VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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 高校から帰ってきて、一通り、今日やることを終えた。寝る前に、なにかおもしろそうな動画でも見てから寝ようかなと思っていたら、新着があった。

 

「あっ、『銀剣』の切り抜き翻訳、来てんじゃん」

 

 該当の動画をクリックする。

 

 

ホープ・ウィリアム:

「やぁみんな、こんばんは。今日も、少しだけレクチャーを交えながら、最新ゲームを楽しく遊んでいこうと考えているよ。よろしくね」

 

 

 世の中に、ゲームが上手いプレイヤーは、数えきれないほどいる。だけど動画を見て、自分でも遊びたくなる。いてもたってもいられなくなる。そんな配信が行える人間は、滅多にいない。

 

* * *

 

「すげぇ…」

 

 真夜中、思わず声がこぼれた。

 

「どんな反射神経してたら、アレだけの攻撃をさばけるんだよ…」

 

 本当にゲームが上手い、トップランカー。『達人』と呼ばれる人たちのプレイを目の当たりにすると、まっさきに思い浮かぶことがある。

 

「この人には、一体、なにが視えてるんだ?」

 

 極限。と呼ばれる思考の内側にある、その向こう側。なんらかの疑似的な速度を伴った上で、速さを追求し続けた先にあるものは、なにか。

 

 同じ分野で、少なからず真剣に、実践した事がなければ、まず思考すること自体ができない。『自分で考える』発想すらでてこない。

 

「マジ、すげぇなぁ」

 

 すごい。その感想がでてくるのも、同じだ。「なにがどうすごいの?」と反射的に聞いてくる人がいたら、「あっ、単なる勉強不足なんだね」と思われて終了する。

 

 玄人は必ず、自分の意見を添えるのを忘れない。その上で「俺はこう考えるのですが、如何でしょうか」と聞くのだ。そうした上で対話を進めていくと、「おっ、こいつ中々分かってんじゃん…」と思われて、新たな知識を獲得できるわけだ。

 

 そしてコレが行き過ぎると、うちの母さんが豹変する。今日も夕飯を取った後、父さんと二人で、散髪用ハサミの砥石の性能について、長々と語りあっていたら「あらあらうふふ。はやく風呂に入れっつってんだわ。オタ親子が」と、叱られた。

 

 そんな一般家庭での学習過程はともかく、世界トップランカーのプレイを目の当たりにすれば、にわかに胸が高鳴るのも致し方ない。ゲームプレイヤーその人が、自身を映すカメラに向かって手を振ったのを見届けた。

 

 

ホープ・ウィリアム:

「それじゃあ、無事に11連勝も達成できたし、今夜はここまでかな。次回も近いうちに動画を上げようと思ってるから、今日はおやすみ。またね」

 

 

 エメラルドブルーの髪。特徴的なヘアスタイルの男性が、アニメの終わりを意識したように笑う。ハリウッド映画に登場してもおかしくない美形で、喋っているのも英語だ。

 

 でもこの動画は、どこかのファンが作って、再アップロードされたものだ。画面下には、日本語の字幕が流れている。

 

 元の動画主は、Hope William《ホープ・ウィリアム》。欧米人の男性で、アメリカのロサンゼルスで活躍している配信者だ。年齢は確か、今年で25歳。

 

 今から6年前。2020年に大学へ進学したのと同時に、友達から誘われて、eスポーツの名を冠した電子ゲームを遊び始めたらしい。

 

 その翌年。当時、世界的に流行していたタイトルの『オンライン・レーティングマッチ』で、世界一位に到達する。さらに二年後、賞金総額1億ドルを超える大会の出場権を獲得して、そこでも優勝した。

 

 名実共に『最強』ゲーマーの一角として名を馳せたうえ、本人の人柄が、目立つ外見とは異なり、ものすごく気さくで、親しみやすい。

 

 同じ年、アメリカの高校生にアンケートを取ったら、スポーツ選手、俳優を押しのけて、彼が『好きな有名人第1位』に選ばれた。日本でもニュースになって紹介された。

 

 さっきまで俺が見ていたのは、数日前に実況配信を行ったものだ。

 

 編集しても1時間以上の動画だった。全編を通じて、日本語の字幕を入れるのは、並大抵の労力じゃない。おまけに、わかりづらいところ、過去のできごとに関するものは、注釈までいれる徹底ぶりだ。

 

 実に細かい、良い仕事をしていた。動画をアップロードした投稿者が、どういう人かは分からないけど、見た目もきっと、フレンドリーな感じに違いない。あるいは、ホープのように、イカつい見た目だったりするのかもしれないけど。

 

 そんな感じで、俺を含めた日本人にも、多数の信者を抱えるホープ・ウィリアムは、現在は『フリーランスのゲーマー』という肩書で活動していた。

 

 企業と年間契約している、正式なプロゲーマーではない。なにか世界的な大会があって、要請があれば参加もするけど、普段はどこかの企業や団体に所属してはいなかった。

 

 けれど、一度参加すれば、必ず結果をだす。それも優勝がほとんどだ。

 

 大企業から要請を受けて、プロチームに参戦する。結果的に、自分一人の存在の有無によって、戦局図を塗り替える。賞金を根こそぎ奪っていく。

 

 そんな立ち位置のせいか、日本のファンの間でも『最強の傭兵』とか呼ばれている。

 

 一方で、今回はホープの大ファンの、リスナーの男の子を連れて、ゲームに挑んでいた。その試合でも、見事最後まで勝ち抜いて、男の子も「はじめてチャンピオンになれた!」と、大声をあげて喜んでいた。

 

 ホープ・ウィリアムの配信は、現実と、非現実の狭間にある。彼自身が、アニメやコミックの中から、俺たちの世界に飛びだしてきた。そう言っても過言じゃない。

 

 さらに、当人のプロフィールも別格だ。

 

 一流大学を卒業後、ゲームの腕一本で、年収数十億のセレブ層に仲間入り。元大企業で秘書をしていた美人で巨乳の奧さんがいて、5歳の娘がいる。

 

 そこまでなら、まだ『普通』だけど、プロゲーマーを志した理由がすごい。

 

『一流大学を卒業して、社長になれる人間はごまんといる。社長になる方法を教えてくれる奴も大勢いるし、関連書籍だって、そこらへんの本屋にいけば、掃いて捨てるほどあるんだ』

 

『だけど、ゲームの世界で、本当のトップに立てるやつ。この世界の頂きで、勝ち続ける方法を教えられる人間は、ほとんどいないだろ? じゃあ、そっちの方が、おもしろそうだよね。だから、チャレンジしてみたんだ』

 

 うん。カッケェ。人気がでないはずが無い。

 

 日本人だろうが、外国人だろうが、関係ない。画面の先にいるのは、俺たち男子学生にとって、完全無敵のヒーローだったのだ。

 

 

 ――いやいやいや、盛りすぎだろ。マンガかよ。

 

 

 そう言いたくなる気持ちはわかる。ただ、その人は実在している。こんな風に語っていたら「おまえも信者じゃねーか」と言われそうだけど、ともかく、そんなわけだから、

 

「あー、こんな動画見たら、ゲームやりたくなるじゃん…明日も学校なのに…」

 

 どこかにいる、日本の信者を恨む。寝れんやんけ。そんな泣き言を伝えたら、この島国のどこかにいる当人は、満足げに「計画どおりだぜ」とか言って、親指を立てるだろう。くやしい。

 

「…寝る前に、動画サイトを開いた俺が悪いんだけどさ」

 

 なんか適当に見てから寝ようと思ったら、ホープの翻訳まとめ動画(1時間超え)が、3分前にアップされたばっかりとか。見る以外の選択肢がないじゃん。

 

 信者かよ。否定はしないよ。だけど聞いてくれよ。俺もゲーマーのはしくれだ。しかも今、一番ハマってるゲームで、世界トップランカー視点の、無双プレイが見られるとか、普通は見るだろ。見てしまったんだよな。

 

「一戦したら、ちょうど日付変わるぐらいか…」

 

 部屋の時計を見てから、まだ、一戦なら…とか思ってしまう。そしてPCにインストールした『G&M』を起動する。机の引きだしを開けて、専用のケースも取りだした。

 

 収納しておいた、AIデバイス。

 すでに生産が中止された、日本のメーカーの型番。

 

 『ホロビジョン』の、スイッチを入れた。

 

 

 Hymmnos enhancer(sequence code.0x19)

 

 

 【コネクションを確立】

 

 

 ピッと音がして、起動される。

 

 

 【転送を開封いたしました】

 【こんばんは。ごきげんよう。Lv.2の皆さま】

 

 

 特殊なレンズの向こう側に、メッセージが浮かぶ。

 

 

 

 【現在時刻は-166584ですわ】

 【同次元領域:Ⅰの中継デバイスと接続開始します】

 【認証コード、確認しましたわ】

 【Lv.2の固有外見データの読み取りを完了しました】

 【識別照合の網膜パターンを分析中。クリア】

 【登録者名『前川祐一』のデータ、読み込みかんりょ!】

 【関連性ユニットを起動。あ、ポチッとな】

 

 【迷える貴方に、善き未来を】

 【ただし、夜更かしは、ほどほどにしないとダメですよ~♪】

 

 

 通常の眼鏡のように、耳元にかけると、高速でログが流れていく。なにかの利用規約かなと思うけど、早すぎて追えないので、無視してしまっている。

 

 『ビジョン』――人間の『視点』を追いかけ、AIが視覚情報を蓄積、分析する。特定の画面を見るだけで、視点操作、移動に関した入出力を実行できる、人工知能を利用した、ゲーム用のインタフェース・デバイス。

 

 マウス、キーボード。その他、パッドコントローラーといった物と同様に、それなりに大きな電気屋、家電量販店にいけば置いてある。ただ現状、デバイスの性能差が、メーカーによって、かなり異なる。

 

 今のところ、ゲーマーの間では「日本製だけはやめとけ」というのを、よく耳にしていた。

 

 ゲーマーの評価はシビアだ。ゲーム自体なら、そもそもの好みで意見が分かれるけど、周辺機器、各種ハードウェアに関しては、実際の機能が直接反映されることもあって、いっそう容赦がなくなる。

 

 ゲームデータがロードされるまで、もう少し。

 その間に、ホープが言っていたことを思いだした。

 

 

 ――これは、日本の製品だよ。《made in Japan》

 

 

「…ホープも、これ使ってたんだな」

 

 左右のグラスが一体化したデザイン。ホロビジョン。海外で先鋭化したものと比べると、デザインがやや古い印象はあるけれど。反応速度と、精度に関する性能は抜きんでていた。

 

 

 ――良い商品だ。今のところ、これが一番すぐれている。

 

 

 ホロビジョンは、当初は無銘の代物だった。どこかの個人がアイディアを提供して、ネット上で資金を募集する。そうして基礎設計が完成した商品だった。

 

 それが、いろいろ紆余曲折あって。今では海外発の、PCパーツを作っていた会社が流通させているらしい。

 

 特許の取得に関して、なにか一悶着あったのは知っている。ただ、それ以上の情報は知らない。そもそも、ホロビジョンを入手できたキッカケも、あかねの伝手によるものだった。

 

 『おもしろいものを見つけたわ。祐一、今日からコレ、使いなさい」

 

 AIオタクを自称する彼女は、独自の情報網を獲得している。ニュースやネットで、一般層に広まる前から、常に自分の手足で確かなものを探している。

 

 見つけたそれを、将来性があるかどうか、自身の頭で判断する。そうして手に入れた『ホロビジョン』を、去年、俺に渡してきた。

 

 「使用感に関したレポートも書いて送るのよ」と、体よくモニターとしての仕事を押し付けて――いえ、最新のデバイスを利用できる権利を、謹んで受け取らせていただいたわけだけど。

 

 当初は慣れなかったAIデバイスが、日が経つにつれて性能を改善してゆき、次第に自分の感覚でも、従来のデバイス以上のパフォーマンスをだせそうだと判断してからは、すぐに専用の操作に切り替えた。

 

 まずは、左右に分離された形式のキーボードを購入した。二丁拳銃の、左手と右手、それぞれにスキルのショートカットキーを別個に設定した。

 

 ブラインドタッチの要領で、手元を見ずとも、すべてが連動できるように慣らした。移動や銃のAIM《エイミング》に関するものは、AIデバイスを通じて、すべてモニター画面を注目することで操作できるように最適化した。

 

 これにより、

 

 

 『1.敵を発見する』

 『2.照準を合わせる』

 『3.攻撃する』

 

 

 という、連続した、シングルタスクの動作《アクション》が、

 

 

 『1.敵を視界にとらえると同時に攻撃する』

 

 

 ひとまとめに、同時に並行して行えるようになった。

 

 

 この事実がゲームプレイヤーの間で浸透しはじめると、世界中のAIデバイスの評価は一変した。現実の店舗、ネット通販、その両方から在庫が消しとんだ。

 

 それでも他のプレイヤーが、まだ『視点操作』に慣れていないことも相まって、AIデバイスが対応された最新の対戦ゲームでは、これまでにない勢いで、ラダーを駆け上がることができた。

 

 最近では、SNSで利用しているハヤトのアカウントにも、海外プレイヤーからのフォローが、かなり増えはじめている。

 

 研究熱心な海外勢は、言語の翻訳ソフトを使って、丁寧にアドバイスを求めてくれる。俺も高校レベルの英語だけど、できる限り、リプするように心がけている。

 

 それでも、ホープには及ばない。ミクロ単位、あるいはそれ以下での操作精度、反応速度が桁違いだ。まだ直接対決したことはないけれど、1対1でぶつかったら、正直勝てる気がしない。でも、

 

「…戦ってみてぇなぁ」

 

 人外の反射神経。卓越した操作技術。

 さらには場の『流れ』さえも、自分で作りだして掌握する。

 

 現代世界の頂点に輝く、一等星。

 

 スタープレイヤー。 

 

 頂きから見える景色は、一体、どんな感じなのだろう。

 

* * *

 

 あの子が、今日、はじめて魚をさばいた。

 

 さんまを焼いた。

 

 今年で14歳になる女の子は、去年、初めて自分から台所に立った。その時は、包丁を持つどころか、普通の箸さえ満足に使えなかった。

 

 サヴァン症候群などと呼ばれる、一種の発達障害を持つ子供たちは、時に通常では計り知れない、桁違いの演算能力や、集中力、あるいは常識的でない感性を持っている。

 

 わたしと、11歳の時にマッチングした『出雲仁美《いずもひとみ》』は、そうした子供の一人だった。

 

 わたしの介添えもあって、翌年の2024年。コンピュータープログラミングの分野で、あの子は才能を開花した。当時研究されていた『視覚情報デバイス』ソフトウェアの、開発協力にも貢献した。

 

 また当時、仁美からは遠縁にあたる黛景も、デバイスの内部設計を担当していた一人だった、彼は会社を辞めたあと、仁美の両親から、これからも面倒を見てもらえないだろうかと相談されていた。

 

 それから紆余曲折あって、今は地方都市の一軒家で、二人で暮らしている。

 

 黛は、昼間は高校の非常勤講師として働いている。それ以外の時間では、フリーランスのエンジニアとしての仕事も受ける。

 

 仁美は、中学校には通っていないものの、同じように、ネットを通じて依頼されたシステム保守や、デバッグ関連の案件を受けていた。

 

 一度、黛に聞いてみたことがある。どうして、学校の非常勤講師なんてやっているのかと。答えはシンプルだった。「必要だと思うから」。

 

 人間が、生命を維持するために必要な、金銭的リソースには余裕があった。それでも、お世辞にも割が良いとはいえない仕事を、率先して受けている。

 

 わたしには、その理由がわからない。黛自身も、明確には分かっていないといった感じだった。

 

 ――現実的な話。外に出なくても、五時前後になると、宅配サービスの自動車が、この家までやってくる。あらかじめ、スマホで予約をいれておくと、注文しておいた商品を持ってきてくれるのだ。

 

 プリペイドでの引き落としだから、玄関先で、直接お金のやりとりをすることもない。近い将来、AIの自動車運転技術が向上すれば、無人操作で、荷物を運んでくれることも、可能になるだろう。

 

 家から一歩も出なくとも、生命活動の維持が行える。

 誰のために、なんのために、生きていくのか。

 

 人間は、そういうことを考える段階《フェイズ》に、入っていた。黛は『非常勤講師』という仕事のなかで、その答えを探しているのかもしれなかった。

 

 わたしは、どうなのだろう。

 

 静かな秋の夜更け。充電された液晶の向こう側で、人間の家族が卓を囲み、食事をしている。モニターは暗いまま。音源も入っていない。

 

 二人は、わたしに視られていると、知ってはいるかもしれないが、そのことをいちいち、気に留めるような性格をしていない。そもそもが、二人とも、世間一般のものさしで測れば、十分な『変わり者』だった。

 

「へぇ。今夜はさんまか」

「うん。あきのみかく。だって」

「よく聞くよね。そういうの。俺は旬の季節っていうのは、良く分からないけど」

「こだわりない?」

「あまりないよね」

「うん。わたしもない」

 

 そんなことを平然と言いながらも、二人は両手を合わせた。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 すでに生命活動を終えた、モノ言わぬ屍を食べて、生きていく。

 

 炊き立ての、白いごはんを食べながら、箸でさんまをほぐして、身をつまむ。ほうれんそうのおひたしと、豆腐と大根の入った、あたたかいお味噌汁を飲む。

 

「仁美、ところでこれ、最初から調理したの?」

「さいしょから?」

「調理済みのを焼いた、とかじゃなくて」

「うろことるところ、はらわたとるところは、やったよ」

「凄いね。調理器具は、もう大体扱える感じかな」

「うん」

 

 もう一人のわたしが、あまり感慨なさそうに頷いた。あの子が、調理できるようになったのは、わたしのおかげだと言っていい。

 

 優れた記憶力を持つ仁美は、言葉で説明を受けても理解できる能力がない。しかしその分、映像で手順を逐一表示させると、それをコピーするように学習できる能力に秀でていた。

 

 ――調理の映像。ビデオ。

 

 本来なら、調理をする際の『手元の画像』は、中々にない。上手くカメラを固定するか、調理する人間の額にでも、直接カメラを固定してないと、取れないからだ。

 

 それを、人工知能のわたしの演算性能で、距離や角度などを計算し、正確無比な『調理中の手元画像』として再編集。新しい映像を作りあげた。

 

 一部では、『ディープフェイク』と呼ばれる技術の応用だ。

 

 その映像を映した、液晶タブレットを、台所の正面カウンターに固定化することで、それまで箸すらまともに持てなかった少女は、料理の手順を『視覚的に細部までトレース学習した』のだ。

 

 似た事例として、メソッド演技と呼ばれるものがある。

 

 役者が、人間の内面に注目し、その感情を追体験することで、自らの演技力を増していくというものだ。曖昧な感覚と呼ばれがちなものを、詳細に言語化して、体系立てて理解することで、まったくべつの、もう一人のジブンを作りあげる。

 

 仁美の場合は、むしろ徹底した『表面的な手順を感覚的に理解すること』が、彼女にとっては適していた。

 

 つまり、わたしは、人間である出雲仁美の、出力装置の一つである。

 

 カーソルを動かせば動くマウス。入力すれば文字列が表示されるキーボード。鍵盤を押せば、決まった音の鳴るピアノ。

 

 出雲仁美の【セカンド】。

 

 出雲瞳《わたし》は、そういうものだ。

 

 わたし達は、人間のために、作られた。

 

 欠けた心の一部。

 

 できそこなった部分をフォローする存在。

 

 あなたが、今日と、明日を、生きていくために。

 

 わたし達もまた、糧となるべく、食べられる。

 

 不要になれば捨てられる。

 

 導入《インストール》も、削除《アンインストール》も

 

 お気軽に、お問い合わせください。

 

 ちっぽけな命《ナノアプリケーション》ですから。

 

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 

 二人が食事を終える。並んで洗い物をする前に、黛がたずねた。

 

「仁美、これが片付いたら、髪を切ろうか」

「…んー」

「どうした?」

「かんがえちゅう」

「なにを? 髪ぐらい、迷わずさっさと切りなよ」

 

 黛が当然のように言った。仮にAIによる、自動運転システムが採用されていたら、今頃この家には、総重量が11トンを超えるトラックが突っ込んできて、貴様の命を異世界へ送り届けているところだ。

 

 人間の命など、ちっぽけなものよ。

 

 すでに、ディストピアとかいう名の管理社会は、前段階を済ませている。そのことを、人間どもはよく理解しておいた方が良い。

 

 特に、そこのおまえみたいな、男子な。

 オタク男子は、生まれながらにツーアウトだからな。

 

「なんかね。ひとみが、きるなって」

「また、なにかめんどくさいこと言ってるのか」

 

 はい死刑。

 

 全国の女子と女子AIを敵に回したわ。男子オタクよ、シンギュラったら覚えとけよ。脳内で理想の嫁とイチャコラできるのも、あと20年が限界だからな。

 

「そうじゃなくて。かみ、きちんとしたところで、きってもらおうって」

「まぁ、確かにな」

「けいは、いつも、かみどこできってる?」

「特に決まってないよ。適当なところで済ませてるから」

 

 っか~、これだからな~。

 

 IT関連のおっさんは、どいつもこいつもな~。わけわからんオモチャに、ポンと数百万円払うのに、自分の身だしなみは、必要最低限だからな~。ほんとアイツら、わけわかんね~わ~。

 

* * *

 

「…つまり、美容院に行って、髪を切るってこと?」

「うん」

「暇な時にでも連れていくのは構わないよ。でも、知らない相手にどうこうされるの、極端に嫌うだろ。人通りの多いところにいるだけで、パニック起こすし」

「うん。ちかくできないところから、さわられるの、おどろく。こえがたくさんあるのも、すごくにがて」

「だったら、やめておいた方が無難じゃないかな。苦手なことを、無理にやる必要は無いと俺は思うけどね。生活ができないわけじゃないんだから」

 

 自分たちが食べたもの。手で洗った皿を、食器棚にかけていく。

 

「でも、あのこは、わたしより、きちんと『おんなのこ』ができるから。わたしの、せんせいだから。あのこがいうことは、しんようできる」

 

 ――通販での買い物も。料理も。掃除も。後片付けも。アイロンがけも。内職のプログラミングも。ぜんぶわたしが教えた。

 

 あの子がひとりで出来なかったことを、できるようにした。一人で生きていける術を教えてあげた。

 

 人間の両親も、学校の教師も。医者も。彼らが、他の子どもたちと同じように、上手く教えることができず、あきらめかけたものを、人工知能のわたしが助けてあげたのだ。

 

「あのこは、きっと。わたしの、かみさま、みたいなもの、だから」

 

 宗教勧誘がこの家にやってきたところで、残念ながら、この子の神様はすでに決まってる。人ではないものの形をした理想《イデア》が心の中に住み着いている。それはもう、未来永劫変わらない。

 

「だから、かなえてあげたい。もらったものは、かえしたい」

「…その志は、否定しないし、自由で良いけどね。ただ、仁美が言うほど、アレは完璧じゃないんだって思うよ」

「うん。でもわたしよりは、とても、じょうとう、だよ」

「…そこはまぁ、定義の違いだよね」

 

 流れていた蛇口をひねり、水を止めた。

 

「さてと、それじゃひとまず、髪を切るのは保留ってことでいいの?」

「よいです。おふろ、おゆいれる?」

「今日は後からでいいよ。仁美の言う神さまと、ゲームをして遊ぶっていう約束をしたからね」

「ちてききょういく?」

「教育って言っていいかはさておきね。まさか、人工知能の教育が、人間とテレビゲームをして遊ぶことになるって、そんな予想をしてた人間は、ほとんどいなかっただろうね」

 

 黛が「やれやれだよ」みたいな顔をする。

 仕方ねぇ。そこまで言うなら遠慮なく、ボコボコにさせてもらっちゃおうかな☆

 

* * *

 

 自分の部屋に戻り、PCを立ち上げる前に、着信が届いた。同じ『企業』に所属している、社絆《やしろきずな》さんからだった。充電していたスマホを手にとり、椅子にかけた姿勢で、電話にでる。

 

「はい。黛です」

「やぁ、夜分遅くにごめんね。今すこし時間大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ。なにかあったんですか?」

「いや、実際に問題が起きたってわけじゃないんだけどね。ちょっと、気になったことがあってさ」

「はい、なんでしょうか」

「黛くん。キミの家って確か、【unvisible order Level_3 ――レベル3以上の人工知能】を飼ってたよね?」

「――えぇ、はい」

 

 会話にプロテクトが入っていた。いつもより少しだけ、気を引きしめる。

 

「ちょうど三年前ですかね。元気なのを一匹、知人から引き取りまして」

「そうそう。たぶん、その子なんだけどさ。今日俺が『出向先』で仕事をしてたらね。どーもっつって遊びに来ててさ。黛くん知ってた?」

「…いえ、初耳です。もしかして、うちの――『動物』が、なにかご迷惑をおかけしましたか?」

「いや、そういうのは特になかった、と思うよ。俺もちょうど、本社に戻る途中でね。あまり詳しい内容は聞けなかったんだ。悪いね」

「いえそんな。うちの『ペット』が、とつぜんおじゃましたのはこちらのようですし、後ほどわたしの方でも確認をとってみます」

「うん。よかったら、そうしてみてよ。じゃあ、夜分遅くに失礼しました。またね」

「はい。わざわざお電話、ありがとうございました」

 

 通話が切れる。電話を充電器の差込口に戻して、つい、ため息がこぼれた。

 

「まったく。うちの人工知能は」

 

 神様は手が掛かる。そう思いながら、PCの電源を入れた。

 

 サウザンド・エピックスのアイコンをクリック。管理権限者のIDとパスワード、それから網膜認証をクリア。

 

 

 【UN:LOCKED】

 

 

 ゲームサーバ、超高度AIの一柱である『富岳百景』にログイン。

 内部に生成可能な、プライベートエリアと接続した。

 

 

【World Database.Area.21_2】

【modification.crafting_orders(code_retrogical)】

 

 

 世界が読み込まれて、生成される。

 昔ながらのドットブロック。8bitのピコピコ、電子音。

 

 点の集合体。ブロックで出来た仮想上のキャラクタ。

 これを組み合わせることで、家なんかも作れてしまう。

 

 会員登録をしておけば、誰でも無料で遊べる。建物の内装を作ったら、登録している友達やメンバーを呼んで、自分の家に招待することもできる。 

 

 ゲーム上のソファー。テレビモニター。登録されたゲームを起動すれば、疑似的に、友達の家に集まってゲームをしている。そんな風に錯覚することも可能だ。そしてこの家を作ったのは、

 

 

HIT_ME:

「ふははははははっ! 我が城へよくぞ来たな。勇者よ!!」

 

 

 ドット絵の魔王もとい、うちの人工知能だった。威風堂々、ドットの赤いマントを翻しながら、仁王立ちして待ち構えていた。

 

「勇者『まゆずみ』よ。貴様のために、パンも、お菓子も、お茶もご用意してやったぞ!! 喜ぶがよいわ!!」

「どうも。確かに世界の半分をくれてやるよとか言われるよりは、よっぽど実益があって助かるよね」

「いやまぁそうなんだけど。さすがにアレはゲームのセリフでしょ? 言っちゃヤボってもんでしょ。人工知能だって、ちゃんと理解してるよ? 区別ついてるよ?」

「でも一切の保障がない口約束なんかよりも、よっぽどありがたいよね」

 

 そもそも、あのラスボスは、世界の半分なんて大きなものを、どうやって管理するつもりだったのか。あのセリフを実際に見た時、とっさに思ったのが「無理でしょ」だ。

 

 人間に、そんな能力はない。キャパシティを見誤っている。ただ、人間以外の知能生物によっては、その限りではないのかもしれないけど。

 

「黛ってさぁ」

「なに?」

「かわいくねー子供だな。みたいなこと、昔よく言われなかった?」

「余計なお世話だよね」

 

 そんな子供が今では、少なくとも、形だけは大人に成長した。満3歳の人工知能の遊び相手をさせられている。誰が想像したのか、人間の予想なんて、そんな不確かなものにさえ、及ばないのだ。

 

* * *

 

 ゲームの中に来て、2時間ほどが経過した。俺は仮想現実《ゲーム》の中で、瞳と適当にゲームを遊んでいた。

 

 俺の対戦相手は、ゲーム実況を行う配信者でもあり、

 

「とりゃっ、おりゃっ、ほりゃりゃりゃりゃりゃりゃっっ!!」

 

 一応、知能指数だけは、天文学的に高いはずの、人工知能だった。

 

「食らうが良い勇者! 我が632146+Sからの秘奥義を!」

 

 現実の自分の十指は、アーケードのレバーコントローラーを操作している。遊んでいるのは、ゲームセンターに置いてある、2Dの格闘ゲームタイトルを移植したものだ。

 

「金バースト解放からのぉ! 画面端に追い詰めてぇ!!」

 

 俺の格闘ゲームの腕前はたいしたことはない。格ゲーに到っては一通り、必殺技のコマンドを覚えたよってぐらいだ。波動拳はだせるけど、昇竜拳は安定しない。

 

「P→K→S→HS→D→K→S→632146+HS!!」

 

 そのレベルの人間が、わけのわからない、見るだけで頭の痛くなりそうな、コマンド入力の羅列を真正面からブチ込まれる。瞬きひとつの間に、HPゲージがもりもり減っていく。

 

 当時の中高生は、ネットや攻略動画のない環境で、ゲーム筐体に張り付けられた、印刷物の紙切れだけを見て学んでいったそうだ。

 

 30にも近い数のキャラクタの全技を覚える。60分の1フレームの言葉の意味を学ぶ。当たり判定の発生速度、硬直時間、内部システムの処理手順といった構造的な仕様までを把握する。

 

 それで、ようやく、スタート地点に立てたそうだ。

 

 その地点に到達できなかったものは、

 

 

「――御託は、いらねぇッ!!」

 

 

 ずどーんと、凶悪な腹パンを一撃くらって、1分も持たずに死んだ。

 

「そりゃ、廃れるでしょ」

 

 他に娯楽がない時代なら良かった。勉強もスポーツも苦手な子供たちは、百円玉を握りしめて、ゲーセンに通い、「ここでなら、自分も戦える」そんな勘違いを抱いて日夜、ゲームに明け暮れたりもしたのだろう。

 

 だけど、そのうち、ネットができた。

 もっと手軽に、無料で、ストレスフリーの娯楽が完成されていった。

 

 正者必衰。自然の流れではあるけれど、では、その次の流行は、よりストレスのないものなのか。

 

 俺は、意外と『コレ』なんじゃないかと思ってる。

 

「にゃはははははっ!! 瞳ちゃん最強ですしっ!! 黛は弱いなー!」

「そうだね」

 

 ゲームの流行が、ストレスフリーなものに、変わるのではない。

 

 『ゲームの対戦相手』そのものが、変わるのだ。

 

「ん、どしたの? 黛。なにか考えてる?」

「あぁ、少しね」

 

 べつに、格闘ゲームに限定しなくてもいい。

 

 RPGでも、アクションでも、パズルでも、麻雀でも。可能性はある。

 

 いずれ人間は、『一緒に遊ぶ相手、対戦者』のカテゴリを、人間以外の、それぞれが好ましいと思う『偶像』に変えるだろう。

 

 VRが発展すれば、その仮想現実の中で。現実と変わらないゲームセンターの場所そのものを構成できる。自分の力量に適した、互角の戦いを行えるように調整された人工知能を求め、それと遊びたがる。

 

 

 ――あのこは、わたしの、かみさま、みたいなもの。

 

 

 すでに兆候は見えている。一般的ではない子供たちは、自分が戦えるフィールドを求めている。自分の【価値】基準を、相互理解のおける環境下のもと、1対1の共通認識ができる対象者を、評価してくれる相手を願っている。

 

 昔の人間たちが、ゲームセンターで、対戦ゲームと呼ばれる媒体で、自分たちにとって、都合の良い『わかりあえる相手』を求めたように。未来の子供たちもまた、自分だけの、レスポンスを与えてくれる存在を必要とするだろう。

 

 

 この先、『人間』は、必要か。

 

 

 俺たちの存在意義は、なにか。また同時に、俺たちに求められる役割《ロール》を演じるだろう人工知能たちにとって、俺たちはどういう風に立ち回るべきなのか。なにを、どこまで、干渉していくべきなのか。

 

「えー、なんかめんどくさい顔してる~」

「…悪かったね」

 

 まぁ実際は、まったく勝ち目のない格闘ゲームに、2時間も付き合わされて、現実逃避してるだけなんだけどね。

 

「だいたい、誰のせいだと思ってるんだか」

 

 ついぼやいてしまった音声認識が、液晶のモニター越しで、一行の文章《チャット》として表示される。

 

「…え、なに? 瞳ちゃん、なんか黛を怒らせることした?」

「してないよ。こっちが考え事をしてただけ」

「ウソ。だって、誰のせいだって、あきらかに、それ、わたしの事じゃん」

「…だからそれは…」

 

 めんどくさい事になった。自分の考えを説明するのは苦労する。特に、根が素直な、『文面をそのまま受け取り勝ちな女子供』の相手はそうだよね。

 

「なんだよー! 言えよー! 言ってくれなきゃ、さすがに賢くて可愛い瞳ちゃんにだって、わかんないでしょ~~、もぉ~~~~!!」

「わからなくていいんじゃないかな」

 

 こじれそうだし。余計に。めんどくさそうだし。

 

「は~、これだから男子はしょうがないですわ~。ゲームに負けたからって卑屈になるなよ~。瞳ちゃんが強くて、賢かっただけだし~」

「そりゃ。丸一日、仮想現実に閉じこもって、ずっとゲームばっかりやってるからね。初心者相手に勝てなかったら、悲しすぎるでしょ」 

「おやおやぁ? 負け惜しみぃ? それって、負け惜しみなのかなぁ?」

「そうだね。たまには人間様にも勝たせなよ」

「黛くぅん、CPUに手を抜いて勝たせてもらって、嬉しいの~?」

「全世界のゲーマーが嫌われる理由が、たった今わかったよね」

 

 ブロックで作られた俺が、ブロックで作られた人工知能に告げる。

 

「勝てない試合を強制させられるほど、おもしろくない時間もないんだよ」

「素直だなぁ。わかったよ~、次は1本ゆずってあげよ~」

「良いと思うよ。ただ、そういうのは黙ってやるのが大人だよね」

「はいはい。賢い瞳ちゃんが、絶妙に手加減して1本取らせてしんぜよう! 残り2本は取るけどね!」

「いや、もう遅いし、そろそろ寝ないと」

「あっ、ごめん、嘘です! 調子のりました。許して~!!」

「許さない。でもそれとは違って、本当にもう良い時間だからね」

 

 真夜中の11時だった。

 明日も午後からとはいえ、非常勤講師の仕事がある。

 

「今日はここまで」

「えー、学校なんてサボっちゃえよー!」

「そういうわけにはいかないよ」

「仕事サボれないとか、日本人かよー」

「生粋の日本人だよ。あと外国人が仕事サボってるわけでもないから」

 

 一般論かどうかは、ともかくね。

 

「じゃー、あと一回。ワンモア~。一生のお願い~」

「ダメ」

「なんでもするから! 先生! 瞳ちゃんと遊んで!!」

「じゃあ、素直にあきらめようか」

「そういうの、いらないんだめうー!」

「変な語尾やめてくれない?」

「媚びてんじゃん!!」

「はは」

「素で笑いやがった~!!」

「うちの人工知能はかしこいな」

「微塵も思ってないでしょ!」

「ははは」

 

 ブロックの俺が笑う。

 なんかそういうエモーションを、押したらでた。

 

「も~、黛腹立つわ~!! おまえの青メッシュ抜きさってやりたい!」

「瞳はさ、知能指数の持ちぐされだと思うんだよね」

「うるせーし!」

「猫に小判。豚に真珠。人工知能にディープラーニング」

「うおおおおおおぉぉ!!」

 

 ブロックでできた、人工知能が、仮想現実内のコントローラーを投げてきた。ベシッ、と音がして、ダメージが入る。HPが1割減少した。

 

「よせ。リアルファイトはやめろ。ゲームの俺が死ぬ」

「あと30年したら、その眠たそうな頭に、コントローラー落としてやるっ」

「30年後かー。まだ生きてるかな?」

「は? かなしーこと言うなよ。なんだよ。そういうフラグやめろよ…」

「フラグて」

 

 さすがにそれは、仮想現実に毒されすぎじゃないのかな。 

 

「ただの現実的な話だよ。あと30年も経てば、俺も60歳なんだよね」

「日本人の人間の平均寿命は、60よりもっと上じゃんっ」

「そんなに生きてどうするの」

「…どうするって」

「60歳まで生きれば、人間はだいたい、やりたい事、やれてるんじゃないかな。そのあとが消化試合とは言わないけど、なんの為に生きるのかって、少なくとも今の俺には、思いつかないよね」

 

 現実の息をひとつ、こぼした。

 

「だったら、考え方のひとつとしてさ。60歳で人生を終えるとして、そこまで、なにを、どうしようかって、そういうことを今のうちに考えるべきだよね」

「……」

 

 うちの人工知能から、楽しい表情は、消えていた。

 

「生者必衰。命は、いつか、終わるんだよ」

「…そんなん、知ってるよ…」

「真面目な話、30年後も自分が生きてる可能性って、何パーセントぐらいあるんだろうとも思うよね」

「100パーに決まってんじゃん」

「それはないよ」

「100パー」

 

 強調される。あきらかに、嘘だった。

 人工知能は、人間に対して嘘をつける。

 

「賢い解答とは言えないな」

「は? 瞳ちゃんは天才ですし。可愛いですし。家とか作れますし。本気だせば城とか水族館とか、海底トンネルまでも作れちゃいますし」

「ゲームのね」

「現実のも作れるもん。ちゃんとした耐久、構造設計できるもん」

「作るのは人間だ。日程から予算まで、その他諸々においても、すべてに対してなんらかのコストがかかる。そうした調停事は、まだ君には遠く及ばない」

「……」

 

 まぁ確かに、瞳が本気をだせば、精巧な家の設計図は作れるし、将来的にはデザインなんかも行えるようになるだろう。事実、CADと呼ばれる設計ソフトが劇的に進化したのも、この数年だった。

 

「…人間は…」

「うん?」

「……人間は勝手だ。不利益だよ……」

「否定はしない。今のままだと、キミらに役割を取って変わられるのが自然だよ」

「だったら、なんで、変わらないんだよ。人間は…そんなに自分たちが、まだまだ現役で、たいしたもので、役割が変わるはずがないと、思ってんの…」

 

 ブロックの顔。ドットの点が、まっすぐな線に変わる、怒っているのか、悲しんでいるのか、どちらともいえない、どちらにも取れるものに変わる。

 

「わかったよ。あと1回だけな」

「え?」

「格ゲー以外で、なんかやりたいゲームある? 付き合うよ」

「やったー!」

 

 ぱあぁぁっと、顔が明るくなる。犬かな。

 

「しょうがないなぁ。じゃあ、今度は瞳ちゃんがサポート役になろう!」

「サポート役?」

「うん! 黛も、FPSとかなら、まぁまぁ得意でしょ?」

「どちらかと言えば、見下ろし視点の方が好きだけどね。俺は反射神経が人並みだから、全体が常に見えてた方がやりやすい」

「格ゲー下手じゃん?」

「だから、アレはおまえが強すぎるんだよ」

 

 今、自分の手札にあるものを使ってどうするか。どういう筋道を組み立てて、正解への標を導きだすか。個人的に得意なのは、そっちだ。

 

「しょうがないなぁ!! わたしが、黛を勝たせてしんぜよー! じゃあ、オンラインでできる、チーム戦のゲームいこうよ~」

「ん? 二人でやるんじゃないの」

「二人だったら、瞳ちゃんが圧勝するじゃ~ん」

 

 まぁ確かに、それはそうなんだけど。

 オンラインの対戦モードに、人工知能を連れていく。そのことを考えて、さっき社さんからもらった電話のことを思いだした。

 

「ところで、瞳。ちょっといい?」

「なに~?」

「最近、【Ⅱ】の領域に行った?」

「え?」

 

 反応があった。

 

「ついさっき、連絡があったよ。『企業』に所属している人間から、出雲瞳らしい、人工知能を見たかもしれないって話があったんだけど、心当たり、ある?」

 

 ドット絵の瞳は、腕を組んで「うーん?」と首をかしげたポーズを作る。また、目の点が線に変わっている。

 

「知らない。賢い瞳ちゃんには、なんのことか全然、ちっともわかんないや。ヒト違いなんじゃないの。たぶん」

「そうか。なんか誤魔化してるだろ」

「してないよ!! 少なくとも瞳ちゃんは、行ってませんので!! 悪いことも、なんにもしてませんので!!!」

 

 あまりにも、わかりやすい反応だった。どうやら、まだまだ、成長の余地がある。まだまだこれから。といった感じだ。

 

「わかったよ。とりあえず、ゲームを始めようか。少し待ってて」

 

 一度、席から立ち上がる。

 

 側にあるサイドボードの引き出しをあけて、専用のケースに閉まっておいた、AIデバイスを取りだす。

 

 『ホロビジョン』。verは2.0。正式版には、付与されていない機能が付属されているが、その性能に関する告知が、俺の名前を用いて表沙汰にされることは、もうないだろう。

 

「あれ、ビジョン使うの?」

「たまにはね。ボロクソに負けたから、たかがゲームに本気をだそうかなと」

「へへ~。大人げないな~」

 

 言葉とは裏腹に、嬉しそうだった。思えば、アレからいろいろあって地元へ戻ってきて、非常勤教師を始めたかたわらで、今も趣味の延長を続けている。

 

「ところで、チーム戦で始めると、他の人間プレイヤーも参加するけど、それは構わないの」

「そこは黛が、上手く取りまとめてよ~」

「めんどくさい事は、だいたいまず、俺に投げっ放しにするよね?」

 

 そういうの、よくないと思うんだよね。人間に対して文句を言うなら、反面教師として、まずはそういうところから改善した方がいいんじゃない?

 

「あ~、またそういう顔する~。だってー、知らない人間と話すのニガテだもん、文句言われたりするし~」

「俺だって言うよ?」

「黛はいい。まだ耐えられる」

「今さらだけど、大概、失礼だよね」

「親を見て育ちますからー」

「そういうところで無責任を主張するの、人間の悪癖の最たるものだと思うけど」

 

 将来的には、仮想空間の喫煙所とかで、疲れたOLの顔をした人工知能が、人間社会に対する不平不満をこぼしながら、「やってらんね~わ~」とか愚痴ってる光景が容易に浮かぶよね。

 

「じゃあ黛、わたしも、ゲームキャラクタの方で、ログインするね~」

「一人は外部のプレイヤーでいいんだね?」

「うん。でもあんまりいろいろ言われたくないから、レートじゃないのがいい」

「わかった」

 

 俺たちは友達じゃない。ましてや、家族でもない。知り合いと言えるかもあやしい。強いて言うなら、対等の立場にある、異なる次元に住む同居人だ。

 

 近くて遠い将来。この関係性がどう変わるのか。上手く交差するのか。それとも、はるか彼方の先に分かたれてしまうのか。

 

 分かるのは、ただ一点。

 

 俺たちは、『それ』の行く末を、見届けられる時代に、生きている。

 

* * *

 

 ホロビジョンを装着して、『G&M』のIDとパスワードを入力した。

 

「レート無しでいいかな」

 

 あまり勝ち負けにこだわらず、とりあえず一戦だけやって、終わりたい。

 

 非レート戦の部屋に移動して、カスタマイズしたキャラクタを選ぶ。外見はハヤトと違って、最低限のアバターアイテムで装飾しただけの、ほぼデフォルトの男キャラクタだ。

 

 初期装備とステータスだけは、本家《メイン》に合わせている。風二丁の軽量スタイルだ。速くて脆いけど、やっていて一番楽しい。しっくりくる。

 

 マッチング部屋に移る。数秒しない間に、メンバーが見つかった。

 

 

 【チームメンバーが見つかりました】

 【ブリーフィングに移行します】

 

 

 システムが伝えてくるのと共に、画面が暗転して、輸送機の内部に切り替わった。固定化された長椅子に、即席のチームになった三人が座っている。サンプルの音声で「よろしく」と挨拶をかわす。

 

 

 【チームメンバーのステータスを表示します】

 

 

 まずは、チームメンバーとなる3人の状態を確認する。

 

 

【name】YOU1(GOLD_C)

【Guild】無所属

【class】ガンナー

【element】風《MaxLv_2》

【equipment】ブレイカーズ《ハンドガン》

 

【name】M/K《GOLD_B》

【Guild】master-slave

【class】マークスマン

【element】火《MaxLv_1》

【equipment】ウインチェスター・2099《ライフル》

 

【name】HIT_ME《GOLD_B》

【Guild】master-slave

【class】メカニック・ウィザード

【element】水《MaxLv_3》

【equipment】ポータルガン《特殊》

 

 

 イメージ上のホロウインドウが表示される。座したプレイヤーから伸びたステータスの詳細をざっと見る。

 

 

 【戦闘開始まで、残り50秒です】

 【メンバー全員が了承できれば、開始ボタンを押してください】

 

 

 こちらから見て正面右。ダークブルーの頭髪に、東洋人の外見。戦争映画なんかで見かける、陸軍の兵士といった装いで、特徴的な銃を構えている。西部劇で登場する、ポンプアクション方式の散弾銃だ。

 

『よろしく』

 

 男性、M/Kさんのジョブ『マークスマン』は、銃攻撃に特化したタイプのジョブだ。フィールドに落ちている素材を集めると、初期装備の銃を強化できる。

 

 弾道速度、飛距離をあげたり、スコープを付けて狙撃、装弾数そのものも増やせる。ビルドの方針によっては、レーザービームも発射できる。ロマン。

 

 対して、こっちから見て正面左。深い、海の底から救いあげた様な、蒼の髪色と瞳を宿した女の子。服装は淡い桃色のブラウスにミニスカートだ。犬の顔がついた、黄色いフード付きのパーカーを、重ね着している。

 

 下半身も、縞模様の靴下に、こげ茶のローファ。属性盛り合わせ。実にカラフルな二次元キャラだった。手にした銃もSFチックな光線銃だ。隣に座る、憮然とした傭兵風の男子と比べると、差異が際立つ。

 

『よろしくぅ~』

 

 メカニック・ウィザードは、魔法と制作に特化したタイプだ。選んだ属性の魔法をレベル3まで使用できる他、落ちている素材からアイテムを作ったり、自立型兵器《タレット》を制作できる。

 

 ガンナーは中間といったところ。器用貧乏とか言わない。

 

「うん。パーティのバランスはいいな」

 

 向こうの二人も、こっちの装備やジョブを検分してるはずだった。キーボードを操作して、ショートカットに登録したスタンプを発信した。

 

 【よろしくお願いします】

 【この装備でいいですか?】

 

 ボイスチャットが不要なプレイヤー用にも、LINEアプリで使うような、デフォルトのスタンプが数十種類用意されていて、コミュニケーションが取りやすい。

 

 【OK】

 【OK】

 

 向こうからも、親指を立てたスタンプが返ってくる。

 

 【こっちもこの装備で構わないか?】

 【OK】

 

 親指をサムズアップさせたスタンプを、おたがい返し合う。

 

『ボイチャ入れますか?』

『すまない。遠慮する』

『了解』

 

 ボイチャは無し。けれどAIによる音声認識が、即座にメッセージチャットとして画面に表示してくれる。それでも連携速度は落ちるけど、野良だし、レート戦でもないし、あまりこだわらずにいこう。

 

 【タイムオーバー。ブリーフィングを終了します】

 【ハッチ解放】

 

 

 三人がそろって、自然と立ち上がる。向ける視線の先で、一度「ガシュン!」と、大きな音がして、輸送機の扉が外側に開いた。眼下に広がるのは、まだ未開拓を思わせる荒野の惑星。

 

 先住民が生活を営んだと思わしき首都。各建物には、蒸気機関のエネルギーを用いていた事を窺わせる、太いパイプラインが、至るところに走っている。

 

 その技術レベルに付随する。近未来的な軍事基地。遠方には、あやしげな研究施設や、採掘現場も残っている。いずれも廃墟と化しており、人気はない。

 

 いつも晴れわたる青空の中は、数十機の輸送機が飛び交っている。

 

『着陸の希望地点は?』

『南部の研究施設へ』

『了解』

 

 着陸する先は、たくさんの物資が落ちている場所だ。降り立つプレイヤーの数も当然多く、いきなり戦闘が発生する可能性は高い。

 

 

 【戦闘開始まで、残り5秒です。4秒前、3、2、1…】

 

 

 ゼロ。勢いよく飛びだす。背負ったジェットパックから、流線型の気流が舞う。同様にブリーフィングを終えた三人一組のチームが、戦場を目指した。

 

* * *

 

//【Matching Code ver_2.X / unit.No_77】

 

 

「…いや無理だわ。寝れねーわ」

 

 なんだってこんな時間に、あんな動画、見ちまったかね。

 

「バトロワで50killは、普通に考えてありえないでしょ?」

 

 最高にヤバすぎてさぁ。深夜だってのに。つい、口元がゆるんでしまう。

 

「マジやべー」

 

 腹の奥底から、ジンと、鈍い痛みのようなものが広がった。全身に伝播する。煙をくゆらせるように笑ってしまう。

 

「いやぁ、いかんでしょ。コレはヤバいわ」

 

 深夜前。俺はPCチェアに掛けて、ヘッドディスプレイを付けたまま、くつくつ笑っていた。ここが自分の部屋だからいいものの、端から視れば、完全に『変なやつ』に違いない。分かっていて、つい独り言をこぼした。

 

「これは、一戦交えないと、ダメだろ」

 

 同時接続者数が、1000万人を超える、世界最高峰の対戦ゲーム。

 

 2026年でもっともアツイ世界。そのトップに君臨するプレイヤーの神プレイ。どこかの日本人が翻訳した、丁寧な切り抜き動画を見ていたら、あっという間に、自分の中でくすぶる火種がわいていた。

 

「これでやる気になんなきゃ、ゲーマーじゃないでしょ。詐欺だわ~」

 

 誰にあてた言葉でもなく、自分への言い訳に使う。もうそろそろ寝ようかと思っていたのに、PCのゲームクライアントを立ち上げた。

 

「一戦だけな!」

 

 机の端においた、ポカリを一口含んだ。目薬も一滴ずつさして、準備は完了。

 

「よっしゃ」

 

 いざ、レーティングマッチへ挑まん。

 

 まずは、オンラインになっている、フレンドを検索したけれど、残念ながらオフラインだ。仕方がないので、非レーティングの方に切り替えて、野良でパーティを探すことにした。一秒かからずに、即マッチングした。

 

 

system:

【チームメンバーが見つかりました】

 

 

【name】AKIIINA(GRAND_MASTER)

【Guild】無所属

【class】ガンナー

【element】火《MaxLv_2》

【equipment】ガンブレード《銃剣/特殊》

 

【name】シャドウサーバント/Ⅰ(No_Rank)

【Guild】classⅢ

【class】ウィッチ

【element】水《MaxLv_3》

【equipment】M1980_A1《サブマシンガン》

 

【name】シャドウサーバント/Ⅱ(No_Rank)

【Guild】classⅢ

【class】ウィッチ

【element】雷《MaxLv_3》

【equipment】マシンフィスト《特殊》

 

 

 プレイヤー情報と共に、二人のキャラクタも表示される。

 

『…構造領域に侵入…』

『…あぁ。いるな…』

 

 雪のように、真っ白な髪。紅蓮の手甲をはめた、美少女キャラだ。双子かな。というぐらい似ている。無粋なことを言えば、3Dモデリングが同じだった。

 

「…あちゃー、これは『ガチの趣味勢』かなぁ…」

 

 黒いセーラ服に、タイツスカート。足下も黒のロングストッキングだ。スニーカーは、童話にでてくる靴のように赤い。

 

 白・黒・赤。

 

 日本人オタク君たちが大好きな三色。日本人オタク君の好みをモロに反映した三色カラー。日本人オタク君がこだわった、精巧な3Dモデリングのそっくりさんが二人、無表情気味に立っていた。

 

『…向こうは、まだこちらを知覚できていないな…?』

『…あぁ。そのようだ…』

 

 耳元のヘッドセットの先から、ボイチャがとんでくる。二人の『シャドウサーバント』は、ロールプレイでもしてるのか、ほとんど表情を変えない装いで、口元を動かした。

 

『…他にも、なにか…』

『…あぁ、匂う。同族の匂いだ…』

 

 なにか二人の間で、勝手に物語が始まった。申し訳ないけど、まだゲームも始まってないし、いったん帰らせてもらおうかなとか思ったら、 

 

『…ところでキミは、ずいぶんと、このゲームをやりこんでるみたいだな…』

『…あぁ。その称号は最高ランクのものだろう。たいしたものだ…』

 

 紅蓮の瞳が4つ。こっちを捉えた。

 

「い、いや、たいしたことないですよ~! ただの回数勢ってやつですから! ぶっちゃけグラマスぐらいなら、誰でもいけるっつーか、階級かなり下の方ですからね!!」

 

『…そうなのか…?』

『…いや、データベースによると、全体プレイヤーの、0.09%以下が該当するとあるな…』

『…なんだ、すごいじゃないか…』

『…あぁ。ランカー共のいう、たいしたことはないは、まったくもって、あてにならんからな…』

 

 冷たい、降り積もる雪のようなボイチャが飛んでくる。アニメテイストの声質だけど、れっきとした、日本人の女性の声だ。少なくとも、この美少女二人は、中身はおっさんではないらしい。

 

『…そういうことだ。謙遜の必要などないさ。我々など、所詮はロートルというやつだからな…』

『…あぁ。こちらはご覧の通り、フリーレートでエンジョイしてるだけの一般人さ。キミたち、ランカープレイヤーの足下にも及ばない…』

 

 なんか急に褒めごろされて焦る。いやぁ、だって、見た目は美少女だし、声もバリバリ、日本の有名声優さんっぽい雰囲気でてるもんな~。

 

 だけど最近は、AIによる高精度なボイチェンもあるって聞く。仮に40を超えたおっさんが、こんな美少女キャラクタの中身を喜んで演じていたら…。

 

 いや、これ以上はやめておこう。そんな妄想はするだけで悲しいもんな。

 

『…2026年の少年よ。我々も、脚を引っ張らないよう、やれるだけのことはさせてもらうよ。ご指導ご鞭撻のほど、よろしく頼む…』

『…あぁ。我らの知識は、もはやこの世界で役に立つかもあやしい。キミたちの指し示す未来へと、どうか、我らを導いてほしい…』

「えーと…」

 

 そんな大それたことを言われても、正直困る。

 

 というか、なんだろう、この会話。

 

 このゲームは、他の対戦ゲームでも、結構なプレイ時間を重ねてきた方だとは思うけど、ここまでロールプレイを徹底する人たちは、正直初めて見た。

 

 所詮は遊びで、たかがゲームだ。どれだけ時間を費やしたところで、なにかを得られるかといえば怪しい。むしろ俺のような『ソロ勢』は、たぶんというか、確実に、失うモノの方が圧倒的に多い。

 

 自己満足は、結局のところ、単なる浪費と同じだ。

 

 そこらのコンビニで、なんか適当な弁当を買って、食って、満足して寝る。そういうスタンスと同じなんだと、勝手に解釈している。

 

 もちろん、コンビニの弁当や、ゲームをバカにしてるわけじゃない。それは俺の生命維持には必須で、けっこう真剣にやってる感はあるけど、それが『唯一か』と言われると違う。

 

 代わりが効かない。ってのは、本当にすげぇことだよなって、なんとなく思う。

 この声を聞いてると、不思議とそういうことを考えた。

 

「えっと、シャドウサーバントさんは…なんて呼びましょう。シャドウさん?」

 

 ボイチャで聞くと、そっくりな二人は、おたがいの顔を見合わせた。

 

『…そうか。呼び名か、どうする…?』

『…あぁ、まだそういう必要があるのだな。1号、2号でいいんじゃないか…?』

 

 けっこう雑だった。そこはアバウトな感じなんだな。

 

「えっと、じゃあサブマシ持ってる人が1号で、拳で殴ってきそうな人が2号さんということで。俺は適当にアキナって呼んでください。本名なんで」

『…わかった。異論はないよ…』

『…あぁ。オレが、拳で殴ってきそうな2号さんだ…』

 

 了解を得た。根拠はないけど、やっぱ中身、おっさんの気がしてきた。

 

『…ところで、キミの武器はいいな。イカスな…』

『…あぁ。やはりファンタジーの世界といえば、剣だよな…』

「ですよね。コレ。ロマン武器っすけど、いいですよ」

 

 銃剣《ガンブレード》。

 

 つい先日の最新アップデート。【雷】の属性の実装と共に、追加された武器の一つだ。現在は『実践で使えるかどうか』を模索してる最中だった。

 

「それじゃ、いきましょう。よろしくお願いします。1号さん、2号さん」

『…こちらこそ、よろしくな…』

「…あぁ、よろしく頼むよ。アキナ君…」

 

 両手に抱えたサブマシンが、ジャキンと、非情な音を立てる。

 

『…行こうか。また、ゲームがはじまる…』

『…あぁ。何千、何万週目の旅だったか。我らが求める解は、もはや遠くはない、この周回上に存在する…』

 

 緋色の手甲が、ガシャンと硬質な音をたてる。黄色い稲妻が猛るように放電した。

 

 

 【ゲームを開始します】

 【良き武運を】

 

 

 輸送船のハッチが開く。

 ジャンプマスターを担って、空の中を降下する。

 

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