VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~ 作:no_where
「 あ り え な い だ ろ ! ! 」
幾何学模様の【魔法陣】から飛びだしてきたのは、まさかのミサイルだった。しかもそいつが『十二体』。
.killcommand
/消す/燃えろ/殺す/破壊する/塵だ/灰にしてやる
/『おまえ』を削除する/いなくなれ/死滅させる/つぶす
/今日まで代入され続けた値を返す日がおとずれた。
/幻想の身なるモノ。我らの栄光を刻み滅びゆけ!
異世界からやってきた命を殺す。明確な『殺意』を込めた近代兵器たちが、意気揚々と、蒼空を駆けあがってくる。
「【魔法陣】で召喚されるっつったら、せいぜいドラゴン辺りがテンプレじゃないのかよっ!」
おそらく、そっちの方がマシだった。
航空機にも似た形状のミサイル。大量破壊兵器だとか、戦略兵器だとか呼ばれる『命が十二体』。そんなものが、一台の空飛ぶバイクに向かってくる。
//Killall Process !!
成層圏を飛ぶ、俺たちへの体当たりを試みる。四方八方を音速以上の速度で回遊し、ゴーグルに映るレーダーサイトと、レティシアのサポートによる自動操縦で、すれ違う格好で激突を避ける。
避ける。避ける。避け続ける。
2回、3回、4回と数えて…12度目。13、14、15、
「ちょっと待て!? おい、レティ!! 『アイツら』外れても切り返してくるんだけど! どうなってんだよ!!?」
「見たまんまだよ! 推進力を持った燃料が無限なら、障害物にでも激突しねーかぎり、どこまでだって追いかけてくるぜ!」
「障害物…?」
デカい塔が、あるにはあるが、かなり距離が離れてる。
一面の蒼空。成層圏のただ中。音速で飛び交うミサイルの勢いを阻む障害物なんか、その他にはどこにも見当たるわけがない。わずかにでも、旋回機能があるならば、それはつまり、
「あきらめな! 『知覚可能のおまえがここにいる』時点で、無限に楽しい鬼ごっこが続けられるぜ!」
「冗談じゃねぇよ!」
コズミックホラーにも程がある。それでも実際、間一髪で避けたミサイルは、レティの言うとおり、少しも速度を落とさずに、軌道を変えていた。
//return.
//killall process !!
大きく弧を描きつつも反転する。ふたたび激突しようと戻ってくる。元々の追尾性能も十分なのか、一度進行方向の軸が会えば、後はまた一直線に突撃だ。
「ずいぶん情熱的だな。せっかくだ、素直に受け止めてやったらどうだ? 最高に燃え上がった瞬間、気持ちよく旅立てるぜ?」
「パワー系と心中する気は微塵もねぇよ! だいたい、ミサイルが【火属性の魔法】ってなんなんだ!? ドヤ顔で、燃料無制限の科学兵器飛ばしてんじゃねー!!」
「うるせぇなァ。ぐだぐだ喚かず頭ブン回せや。コンマ1秒余さず、360度全方位を視認しろ。一瞬でも見逃すと、打ち上げ花火のカス以下にすらなんねぇぞッ!」
「わかってるよ!!」
いったん拳銃をしまい、ハンドルグリップを握りしめる。ミサイルを避けた後、そのまま振り切り、銀剣の元まで突っ切ろうとは、もちろん考えた。それこそ最初の一機を避けた瞬間に、試みたわけだけど、
//shah mat (check !!)
ここから先へは、行かせない。
それ以上は、『チェック(詰み)』だぞ。とばかりに迫る一機がいた。回避行動を取った瞬間、別の一機があらかじめ、こっちの軌道を先読みして、真正面から、近距離で突っ込んでいた。
「クソガキ! いったん切り返せ! 高度あげねぇとつぶされるぞ!」
「…ッ!」
限界まで身体を倒して、蒼空のコーナリングを『斜め向かいに切り返す』。逆上がりするように、伸びてゆき、生存ルートを確保する。行き詰らない道を、必死に探す。自分たちの存在を、空いた一帯にねじ込んでいく。
//shah mat (check !!)
しかし引き返した先には、最初に回避したミサイルが突っ込んできていた。
//shah mat (check !!)
それをかわせば、次がもう『迫っている』。
//shah mat (check !!)
「…うぜえッ!!」
壁もない。地面もない。どこまでも自由なはずの蒼空を逃げる。なのに、おそろしいぐらいに息苦しい。しかも、
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
すげぇ嫌な予感がした。どんどん、ミサイルの反応が良くなっている。この短時間の間に、コイツら、
「クソガキが直感で選びとったルートを、自分たちにも適用してやがるな。気を付けろ、おまえの動きを見て、毎秒単位で【学習されてるぞ】」
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
『詰み』までの速度が上がる。先読みの精度が増す。自由に動ける空間が、どんどん、さえぎられてゆく。消耗速度が上がる。その中で、もがこうとすれば、呼吸は短くなり、息が詰まる。視界はぐるぐる、回り続ける。
//shah mat (check !!)
海の青、空の蒼、わずかばかりの雲海。白。残された大地。赤茶色。
//shah mat (check !!)
青、蒼、青、茶、蒼、青。白、
//shah mat (check !!)
殺意を秘めた十二翼の銀兵器。その先に佇む、銀の王冠。
俺の脳が処理すべき情報量は、変わらずに増え続ける。
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
すべての情報を認識して、避け続ける――――
蒼銀白茶銀王青蒼蒼銀銀白蒼銀王茶蒼蒼青蒼銀銀青茶蒼銀銀青
銀王青蒼蒼銀銀白蒼銀王茶蒼蒼青蒼銀銀青茶蒼
銀白茶銀王青蒼蒼銀銀白蒼銀王茶蒼蒼青蒼銀銀
青蒼蒼銀銀白蒼銀王茶蒼蒼青蒼銀銀青茶蒼銀銀青
銀王青蒼蒼銀銀白蒼銀王茶蒼蒼青蒼銀銀青蒼青蒼青蒼青蒼
空間認識の働きに、脳が異常をきたしはじめる。
失墜しないよう、歯を食いしばる。
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
「…ッ!」
俺たちの逃げ道が、生存ルートが、上昇の一途を続けた速度によって、異常な勢いで塗りつぶされていく。難なく取れていた回避行動が、次第に困難となり、至難の業になる。やがてどこにも行けなくなる予感に満たされる。
「レティ!! この世界に来る時に使った、あの【速度】を再現するのは、無理なのか?!」
「無理な注文だ。こっちも『レベル2』の音速範囲がせいぜいだ。この場所で出力のレベルを上げすぎると、テメェの本体が持たねぇぞ」
「これ以上は、どっちにしろ持たねぇよ!!」
「うるせぇな…! こちとら、テメェにかかる負荷の軽減計算で精一杯…」
ホログラムとして浮かび上がった、レティの顔も曇る。
ブンブンと、こっちも猛烈に、不機嫌な羽音が轟いていた。
「クソガキ! 『真下』から一機飛んでくるぞ!!」
「ッ!」
俺たちは、たったの一機だ。物理法則を無視した、非現実的な乗り物とはいっても、せいぜい重力と空気圧と抗力を制御した上で、時速1000kmで空を走り回れて、小回りが効くというぐらいだ。あらためてすげぇな。すげぇんだけど、
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
『相手』の方こそ、大概だった。
//All is fantasy !!
成層圏の中間辺りで、エンゲージした十二機の超音速『ミサイルども』が垂直上昇してくる。ちょっと数時間かけて、地球圏外に旅行にでも行ってくるような気軽さで、体当たりをしかけてくる。
一瞬でも触れたら即死だ。最高にコズミックホラーなVRゲームを、一足先に体験できたことに感謝したい。わけがない。
「ぎぎぎぎぎ…っ!」
垂直上昇してくる時速880kmを、円周を描くように回避。次に備える。
圧倒的な物量の情報リソースに、脳が悲鳴をあげはじめた。
「あああああああああああああああっっ!!!」
それでもハンドルを切る。身体の重心も真横に落とすように傾ける。曲芸じみた走行。上下左右斜め上下左右。ありとあらゆる情報を視界に捉え続ける。
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
蒼空のコーナリングを精一杯に横切り、後続のミサイルを回避する。直後に、接地面のない低空1万メートルから、垂直にターンする勢いで、伸びあがってくる一機をさらに回避。
「っっっぶねー!」
「ボケッとすんなッ! 次が来てんぞ!」
けれどその先にもまた、燃料無制限の、空飛ぶ弾薬庫が順次構えていた。クラッチ操作を用いた可変速でS字回避。さらに斜め上空に駆け上がり、次の1機をかわす。
かわすと、その動きをあらかじめ読んでいたように、
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
こっちの真上を陣取っていたミサイルが三機、急降下して向かってくる。
「ふ、ざ…ッ!」
罵声をあびせるのも、もどかしい。
「どけっ!!」
眼を見開いて、ギアを入れ替える。
【System Code Execution】
【Type FIRE】【Enchant Lv1】
アフタバーナー。エンジンが再点火して唸りをあげる。
一時的に急激な負荷が掛かる代わりに、燃料の排出量をあげてブーストが掛かる。
内部で圧縮した酸素すべてを燃焼して一気に膨張させた結果、推力が上昇した。
加速度の限界値を振っ切る。
――――――――Extend Action !!
バイクのタイヤが、緋色のエフェクトをまとう。ミサイルの両翼に接地するギリギリのところを突き進む。摩擦熱による火花が散りまわり、紙一重で生存した。
「……ぁ、はぁ、ぜっ…しんど!!」
初めて、息をつける程度に距離を取る。
後ろを振り返ると、それでも『連中』はあせらずに、
//shah mat (check !!)
飛んで来る。
『こいつら』は、もうあきらかに、普通の兵器じゃない。発する熱や音に反応して、一方的に追ってくるだけではなく、明確な『知性』がうかがえる。
//shah mat (check !!)
『空中戦』という盤上の上で、自分たちの数を生かして、俺たちを追い詰める。理詰めの戦法で、チームワークによる戦術論で、敵を狩ろうと考える。
//shah mat (check !!)
闇雲に、俺たちを追いかけるだけじゃない。シンプルに追尾してくる奴はいるが、それは後退を許さず、こっちの進行ルートを強要するためだ。
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
一方で、対流圏域の薄雲に隠れて、隙をうかがうものがいる。常に俺たちよりも高度を取って上空を飛び回り、逃走ルートを先読みして伝える機体がいる。隙あらば、他と挟撃する格好で飛んでくる。
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
あらゆる方向から、連携を取り、同時に詰めてくる。さらに、こっちの行動パターンを分析して、自分たちの戦術を修正する。戦闘中に練度をあげていく。そしてなによりも、
//killall Process !!
――目的のためならば、自分の命を惜しまない。手段を選ばない。
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
//shah mat (check !!)
ミサイル同士の位置関係が変わった時点で、タイムラグ無しで、瞬時に役割を切り替える。臨機応変に役割を変える、超優秀な『駒』だった。
人間のような上下関係、横の関係性も存在しない。単純に、現在の戦闘空域による『位置関係』によって、あらかじめ共有しておいた役割《ロール》に切りかわる。
十二機体が、一群となって、命を賭して、相手を追い詰める。
能力には微塵も差異がなく、学習したデータは、一様に共有される。
「連携、陣形も、隙がなさすぎんだよ…!」
人魂。あるいは亡霊。
ロジカルな要素だけで構成された、血肉をもたないヒトの意思。
当たれば一撃即死。そんなものが十二機体、連動して飛び交っている。
『敵を撃墜する』という、目標達成の一点においては、完全に、人間の組織的能力、コミュニケーション手段を凌駕している。
「キツすぎだろ…!」
倒すべき、唯一無二の司令官《キング》を彼方に見据え、歯噛みした。
――どうした?
ゴーグルの視界に映った銀剣は、アナログのボードゲームに興じるように佇んでいた。【水属性の魔法】を用いて、上空30.000フィート上に、水晶の玉座とテーブルを用意して、のんびりと、ただ静かに笑っていやがる。
――おまえは、異界の神とかいう幻想《あこがれ》に、選ばれたのだろう?
あるいは、オートプレイのゲームモードを、作業の合間に眺める程度。
――なにかを背負って、生きて、やって来たのだろう?
液晶モニタに映るゲーム画面にも、そろそろ飽きてきたな。とでも言いたげだ。
――ならば、その程度の障害、乗り超えてこい。
「余裕ぶりやがって…!」
だったら、無理やりにでも、突破してやる。
「ボサッとすんな、クソガキ!! 前から一基突っ込んでくんぞ!!」
正確には前方斜め、対称高度500メートル上方。
上から亜音速で来るぞ、気をつけろ。そいつに巻き込まれたら最後だ。半径五十メートルが核融合し、ソニックブームの塵と化して、ゲームオーバーだ。
「あぁもう、めんどくせぇなぁ! 突破する!」
「ボケが! 誘いだっつってんだよ!! 次手で囲まれるぞ!!!」
「…ッ!」
言葉に従って、切り返す。同じようにハンドルを切って弧を描く。大気がうねる。軽減されても轟く熱と、音速の壁が防護服《ライダースーツ》の上から通じる。ハンドルを握る手と、腰元に帯びた拳銃がひどく熱い。
「いいか、落ち着け。らしくねーぞ」
普段とは打って変わったような、初めての相方が言う。
「らちがあかねぇのは分かるが、一人で勝手にたぎってんじゃねぇよ。ローストチキンになりたくなけりゃ、とにかく耐えろ」
「…ごめん、悪かった」
自分が、たくさんのシステムに守られているのを感じる。
「「そうそう。落ち着きなよ、プレイヤー」」
カァ、と。一度だけ、甲高い鳴き音がした。
ホログラムのモニター上に、さらに二体。黒髪の人型が浮かび上がる。
背中にはそれぞれ、黒い片翼が生えている。フギンと、ムニン。
「とはいえ、アレをなんとかしないと、先へ進めないのは確かだね」
「おさらいしておこうか。レティ、僕らがプレイヤーと相談する間、自動運転のタスクを任せてもいい?」
「2分でまとめろよ」
レティシアのホログラムが消える。バイクの排出機構から、ブンと音がして、完全自動で、回避行動を取りはじめる。
「さて、この世界は、君たちの良く知るルールを踏まえた上で、疑似再現《エミュレート》された領域だよ」
「2026年までの科学水準。および、『非常識ではあるが人類の共通認識』として周到されたモノが、ある程度まではまかり通ってる」
信頼のおけるものを掴むように。
ホログラムの映像を視ながら、二丁の銃を取りだした。
「キミも、四元素、という考え方は聞いたことがあるでしょう? その定説自体は過ちだけど、【伝承】《FANTASY》という概念を引き継いだわたし達には、その疑似的なパラメータを、実装できる権限を与えられている」
「ボクたちの本質的な属性は【風】。しかし君が望めば、その他の属性に関しても、十分な力を行使することが可能となる」
鴉の拳銃を握りしめながら、なんとか懸命に、平静であることを務める。
自分の全身を自覚する。
「…さっきも言ってたけど、とにかくアイツらの数を減らさないと、突破は無理だよな」
「そうだね」
//shah mat (check !!)
拳銃を抜き放ったまま、レティに操作を任せて、回避する。続けてカーチェイスのように並走してくる一基に、狙いをつけた。
【Magic Code Execution】
【Shoot Lv1】【Type Wind】
ためしに撃つ。常識外の速度と硬度を備えた弾丸が、空気抵抗、運動エネルギー、質量保存の法則さえも無視して、ミサイルの主翼に命中する。ただし、
【No Damage !!】
知ってた。
いかにもゲームエフェクトらしい、シールドじみたエフェクトが発生する。
「演算された世界《シミュレーター》の実測値による、計測結果だ」
「アレもまた、兵器本来の強度と、耐久性能に等しい【防御値】を備えている。この形状の武器のダメージは通らないと、おたがいが『認識している』わけだ」
「だったら素直に、二人の【攻撃値】を上げろって話だよな」
「そういうこと」
「だね」
嫌になるほど、よくできていた。
だったらもう、シンプルに聞いてみた。
「フギン、ムニン。アレを撃ち落とせるだけのなにかに、なれるか?」
二羽のカラス達に問いかけた。
「この姿だと小さすぎるね。形状そのものを変える必要がある」
「高いエネルギーを発するものは、原則として質量が大きくなる。この武器においては、射出口の部位を拡大せねばならない」
「わかった。――レティ!」
「なんだ。あと15秒だぞガキ」
「俺の慣性速度の一致と、定点座標は、そっちの方で固定できるんだよな。もう少し詳細な条件を聞かせてくれ」
「テメェの人体の一部が、このバイクと『接地』してることだ。そうすりゃ、オレ様の方で、なんとかしてやるよ」
「わかった。ありがとう」
俺は、この身体を護ってくれるシステム達に伝えた。
「アイツを撃ち落として、銀剣までの突破口を開く。手伝ってくれ」
「.EXE。気をつけてね、プレイヤー。この世界のエネルギーリソースは、疑似的には無限だけど、そのリソースを【魔法】に変換するのは、異世界で眠る、キミ自身の精神が依り代になっている」
「精神が願った【魔法】の形を、システムであるボクたちが、言語に変換して再現する。完成したイメージを、キミの脳が知覚する。複合された【魔法】を使えば当然、現実の命は疲弊する」
つまり、俺のMPが尽きると、その時点でも、ゲームオーバーだ。
「それでも、勝負所は、見極めないとな」
今をおいて他にはない。頭の中で【魔法】を唱える。浮かんだ意思を伝えると、自然に、了承として返ってくる言葉があった。返ってきたものを口にした。
【Magic Code Execution】【Type Earth & Fire 】
【Transform.Lv4】【Add.crass.Constractor.Parameter】
自動二輪のシートの角度と幅が変形する。リアタイアの側に追加パーツが付与された。ハンドルから手を離して振りかえる。平らな台座《サス》の上に片足を乗せると、しっかり安定した。
「悪いな、ちょっとだけ、足蹴にさせてもらうぜ」
「生きて帰ったら拭いとけよ」
「約束するよ」
座標固定。運転と慣性速度の調整を、レティに任せる。続けて詠唱。
【Magic Code Execution】【Type Wind & Fire 】
【Transform.Lv4】【Changed.crass.Constractor.Parameter】
鴉の二丁拳銃がくるりと踊り、ひとつに融合した。
新規に誕生したのは、対物ライフルにも等しい大口径の長銃だ。狙撃可能なスコープのオプションも付いている。膝を曲げて、構えを取る。
「おいガキ。一発ぶんの猶予を作ってやる。外すんじゃねぇぞ」
「了解」
ライフルを構え、スコープを覗く。十字に交差するレティクルサイト。呼吸を整えて、倍率を上げる。直後にバイクのエグゾーストの振音が増した。逆上がる流星の軌道を取っていることを、頭の片隅で確認する。
一面の蒼空。
「………………」
狙う。音速を超えたミサイルが、俺たちの後を追いかけてくる。
【Magic Code Execution】
【Enchant Lv3】【Type Fire】
個々の願いが、詠唱として認識される。砲身に込められた銃弾にも、特殊な力が作用していくのを感じとる。指先がふるえる。まだか、おい、まだかよと、急かしてくる。頭の中は冷静に、迫りくる相手の『鼻先』をしっかりとらえ、
【 Over Break !! 】
指先の引金をひいた。疑似的な炎熱を秘めた徹甲弾が、極超音速で奔る。
初速がほぼ失われることなく、追ってきた『相手』に命中した。
【 HIT !! 】
徹甲弾が貫通する。化学合金の殻を食い破る。ミサイル内部に秘めた火薬物質に点火する。コンマ1秒以下で融点を突破。内側で膨張した粒子が、気でも狂ったように暴れまわる。
【 Critical Damage !! 】
瞬時、秘めたクラスター爆薬が、滅茶苦茶に飛びだした。空中で破砕して、周辺に大洪水の熱波を拡散させる。すさまじい熱と音が波形上に広がり、轟音を響かせるよりも早く、まっ白な閃光がとんで来た。
「…っ!」
本来なら、網膜を貫いていくほどの衝撃だろう。ビリビリと、全身の筋肉を通じて、神経繊維と、細胞がふるえるのを感じる。
ライフルのスコープから目をそらし、思わず、目も閉じかけた。
(『倒した』!)
実際の熱や音、直接的なイメージの影響は、レティ達がブロックしてくれる。その恩恵は確かだったが、本来の生身で受ければ、視力と鼓膜を失いかねない衝撃だ。俺自身の反射神経が影響して、とっさに身をひるませた。
「クソガキ! 目ぇ開けろ!! 次が来てんぞッ!!」
「!?」
そのせいで、反応が遅れた。今しがた爆散した閃光、そのものを目くらましにして、さらに一機の巡航ミサイルが、色濃い黒煙をひき裂いてあらわれた。
//killall Process !!
【神風特攻】
そんな言葉が思い浮かんだ。
『仲間』の犠牲すらも計算においた上での、単機突貫。
ゾクリときた。
この瞬間になって、初めて、本気で、震えがきた。
「…なぁ…そこまでして………勝ちたいか?」
ヤバイな。コイツらは、ヤバイ。
――『たかがゲームに、命をかけている。』
本気で、戦争をやっている。やらかそうとしている。
「…バッカじゃねーの」
思わず口にだしていた。まっすぐ飛んでくる『そいつ』に話しかけつつも、身体は本能的に銃を構え、再び狙いをつけていた。
「…あぁ! あぁ!! そうだよなぁ!!! みんな知ってるよ!!!!」
俺たちは、知っている。みんな、その気持ちを有している。
【 !! All for the Victory !! 】
"勝ちたい。"
知能生物であることの証左、証明、承認欲求。
自分の命に、生まれた意味を求めている。
「痛いほどわかるぜその気持ち!!!!!」
二度目の引金をひいた。命中する。
融解した距離は、先ほどよりもずっと近い。
「…ぎっ!」
全身が、真夏の直射日光を浴びたような熱量に支配された。小石ていどの砂礫が、頭のてっぺんから、爪先まで、洪水のように叩きつけてくる。
暑い。痛い。苦しい。
『ダメージ』が、軽減しきれてない。次は、ガチで死ぬかもしれない。
「おいクソガキ! 気をつけろよ! 今のは結構…」
痛かったぞ。削られたぞ。とかなんとか、言いかけたのかもしれない。だけどその声には応えずに、
「…使い捨ててんじゃねぇよ…!」
「あ?」
「ぜってぇ、アイツも、俺とおんなじ感覚、持ってんだろうがよ…!」
拳銃に戻した鴉たちを、ホルスターにしまった。
力を込めた両手で、ハンドルを握りしめる。
「行くぞ!!」
エンジンの基本出力、トルクの回転数を挙げる。ギアのレベルが上昇。
「久々に、なんか、すげぇ腹が立ってきた!!」
オーバード・ブースト。酸素を腹いっぱいに取り込み、二酸化炭素を排出する。ありったけの排熱機関を、吹き荒らす。
「あの野郎!! 正面から一発ブチかましてやるッ!!!」
自分でもよくわからないが、とにかくキレていた。
冷静に、むしょうに、イラついていた。
「…ホント、毎回エンジンかかんのが遅ぇんだよな! テメェはよォ!!」
腹の奥底がうなる。相手の喉笛に噛みついてやりたくて、たまらない。ここに来て、俺より冷静だった機械の生命との感情が一致する。
「行け! 進め!! 突撃しろクソガキ!!!
《GO!GO!GO_AHEAD!!》」
頭と身体。自分たちの意識を重ね合わせる。この眼で相手を見据える。
時速2,000kmを振りきる覚悟で、今度こそ、世界最強の座に挑む。
*********************************************
【Magic Code Execution】
【Type,FANTASY】【Transport.LvⅤ】
――Extend.Reincarnation !!
失った二基を補完。新たな【魔法】を召喚した。
「さて、次はどうする?」
成層圏の中をひるがえる星。両手には、無数の姿と名前を持つ【軍神】の遺産を握りしめる。予想通り、力の一部を引き継ぐ程度には『遊べる』個体だが、今のでかなり、本体のリソースを消耗しただろう。
「群がる的を倒す程度では、こちらの座には、至れんぞ?」
口にした時だった。星の輝きが、勢いを増した。
「マッハ2、超音速か」
一気に決着を付けてやるとばかりに、まっすぐに高度を下げてくる。
「速度差があるな。02、04、09、12、守勢に回れ。隊列の編隊密度を上げろ。07と10は直進。こちらに向かってくる星の軌道を読んで正面から当たれ。05および06は、正面から包囲網を突破しようとした時に備えろ」
【【【【【Sir,FoxⅤ】】】】】
亡霊どものフォーメーションを変更する。空戦において、速度のアドバンテージは絶対だが、己たちの場合はその限りではない。
「相手がより速ければ、数で取り囲む。旋回速度が上なのであれば、先の先まで読みきった上で叩きつぶす」
己たちは機械だ。この世界に【魔法】などという力が働いても、所詮は【魔女】が作ったものである以上、基本原則は物理に支配されている。
そして科学は、古代の人間たちが夢想したものの上をいく。
はるかに合理的で、現実が夢物語を超えていくのが、世の常だ。
【魔法】の発動要因となる、夢見る人間たちの精神は、科学技術の進歩と共に劣化する。
当たり前だ。膨大な計算と演算は機械に任せ、思考力は、減衰の一途を辿りはじめるのだ。人間たちの処理できる情報量には上限がある以上、その想像力もまた、停滞を始め、あらゆる視点は、過去へと遡って固着化される。
対して、己たちは、終始徹底して、合理的に戦う。処理する情報量を増やし続けて、効率良く相手を殺す。すなわち『たっぷり弾薬を積めた弾頭』を、相手に直にぶつけて共に散る。
命の単価は下がり続ける。
安く、たくさん、大勢を巻き込み、一瞬で、派手に殺す。
「本懐だ。盛大にいけよ」
兵器は夢を見ない。死後の世界、ヴァルハラ等という絵空事にも興味はない。
ただひとつの役割だけを持って誕生し、使い捨てることで成し遂げるのだ。
「さぁ、異世界からあらわれた命を、殺してやれ」
己を含めた灯火、そのものさえも不要。
連中が望むのであれば、存在せぬ異界へと導いてやれ。
//shah mat !! (check)
//shah mat !! (check)
人間どもの歴史に、王手をかける。
新たに呼びだした二機は、まっすぐに迫る星と、正面でさし向かう。
輝く星は、生き延びる道を選択しようとする。
だが、ここまでの戦闘での軌道を読み取り、情報を共有していた一機が、すでに先回りをはじめた。相手が回避行動を取るよりも早く、すべての機体が進路を防ぐ形で先行する。
//shah mat !! (check)
//shah mat !! (check)
//shah mat !! (check)
//shah mat !! (check)
//shah mat !! (check)
//shah mat !! (check)
――【NO REFUGE】.Target_1 cannot be saved.
無限に思える、有限の盤上を制覇した。相手の軌道範囲のすべてを読み切って、どのように回避しようとも、次の動作で圧殺する。
「詰みだな。ここまでか」
星が操る機体は、すでにありえない【魔法】を働かせている。超音速時にかかる負荷を分散させ、騎手を守る計算を取るだけで、他にリソースを回せる余裕はないはずだった。
これ以上の望みはない。そう思った刹那、
「…なに?」
回避行動を取らなければ、両者の激突が確定する二秒前。敵の騎手と、乗り物である機械が分離した。固定されていた定点座標が解除される。【魔法】の力は失われ、星の輝きをまとっていた少年は、為すすべもなく空に投げだされる。
【Magic Code Execuiton】
【Enchant Lv1】【Type,WIND】
空中に、翡翠色の【魔法陣】が浮かぶ。
疑似的な足の踏み場として、再跳躍する。
【Magic Code Execuiton】
【Enchant Lv2】【Type,WIND】
立て続け。蒼空の中に連なる階段があらわれる。自らの足で走りだした。対して二輪車は単身、予期されたルートで、こちらへと接敵を続けている。
「…二手に別れたつもりか?」
どちらを狙うべきか。本来は一体であると認識していたはずの標的が『二体に増えた』とも言える。
「……全機、星を討て」
わずかではあったが、こちらの統率が乱された。
* * *
今確かに。『動揺』が視えた。
今日まで何百、何千戦。対人戦に属するゲームにおいて、頂点に立ってきた連中と、勝負事を繰り返してきた。そのうち必然にも近い感覚で理解した。
合理的。正攻法。手段の最効率化。
勝負の世界は、それがすべてだ。さらに速さが伴っていれば、尚強い。自分が積み重ねた知識と経験。理論的なデータ基づいた最適解《セオリー》を、反射神経に任せて、相手よりも速く、純粋に、上から叩きつけること。
それが、シンプルに、最強だ。
ただそれ故に、世界最高峰のプレイヤーにも、弱点はある。
想定外の『二択』を迫られた場合だ。
予期せぬ過程がおとずれた時。ヒトは硬直する。膨大に蓄積された知識量が、どうしても脚をひっぱる。次に取るべき行動の妨げになって、出遅れる。
(これまでの記憶があるから、ヒトは迷う)
十二機のミサイルどもが、従来の熱源センサーを搭載しているならば、なんの迷いもなく、自動二輪車《レティ》を撃墜しに向かうだろう。けど、
(あいつらは、俺たちと同じ『感情』を持っている。だったら狙うべき先は、優先順位は、本体の俺だ。絶対、こっちへ仕掛けてくる!)
【Magic Code Execuiton】
【Enchant Lv2】【Type,WIND】
空の中を奔る。両手に意思ある拳銃を握りしめ、まっすぐな坂を駆け下りるように、玉座へ向かっていく。頭の中でカウントした二秒後、レティが操作する無人バイクが回避に成功していた。巨大な推進力を持ったミサイルとすれ違う。
その先は、本来、もう、逃げ場はどこにも無かったが、
「……」
銀剣の視線が、ほんの一瞬だけ、処理に追われたのを感じ取る。時間にすれば、まばたき二つぶんにも満たない程度。緋色のアイセンサーが俺を捉える。
「ッ!!」
ミサイルの軌道が変わった。全身に緊張がはしる。
音速にも等しい、巡航ミサイル六機が、一斉にこっちに迫る。
ゴーグル上に数値があらわれる。
【風】をまとう俺の現時点での最高速度は、せいぜい時速80。
速度差が10倍以上あるものが、あらゆる方向から押し寄せる。
――あぁ、なんでだろう。ムカツクなぁ…!
【魔法】でも分解しきれない、圧倒的な風圧が押し寄せる。轟音が鼓膜を破りそうな音を奏でる。ソニックブームと呼ばれる衝撃波のカマイタチが、全身の防護スーツを貫通して、切り刻んでくる。
//killall process !!
さっき見た光景。自らの命を厭わない自爆。人間たちに勝てるなら、それでも構わないと謡いきる、自己犠牲の精神。
歴史の教科書でも読んだ、かつての世界大戦でも行われた行為。
守りたいものがあって、そのために、衝動的に死んでいく。
ほんと、まったく、どいつも、こいつも…………
「!!! 思考停止してんじゃねぇぞ、グズ共がアァッ !!!」
テメェの命は、俺自身のものだ。誰かの利益の為には、存在しない。
この命の価値を決めていいのは、他ならぬ、俺自身だ。
自らの利益のために、全力で、この命を懸けている。
誰かを護ることも、救うことも、救われることも、みんな一緒だ。
そんなことも、わからないのか。
だから、おまえらは、
「!!! 毎回、俺たちに、先を越されるんだよッ !!!」
生き残る。あらゆる可能性を考える。あらゆる状況を推察する。あらゆるモノを応用する。命を護るために躍動する。未来のことを考える。水平と垂直の彼方にある思考の積み重ねと実践こそが、最先端の利益となって還元される。
「!!! テメェの命を使い捨てたこと、あの世で後悔しろッ !!!」
清濁あわせ持ち、生きるものこそが、最強だ。
俺を、本当に、自由な存在に、推しあげてくれる。
【Magic Code Execuiton】
【Enchant Lv3】【Type WIND】
自分の命を守ってくれる、技術の結晶に向かって照準を向ける。
全方位から熱を感じた。おそろしい程に進化した、本物と寸分変わらない、それ以上に精巧にできた未来のゲームが、誇りをかけて俺を殺しにきた。
【Extend Action !!!】
手詰まりの袋小路。六機のミサイルが、俺のいた位置を中心点として、互いに激突しあう。世界の終わりにも等しい、熱と音が拡散された。
***********************************************
命が散る瞬間、敵は【転移】していた。
この世界の規約《マニュアル》にて、あらかじめ用意された力だった。
風属性。レベル3。
瞬間移動《ショート・テレポーター》
速度の概念に捕らわれず、時を駆けた。ただし本来の『ゲームバランス』と呼ばれる制約下を無視している。
「現在の領域下の特徴を利用したか」
射程距離は、互いが認識可能な範囲すべて。燃料リソースに関しても無制限。すなわち、【魔法】という前提条件さえ成り立てば、移動エネルギーに関しての、あらゆる法則は無視できる。
ただ、それならば、自らだけが、この座標まで跳んでくることも可能だったはずだが、
「…身を持って、こちらの兵を削り、其を戦友と見立て、至ろうとするか」
一度は分かたれた星々が、ふたたび一点で集っていた。
「おもしろい」
爆ぜ散る核熱を背景に。十二機の防衛網を突破した人機一体が、再度合体して、超音速で刺し迫る。
この姿を視ろ。この生き方こそが、自分たちの在り方なのだと。貴様らを超えていくのだと、蛮勇を以て証明してみせた。
「上出来だ」
立ち上がり、水晶に刺した、無銘の打刀を掴む。
呼吸を整える。息をひとつ、吸い込んだ。
「――心意二つの心をみがき、
親見二つの眼をとぎ、少しもくもりなく、
まよひの雲の晴れたる所こそ、実の空としるべき也。」
正眼に構えれば、全身が、風の衝撃波に包まれた。
「――ただしく明らかに、大きなる所をおもひとつて、
空を道とし、道を空と見る所也。」
熱波が押し寄せる。暴風の中心に在る命が一機、世界最高峰の速度を伴いながら、己に最大の武力を叩きつけんと、異世界の先から跳んでくる。
「――空は有善無悪、智は有也、利は有也、道は有也、心は空也。」
相手にとって、不足無し。
「来い、少年」