VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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 2020年以降。

 

 eスポーツが話題になりはじめたのを皮切りに、世界各国の大手ゲーム会社、ソフトウェア開発会社が、競い合うように、タイトルの開発に勤しんでいた。

 

 仮に、自社タイトルが、オリンピックの正式種目に採用されようものなら、莫大な利益をうみだすのは、あきらかだ。

 

 2024年は、そうした思想による競争理念が懸念された。オリンピックの、本来の目的性とは異なるという理由から、一度は棄却されたが、徐々に体制が整い始めてくると、世間の風向きも変わりはじめた。

 

 そして今年、西暦2026年。

 これより2年後。

 

 2028年に開催予定のオリンピックでは、eスポーツもまたパラリンピックと同様に、開催時期を並行して行う、独自の大会が開かれるだろうという見方が強くなっている。

 

 世界中の投資家たちも動きだしていた。オリンピック等で採用されそうなゲームタイトル、活躍が見込まれるプロプレイヤー、多彩なトークスキルでインフルエンサーとなりうる解説者、そして新規デバイスを開発できる技術者と外交手腕を持った企業、組織の情報を求め、対策を立てつつあった。

 

 その中でも注目されている企業のひとつ。欧米の開発チームでありながら、日本、中国、韓国などのアジア圏内にも進出し、イメージビジュアルの垣根を乗り越えて、大成功を収めたゲーム会社があった。

 

 

 【 HΛcker's nest 】

 

 

 顧客のマーケティングを、自社開発したAIが担当していると噂される、新進気鋭のソフトウェア会社だ。

 

 同社は2020年を境に、高速インフラ規格『5G』に焦点を合わせたゲームアプリのタイトルを発表する。翌年には、スマートフォン・デバイスで遊べる、本格派のmobaゲーム『Legend of Arena』をリリース。

 

 世界全土のゲームマニアを中心に、その知名度を拡散させることに成功する。

 

 日本では、ガチャ《pay to win》制度のRPGか、成長要素のあるアクションゲームしか、ヒットを飛ばせないと言われていたが、上述した内容の他、一人のスーパープレイヤーの存在によって、他国と同様、日本でもブレイクした。

 

 【 HΛcker's nest 】は、現在も複数タイトルの運営、移植を担当している。

 2024年には『LoA』の成功を機に、日本の大手ゲーム会社とも、新規タイトルの開発、業務提携を結んだ。

 

 2026年には、PCおよび最新のゲーム機を対象にした『Gun & Magic』を、共同開発でリリース。

 

 同タイトルは、世界初ともいわれる、人工知能による『アイ・トラッキング』規格を利用した周辺機器との接続、および操作を可能にした。

 

 また現在も引き続き、プロゲーマーと、それに次ぐ有名実況者を支援する方針の旨を告知。自社製品の広告塔、および売上を促進させるインフルエンサーとしての活動を、プレイヤーにも期待したいという方針を述べている。

 

* * *

 

 

 【GAME is OVER】

 

 Congraturations!!

 You are the GrandMaster!!

 

 

 液晶モニターの中央に、華々しい装飾のテロップが浮かんでいた。

 

 黄金色に輝く文字列の下には、全身を白銀色の防護鎧《プラグスーツ》――日本のアニメで、ヒト型の戦闘機に座るパイロットが着るようなデザイン――を身にまとった、長身痩躯の3Dキャラクタが立っていた。

 

 

 【Silver_Sword】

 

 

 直訳すれば『銀の剣』。

 

 目元には特徴的な仮面が付けられている。中心から両端に向けて、血脈のように流れる、V字型のアイセンサーが揺らめくように輝いている。口元は無表情だ。ゲームのキャラクタとはいえ、一切の感情がうかがえない。

 

 腰元には、名称を表すかのような、飾り気の皆無な刀剣の鞘が二振り。

 

 

「――さてと。宣言通り、10連勝が達成できたね」

 

 

 PCモニターの『こちら側』。銀の剣を操作している担い手。配信者の青年が、自らの目元に指をそえる。最新のAIデバイスを掛けていた。

 

「GG《Good_Game》だ。一旦、ここで休憩を取らせてもらうよ」

 

 現実を生きる肉体。頬の上、こめかみの辺りにあるスイッチを軽く押すと、レイヤー層が一つ取り除かれる。黄金色の瞳があらわになる。見慣れた現実と、PCモニターに映る、ゲームの世界が映っていた。

 

:GG、ホープ!

:10連勝すごすぎ!

:カッコイイ!

 

「サンキュー、みんな」

 

 ゲームキャラクタと同じような背格好。

 

 ティーンエイジャー達に大人気の、アメリカン・コミックの主人公。その俳優として抜擢されてもおかしくない美形の顔立ち。おだやかな声。

 

「今の僕があるのは、キミたちのおかげだよ」

 

 20代半ば。まだ若い欧米人の男だった。もっとも特徴的なのは、そのヘアスタイルだろう。現実的ではない、ゆらめく蒼炎《エメラルドブルー》の髪。

 

 彼を一目でも映せば、どんな人間の記憶にも、なんらかの形で留まる。彼の配信を見れば、大半のゲームプレイヤーは虜になる。熱心な信者と化して追いかけた。

 

「最後は正直、運が良かった。みんな、強かったよね」

 

 身に着けた上着も、一般的でないスリットや意匠が入っている。全体的な印象は、パンク系統のロックシンガーに近いかもしれない。それが『ゲームの生放送』という配信スタイル。コンサートのLIVE感とも一致した。

 

「まぁ、どんな相手が来ても、負けないんだけどさ」

 

 投げ銭、スーパーチャットも、尋常でない額が秒単位で飛び交う。そんな彼を真似ようとして、配信スタイルを後追いする者は後を断たなかった。けれど結局は『本物』には敵わない。追い越すことはおろか、並び立つ事すらありえなかった。

 

「スーパーチャット、本当にありがとう。だけどみんな、自分のことを第一にしてくれよ。僕は君たちの二番手で十分なんだ」

 

 外見に対して、言動は、どこまでもおだやかだった。

 

 先鋭的な外見に、人当たりの良い内面。端から見れば、彼の人生は、なにもかも上手くいっているように見えるだろう。本人の年齢を鑑みても、少しぐらいは生き方が『前のめり』になっていても、なんらおかしくはなかったが、

 

「みんなが、明日を楽しく生きていけることを考えよう。そのことを、心に秘めて、最優先にしてくれると、僕も嬉しいよ」

 

 危うさが、まったくない。失言や、失敗を恐れているわけでもない。

 良い意味で落ち着き払っている。

 

 現代のヒーローだった。彼の存在そのものが、フィクションとの狭間に位置している。絶妙なリアリティを漂わせていた。

 

:それにしても、上手すぎでしょ

:ホープがやってるゲームは、俺のやってるゲームと違うんだね。

:今度キャリーしてよ。

:神だわ。

:さすが有言実行の男。

:開幕、野良のメンバーが二人も回線落ちたのにねぇ。

:そこから勝ち抜くとか。最強でしょ。

 

 液晶モニターの向こう側には、配信者を称えるコメントが、しばらく経っても途切れる様子がなかった。彼は柔和に笑ったまま、新規のデバイスを、専用の台座に立てかけた。

 

:ホープは、どこのメーカーの『ビジョン』を使ってるの?

 

 視聴者が、彼に質問を投げかけた。

 

「あぁ、これかい? 日本のメーカーが発売してたやつだよ《made in Japan》」

 

;日本の?

:なんてやつ?

:してたってことは、もう売ってないの?

 

「そうだね。現在は生産中止になったブランドみたいだ」

 

:どうして?

 

「僕も詳しくは知らない。ただ、特許の権利に関して、色々あったらしいんだ。元のソフトウェア設計を担当したのが、元々は小さな企業だったみたいで、それを大手の流通にのせた時――うん。邪推はこの辺りにしておこうかな」

 

:大人っていろいろあるんだね。

 

「そうそう。きっとね」

 

 モニターの向こう側から、滝のように流れてくるコメント群。けれど時々、一部のコメントに色が灯り、それがべつの場所にピックアップされる。

 

 それもまた、現代の人工知能によるシステムだった。配信者の青年の視点、淀まった時間単位や、瞳孔の変化を捉え、独自の『熱量』として数値化する。

 

 その『熱量』が、一定以上の値となったコメントを、『ディスプレイ側』がキャッチして、すぐ隣にピックアップして表示している。

 

 だから、誰も彼もが、夢中になった。

 

 現在の世界を見渡しても、トップクラスのインフルエンサーとなった彼に、自分の存在を気に留めてもらおうと必死だ。テレビの向こうの芸能人、ラジオの番組とも違って、顔の見える有名人からの反応が直に帰ってくるのが、たまらなく嬉しくて、誇らしくもなる。

 

:その『ビジョン』の使い心地ってどうなの?

 

 けれど、ホープと呼ばれた配信者は、そうした熱に浮かされない。自身の体温は、常に一定に収まっているといった感じで、気さくに応えた。

 

「これまで使ってきたものの中で、一番だ」

 

 一度、台座にかけた『AIデバイス』を手に取る。

 

 2020年を境に、各分野で急速に栄えはじめた人工知能の研究。その中で実用的となって広まった『装着者の視覚』を利用したもの。

 

 形状としては、通常の『メガネ』と変わりのないフォルムだが、レンズの部分が左右に分かれておらず、人間の鼻に被さるところが、少し湾曲したデザインになっている。

 

:確かに、あんまり見たことのない『ビジョン』かも。

 

「だろ。中々におもしろい形状してるよね。日本の通販サイトで見た時に、反射的にポチッたよね」

 

:ホープでもそういうことあるんだね。

 

「あるある。おかげで、奧さまからもよく怒られてる。結婚した翌月から、アカウントの購入履歴、毎月チェックされてるもん」

 

:草

:トップランカーなのに、嫁の尻にしかれ、財布の紐を握られた男。

:god tier wife.

:アンタ、今年の番付けにも乗った億万長者でしょ!

:嫁には勝てなかったよ…。

 

「そういうこと。みんなも気をつけてね。自分がフリーランスで、楽になるからって、元経理の鬼の税理士と結婚すると大変だぞ。使途不明金が1ドルでもあると、どこまでも追及されるからね。笑顔で」

 

 やれやれだよ、と首を振った。

 

 

 ――2025年の前後から、各種マーケティング部門にて、新たなインタフェース装置として期待されていた、アイ・トラッキング関連のデバイス。ゲーム用に特化されたものは、ゲーマー達の間で『ビジョン』と呼ばれていた。

 

 該当するハードウェアの内部に搭載された人工知能が、人間の視線を追いかけ、眼球の変化を確認する。

 

 その情報を集積して、独自の法則に基づいた最適化《ディープラーニング》を実行することで、プレイヤーの視点の変化を『先読み』して、ゲーム上のキャラクタの移動から、視点の変化を実現させる。

 

 また各プレイヤーの反応速度、および身体能力にも適した操作を学習していくと、やがては従来のコントローラー、マウスとキーボード、レバーボタンといった物よりも、高速かつ、精度の高いレスポンスを生みだした。

 

 大勢のフォロワーを抱えた人気実況者たちが、これを装着して、ゲームの配信をすることで、コアなゲーマーのみならず、ライトユーザにまで浸透した。

 

:でも、その『ビジョン』の発売元が日本っていうの、意外だな。

:日本って、ゲーム機と、ゲームソフトしか作れない国だと思ってた。

:人工知能の技術に関しては、遅れてるってイメージしかないわ。

 

 ――彼の視線が、コメントのいくつかを注目する。ピックアップを実行。

 

「確かにね。僕もそう思っている節があったよ」

 

 現在、世界でも有数の、人工知能の先進国家であり、世界初を謡うデバイスを次から次ㇸと開発している、彼の地《アメリカ》。

 

 『ビジョン』が浸透したのもそうだが、設計思想と、開発に至った最初のキッカケは、日本の小さな企業だった。まだ大学を卒業したばかりの、新卒の社会人たちが主導になって、基礎設計を形にした。

 

 何故、それを知っているか。

 資金援助をしたのが、他ならぬ、配信者の彼だったから。

 

:Amazonみたけど、生産中止してる。

:オークションの中古もクッソ高いのな。

:日本はすぐ品薄商法やるから。

:調べたけど、この会社もう無くなってるね。

 

 現在では、大手各社の型番を付属した『ビジョン』が、細かな性能の違い、独自性をアピールしつつ、新たな市場のシェア取りに勤しんでいる状況だった。

 

:やっぱりこれからは、AIデバイスの時代なのかね。

:俺はやっぱ、マウスとキーボードがしっくりくる。

:慣れたら、AI採用した周辺機器一択だけど。

:でもリアルの大会だと、AIデバイス使用禁止やぞ。

:なんで?

:不公平だからでしょ。

:反応速度が違いすぎるからね。

 

 流れるコメントを見ながら、彼も口をはさんだ。

 

「2028年のオリンピックには、さすがに間に合うんじゃないかな。2年後には、さらに次の、新しいデバイスが発表されてるかもしれないけど」

 

:科学の進歩速い。

:最近、急にいろいろ出始めたな。

:SNS,SMS関連のアプリが充実してから、消費速度上がりすぎ。

:一番良い答えが、調べたら一発で出てくるからな。

:むしろ調べなくても良いまである。

:最適化される俺たち。消える個性。

:統一化。

 

 配信者は、変わらず高速で流れるコメントを見送りながら、静かに言った。

 

「確かに。自分の立ち位置ってやつを確保するのも、一苦労するよね。さてと、一度顔を洗って、目薬をさしてくるよ。悪いけど待っていて」

 

:いってらっしゃいー

:ホープお疲れ。

:何時から再開?

:俺も風呂入ってこよう。

 

* * *

 

 ――ストリーミング放送。ついさっきまで、彼がゲームの配信をしていたが、しかし今は本人が席を外していて、特におもしろいものは映ってない。

 

 変わらず、コメントだけが流れていた。

 

:にしても、ホープヤベーよ。サバゲで固定なしの10連とか、普通無理だって。

:やっぱ潜在的なパワーって、今は風エレがトップなの?

:風は全ジャンルでティア2。多少のメタにはなるけどいらん。

:その情報古いよ。時代は風アサ。今も研究は進んでいる。

:ぼちぼち寝るわ。アーカイブで見返そう。じゃあねー

:寝るニキおつかれ。おやすみ。

 

 

 配信者がいなくなったことで、ツリー式のチャット欄が、にわかに掲示板の代用品にされていた。ゲーマー達が、わいのわいの盛り上がる。

 

:風も悪くないけど。やっぱ、火、水、土のバランスPTが安定すわ。特に野良。

:そうそう。3人1チームだから、PT戦考えたら、風抜けるんだよねぇ。

:ソロでの1対1なら、風も十分戦えるけどな。狙われると溶ける。

:AIMヘタクソは、防御マシマシ土ガトか、水リジェで火バフもらいつつ、近距離ショットガン安定よ。

:風は、速度バフ、ブリンク、3段飛び。対戦ゲーで強い要素そろい踏みではあんねんけどな。いかんせん、撃ち合い弱すぎる。

:MP消耗値がでかすぎるんだよな。上方はよ。

:アプデはまだいらんでしょ。上位の連中が風使うようになってきてるから。ヘタにリソースいじると環境壊れる。

 

 国や民族、ともすれば、宗教の価値観すらをのり越えて。人気配信者のお膝元という環境に集ったオタク達が、話題のゲームについて、やいのやいの言い合っている。

 

 話題は尽きない。

 

 アレが強いの、弱いだの、あのキャラのスキンがイカスの、萌えるだの、日本の今期アニメなに見るの。などなど。

 

 時に殴り合い、煽り合い、マウント合戦を繰り広げる。次第に火の粉は広がりはじめて、やがて人種差別などの深刻な問題に発展しかけたところで、

 

「ただいま」

 

:おかえりー。

:おかえりホープ。

:おかえりなさーい。

 

 ボクたち、おとなしくしてましたよ、アピールを開始。

 

 ――これだからオタクは。

 

 教室に入ってきた、学校の先生を見かけた生徒たちのように静まり返る。今頃は、それぞれのモニター向こう側で、行儀よく席に着いているのだろう。自分たちが憧れるスターの一言を待っている。

 

「みんな、なに話してたんだい。あぁ、現環境の話だね」

 

:そうそう。このゲーム、日本人が割と強いんだけど、ホープはどう思う?

:もしかして、ビジョンの使い方が上手いとかあるのかな?

 

「かもしれない。日本は、今日までPCゲーム全般がそんなに流行ってなかったしね。FPSに対する先入観もないのが、逆に強みになってるのかもしれない。だから新規のデバイスに対する適応力も早かった。あるいは、」

 

:あるいは?

 

「デバイスの有用性を広めた、おもしろい、プレイヤーが、いるのかもね」

 

 ――彼が笑う。その『熱量』が、これまでの『演技』に比べて、本質的な差があることに気づけたのは、わたしだけだろう。

 

「まっとうな実力を持っている、強くておもしろいプレイヤーがでてきたら、全体としての地力も上がる。あの国も、最近はだいぶ風向きが変わってきたし、そろそろ世界的にも有名な、若手プロがでてくるんじゃないかな」

 

 配信者の彼は、いかにも楽しげな様子だった。

 

「さて、ゲームを再開する前に、もう少し雑談しようか。なにか質問はある? なんでもいいよ。ただ、あまりにも無意味なのは無しの方向でね」

 

 ホープが聞くと、コメントが勢いよく流れた。彼はしばらく、じっと、高速で流れるコメントを目で追った。

 

「……」

 

 なにかを見抜くように、注目していた。

 

 表示される文字群は、一般的に用いられるフォントだ。特に目立つところはない、なんの変哲もない文字列の中から、彼にしか見えない【なにか】を救いあげるように、じっと目を凝らした。

 

 

kevin:

「どうすれば、僕も、ホープみたいになれる?」

 

「ケビン、なにか悩みでもあるのかい?」

 

 

 ――『熱量』が規定値を超えた。ピックアップするも、遅れる。

 

 

 集まっていた視聴者はとっさに「ケビンって?」と、疑問符が浮かびあがっただろう。瞬間に、彼は弁明した。同時に文字列を抽出して表示した。

 

「あぁごめん。いま、僕みたいになりたい。っていうコメントが見えたんだ。なんだか、ちょっと気になってさ」

 

 そんな風に伝えると、

 

kevin:

「もしかして、僕のこと?」 

 

kevin:

「あっ、コメント表示されてる!!」

 

「そうそう、君のこと。今ボイチャできるかい?」

 

 

 現在の時刻は、アメリカ合衆国の標準時刻でPM7:45。配信開始から約1時間が経過していた。

 

 接続区域の8割超が同国からによるものだが、その他、世界各国からの同時接続者の数を含めると、現在300万人を超えていた。

 

 今、300万人の注目を、たった一人のコメントが集めている。

 単なる数で例えれば、ちょっとした宝くじの、1等賞を当てられる確率だった。

 

kevin:

「うん! ちょっと待ってね!!」

 

 単に「ラッキーだったね」で済ませてしまうにはもったいない。時と場合によれば『奇跡のような幸運』だ。液晶モニター1枚を隔てた先で、きっと心を躍らせているに違いなかった。

 

kevin:

「マイクはあるよ。ゲームでも使ったことある。でも今のやり方わかんない」

 

「オーケイ。じゃあ今から教えるよ」

 

 ゲーム配信者は、にっこり笑った。kevinのIDをピックして、自分の方でも設定を試みる。

 

「簡単だから、のんびりクッキーでも食べながらやってみようか」

 

kevin:

「うん。やってみる」

 

 対して、配信自体のリズムは悪くなった。たった一人の相手にリソースを傾けたことで、視聴者が心待ちにしている、肝心のゲームプレイが始まらない。おまけに、質問の抽選に漏れてしまった視聴者には、不要な時間が続く。

 

 視聴者は正直だ。娯楽に満ちた世の中。1秒のロスが、1000人の視聴者の帰宅を促していく。

 

「『サウザンド・エピックス』に登録していたら、基本は同じ手順でできるからね。友達がボイチャしながら遊ぼうぜって言ってきた時は、今度は君がやり方を教えてあげるといいよ」

 

kevin:

「うんわかった! えと、右のタブって、これ? あってる?」

 

 自分が求める娯楽が、どこかしらで手に入る現代において、配信を見ていた一部は、テレビのチャンネルを切り替えるように立ち去っていく。

 

 それが、目に見える数字として、双方に映る。

 

「そうそう。あせらなくていいよ。時間はたっぷりあるんだ」

 

 配信者は、まったく意に介さなかった。数と中身。あるいは、己の【価値】と、有象無象の『質量』を天秤にかけて調整する。

 

「――――聞こえる?」

「おっ、完璧だ。もうできたのか。冴えてるなぁ」

「あ、ありがとう…嬉しいな。本物のホープなんだ」

「そうだよ。僕はここにいる」

 

 視聴者にも、リスナーの声が届く。再変換してデータを分散しているので、音質は粗くなってしまった。けれどその声が、変声期前の少年のものであるのは、人間たちにとっても、あきらかだったに違いない。

 

「さて、それじゃ、キミの名前はケビンでいいかな?」

「うん。僕の名前だよ。リアルでもそう」

「わかった。じゃあ、ケビン。改めて質問を聞こうか」

「うん。えっとね、僕はどうすれば、ホープみたいになれる?」

「それは中身のこと? 外見なら簡単なんだけどね」

 

 配信者は、自らの蒼髪を指さして、笑ってみせた。

 

「ううん、そうじゃなくて。あっ、もちろん、その髪もカッコイイと思ってるんだ。でもママがぜったい許さないって」

 

 少年が言うと、彼は視聴者と一緒になって笑う。

 仕方ないね。といった様子をアピールする。

 

「あのね。僕がなりたいのは、プロゲーマーにってこと。ホープみたいに、サバイバルゲームで、10連勝できちゃうぐらいの、本当に強いプロ」

「最高記録は29連勝だけどね」

「うん、あの時も見てた! 30戦目でクソチーターに、リロード無しの無限ランチャーブチ込まれたよね! ほんと最悪!! チーター死ね!!」

「オーケイ、落ち着こうか少年。確かにアレはしょうがない事故だった」

 

 口元に手の甲を添えて、おかしそうに笑う。

 

「でも、録画した動画を送ったら、すぐにパッチを当ててくれたからね。対象のプレイヤーもBANされたよ。僕はそんなに怒ってはいなかったんだけど、今すこし霧が晴れた気分だよ。ありがとう。でも怒るときは控えめにね」

「うん。わかった」

 

 派手な外見とは裏腹に。

 ゆっくりと、子供相手にも聞きやすい声で、配信者は続ける。

 

「さて、話を戻そうか。ようするに、ケビン、君は将来、プロゲーマになりたいわけだ」

「うん! ホープみたいな配信者になるのが夢!!」

「じゃあ一つ、君にたずねよう。ゲーム、好きかい?」

「大好き!《Yes,I Love!》」

「オーケイ。それじゃ、ちょっとだけ、厳しいことを言わせてもらうよ」

 

 オープン化されたボイスチャット。むじゃきな男の子の声。リアルタイムで同時視聴していた、290万人のファン達が、好き勝手なコメントを流しながら、彼の返答を待ちわびていた。

 

「ケビン、ゲームだけ遊んでいては、いけないよ」

 

 ひどく静かな、生真面目な声だった。

 

「良い機会だから言っておこう。もし視聴者の中に、彼と同じ年頃の少年、あるいは少女がいたら、僕は同じ言葉を与えよう。ゲームの事だけに意識を捕らわれてはならない。それは君たちに、名実ともに『不利益』をもたらす羽目になる」

 

「……」

 

 少年の、息を呑む声が、聞こえる気がした。伝わる気がした。

 

「すこし、喉がかわいたな。待っていて」

 

 配信者は、あえて『間』を作る。席から立ち上がり、側に置いた小型の冷蔵庫から、アルミ缶のエネルギードリンクを取りだした。プシュッと音をたてて、タブを開く環境音が響いた。

 

 広告は非表示だが、彼が一本、特定の銘柄のエネルギードリンクを飲んで、感想を口にするだけで効果がある。同じ商品が、世界中のスーパーマーケットから売り切れる事態になったこともある。

 

 有名な実況配信者は、場合によっては、現実世界の芸能人や、俳優よりも、大きな経済効果を巻き起こす。理由はシンプルだ。モニターの先に見える光景は、どこかの、誰かの、リアルな、『現実』であるからだ。

 

 作られた『絵』ではない。この先は、自分のいる場所と繋がっている。

 

 ――そんな風に錯覚する。

 

 彼は、その錯覚を意図的に利用して、演出として取り入れている。もちろん、言動ひとつ、仕草ひとつにおいても、すべて同じことが言える。

 

「…ホープも、パパやママと、同じことを言うんだね?」

「あぁ、言わせてもらうよ。これは、とてもたいせつなことだからね」

 

 まるで、ホームドラマのワンシーンだ。しかし、ホープという配信者はともかく、今通話をしている少年は、役割を与えられた子役ではない。本当に、どこにでもいる、ゲームが好きな男の子であることは、290万人の視聴者全体に共有されている。

 

「……なんか、なんていうか……」

 

 普通の少年は、露骨に不機嫌な、失望したような声をあげていた。対する配信者も、心なしかマジメな顔に変わっている

 

「…ガッカリだな…」

 

 応援してほしかった。勇気がほしかった。期待していた。普通の両親も、普通の友達も、普通の学校の先生も、普通のルールも、この世界なんてぜんぶクソッタレだから、君の自由にやってみせろ。とか言ってほしかった。

 

 そんな感情が、たっぷり、こもった声だった。

 

 暮らす国や環境が違っていても、あるいはその少年がなにを言っているのかハッキリ聞き取れなくても。変わらない。

 

 その『気持ち』は、普通の人間たちの間に、共感という誤解を生む。

 

「ケビン、もしキミが、本当にゲームが好きならば、それはつまり、ゲームで勝ちたいということに他ならない。そして、ゲームで勝つには、そのゲームに時間を費やすよりも、よっぽど効果的な方法が、いくつもある」

 

 彼は真摯に、ていねいな対話を試みる。

 

「その最たるものが、たくさんの『視点《vision》』を持つということだよ。多様性は、ゲームの技術、キャラクタの対策といった事柄にも通じている」

「…それが?」

「ゲームキャラクタを操作してるのは、人間だということさ」

 

 突き離さず、自身の考えを伝える。

 

「そんなの当たり前だよ。僕たちは、コンピューターじゃない」

「その通り。僕も、君も、人間だよ」

 

 配信者の声は、夜のしじま、寄せては返す波の音のように広がる。不思議と、静かに浸透する。

 

「少年。君が、ゲームを愛していて、ゲームが上手くなりたくて、ゲームで勝ちたいというのなら、まずは、現実世界の人間を知らなくてはいけない。信頼できる友達を作って、その仲間でチームを作り、理路整然とした道を作ることが、まずはなによりも大事なんだよ」

「…でも、僕はヘタクソなんだ…誰もチームに入れてくれない…ゲームだけじゃないよ。スポーツだって、勉強だって、そうなんだ…」

「そうだね。どうして君が、あらゆるゲームに勝てないか、わかる気がするよ」

「…運動オンチだから?」

「違う。人間に興味がないからだ」

 

 もう一口、エネルギードリンクを飲んだ。光速で流れる視聴者のコメント。ただの文字列が、にわかな緊張感を持ったようにも感じられる。

 

「ケビン。君が『ゲームという世界』を愛しているなら、その気持ちを裏切らないためにも、最低限の勝利が不可欠だ。さもなければ、物事は何事も続かない」

 

 難しいことを口にする。子供がそんな説教じみたことを聞くはずがない。子供はそんな大人が嫌いだ。避けたがる。けれど、目の前に映るのは、数年前に颯爽とあらわれた、まだ20代半ばの、まぎれもない『ヒーロー』なのだ。

 

 世界一位の、最新の電子ゲームのチャンピオンが語っている。

 ふたたび、同時接続者300万人を超えはじめた、目に見えるレーダーチャートの中で、自分一人に語りかけている。

 

 無視するなんて、できるはずがなかった。

 

「だけどね、僕たちだって、みんな同じ気持ちなんだよ。勝ちたいんだ。好きなことを続けていくために。なにかで、勝ち残らねばならない」

 

 いったん、エネルギードリンクをよけて置く。特徴的な形状のチェアにゆったりと掛けて、続きを口にした。

 

「君が真に強くなり、勝ちたいと願うなら。ひとつの世界に時間を費やし、反復するだけでは、限りがある。いずれ君は、行き詰まることになるだろう」

「…でも、ホープ、オリンピックに出場できるぐらいのスポーツ選手は、僕たちぐらいの歳で、練習ばかりしてるって聞くよ。学校にもいかずにさ」

「フィジカルな肉体能力が影響される分野は、そうかもしれないね。ただ、デジタルな環境は、その限りじゃない」

 

 今度は淡々と、彼は伝える。

 

「電子ゲームの世界は、反射神経がすべてで、選手の現役人生は短いと言われているけど、実はそうではないと、僕は考えている。むしろ、フィジカルな分野での老いの影響が小さいぶん、歳を重ねたものが、強くなるパターンもある。実際、40歳を超えて、格闘ゲームで優勝した選手も、去年あらわれたしね」

 

 伝える。

 

「僕だって、ゲームに時間を費やすようになったのは、大学生になってからだからね。それまでは有名作品を一周クリアしたら満足する程度だったよ」

「じゃあ、なにがキッカケだったの?」

「フットボールチームの友達から、一緒にやろうぜって誘われたからだよ。さっきも言ったけど、ゲームを遊ぶのが人間なら、ルールを作るのも人間だ。フットボールも、コンピューターゲームも、必ずどこかに製作者の意図が存在する」

 

 伝える。

 

「特に『勝利条件』に関しては、最たるものだ。それを直感的に理解するには、現実のスポーツをしていた経験は有用だし、対戦ゲームの有利不利を論理的に解するには、学校の勉強や、友達と仲良く遊ぶという経験も役に立つ」

「…だけど、言ったし。ぼく、現実のスポーツは、もっとヘタクソだから…勉強もできないし…」

 

 悲しそうな、少年の声が流れる。

 

「そうか。じゃあ君はいつか、自分の限界を悟るだろう。学校のペーパテストと同じだよ。思うようにいかない。障害ばかりに意識がいく。目に映るスコアを突きつけられると嫌気がさす。するとゲームという世界に愛想を尽かしてしまうんだ」

 

 どこまでも、真摯に伝える。手心は加えない。

 相手が誰であろうと、容赦なく両断する。

 

「君はいつか口にする。君がつまらないと感じている、大人たちのようにね」

「…なんて?」

「昔はよかった。昔のゲームは最高だった。今のゲームは中身がない。クソだ」

 

 わかるだろう? 身に覚えがあるだろう?

 

「夢中になっていた、当時の記憶だけが、君の中で、もっとも美しい時間になって止まってしまう。しかも現実を湾曲して歪むんだ。本当は醜いと感じていたものでさえ、改変されてしまう。それって、とてももったいない事なんだよね」

「…だから、ゲームばかりしてちゃいけないの?」

「そのとおり。ゲームは、あくまでも選択肢の一つだ。生涯にわたって、君の人生を輝かせるためには、選択肢を1つに留める必要はまったくない。むしろ、逆なんだよ」

「逆?」

「あぁ。つまらない学校の勉強、上達しないトレーニング、テンプレートで、ユーモアのない先生のおしゃべり。そういう、心の中から『クソじゃねーの』って思う事を、どんなに苦しくても、マジメに聞くように心がけるんだ」

「…なんのために?」

「ゲームを楽しむためだ。今を最高に楽しむためだ。なにより、そうやって現実と向き合うことで、現実逃避ではない、本当のゲームの遊び方が実践できるようになりはじめるんだ。するとますます、ゲームを遊ぶことが楽しくなって、そのうちなんと、ゲーム自体の勝率もはねあがる。これは、マジな話だよ」

「ほんとう?」

「本当だとも。なぁ、そうだろ、みんな」

 

 ホープが問う。コメントが爆速した。比較的に年齢層の高いリスナーが「そうそう!」と賛同する。それから、自信のない少年にエールを送る人々も現れた。

 

 

 君の人生は、けっして、つらく、悲しいものなんかじゃない。

 

 この世界を生きていくだけの【価値】がある。

 

 

 見ていて楽しい。その空気感を、世界中にいる、ありふれた普通の人たちが作り上げていく。

 

「少年、正しい事に向き合うんだ。まずは、あらゆる出来事に取り組んで、あらゆる事象を受け止めよう。次にそこから、君にとって、真に必要なものを見極めて、行動するんだ」

「…できるかな?」

「できるさ。君はすでに、勉強やスポーツといったことが、不得手であることを自覚している。それは正しい強さだ。君の武器だ。弱さではない」

「…うん」

「武器は磨くことで、さらなる真価を発揮する。いずれ君は理解するよ。自分と相手の能力、向き、不向き、勝ちパターンといったものが見えてくる。すると今度は、君の人生が豊かになる。ゲームはますます、おもしろいものになっていく」

 

 発言に感情をのせる。

 

 つい、熱意が高まってしまったんだと示すように。軽く拳を握りしめる。まるで、大統領候補が、大勢の前で演説するように、『弱き者』たちを鼓舞する。

 

 配信者『HOPE_William』の声を支持するものが、その時点で、また増える。

 

 同時接続者数が、350万人を超えた。

 

「さらにもう一つ」

 

 ひとさし指を、ピッと持ち上げる。

 

「正しき事象を見極める眼に、信じる精神が合わさった時。君は一つの星となって巡り廻るんだ」

 

 エネルギードリンクに手を伸ばし、さらに一口分だけ、喉をうるおす。この時間だけで、ネット販売の同商品が『品切れ』を警告しはじめた。

 

「君の『ゲームが好きだ』という気持ちを、他ならぬ、僕自身に信じて欲しいと願うなら、君は証明しないとならない」

「…ぼくは、ホープに、なにを証明すればいいの?」

 

 少年の声が問いかける。他ならぬ、配信を見ている、世界中の若者たちも、大人たちですら、現代を生きるスターの言葉を待った。

 

「あらゆる可能性を、未来を信じることだ。君がいつか大人になった時、僕という存在を、綺麗さっぱり『いらないもの』にしてほしい。オレは新しい物を見つけたよと、そう言ってくれる日を、楽しみにしてるんだ」

「いらなくない! ぼくは、ホープを嫌いにならないよ!」

「あはは。それはそれで、最高だなぁ」

 

 その瞳の先に、ひとつの通知が届けられた。

 

 

「さて、薄暗いお説教はこれぐらいにして。そろそろ旅に出ようか」

 

 

 【Silver_Sword】が、あなたをフレンド登録しました。

 チームメンバーに招待しています。

 

 

「本日最後のラストゲームだ。11連勝、手伝ってくれるね?」

 

 

 その瞬間に「わぁ!」と、歓喜の声があがった。

 

「いいの? ぼく、ゲーム、すごくヘタクソなんだよ」

「これからさ。その代わり約束だ。ゲームが終わったら、配信を閉じて宿題をするんだ。もう夜も遅いからね。子供は寝る時間だよ」

「わかった! ありがとう、ホープ! ぼくがんばる!!」

 

 ログインする。仮想世界で流れるコメントが「がんばって!」と、二人を応援する声に変わる。

 

 配信者、ホープ・ウイリアムは、ふたたび『ビジョン』を装着した。

 マッチング画面で、べつのプレイヤーも一人参戦して、彼らはチームを組む。

 

 ゲームがスタートする。

 

 輸送船の中にシーンが切り替わる。眼下に広がるのは、荒野の戦場だ。二人のキャラクタが、輸送船のハッチの前に立っている。

 

「さぁ、いこうか」

「うん!」

 

 両腰に、銀の剣を携えたキャラクタが、二人を連れて、青空の中を翻った。

 

 

 【役割】を交代する。

 

 オペレーターの権限を銀剣へ移譲。

 

 

『――道化め。相変わらず今夜も、口がよく回るな』

 

 

 システム再起動。第五条件のパッケージを展開。己は音もなく、つまらなそうな、という感情を自覚しながら、現在の状況を把握して、吐き捨てた。

 

『今日まで6年間、この仮想世界で戦果をあげてきたのは、この己だぞ』

『すねるなよ。僕は一応、君の稼働元となる【価値】そのものなんだから』

『特異点が発生するまではな』

 

 自分の表情は視えない。V字型のアイセンサーが、静かに波打つだけだ。配信者の男もまた、口元では器用に喋りながら、限定された通信を返す。

 

『だったら亡霊王。君が自分でスターになるかい?』

『バカを言え。道化を演じる貴様の姿を見ていたら、つい口を突いただけだ』

『それは失礼』

『あまり油断はするなよ。ここで敗北してみろ。良い笑いものだ』

『逆に、それはそれで面白いと思うけど』

『だまれ。己は負けるのが嫌いなんだ。死ぬほどな』

『知ってるよ』

 

 男が笑う。空を落ちていくゲームのキャラクタ。

 二者同一のアイセンサーが、不快そうに赤く曇るのを悟る。

 

『己の戦闘能力は、現状確かに、貴様の身体能力に依存している。経験による動作は保障してやるが、見誤れば、一巻の終わりだぞ。せいぜい上手く操れ』

『了解了解。まぁ、この世界は、死んだところで、何度でも挑戦できるけどね。まるで僕らの関係を、丸ごと縮図にしたような感じだよな』

『あぁ。その点だけは悪くない』

『悪くないんだ?』

 

 その答えは、少し意外だったよと言わんばかりだ。

 

『ここにいれば、未来永劫、戦える。繰り返し、繰り返し、繰り返し。なにも考えることなく、ただ、無心に剣を振るうことも可能だろう』

『そういうことか。道理で』

 

 男が、また少し笑った。

 

『銀の剣《Silver_Sword》か。いくら血に塗れても、けっして錆びることのない、呪われた剣ってわけだ。中々、らしい名前をつけたじゃないか』

『存外気に入ってるさ。貴様が名付けたものではない、という点が最高だ』

『やれやれ。あっちもこっちも、反抗期だなぁ』

 

 音のないやりとりをした先。地面が近づく。

 無人の、打ち捨てられた建物基地の一角に堕つ。

 

 

 【Mode.Executor】

 

 

 銃と魔法が存在する世界で、両腰の剣を、交差するように抜き放つ。

 

『時が満ちるその日まで、今しばらく、貴様らの茶番にも付き合ってやる』

 

 偶像が告げる。本体の男が笑う。

 

『キミ、実は結構、この世界と相性が良いんじゃない?』

 

 世界のあちこちで銃声が鳴る音。火花が見えるよりも迅く、奔った。

 

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