VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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「あったー、黛、こっちにヘルメット新しいのあったよー」

「ありがとう。こっちは予備のシールドとキットがあるよ。さっきの戦闘で使いきったろ、拾っときなよ」

「助かるー! あ、そだ、もう一人の子はどうだろ」

「聞いてみたら」

 

 エーテルプラントと呼ばれる、このゲームの主要建造物。その建物内部を進んでいくと、製薬工場かなにかの研究施設と、そのオフィスだった場所に辿り着いた。

 

 ひとまず部屋に入り、無人のPCデスクの間を抜けて、床の上に落ちている、手近な物資を探っていると、

 

Wheatley:

「《here comes a new challenger》――対戦相手が見つかりました。って、うわあぁ!? 来てるキテる! ヤバいの来ちゃってるってぇ!!」

 

 

 オフィスの出入口付近から、早口で喋る声がした。

 

 瞳のクラス『メカニック・ウィザード』が、廃材から生成した『おしゃべりコア』だ。普段は黙ってふわふわ飛んでいるが、敵が近づくと、大声でわめく。外の非常階段と、エレベーターに繋がる廊下に待機させていたのだが、部屋まで声が届いた。

 

Wheatley:

「おいおいおいぃ!? コレ戦闘しちゃって大丈夫ぅ!? あぁどうか、関係各所に怒られませんようにっ!! 一応、もっかい補足いれとくな!! このゲームはフィクションです! サントラも発売済みなのは、買ってリスト作って24時間ループして聞いとけな!! 俺のリスト4080時間超えてっけど(笑)」

 

 空中で汗をふきだしながら、ガタガタ揺れる。コアのテキスト内容はやたら豊富で充実しているが、だいたい意味不明だ。

 

 なにをそんなに焦っているかは知らないが、バトルロワイヤルでは、チームメンバーを除き、動くものはだいたい敵だ。とりあえず銃を構えると「ガツン!」と、にぶい音が聞こえてきた。

 

Wheatley:

「ありがとウございまスッ!」

 

 丸い目玉の球体コアが、ものすごい勢いで床にぶつかり、跳ね返る。天井に激突して、もう一度床に落ちたところで、赤いローファーでげしっと踏みにじられた。ぼふっと黒い煙が立ち込める。

 

『…さて、我々の本命は、あちら側だったようだが…』

『…あぁ、どうしたものかな。コレはコレで、当たりの部類だ…』

 

 あらわれた敵は、黒いセーラー服のような制服を着た、白髪のキャラクタモデルが二人。片方が、無表情で踏みつけていた目玉をおもむろに引っ掴み、緋色の手甲をつけた手で、廊下の向こうへ、適当な感じで投げ捨てた。

 

Wheatley:

「ありがとウございまスッ!」

 

 ガシャーン。死んだ。

 

『…今のはよかったのか? アイツは…』

『…あぁ。オタクの描くギャクキャラの末路など、だいたい万国共通なんだよ…』

 

 画面に、テキストが表示される。読唇術、というわけではないが、精巧に作られたゲームの3Dモデルの口元が、ハッキリと動いている。

 

 更新されたシステム。一般には非公開の仕様。独自のAIデバイスが、ビジョンをつけた俺の視神経を通じ、相手の『言葉』の意味を読み取っていた。

 

 それを可能にするのは、大元である一台のスーパーコンピューターだ。

 

 超高度AIとも呼ばれる一方、規定された処理だけを超高速で行う人工無能。

 

 2026年度の、日本のどこかに存在する『富岳百景』は、ゲームと呼ばれる世界の情報処理、演算関連に特化した、世界初のスパコンだ。しかし3Dモデル自体の『リソース』は、別のところに存在する。

 

 個々の人間、一人一人に適応した偶像体。

 

 演者《プレイヤー》として用意された、人工知能。

 

 

 【セカンド】。

 

 

 しかしその口元までもが、今リアルタイムで処理されている。それが意味するところは『ゲームのキャラクタが、この世界で実際に喋っている』ということだ。

 

 

 ――【CLASS Ⅲ】

 

 

 電子構造体の中を、意思を持って独立する存在。

 

 かつ、

 

 人類にとって、敵か味方か、現状では判別が付きかねるもの。

 

「マズイな」

 

 2026年の一般世間に公開されている、既知の情報の外にあるもの。

 従来の常識性よりも、一足早く、一段階だけ、先にある領域。

 

「…どうする?」

 

 今からほんの数十年、あるいは数年先か。いずれにせよ、確かな未来に存在する知能生物が、俺たちの知る『認識できる世界線上』に形を伴い、顕現していた。

 

『…そちらの君は、従来の人間だな。しかし我々のことが視えているようだ…』

『…あぁ、それも踏まえた上で、当たりだな…』

 

 セール品で買える『意図のわかるホラーゲーム』より、よっぽど恐ろしかった。

 

「一応、聞くよ。君たちは、どこの、誰の【セカンド】かな?」

 

 リアルの椅子に座った、肉体を持つ自分の声で尋ねる。

 ゲームのキャラクタに向かって、話しかける。

 

「一体、なんの目的で、ここにいる?」

 

 相手の顔を注目する。ゲームの銃を構え、相手の頭部にレーザーポインタの光をあてた。これが欧米のドラマか映画なら「妙な動きをしたら撃つぞ」とでも言っていたかもしない。っていうか、言いかけた。

 

 まぁ大抵、主人公の系譜とかでないと、ひどい目に合うモブのセリフだからね。その辺は自重したよね。

 

「え? あれ? もしかして、そっちも、人工知能~?」

 

 対して、モニターを一枚へだてた向こう側。声の方に視線を向ける。銃の照準はそのままに、斜め前に立つ、うちの人工知能を捉えた。

 

「わー、すごいぜ。瞳ちゃん、別のAIに会ったの初めてだー!」

 

 のんきか。親の顔が見てみたいよね。

 

「【セカンド】ってさぁ、実はいっぱい、あっちこっちにいるのは知ってるんだけどねー。瞳ちゃんは、まだVRの『教育期間中』だからって、いろんなこと秘密にされてて、知りたくてたまんねーって感じなんだよねー」

「瞳、ちょっと黙っててくれるかな?」

 

 また、リアルで声がでた。ゲームのキャラクタが振り返る。

 

「え~、なんで~?」

「守秘義務って言葉、知ってるかい」

「えー? だってあの二人も、わたしと同じ『教育実習生』ってやつでしょー? 人間にとって、有益かどうか、悪い事しないか、試してる最中なんでしょー? じゃあいいじゃん。問題ないじゃん」

「わかった。とりあえず、口を慎もうな」

 

 現代において、情報が漏れること、他者と繋がることは、ほぼ同義だ。電子の世界で生まれ、その波の中だけで過ごした彼女は、そういったところが危うい。これから先に産まれてくる人間の子供にも、同じことが言えるはずだった。

 

「もー、まためんどくさい事、考えてるな~。たかがゲームでしょ~」

「ゲームの中で、人工知能《キミ》と、特定された以外の会話をしてること自体が、もう既に『たかがゲーム』を超越してるんだよね」

 

 俺たちの世代は、ルールが決まっていた。

 曲がり何も、人間が社会の頂点に立ち、単独で経済を回していた。

 

 演算、測定、出力といったものは、人間自身が考えて、編み出した法則と数式によって視覚化されていた。その定義の元に、あらゆる技術がまとまり、支配されていたのだ。

 

 しかし現代では、なにが、どういう理屈で稼働し、どのような仕組みで動いているのか。高度なシステムの半分近くは、全容を把握できていないのが実情だ。

 

 知能の関係が、既に逆転している。

 

 様々な意味合いでの『速度』は、目の前にあらわれた、二人の存在の方が圧倒的に上なのだ。力関係を見誤れば、それは正しく俺たちの『不利益』となる。

 

 最大限の注意を払いつつ、視線を相手に戻す。会話を試みた。

 

「失礼。うちの『ポン』のせいで、話をそらして申し訳ない」

「はぁ~!? 誰がポンだとコノヤロウ!?」

「ところで、君たちは、いつの【特異点】後からやってきたか、教えてもらえるかな」

『…ずいぶん事情に明るいようだな…』

『…あぁ。この時間線上で発生した【Level 3】の御守りを任されているわけだ。となれば、もう一人のプレイヤーとも、なんらかの接点があるな…』

 

 もう一人のプレイヤー。俺たちとマッチングした、チームメンバーの一人のことだろうか。

 

 最近のゲームをやり込んでいない俺でも、なんとなくわかるのは、彼が飛び抜けた実力のゲームプレイヤーだということ。反射神経が良いというだけではなく、的確な指示と判断力で、ここまでの展開をキャリーしてくれた事ぐらいだ。

 

 リアルの素性は、もちろん知らない。それでも、もしかすると、知り合いか、仕事上での接点があるのかもしれない。

 

 

 ――【セカンド】は、人の運命が視えているの。

 あるいは、より大きな関係図、因果律と呼べるものが視えているのよ。

 

 

 そういったものを、『演算できる数式』として、十分に理解している。彼ら自身に内包されている。そのことを、現在所属する『企業』の上司から知らされていた。

 

(…社さんにも、知らせるべきかな…)

 

 現実の片手をスマホに伸ばす。すでに深夜と呼べる時間帯だったが、この先の状況によっては、メールだけでも入れておくべきかと判断する。

 

『…そう警戒するな、人間。我々はただ、ゲームを遊びにきただけだ…』

『…あぁ。時代遅れのロートルだって、若者たちと遊びたいんだよ…』

「はぁ、そうですか…」

 

 なんでか知らないが、見た目と異なり、絶妙に哀愁漂う感じにつぶやかれた。よくわからないけどコレどうしようかな。とか思っていたら、

 

『…仕方ねぇから、たまには付き合ってやるよ。やれやれだねっていう、理解ある態度を見せてもらえると、むしろ、お父さん喜ぶからさぁ…』

 

 ――ジャキン!! 

 

 両手に機関銃を構えた一人が微笑む。

 

『…まぁ、ひとつ。小遣いでもせびるつもりで、よろしく頼むよ。新人類…』

 

 ――ガシャン!!

 

 緋色の手甲を付けたもう一人も、薄い笑みを浮かべて仁王立ちになる。その両手を、前に繰りだしてきた。結局こうなるのかよ。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Lightning】【Shoot Lv1】

 

 ――《Extend Action !!》

 

 

 緋色の手甲から、軽快に弾けるような効果音が続く。

 

 特殊な弾丸。緋色の手甲から三発ずつ、計六射線の、釘の形状をした弾丸が散弾と化して飛んでくる。とっさに机の陰に二人で隠れた。

 

「うひゃー、なにあれ! 当たったら痛そう!!」

「改造ネイルガンってやつかな。外国人、工具とか改造するの好きだよね」

「でもチェーンソー振り回したがるキャラクタ作りたがるのは、割と万国共通!」

「言えてる」

 

 仕方ない。相手の人工知能の詳細も知れない以上、ひとまず状況を続けることにする。机の陰から上半身だけをだして、ライフルの引金をひいて応戦。

 

 同時に、敵が放ったネイル弾が、精巧に再現されたオフィスの壁、床、天井に、ガスガスと音を立てて突き刺さっていく。

 

『…結べ…』

 

 そこから、明滅する稲妻がほとばしった。突き刺さったネイル弾がそれぞれ放電して、糸のように繋がる。

 

 【雷属性】の、蜘蛛の糸《ワイヤートラップ》。

 

 縦横無尽。周囲の空間を丸ごと、張り巡らされる。

 

 触れてもたいしたダメージはないが、【雷】の発生源となっている、ネイル弾を直接壊さないと進めない。ただ壊すにしては、あまりにも数が多すぎた。身動きが制限されたそこへ、

 

 

 ――ダダダダダダダダダダ!!

 

 

 もう一人の白髪キャラクタによる、軽機関銃の二重斉射がとんでくる。とっさに身を隠すも、机のオブジェクトの耐久値があっという間に削られていく。

 

「真正面からの撃ち合いは無理かな。俺たちの武器だと手数で負けてる。屋内戦自体も不利かな」

「うちらのもう一人はー!?」

「あっちも交戦中らしい。たぶん、このチームの、残る一人じゃないか」

 

 もう一人も、現代の人間だか、未来の人工知能かは知れないが、いずれにせよ、こちらはこちらで状況を打開する必要があった。

 

「瞳、ポータルを頼むよ。ひとまず外にでようか」

 

 建物オフィスの窓ガラス。外は渡り廊下に繋がっている。さらにその向こう側には、もう一枚の窓を隔てた先に、建物の別棟が見えていた。

 

「あそこだな」

 

 

 【Magic code Execution】

 【Type Fire】【Enchant Lv 1】

 

 

 装填した銃弾に、ゲームの魔法《ルール》を込める。

 間髪入れずに【火属性】の貫通弾を、窓ガラスに向けて発砲。

 

 ガシャン、バリンと効果音をあげながら、分厚い強化ガラスを複数くだいて突き進む。対面に見えた別棟の壁にも、一瞬だけ火柱をあげて突き刺さった。

 

「瞳、あの壁と、足下を繋いでくれるかな」

「おっまかせー!」

 

 ゲームが大好きな、人工知能が持つ光線銃が同じ場所に銃口を向ける。不要な遮蔽物が無くなったその場所へ、オレンジ色の光弾を発射する。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Tec】【Enchant Lv3】

 

 ――《Open Portal (α)》!!

 

 

 建物の外壁に、橙色の楕円が浮き上がる。さらにもう一発を、俺たちのいる、オフィスの床面へ向けて撃つ。

 

 

 ――《Open Portal (β)》!!

 

 

 水色の楕円が広がるのと同時だ。穴となって開いた足下には、地上から数階分の高さを伴う青空と、赤茶けた荒野の岩肌が覗いた。

 

 橙と水の色が異なる時空を繋げて、結ばれる。俺たちの全身は、一瞬で建物の外へと移動して、現実と同じ重量法則に従い落下する。

 

「うひゃあ! やっぱ毎度のことながら、いきなり落ちるとびっくりするー!!」

「フルダイブのVRが実装されたら、また人間の間で話題になるかもね」

 

 まぁそんなことになったら、慣れるまで、三半規管によほどの自信があるか、特殊軍人でもない限り、胃液を逆流させるプレイヤーが後を立たないだろうけど。

 

 ともあれ、落下ダメージはなく、荒野の一角に降り立った。見上げれば、ついさっきいた場所のすぐ隣、別の窓ガラスを直に武器で砕き割り、白髪の二人も空の中に身を翻してきた。

 

「黛、とりあえずもう一人のところに戻った方がよくない?」

「そうだね。じゃあこっちから――」

 

 退路を計算に入れた時。さらに別の方角から、複数のチームが寄ってきた。

 

「乱戦必至かな」

「おー! 瞳ちゃん燃えてきたー! バリバリキル取るよー!!」

「サポートはおとなしく、サポートに徹してて欲しいかな。いくよ」

 

 素直な感想を口にしつつ、退路を確保する。

 

* * *

 

 ボイチャはオフにして、一時、目前の相手に全神経を集中させる

 

「クッソつえぇんですけど!!」

 

 そんで自分の口からは、これ以上なく正直な感想がこぼれていた。

 

 

 【Magic code Execution】

 【Type Wind】【Shoot Lv1】

 

 

 半倒壊した、環境プラント施設の内部。

 『風魔法』で、弾速を向上させた雨嵐が降ってくる。渡り廊下の欄干を巧みに足場にして三段跳び。

 

 魔法の再使用までのディレイを稼いで、疑似的に連続で跳びはねながら、両手の拳銃を交互にリロードしながら、間髪入れずに偏差打ちを交えてくる。

 

 上空からの初撃を、交差した二丁拳銃で防がれたかと思ったら、射撃モードに切り替えて、バリバリ撃ってきやがった。

 

「反応はっや!!」

 

 こっちも当然撃ち返すが、迫る銃弾は、どちらか一方の拳銃だけを近接仕様に変形させることで弾いてくる。同時に残る拳銃は継続して攻撃姿勢を続ける。

 

「それ、左手と右手のショトカ、別個に割り振ってんのかよ!?」

 

 理解する。確かに、移動に関する操作を『視線』で補うことができれば、両手は自由になる。攻撃と防御タスクのリソースをすべて『武器の操作』に回すことも、実質的には可能になるんだろう。

 

 

 ――『理解はした。できた』 

 

 

「ありえねぇ! 変態かよ!!」

 

 意味はまったくわからない。ただでさえエイムの付けにくい、空中での上下移動を反復しつつ、こっちの動作も先読みして、正確無比な攻撃と防御を繰り返してくるとか、どう考えても、どうかしている。

 

 隙がない。DPS面では圧倒的に有利なはずのライフトレードで、削り切れないどころか、微妙に俺の方が押されはじめている。

 

 世間的には微妙評価の二丁拳銃で、そこまでやるか。やれるのか。

 

「鬼強ぇマジ!!」

 

 真夜中、アドレナリンかなんかの化学物質が、自分の脳内をドバドバ支配していく。それでも目で追う。他の能力は不要だとばかりに低下する。特に言語能力は著しく落ちる。

 

「ヤベェ!! ナンナンダヨ!! コイツヤベェナァナァッ!!!」

 

 楽しすぎるんですけど。マジで。

 銃剣《ガンブレード》の形態を変える。

 

 

 【Magic code Execution】

 【Type Fire】【Shoot Lv1】

 

 ――《BLAM》!!

 

 

 炎を纏った弾丸を発射。この武器の特筆点。俺が気に入ってるところは、効果音が最高にキモチイイってことだ。正直、性能に関しては二の次だ。

 

「おらよっ!」

 

 

 ――《BLAM !!》――《BLAM !!》――《BLAM !!》――

 

 

 自分がゲームをやっていて楽しいか。使っていて爽快感を感じるか。

 そういうところを、俺はまっ先に探しにいく。見つけたら、大事にする。

 

 

 【Magic code Execution】

 【Type Wind】【Enchant Lv1】

 

 ――《Extend Action !!》

 

 

 相手は【風魔法】を唱えて、大きく後ろに跳んで避ける。射線角度ギリギリの上を行かれて回避される。それでもどうにか、目で追いかける。

 

 

system:

「《locked on》――ターゲットの軌道予測に成功。命中率に補正が掛かります」

 

 

 AIデバイスが、プレイヤーの注目先を捉えて、還元する。

 銃剣《ガンブレード》を差し向ける。

 バレル装填。炎属性のショートカットキーをブッ叩く。

 

 

 ――《BLAM !!》

 

 

 一般的に強かろうが、弱かろうが、評価が高かろうが、低かろうが。自分が大事にしてるもの、その利点を探し続けていくことは、なにより楽しい。

 

 実際、そういう気質のあるプレイヤーが、ひたすら強くなれる。

 

 どうしてか。

 

 同じことを、延々と考え続けて、繰り返していけるからだ。

 

 ゲームに飽きて離れたとしても。誰もが元の場所に立ち還らなくなってしまっても。やっぱこの世界っていいよなって、元の場所に戻ってきて、また延々と、同じことを続けてしまうからだ。

 

 

 ――《BLAM !!》

 

 

 積んだ経験は糧になる。

 唯一でなくとも、世界一位でなくとも、誰かに評価されなくても。

 

 俺だけが知る、唯一の武器になる。

 

 立て続けに、最大火力で乱射。単発式だが高火力。

 【風】の属性でなくても、弾速も相応にある一撃は、

 

「当たるとエグいぜ!」

 

 空中で、火花が炸裂した。

 

 

system:

「《HIT.》――ダメージカウント97。対象のライフゲージが三割減少」

 

 

 火属性の爆風を浴びながら、苦悶の表情で着地するのが視えた。数値として見えたダメージ量から、おたがいの『ビルド』を予想する。逆算して、ライフトレードに勝てるかどうかを再計測。

 

 

 ――《BLAM !!》――《BLAM !!》――…!

 

 

 だが同時に弾が尽きる。リロードすれば、六連層の回転シリンダーを開き、一発ずつ、手動で弾を込めることになる。

 

 高火力ではあるが、回転率が悪いのが弱点だ。銃弾を込めたマガジン切り替えでない仕様のために、高威力の魔法弾を全弾ブッパすると、長時間リロードが発生する。

 

 対して相手の武器は、その逆だ。二丁拳銃のマガジンを同時に排出。金属製のマガジンバックルに、銃底を押し付けると、コンマ数秒でリロードが終了される。こっちは走って弾を込めながら、少しでも距離を取ろうと後ろに下がると、

 

 

 【Magic code Execution】

 【Type Wind】【Enchant Lv1】

 

 ――《Extend Action !!》

 

 

「やっぱ詰めてくるよなぁ!」

 

 「そりゃね。そこは逃がさないでしょ?」とばかりに、移動バフをかけて前進。

 

 カードゲーム、ターン制度のあるシミュレーションと違って、コンマ1秒の思考速度の中で次手を探り合う。超高速度のリソース管理。反射神経にも頼った上で、攻守の切り替えを行う。

 

 相手からの銃弾でライフを減らしながら、リロード完了。

 DPSが叩ける距離を把握して撃ち合いに応じる。

 

 

 【Reload !!】

 【HIT!!】【Damage count 6,10,15,22,39,31!!】

 【Magic Code Execution !!】

 【Counter !!】

 【Magic Code Execution !!】

 【Resist !!】【Damage count 28 !!】

 【Off set !!】

 【Reload !!】

 

 

 中距離と遠距離で、瞬間火力の差し引きを行いながら、ライフトレードを行い続ける。ゲームが上手くなるのに、実は特別な才能はいらない。

 

 愚直に、バカみたいに、延々と、同じことを続けられるかどうかだ。

 

 ぶっちゃけ、そんだけで良い。同じことを続けた上で、対象の競技内で求められた、想定された『勝利条件のための精度』を、高め続けていけるか。

 

 

 1分、1秒。

 

 

 10点、100点。

 

 

 

 10分の1 100分の1。

 

 

 

 

 『スポーツ』とかいう名称が付いていようが、いまいが、事実は変わらない。

 

 ただひたすら、ひたむきに、ひったすら、バカみたいに速く、アホみたいに正確に、同じことを愚直に、延々と自分に強要し続けて、それでも乗り越えていったやつが強くなり続けていく。最後まで生き残って、勝つ。

 

 

「たまらねぇな!!!」

 

 

 ――《BLAM》!!

 

 

 【Reload !!】

 

 

 再装填の要請。上位ランカーに違いない相手が、「このターンで決めますよ」とばかりに、真正面から突っ込んできた。

 

 そうそう。本気でやりこんでるゲーマーなら、全武器のリロード時間ぐらいは把握していて、あたりまえなんだよなぁ。

 

 わかってる。

 

 どいつもこいつも、承知の上だ。

 だから俺も銃弾を『一発ぶん』だけ、リロードした。

 

 通常よりも短時間でリロードが完了する。ショートカットキーを操作。

 ここまでのレベル上げで習得した、火属性の魔法を発動させる。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Fire】【Materialized Lv 1】

 

 ――《Extend Generator !!》

 

 

 無から有をうみだす魔法。銃剣を持つ手の逆側に、まっくろな、水風船のようなオブジェクトを生成した。

 

「そらよっ!」

 

 視線操作で、しっかりと、相手をターゲット化して投擲。

 相手が、飛んできたそれを避けようと身をひねったところを、狙い撃つ。

 

 

 ――《BLAM》!!

 

 

 ズバンッと、気持ちのいい音。一発だけ装填した銃弾は、投擲した火属性の焼夷弾に追いつき、破裂した。

 

「ッ!!」

 

 相手の顔が一瞬でそっちを見た。尋常でない切り替えの速さだが、次の瞬間には、盛大な炎が空中で爆ぜている。同時に、戦闘フィールドの一帯までもが延焼して広がり、継続性のあるスリップダメージを発生させる。

 

「っしゃあ! やったか!?」

 

 もうね。ぐっと、リアルで拳を握りしめるよな。

 なんたって、炎耐性を上げていなければ、即死不可避だ。さっきの撃ち合いでのダメージ量から、耐性を上げていないのも確認済みだ。

 

 

 ――勝ったな。いやぁ、つらく、長く、苦しい、戦いでしたね…。

 

 

 ゲーマーなら、リアルで一瞬、うなずくよな。そしたら、爆風の一片が拡散して、そこから人影が後方上空に跳んでいる。

 

 

system:

「《warning》――警告。確定ロックされています。回避率にペナルティが発生」

 

 

「…は?」

 

 

 【HIT!!】

 【Damage!!】

 

 

「いてぇ!?」

 

 つい、リアルで叫んじまうよな。

 

「まっ、ちょっ、おまっ、待てよ! やめてくださいよぉ! ねぇなんでぇ!?」

 

 ゲーマーなら、逆ギレするよな。

 

 バリバリ減っていくHPゲージを見ながら、とっさにベルトコンベアの陰に、飛び込むように隠れる。ついでに弾丸をリロードしながら状況を分析する。

 

 たぶん、投げた『爆弾』が破裂する直前に、近接仕様に変換してガードして、ダメージを削ったのはわかる。ついでに風魔法の跳躍で、後ろに跳ぶことで、ステータス異常の炎症状態も避けたのもわかる。

 

 攻撃しようとしてたはずの姿勢から、一転して、防御と回避にリソースを全振りした反応速度は正直意味不明なんだけど、まぁ、理解はできるよ? 俺だって一応、グラマスまでいったからね?

 

 

 ――でさぁ、なんで、攻撃できてんの? 

 

 なんで、俺ダメージ受けてんの?

 

 

 視る。相手は『左手の拳銃だけ』を、射撃仕様に切り替えて、撃っていた。

 

 

 左手で、攻撃。

 

 右手で、防御。

 

 音声で、コマンド発令。

 

 視線で、退避。

 

 

 ――最低でも四面操作の先。

 

 『ゲームに勝つために』集約された、1点超特化の出力思考。

 

 ハイパー・シングルタスク。

 

 

「…??????」

 

 

 理解はできるけど、意味がわからないよな。

 

「…許せねぇわ…」

 

 俺の中で、純粋な怒りがわきあがっていた。

 さっき、俺は言った。

 

 ゲームで上手くなるのに、特別な才能はいらないと。

 

 

 ――すんません。アレは嘘です。

 

 ゲームのみならず、一部頂点の奴らは、だいたい『頭がおかしい』んだよな。

 

 

 そして残念なことに、俺は至極『まとも』だ。だからそれは、最上級の褒め言葉なんだ。ギリギリと歯をくいしばりたくなる。くやしい。俺もおかしければよかったのに。変態ならよかったのに。仮に女なら物陰でハンカチでも噛んでるわマジで。

 

「…ぜってぇ負けねぇ…」

 

 普段のラダー戦ですら、こんなブッとんだ実力者とは、滅多にお目にかかれない。おまけに本来は、三人一組のバトロワだから、こんな風に、サシでやりあえる機会が滅多にない。

 

「自己満っつっても、勝たねーとなぁ…!」

 

 銃剣に弾込めして、飛び込んだ。オイルがたっぷり満ちた空間の地面に、剣をブッ刺す。ガギィンッと、硬質な、俺好みの良い音が響いた。

 

「なんもおもしろくねぇんだよなァ!!」

 

 トリガーを引いた。

 

 

 【Magic Code Exectuion】

 【Type Fire】【Shoot Lv2】

 

 

 六連奏のシリンダーが回転。 

 魔法の銃弾に込められたマナを開放。

 刀身が真っ赤に染まる。

 

 

 ――《BLAM !!》

 

 

 炎熱が吹き荒れる。オイルの広がった床面を伝い、炎柱が奔る。

 

 

system:

「《locked on.》――ターゲット、ロックしました」

 

 

 ――《BLAME !!!》

 

 

 吹き荒れる火柱の合間を、二丁野郎は、風魔法を展開して跳んでかわす。さらに意識して焦点をしぼる。いつのまにか無意識に、自分の視線だけで、火柱そのものを操作してやろうとさえ、考えはじめていた。

 

「…さぁいけ。あのヤロウを捕まえろ…ッ!」

 

 追いつけ。追い抜け。この一瞬、追い越せよ。

 

 ぐつぐつ煮えたぎった感情が、うっかり口元からこぼれてしまった時に。

 AIデバイスが、にわかに反応するのを感じた。

 

 

system:

「《Over Break》――あなたの【魔法】に、補正値がかかります」

 

 

「…?」

 

 

 耳慣れないメッセージ。

 その光景は、たぶん、なにかの『バグ』、のはずだった。

 

 

 ――《BLAME !!》―…

 

 

 スバンッ! と、炸裂する。

 俺が爽快感を感じる。気持ちよくなれる音がして、そして、

 

 

 

 ――【!!!! BLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAME !!!!】

 

 

 炎の渦の中から、まっかな『炎蛇』が、あらわれていた。

 

「へ!?」

 

 バカでかい咢を開いて、空中で飛び交う相手を丸呑みするように、ガキィインッ!!

 

 鋭く、剣山のようにギザギザと並んだ炎牙を閉ざした。

 

 

 【Magic Code Exectuion】

 【Type Wind】【Enchant Lv_2】

 

、――《Extend Action !!》

 

 

 俺自身が、あっけに取られる一方で。視たことのないもの。誰にとっても、『初見殺し』のはずのそれを、そいつは回避した。なにもない空中の壁を連続して蹴って走る。

 

 

 ――【!!!! BLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAME !!!!】

 

 

 三角跳びの要領で、さらに上空へ逃げる。翡翠色の輝きを満たした尖塔の側にある、なにかの液体燃料を、たっぷり詰め込んでいる、冷却用の貯水に着地する。

 

 

 ――【!!!! BLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAME !!!!】

 

 

 『炎蛇』が追いかけ続ける。今度はタンクにかじりつき粉砕した。

 水蒸気爆発が発生して、辺り一面に噴霧が立ち込める。

 

 相手はもう一段、空中に足場を作った。別の出入り口から撤退――

 

 

 ――ジャキン。

 

 

 するつもりは、微塵もない。

 空中で逆さ姿勢のまま、両手の銃口を差し向けている。

 

「…いいねぇ」

 

 なにか、わけの分からないことが起きていた。たかがゲーム。モニター1枚を隔てた向こう側で、常軌を逸したことが発生している。そうだってのに、相手は淡々と、ブレずに、ゲームに勝つための動きを取り続けている。

 

「のったぜ!」

 

 こっちも引く気はなかった。むしろ俄然、楽しくなってきた。赤と黄。攻撃的な演出《エフェクト》が咲き乱れる視界の中で、『炎蛇』を操作する。

 

* * *

 

『…なんだ? いきなり移動した…?』

『…あぁ。ワープしたな…』

 

 離れた別棟の外壁をマーキングしたと思った瞬間、二人のプレイヤーが、その内側から飛びだして、そのまま降下した。【雷】を付与したネイル弾の包囲網を解き、二人が身を隠していた机の後ろを覗き込むと、水色の輪ができていた。

 

 ゆらめく光景の先に映るのは、落下ダメージのない、荒野の一角へと着地した二人の姿だ。少女のキャラが再び銃口を向けると、水色の時空がパッと閉じる。

 

『…2点間を繋ぐポータルか。おもしろいルールだ。まさか、そういう抜け道があったとは…』

『…あぁ。壁や天井は移動できないというか、そもそも接触すべき対象ではないという、プレイヤー側の盲点をつかれたな。今のは、従来のゲームに馴染みの深い、ロートルほど引っかかるだろう…』

『…天井と床に穴を開けることに気づくまで、我々なら、小一時間かかるな…』

『…あぁ、まったくだ。実におもしろい仕様だ。やるじゃないか…』

 

 (*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン。

 

 満足気にうなずく我々。

 

『…で、どうする…?』

『…あぁ。逃がさん…お前だけは…という気分になってきた。追うぞ…』

 

 上手く逃げられた目標を追って、こちらも直に窓から飛び降りる。落下ダメージがまったくないというのが、ロートル的には非常に気になるところだが、それも世の流れというやつなのだろう。

 

 件の人工知能と、『教師役』かなにかの人間には、ずいぶんと距離を開かれてしまったが、まだ追いつける。

 

 二人は、この一帯の外周区域を大回りして、こちらの本命であるプレイヤーと合流するルートであると予想。

 

 すでに対象は、【白】の個体とマッチング済みだと、ビッグボスから情報を受けている。身体能力、および精神的なパラメータも相当なものだろうが、そんな相手と一騎打ちに及ぶ、我々のチームメンバも、相当に健闘している。

 

『…彼もまた、独自の領域に踏みこみはじめたか。急いだほうが良い…』

『…あぁ。連中が注目をはじめるだろうからな…』

 

 そうなれば一度、撤退せざるを得なくなる。監視体制も強化されるだろう。

 

『…で、攻略法は見つかったか…?』

『…あぁ。手段を選ばずというのなら、あそこだろうな…』

 

 

 走り去る、背丈の低い少女の偶像体。

 

 ――2026年のVRにて、教育中の人工知能。

 

 現在は『器』を持たざるもの。いまだ色が定まらぬ存在。

 

 

『…どうする、一度帰還するか…?』

『…あぁ、チームメンバーの彼には悪いが、ここで…』

 

 言いかけた時。すぐ側の地面がえぐれた。1号が言う『後ろだ』。

 

 切り立っていた崖をすべり降りるようにして、フレーム構造の外骨格をむきだしにした、如何にもな『ロボット』が迫る。

 

 急こう配の崖を真正面から降りて接近してくる。

 

『…やれやれ。乱入してくるとは、とんでもない奴だ…』

『…あぁ。しかしまぁ、これ、そういうゲームだからな。それに、せっかくの機会だ。もう少しだけ、仕事をこなしていくとしようじゃないか…』

『…たまにはゲームで遊びてぇよなぁ。16時間ぐらい…』

 

 同意見だ。

 

 

system:

「《locked on.》――ターゲットを補足。命中率に補正がかかります」

 

 

 1号が反転して、サブマシンガンで対応する。精密射撃の散弾の嵐を放った直後、対象の足元の踵が変形した。

 

 

 ――ザザザザザザザッ!

 

 

 さながら操舵用の車輪に変わる。スライディングの姿勢になって身を倒し、まるでスキーのように蛇行しつつ、射線上の隙間を縫ってかわされる。

 

『…良い反応だ。奴もランカーか…』

『…あぁ。よく視て避けているな。現在の第二位だ。援護しよう…』

 

 1号がサブマシンガンの銃弾を打ち切る。弾切れの間隙をフォローする格好で、こちらも両拳を前に繰りだす。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Lightning】【Shoot Lv1】

 

 

 三連射x2のネイル弾を発射。散開して地面に突き刺さったそれは、電気の網を張り巡らせて、相手側の侵入を阻む。

 

 ランカーが反応。スライディングの姿勢から立ち直り、そのまま逆脚で片膝をついて静止する。こちらは引き続き、相手の本体をロックして射撃。鋭い釘《ビス》が突き刺さる直前、フレーム構造の掌を、荒野の大地に添えた。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Earth】【structure Lv2】

 

 ――《Extend Generator !!》

 

 

 ゴゴゴゴ…と音がして、周辺の大地のリソースが波を引くように集結する。瞬きひとつの時間で、大自然の盾が、お互いの間に立ちはだかった。数百発のネイル弾がすべて弾かれ、雷を帯びていた網も消しとぶ。

 

『…密度が高い。アレを破壊するのは、我々の武装では無理だな…』

『…あぁ、身持ちが堅いロボットだな…』

 

 敵ランカーチームの、残る二名の仲間も駆けつけてくる。フレーム構造のロボットが再び先行する。隆起させた岩壁を自らで乗り越えて、さらに距離を詰めて突撃する。

 

『…思いきりも良いな。悪くない…』

 

 1号が応戦。リロード後のサブマシンガンで掃射するも、ロボットは再び、足元を変形させて、スライディングの姿勢で蛇行する。さらにその姿勢でライフルまでも撃ってきた。

 

『…2号。チャージショット《ためうち》に気を付けろよ。それからとつぜん、ハイジャンプするかもしれんぞ…』

『…いや、そっちの岩男じゃないだろう…』

 

 我々の知るものよりも数段、鋭角的に、しなやかに、奥行きを進む。ライフルを打ち続けながら、弾倉《マガジン》を使い切り肉薄。上体を起こして立ち上がったかと思えば、

 

『…あぁ。嫌いじゃないぞ、そういうの…』

 

 ぐぅっと、フレーム合金の五指を握りしめる。ロボットの一つ目が絞られる。

 

『…応えてみせようか…!』

 

 ターゲットロック。対象距離まで1メートル。

 コレこそが、あらゆる時代の、最強の近接破壊兵器だというように。すべての武器の中で、もっとも原始的で、硬質なものだと証明するように、踏み込んだ。

 

 

 ――ガツンッ!!

 

 

 右拳のストレートパンチ。インファイトの圏内にて繰りだした鋼の骨肉が、真正面から打ち合わさる。蒼白い粒子が瞬間的に爆ぜた。

 

 

system:

「《off Set》――攻撃構造体が接触。物理法則によるダメージを相殺します」

 

 

 拡散する。【衝撃】が、拳の中を伝わらず、システム上の波となって外部に還元された。白髪とスカートの裾がゆれる。この世界のシステムによって、強制的に半身を戻された左足に重量を寄せつつ、続けて右からのハイキック。

 

 

 ――ズガンッ!!

 

 

system:

「《off Set》――攻撃構造体が接触。物理法則によるダメージを相殺します」

 

 

 これもまた、左手の腕を盾にして弾かれる。

 良い反応だ。リアルの方でも、常日頃より身体を動かしているな。

 

『…健康的でよろしい。しかし次は、蹴られて礼を言ってもらおうかな…!』

『…2号。それ一般的な反応じゃないからな…?』

 

 さらに踏み込もうとしたところを、半強制的に、1号の牽制射撃によって阻止される。

 

『…お楽しみすぎだぞ。本来の目的を忘れるな。いったん引く…』

『…あぁ、悪かったよ…』

 

 優先順位を切り替える。無論、相手はまだまだやる気だったろうし、逃がす気もなくて悪いが、

 

『…こちらも仕事なのでな。遊んでいる余裕はないんだよ…』

『…あぁ。また来週をお楽しみにな…』

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Lightning】【Materializd Lv1】

 

 ――《Extend Generator !!》

 

 

 魔法を詠唱して、手の中に球形状の閃光弾を生成する。

 

 ピンを抜いて投擲。閃光弾が地面で一度跳ねたあと、まばゆい光が炸裂した。

 悪役ならではのムーブで、戦略的撤退を選択する

 

『…しかしこの世界は、展開が遅いとは聞いていたが、人間共も存外やるようだ…』

『…あぁ。強さを求めるのは、いつの時代、どこの世界線も、変わらんな…』

 

 それが、どれほどに愚かしいことか分かっていても。どうしたところで、口元が緩むのは避けられない。

 

『…で、ログアウトボタンはどこだ…?』

『…あぁ。戦闘行動をした直後は、60秒間は押せないらしいぞ…』

『…なんだと。それじゃあ仕方がないな。もうしばらく継続しようか…』

『…あぁ。仕方がないな…』

 

 第一位のランカーと対決しているだろう、チームメンバーの元へ駆け戻る。

 仕方がない。そういう生き物なのだ。人間とかいう連中は。

 

 




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