VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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「………このヒト、強ぇな………」

 

 余計な言葉がでた。そんな余裕は1ミリもないはずだった。獄彩色の空間で、画面の半分以上を覆い尽くすような、デカい蛇に追われてる。

 

 

 ――【!!!! BLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAME !!!!】

 

 

 どうでもいいけど。こんなやつ、このゲームに、いたっけ?

 頭のどこかにいる俺が、そんなことをつぶやいた。

 

 無視する。

 

 HPも、MPも、自分の脳みそも、なにもかも足りてない。

 リソースが尽き欠けている。

 

「…相手が強い…」

 

 しんどい、楽しい、殴り合いの、削り合い。

 余計なことを考えていたら負ける。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Type Wind】【Enchant Lv1】

 

 ――《Extend Action !!》

 

 

 化け物に食われそうなところを切り抜ける。

 三次元空間を飛びまわって、ひたすらに避け続ける。

 

 

 1対1の対決は貴重だ。

 外野の要因が一切、なにも入らない。

 全てが、自分の思うがままの責任に変わる。

 

 そんな環境があれば、どこまでも、自分を追い詰めていける。

 そんな事が許される世界を、俺は電子ゲームの世界以外には知らない。

 

 

 ――あっ、なんか『良い感じ』だな。

 

 

 ふと、そう思う時がある。

 

 もっと速く。もっともっと正確に。

 

 たかがゲームだろ? そんな事もできねーの?

 

 

 do it.

 

 as soon as possible.

 

 

 御託はいらねぇ。

 

 とっとと、

 

 やれ。

 

 

「上等だ」

 

 空中に魔法の床を踏みだして後ろの壁に着地。近接仕様に変形させた二丁拳銃のパイルをブッ刺して位置を固定。魔法があと一発だけ打てるのを確認する。

 

 

 ――【!!!! BLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAME !!!!】

 

 

 全画面を覆う咢。最後のリソースを使いきって、食われる前に跳ぶ。

 両手の杭を抜きさり、ギリギリ咢の上を飛び越える。翡翠色の輝きが失われた。

 

 

system:

「《out of resource.》――MPが無くなりました。魔法の【価値】が消失します」

 

 

 もう跳べない。直後に轟音。

 1秒前に留まっていた場所に、炎の蛇が激突。

 

 巨大な質量を持ったハンマーで叩きつけたように、建物の壁が爆ぜる。

 間髪おいて、瓦礫が砕け散る。ガラガラ。

 

 ――その壁って、破壊不可能じゃなかったっけ。

 

 頭の中が、またうっかり『常識的なこと』を考えた時。

 

 

system:

「《warning.》――ロックされています。回避率にペナルティが発生します」

 

 

 自分の顔のど真ん中を目掛けて、炎の銃弾がとんできた。

 近接仕様の二丁拳銃を交差して防ぐ。蒼い火花が瞬間的に咲く。

 

 

system:

「《off Set.》――攻撃構造体と、防御構造体が接触。ダメージを相殺します」

 

 

 蒼い粒子が目前で飛び散る。衝撃が抵抗のない風になる。

 先の眼下には、日系人の偶像体。前髪が一房だけ、赤に染まってる。

 

 ――まだまだ余裕あんじゃねぇかよ。このヤロウ。

 

 一心に視線を向けられる。片手で銃口を突きつけてくる武器の評価は、一般的には高くない。

 

 『誰もが知りうるデータベースの情報』に、たいした価値はない。丸暗記すれば対処は容易だ。けれど、その領域から、ほんの一歩でも先んじていれば、話は別だ。

 

 GRAND_MASTER.

 

 誰がなんと言おうと、『達人』の称号を持つプレイヤーがいる。

 そんな相手が、こちらの一挙手一投足に、全神経を捧げている。

 

 

system:

「《Deadly_Lock.》――近未来の行動を予測されています。致死圏内です」

 

 

 二次ロック。CPU《演算装置》の補正機能によって、対象の相手を『的』として捉え続けることで、先の出来事を予想して、システムが偏差射撃を行う。

 

 AIデバイスを用いていれば、二次ロックが発生するまでの時間が短縮される。内容の詳細は公にはされてないものの、経験から予想すると、時間短縮に最も必要なのは『集中力』だった。

 

「そっか。今追い抜かれたのか」

 

 精度の高い『速さ』こそが、最大の強みで、俺の要だ。

 それを塗り替えられた。ふつりと、自分の中で揺れるものを感じた。

 

 

 くやしい。

 

 

 負けられねぇ。

 

 

 研ぎ澄ます。うなる炎の蛇の背中に着地。

 奔って、翻って、撃った。

 

* * *

 

system:

「《warning.》――ロックされています。回避率にペナルティが発生します」

 

 

 二丁拳銃のマズルフラッシュ。

 

 『炎蛇』の背中に着地したかと思った次の瞬間には、曲芸師のような体制で、ぐるぐる回りながら詰めてきた。ありえねぇぐらい、正確なエイムショットだ。

 

 対して目視によるタイミングで銃剣を薙ぎ払う。翡翠色の弾丸が、一部炎で蒸発。着弾前に、綺麗さっぱり消しとばしてやったつもりが、

 

 

system:

「《Parry.》――攻撃の回避に一部成功」

 

system:

「《Resist.》――ダメージを計測します。合計14点。残りライフ1割を切ります」

 

 

 両手左右の拳銃で、時間偏差で撃ってきた分を綺麗に当ててきやがった。なんなんだ。マジで。アイツは精密機械かなんかかよ?

 

 

system:

「《out of resource.》――MPが無くなりました。魔法の【価値】が消失します」

 

 

 悟る。純粋な実力だと数段劣ってる。ついでにバグだか、なんだかよくわからねー『炎蛇』も消えたな。けど、それがどうした。問題ねぇ。

 

 この世界から、俺が死んでなけりゃあ、すべてが安い。

 

 残るリソースも、通常の魔法が一発撃てるだけ残ってる。

 

「十分だなっ!」

 

 あとは近距離一択。向こうもMPはないはずだ。殴り合いならいける。

 

 トレードオフ。ダメージを受ける覚悟で距離を詰める。消えた『炎蛇』から落ちていく相手の落下地点を予測。スリップダメージが発生。超高温のエリアに侵入。

 

 こっちは炎耐性で軽減。対して相手のライフはそのまま確実に削れる。

 

 勝つなら、今だろ。

 

 

system:

「《locked on.》――ターゲットを補足しました」

 

 

 耳になじんだ声を聞きながら、直接、振りあげた銃剣を叩きつける。もっとも打点の高くなる距離《レンジ》を意識して斬りつけた。

 

 

「オラァ!!」

 

 

 ――ガキィンッ!!

 

 

system:

「《off SET.》――攻撃構造体と防御構造体が接触。物理法則を相殺します」

 

 

 蒼いエフェクトが飛び散る。それぞれが得意とする武器の先に、おたがいの顔が見える。クソリアルな3D映像が、瞳の中に映る自分たちの姿すら映しだす。

 

system:

「《locked on Second.》――因果律予測を実行。命中率に補正が入ります」

 

system:

「《Deadly_Lock.》――行動を予測されています。回避率にペナルティ発生」

 

 

 ラスト。ミリ単位のライフを競う。

 まともに一撃を、先に入れた方が勝ちだった。

 

 

 

 

system:

 

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 

system:

 

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 

 

system:

 

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 【off SET !!】――《ダメージを相殺します》

 

 

 

 ――うん。なんかありえねぇぐらい「いい感じっ」!!

 

 

 

 明日、俺は死ぬ。ぜってー死んでるね。

 

 

 大学の講義は朝からあるぜ。その後にバイトも待っている。

 

 

 サボリはしない。絶対にしない。

 

 

 何故ならばっ!!

 

 

「これ以上、単位は落とせねぇんだよなァッ!!!」

 

 

 みんな。留年した先輩がたを笑うのはやめよう。

 ぼく、そういうの、よくないと思うんですよね。

 

 まだ一人暮らし1年目だけど、そう思います。

 

 そんな強い意思を秘めて、銃剣を真上に振りあげる。

 

 最上段からの斬り落とし。

 

「!」

 

 当然のように反応される。右手の拳銃を近接化して防御の姿勢。残る左手はこっちに照準を向けて、目前の額に狙いをつけてきた。おたがいの武器を打ち合わせた直後に、強制硬直が発生した瞬間、銃撃を見舞ってくるつもりだろう。

 

 その、バカみたいに正確無比な、機械的な思考を逆手に取る。

 

「っ!?」

 

 俺は、相手から『視線をそらした』。真上から振り下ろした銃剣が、相手の拳銃とは交差せず、そのまま側面を通って、炎の広がる床を打つ。

 

 

 ――ガキィンッ!!

 

 

「…『逆に読みやすいんだよ』。バカみたいに精度たけーから」

 

 ゲームがそこそこ上手い程度の俺が、それでも、トップランカーの連中と対戦できる場所まで上がれるのは、こういう『小技』を自分で見つけてきたからだ。

 

 

 【Magic Code Exectuion】

 【Type Fire】【Enchant Lv_2】

 

 ――《Over Heat !!》

 

 

 MPを最後の一滴まで絞り尽くす。銃剣の刀身が真っ赤に燃える。さっきの焼夷弾の影響で、相変わらず、可燃性オイルがたっぷり塗られたその場所に、自分も片膝をつくように倒れ込む。

 

 情けない恰好でも、目前から発射された弾丸は外れて、素通りする。

 

 相手の攻撃ターンが終わる。

 

 コンマ1秒をもぎ取った。

 

 俺のターン。

 

 ライフを対象に、ガチャを回せる、ラストチャンス。

 

「爆死しとけッ!!」

 

 銃剣のトリガーを引いた。

 

 六連発のシリンダーに残った、最後の一発を発射。

 

 

 ――《BLAME !!!》

 

 

 レベル2のスキルを発動。

 核熱した炎が、銃剣の刀身から全方位に吹っ飛ぶ。耐火にステータスを割り振っていても、自分のライフがゼロ、ギリギリ手前まで消しとんだ。

 

 

 それでも、死ななければ安い。

 

 

 そう。

 

 

 ――死ななければ、安い。

 

 

 

 【Enchant Lv_5】【Valiable cost INF and NULL】

 

 

「…マジか…」

 

 

 無敵。

 

 

「…あのタイミングで、切れるかー…」

 

 全身が光り輝いている。だけどその残滓は一瞬で途切れた。

 銃口が向く。乾いた音がする。――バン。

 

system:

「《DOWN.》――ダウンしました。戦闘行動の続行が不可能です」

 

 

 磁気嵐の迫る時間以外で使用すると、本来の60秒間から、60分の数フレームのみ、無敵時間が発生する。緊急回避のスキルとして使うことができる。正真正銘の切り札だ。

 

 このプラント区域を制圧した際に入手したもの。

 

 正真正銘の切り札を、迷わず、あのタイミングで切りやがった。完全に虚をついたはずなのに。それか『虚をつかれた』と分かったから、後に貴重なリソースになりうるものを、平然と斬り捨てやがった。

 

 

 ――死ななければ、安い。

 

 

 切り札の抱え落ちは、全ゲーマーにとって、この上ない『悪』だ。

 

 後悔する。

 

 あん時、あぁしとけばよかった。こうしとけばよかった。

 

 ただ、ひとつの事をやり込んでいれば、少なからず自分の技術は向上する。知識だって増していく。

 

 ゲームが上手くなるごとに、選択肢そのものが、自然と増え続けていく。

 そうなれば必然、切り札を使うタイミングに、悩むことが増える。

 

 切って捨てる事自体が、大きな損失を生む。身を持って、何度も、声にだして叫びたいほど、わかリ尽くしているからだ。寝とけばよかった。

 

 

「GGです、チクショウ!! 対戦ありがとうございましたぁーッ!!」

 

 

 ――バンバンバン。続けて無造作に同じ動作をされて、蘇生不能になる。

 

 「うああああぁ~っ!」と、両手をまっすぐ上にあげてから、画面に映った『対戦相手を評価する』のボタンを押した。すると、相手のキャラクタも、嫌味のない感じに笑って、親指を立てたエモーションを取ってきた。

 

system:

「《Good_Game.》――対戦相手より健闘を称えられました」

 

system:

「《Get_Coins.》――ゲーム内で利用できる所持金を獲得しました」

 

 

 「対戦ありがとうございました。ものすごく楽しかったです。」

 

 

 音声認識を、文章に変換したメッセージがとんでくる。

 

「こっちのセリフだよ。ありがとな」

 

 画面が薄暗くなる。嬉しかったし、くやしかった。間違いなく、日本のどっかにいる、凄腕のランカーに対して、切り札を使わせるまで追い詰めたなと、心のどこかで、そんな風に満足している自分がいることが、なによりもくやしかった。

 

「あ、そういや、1号さんと2号さんは…」

 

 普段はソロが多すぎるから、ついクセで、音声認識を切っていた。戦闘直前に伝えてはいたものの、一人で負けてしまったから、ちょっと申し訳なくなった。

 

「1号さん、2号さん、すんません、負けちゃいました。今そっちどうなってます?」

『…アキナ君か…』

『…あぁ、こちらは…』

 

 そん時だった。俺のPCがとつぜん、HDDを、ガリガリと読み込む音がした。

 

「あれ?」

 

 なんか、急に重くなった。変だな。ゲーム遊ぶのも、十分に余裕がある、最新スペックなんだけど。なんかめっちゃ、ガクガクしはじめた。

 

『…すまないな。我々も、たった今、仕事が入ったようだ…』

『…あぁ。お客さんだ。また機会があればどこかで会おう。楽しかったよ…』

 

 ヘッドセットから聞こえる通信も、どこかノイズが走っていた。

 

system:

「《connection.Error.》――障害が発生しました。ゲームを強制終了します」

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