VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~ 作:no_where
週末の昼。支度を終えて、俺たちは、店の勝手口に集まっていた。
「そんじゃ、父さん、母さん。行ってくるね」
「いってらっしゃい。二人とも、車には気をつけるのよ」
「楽しんでおいで」
「はい。いってまいります」
彼女の格好は昨日と同じ、薄黄のキャラクタのパーカーフードに、俺が中学の時に使っていた、革製のショルダーバッグを掛けている。
俺が自転車に跨り、少しだけ待つと、お腹に両手が回る感触がきた。
「出雲さん、大丈夫そう?」
「はい。あんていしています」
後ろの車輪に刺したハブステップと、荷台に足した座席シート。高さもしっかり調整されていて、ステップに両足を乗せれば、案配よく、身体を寄せられる具合になっている。
「いやぁ、やっぱり、自転車の二人乗りはロマンがあるねぇ」
父さんが嬉しそうに言う。俺が普段から使っている自転車《チャリ》を、午前中の間に、勝手に改造してくれた。
「あらあら。ほんとねぇ、学生の定番と言えば、二人乗りよね~」
共犯者も笑う。朝一の開店前には、すでに二人の手で、プチ違法改造が施されていた。
「これぞまさに、青春だよねぇ」
「…出雲さん、いい? 誰かに注意されたら、素直に降りるんだよ? 自転車の二人乗りは、原則禁止というのが、日本の建て前には存在するからね」
「りょうかいしました」
「祐一、なんてこと言うんだ! お父さんはなぁ。お前をロマンのわからん男に育てた覚えはないぞ!」
「父さん、今さらだけどさ。他所さまからお預かりした娘さんに、なんかあったらどうすんの。ちゃんと言いわけ考えた?」
「申し訳ありません。うちの息子がお宅の娘さんを傷物にしてしまいまして、かくなる上は、一生を持って責任を取らせる所存ですので」
「出雲さん、悪いけど降りて。ちょっと時間はかかるけど、駅まで歩いていこう」
自己分析のヘタな俺だって、石橋を叩いて渡りたい日だってあるんだよ。
「だめですか」
「まぁ、危ないのは確かだからね」
「ざんねんです」
「あらあら、祐一。あなたって子は、高校生にもなって、女の子の一人もリードできないでどうするの? 警察が追いかけてきたら、振り切るぐらいの気概を見せなさい?」
「無茶言わないでよ、母さん」
「まぁ、確かに無茶ではあるわよねぇ…さすがに自転車のスピードじゃ、パトカーは振り切れないしねぇ…」
「母さん? 俺と会話して?」
「…っ! 父さん閃いたっ!! 電動自転車の機構に、50ccのエンジンを、一部流用するのはどうだろう」
「お父さん! それだわ!」
「父さん、母さん、今日、正気?」
50ccのエンジンが付いている時点で、それはもう、自転車じゃない。
「っていうか二人とも。昨日、出雲さんが来てから、キャラ変わってない?」
「そりゃね。カワイイ娘ができたようなものだから」
「息子がやんちゃしてなくて、手がかからないのが難点なんだもの。母親としては、やっと面白くなってきたわね! さぁ、どんどん修羅場を持ってきなさい! ぐらいの意気込みよ?」
「母さん、パワー下げて。8段階ぐらい下げて。お願いします」
なんでみんな、そんなに、パワーとスピードを求めたがるのか。俺が総理大臣になれたら、女子は全員、茶道と書道と華道を必修科目にするところだ。
―-そうだ。そもそも、学校のカリキュラムがおかしいんだ。
まず、女子には、自然を愛する心を育んでもらうのが先決だ。その後に、数学と科学を習ってもらう。効率重視の面だけにとらわれない、バランス感覚を養ってもらわないと、アクセルしか踏まないパワー系に育ってしまう。
感情表現以外の、知的さを身につけたもらわないと、俺たち男子が全滅してしまう。ついでに、バランス感覚を身に着けた先に、『料理』を学んでもらおう。
完璧すぎる計画だ。国家予算の投入を惜しむ必要は、どこにもないな。
「おにいちゃん、げんじつにかえってきて?」
「あぁごめん、なに?」
「おこられたら、おります。それまで、のります。だめ?」
「…あー」
出雲さんは相変わらず、表情の変化に乏しい。それでも昨日から、ほぼ一日を過ごしていれば、ささいな違いにも気づけるようになった。
「わかった。じゃあ、気をつけて乗ってね。もし危ないと思ったらすぐに言って」
「しょうちしました」
了承すると、他ならぬ両親が「やったー!」と喜んでいた。出雲さんがもう一度、こっちのお腹をつかんで身を寄せた。安定したのを確かめてから、しっかりとペダルを踏みこんだ。今度こそ、出発した。
* * *
地元の駅まで向かう途中。いくらかの視線は感じたけれど、さいわい注意を受けることもなく、無事にたどり着いた。
「出雲さん、駅のホームに行く前に、自転車を停めないといけないから、一度おりてもらえるかな」
「りょーかいです」
ゆっくりと速度を落として、地面に片足をつけて姿勢を保つ。出雲さんも腰を上げて、片足を回して、すたっと降りる。
「よいけいけんでした。かぜをかんじました」
「風を感じたかー」
初めて自転車が乗れた時は、もしかするとそんな感じだったのかもしれない。それと出雲さんは、独特の空気感を持っているように見えて、実はけっこう小回りが利く。というのが俺の印象だった。
学校には通ってないみたいだけど、反射神経も悪くない。普段から家事をしているらしくて、仕事の手伝いや、立ち回り方なんかも素早かった。
昼ごはんを作るのも手伝ってくれた。なんだか妙なところに、こだわりを強いる部分はあったけど、母さんは「あらあら、良いお嫁さんになれるわね~」と笑っていた。あながちお世辞や、冗談でもないんだろうなと思った。
「よっと」
俺も自転車から降りる。出雲さんを歩道側によせて、横に立って歩く。
学生専用の、無人駐輪場。そこには有料の自転車スタンドが並んでいた。学生証に埋め込まれたICチップを通すことで、スタンドのロックが解除される仕組みになっていた。
「こんなそうちがあったんですね」
「うん。最近できたんだよ。自転車ってさ、一台でも無造作で停まってると、みんな勝手に押し込むように詰めてくから。有料のスタンドと、AIの監視装置を組み合わせて、無人でも管理できるようにしたんだってさ」
人工知能、あるいはそう呼ばれることが『流行りだしたシステム』は、俺たちの生活と社会に、確かに浸透しはじめていた。
「それじゃ行こうか」
「はい。ここから、もくてきちまで、でんしゃにのりますか?」
「うん。乗るよ。俺たち学生は定期を買ってるのがほとんどだからね。あ、出雲さんの分は、昨日先生から頂いた分があるから」
「いえ、そういうわけには。じぶんのぶんは、じぶんでだします。しゅぎょうちゅうのみですので」
言いつつ、肩に下げたショルダーバッグから、たくさんのシールでデコられたスマホケースを取りだす。たぶん、もう一人の瞳さんの指導の賜物だろう。
「ぜんこくのでんしくれか、つかえますよね?」
「あー…どうだったかな。地方のローカル線って、絶妙に地元のサービス優先したがるからなぁ…現金持ってたら、券売機で買えばいいんだけど」
「げんきん、あります。いちまんえんで、たりますか?」
「足りるよ。超余裕で足ります」
「…ちょうよゆー☆」
出雲さんが無表情ながら、アイドルっぽいポーズを取る。これも指導の賜物だろう。しかし若干の照れがあるのを見逃さない。そもそも今の瞬間は、カワイイを作るタイミングだったのだろうか。
――狙いが外れているのでは?
想いつつ、しかし、これがたぶん、『妹』なんだろうと考えを改める。うちの父さんと母さんが、一日でキャラ崩壊をするのも分かる気がした。
* * *
トラムの駅がある階段を昇り、改札口で切符を買って、ホームに着く。次の電車を待っていると、上がってきた階段の向こうから滝岡の姿も見えた。
「うーっす、祐一」
「よぉ、おはよう。部活の方は大丈夫か?」
「おう、朝練はあったけど、午前で終わったから、着替えて飯食って来たわ」
迷彩柄のジャケットを着た滝岡は、坊主頭なのも相まって、当人を知らないと、いくらかの威圧感もある。そんな奴が上から覗き込んでくる。
「んで、そっちの子が出雲ちゃん? まゆゆの従妹だっけ?」
相変わらず、無遠慮の申し子みたいな奴だった。付き合いの長い俺からすれば、慣れたものではあるんだけど。
「おまえ、もうちょっと気ぃつかえよ。怖がってるだろ?」
「え、あぁ、ワリィワリィ」
「滝岡、うちの妹に手をだしたら出禁だからな。今後、二度と店で、髪を剃ってもらえると思うなよ?」
「いや、オメーの妹じゃねぇだろ…」
「バカおまえ、そういう次元の話じゃないんだよ。わかれよ」
「まったくわかんねーよ。っつーか、いきなりどーした?」
「おまえも、妹ができたらわかるよ」
「おい祐一、ハッキリ言うぞ。病院に行け。あと俺にも妹はいるんだぞ。すげぇ生意気なのが一匹」
「いるよな。いちいちウザいんだよ兄貴ヅラすんなッ! とか叫んで、物を全力で投擲してくるのが」
「なー。妹って便所のゴキ以下だぜ。マジで。中学あがるまでは、まだまともにコミュニケーション取れてた気もすっけど、最近もうマジで無理だわ」
そう。俺は曲がりなりにも、十年以上の付き合いのある、親友と言っていいやつの妹しか知らなかったので、
「…ねぇ、おにいちゃん。まゆゆって?」
あっ、こういう『妹』もいるんだ。むしろコレが真の妹か。すげぇなと、目から鱗が落ちた気分になったわけだ。
「ごめんね。黛先生のあだ名だよ。勝手にコイツがそう呼んでるだけだよ。きっと気を悪くされるだろうから、内緒にしておいて」
「はあく」
即座に把握していた。本当、賢いなぁ。うちの妹は。なんで世の中にいる、偽の妹たちは、生まれながらにして凶暴性を秘めてるのか、さっぱりわからない。
「…まぁアホはおいとくわ。とりあえず俺、滝岡和也な。よろしくなー」
「和也?」
「なんだよ」
「いや、おまえの下の名前、なんかリアルで数年ぶりぐらいに聞いたわ」
「おめーマジ、いっぺん死んどけや」
クラスに一人ぐらいはいるよな。苗字で呼ぶのが当たり前になってる奴。下の名前が思いだせないんだよな。そうそう。親友の名前、和也だったわ。
「いずもひとみです。きょうは、よろしくおねがいします」
「適当に滝岡《たき》って呼び捨てでいいぜ。まぁ大体のやつからは、そう呼ばれてっからなー」
「わかりました。たきおにいちゃん」
「出雲さん、コイツはお兄ちゃん呼ばわりしなくていいよ。マジで呼び捨てでいいからね」
「おい祐一、オメーほんと、今日は頭おかしくなってねぇか?」
「安心しろ。俺も大体いつもお前に同じこと思ってるよ」
ひとまずそんな風に挨拶を終えた時、ちょうど電車がやってきた。
* * *
トラムに乗って、空いた席に三人で座ると、スマホが震えた。確かめると、遠方に住む友人から『チャット』が届いていた。
//【System Code Execution】
【UN:LOCKED】【Smart Chatting】
*-----------------------------------*
ryo-5
ひさしぶり。連絡ありがとう。
麻雀ゲームに関しての権利関連は、全部そっちの好きにしていいよ。
とか言うと、ハルがまた、文句を垂れるけどね。
You1
ひさしぶり。いきなり連絡してごめんな。
スマートチャット。大手のSNSアプリとは違い、最大「9人」に限定した、連絡手段に特化したアプリだ。単体でのコミュニティ規模は小さいが、回線速度の速さ、安定性、機密保守性の部分が、他を圧倒していた。
You1
風見の絵をこっちで使わせてもらえるなら、ほんと助かるよ。
いつもありがとう。
ryo-5
どういたしまして。
文化祭も楽しみにしてるよ。
正直言うと、スケジュール調整効くか微妙だけど
行けそうなら、ハルと一緒に、顔をださせてもらうから。
You1
わかった。時間都合あえば、ぜひ。
あと、実は友達と移動中なんだ。
また後で折り返し、お礼していいかな。
ryo-5
うん、じゃあ…あっ、そうだ。ひとつだけ、いいかな?
You1
なに?
ryo-5
あのバカは、相変わらず、わたしの前に、一度も現れてないよ。
それだけなんだけど。
You1
そっか。いつか、また会えるといいな。
俺もアイツと、また対戦したいしさ。
ryo-5
うん。でも最近は、なんとなく思ってる。
アイツが、わたしの前に立つことは、
もうないんじゃないかって。予感してる。
ryo-5
わたしは、もう大丈夫。今は、そう思ってるんだ。
ryo-5
じゃあ、またね。わたしのヒーローさん。
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操作し終えると、滝岡が聞いてきた。
「祐一、それ、今日の面子から?」
「いや、京都の風見さんから」
「あぁ。うちのゲームの主役な」
「そうそう。こっちの文化祭、来れそうなら顔だしてくれるってさ」
「おー、いいじゃん。原田のやつが、狂気乱舞して喜ぶんじゃね?」
「だよな。アイツ信者だから」
「…だれですか?」
俺と滝岡が盛りあがる中で、出雲さんが聞いてきた。
「俺たちが作ってるゲームの、メインイラストレータだよ。めちゃくちゃ絵が上手くて。プロでも仕事してるんだよ」
「そうそう、この前さぁ。なんかマジヤベー規模のゲームに、メインで参加してるって、ネットで見たわ」
「俺も見た。オープンワールド系列の、VRのRPGだろ」
「ヤベーよな。アレ。来年の春には、βテストも始まるって噂じゃん」
オープンワールド。VR。RPG。
もう、こんだけの単語がそろうだけで、最強感が、すさまじい。
「あのジャケ絵を見ただけで、このゲームやりてーわって、思ったしよ」
「わかる。元々上手かったけど、最近は、ガチで神ってるからな」
そう。風見涼子こと、イラストレーター『RYO-5』は、もはや新進気鋭とは呼べない、トップクラスのクリエイターだ。
秋の色も深まりかけた今日、すでに来年の予定が埋まっている。再来年のスケジュール調整にまで、手が届きそうだというのだから、俺には想像のつかない世界で生きる人間になっていた。
それだけの価値、技術、才能をあわせ持つ女子が、俺たちの、インディーズと言っていい規模の麻雀ゲームに、ほぼ無償でイラストを提供してくれている。
二次元信者の原田でなくともわかる。
普通に考えて、彼女が、俺たちみたいな、ただの学生に、力を貸してくれることが、どれだけありえないか。彼女と、彼女のマネージャー(こっちは直接的に苦言をくれる)には、感謝しきれない気持ちでいっぱいだった。
――ねぇ、ハヤト。わたし、最近、やっとわかってきたよ。
そして、そんな彼女に、少しでも応えたくて。
――わたしは、生きのこるために、絵を描いている。
描くのが、好きとか、嫌いとか、そういう次元じゃないんだ。
絵描きは、描かなきゃ、死ぬ。
それ以上でも、以下でも、ないんだよね。
この二年間、俺も自分にできることを求め、走り続けた。
「そうだ。うちの高校の文化祭は、外部からのお客さんも来れるから、気が向いたら、出雲さんも遊びにきてね」
「わかりました。まえむきに、けんとうします」
前向きに検討して頂けた。
電車が次の駅に到着して、ゆっくりと扉が開く。
「おっ、西木野と竜崎、原田もいるじゃん」
「おはよ~、みんな~」
「おはよう。上手い具合に合流できたね」
「おはよ。そっちの女の子が、昨日SNSで言ってた子?」
「いずもひとみです。ほんじつは、よろしくおねがいいたします」
「わー、可愛い~。西木野そらです。よろしくね~」
「竜崎あかねよ。よろしく」
「原田武文です。よろしくね」
全員が自己紹介してから、滝岡が言った。
「原田の名前、なんかリアルで、数年ぶりぐらいに聞いた気がするわ」
「奇遇だな親友。俺もだよ」
「ひどいね、キミら」
* * *
「あっ、先輩たち、ちょうど目的の駅に着いたとこだって。向こうも全員、そろってるみたい」
「どうせなら駅で待ってもらって、一度合流した方がいいんじゃない?」
「そうだな。聞いてみよう」
アプリを使って連絡をいれた。
花畑先輩から「了解よ~」と返信がきた。
電車が駅に到着する。ホームのところに、クレア先輩、花畑先輩、エリー先輩の三人が集まって、待ってくれていた。
「まったく。黛先生も、こんなに可愛い子と暮らしてるなんて隅におけないわね」
チャイカ先輩が「ふふっ」という顔をするのを、出雲さんが見上げる。その差は悠に1メートルを超えていた。
「…おおきい…あっ、おおきいですね…」
「ふふ。よく言われるわ」
つい口をすべらせてしまった。といった様子で出雲さんが言う。
気持ちは、すごく良くわかる。
「…あの…」
「あら、なぁに?」
「……いやじゃない……? なかった、ですか…?」
『目立つ容姿』のことを聞いているんだろう。花畑先輩、もといチャイカ先輩も、言わんとするところに察しがついたようだ。
「いいのよ。わかるわ、その気持ち。我ながら罪《ギルティ》よねぇ。この美しさが目立ってしまうのは、どうしても避けられないものね」
花畑先輩が、言いつつ、ボディービルダーが取るようなポージングを、次々にキメていく。この時点でもう、なんかいろいろ説得力がありすぎた。
「目立つ杭を打ちつけたがるのが、人の性よね。だからアタシは、きちんと自分を見上げてくれる相手とだけ、お付き合いするようにしてる」
「…みあげてくれる?」
「そう。杭を打ち付ける時、人は高いところを見上げないでしょ?」
チャイカ先輩が語る間にも、行き交う人たちの大勢が一瞥をくれて去る。手の中にはスマホがあって、ささやく声が聞こえる。なにあれ、デカすぎ。写メ撮りたい。なんて声も聞こえる。反射的に、不快な気持ちがわきあがりそうになるが、
「自分の手元と、相手の足もとだけを見下ろす輩は、結局なんにも生みだせないわ。そういう相手とは、目を合わせて話すだけムダよ。あたりまえよね。そもそもの、視点が違いすぎるんだもの」
花畑先輩は、片目を閉じて、ウインクしてみせた。
「でもね、嫌だからって、両目を閉じちゃうのは損よ。物事と向き合うには、片目を閉じるぐらいが丁度いい。すべての出来事から目をそらすと、せっかく自分のことを、まっとうに評価してくれてる人たちの声も、見逃しちゃうものね」
花畑先輩は、さらに親指を立てる。ポージングがさらに変わる。
「要は、見極めることが大事なの。自分にとっての信念と、それを正しく理解して、汲み取ってくれる相手か、どうか。そういう相手とだけ、真摯にお付き合いしていこうって決めたら、それ以外のことは大体どうでもよくなるわ」
爽やかな漢《おとめ》の笑顔がまぶしい。白い歯が光る。キラリ。
「くっ…! なんて光だ、チャイカ先輩…っ! 浄化されてしまいそうだっ!」
「まだ…限界では無かったというの…? これが…真の、陽キャの実力…パリピパワーだというのっ!?」
原田とあかねが、苦しそうに顔を背けていた。おまえら、稀に見る美男美女なのに、なんで中身が陰キャのそれなんだよ。今更だけど。
「そうですね。チャイカの言う通りです」
クレア先輩も、にっこり笑う。
「わたしも、正直、日本人離れの容姿で悩んでいた時期もありますけど。せめて、笑顔を返さなきゃいけないなって思っていたら、自然に、素敵な人たちが集まってくれました」
私服姿のクレア先輩が、にっこりと微笑む。
「人の能力、優劣、勝負の勝ち負けなんて、二の次でいいんですよ。ね?」
…ぱああぁぁっ…!
なんらかの、パッシブスキルが発動した。俺とそらに直撃する。
「ふやぁ~!? 後光がっ、先輩の優しさがまぶひいっ! 目が、目がぁ~っ!」
「…すみませんでした。先輩。俺が、わたくしが間違っていました…ッ! もう二度と、対戦ゲームのキャラを、数字で判断したりしませんから…っ!」
効率だけを求めて、キャラの技表を小一時間にらみつけて、組み合わせを考えたり、カードゲームのテキストだけを見てデッキを組んだり、勝率だけで物事を考えたりしませんから。許して。
「どうしたんですか、二人とも。わたし、なにか間違ってましたか…?」
「いえっ、なにも!」
「むしろ正しすぎて目の当たりに出来ないと言いますかっ!!」
クレア先輩の光バフ(永続フィールド効果)でダメージを受けていると、
「おまえら、闇濃すぎじゃね? 今更だけど、いろいろ考えすぎじゃねーの?」
滝岡に言われてしまった。一生の不覚か。
「そうなのです。姉さまは素敵なのです! それにご安心を! 不埒なクセモノめは、この勇者メイド・イン・ニンジャが刈り取ります! ご安心くだされです!」
おでかけ用のメイド服を着た、エリー先輩も言う。なぜか俺を見て言う。
「…ありがとうございます。えと…はなばたけ、せんぱい、でよろしいですか」
「気軽に、チャイカって、呼んでくれてもいいのよ」
「わかりました。チャイカ、せんぱい。ありがとうございます。ほかのせんぱいも、ありがとうございます」
「ん。元気でたみたいね」
「はい」
ふわりと、出雲さんが笑った。
「…なるほど。これが、お兄ちゃん《漢》力というものか…」
チャイカ先輩を見て思う。俺も、精進しなくては。
やっぱ今時、パワー系の妹とか、姉とか、先輩後輩とか、流行らないよな。そういうの、もう令和時代には間に合ってるんだ。
「よーし。んじゃ、みんな挨拶も済んだみてーだし、そろそろいこーぜ」
「んで滝岡、おまえが仕切るんかい」
相変わらず、絶妙に空気をよまない、うちのムード―メーカが言う。坊主頭の常連客が、「まぁまぁ気にすんなし」と手を振った。幸い先輩たちは気にした様子もない。光属性って、あったけぇなぁ。
* * *
ショッピングモールは、休日の午後ということで、予想以上に人が多かった。
「さて、どっから回るよ? つーか、二手に分かれるか?」
自動扉を抜けて店内に入り、案内板の側に一度集合したところで、滝岡がきりだした。
「そうだね~。この人数で動くよりは、分かれた方が効率良いかも」
「麻雀部の皆さんは、今日は液晶モニタを探しに来られたんですよね?」
「はい。ついでに電気小物なんかも、一通り見ておきたい感じですね」
「では、滝岡くんんの言う通り、二手にわかれてはどうでしょうか。ひとまず、わたしとエリーは、手芸用品の方に向かうということで」
クレア先輩が言うと、原田が応えた。
「じゃあ、僕は前川と一緒に電機関連の商品も見てきます。滝岡も来るだろ?」
「そだな。手芸のことはよくわかんねーし。そっちは女子に任せるわ」
「うんうん。了解だよ~。あーちゃん、わたし達も、手芸店の方いこっか?」
「そうね。ディスプレイに関しては任せるわ。クレア先輩、そちらにご同行させて頂いてもよろしいですか?」
「もちろんです」
「はいっ、エリーも、お供するのです!」
エリー先輩が、妖精並みの速度で、しゅばっと手をあげる。その隣にいたチャイカ先輩が、うなずいた。
「さて、じゃああたしと、出雲さんは、どうしようかしら」
「花畑先輩は、よければ電気店の方に同行していただけませんか?」
応えたのは、あかねだった。
「手芸部の人間が一名、そちらに同行してくだされば、なにか良い意見がでるかもしれませんので」
「OKよ。じゃあなにか気になった点があれば、スマホでリプ送るわね」
「はい。ありがとうございます」
こうしてメンバー分担が決まる。残るは、
「出雲ちゃんは、どうする?」
「…えっと、おにいちゃんたちに、ついてって、いいですか…?」
「うんわかった。じゃあ、出雲さんも電気担当で」
「はい。よろしくおねがいします」
役割分担が決まる。
「よーし。それじゃ、いきますか!」
GOGO。前に進もうぜ。そらが手をあげた。
* * *
全国規模の家電量販店。広々とした店内を、2フロアに分けて営業する、電気屋の一階を、歩いて回った。
最初は全員で固まっていたけれど、俺と原田が「あーでもない、こーでもない」と物に対して語りつつ、さらにやってきたスタッフさんを交えて、話が盛り上がりはじめたところで、残る面子は立ち去っていた。
花畑先輩は、出雲さんを連れて、PCの機種の方に向かい、滝岡は相変わらず、ふらっとその辺りをぶらついているみたいだった。
* * *
「それでは、こちらの住所に配送させていただきますね」
「はい。よろしくお願いします」
結局、気に入った液晶モニターの購入を終えて、配送の手続きを終えた。事前にネットで、相場の下調べはしていたけど、思った以上に手頃なものがあって、購入に至ったという感じだった。
「おっ、祐一。配送の手続きすんだんか?」
「終わった。みんなは?」
「こっち。ちょい来てみ。おもしれーもんがあるぞ」
「面白いもの?」
滝岡に付いていく。電気屋のエスカレーターを上がり、PC関連のハードウェアが置いてあるところに、大型の自動二輪車《オートバイ》が、ディスプレイとして飾られていた。
「…おぉ?」
原田と花畑先輩、出雲さんもそろっていた。
「あっ、前川。手続きはすんだの?」
「終わったよ」
原田に応えながら、俺もバイクに釘付けになっていた。光沢を感じさせる黒を基調に、メタリックシルバーのシャフトが繋がる。サイドカバーやシートの基部といった箇所には、エメラルドグリーンの塗装が施されている。
「…おー」
近未来的なデザインだ。
流線型の鋭さを残しつつ、どっしりとした重量感も全体から伺える。
「カッケェ」
「いいよね。好みだわ」
花畑先輩も、深くうなずいていた。エメラルドグリーンのバイクは、直接手が触れることはできないよう、専用の低い台座に乗せられていた。半径1メートルほどの場所には、人が近づけないよう、テープも張り巡らされている。
「このバイク、売り物なんですか?」
「非売品みたいね。ホラ、こっち見て」
外周の一角に、バイクと同じぐらいの高さの机が置かれている。上にはノートPCが置かれていた。画面には、このバイクが、どこかのサーキットコースでテスト走行する様子が行われていた。
画面には、それだけではなく、たぶん、燃焼しているエンジンの温度や、回転数といったものが、同時並行してモニタリングされてる画面も映る。だけど一点気になったのは、
「…これ、人が乗ってませんよね?」
映像の中を、唸りをあげて進む大型バイク。しかし、座席が空いている。
それでもカーブが差し迫れば、当然のように車体を傾けて進む。コーナリングを綺麗に曲がりきった。
コースアウトすることもなく、バイクは意気揚々と周回した。最後のストレートを気持ち良さそうにカッとばして、徐々に減速。最後にはピットインに集っていたスタッフから、労いの言葉を与えられるようにして、動画が終了した。
「これ、じんこうちのう」
自動再生の機能が反芻されて、動画が最初に戻る。
「すぴーどに、とっかさせてる」
出雲さんが言った。
「今ニュースで話題になってる、AIの自動運転の一種ね」
「あー、なるほど」
自動車、バイクなんかの乗り物を動かすための機構。ハードウェアそのものと、カーナビなどの、コンピューターソフトウェアは、元々は畑違いの部署だった。そういう話を、元族…研究熱心なドライバーだった父さんから、聞いたことがある。
俺には信じられない話だけど、大昔の自動車には、液晶テレビどころか、カーナビすら付いてなかったらしい。
だけど時代が変わって、ソフトウェアの制御による方面から、安全装置の向上が目的化されてくると、自動車やバイクにも、コンピューターソフトウェアの搭載が、必要不可欠となってきた。
そして、この先。
AIの自動運転も視野に入ってくると、新しいプラットフォームを意識した上での、新たな業務提携なんかも必須になってくるんだろうね。と言う話だ。
そういう施策の一環として、こうした家電量販店でも、AIを搭載した自動二輪なんかが、従来のイメージを一新させる手段として置かれてもいるんだろう。
「でもバイクって、自動車に比べると、あんまりAIの話を聞きませんね」
「そうね。バイクって元々、利便性よりは趣味っぽいとこがあるしね。今の世間に求められてるのが『安全性』である以上、こういったものにAIが搭載されるのは、もうひとつ、次の世代になりそうね」
確かに、AIに求められているのは、人が乗って、安全を確保できることが、必要最低条件、みたいなところがある。これは自動車に限らず、すべての分野で同じなんじゃないかって、俺は感じてる。
「ところで…先輩、なんか詳しいですね?」
「あら? 見直した?」
2メートル50センチの先輩が、PCを覗き込んでいた姿勢を戻す。ゴツい親指を立てて笑う。俺は、この人を見上げることしかできない。
「いえ、見直したっていうか。さっきの、なんか、もっと先のことを見すえた感じの言葉だったよなって」
「そうね。あたしも詳しいわけじゃないけど、こういうのが実際でてきて、気持ちよく乗り回せるって考えたら、結構イイ感じじゃない?」
「はい。確かに」
レーシングサーキット用の、スピード一点特化型。周回ラップ数を重ねることに特化した、AIマシン。
今のところ、需要が無いんだろうなってのは分かる。でもいつかは、こうした乗り物もまた、俺たちの前にあらわれる。もうちょっと背伸びをすれば、手が届く。そういうのを考えると、確かにちょっとワクワクした。
* * *
買い物が終わり、俺たちはもう一度、案内板のところに集合した。女子の方も必要なものはそろったみたいだ。
「祐一くん。黛先生が来るのは、あとどれぐらい?」
「今さっき家でたって。まだもうちょいかかるかな」
「どうする? どこかで時間つぶす?」
「そうだなぁ」
「いぬ」
「…えっ?」
「ねこ」
出雲さんが、案内板の一部を見ていた。視線を辿っていくと、案内板には「ペットショップ」と書かれてあった。
「出雲さん、ここ行ってみたいの?」
「うん。ちょっと、いぬが、きになる」
犬が気になる。その表現が面白くて、みんながちょっと笑った。
「どうかな。先生が来るまで、そこでちょっと時間をつぶさない?」
「いいわよ。イきましょ」
「オッケー行こうぜ」
「…みなさん、ありがとうございます」
出雲さんが、ていねいにお辞儀する。俺たちは案内板の指示に従って、ペットショップに向かった。
* * *
ペットショップの一角には、子犬や、子猫と触れ合えるスペースが設けられていた。説明によれば、日によって種類は異なるらしいけど、
「はわわっ!? みなっ、みなのしゅうっ! 落ち着くでござるのですよ!?」
わんこ空間に入った途端、エリー先輩が子犬たちにモテていた。忍者の正体を探るように、ふんふんと鼻を寄せて、匂いをかいだり、舌でなめたりしていた。
「ちがっ! せっしゃ、けっしてっ、北部ノールランド出身のとある森に住まう守護霊などではござりませぬのでっ!! ご、ござっ、ござるぅ~~っ!!」
ふんかふんか。嗅覚にすぐれた小型犬たちが、先輩を取り囲む。
「あらやだ、見せつけてくれるじゃない。フェアリーガール」
「いいですねぇ。これが世に言う、逆ハー展開ってやつですね~」
「あわわっ! ちがいますからっ! っていうか、見てないで助けてくださいですよ姉様っ!!」
「ふふ~。わたしは、この大福もちみたいな猫ちゃんを撫でるのに忙しいので、今は無理です。よちよち、もちにゃん。かわいいでちゅね~」
クレア先輩が、いつものしっかりとした清楚スタイルから、完全に遠ざかっていた。雰囲気は朗らかで、とろけたボイスを販売していた。
「はわわわわっ! だれかっ、おたすけっ、救援をねがいますですよ~っ!」
一方、逆レイドボス展開になっていた、エリー先輩は、フレンド救援から、全体救援へと切り替えた。助けを切望している。
「素晴らしいです、エリー先輩。異性に揉みくちゃにされて、わたし今とっても困ってるんです~! 誰かたすけて~! っていう、全女子が一度は、脳内で妄想しているアイドル展開を生で見られるとは思ってもいませんでしたっ!!」
うちの社の会長(アイドル声優オタク)が、早口でまくしたてる。助ける気がないどころか、頭の中は、今も同時並行で『ボクのかんがえた、さいきょうの美少女アイドル・サクセスストーリー』が、絶賛進行形に違いない。
「なるほど。あれも、かわいいじょしが、しゅとくせねばならない、すきるですか」
出雲さんも、チワワの背中をなでながら、目の前で起きている、逆ハーレム展開を進行させる女子を眺めていた。
「そうよ。アレが三次元女子の想像する、理想の最果てよ」
「社長。うちの妹に、ヘンなこと吹きこまないでもらえますか?」
「祐一も十分、後方兄貴ヅラしてるわよ」
うちの社長も、気位の高そうな茶トラを撫でながら、「やれやれ、これだから世の愚兄どもは保守的すぎて困るわ」とか、なんとか語りかけていた。
「ふややややっ!? みなさんっ! 謎の家族ムーブしてないで、助けてくださいですよ~っ!」
子犬どころか、さらに子猫までも集まってきていた。
ありったけの子犬と子猫に囲まれ、逆ハーレム時空の歪が形成されている。そういえば昔、なんかの絵本で読んだ記憶がある。森のすべての動物を魅了して、フォロワーにしている妖精の話。まさかね。
「まったくもお、仕方ないわね」
そんな妖精女王、もとい、メイド忍者を救出すべく、一体の巨人が進撃を開始した。動物たちが一斉に反応。ただならぬ気配を感じたのだろう。フォロワーになった犬猫が「姫をまもれ」と言わんばかりに、臨戦態勢を取る。
原作でも確か、巨大なトレントと戦いを交えていた記憶がある。タイトルなんだったかなぁ。
「フフ…! このアタシとやろうっていうのね。いい覚悟だわ」
2メートル50センチの巨樹が立ちはだかる。ちなみにこの場には、俺たちの他にも、ちびっ子連れのご家族もいらしている。ちびっこと、親御さんたちは座って、この展開の行く末を見守っていた。「これなんのイベントですか?」。
「いくわよ…我が奥義、その目にとくと見るがいい…ッ!!」
一度スイッチが入ると、ノリ良くなる先輩。せっかくなので、悪ノリする俺たち。
「あ、あの構えは、まさか!?」
「知っているのかっ、原田!?」
「説明しろ原田っ!!」
とつぜんの超展開にも負けじと、実況解説に回る。ペットショップで働いていた、ひらがなの名札をつけたバイト店員が、お客さんから質問を投げられる。返答に窮している。我ながら気の毒だと思う。
休日出勤の時給手当、バイトにもほしいよね。わかる。
「あれは…座禅だ!!」
「なんだとっ!?」
「アレが…噂の座禅だというのか!!」
花畑先輩が、座禅を組む。静かにメイソウをはじめる。場が、にわかに緊張をはらんだ空気を持ち、静寂に包まれた。やがて子犬たちは、変わらず警戒を示しつつも、おそるおそる、鼻をよせて近付きはじめ、そして、
「わん!」
コレは敵ではない。ただの大きな『樹』だ。
はたして、そう思ったかは定かじゃない。けれど動物たちは警戒をといて、寄り添い、大樹にもたれかかり、うとうとと眠りはじめた。
「争いは、なにも生みださない。彼は、我々にそう教えてくれたのです…」
その結果を示す大団円(?)に、拍手喝采が巻き起こった。
「ふええぇぇ…ひどい目にあったですよ~」
先輩も無事に救出された。めでたし、めでたし。
「…俺の知らない間に、ペットショップはいつから、ヒーローショーを始めるようになったわけ?」
「あ、黛先生」
「景。みて。いぬ」
「うん。犬だね。返してきなさい」
いつのまにかあらわれた黛先生は、にべもない。
「お疲れ様です。先生」
「どうも。遅くなって悪かったね」
「それはいいんだけどさー、まゆちゃん先生、今日メシ奢ってくれるって聞いてたんで、先生の顔みたら、急に腹減ってきたっつーか、はよメシ奢ってください」
滝岡が、ぶっとばされても仕方ない発言をした。今後、内申点を0点で固定されても、文句は言えねぇなコイツ、と思っていたら、
「いいよ。約束通り、適当に奢るよ」
「あざーす! まぁ言うて、ハンバーガーぐらいですよねー」
「べつに? 今日ぐらい、上限つけず、なにを頼んでもいいよ」
「「「!?」」」
さすがに耳を疑った。滝岡ならず、腹をすかせた男子高生にとって、それは、割と最強の殺し文句だ。
「えっと…黛先生、マジですか? マジで、なに頼んでもいいんですか?」
「いいよ」
「おかわりしてもいいんですか!? フリードリンク以外の、お飲み物も頼んでいいんですか!?」
「いいよ」
「余ったらおみやげにして、デザートを持って帰ってもいいんですか!?」
「いいよ」
「2メートル50センチの巨大な胃袋を持った、牛一頭を丸ごとイケるような先輩がいらっしゃいますけどっ!?」
「せっかくなら、食べ放題以外の店で、満足いくまで食べるかい?」
――神がいた。降臨していた。
「「「先生!!! 僕たち、どこまでもお供します!!!」」」
「元気がいいね。それじゃ、適当に案内してくれる?」
俺たちは全員、素直に従う。即座に、スマホで家に連絡を入れた。
今日はご飯いりません。大丈夫です。
外で腹一杯、食べて帰ります。
* * *
ファミレスに寄って(最低限の遠慮)、本当に、全員が好きなものを注文した。跡形もなく、綺麗に食べ終えたら、外はすっかり暗くなっていた。季節がら、陽も沈みかけていて、俺たちは解散することにした。
「みなさん、きょうはありがとうございました」
ショッピングモールの出入り口で、出雲さんが頭を下げる。
「こっちも楽しかったよ」
「また会おうね」
「よかったら文化祭に来てくださいね」
みんなが声をかける。
「先生もわざわざご足労いただき、ありがとうございました」
「どうも。こっちこそ、礼を言わせてもらうよ」
先生はうなずいて、それから俺たち、全員を見渡して言った。
「君たちがいてくれたことに、感謝するよ。みんな、気をつけて帰宅するように」
「はい。また学校で」
全員が返事をする。先生たちが車に乗るのを見届けてから、俺たちもそろって歩き出した。駅の階段をあがり、電車に乗った。
* * *
トラムに乗って、いつもの駅で降りた。最後まで残ったのは、俺と滝岡だ。
「じゃあな、祐一」
「おう、また学校でな」
駅に降りてからは家が逆方向になるので、学生専用の駐輪場で別れた。
川沿いの通り。来る時にも使った遊歩道をわたる。その路肩に白のワゴン車がとまっていた。ちょうど俺の進行方向と重なっていて、なんていうか、絶妙な具合に道をふさいでいた。
(ヘンなとこに停めて、ジャマだなぁ)
一度、自転車から降りる。押して渡っても、どうにかギリギリ通れるかな、といった感じのすきま。ワゴン車に傷をつけないように、気をつけて進んだら、
「 こ ん る る ~ ♪ 」
ワゴン車の窓が開いた。サングラスをかけた女の人だ。――なんか、どっかで見た覚えがあるなと思ったら、
「はぁい。16歳の少年。お友達との週末イベントは、楽しめたかしら?」
助手席の方からも、やっぱり、聞いた覚えのある声がした。
「とつぜんだけど、抜き打ちテストのお時間よ」
//【System Code Execution】
【UN:LOCKED】
ガチャリと音がする。今度は車のトビラが開いた。
「あなたが受けるテストは、これが、人生最後になるかもしれないわ。
心して頂戴ね。.PLAYER」
鮮明な声を聴く。反対に、意識は遠のいた。