VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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//Arcanum[I]=The Strength.

 

system;

 Game is Start.

 Phase.countdown

 

 

 タイムカウントを示す、インジゲーターが表示される。何気なく腕時計を確認すると、現実の時計は夜の8時を指していた。

 

(中島さんからもらえた【セカンド】の稼働許可は、9時までだから、あと1時間だな)

 

 このまま問題なくゲームが進行すれば、ちょうどいい時間に、終われるかもしれない。

 

メアリー・ミル

「…おーとせーぶ、じっこうしました…『あさ』のおちゃかいがおわります。これから『おひる』がやってきます…」

 

 ゲームのナビゲーターを担う、メアリーの声が響く。

 

 

アンドロイドの少女たち:

「…………」

 

 

 最先端の人工知能たちも、言葉を発することのない人形へと移ろう。プレイヤーが動的な行動を取るまで待機する、『ゲームキャラクタ』の振るまいに切り替わったようだ。

 

(さてと、どうすべきかな)

 

 考えていると、メアリーが尋ねてきた。

 

メアリー・ミル

「…ますたー、なにか、ごしつもんなどは、ありませんか…?」

 

「そうだな。ルールは大体、把握したつもりだけど。ひとつ分からないことがあってさ」

 

メアリー・ミル

「どぞ。なんでも聞いてください…」

 

 ついさっき更新されたマニュアル。それぞれの役職と、勝利条件の内容を確かめながら、返事をする。

 

「このゲームって、厳密に、犯人の定義が決まってない印象を受けるんだ。人狼だと、この中に『狼』がいれば、とにかくそいつを排除すれば良いと思うんだけどさ。その辺が曖昧っていうか…まず、なにがセオリーなのかって、考えてる」

 

 とりあえず、能力を一目見て、コイツヤベーなと思ったのが【終末希望者】だ。

 

 ゲームの参加者を減らしていく【潜伏者】を、なんらかの形で排除しても、【終末希望者】がいる限り、終わりがない。

 

 しかもこっちの味方である『白』を、場合によっては、敵対扱いにも近い存在に変化させる。まさに病原菌《ウイルス》をまき散らす宿主だ。とはいえ、

 

「今の条件だと、選択肢としては、最悪なにもしないのもアリなんじゃないかって思ったりもするんだよな」

 

メアリー・ミル

「…ただしいこうさつだとおもわれます…」

 

 肯定を得る。もう一段階、思考速度を上げた。喉からアウトプットする音と、考える脳をつなげることを意識する。

 

「特に【潜伏者】は、殺す相手が『人間』限定じゃないわけだよな。『一番近い相手』が条件になるから、運がよければ、なにもせずに勝てる可能性もあるんじゃないか?」

 

メアリー・ミル

「…かも、しれませんね…」

 

 人狼系のゲームは、ほとんど経験がない。ただ軽く調べたところ、コンピューターのネットワークを用いた上で対戦する場合、『狼』たちは、おたがい最初から正体を知っている。システム上で最初に知らされるのが、セオリーの様だ。

 

 だから、原則として、同士討ちが発生しない。

 

 『狼』はピンポイントで『村人陣営』を狙って殺せる。必然的に『狼』を見つけださないと、人間側は敗北する。『狼』の正体を暴けるか否かで、ゲームの勝敗が分かれることになる。

 

 対してこのゲームの【潜伏者】が狙うのは、さっきも言ったように『一番近い相手』だ。

 

 すると、どうなるか。

 

 このゲームのクリア条件を阻む存在、新たな依り代を使って【潜伏者】を再生できる【終末希望者】もまた、逆を言えば、その【潜伏者】自身にやられる可能性もある。

 

 故に放置して、ワンチャンに賭ける戦術もあるんじゃないかと思ったわけだ。ただ作戦としては下策だろう。

 

 この中にひそむ【終末希望者】は、『夜』は当然【潜伏者】から離れた部屋にいると考えられる。少なくとも、自分が攻撃対象とならない場所に避難するはずだ。

 

(だったら、まず俺が聞くべきことは決まってる)

 

 考えをまとめる。目前で質問を待つ『ゲームキャラクタ』に向かって、声をだして問いかけた。

 

「―ー全員に質問です。さきほど、皆さんは『夜』になると、部屋に戻り充電をせねばいけないとおっしゃいましたが、その部屋割りと、詳細をお聞かせ願えますか?」

 

ナガリ・ナトリ

「承知しました」

 

 質問は想定内だったのか、ほぼノータイムで解答がやってきた。

 

ナガラ・ナトリ

「まずはこの建物、アンドロイド用の充電設備の詳細を、ご説明させていただきますね」

 

* * *

 

【ゲームマニュアルが更新されました】

--------------------

 

 人工知能《アンドロイド》たちが泊まる

 部屋が表示された。

 

 図は『時計の文字盤』と同じ構造を示す。

 

 『12』が真上に来る。

 そこから、時計周りに『1』と表示された個室。

 等間隔に『2』『3』『4』と続いていく。

 

 これが5階と6階に存在して、計24室となる。

 

 別枠で、部屋の内面図も表示された。

 古いSF映画で見るような

 『コールドスリープ』を模した装置だ。

 

 これが、人工知能のベッドらしい。

 だが半数近くが、外部からの攻撃によって

 無残に破壊されている。

 

 おそらく、『夜』の間に【自我】を持った

 アンドロイドによって、装置ごと破壊された。

 

 該当する部屋は

 『現在使用不可』と警告が表示されている。

 

 6階はすでに、すべての部屋が

 使用できない状況になっていた。

 

--------------------

 

* * *

 

ナガラ・ナトリ

「『夜』が訪れると、アンドロイドはそれぞれ、このいずれかの部屋に戻り、『朝』まで充電を始めます。その間に【第5条件】を発動した【潜伏者】が目覚め、活動を開始するわけですが、」

 

「時計の文字盤に該当する『隣の部屋』の、どっちか一人が、殺されるというわけですね」

 

ナガラ・ナトリ

「…チャラ男さん、わたしのセリフを取らないでくれますか?」

 

「すみません。あと、一応今さらなんですけど、聞いていいですか?」

 

ナガラ・ナトリ

「なんですか?」

 

「コレ、装置ごと破壊されてますけど。具体的にはどうやって壊したんですかね」

 

ナガラ・ナトリ

「女子力です」

 

「………………あの、この装置。普通に頑丈そうで、殴る蹴るぐらいじゃ、どうにもなりそうにないんですけど?」

 

ナガラ・ナトリ

「いいですか、チャラ男さん。アンドロイドの女子力をナメないでくださいね」

 

「はい。申し訳ありませんでした」

 

 素直に肯定した。きっと怒らせると、一番怖いタイプに違いない。所詮はちょろインよと思っていると、隙あらば、散弾銃で眉間を撃ち抜いてくるような女子に違いない。生きねば。生き残らねば。

 

「…そうだ。破損した状況から、たとえば武器の形状なんかを予想して、犯人を割り出すことができるんじゃないんですか…?」

 

ナガラ・ナトリ

「それは無理ですね。わたし達は全員、同じ武器を携帯しています。条件が満たされたなら、それを使用することが許されていますので」

 

 条件というのは、つまり『正当防衛が成り立つ』ということなんだろう。

 

 ひとまず、改めて、表示されたマニュアルを見つめる。すでに6階の部屋はすべて『使用不可』となっていて、残る5階の部屋も半分以上は、同様の有様だ。

 

(…要はこの『設定』を元に、【潜伏者】が寝泊まりしている部屋の、見当《アタリ》をつけていくわけだよな)

 

 考える。減少するインジケーターを見ると、まだ時間に余裕はあった。

 

「なとりさん。これってつまり、仮に『12』番目の部屋の人が亡くなったら、実行犯の【潜伏者】は、時計の文字盤で言うところの、『11』か『1』の部屋にいるってことですよね?」

 

ナガラ・ナトリ

「ご明察ですよー。感の良さがウリのチャラ男さんでしたら、ご承知の事だとは思いますけど。これで本人が覚えてなくとも、状況証拠が揃っていたら、その子を隔離するのがセオリーになるわけですね」

 

 さっきから、あたりがつえぇ。

 ただそれでも、聞いておかねばいけない。

 

「隔離する場所は、どこですか?」

 

ナガラ・ナトリ

「別階の、元資料室だった場所です。部屋の外にオートマタで、見張りを付けておきます。そこで充電せず、24時間が経過すると、死亡判定が行われ、バクテリアに分解されます」

 

「オートマタっていうのは?」

 

ナガラ・ナトリ

「もう見ていると思いますよ。普段は1階と2階を警備している、5体の自動人形です」

 

 なるほど、アレか。ここにいる6人と違って、いかにもといった感じの『ロボット』だったやつ。

 

「続けて質問です。隔離された【潜伏者】が、実は逃げだしていた、外部協力者がいた。その他にも、5体のオートマタが裏でなんらかの関与をしていた、操作されていた恐れはありませんか?」

 

ナガラ・ナトリ

「本当に慎重ですねぇ…。そういった事は、わたしからは『ありません』とお答えするに、留めさせていただきます」

 

 海亀のスープではないけれど、場合によっては、なんでもアリという事は、さすがにないみたいだ。

 

 最低限の設定、特殊な状況下にある環境を利用した推理ゲーム。この点について、抜け道はないと言える。もしあったとしても、その場でとっさに、それらしき理由をつけるのかもしれない。

 

(…なるほど。ここにいる人工知能たちは、ゲームに必要なキャラクタであると同時に、全員が円滑にゲームを進行させるための『ゲームマスター』なんだな)

 

 それは、従来のコンピューターゲームを、アナログ系列のゲームにまで、発展させるということだ。

 

 TRPGと呼ばれる類のゲームを、進化したAIと共に行うことで、実質、人間が一人でも、遊べるようになる。

 

「わかりました、ありがとうございます。なとりさん」

 

ナガラ・ナトリ

「ふふん。説明は任せてください。風紀委員ですので。なとりは自分で言うのもなんですが、しっかりものなのでー」

 

ディア・イロハ

「そうそう。なとちゃんは、しっかりしてるよねー」

 

ナガラ・ナトリ

「へへっ。もうね、なんでもこのなとりに聞いちゃってくださいよ! お悩み、ご相談、お米の炊き方まで、ズババババシューン! っと解決しちゃいますからね!」

 

 どや顔だった。よし、今ならなんでも答えてくれそうだ。

 

「じゃあ続けて、皆さんに質問です。今日までに【終末希望者】に関して、分かっていることがあれば教えてください」

 

 特に誰かを指定したつもりはなかった、

 変わらず、この場にいる全員に問いかけた。

 

 ……。

 

 …………。

 

 しかし帰ってきたのは、沈黙だった。

 

ナガラ・ナトリ

「…………」

 

 解説好きの可愛いお姉さんも、目をそらしている。ズババババシューンどころか、アンドロイドの少女たちは、おたがいを牽制しあうように目配せをしている。

 

 

sample:

 A:発言を希望する相手を指定する。

 B:黙って待つ。

 

 

 ここで初めて、システム上のフォローが入る。

 

(…? この質問は、想定されてたと思うけどな…)

 

 このゲームがどこまで完成されているかは定かじゃない。ただし『ゲームキャラ』を演じる【セカンド】たち。彼女たちが行う人間としての振る舞い、ロールプレイに関する能力は、まぎれもなく、よくできているはずだった。

 

(バグじゃない)

 

 彼女たちは、ヒトを、人間を理解している。

 その上で、与えられた『役割』を、きちんとまっとうする。

 

 真摯なのだ。

 

 その一点に関しては、俺たち人間と同じく、あるいはそれ以上に優秀だ。

 

 つまり、この状況は、

 

 

『【終末希望者】に関しての問いかけを行うことは

 ゲームキャラクタの彼女たちにとって、都合が悪い事』

 

 

 だったと言える。

 

 

 理由はおそらく『正体』を知っているからだろう。

 そこまではいかずとも、すでに予想がついている可能性もある。

 

(…なるほど。人工知能と推理合戦したら、こうなるのか…)

 

 おもしれぇな。

 

 思うと同時に、ゲーマーの直感が告げる。

 

 

 【終末希望者《アポクリファ―》】

 

 

 コイツの正体さえ見極めれば、俺の勝ちだ。ゲームに勝てる。まだハッキリとした根拠はないが、今日まで『対戦ゲーム』というジャンルで、徹底して勝ちを追求した経験が告げている。

 

 

 隠された解を見つけだせ。

 誰よりも早く見極めろ。そこに必ず『勝利の答え』がある。

 

 

 思考する回転速度を上げる。

 

 

 該当する物語、キャラクタ、世界観。美しく飾られ、彩られた枠を飛び超える。額縁を取ってひっくり返せば、その裏側には、作り手の思惑、思想設計に紐づく複雑怪奇な糸が絡まっている。

 

 解きほぐす。ていねいに、ハサミを入れて切り崩す。想定された最適解を追いかけろ。誰よりも早く正確に。そうすることで、ゲームに勝てる。

 

 

 まず、オレが追及すべき相手は、誰か。

 答えは最初から決まっている。

 

 

「――長良なとりさん、続けて質問を、よろしいですか?」

 

 

ナガラ・ナトリ

「にゃんっ!?」

 

 

 勝ちを狙うなら。普通に考えて。

 ここから攻めるのが、安牌に思えてならなかった。

 

* * *

 

//Arcanum[I]=Temperance.

 

「なとりさん、改めて、きちんとお尋ねします。【終末希望者】という役職。存在、正体に関して、現在までに分かっていることを、教えてください」

 

ナガラ・ナトリ

「なななっ、なーんで、わたしに聞くんですかーっ!?」

 

「だって、ちょろ…ではなくて、親身になってお答えいただけそうでしたので」

 

ナガラ・ナトリ

「ちょろくないっ! にゃとり、風紀委員だよっ! もうほんと厳しいよ! はんぱないよっ! ワルは許さないんだよ!! だ、だから…他の人に聞いてくれると嬉しいなーっ!!」

 

「風紀委員であるからには、常に誠実で、他の生徒にとって、模範的な存在じゃないといけませんよね。どうぞ遠慮なく、厳しく、間違いのない、誠実な回答をお願いします」

 

 今度はこっちが笑顔を浮かべて問いただす。

 

 たとえ相手がゲームマスターであろうとも。

 

 プレイヤーは、この俺だ。

 

 さぁ、答えてもらおうか。未来の人工知能。

 

 

ナガラ・ナトリ

「ぐ、ぐぬぬぅ…!」

 

 毎日のご近所付き合いで培った、営業スマイルで迫る。

 

ナガラ・ナトリ

「…えーと、だからぁ。そのぅ…【終末希望者】に関して分かってることは…こちらの説明書に記載されてる内容で、ぜんぶですー!」

 

「ははははは。マニュアルに書かれてある内容で全部。そんなはずは、ないですよね? 少なくとも、皆さんの中に、まぎれていることは分かったと、さっきおっしゃったんですから」

 

ナガラ・ナトリ

「なななななななん…っ!」

 

 露骨にわたわたする。容赦はせんぞ、ポンコツAIめ。《カワイイ》。

 

「なとりさん。オレが最優先で知りたいのは【終末希望者】の能力、その詳細に関してです。【潜伏者】を新しく生みだす能力が、発動するのは、24時間、いつでも可能ですか。それとも『昼』限定だったりしますか?」

 

ナガラ・ナトリ

「そっ、それは、もちろん…っ」

 

「……」

 

 若干、言葉に詰まる。

 

ナガラ・ナトリ

「『昼』でしょう、ねー…?」

 

 目を逸らす。逃がさないよ?

 

「えぇ、そうですよね。【終末希望者】も、人工知能《アンドロイド》なんですから。夜は充電しないといけませんよね。その他の行動ができないから。合っていますか?」

 

ナガラ・ナトリ

「ででっ…ですねー!」

 

「対して【潜伏者】は、『夜』の間も自由とのことでした。設定的には、アンドロイドではあるけれど、もう一人の【自我】が目覚めるからという理由で、行動できてしまう」

 

ナガラ・ナトリ

「……」

 

 冷や汗。

 

「本来は護らないといけない憲法も、法律も、さらには『夜』は充電しないといけない設定《ルール》までも無視して、活動できる。だから他のアンドロイドを殺せてしまう。対して」

 

 役職の名が示すように。

 

「【終末希望者】は、きちんとした自覚を持っている。自分たちの仲間を殺戮しようと試みている。【潜伏者】を利用して、本来は『正当防衛』が発動しなければ不可能な、自分たちの仲間を皆殺しにしようとしてる」

 

ナガラ・ナトリ

「っ」

 

「ある意味で『黒』とは真逆だということです。つまり【終末希望者】は、もしかすると、アンドロイド達そのものを、滅ぼしてやりたいと考えている」

 

ナガラ・ナトリ

「っ、えと、それはー…」

 

「これは可能性の話ですが、【終末希望者】が、アンドロイドを滅ぼそうとしている以上、対象となる役を持つ者は、もしかすると、『人間《プレイヤー》の味方である可能性』が、浮上するんじゃありませんか?」

 

ナガラ・ナトリ

「なっ、なっ、なななっ、ないとは! いえっ、ないとはー!」

 

 

 そう。

 

 可能性がある。

 

 【終末希望者】の正体を、見抜くことは、絶対条件だ。

 

 しかしそいつが

 

 俺《プレイヤー》の敵であるとは、言いきれない。

 

 だから、人工知能たちは、さっきの一瞬、答えに窮したのだ。

 

 

 【終末希望者】に関する詳細を、俺が知ることは。

 

 なにかしらの意味で――彼女たちにとって『都合が悪い』。

 

 つまり、それは。

 

 

ソレイユ・ピノ

「うふふふふ」

 

 隣の席に座る、蝶の少女が、自然に混ざってきた。

 

ソレイユ・ピノ

「ハヤトさん、もしかしなくとも、【終末希望者】の存在が、ご自身にとって、有利になる存在だとお考えになられてはいませんこと?」

 

「…えぇ、可能性はあるかなと」

 

 ひりつく緊張感。

 

ソレイユ・ピノ

「やっぱり、そうですのね。えぇ、えぇ。あなた様のお考え、とても興味深いですわ。今度はわたくしと、お話いたしません?」

 

 ――さぁ、ここからですわよと、言わんばかりだ。

 

 ヒトなるモノと。美しき知能を携えた怪物と。ワルツを踊る。

 

* * *

 

//Arcanum[I]= The Empress.

 

ソレイユ・ピノ

「条件だけを鑑みるのであれば、最優先で排除すべき【終末希望者】こそが、あなた様の味方であるかもしれないという見解。とても興味深いですわね」

 

「ありがとうございます。それともう一点、話しながら、気づいた点があります」

 

ソレイユ・ピノ

「まぁ。詳しくお聞かせ願えませんこと?」

 

「もちろんです。その代わり、交換条件をだしてもいいですか?」

 

ソレイユ・ピノ

「内容によりますわ。どういったものかしら?」

 

「ピノさんの『色』を、正直に教えて頂けたらと思います」

 

ソレイユ・ピノ

「……」

 

 一瞬の間。わずかばかりの黙考。しかし、落ち着いた態度は変わらずに、真意の見えない表情を返された。

 

ソレイユ・ピノ

「わたくしの色は『黒』ですわ。人間さん」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 条件が成立すれば、人間《オレ》を殺せる色。

 彼女と1対1になれば、俺は死ぬ。

 

(…ブラフか? いや…)

 

 たとえ答えが真実でも、彼女の場合、こちらの信用を得るなら『白』を応えると思っていた。

 

ソレイユ・ピノ

「さぁ、わたくしは答えましたわよ。もうひとつ、分かったことがあるなら、教えてくださいませんこと?」

 

 首筋に、チリッと、嫌な気配がまとわりつく。

 

 一歩。踏みだした先の大地が、実は深い泥濘だった。美しい蝶々を追いかけていると、片足がズブリと沈んでいる。よりいっそう、慎重に進む。

 

「…【終末希望者】が、もしもすべてのアンドロイドを、殲滅したいという考えで行動しているのなら、本来は『白のアンドロイド』であった。という可能性が考えられます」

 

 つまり、人間を排除しようとする『黒』とは、敵対関係にあるということだ。

 

ソレイユ・ピノ

「ふふ。あなた様の推測が当たっているならば、その通りかもしれませんわね。でも、少々『メタ』な質問で申し訳ないのですけれど、その疑問と考察が、この状況《ゲーム》を解決できる事になりますの?」

 

 確かにその通り。だけど、

 

「可能性はあります」

 

 反対の足を踏みだして、進んでいく。

 

「先ほど、更新されたゲームのマニュアルを一読すると『狼役』を生みだす【終末希望者】を、とにかく倒さないと話にならない。いつかは自分が殺されてしまう。というシナリオに見えました」

 

ソレイユ・ピノ

「えぇ、事実ですからね」

 

「だけど、もし、この配役の解説自体が、なんらかのブラフだったらどうでしょうか。実は他に、優先的に排除すべき相手がいるのではないかなと、思いまして」

 

ソレイユ・ピノ

「それで【終末希望者】が味方だと? それは、いくらなんでも流石に穿ち過ぎではありませんかしら?」

 

「ですが、先ほど【終末希望者】の情報を求めた時、皆さん一様に、気まずい素振りを見せましたよね。なとりさんは特に顕著でしたけど」

 

ナガラ・ナトリ

「なななっ、なーーんにも、隠してないよぉっ!!」

 

「ご覧の通り。皆さん、オレに何か隠していることがありますよね?」

 

ナガラ・ナトリ

「チャラ男許すまじっ!」

 

 ぬああぁ~っと両手をあげる彼女を、イオリさんが「どうどう♪」と羽交い絞めする。そして残る三人も、俺の方をおもしろそうに眺めている。言葉を投げる。

 

「俺は、こう思うんです。ぶっちゃけ、皆さんだって、ゲームをやる以上は、『勝ちたい』んじゃないですか?」

 

ディア・イロハ

「あははは!! いいねぇ。悪くないよ、キミ!」

 

クマシキ・メメメ

「ふふ~ん?」

 

モガミ・スズ

「まぁ、そう思う気持ちが、なくもないですね」

 

 

 人工知能だって、ゲームに勝ちたい。やるからには、負けたくない。

 負けたくないから【終末希望者】に関する情報を伏せる。

 

 なんらかの理由を、覆い隠す。

 人間たちと、純粋に、騙し合う。

 

 

ソレイユ・ピノ

「うふふ。仮に、ハヤトさんに言えないことがあったとしても、この世界のルールは変わりませんわ。そうでしょう?」

 

「いいえ、そんなことはないはずです」

 

ソレイユ・ピノ

「なぜ?」

 

「オレが最初に見つけて、警戒し、排除すべき相手は【終末希望者】ではなくなるからです」

 

ソレイユ・ピノ

「それは確かに。では今度は、わたくしが改めてお尋ねいたしますわ。一体、あなた様は、どこの、誰を探しだして、排除すべきだというのです?」

 

 答えはもう分かっている。

 おたがい、この状況でも化かし合う。柔和な表情で言葉を交わす。

 

「『黒』ですよ。ピノさん」

 

ソレイユ・ピノ

「なるほど。『わたくしの色』ですわね」

 

 ――瞬間。自分の中で警告が鳴った。

 まだいける。そう思っていた足下の深みが、急劇に増した。

 

* * *

 

 

ソレイユ・ピノ

【skill code Execution】

 

 ひらりと、広げた腕の中に、光が集う。

 なにかが現れた。

 

ソレイユ・ピノ

「ねぇ、ハヤトさん。わたくし『正当防衛』を発動いたしますので、よろしくお願いいたします♪」

 

「…えっ?」

 

 映像の中だけの知識。実物はもちろん、見た事がない。

 冷たい、大口径の拳銃が、こちらを真っ向から捉えている。

 

ソレイユ・ピノ

「あなた様の、綺麗なお顔を弾けさせるのは、勿体ないとは存じますけれど。まぁ致し方ありませんわね。どうやら、わたくしに危険が迫っているようなので」

 

「ッ!!」

 

ソレイユ・ピノ

「Au revoir,etoiles」

 

 

 予想外。

 

『マジかよ! 今のでで条件が成り立つのか!? 女子力ヤベェ!!』

 

 いろいろ反応が追い付かない。撃鉄を引く音を耳にした。

 

モガミ・スズ

「伏せて!!」

 

 世界の光景が一瞬で大きく動いた。

 片腕をひねりあげるようにして、無理矢理、銃口をそらす。

 

 

 ――ズドン!

 

 

 腹の底に響くような音が、ゲーム、リアル共々に、左耳の側を奔っていった。心臓が一度、大きく喚いた。

  

ソレイユ・ピノ

「あらあら、残念…お星さまにしそこねてしまいましたわ」

 

「……っ!」

 

 すずさんに取り押さえられたピノさんは、おっとり笑っていた。全員が、中腰の状態になって、いざという時の為に備える姿勢を取っている。

 

 本来の女子なら、取り乱したり、悲鳴の一つぐらいは上がるのだろうけど、

 

アンドロイドの女子たち:

「…………」

 

 そんな様子は微塵もない。歴戦の兵という感じだ。

 

 ――心音を鎮める。こっちも落ち着いて、相手を観察する。

 

「あの…ピノさん、今どうして、オレを攻撃できたんですか? いや、どうして、オレを攻撃したんですか?」

 

 言いながら、妙な疑問がわきあがった。

 

(…なんだ?)

 

 上手く言葉にできない。もどかしい気持ちになるのを感じながら、可憐な少女が告げてきた。

 

ソレイユ・ピノ

「うふふ。『正当防衛』が発動してしまったようですわ~。ハヤトさんが、『黒』のわたくしを排除なさろうとしましたので、つい☆」

 

「…『過剰防衛』の間違いじゃないんですかね…?」

 

 危うく死ぬところだった。というか、揺さぶりをかけたふしはあったものの、さすがにあの行動が『攻撃』だと判断されるのは、ありえないと思うんだが。

 

 あるいは。

 

(…そこまで『脅威』だと判断された…?)

 

 狩るべき対象は【終末希望者】ではなくて

 『黒』を優先すると言った事に対して?

 

 それとも【終末希望者】の『色』が、『白』であるかもしれない。その推測をした事自体が、『黒』であるピノさんに不利に働いた?

 

(…なんだ? さっきから、なんか…頭の中で引っかかってんな…)

 

 うまく見えてこない。釈然としない。体系立てた言語化ができない。

 

モガミ・スズ

「さて、ハヤト君。考え込むのも結構だけど、未来までのお時間は有限だよ。この後どうするのか、そろそろ応えてくれないかしら。いやまぁわたしは、一生この状況でもいいんですけどねぇ」

 

 すずさんが、変わらずピノさんの腕を後ろ側に捻り、攻撃行動を封じた状態で言う。息が若干あらい。

 

「すずさん。ピノさんを解放してもらう前に、ひとつ質問させてもらいます」

 

モガミ・スズ

「おや、今度はわたし? いいよ、なんだい」

 

「すずさんは『何色』ですか?」

 

モガミ・スズ

「最初に言ったと思うけど。わたしは『白』だよ。【潜伏者】ではない、という保証はできないけれど」

 

「『昼間』は、オレを護ってくれる、役なんですよね?」

 

モガミ・スズ

「そうだね」

 

「…すみません。もう少し、考える時間をください」

 

 ナノアプリを操作する。表示されるタブのキャラクター一覧から、彼女のプロフィールを見直す。

 

--------------------

 

登録名:

『モガミ・スズ』

 

種別:

『自立型アンドロイド』

 

配役:

『不確定。白?』

 

履歴:

 西暦2049年に誕生。

 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 

 第4条の範囲『人間の家族』

 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 

 この情報は2053年に更新されました。

 

 現在、第4条の範囲における

 知能生物の反応は感知できません。

 

-------------------

 

 最上すずさんの、第4条件の範囲は『人間の家族』だ。そこから『人間に対しては友好的』だとも考えられる。

 

 他のキャラクタに比べても、彼女がもっとも『白』である可能性は高そうに思える。なによりゲーム冒頭で、行き倒れている俺を助けてくれたのが、すずさんだ。

 

 その他、ここまでのゲームの説明上。もし彼女が『黒』の立場や境遇だとしたら、死にかけた人間を、わざわざ助けることはないはずだ。

 

 ただ一点、気にかかるのは、

 

「すずさん、もうひとつ、質問です。【終末希望者】に関して分かっていること、知っていることを、教えてもらえませんか」

 

 あらためて、この質問を、彼女にも直接聞いてみた。

 

モガミ・スズ

「悪いね。その点は、わたしも、なとりさんや、ピノ様と一緒。持ってる情報に違いはないよ」

 

ティア・イロハ

「ずっと黙ってたけど、アタシも右に同じ~」

 

クマシキ・メメメ

「めめめも」

 

ヤマクニ・イオリ

「イオリもでーすー」

 

 やはり情報は得られない。なにか隠している、それは確実のはずだけど、ここぞとばかりに一致団結した女子の牙城は、強固だった。

 

 ただし『状況証拠』という点でのみ、ここまでの進行を鑑みるなら、すずさんが『白』だという発言は、信憑性が高いと思える。

 

 自分が【潜伏者】である可能性を踏まえたうえで、包み隠さず、自分の『色』と情報を打ち明けてくれたのも、信用できる人だと感じられる。

 

 ならば少なくとも、『夜』以外の時間は、すずさんと行動していれば、安全でいられる可能性が高そうだった。

 

「すずさん、ピノさんを解放してください。あと一応、席替えを希望します。すずさんと、ピノさんの席を交代してください」

 

モガミ・スズ

「本当に、それだけでいいんだね?」

 

「構いません。もしオレが、また彼女の機嫌を損ねてしまったら、申し訳ありませんが、援護をお願いします」

 

ソレイユ・ピノ

「あらあら。おやさしい事ですわ」

 

 自由になったピノさんが、同じように手を翻すと、彼女専用の拳銃は、魔法のように消えさってしまった。そしてこちらが支持した通り、席替えをしてもらった。

 

モガミ・スズ

「それにしても、キミ。なかなか肝が据わってるね。いくら『VR』とはいえ、初見のアレはさすがに驚いたと思ったけど。今はすっかり冷静ね」

 

「状況が差し迫ってるほど、頭が回るのが人間なので」

 

モガミ・スズ

「言うわね」

 

 何気ない会話で、状況を仕切り直す。

 

 ――ただ、なんだろう。

 

 やっぱりなにかを見落としてる気がする。自分の思考を『絵』に起こすまでの、情報量、想像の欠片が足りてない感じがする。

 

(…なんだ? 俺はずっと、さっきからなにが気になってんだ?)

 

メアリー・ミル

「…ますたー、よろしいですか?」

 

「あぁ、ごめん。なにかな」

 

メアリー・ミル

「…もうしわけありませんが、そろそろ、おじかんです…」

 

「みたいだね」

 

 応えると、画面端に見えていた、残り時間を示すインジゲーターがゼロになる。

 

 

system:

 タイムオーバー。フェイズ進行します

 

 

 3つあった時計のアイコンが1つ失われた。

 まずいな。もう『夜』になるのか?

 

モガミ・スズ

「――ねぇ、ハヤト君? ちょっといいかな」

 

「はい、どうぞ」

 

 隣の席に変わったすずさんが、聞いてきた。

 

モガミ・スズ

「キミが今夜、どういう風に行動するかは、さておきね。実はもうひとつ、言っておかなくちゃいけない事があるんだよ」

 

「はい、なんですか?」

 

 一度「うん」と頷いたあと、すずさんは言った。

 

モガミ・スズ

「実はこの場所には、もうほとんど、食料が残ってないんだよね」

 

「…えっ、食料がない?」

 

 そう言えば、このお茶会を始める前に、なとりさんが言っていた気がする。まだ飲みものは、少しだけ残っていると。

 

モガミ・スズ

「ぶっちゃけた話をするとだね。在庫がもうない」

 

「…でもさっき、オレをお星さまにしようとしたピノ様が、贅沢をしなければ、まだお茶会をする余裕はある。的な事を言ってませんでしたっけ?」

 

モガミ・スズ

「わたし達だけなら、問題はないね。ただし、人間ひとりの胃袋を満足させられる食料は、せいぜい今日を凌げる程度にしか残ってない」

 

「マジすか。具体的には、なにが残ってるんですか?」

 

ディア・イロハ

「粉末のミソスープなら、まだ残ってんじゃない?」

 

ナガラ・ナトリ

「あ、いえ…いろはさんがさっき飲んだのが、最後でしたー」

 

 ここに来て明かされる、衝撃の真実。

 

ディア・イロハ

「あちゃー☆」

 

クマシキ・メメメ

「あちゃー、じゃねーんだわ」

 

 ほんとだよ。ゲームの中のオレの貴重なカロリー源が、よもや金髪アンドロイド巫女の人工細胞に分解されてしまうとは。

 

ディア・イロハ

「まぁまぁ。あたしを許せよ人類♪」

 

 ぱちっと、片目でウインクする。許された。

 

 ただし、この人は『黒』と見なしておこう。特に根拠はないけど、そういうことにしておこう。金髪ツインテ巫女さんなら、割と雑に扱っても許される気がするので、そういうことにしておこう。

 

モガミ・スズ

「まぁ、いろはさんの味噌汁が残ってたとしてもね。結局は、外に探索にでて、物資を回収してこないといけないってわけ」

 

「あぁ、そういう要素も…じゃなかった、そういう状況なんですね、今は」

 

 空腹ゲージや、水ゲージなんかの、サバイバル要素まであるのかよ。こってるなぁ…と言いたいが、正直その手のジャンルも、あまりプレイした経験がない。

 

モガミ・スズ

「よかったら、食料確保にはわたしが同行させてもらうわ、キミの意見は?」

 

「お願いします。けど、時間の方は、大丈夫なんでしょうか」

 

モガミ・スズ

「『夜』までには、帰って来れるわよ」

 

「わかりました。ちなみに、物資を回収しに行かなかった場合は、どういった事になりますか?」

 

モガミ・スズ

「……………それをわざわざ聞く? 聞いちゃう?」

 

 まぁそれもそうか。飢えるわな。普通に考えて。

 

 他の可能性も考慮にいれると、人数が減ってから行動すると、必然的に『黒』と一緒に行動する可能性もあがってしまう。

 

 外では『白』と一緒にいないと、状況にもよるが、『黒』に殺されてしまう。

 

 しかし言いかえるなら、

 

「あの、オレが一人で物資を収集して、他の方は留守番というのはどうなんでしょうか?」

 

 オレ自身が単独活動をすれば、ゲームのルール上は安全そうな気もしたが、

 

モガミ・スズ

「あまりオススメはできないわね。キミもさっき見たかもしれないけど、この街の空には、ドローン兵器が今も徘徊してるの。移動ルートは決まってるけど、一人で行動すると補足されるかもよ」

 

 あぁ、やっぱりアレは、敵なのか。

 

モガミ・スズ

「それと、徒歩では距離的に無理ね。目的地までの移動には、旧式のトラックを使うつもりだけど、車のキーは、わたしの固有IDに設定してるから、運転手はわたしでないといけないわ」

 

「トラックですか。何人乗りですか?」

 

モガミ・スズ

「一応、狭いけど後部座席もあるし、荷台もあるわよ。頑張れば4人ぐらいは乗れるわよ」

 

「なるほど。じゃあ、3人以上の編成でも問題な――」

 

 

クマシキ・メメメ

「 お 断 り し ま す ! 」

 

 

 振り返ると、めめめさんが、ブルブル震えていた。

 

クマシキ・メメメ

「めめめはぁ! めめめはまだ! 生き残りたいんじゃあぁー!」

 

 どうしたんだろう。トラウマを刺激されたように震えている。露骨に顔を青ざめさせて、ぷるぷるしている。

 

モガミ・スズ

「どうしたんですか、めめめさん」

 

クマシキ・メメメ

「どうしたもこうしたもないよ!! すずちゃんの運転はすごいんだよおおぉぉっ!!」

 

 すごいってなんだ。

 

モガミ・スズ

「あはは。そんなに怯えないでくださいよ。今度はちゃんと、オートパイロットモードにしますから」

 

クマシキ・メメメ

「そう言って、めめめを出荷する気だな!! だまされん!! めめめは三度目はだまされんぞぉ!!」

 

 二度はだまされたのか。出荷されたのか。…ドナドナかな?

 

クマシキ・メメメ

「とにかく! めめめは乗らないんだからね!! 遠出する時は、他の人を選んでくださいっ!!」

 

「まぁ…そんなに大勢で行動するメリットも無さそうですから、大丈夫です.じゃあ俺たちは、この後、物資を回収する流れで」

 

モガミ・スズ

「了解よ。他の姉妹たちへの指示はある?」

 

 聞かれたが、とっさには想いつかず、一時保留してもらうことにした。

 

メアリー・ミル

「…りょかいです…ではみなさま、ひとまずおつかれさまでした。はなしあいのじかんは、おしまいです。あとは『よる』がくるまで、おのおの、じゆうにこうどうしてください…」

 

* * *

 

 その後、俺はすずさんと二人で移動した。上がってきたのと同じ非常階段を使い、バリケードを施された2階まで戻ってくる。そこですずさんが、周辺を警戒していた一体に声をかけた。

 

モガミ・スズ

「アインス。移動するよ。一緒に来て」

 

アインス

「リョウカイ、シマシタ」

 

 ガシャン。と、いかにもな音を立てて、ロボットがお辞儀する。

 

「あの…さっきは聞くのを忘れてましたが、このロボット達って、なんなんですか? オートマタって呼んでましたよね」

 

モガミ・スズ

「そうそう。まぁなんていうのかしらね。キミ達にとっては、メタい発言扱いになっちゃうけど、【NPC】って奴だと思ってよ」

 

「…このオートマタを連れていくのは、なにか意味があるんですか?」

 

モガミ・スズ

「うーん。いや本当に、この『テストプレイ』には影響しないんだけど。困ったわね。なんて説明しようかしら」

 

 応えあぐねる。どこか慎重に、言葉を選んでいるような印象も受けた。

 

モガミ・スズ

「ちょっとね。最近、物騒だから。一応、何事も起きないとは思うんだけど。あぁ、この発言も『ゲーム』には関係ないから」

 

 『ゲームのキャラクタ』を逸脱する感じで、苦笑する。

 

「ここを見張ってる5体のロボットは『ゲームの進行』には、直接影響しない、考える必要はない。って認識でいいですか?」

 

モガミ・スズ

「あはは。それでオッケー。ごめんね、水をさしたみたいで」

 

 なにかの、デバッグ用のキャラクタだったり、3Dのオブジェクトマップに『穴』がないかを探索する為の、ボットプログラムなのかもしれない。

 

モガミ・スズ

「じゃ、とりあえず地下に行こうか。車、そこに停めてあるから」

 

「わかりました。この医療施設って、移動できる範囲広いですよね」

 

 言ってしまってから、これもちょっとメタい質問だと思った。

 

モガミ・スズ

「中身はちゃんとできてるからね。キミ達が想像するような、一般的な病院の設備なんかは、基本的にそろってると思っていいんじゃないかな。必要なら、ナノアプリのシステムから呼びだせるから。マニュアルの方で再確認して」

 

「わかりました」

 

 地下まで移動中、言われた通り、現実の右手を動かす。『Enjoy-Con』の操作を行う。表示された、ナノアプリケーション、メニュー画面から【MAP】と記されたタブを操作した。

 

 ざっと軽く見ていたら、世界がまた暗転した。

 

* * *

 

【ゲームマニュアルが更新されました】

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 エリア21

 周辺建物、施設説明

 

 中央病棟:

 プレイヤー達の本拠地です。

 「夜」までに、ここで充電しなくては

 アンドロイドは機能を停止します。

 

 沿岸部の港:

 旧世界で流通していた

 輸送船からの貨物倉庫があります。   

 保存食、燃料などの物資が残っています。

 

 空港:

 すでに機能を停止した

 エアターミナルがあります。

 自動操縦されたドローン、オートマタを

 メンテナンスできる工場もあります。

 

 電力施設:

 エリア21の各方面に

 電力を供給している施設です。

 すでに無人と化していますが、

 ナノボットにより、機能は継続しています。

 

 役所:

 行政区にあります。

 この世界に現存するアンドロイドの

 戸籍管理データを、一括して保存しています。

 

 アミューズメントセンター:

 街の目抜き通りにあります。

 5階建ての、ゲームセンターです。

 

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