VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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 9月も終わりが近づいてきた。

 学校の休み時間では、今年の文化祭に関して話す機会が増えた。

 

* *

 

 うちの高校の文化祭は、10月の第3週に開かれる。

 

 新しいものが好きな校長先生が「クラス対抗戦って体育祭があれば十分だよね。そもそも学年で分かれて、三国志モドキをやるってのが、現代社会に適してないよね」と、平然と公言したのが、赴任した年の出来事だったらしい。

 

 そんなわけで、うちの高校の文化祭に『クラス単位のだしもの』っていう制約はない。その代わり、少人数以上で組んだチームで、好きな物を展示できる。

 

 ただ、条件があった。生徒は、チームの責任者を担える先生を、一人募り、生徒会の人間と直接交渉したうえで、許諾を得ることだ。

 

「祐一、そろそろ時間だぜ」

「ん、行こうか。出し物の嘆願書持ったか?」

「僕が持ってるよ。大丈夫」

 

 夏休みが明けた9月。俺たち5人は、翌月に開かれる文化祭に向けて、少しずつ動いていた。自分たちで作ったゲーム『そらまーじゃん』を、一般の人たちにも周知するための計画を起こしていた。

 

「だしもの認めてもらえるか、ドキドキするよねー」

「だよな。生徒会室とか、普段いく機会もないし」

「べつに緊張する必要なんて無いでしょ。却下されたら、前川くんが責任取って、腹を切るって言ってるしね」

「そっかー。じゃあ大丈夫だねぇ」

「社長、会長。俺、そんな物騒な公言をした覚えは一切ないんですけど?」

 

 いま令和八年だから。江戸時代じゃないんだよ。

 

「よっしゃ。んじゃ祐一が腹切るらしいし、俺らは気軽に行くかー」

「だね。前川、屍は拾うから安心しなよ」

「もうすでに腹を切ることが決まってんのおかしいよな?」

 

 そんなわけで、これから約一ヶ月後に、文化祭をひかえた日の放課後、運動部の滝岡と原田にも、都合をつけてもらい、5人で生徒会室の扉を叩いた。

 

* * *

 

「『麻雀喫茶』・・・・? また、面倒なものを申請してきたものだな・・・・」

「そうですね。でもわたしは、おもしろそうだなって思いましたけど」

 

 生徒会室。重厚なデスクの向こう側には、3年の生徒会長である先輩と、2年の副会長である先輩が座っていた。

 

「兄さん。これは、認めちゃってもいいんじゃないですか?」

「バカを言え・・・・ッ! こんなもの・・・・却下だ、却下・・・・ッ!」

 

 パシーン。パシーン。

 提出したクリップボードに収めたA4のレポート用紙を叩かれた。

 

「ギャンブルは禁止・・・・ッ! 全面禁止・・・・ッ! 言語道断・・・・ッ!」

 

 天界治司《てんかいじつかさ》先輩は、超がつくほどマジメで、厳格な性格が服を着て歩いていると評判だった。服装や髪型も、きっちり校則範囲内に収まっていて、眼光も鋭いが、室内では白手袋を着用している。乾燥肌らしい。

 

「だけど兄さん、他のだしものと比べたら、内容がまとまってますし。さすがに、来るもの立て続けに却下するのも、どうかなぁって」

「まとまっているかどうかの話ではないのだァ・・・・ッ!」

 

 ガシャアン。クリップボードを放り投げられた。

 

「いいか、美羽《みう》・・・・ッ! 天界治の名を継ぐものとして、われわれ学生が、ギャンブルの代表格たる麻雀を容認するなどありえん・・・・っ! それがおまえには分からないのか・・・・ッ!」

「はいはい。兄さんはホント、マジメで熱くてうっとおしいのだわ~。もうちょっと、肩の力抜いてもいいんじゃない?」

 

 反対に、妹の天界治美羽《てんかいじみう》先輩は、どこか気だるそうな姿勢で、用意した紙切れをながめている。綺麗な顔立ちで、平然とあくびした。

 

 事前に、あかねや、そらから話を聞いてもいたけど、先輩たちは、うちの地方に昔から続く名家の人たちらしい。

 

「いいか、1年共。これは偏見を承知の上で言わせてもらうが・・・・」

 

 ギャンブルなんて御法度だ。まったく度し難い。

 という感じで睨みつけてくる。

 

「麻雀は、暗くて怖い。タチの悪い大人の遊びだというイメージが一般的だ。俺の意見に、相違があるなら述べてみろ・・・・」

「いいえ、天界治会長。否定はしません。おっしゃるとおりです」

 

 発言したのは、うちの『会長』だった。

 

「・・・・ほぉ? では、話を終わらせてもらっても構わんな?」

「申し訳ございません。もう少し、お付き合いいただけたらと存じます」

 

 

 ――にっこり。

 

 いつにも増して、良い笑顔ですね、そらさん。

 

「天界治会長の懸念はもっともです。麻雀は怖い。ですが、わたし達は今回の行事を機に、先行されたイメージを、少しだけ、明るいものに変えられたらいいなと考えています。もちろん、学校にご迷惑をかけるつもりは、ありません」

「フン。たかが学生如きが・・・・。そんな真似をできると本気で思っているのか・・・・?」

「兄さん、わたし達も高校生ですけど?」

「・・・・そこは、まぁ、あれだよ・・・・」

 

 どれだろう。生徒会長が、苦い物でもかみ砕いたような顔になる。あらためて、白手袋をつけた両手を組んで、顔を傾けた姿勢で、真正面に整列する俺たちを睨む。

 

 

「そこの1年女子。貴様が代表だな。名を名乗れ」

「西木野そらです」

「いいだろう・・・・ひとまず、交渉の卓にはついてやろう。先ほど、万が一にも態度を荒げるようならば、問答無用で退出してもらうところだったぞ・・・・」

「ありがとうございます。争いは、なにも生みませんからね」

「そうだな。しかし、これはこちらの言い分にはなるが。うちの高校は、とかく面倒でな。あのクソジジ・・・・ゴホン。我らが学園の学長殿が言うには、道理を通せば、あとは自由ッ! とかいうルールがまかり通っているわけだが・・・・」

 

 はぁ…と、素直に疲れた、ため息をこぼされた。

 

「おかげで、こうした出し物が発表される時期が近づくにつれて、生徒会の人間である我々にとっては、これ以上なく、厄介なことになってくれる・・・・」

 

 天界治会長が、眉をひそめる。

 それでも、もう一度、クリップボードの方に目を通してくれた。

 見た目はちょっと怖いけど、良い人だった。

 

「確かに、実際のモノとしても、よく出来てはいる・・・・がっ、駄目っ! 既にネットの一般市場で販売されているものならば、わざわざ文化祭で披露する必要はなし・・・・っ!」

「…それは…」

「さらにだ。学生の開発した物とはいえ、一般市場にでている『商品』を、勉強が本分の学び舎で公開、ひいては宣伝行為をすることになる。その過程で、我々、学園側の人間が、なんらかの不利益を被る可能性が無いとは言えない」

「……」

 

 そらが言いよどむ。確かに、それはもっともな意見ではあるのだけど。

 

「――リアルで実際に、楽しく、麻雀を打った。打てた。という経験そのものが、本当に、意味のあるものへと、繋がっていくのだと思います」

 

 割り込む形にはなったけど、俺も発言した。

 生徒会長の鋭い眼光が、こっちにも集中する。

 

「キミは・・・・」

 

 一瞬、退出を言い渡されるかもしれないと、身構えたけれど、

 

「いや、続けての発言を許可しよう・・・・」

「ありがとうございます。同じクラスの前川祐一です。今回は、このゲームアプリのお披露目に加えて、『健全にゲームを遊べる場所』を、当日、学生を含めた来場者の方々に提供させて頂く意図を持っています」

「それは学園の出し物でなくとも、構わないはずだ」

「いいえ、今回の文化祭の『場所』が、ベストなんです」

「根拠を聞こうか」

「はい。少しだけ、自分自身の経験を交えつつ、説明させてください」

 

 俺は、2年前のことを、天界治先輩に語った。

 

 そらと一緒に、じいちゃん達の『秘密基地』で、一緒に麻雀を打ったこと。初めてリアルで麻雀を打った時、そらが無双して終わったけど、あの後、家に帰ったじいちゃん達の中には、家族と打ち始めたって人もあらわれたこと。

 

 嬉しそうな、じいちゃん達の、笑顔の先に在るもの。

 

 感情論に加えて、商業的な視線を持てば、視えてきたこともある。リアルと、ネットの双方で遊べるゲームというのは、『その両面で定期的に遊べる場所』を用意できると、息を吹き返す。

 

「――ゲームに限らず、なんらかの『媒体』は、多面性を持つことで『衝撃』に強くなります。つまり、遊べる場所を、複数用意することで、大元のジャンル自体が『長持ち』しやすくなる傾向をみせます。

 天界治会長の言う通り、学校は、第一に『学ぶ』場所ではありますが、また同時になにかを『引き継げる』場所であると思っています」

「確かにな。だが少なくとも、麻雀という文化が、この学園に存在していることを、俺は知らないな」

「逆に、だからこそです。『起源がない』のだから、引き継げるもの、この先に続くもの自体を、俺たちが、ここから作れる可能性があります」

 

 もちろん、すべてが、そう上手くいくとは限らないけれど。

 

「現状で『べつ媒体には存在するが、同じ座標上に起源がないもの』は、経験上、利益として還元される、潜在的な可能性が高いです」

「それはどうしてだ?」

「『べつの座標上から応援して頂けるから』です。誰も、自分たちの好きな文化が終わることなんて、望んでいません。だけど、同じ場所で競争を続ける限り、どうしても、その時代の流行にあったものが、上位にきます」

「そうだな。それは理解できる。だが、麻雀というゲームが、一定の安全性を保っているのか、危ないゲームではないのかという問題はべつだ」

「はい。ですので、それを今回の文化祭で、ほんの少しだけ、変えたいと思っているわけです。上手くいけば、将来的に、この学校から『一般の人たちから応援してもらえる麻雀プロ』がでてくるかもしれません」

「それを、学生の君たちが、実行できる気でいると?」

「はい。学生の身分であっても、やってみる価値は、十分にあると考えています」

 

 成功しても、失敗しても。

 なにか、そこから新しいものが視えてくる確信があった。

 

「もちろん、麻雀喫茶という催し自体に関しては、学校側にはもちろん、保護者にもご迷惑をかけないよう、きちんと配慮した上で行動します」

「・・・・」

「俺は床屋の息子です。お客さんとの接し方、マナーについては、小学生の頃から、父と母に教わって育ちました。もし、なにかトラブルが起きましたら、俺が責任を持ちます。どうか、ご一考いただけませんでしょうか」

 

 頭を下げた。いざとなっても、さすがに腹は斬れないけど。

 

「お兄ちゃん、この一年生たちなら、大丈夫なのだわ」

 

 面をあげると、妹さんの副会長さんが笑いかけてくれていた。

 

「お爺ちゃんも、こういう子たちが出てくるのを期待して、こういう制度にしたんだから」

「あー・・・・まぁな・・・・」

 

 天界治会長がもう一度、思案げにうなった。

 

「…あの、こういう制度っていうのは、どういう?」

「こちらの事情になって恐縮だがな。本来なら、クラス毎に成立するはずの出し物が、数も規模もバラバラになって押し寄せるわけだからな。話し合いをするだけで、時間も手間もかかってたまらんのだよ・・・・」

「あぁ、なるほど」

 

 まったくもって、困った話だよ・・・・という感じの雰囲気をにじませる。

 妹の副会長さんが、お兄さんの話を継ぐ。

 

「実際ね、すでに他の生徒からの申請でも、ゲーム系の出し物の希望は多いのよ」

「というか、大体がそうだがな・・・・。おとなしく、おばけ屋敷でも提案してればいいものを・・・・」

「どういったものが提案されるんですか?」

「そうね、麻雀はまだ提案されてなかったけど、パチンコ、スロット、花札、ポーカー、じゃんけんデスマッチ、電流鉄骨渡り、秘密カジノクラブとか?」

「うちの生徒どうなってんすか」

「・・・・しらんのか? 秩序を準拠する場所や、偏差値の高い集団が集まる場所ほど、日頃のストレスが溜まりやすい傾向になるからな・・・・。祭りになると、全身のネジが外れて、ぶっ飛びやすいわけだよ・・・・」

「そう。兄さんの言う通りなんですよ。由緒あるヤクザの宴会って、始まりから終わりまで、みんな粛々と、静かぁに飲み食いしてるだけなんですけどね。警察官とか政治家の宴会って、どんなものか知ってますか? 二次会になると――」

「すいません先輩。その先は聞くのが怖いので遠慮させてください」

「えぇ~、聞いてよ~」

 

 ひとつ歳上の先輩が、ぷくーっと膨れた。

 

「まぁ、とにかくそういうわけで、特に受験をひかえている三年は、ここぞとばかりに無理難題を提案してくる。おかげで胃が痛くてかなわん・・・・っ!」

「兄さんは、ほんとマジメですね」

「妹よ。こんなものは、真面目のうちに入らんぞ・・・・俺は、単にだらしのない連中が嫌いなだけだ。特に、借金を抱えるなど持っての他だし、良い年齢をした大人が、いつまでもゲームに熱中している姿など、見ていられん・・・・」

「兄さんは、ちょっとマジメ過ぎるんですよ。妹は将来が心配です」

「なにを言っているのか・・・・。大丈夫だ。問題ない」

 

 クイッと、中指でメガネを軽く戻す。

 今一度、けわしい眼差しで、提案書を睨んだ。

 

「まぁ、キミの言う通り、突発的な行動でないことは認めよう。しかしだ・・・・。妹の言った通り、すでに他のギャンブル関連の提案は却下している状況でな。麻雀の申請だけ通したと広まれば、今年も生徒の間でデモが起きかねん」

「…デモ? って、あの…政治運動的なやつですか?」 

「あぁ、毎年恒例になりつつあってな。風紀部に専属の部署を作りあげてはいるのだが、コレが中々、頭の痛い問題なのだよ・・・・」

 

 学生の政治活動を阻止する、生徒会役員とか。

 うちの高校、どうしてそんな漫画みたいな事になってるんだろう。

 

「デモって、具体的にはなにをやらかすんです?」

「集団で覆面をかぶって、プラカードを掲げて練り歩いたりしているな・・・・隙あらば、当日も立ち入り禁止の屋上に上がり、メガホンを持って、勝手に青年の主張を始めたりしている・・・・」

「普通に迷惑ですね」

「・・・・ああ。普通に迷惑なんだよな・・・・」

「えー、そうか? なんか普通におもしろそうじゃね」

 

 滝岡が反応していた。

 

「そうか。滝岡レベルだったか…うちの高校、けっこうアホだな」

「みたいだねぇ。滝岡レベルはヤバイよ」

「おまえら、俺をなんだと思ってんの?」

 

 天然アホ測定器がなにか言ってたけど、とりあえず無視した。

 

「他にも、去年は確か・・・・メイド服の着用は許されているのに、チャイナドレスと、ナース衣裳がダメな理由は何故なんだ。我々は確固たる意志を持って抵抗する。とかなんとか。思いだすだけで、頭の痛い話だ・・・・」

「見つけ次第、速攻で取り押さえて、すまきにして独房《体育館倉庫》に放り込んで放置してましたよね。あとなにか、ロリコンも大量に釣れましたね」

 

 なんでだよ…ロリコンって、普通に犯罪者じゃん…

 って顔をしていたら、原田がいきなり食いついてきた。

 

「前川っ! おまえもしかして、この美術部にいらっしゃる、時雨先輩をご存じではいらっしゃらないのか!?」

「ごめん。ご存じではないけど、詳細については追及しないよ。おまえがアクセル踏んだ時は、たいてい後が怖いから」

「わかった。後でゆっくり語らせてもらおうか」

 

 二次元オタクは、エンジンが掛かると、なにも視えなくなる。

 とりあえず無視した。

 

「・・・・そうか。君も、なかなか、苦労しているようだな・・・・」

 

 視線がぶつかる。――この会長、良い人だ。パワー系の女上司に囲まれて、日常的にパワハラを受けて、今はちょっと疲れてる感じに違いない。

 

「やっぱな。女子ってのは、普段から明るくて、サバサバしてる感じの方が、良いと思うんだよな・・・・」

「わかります。そういう子の方が、ぜったい、闇が薄いですからね」

「・・・・そう。そこなんだよな・・・・わかりみ深いわぁ~・・・・」

「深いですよね」

 

 俺たちは頷き合った。心の中では握手をかわしている。

 寒色系より、暖色系。サブカル系より、メインヒロインの系譜。

 

 「まったく、キミって本当に仕方のないやつだよねぇ」と、たまに毒を吐きつつも、根はやさしく、行動的。さらにその行動原理は、家庭的なもので、包容力があって、気が付けばいつも側にいてくれる。胸が大きい。

 

 令和男子は、我々は、そういうのを、求めているんだよ。

 

 

 ――ロリだの、JKだの、そういう事じゃあ、ないんですよ…。

 

 ――そういうことだ。理解が浅すぎると言わざるを得ない。

 

 

 なんでだろうって思った時。俺はわかったんだ。

 

 あぁ。そっか。みんな。べつに。人生に疲れてないんだなぁ。って。

 

「前川くん、大丈夫? 起きて息してる?」

「兄さんったら、疲れがたまってるみたいですね。楽しい妄想は捗りましたか?」

 

 あはははは。もしかして、キミら、めんどくさい系男子って、つらくて悲しい現実に対して、異性にまだまだ一抹の希望を抱いちゃったりしてるのかな~? 

 

 ってな感じで、それぞれの女子が微笑みを向けてくれていた。

 すいません。調子にのって、すいません。

 

「・・・・ゴホンッ、まぁともかくだ・・・・今年も文化祭の開催にあわせて、厄介な政治活動を行う学生たちが、すでに現れはじめている・・・・そんな状況下では、ギャンブル的イメージの先行する、麻雀喫茶を認めるのは、どうしてもな・・・・」

「――天界治会長。わたしからも、ご提案があります」

 

 さっと、あかねが手をあげていた。

 

「・・・・なにかね?」

「もしも、わたし達の活動を認めてくださるのであれば、生徒会の業務の一部をお手伝いさせていただきます」

「・・・・それはつまり・・・・」

「兄さん! 裏金工作のお誘いがきましたよ!」

 

 妹さんが、ぱーっと良い笑顔になる。背中から白い翼が生える勢いだ。

 一方、天界治会長は、ものすごく複雑そうな顔を浮かべる。

 

「妹よ。いつからおまえ、そんなに闇が深くなったんだっけ・・・・?」

「だいたい世の中の責任ですねっ、それよりもっ、どんな裏金工作をご提案くださるんですかっ、ねぇねぇねぇっ!?」

 

 ぱあああぁぁ…っ!

 

 本当に、無邪気な良い笑顔だった。そう。あれもこれも、だいたい世の中ってやつが悪いんだ。俺たちはそっと目をそらしてつぶやいた。つれぇわ。

 

「いえ、これは正当なお仕事の手伝いの要請ですので」

「・・・・あぁ良かった。だよな・・・・」

 

 うちの『社長』が訂正する。ほっとする俺たち。ですよね。

 

「ですので、もし、わたくし達の活動を認めてくだされば、こちらからは、生徒会の仕事の手伝いとしまして、金銭管理に応じた業務などを、一部担当させていただくことができると考えております」

「あぁ、それは助かる。金の管理は実際、一番に頭を悩ませるところでな。この時期になると毎年、経理担当が、辞表を提出するのが恒例なんだわ」

「そう言えば、他の生徒会の人が見当たりませんね」

「今朝、机の上に、退職届けがおいてあった。一名は、新たな生贄を補充しに向かっているところだが・・・・」

「生贄て。悪魔かなにかですか」

「自称だけど悪魔ですね。このまえ、うちの福利厚生に文句言いながら、コンビニで買ってきたアイス食べながら仕事回してましたけど」

 

 ぐう有能悪魔だった。どうでもいいけど、うちの高校生徒会の『書記』は、他の高校よりも、はるかに役割が重いみたいだ。当たり前だけど、無給だよね。

 

「あの、お話を続けてもよろしいですか?」

「あぁすまない。人手にまつわることなら大歓迎だよ・・・・」

「では改めまして。わたくし達のゲーム内での課金要素、ガチャ等に該当する売上は、最終的には専属の税理士、大人の担当者に任せておりますが、データにて出力された一時情報の管理、内容に関しての記載にまつわるものは、うちの若手社員にも、経験を積ませるという形で参加させておりまして」

「ふむ・・・・つまり、その人材を、生徒会の仕事の手伝いに回していただけるということかな?」

「おっしゃる通りです。実家が商店をしており、簿記や会計士の国家試験も、去年取るよう指導しましたので、必要最低限の仕事はこなせるかと」

「悪くない提案だな・・・・で、どちらの者を出荷してくれるのだ?」

 

 出荷て。さすがはブラック生徒会。

 でもさ。あのさ、その条件に当てはまる奴っていうと―― 

 

「そちらの、前川が担当させていただきます」

「社長おおぉーッ!? 待って! 俺を売らないでーーッ!!??」

「売るんじゃないわ。貸すだけよ」

「良い笑顔でやさしく微笑まないでよッ!?」

「人身売買…っ! 強制労働…っ! あぁ、なんて甘美な響き…っ!!」

  

 ほら、なんかあそこの闇落ちした副会長が、頬を赤らめてるじゃん。背中の白い羽が、ぴこぴこ動いちゃってるじゃん。

 

 ヤバいよ。この生徒会、絶対ヤバいって。

 

「・・・・なるほど。キミなら、いい仕事をしてくれそうだねぇ・・・・いいだろう。そのライフと引き換えに、認めてやろう。麻雀喫茶を・・・・っ!」

 

 しかも生徒会長の眼の色まで変わっていた。

 口元が「クカカカカ・・・・っ!」と笑っている。

 

 だ、だまされたのか…! また、俺は、騙されたのかぁ…っ!!

 

 この学校の下には、地下帝国があって、腹黒い国家権力並みの力を持った大人たちが、24時間365日の単純労働力を求めてる。捕まれば、二度と陽の光を浴びれなくなる。1050年ぐらい監禁される。

 

 小学生レベルの妄想が全開に解き放たれた俺は、労働委員会に助けを求めようと、全力でこの場を逃走しかけて、

 

「前川、これは必要な犠牲だ。わかってくれ」

「祐一、がんばれ。俺ら、普段は部活あっから」

 

 両左右から、スクラムを組むようにして止められた。

 振りほどけない。運動部と文化部の差が、俺を逃がしてくれない。

 

「いやいやいや、俺だって、いろいろ予定はあるんだよなぁ!?」

「大丈夫。前川ならやれるさ」

「そうそう。自分を信じて突き進めって」

「そういうの今はいらねぇから!」

 

 友情って儚い。

 だとすれば、俺がこの場ですがれるのは、残すは…!

 

「ごめんね。前川くん。これも麻雀という名の、大いなる宇宙の定めなの。いってらっしゃい~」

 

 うん。知ってた。この女は、最初から麻雀牌に魂を捧げている。

 

 

 ――かくして、2026年の秋。俺という名の、たぶん尊い犠牲によって。

 某高校の文化祭にて、麻雀喫茶は成立したのだった。

 

* * *

 

 放課後。いつものように帰り支度をしていると、あかねに声をかけられた。

 

「前川くん、今日の放課後、黛先生に、来月の文化祭の件を報告しておいてもらえる?」

「あぁいいよ。正式に承認が降りたんだよな?」

「えぇ。あとは実際の準備を進めるだけね。ところで、生徒会の仕事の手伝いの方は大丈夫?」

「まぁ、なんとかなってるよ。来週にでも、また5人で集まって、どっかで相談しとくか?」

「そうね」

「ところでさ、今日は視聴覚室の方はどうする?」

「愚兄が来るから。今日は早く帰る予定」

 

 あかねが振り返る。そらは別のクラスメイトと、なにか話をしていた。

 

「ほら、わたし、そらのご家族にお世話になってるでしょう。一度、顔をだしておきたいって」

「そっか」

 

 二人は、2年前から変わらずユニットを組んでいた。VTuberの芸能活動も続けている。竜崎さんが来るということは、そうしたことも含めて、今後の二人の方針を相談したり、他にもいろいろ、積もる話もあるんだろう。

 

「わかった。黛先生には伝えとく。滝岡と原田、あと、遠方の三人にも分かるように、全員の共有アドにも報告しといたらいいよな」

「えぇ、よろしく頼むわね。……あと、祐一」

「ん?」

 

 小声で、下の名前を呼ばれた。

 

「いつも、ありがと」

 

 *

 

 階段をあがって、視聴覚室に向かう。俺たちには週1度しかない授業でも、教員数の不足から、全クラスを担当している黛先生は、月曜から金曜まで毎日出勤していた。

 

「失礼します」

 

 今日も他の生徒はいなかった。すでに定位置で、業務日誌なんかを書いている先生は、面をあげた。

 

「先生、今お時間よろしいですか?」

「かまわないよ」

「じゃあ、まず来月の文化祭の件なんですが、予定通り、俺ら5人で、麻雀喫茶をする事に決まりました」

「正式に認可が下りたんだね」

「はい。それで、先生には当日、責任者として付いてもらうことになりそうなんですが」

「問題ないよ」

「ありがとうございます」

 

 すでに話は伝えてあった。おたがい、確認する程度にうなずく。それから、空いた席に鞄を置いて、ひとまず立ったままたずねる。

 

「えーと…それと、先週のことをお聞きしてもいいですか?」

「あぁ、うちのAIが迷惑をかけたね」

 

 先生は平然と言いきった。

 

 

 ――強制終了を迎えた、あのゲームの翌日。先生に事情を尋ねようかと思ったけれど、少し時間がほしいと言われて、結局うやむやになっていた。

 

「アレから、一週間が経ったけど、詳細に覚えてるんだね」

「え?」

 

 どこか真剣味を帯びた顔で言われた、気がした。

 

「はい。まぁ…自分の個人情報に関することですし」

「そうだね」

 

 感情の起伏に乏しい感じの返事。間がひらく。

 

「悪いね。どこから説明したものかなって、言葉をまとめてるところ」

「はい」

 

 おたがいに言葉を探す。ひとまず先に、救い上げるように伝えた。

 

「あの女の子…もしかして、黛先生の【セカンド】ですか?」

「正気かな?」

 

 素で嫌そうな顔をされてしまった。

 

「あれは、俺の親戚の子の【セカンド】だよ」

「先生の親戚ですか?」

「そう。関係的には、いちおう従妹の女の子だね。面倒だから、もう親戚で通してるんだけど」

「ってことは、そこそこ歳が離れてますよね」

「そうだね。今年で14になるかな。マッチングしたのは、10歳の時だったはず」

 

 いつもと変わらず、無表情にうなずかれた。

 

 俺たちは、正直なところ、黛先生のことを詳しく知らない。他の先生の場合だと、知り合って半年も経つと、いろんな話を耳にするようになる。

 

 たとえば滝岡は、先生のことに結構くわしい。好きな食べ物や嫌いなものといったプロフィール程度は、俺たちの間にも共有される。だけど黛先生の場合は、

 

 「それを聞いてどうするの?」

 

 真顔で言い返されるのが確定していた。生徒のことが嫌いってわけじゃないみたいで、少なくとも学習にまつわることを聞けば、時間をかけて返してくれる。

 

 そんなわけで、だいたい全員に共通しているのが、黛先生は、私生活が謎に満ちている。満ちていた方が『それっぽい』という感じだった。

 

「先生、その親戚の女の子って、近くに住んでいらっしゃったりするんですか?」

「一緒に住んでるよ」

「え?」

「少し難しい子でね。わけあって、俺が預かってる」

「そうだったんですか。…なんか先生って、ワンルームのマンションとかで、几帳面に生活してる印象があります」

「今は一軒家で暮らしてる。昔の古びた家をリフォームしてね。快適だよ」

「…めっちゃ意外です」

「よく言われる」

 

 表情に変化はなかった。もう少したずねてみる。

 

「あの、その子の【セカンド】なんですけど」

「うん、なに?」

「とりあえず、名前とか聞いてもいいですか?」

「『瞳』。漢字一文字の、目の瞳。少なくとも本人はそう呼べって言ってるね」

「名前をつけたのは、親戚の女の子になるんですよね?」

「いや、あの人工知能――【セカンド】が、自発的に名乗ってるね」

「名前をつけなかったんですか?」

「らしいね。そのあたりは、仁美的には興味がなかったらしい」

「ひとみ?」

「あぁ。そっちは『人間』の方だよ。出雲仁美《いずもひとみ》。仁義のジンに、美しいと書いて、ひとみ」

 

 話の流れから、女の子の方も、ちょっと変わってる感じなのかな。という印象を受けた。

 

「つまり、【セカンド】が自分から、マッチングした女の子と、同じ名前を名乗ってるってことですよね。なにか意識してるんでしょうか」

「かもしれないね。俺は興味ないけど」

「あと…えーと、失礼だったら申し訳ないんですけど、先生とは苗字が違うんですね?」

「向こうの家が、夫婦別姓を採用してる家柄なんだよ。長女の仁美は、母方の性を利用してる」

「へぇー」

「あと親戚筋って苗字が一致しない場合があっても、特に珍しくないと思うよ」

「そうなんですね、すみません。うちって、あんまり親戚の人がいないんで」

「かまわないよ」

 

 俺も養子先の苗字を名乗らせてもらってるから、そういう名前の事に関しては、どうしても興味がわいてしまう。

 

「先生の従妹って、どういう方なんですか?」

 

 興味がわいたついでに、うっかり「それを聞いてどうするの?」と言われそうな質問をしてしまう。素直に謝って、改めてこの前のできこと、出雲仁美さんの【セカンド】が、俺の個人情報を知っている理由を聞き直そうと思ったら、

 

「現実と、電子の世界を、半々に行き来してるような人間だよ」

 

 意外な答えが来た。けれど、

 

「イメージ付かない?」

「はい。ちょっと…」

「それなら話のついでに、すこし、人工知能の話をしてもいいかな?」

「えっ、はい」

 

 とつぜん、黛先生は言った。

 

「前川は、オープンソースAIという言葉を聞いたことはある?」

「あります。プログラムのリソースが、一般にも公開されてるやつですよね」

「そう。細かな意味合いでの差はあるものの、内部のデータを一般公開して、世界中の人たち全員で、性能を向上させていこうといった赴きのものだね」

 

 俺も小さくうなずいた。

 

「ただこの方法は、近年になって、ひとつ欠点が挙げられるようになった」

「欠点ですか?」

「そう。なんだと思う?」

「えっと…大勢の人たちが参加するから、内容が上手くまとまらない?」

「違う。その点に関しては特に問題はないんだよね。逆に、都合よくまとまりすぎている事が、問題になりはじめたんだよ」

「どういうことですか?」

「オープンAIは、結果的に『誰にでも分かりやすいもの』になってしまうから」

「……」

 

 よくわからない。

 誰にでもわかりやすいもの。それはむしろ、長所なんじゃないだろうか。

 

「例えを挙げようか。海外の掲示板で、常に人気を博しているスレッドがあるんだけど」

「はい」

「『相対性理論を5歳児にもわかりやすく伝えてください』『フェルマーの最終定理が現代においても解けない理由を5歳児にもわかるように説明してください』」

「…はい?」

 

 なんだか今日は、先生にしては珍しく、話があちこちに飛躍する。脳を早目に回転させて、言わんとするところを考える。

 

「……要は、すごく難しいことを、誰にでもわかるように解説する。みたいな感じのスレが、人気を博してるってことでいいですか?」

「そういうこと。オープンAIも似た性質を持っている。対象が一般にも無償で公開され、全員の手で改良されていくと、最終的には『わかりやすいもの』に落ち着くんだよ」

「わかりやすいと、いけないんですか?」

「『新規の発見』としては、よくないね。それは普遍性がある。現代においてのニーズがあるということだから。大勢が口にするところの『あたらしい』は、本当の意味での『発見』ではないということ」

「その『発見』っていうのは…新種の生命とか、鉱物を発見したっていう意味での、発見でいいですか?」

「説明の手間が省けて助かる。これは言葉では、すごく伝えにくいんだよね」

 

 先生は続けた。

 

「相対性理論も、フェルマーの最終定理も、それは当人以外の誰か、必ずしも大衆にとって、必要なものではないだろう?」

「はい、そうですね」

「天才と呼ばれる人たちが、大元になる理論、いわば設問に該当する『原点』を見つけだし、提唱する。そして『つかいなれたイメージ』が、第三者によって拡散され、浸透する。そもそも俺たちが『知識として知覚しているモノ』は、ほとんどがその段階に在るものなんだ」

 

 一度息を整えて、続ける。

 

「AIに限らず、オープン化されたリソースでは、この『原点』が、まず見つからないと言われている。見つかる前に、わかりやすい形に変換されて、落ち着いてしまうからね。あるいは『よくわからないもの』が上書きされ、抹消されるわけ」

 

 それに似た話は、俺も聞いたことがあった。人間の脳みそは、中央の溝を境に『理論を司る左脳』と『感性を司る右脳』に分かれているらしい。

 

 そして日本人の脳は、『理論の左脳』に秀でた人間が多い。

 

 日本は、現在進行形で、人工知能の研究が遅れている。とはよく言われることだけど、これは『理論派』の人たちが多いからだという見方がある。

 

 既存の環境に存在しなかったもの。そもそも、人工知能を、どういう風に生かせられるのか。取り入れるのかといった観点――『視点』を持てないのだ。

 

 その代わり、一種のテンプレートみたいなのができあがると、それをアレンジしたり、工夫して現環境に取り入れる事には、長けた人たちが多い。

 

 あまり知られていないけど、ウィキペディアの情報なんかも、日本語のものは、他国と比べて情報量が、圧倒的に多かったりするみたいだ。

 

「――とかく、そんなわけ。オープンAIというのは、一見発展性があって、みんなで協力することで、精度も増すけれど、長期的には発展しない。あくまでも、現代の要望にそった答えをだす。というところで止まってしまう」

「時代を変えるような、ブレイクスルーそのものが、生まれないってことですか」

「そういうこと。2020年ぐらいを境に、海外の有名企業なんかは、改めて限定された環境下で、情報を秘匿する方針で、開発を推し進めはじめたよね」

「知りませんでした。普通は、逆のことを言われますよね。情報は隠さず、みんなで共有した方が、結果としていいものができるって」

「そうだね。世界の歴史を遡れば、閉じた共産主義よりも、開けた資本主義の方が、発展性の高いことが明らかになった。ただそれも、少しずつ陰りが見えはじめた。

 物事はだいたい循環するわけだけど、ここに来て、今度は秘匿性のある場所で、他の情報に流されることなく、個人主義による独自性といったものが重宝されはじめている。といった感じかな」

 

 黛先生は、いつもと変わらず、無表情で淡々と続けた。

 

「真理、探求心といったものに対して、世の中が求める『ニーズ』は、本来は相容れないものだよ。ありそうでなかった、人間の利便性。そういったものを前提にしたAIの開発というのは、そもそもAIとはなにか、という原理に反している。

 ただ一点、勘違いするといけないのは、べつにオープンAIのリソースそのものが、たいしたものではない、秘匿されたものに比べて劣っている、というわけじゃないってこと」

「わかります。オープンソースの性質が、普遍的な、大衆的なものになりやすいってだけで、モノとしては、優れてることに変わりありませんよね」

「そういうことだね。話を戻すと、俺は今から4年前、偶然に、中身の優れている、大衆的でないものを発見した」

 

 『原点』を見つけたと、先生は言った。

 

「…黛先生は、どうして『それ』を見つけられたんですか?」

「身内だったからね。あの子の使う一般的な、型落ちしたノートPCに、ソースコードが数十万行に渡って記されていた」

「身内…ってことはもしかして、従妹の仁美さんですか?」

「そう。彼女は一人、公開された初期のオープンAIを操作して、自分の環境下だけで、独自の型を作っていたんだ」

「独自の型?」

「俺は『同調型《Type Tuning》』と呼んでる。アレのソースは、正直な話、俺にも理解できない。仕様書というものが、従妹の頭にしか存在してないからね。とりあえず、呼び名ぐらいはあった方が便利だから、付けた」

「同調型…」

「そう。『人間が希望する信号』を、人工知能がとらえ、解析する。そして別の媒体へと出力する。そういった振る舞いを持つ。AIデバイスと呼ばれる装置の、基本原則だよ」

「それって、たとえば、最近話題になってる『ビジョン』なんかも、そういう仕組みで動いてたりしますか?」

「そう。あれの原理を、人間の理解できる言葉に置きかえたのは、俺だよ」

「へー、先生が…」

 

 ……。

 

 ………。

 

「待ってください。黛先生、今なんて言いました?」

「君たちが『ビジョン』と呼んでるモノの設計をしたのは、俺だよ」

 

 …………。

 

「…………………マジすか?」

「そんなにたいしたことじゃない」

「いや、どう考えてもヤバイです。それ、ヤバイですから」

 

 自分の知能指数が極端に落ちたのを感じる。

 

「本当にたいしたことはしてない。さっきも言ったけど『同調型』という構造体自体は、もう完成してた。米が炊いてあって、塩を利かせたおにぎりができてた。だけど中身の具がなくてさびしいから、梅干しをたした、ぐらいの成果だよね」

 

「いやいやいやいやいやいや!!! おにぎりに梅干しを入れたというのも、ある意味、正規の大発見ですよ!!!! 大発明ですからねッ!?!?」

「そうかなぁ…」

「そうですよ!!!」

 

 なんなの。なんで俺の周りには、こんなにポンポン、お手軽に天才があらわれるんだよッ!

 

「待ってください、設計したってことは…『ホロビジョン』ってご存じですか?」

「さっき言ったよね?」

「言いましたね。んで、大元の高等言語を完成させたのが、従妹さん?」

「さっきも言ったよね?」

 

 先生は無表情だ。

 なんなの? 俺の感覚と認識とリアクションの方が間違ってるのか? 

 

「あの…黛先生の家系って、一族代々、研究者をやってたりするんですか?」

「いや、普通だよ」

「どう考えても普通じゃないです。なんで地方の高校で非常勤講師とかやってんすか」

「うちの校長からの紹介があったし、ちょうどいいかなって」

「よくないよ! 今すぐ海外の研究室にでも行って、ちゃちゃっと世界変えてきてくださいよッ!?」

「興味ないよね」

 

 興味がないで済まされたら、人類の損失なんだよね。

 俺のリアクション間違ってる? 間違ってないと思うんだけど。

 

「前川がなにを苦悩してるのかわからないけど、そういうわけで、身内びいきにはなるけど、すごいのは従妹だよ。10歳で『同調型』を完成させてたからね」

「……は? え…? じゅっ、さい…?」

「言ったよね。出雲仁美は、【セカンド】の瞳と、10歳の時にマッチングしたって」

 

 先生は表情ひとつ変えなかった。俺もつられて、真顔で言い返した。

 

「ヤバイ。パネェす」

 

 俺の頭脳が、現実に追いつけない。知能指数がほどよく、限界まで下がりきっていた。もうなんでもええわ。リアルこえーわ。

 

「それはわかるよ。俺も初めて『同調型』を見た時、すごいなと思ったから」

「そっすね。マジ天才じゃないすか」

「前川がそう思うなら、そうなんじゃない?」

「っすね」

 

 もうなにも言えない。とりま、そういうことにさせてもらいます。

 この時ばかりは、心の底からそう思った。

 

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