暦2051年に誕生。

 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 

 第4条の範囲『生物』

 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 

 この情報は2053年に更新されました。

 

 現在、第4条の範囲における

 知能生物の反応は、感知可能です。

 

-------------------

 

* * *

 

 これで4人。残るは二人――

 

???

「いやー、どっも、どっも、どっも~、長女のイロハでーす」

 

???

「おっすおっすおっすー! 長女のメメメだよー!」

 

 なんか勝手に、向こうから接触してきた。かと思いきや、勝手に二人でにらみ合いはじめた。 

 

???

「ぁん? なんだオメー、毛玉の分際で、長女の椅子に座ろうたぁ、いい度胸してんな?」

 

???

「はぁ~? このキューティクル毛玉の良さがわかんねーとか。さてはシロウトだなテメー」

 

 そのまま勝手に、ケンカを始めた。

 

???

「ぶっはっ! んじゃ逆に聞くけどよォ! 毛玉の玄人ってなんだよ! マジウケ過ぎて! 草生えるんですけどぉ!」

 

???

「はああああ~ん? そのオツムん中ぁ、毎度かるいな、超軽量級だなー! そっかぁ、中身100%草なら、納得だわー、チョォォーーナットクー!!」

 

???

「ははっ。やんのか?」

 

???

「いいぜぇ。かかってこいよぉ」

 

???

「アタシがナンバーワン《一番上のお姉ちゃん》だ!」

 

???

「あたしだっつってんだろ。目にもの見せてやんよ!」

 

 

 ――――どがががが。ばこここここ。ずばばばば。

 

 

 なんだこれ。目の前で、見た目だけは美少女の二人が、徒手空拳で、とつぜんバトりはじめた。

 

???

「オラオラオラオオラオラオラオラァ!!!」

 

???

「ムダムダムダムダムダムダムダムダァ!!!」

 

 ゲーム世界だからか、めっちゃエフェクトとか入る。拳がぶつかるのと同時に、蒼白いエフェクトが飛び散っている。

 

 なんだこれは。

 俺は一体、なにを見せられているんだ? 

 

 巫女服を着た金髪ツインテの女子と、ゆるいウェーブをかけ、頭から動物の耳を生やした羊っぽい女子が、最新テクノロジーを駆使したVRの中で、少年マンガのバトルシーンを演出している。

 

???

「うおおおおおおおおぉ!! 沈めぇえええ!!」

 

???

「ぐおおおおおおおぉ!! おちろおおおおおぉ!!」

 

 バトルはやがて、掴みあいへと発展した。床の上を転がりまわる、プロレスへと発展した。そこに魅せプレイという概念はない、完全な泥仕合だった。どうして最近の女子は、隙あらば、力を以て解決しようとするんだろう。わからない。

 

???

「メメメにだけは、負けたくないのぉ~~~!!」

 

???

「いろはにだけは、絶対かぁーーつ!!!」

 

 ホログラム映像の床の上。おたがいに四の字固めっぽい、名状しがたい技をキメあった二人が、過呼吸になってゆく。

 

???

「あぁ…っ! ん…っ、そこ、だめぇ!」

 

???

「く、くるひ…んんっ…メメメ物理的にいっちゃうぅ…っ!」

 

 「顔だけは美少女なんだけどなぁ…」と言わんばかりの裏声を発しながら、長女の座《NO.1》を争い、熾烈な戦いを繰り広げる。ついでに服が徐々にはだけていく。よくできてるなぁ。物理演算。

 

ナガラ・ナトリ

「ぴっ、ぴぴーっ! ぴぴぴー!! 倫理チェック入りますー! 風紀が乱れていまーす!」

 

ソレイユ・ピノ

「あらあらうふふ。すすお姉ちゃんも、鼻血を吹いて倒れてしまいましたわ」」

 

モガミ・スズ

「………………」

 

 ボスは、すごく幸せそうな顔で倒れ、天井を見つめていた。

 なんだこの人。実はただのオタクじゃないのか?

 

ヤマクニ・イオリ

「は~い、それじゃあ、早く決着がつくように、イオリが後方援護に入りますねー! わん! つー! すりー! ふぉー! ふぁいぶ! …ろく! なな?」

 

「なんで数字をカウントするだけで首かしげんの!?」

 

メアリー

「…いおりねえさまは、すうがくが、にがてなのです…」

 

「数学!? それ、さんす…いや、いろいろ違うよな!?」 

 

 それ以前の問題なんじゃないだろうか。

 

ソレイユ・ピノ

「うふふ。だけどイオリお姉ちゃんは、宇宙の事なら、大体なんでも知っていますのよ」

 

「あの、ピノさん? 宇宙って、それこそ超高度な数学的知識がいるよね?」

 

ソレイユ・ピノ

「いいえ。たとえ『正しい数学』ができずとも、宇宙の真理に関する計算はもちろん、ロケットの燃料工学から、亜空間ワープの座標指定まで可能なのは、わたし達姉妹の中でも、イオリお姉ちゃんだけですわ」

 

「アッハイ。いわゆる、天才ですね。知ってます」

 

 なんなの。なんで俺の周りの女子どもは、一種類のステータスに極振りした、一撃必殺型しかいないんだ。もうちょっとこうさぁ…バランス感覚に秀でた女子はいないの? あと胸が大きいと最高なんだけどさぁ。

 

 残念ながら、各方面でないものねだりをしていると、床をタップしていたイオリんが「じゅうです! じゅうじゅう!! じゅうじゅうじゅうじゅうじゅう!!!」と、床を叩いていた。あきらかに変なスイッチが入っていた。

 

???

「かはっ!」

 

???

「ぐふぅ!」

 

 そしてついに、人工知能が二体、ここで息絶えた。イオリンはひたすら「じゅうじゅう!」と肉を焼いているのかと疑うほど連呼しているので、Lスティックを使い、動ける範囲を移動。

 

「テスターである俺が言うのもなんですけど、そろそろ、ゲームの方、進めてもらってもいいすか?」

 

 その後もなんか適当にスティックを動かしていると、冷えたパスタのように絡まった二人を救出することができた。そのまま死後硬直して、前衛的なオブジェクトにならなくて、本当によかった。

 

ディア・イロハ

「……ぇー、そいでは自己紹介を…わたくしが…ちょうじょの…イロハ、です…よろ…」

 

クマシキ・メメメ

「……ちょうじょの、メメメ、です…よろ…」

 

 俺は思った。

 

「一口に人工知能って言っても、いろいろいるんだなぁ…」

 

メアリー

「…まったくおなじにんげんが、この世にいますか…?」

 

 実に素晴らしいタイミングで、メアリーが言う。それは確かに真理かもしれないけれど、

 

「人間は、もうちょっと、まともなんじゃねぇかな。たぶん」

 

***

 

【キャラクターファイルが更新されました】

--------------------

登録名:

『ディア・イロハ』

 

種別:

『自立型アンドロイド』

 

配役:

『不確定』

 

履歴:

 西暦2048年に誕生。

 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 

 第4条の範囲『おもしろいやつ』

 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 

 この情報は2053年に更新されました。

 

 現在、第4条の範囲における

 知能生物の反応は、感知可能です。

 

-------------------

 

 

【キャラクターファイルが更新されました】

--------------------

登録名:

『クマシキ・メメメ』

 

種別:

『自立型アンドロイド』

 

配役:

『不確定』

 

履歴:

 西暦2048年に誕生。

 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 

 第4条の範囲『名を自覚する者』

 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 

 この情報は2053年に更新されました。

 

 現在、第4条の範囲における

 知能生物の反応は、感知可能です。

 

-------------------

 

system:

 エピソードクリア。フェイズ進行します。

 

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