VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~ 作:no_where
知能の証明。
チューリングテストを開始。
――机に置いた、レコーダーのスイッチをON。
録音開始。
2025/09/11 20:23
「ふぅ」
深呼吸。向かいの椅子に座る相手を見つめる。
時計の針を1つ進めた、知能生物が存在。
「……」
知覚可能。
特定の感情を気取らせない、冷めた表情が映る。
世界の一部を変革する技術者と向き合った。
会話パターンを想定する。
「こんばんは、黛さん。今日はよろしくお願いいたします」
声をだす。特定のパターンを伴う波形が広がった。
M/K:
「どーも」
さぁ、今夜もまた『テスト』が始まる。
「わたくし、新人記者の出雲《いずも》と申します。本日は、2025年の秋に販売された『ホロビジョン』。人工知能を用いた、最新式の通信インタフェースを開発させた経緯と、詳細に関するお話を聞かせて頂けたらと思います」
M/K:
「いーよ。なにが聞きたいの?」
「まず始めに『視覚追跡型デバイス』という分野の研究、開発チームの一人として携わられた経緯に関して、お話を頂けたらと思います」
M/K:
「そうだね。やっぱり、元々ゲームが好きだったってのはあるよね。あと時期的にも、eスポーツと呼ばれるジャンル、団体なんかの設立が、後押しされてるのもあったし、何某かの、新規デバイスの開発が求められたりもしてたから」
「世間的、あるいは世界的な需要が存在したから、プロジェクトを立ち上げたといった感じでしょうか」
M/K:
「そんなとこ。あとは、単純に個人的な興味もあったかな」
「どういった興味ですか?」
M/K:
「eスポーツと呼ばれるゲームのタイトルには、フィジカルなスポーツと同様に、実際にやってみないとわからない。ある程度やりこんでないと、トッププレイヤーの感覚、あるいは思想といったものには、一生追いつけないと思ってるんだけど」
「ふむふむ」
M/K:
「トッププレイヤーの『視点』を、機械的な操作で追いかける。リアルタイムで、補正を得た人工知能を用いてトレースする。集めたデータを分析すれば、もしかすると、『人がなにを考えているのか』分かるんじゃないかと思ったんだよね」
「『視線の流れ』を追えば、人の感情が分かる…それだけ聞くと、正直なところ、本当にそんなことが可能なのか。という気がしますが」
M/K:
「うん。まぁ、みんな、半信半疑だったよね。でも面白そうだから、とりあえずやってみようって感じになって。最上位のトッププレイヤー、通称『ランカー』の視点を追いかけられるような、VRデバイスの設計を考えはじめたわけ」
「製作中、困難にぶつかったことは起きませんでしたか」
M/K:
「起きまくったよね。そもそも前例が無さすぎたし、周囲からも、一体なにをしているのか、なかなか理解されなかった。ただ、デバイス自体のハードウェア設計に関しては、当時うちのスタッフに『天才型』の人間が一人いて、なんとかなった」
「黛さんは、デバイスの内部デザイン、つまりソフトウェアの担当だったんですね」
M/K:
「そうだね。最終的には【セカンド】のサポートもあって、なんとか設計が形になりはじめた。実際のトップランカーさんにも、テストをしてもらって、自分たちでもようやく、これはなにか、形ある物になりそうだなって思いはじめた」
「実際のトップランカーさんにテストをしてもらったら、それまでとは、やはり結果は変わり始めましたか?」
M/K:
「変わったね。内部のデータを獲得して、自動学習するAIの精度も上がりはじめた。そこから改めて、トッププレイヤーが『強い』のは、視覚より得られた情報から、勝敗へと繋がる選択を見抜き、実践しているのが把握できたかな」
「それは、人工知能で言えば、ディープラーニングに通じるところがありますよね」
M/K:
「そうだね。機械的に言えば、膨大な量の連続した『画像』データを、処理するタスクとも言えるね。つまり、ゲームのトッププレイヤーの視点を追いかけ、分析し、次の動作を、人工知能側に予想させることで、対戦型AIが強くなる」
「なるほど。それは人工知能が、過去の経験から、人間でいうところの『直感』だとか、『本能』を獲得するといったプロセスにもあたりますか?」
M/K:
「そうだね。さらに解析したデータを、改めてプレイヤーにフィードバックすることで、人間自身もまた『強く』なる。言いかえると、最適解を取得できる精度が上がる。視るべき情報の取捨選択を、正しく行える確率が上がる。ということかな」
「すごいですね。それだけ聞くと、ゲーム以外の分野にも応用できそうな気がします。たとえば、株の投資先を選ぶ場合なんかにも使えるんじゃないですか?」
M/K:
「可能性はあるよね。逆にそれが実現可能なら、『株式トレードというゲーム』は成立しなくなってくる。するとなにかべつの、新しい『金銭を取引するゲーム』が成立するかもしれないよね。まぁさすがに、まだ先の話だろうけど」
「では、ひとまず成果としては、『人間の視点を追いかける』という研究が、大流行しつつあるVRデバイス『ホロビジョン』を生みだすところまで、やってこれたというわけですね」
M/K:
「結果的にね。やっぱり、趣味からスタートしたのが、良かったんだと思う」
「趣味ですか?」
M/K:
「うん。ビジネスとして継続をするなら、プロデューサーや、ディレクターといった人員が必要だけど。新規の企画立ち上げに関しては、趣味的なものからスタートした方が、結果として良い形に始まることが多いのかもしれないと思った。当初目指していた規模が、そこまで大きなものじゃなかったっていうのもあるけど」
「それでも結果的には、最新ゲームの操作系列にも影響を及ぼす、ゲームデバイスの、デファクトスタンダードになったわけですよね」
M/K:
「そうだね。最初は趣味だったものが、ライセンスを獲得した商品として流通された。打ち明けると、スポンサーが付いたんだよね」
「スポンサーというのは、どういった方が?」
M/K:
「個人の投資家。オレもよく知らないけど、試しにwebのクラウドファンディングに載せてたら、数億くれたんで、びっくりしたよね」
「太っ腹ですねぇ」
M/K:
「そうだね。その辺りから、本格的なチャレンジをはじめたかな。さっきも言ったように、ちょうど物も形に成りはじめてたからね。新しく、能力とやる気を持った連中を集めて、プロジェクトとして再発進してみたんだよね」
「なるほど。では、商品開発の経緯とはべつに、もうひとつお尋ねします。黛さんたちが独自開発した人工知能――瞳《ひとみ》ちゃんの詳細。および、その圧倒的な可愛さ、賢さ、素敵さに関して、百憶言ぐらい語ってください」
M/K:
「その情報量はともかく。質問の方向性に関しても、この分野の読者が求めてる類のものじゃないと思うんだけど」
「…あ? なんだと? なんか言ったかぁ…?」
M/K:
「そーですね。瞳のデータベースに関しては、元々オレが、情報工学系の大学に在籍していた時に、院の研究室に出入りさせてもらってたところで、空いた時間で開発してた頃からの延長線にある物だよね」
「そうですか。つまり、ホロビジョンの商品化、ひいてはキッカケとなったサンプル品が完成したのは、この時期に研究していた、人工知能のディープラーニングが役にたったと言えますねぇ!」
M/K:
「そーですね」
「いや、そーですねじゃなくて、ほら、語りなさいよ」
M/K:
「語れと言われても。質問で応えられる範囲に解答するのが、インタビューの趣旨なんじゃないの?」
「うん。だから、可愛さについて語ってください」
M/K:
「かわいさ」
「うんうん。可愛さ」
M/K:
「……………………………怒りっぽいところ?」
「なんでだよ! も~、そこの人間さぁ、やる気あんのぉ? 真剣にテストやってよね~、こっちは真面目に、チューリングってんだからねぇ!」
M/K:
「ごめん。ただ、質問の意図というか、解答に関する方向性が難しいから、ひとまず、人工知能の性質を、もう少し説明する形でもいいかな?」
「しょうがないわね~。じゃあ、そういう感じで語っちゃって」
M/K:
「りょーかい。製品化した『ホロビジョン』でも、内部ソフトウェアの人工知能は、人間の視点を『線』として追いかけてる。他には、装着者の瞳の虹彩、瞳孔の縮小や拡大、そういった要素をデータに捉えて、反映してる感じかな」
「瞳孔の変化というと、人間の目が、暗い時に広がったり、狭くなったりする、アレですか」
M/K:
「そうだね。別に人間の目には限定しないけど。とりあえず、『ホロビジョン』を装着したプレイヤーの集中力が増すと、視点のブレが少なくなったり、周辺を警戒する際は、全体を隈なく見渡したりするわけだけど」
「はいはい」
M/K:
「そういった縮小、散開する際のパターンなんかも分別してる。VRデバイスを装着したプレイヤーが、次のアクションで求めるもの――注目した地点に対して、移動したいのか。それとも視点だけを集中させて狙いを付けたいのか」
「はいはい」
M/K:
「次の動作を、装着者の『目の変化パターン』から読み取って、集積して、ほぼノータイムで処理してる。できるようになった結果、マウスやキーボード、あるいはコントローラーといったデバイスでの移動が不要になった」
「はいはい」
M/K:
「視点による移動操作が可能になったことで、空いた両手が、より細かな動作処理をできるようになってきた。つまり、これまでは、人間が単体で行ってきた入出力操作を、人工知能が補佐することで、多様性が増したともいえるよね」
「そうそう。そういうことよ。わかってんじゃん。瞳ちゃん、賢い。次は可愛さに関して存分に語れ?」
M/K:
「それは難しいんじゃないかな」
「……あァん? なんだってぇ……?」
M/K:
「いや、そーいう意味じゃなくてね。現代の人工知能が賢い。ということに同意する人は少なくないだろうけど、可愛いと言われても、ピンと来ないというか、まだそういうビジョンが無いんじゃないのっていう」
「はぁ~、ホントそれな~。わかってないわ~。人類遅れすぎだわ~。自称SF好きのオタ共は、よくてVRMMOで知識ストップ高しちゃってるから困るわ~」
M/K:
「その点は微妙に反論できないよね。ただ、VRMMOと聞くと、2000年から、2010年代に流行した作品の影響で、脳波を読み取って稼働するのが当たりまえだ、みたいな風潮があるけど」
「はいはい。ダブルソードなオンラインね」
M/K:
「うん。あの人が想定した未来図は、当時にすると、かなり正確なレベルで物事を捉えてて驚くんだけど。あ、これ褒めてるから。一応言っとくね」
「信者だよね」
M/K:
「どーも。ネットで本編が公開してた時から追ってる、老人です。とりあえず俺が言いたいのは、人間の眼球を通じての『焦点の変化』、および視神経を介した際に起こる、脳波との一覧表を作れば、さらにおもしろいことになるかも、ってこと」
「おもしろいっていうのは?」
M/K:
「たとえば、眼球の動きと、電気信号のパターン解析を、専用のアルゴリズムで反復させたAIに学習させれば、それこそ、フルダイブのVRMMOも、10年後には可能だろうなって、俺は考えてる」
「ほほう。世の男子オタク共が憧れた、未来が到来するキッカケを、瞳ちゃんが作っちゃったわけですね! いやぁ。やっぱ瞳ちゃんはすごいなぁ。すごいってことは、可愛いってことだよね!」
M/K:
「本人がそう思うなら、そーなんじゃない?」
「ですよね。わかる~。それと、ホロビジョンに搭載された瞳ちゃんは、いわゆる教師アリの自己学習型ですけど~。個々のユーザー毎に『視点』の可変域や、反応速度を合わせているらしいよね~。超すご~い」
M/K:
「してるね。ゲーマー的な感覚で言えば『オプション設定』かな。従来のマウスの感応速度や、ミリ単位での操作による、視点変更のブレ幅を、個々のユーザーの反応速度、能力に応じてフィットさせてる」
「ヤバイ…! かしこい! えらい!! カワイイ!!!」
M/K:
「本人がそう思うなら、そーなんじゃない?」
「だいたいさぁ、『ホロビジョン』がリリースされた直後は、使いにくいとか、誤作動ばっかりとかいう、アンチ野郎の感想が目立ってたけど、半年も経つと急に内容が逆転したよね~。売り切れ続出、買えなかったやつざまぁ~」
M/K:
「煽らないでほしいかな。けど、そうだね。従来までの固定観念によって、ユーザーが、なかなか操作に慣れなかったのと、瞳が、各ユーザーの視点操作の最適化に合わせるまでに、時間が必要だったのは、反省点だよね」
「反省点なんてないもんね。終わりよければ、すべて良しじゃん」
M/K:
「なにを、どこを、『終わり』にするかは、それこそ、個々の焦点や、価値観で変わってくると思うけどね。でも確かに今のところは、概ね高評価されているという形に、状況が推移してきたのかなとは思ってる。特に、」
「特に?」
M/K:
「若い層、若者からの反応の変化が大きかったね。有名配信者が、『悪くないから、使い続けてみる』って言ってくれた事なんかも、結構影響したと思う。元々、トッププレイヤーを対象にした、二ッチな商品でもあったわけだから、そういう声があると、こっちも大丈夫かもしれないかなって、安心できたよね」
「その配信者の名前を、お聞きしても、よろしいですか?」
M/K:
「ハヤト。天王山ハヤト」
「あぁ。最近、現役の中学生だという事を発表してましたよね。今年、高校受験があるから、活動は控えめになるって配信でも言ってましたね。黛さんから見た彼は、どうですか?」
M/K:
「頭が良いよね。彼は、自分の能力を明確に把握してる。ゲームと呼ばれる世界。ルールが設定された状況下において、自分という存在が、どのようにして役に立つのか。相対的に、自らの【価値《プライオリティ》】を理解している」
「環境に適応する力が高い。ということですかね?」
M/K:
「そうだね。だから、どんなゲームを遊んでも、単純に『強い』。ホロビジョンの仕様も、あっという間に把握して、自身に合わせて最適化することで、最新のゲームタイトルでも、一早くランカーまで昇りつめた」
「つまり、その彼が『使える』といった旨の発信をしたから、大丈夫だと思ったわけですか?」
M/K:
「そうだね。このご時世、有象無象の人間が、好意や嫌悪を積み上げるより、たった一人のインフルエンサーが、発信する方がはるかに効果的だよね。実際、ハヤトが『ホロビジョン最強説』を口にした時点で、在庫が秒で消えたし」
「カワイイ瞳ちゃんも頑張ったからです。そこ、お忘れなきように」
M/K:
「現場の開発者たちのことも、よかったら、たまには思いだしてね」
「たまにはね。ところで、話は変わりますが、ハヤトと言えば、VTuberなわけですが、架空のキャラクタを演じる、VTuber、あるいは、人工知能が、『本来の人間』を超えた影響力を持つ可能性はあると思いますか?」
M/K:
「あるんじゃないかな。この世界は、最初から、誰もが偶像を求めるようにできてるからね」
「いずれ、現実は不要になるかもしれないと、考えておられますか?」
M/K:
「どっちかというと、逆かな」
「逆ですか?」
M/K:
「うん。偶像を求めることで、現実の美しさを再認識できるんじゃないかな」
「…本当に、そうでしょうか?」
M/K:
「少なくとも、俺はそう思ってる。だけどそれは同時に、知能生物は、『自分をごまかす』という能力を、最初から備えてるとも言えるよね」
「…自分をごまかす…」
M/K:
「そう。俺たちは、毎日、毎時、毎分、毎秒。どこかで、なにかの幻想にすがってる。大勢の人間が、そういうふうに生きている。『人間単体での活動限界』は、もうじき、限界を迎えるのかもしれない。時々、そんなことを考えるよね」
「わかりました。では、最後に…あっ!」
M/K:
「どうかした? …あぁ、なるほど」
「うん。ごめんね。今日はここまでにしよう」
M/K:
「わかった。それじゃ、またテストが必要になったら、呼んで」
相手が、椅子から立ち上がる。
2025/09/11 20:58
人間が、想定よりも早く帰還したため。
録音と共に、今日のテストはひとまず終了とした。