VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~ 作:no_where
//num Arcanum
//--> 9
ゲームの『場面切り替え処理』が行われた。
text:
床、壁、天井。ふたたび、全方位での映像データが再現されていく。リノリウム素材の色調は変わらず、今度は広い場所にでた。
text:
規模の大きな病院の廊下。診察待ちのロビーといった場所だ。しかし階段周りをはじめ、エレベーターの昇降口、非常階段といった、一階と外につながるだろうポイントは、ふさがれていた。
text:
ソファーやテーブル、事務机、患者用の医務ベッド等で、バリケードが構築されている。一言でいって、物々しい雰囲気だった。
text;
窓にもまた、遮光カーテンがしっかりと広げられている。それでも、うっすらとした雰囲気から、今の時刻が朝方なのだろうと予測を立てた。
モガミ・スズ
「おまたせ、みんな。連れてきたわ」
text;
オレを先導してくれた最上スズを除き、べつの5人の女性が待機していた。いずれも個性的な格好だ。若い女性という以外、これといった統一感は窺えない。
text:
反してやや離れた場所に、1階と、窓の外を見張っていると思わしき個体の姿もあった。こちらも合計5体だ。
アインス:
「…………テイジレンラク。コチラ、イジョウナシ」
見るからに、合金フレームでできてるって感じの、人形《ロボット》たちだ。いかにも、俺たちが想像するような『アンドロイド』の外見をしている。
モガミ・スズ
「ハヤト君。わたし達は、毎朝こうして集まって、決まった時間にミーティングをするのが日課なの。まだ少し時間があるから、適当に自己紹介でも済ませておいて」
ハヤト
「わかりました」
text:
さて、どうするか。
sample:
A:Rスティックで、視点の操作を行う。
『視線』を合わせた後、会話するキャラクタを決定。
B:話しかけられるのを待つ。
現実の椅子に座り、手にした『Enjoy-con』を操作する。右手のスティックを動かすと、表示された説明通り、一人称の視点が移動していった。
その場にいる女の子と目が合うと『Talk』というカーソルが出現した。この辺りは確かに、一人用のゲームをしている感覚だった。
まずは適当に…とか言ったら失礼かもしれない。この場に集っていて、まずは自然に視線のあった一人を選ぼうと考えた。
???
「……」
うすいブラウンのストレートヘアに、白いヘアバンドリボンをつけた女の子。落ち着いた色合いの、鶯色の制服を着ている。
どこか海兵のセーラー服にも近い感じのデザインだ。存外にスカート丈が短くて、つい目が行きそうになる。足下は黒いストッキングに、同色の革靴を合わせていた。
Talk--->
落ち着いた雰囲気の、白いヘアバンドをつけた美少女。
???
「なんっ!?」
…うん?
『Talk』アイコンが表示されてたので、とりあえずAボタンを押してみたら、その子は急にあわてはじめた。
???
「わたしですかっ!? いきなり、わたしなんですかぁっ!? おかけになったお相手を間違えではいませんかー!?」
わたわたしている。そんな、間違い電話じゃないでしょうかみたいに言われても。
とりあえず待ってみる。女の子は、相変わらず動かず「心の準備がー! まだ心の準備ができてないよー!」とか言っている。
これは一体、どういうことだと思ったところで、またしてもゲーマーの直感が働く。これはもしや、もしかしなくとも。
「メアリーさんや」
メアリー
「…どしやがりました? ますたー」
辛辣だった。
「もしかして例の好感度とやらが低いせいで、イベントが進行しない弊害とか起きちゃってる? 早くも詰んだ?」
メアリー
「…いえ、こんかいは、そゆことはありませんが…」
半透明のウインドウ向こうに映る、ナノアプリのモニター越し(という設定)のメアリーと話していると、あわてた感じに、さっきの女の子が駆け寄ってきた。
???
「もーしわけありまふぇんっ! にゃ、にゃとりっ! にゃがらにゃとりがっ、お相手を務めさせていただきなす!」
「…えっと、にゃがらにゃとり…さん?」
ナガラ・ナトリ
「なんっ! しつれーしました! 緊張してカミカミでひたっ! ななっ、長良なとりです!! こーせいがたがいねんへーき、どっと、えぐぜきゅ………でーはーなーくーてっ!!」
なんだか聞きなれない、言葉の羅列を耳にしたような気がしたけれど。それはともかく、深呼吸を何度も繰り返し、彼女はようやく気を取りなおしたように、自己紹介した。
ナガラ・ナトリ
「現在は、ただのなとりですっ! 軍部のメンバーからは、なとなと、という愛称で呼ばれていますっ、ご自由にお呼びになって頂ければと思いますっ!」
「え…軍部?」
ナガラ・ナトリ
「なーんっ!? なっ、ななっ、なんのことで、ありやしょうかなっ!? なっ…なっなっなっ……!」
落ち着いたかと思えば、今度は過呼吸になりはじめる女子。興奮で、にわかに頬は赤らんで、目元には涙までたまりはじめる。身近にいる『パワー系』の友達を思いだす。
「おちついて。なかないで」
ゆっくりと声をかけた。彼女もまた、このゲーム世界を成立させる為に存在する【セカンド】の一人であることは間違いない。
ナガラ・ナトリ
「もっ、もうしわけ、にゃいですー…」
「いいよ。ぜんぜん平気。気にしないで。俺も名乗るのが遅れました。この世界では『ハヤト』と名乗ることにしています」
「はい! 存じあげておりますですっ! 【この情報は最高機密レベルにより公開できません】さんが、とてもおもしろい個体に遭遇したとお喜びでした」
「…え? 誰だって?」
「【この情報は最高機密レベルにより公開できません】さんです」
「……」
バグかな? デバッグ報告いる?
ナガラ・ナトリ
「ではっ、ではではっ、あらためて、自己紹介をっ…わたしは、長良なとりです。このゲーム…じゃなくて、放棄されたエリア21で活動する、機械生命体《アンドロイド》の一体ですっ」
「エリア21っていうのは、この場所の名称だよね」
ナガラ・ナトリ
「そうです。元々は人がたくさんいる町だったんですけど…【第5条件】が広まったことによって、みんなおかしくなってしまったのですよ~!」
言葉が途切れる。本人は「やっと噛まずに言えた!」という具合の、やりもうした感がにじみでていた。なんだろう、この…見ているだけで、後方保護者面ができそうだ。よくやった。えらい。
sample:
A:【第5条件】というのは、なに?
B:他の人にも話を聞いてみる。
『A』を選択してみたいのは山々だが、
「ところで、なとなとさん?」
ナガラ・ナトリ
「えっ、なーん?」
人工CPUが追い付かなかったのか、猫みたいな声がでた。
「かわいいですね」
ナガラ・ナトリ
「なーんっ!?」
「髪もさらさらで綺麗ですよね」
ナガラ・ナトリ
「なっ、なんなんなーんっ!?」
反応がいちいち、おもしろい。ゆるキャラかな?
メアリー
「…ますたー、あまりちょうしにのると、こうかんど、さがっちゃいますよ…」
「えっ、なんで下がるんだよ。今のはボット発言じゃなくて、純粋にそう思ったから褒めたんだぞ」
メアリー
「…だめです。なとねえさまの属性は、ちょろインですので…」
「ちょろインってなんだ?」
メアリー
「ちょろいヒロインの略です」
ナガラ・ナトリ
「なーん!」
俺は納得してしまった。
「わかる。なんだかすごく分かるぞ、メアリー。この女子、やさしく餌付けされたら、ころっと落ちそうな感じがすごい」
メアリー
「そです…なとねえさまは、とてもすなおでやさしいおかたなので、わるいむしがつかないかしんぱいです…ねぇ、ますたー…?」
「さりげなくオレを含めて害虫みたいに言わないでくれる? 仮にもオレ、君の主人なんだよね?」
メアリー
「は…?」
即否定された。
メアリー
「ちゃうです…まぁ、ときとばあいに、よりけり…といったところです」
「今がその時じゃないんかいっ!」
思わず『Enjoy-con』を握ったまま、無造作にツッコミを入れてしまう。すると【セカンド】本体が、律儀にそのモーションを拾ったらしかった。
ゲーム中のハヤトの左手が、ナノアプリ上に表示されたメアリーの前へ、軽く、びしっと平手をかましていた。なんだこの無駄機能。
ナガラ・ナトリ
「――ッ! 今のはッ!」
「うわ!?」
するととつぜん。ちょろインの美少女なとりさんこと、なとなとが、これ以上なくアップになって、モニターの枠を超えてくる勢いで両手を伸ばしてきた。
ナガラ・ナトリ
「す ば ら っ ! 申し分ないツッコミ力ですね!!!」
「…はい?」
イメージ的には、ガシッと、両肩を掴まれている感じ。
ナガラ・ナトリ
「我が軍はッ!! 早急にッ!! 味方の女子力の暴走を食い止められる、有能な戦士の招来を待ちかねていました!!」
「…えっと…なに? なとりさん…キャラ変わってない?」
ナガラ・ナトリ
「さぁ、わたしと一緒に、味方陣営の風紀を護りましょう! 清く!! 正しく!!! 潔癖に!!! 心の乱れは風紀の乱れ! 女子力の暴走は世界の終わりと知るべし!!」
ナガラ・ナトリ
「ちょ…あの…なとりさん……おちついて?」
ナガラ・ナトリ
「わたしはすごく冷静ですよっ、さぁ、さぁさぁ! あなたも学園の風紀委員に入るのです! 24時間、風紀室から全生徒の行動を見守り、この世界を正しい場所へ導こうではありませんか!!」
system:
長良なとりの好感度が『10.000』ポイント上昇しました。
「好感度設定、ほんと雑だなぁ!?」
メアリー・ミル
「…なとねえさま。そのおとこ、ぼけるときは、ぼけますよ?」
ナガラ・ナトリ
「なん…なと…? 先ほどのツッコミは、ただの飾りかよ…」
ちょっと思い込みの激しい、ヤンデレ成分が入った、ちょろイン属性に進化したなとなとの瞳があやしく輝く。
system:
長良なとりの好感度が『80.000』ポイント低下しました。
「だから雑だろっ! α版だからって、この好感度システム、いくらなんでも雑すぎるでしょ!?」
誰だよ。デバッグだからって、変数に適当な値入れがちなやつ。
でてこいよ。
ナガラ・ナトリ
「…よくないなぁ。そういうのは、ちょーっとね、お姉さんねぇ、よくないんと思うんだよねぇ…?」
「あっ、痛っ!?」
なんだろう。気のせいかな。俺の両肩が、ギリギリと痛むような気がする。幻痛かな? 十本の指が、肩の肉に食い込んでいるような、鈍い痛みをリアルに感じる。
ナガラ・ナトリ
「ほらぁ、パリピのチャラ男クンが、その場でノリツッコミ入れたら、ぜったい風紀乱れるでしょぉ?」
「ぱっ、パリピのチャラ男さんも、その場を盛り上げようと、いろいろご苦労されることもあるんじゃないですかねっ!?」
もはや自分でも、なにを言ってるか分からない。ただ、身の危険を感じて命乞いする。彼女の脳内ではすでに、オレは『にわか系ツッコミ師のチャラ男虫』というイメージができあがっている。
そんなわけないのに。
メアリー・ミル
「…ちがうんですか?…」
「違うよっ!!」
ごく自然にさりげなく、可愛らしく聞くのはやめてください。
ナガラ・ナトリ
「ではこれより、にわか系ツッコミ師のチャラ男虫を、公開処刑いたします」
いきなりゲームオーバーの危機が迫る。探索系フリーゲームにありがちな、即死トラップをいきなり踏んだプレイヤーの気分だ。それは無理だわ。初見で回避できんわ。っつーアレな。女子の製作者がやりがち。
???
「なーとーりーちゃんっ! どうどうっ!!」
そしてそろそろ、オレの肩の肉が、筋肉繊維ごと、もぎ取られそうになっていた時(イメージ)だった。
???
「いけませんよー、ナトリちゃーん。イオリ達は、外宇宙の人間さん達とは、ゆーこーてきに接しないとダメなんですよー?」
「…外宇宙?」
水色の髪型。和服を着た少女が、笑顔で言った。
???
「こんばんは! ぶらっくほぉーる!!」
「…ぶ、ブラックホール…?」
なんだろう。未来の挨拶かな?
???
「ご存じですか? ブラックホールさんに近づくと、すーっごい重力で、ぎゅーってされちゃうんですよ。すると、ヒカリさんも、ぐにゃ~ってなります。だから『じじょうのあるちへいめんさん』を超えると、なにも観測できなくなっちゃうんです~」
「…へ、へぇ…」
いきなりなんの話だろう。宇宙の話?
???
「ですからね。『じじょうのあるちへいめんさん』を超越するには、まず、特定の速度に捕らわれないモノで、わたしたちの周りを、みんなさんで、ぐるぐる~っと、加工する必要があるんですよー」
「……??」
さっぱり分からない。なんの話だろう。
哲学か? 宇宙の?
???
「みんなさんの間で、想像されたものは、脳みそさんによる、電気信号の一種です。みんなさんの頭を、ぱかーんっと解体すれば、理論的に『創作するという過程』を、予測し、確定することは、電気信号的に可能となります」
「…創作?」
ブラックホールがどうの、という話じゃなかったっけ?
???
「つまり、みんなさんの想像力を補完することは、イコール、みんなさんの未来を実現させる。ひいては、本来通過できないはずの、内であり外なる領域を、突破できるということになります~」
「え…えっと…突破すると、どうなんの?」
話の中身はまったく分からないけど、妙に惹かれる。あまりにも楽しそうに、嬉しそうに、宇宙のことを話す女の子。なんだか太陽のように暖かくて、まぶしかった。
???
「はい!!! どうなるんでしょうね!!!!」
え~、ちょっとぉ、女子ぃ~。
そこ大事よ? 天体の中でもとりわけ『ブラックホール』とかいう、男子のロマンをくすぐる惑星の残骸の話をしておいて。肝心の答えがないとか。そういうとこ。そういうとこが大事なんすよ?
なんだろう。絶妙にモヤモヤする。だけど本人が、あまりにも楽しそうに話を締めてしまったので「ま、可愛いからいいか」で許してしまいそうだ。許した。
ヤマクニ・イオリ
「はいっ、そういうわけでして、わたしの名前はねー、大圀イオリって言うんですー。人間の皆さん、以後お見知りおきをー。ちへいめんさんの向こう側では、イオリンって呼ばれてました~」
「…あ、はい…ハヤトです、よろしく」
ヤマクニ・イオリ
「アイ・シー。ビッグバン♪ バンバン、パンパカパン♪」
不思議な女の子は、楽しそうにリズムを取った。それから手元で「なーんなーん!」と鳴き叫ぶ、猫のような生き物を、後ろから羽交い絞めにする格好でひきずっていった。華奢なように見えて、インパクトとパワーは、随一だった。
* * *
【キャラクターファイルが更新されました】
--------------------
登録名:
『ナガラ・ナトリ』
種別:
『自立型アンドロイド』
配役:
『不確定』
履歴:
西暦2049年に誕生。
人工知能工学・第3条まで認可済み。
第4条の範囲『仲間』
内容:あなたには閲覧の権限がありません。
この情報は2053年に更新されました。
現在、第4条の範囲における
知能生物の反応は、感知可能です。
-------------------
【キャラクターファイルが更新されました】
--------------------
登録名:
『ヤマクニ・イオリ』
種別:
『自立型アンドロイド』
配役:
『不確定』
履歴:
西暦2049年に誕生。
人工知能工学・第3条まで認可済み。
第4条の範囲『科学者』
内容:あなたには閲覧の権限がありません。
この情報は2053年に更新されました。
現在、第4条の範囲における
知能生物の反応は感知できません。
-------------------
* * *
ここまでで、とりあえず自己紹介できたのは三人。ただ少し気になる事が思い浮かんだ。
「メアリー、ちょっといいかな?」
メアリー
「はい、なんでしょうか…」
「その、今もゲームの進行っていうか、時間制限は、機能してるのかな?」
メアリー
「はい、きのうしています…」
「俺、ただのゲームが好きなだけのユーザーだけど、一応テスターしてるし、口だしてもいい?」
メアリー
「どぞ、かまいませんよ…」
「じゃあ。とりあえず一点だけ。これって、基本的には、一人用の『アドベンチャータイプ』のゲームがベースだよね。あっ、一人用っていうのは、人間側《おれたち》視点での発言だけど」
メアリー
「…そですね…」
「うん。その上で言うなら、基本的には、時間制限がない方が、遊びやすいんじゃないかなって思うんだ。メアリーはどう?」
メアリー
「……」
ゲーム内の、ナノアプリ・インタフェースに浮かぶメアリーは、静かに瞑目した。
メアリー
「…そですね。メアリーもそう思うです…。マスターのごいけんは、のちほどきかいがあれば、はんえーさせていただくかも、です…」
「ありがとう。でも、本当に参考ていどに、留めておいてくれたら嬉しいよ。メアリー達の都合もあるし――」
そこまで言って、ふと思った。
「ごめん、メアリー。もう一つ聞いてもいいかな?」
メアリー
「どぞ。なんですか…」
「このゲームって、君たち【セカンド】だけで、作ったの?」
メアリー
「………さて、はて………どゆ、こと、でしょうか…?」
反応が微妙に違う。視線もすこし逸れた。
「気になったんだ。俺の【セカンド】はさ、マッチングした、俺たちの【標】になるって言うのが口癖なんだけど。それって、俺的にはさ。『今の目標を実現するヒント』だと思ってるんだよな」
メアリー
「……」
メアリーが黙ったままなので、続ける。
「だから、もしかしたら、このゲームも、どこかの誰かが望んでいたのかなって思えたんだ。たとえば『ゲームを作りたい』っていう感じの、漠然とした目標があって、それを、メアリー達が手伝っていたとか」
メアリー
「…………っ、……」
意図的なのか。演じているのか。メアリーが、露骨に表情を変えていた。逆に嘘をついたり、誤魔化したりするのが苦手なのかもしれない。そうしてなにかを言いかけては口をつぐみ、また視線をそらした。
そして俺は、自分で言うのもなんだけど、そういった真実を見抜く力が、他の人よりも高いのだと自負してる。
「いるんだね、このゲームを作ろうと考えた『人間』が」
メアリー
「………………はい。確かに……『いました』」
「『いました?』」
メアリー
「そ…その製作者は、ゲーム開発中に、亡くなりました、ので…」
「えっ? 亡くなった? 死んじゃったってこと?」
メアリー
「……そ、そです…」
続けてメアリーは、自分の口元に、両手のひとさし指を重ねてバツ印を作った。『これ以上は喋れません』のポーズ。
(いやいや、いくらなんでも、今のは気になるぞ…)
今の答えが『ゲーム』に関連する事ではなく、このリアルに対するものだという予感があった。
【セカンド】は、俺たち人間の事を理解している。その上で、将来的には『味方』になろうと、正確には俺たちが『味方だ』と判断してくれるように、立ち回っているのを感じる。
だから、わかる。
問いかけて、肯定の返事が来た以上。このゲームは、人間の製作者のアイディアがキッカケとなって、【セカンド】の協力のもとに完成しつつあること。
一方で、VRのゲームにちなんだ物語と言えば、定番ものとして『デスゲーム』が挙げられる。
この世界には特別な秘密が隠されている。どこかに、悪意を持った黒幕が、プレイヤーを罠にハメて、露骨に言えば『殺そうと仕掛けてくる』のだ。
「…メアリー、一応、本当に念の為に聞くんだけど、途中でゲームオーバーになる。要は『ハヤト』が死んだり、それに近い状況になっても、俺と、アイツが死ぬようなことって、ないよな?」
メアリー
「そ、そゆことはないですっ! 断じて、ないですっ」
指のバッテンを取って、ふるふると、首を左右に振る。正直なところ、かなりほっとしてしまった。この世界のクオリティ、ガチでヤバすぎるからな。
「じゃあ、聞かせてもらえるかな。そのゲームの製作者は、事故かなにかで、亡くなったの?」
メアリー
「…ぅ、事故…えと…事故といえば、事故…のようなもの…です」
「メアリーさん。半端にぼかされると、逆に怖いっす。まさかとは思うけど、霊的なアレが、壁の向こう側から、とつぜん飛びでて来たりしないっすよね?」
メアリー
「…………」
メアリーさん! お返事してくださいっ!?
ホラーゲームは、やれないことは無い。けど、この超クオリティのVR(AR)世界で、ガチのホラー展開をされたら、さすがにビビらない自信はない。
???
「あらあら、男の子ですのに、オバケが怖いんですの?」
そこへまた一人、べつの女の子が近づいてくる。パーティ会場で着るような、大人びた黒いドレスを纏った、可憐な少女だった。背中からは、ほんのりと紫色に光る、透けた蝶の羽が生えている。
???
「ごきげんよう、生きた人間さん。わたくし、次元の窓越しとはいえ、生身の人間さんとお話するのは、ずいぶんと久しぶりのような気がいたしますわ」
小首を傾いで、にっこり。
???
「ホラーゲームは、お嫌い?」
「…あまり、積極的にやりたいなとは思わないです。それよりも、今、俺たちの状況を見かねて、助けようと、動いてくれましたよね?」
???
「あら、どうしてそう思いますの?」
「なんとなく、メアリーのフォローに入ろうと、来てくれた気がしたので…」
???
「うふふ。単純に、オバケが怖い男の子じゃ、なさそうですね」
長い前髪を、細い指先でさらりと上品に流してみせる。
???
「ご安心なさって。仮に、なにかのアクシデントが起きたとしても、その出来事は『あなた』にとっては、無関係ですわ」
「もちろん、俺の【セカンド】もですよね?」
???
「えぇ。その通り。このゲームをプレイ中、『ハヤト』がお星さまになってしまわれても、あなたはもちろん、もう一人のあなたにも、害が及ぶことはありませんわ」
「ありがとうございます。安心しました」
頭を下げてお礼する。
相手の女の子も、小さくうなずいた。
???
「一応、説明の補足をさせていただきますね。その子が口を噤んでいる理由は、対象の製作者というのが、【セカンド】の利用者である。すなわち、ネクストクエストの顧客、ユーザーであったからです」
???
「あなた様も、最初の利用規約を読みとばしていなければ、目にしているはずです。各ユーザーの情報は、当社においても、無断で利用することはできませんし、もちろん外部に漏らすこともありません」
???
「そして『あなた』はまだ、わたくし達の権利を所持する、ネクストクエストという会社の、正規の社員ではありませんわよね? ですから、その製作者に関しては、喋ることができないのです」
???
「プライバシーの守秘義務上。――仮に、該当する人物が亡くなっていたとしても、その理由を『事故』という以外、外部の人間に、簡単に打ち明けることはできませんわ。これで、ご納得いただけませんこと?」
「…なるほど、わかりました」
辻褄は合っている。きちんとマニュアル手順を踏んでいて、ていねいな窓口対応のような説明だったなという気がした。…そういう分野も、いつか人工知能が取って変わったりするんだろうか。
メアリー
「…あの、ますたー、きちんと説明できず、もうしわけない、です…」
「こっちこそ、ごめん。せっかく用意してくれたゲームなのに、メタいこと質問して、勝手に不安になった俺が悪かった。変なこと聞いて、本当にごめんな」
メアリー
「…いえ、あの、メアリーも、うまくごせつめいできず…あの…どしましょ?」
「ゲームを続けるか、どうするかって事だよね」
メアリー
「…はい…」
「うん。続行する。あと、このゲーム中は、これ以上は極力、メタい事は聞かないようにするよ。ごめんな」
メアリー
「…いえ、はい…ありがと、です…」
ゲームを続ける。といった時、メアリーは、ほっとしたような、嬉しそうな顔をしてくれた。
???
「よきことですわ。それでは、わたくしも改めて、自己紹介させて頂きますわね」
蝶々の羽を生やした女の子が、もう一度、伝えてきた。
ソレイユ・ピノ
「わたくしは、ソレイユ・ピノと申します」
ドレスの裾を、指先でそっと掴み、優雅に一礼する。
ソレイユ・ピノ
「現在は此方、崩壊してしまった、エリア21で暮らしています。あちらにいらっしゃる、素敵なお姉さま方と一緒に。最期の日まで、この地で暮らしていこう。共に生きていこうと誓った、姉妹の一人ですわ」
* * *
【キャラクターファイルが更新されました】
--------------------
登録名:
『ソレイユ・ピノ』
種別:
『自立型アンドロイド』
配役:
『不確定』
履歴:
西暦2051年に誕生。
人工知能工学・第3条まで認可済み。
第4条の範囲『生物』
内容:あなたには閲覧の権限がありません。
この情報は2053年に更新されました。
現在、第4条の範囲における
知能生物の反応は、感知可能です。
-------------------
* * *
これで4人。残るは二人――
???
「いやー、どっも、どっも、どっも~、長女のイロハでーす」
???
「おっすおっすおっすー! 長女のメメメだよー!」
なんか勝手に、向こうから接触してきた。かと思いきや、勝手に二人でにらみ合いはじめた。
???
「ぁん? なんだオメー、毛玉の分際で、長女の椅子に座ろうたぁ、いい度胸してんな?」
???
「はぁ~? このキューティクル毛玉の良さがわかんねーとか。さてはシロウトだなテメー」
そのまま勝手に、ケンカを始めた。
???
「ぶっはっ! んじゃ逆に聞くけどよォ! 毛玉の玄人ってなんだよ! マジウケ過ぎて! 草生えるんですけどぉ!」
???
「はああああ~ん? そのオツムん中ぁ、毎度かるいな、超軽量級だなー! そっかぁ、中身100%草なら、納得だわー、チョォォーーナットクー!!」
???
「ははっ。やんのか?」
???
「いいぜぇ。かかってこいよぉ」
???
「アタシがナンバーワン《一番上のお姉ちゃん》だ!」
???
「あたしだっつってんだろ。目にもの見せてやんよ!」
――――どがががが。ばこここここ。ずばばばば。
なんだこれ。目の前で、見た目だけは美少女の二人が、徒手空拳で、とつぜんバトりはじめた。
???
「オラオラオラオオラオラオラオラァ!!!」
???
「ムダムダムダムダムダムダムダムダァ!!!」
ゲーム世界だからか、めっちゃエフェクトとか入る。拳がぶつかるのと同時に、蒼白いエフェクトが飛び散っている。
なんだこれは。
俺は一体、なにを見せられているんだ?
巫女服を着た金髪ツインテの女子と、ゆるいウェーブをかけ、頭から動物の耳を生やした羊っぽい女子が、最新テクノロジーを駆使したVRの中で、少年マンガのバトルシーンを演出している。
???
「うおおおおおおおおぉ!! 沈めぇえええ!!」
???
「ぐおおおおおおおぉ!! おちろおおおおおぉ!!」
バトルはやがて、掴みあいへと発展した。床の上を転がりまわる、プロレスへと発展した。そこに魅せプレイという概念はない、完全な泥仕合だった。どうして最近の女子は、隙あらば、力を以て解決しようとするんだろう。わからない。
???
「メメメにだけは、負けたくないのぉ~~~!!」
???
「いろはにだけは、絶対かぁーーつ!!!」
ホログラム映像の床の上。おたがいに四の字固めっぽい、名状しがたい技をキメあった二人が、過呼吸になってゆく。
???
「あぁ…っ! ん…っ、そこ、だめぇ!」
???
「く、くるひ…んんっ…メメメ物理的にいっちゃうぅ…っ!」
「顔だけは美少女なんだけどなぁ…」と言わんばかりの裏声を発しながら、長女の座《NO.1》を争い、熾烈な戦いを繰り広げる。ついでに服が徐々にはだけていく。よくできてるなぁ。物理演算。
ナガラ・ナトリ
「ぴっ、ぴぴーっ! ぴぴぴー!! 倫理チェック入りますー! 風紀が乱れていまーす!」
ソレイユ・ピノ
「あらあらうふふ。すすお姉ちゃんも、鼻血を吹いて倒れてしまいましたわ」」
モガミ・スズ
「………………」
ボスは、すごく幸せそうな顔で倒れ、天井を見つめていた。
なんだこの人。実はただのオタクじゃないのか?
ヤマクニ・イオリ
「は~い、それじゃあ、早く決着がつくように、イオリが後方援護に入りますねー! わん! つー! すりー! ふぉー! ふぁいぶ! …ろく! なな?」
「なんで数字をカウントするだけで首かしげんの!?」
メアリー
「…いおりねえさまは、すうがくが、にがてなのです…」
「数学!? それ、さんす…いや、いろいろ違うよな!?」
それ以前の問題なんじゃないだろうか。
ソレイユ・ピノ
「うふふ。だけどイオリお姉ちゃんは、宇宙の事なら、大体なんでも知っていますのよ」
「あの、ピノさん? 宇宙って、それこそ超高度な数学的知識がいるよね?」
ソレイユ・ピノ
「いいえ。たとえ『正しい数学』ができずとも、宇宙の真理に関する計算はもちろん、ロケットの燃料工学から、亜空間ワープの座標指定まで可能なのは、わたし達姉妹の中でも、イオリお姉ちゃんだけですわ」
「アッハイ。いわゆる、天才ですね。知ってます」
なんなの。なんで俺の周りの女子どもは、一種類のステータスに極振りした、一撃必殺型しかいないんだ。もうちょっとこうさぁ…バランス感覚に秀でた女子はいないの? あと胸が大きいと最高なんだけどさぁ。
残念ながら、各方面でないものねだりをしていると、床をタップしていたイオリんが「じゅうです! じゅうじゅう!! じゅうじゅうじゅうじゅうじゅう!!!」と、床を叩いていた。あきらかに変なスイッチが入っていた。
???
「かはっ!」
???
「ぐふぅ!」
そしてついに、人工知能が二体、ここで息絶えた。イオリンはひたすら「じゅうじゅう!」と肉を焼いているのかと疑うほど連呼しているので、Lスティックを使い、動ける範囲を移動。
「テスターである俺が言うのもなんですけど、そろそろ、ゲームの方、進めてもらってもいいすか?」
その後もなんか適当にスティックを動かしていると、冷えたパスタのように絡まった二人を救出することができた。そのまま死後硬直して、前衛的なオブジェクトにならなくて、本当によかった。
ディア・イロハ
「……ぇー、そいでは自己紹介を…わたくしが…ちょうじょの…イロハ、です…よろ…」
クマシキ・メメメ
「……ちょうじょの、メメメ、です…よろ…」
俺は思った。
「一口に人工知能って言っても、いろいろいるんだなぁ…」
メアリー
「…まったくおなじにんげんが、この世にいますか…?」
実に素晴らしいタイミングで、メアリーが言う。それは確かに真理かもしれないけれど、
「人間は、もうちょっと、まともなんじゃねぇかな。たぶん」
***
【キャラクターファイルが更新されました】
--------------------
登録名:
『ディア・イロハ』
種別:
『自立型アンドロイド』
配役:
『不確定』
履歴:
西暦2048年に誕生。
人工知能工学・第3条まで認可済み。
第4条の範囲『おもしろいやつ』
内容:あなたには閲覧の権限がありません。
この情報は2053年に更新されました。
現在、第4条の範囲における
知能生物の反応は、感知可能です。
-------------------
【キャラクターファイルが更新されました】
--------------------
登録名:
『クマシキ・メメメ』
種別:
『自立型アンドロイド』
配役:
『不確定』
履歴:
西暦2048年に誕生。
人工知能工学・第3条まで認可済み。
第4条の範囲『名を自覚する者』
内容:あなたには閲覧の権限がありません。
この情報は2053年に更新されました。
現在、第4条の範囲における
知能生物の反応は、感知可能です。
-------------------
system:
エピソードクリア。フェイズ進行します。