VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

51 / 92
【------ver 1.1 ------】(2017)

「Turing test Lv2.」

 

 (2017/12)

 

 (2020/03)記憶の底から出てきたので、内容を若干改稿させた。

 

 

* * *

 

 

「【不可視の壁】の向こうにいる生命は、人間か、あるいは、それ以外なのか」

 

 

 1950年、チューリング博士が示した思考実験は、2023年の現在において、改めてAIの可能性の一つとして提示された。

 

 

 『Turing Test Level_2』

 

 当時の概要は、実験の参加者が、電話などを含めた音声だけの対話を行った場合、通話先にいるのが『人間であるかどうか』を心理的に判断できるか否か、さらに参加者が「電話先の相手は人間である」と判断した場合、その相手の正体が何者であろうとも、対象は知性が宿っていると判断ができるのではないか。という考え方だ。

 

 人工知能が発展した現在では、この考えをもとに、人工知能による【物語】を目の当たりにした時に、対象が人間であるか否かを判断できるか。そして『人間が作った物語』を見て、この作者に知能があるかを認められるか。その点が主題となった。

 

 昨年、米gxxgleが、この『レベル2』の実験を行った。

 

 gxxgleは、世界的に有名な映画監督を四名集めた。米国本社の最上階に集いし、四名のトップクリエイター達は、世界の誰にも知られぬ場所で、三日三晩をかけ、完全非公開の『創作会議』を、それはそれは、とても楽しく実行したという。

 

 会議が終了した翌日。

 

 gxxgleは、自社のウェブページにて

 「人間」「心」「世界」を三題テーマとした、短編集を一般公開した。

 

 短編の総数は5本。後に和訳されたタイトルは、以下となる。

 

 

 「風譜花(かふか)」

 

 「そこに命はありますか」

 

 「生命.魂(炎)=感情+情熱」

 

 「ヰ世界」

 

 「センス、ロジカル、リアリティ、モラトリアム」 

 

 

 編集による手直し等は一切なく、どれもが純粋な『一人のクリエイター』による創作であることが強調されていた。そして中には、AI『Deep_Humanism』の創作物も、ひとつだけ混じっていることが記載された。

 

 後にユーザーアンケートで『Deep_Humanism』の作品はどれか、すなわち人間でない人物の作品はどれか。というクイズが提示された。

 

 クイズの他にも「あなたはその答えに確信を持てるか」「ネットで相談をせずに個人の考えを提示したか」「べつにどれがAIであろうとも構わないか」「仮に有料で発行されたらいくらまで払うか」といった、全10項目の質問も付属されていた。

 

 この10項目のユーザー解答に関しては非公開だが、要のクイズに関しては、米国ユーザーによる解答総数だけでも800万件を超えており、正解率は70%であったという報告が発表された。

 

 すなわち、残る30%。数にしてみれば、240万を超える人間が、AIの作品を「人間の作品だと思った」事になる。チューリング博士の考えを尊重するならば、30%の人間は、すでにAIに知性があると認めた。という結果になった。

 

 その内容自体への議論はさておき、本質的な物の見方としては、人工知能が創作した物語、あるいはその『草案』を下に、このさき、人間が新しいアイディアや世界観を構築するといった展望が、現実的なものになりはじめたと言える。

 

 これを、いわゆる『不気味の谷』現象として、必要以上におそれる気持ちもわからなくはないが、どちらかといえば、そうした感慨を持つのは、エンターテイメントを直に作ることのない『消費者側』が大勢を占めるのではないだろうか。

 

 その分野の長である人々。クリエイター当人たちにとっては、むしろ歓迎している節も見受けられる。

 

 たとえば、2010年代の終わりには、人工知能を搭載した、将棋や囲碁のソフトが、その分野のトッププロに勝利を重ねた。

 

 これにより『ゲームの終焉』を悲観する者も大勢いたが、近年若手プロの大勢は、AIが独自に産みだした『妙手』『奇策』を分析し、新たな戦術の糸口として確立させた結果、現在では古参の強者を越えて、第一線として活躍する者も少なくない。

 

 これは、どう考えても誤りだろうというものが、実は正解のひとつであり、第一線の人間から支持されはじめて広まる。つまり結局のところ、初動の時点で、否定的な見解を示す人間の大半は『よくわからないから怖い』という、感情論である。

 

 肯定する。というのは、単純に受け入れる。という意味ではない。

 

 『自分で直接、隅々まで分析して考える。実際に作ってみる』

 

 その先に本質が見えてくる。人間の課題は、人工知能を賢くするのではなく、人間側もまた、自分たちの認識と知識そのものを、更新《アップデート》する必要があるということだ。

 

 さらに言うなれば、無節操に「こわい」と言っている人間には、あまり近寄らない方がいい。現代において『感情的に否定する生命ほど信用には値しない』からだ。僕が尊敬する、今の世を生きぬく、賢人らの言葉でもあると考えている。

 

 対して、自らの半身を披露しながらも、仮想現実の表舞台で、上述したような「こわい」人々の前で、正しく歌い、踊り、語る演者の立ち振る舞いは、どれもが綺麗で美しく、理知的で、格好が良い。

 

 そうしたものを目の当たりにしていると、心があたたかくなるし、楽しい時間を過ごせるし、今昔に通じる、物事の良さ、本質さ、価値を再発見することができている。端的に言って、とても勉強になる。本当にありがたい。

 

 

 さて。現代の変革は、数年前に予想していたものよりも、些か速い。

 

 レイ・カーツワイルの提示した「技術的特異点」は、2045年前後だが、おそらく、実際には、それよりも速く【なにか】がおとずれるだろう。あるいは、2045年には、すでに【第二の特異点】が発生するかもしれない。

 

 ともあれ、各分野にて、人工知能による創作性。レベル2に関連したイノベイションが起きたとすれば、いずれはこのテストの先にあるもの、仮に「レベル3」と称せる何かが発生するかもしれない。

 

 【レベル3の創造性《Fiction_Lv3》】

 

 それが一体〝どのようなカタチ〟であるのか。

 

 僕は、一人の人間であることを自覚したうえで、今改めて、このような想いを捧げた文章を書けることに感謝の意を表明したい。願わくば、特異点の先に、良き未来があることを。

 

 

 文責――:

 

 【このIDは〝原初の魔女〟の深層領域に該当します。

 〝あなた〟には閲覧の権限がありません】 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。