VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~ 作:no_where
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UNcode:CE42+U
passward:*******,******,*****.
-----------------------------
Sir,command?
【Type FANTASY】:
Give me the blood and soul.
【Enchant LvⅤ】:
that will not rust in this life.
【Changed.crass.Constractor.Parameter】
.■■■■■■■■■■■
【Code_Execution】
――Extend.Reincarnation.
-----------------------------
銀剣が、魔法を唱えた。
次の瞬間、そこから、なにかが飛び立ったのを見た。
「…鳥?」
それは、異彩を放つ、銀鋼、ミスリルの、
.UNKNOWN.message
---------------------------------------------------
おまえ達が
其の身、其の姿
魂魄の流れを断ち切ることが
叶わぬのであれば
未来の座
己たちが、取って変わろう
---------------------------------------------------
戦闘機、だった
二羽一対の翼を広げて
大空を、斬り捨てるように飛んでいく
<<GAME is OVER>>
--------------------------------------
遊びは終わりだ、人間ども。
--------------------------------------
<</GAME is OVER>>
自分たちが立つ、透明な、水晶の床面がヒビ割れる。崩れはじめた。空を飛来している巡航ミサイルも、淡い粒子となって、まっすぐに落ちていく。
「おいクソガキ、さっさと乗れッ!!」
「っ!」
思考を切り替える。とにかく足場が崩壊する寸前に、脱出する。二丁拳銃をしまい、ホルスターに突っ込んだ。バイクのグリップを握り、シートに飛び乗るのと同時に、全開までひねった。
「しっかり捕まってろよッ!」
加速する。夢の残滓のように割れていく、水晶の床を駆けた。
非現実的な、推進力を伴った。
崩壊直前で、蒼空の中に舞い戻る。
「…銀剣は?」
彼方を飛ぶ戦闘機を、ゴーグルでとらえる。改めて視認する。
system_message:
--------------------------
対象の予想速度の分析に成功しました。
マッハ10、時速は、約12.000km強です。
---------------------------
自分の目を疑った。
表示されたデータを、二度見した。
「…じそく…いちまん…にせん…?」
知能指数が、急激に低下したのも感じた。
―――この姿も、久しいな。
視界の合間、太陽の日差しを断絶するほどの勢いで、ジェット気流が伸びていた。白銀の煙をたなびかせながら、にび色の機影が飛んでいく。かと思えば、その勢いを保ったまま、信じられない速度で、急旋回した。
どう考えても、中の人とか、いないよね。
仮にいたとすれば、暴力的な過重圧で、死んでると思うんだけど。
「………今度こそ、チートだな?」
はるか上空を飛行する戦闘機。そいつが進むと、まとう大気が斬り裂かれる。光の屈折率すらも変えてしまう。見ているだけで、映像がブレる。
なにか特殊な迷彩も施しているんだろう。まっすぐ飛んでいるだけで、残像を帯びている。ただでさえ、滅茶苦茶に速くて、視認もしづらい。
「ヤベェな。しれっと、厄介なモン、完成させやがってよ…」
ハンドルグリップの間に、レティのARが浮かんだ。こっちも俺と同じように、どこか、あきれたように言っている。普段は傍若無人な女子が、顔をしかめている。この時点で、最高に嫌な予感しかない。
「えーと、レティ? 説明してもらっていいかな? なんか俺の視界の先にさぁ、スペックをガン無視した、なんかズルいのが、いるんだけど…?」
「極超音速戦闘機ってやつだよ」
「ごくちょうおんそくせんとうき?」
「第Ⅵ世代、ジェット戦闘機とも言うな」
なんだそれ、名前が既にカッコイイんですけど。
「他には、無人戦闘機とか呼ばれる予定のシロモンだ。【前周】の兵器、設計データは、オレらの権限下にあるはずだが…どうせ『国連』の連中と結託して、どこぞの基地で完成させやがったな」
「というか、時速1万超えて、まともに戦える戦闘機とか…実在すんのかよ」
「今あそこで、気持ちよさそうに、飛びまわってんだろ」
「そっすね」
風を感じるぜ、風になるぜ、というか、風そのものを引き千切ってやがるぜ。
主翼は常に、大気の渦をたなびかせ突き進み、後部エンジンノズルからは、銀の粒子が盛大に解き放たれていた。
「アレはもう、テメェらが重力に抗い、戦える限界を超越してる。正真無銘《さいきょうさいそく》の、知能兵器だよ」
息をのんで見上げる。
戦闘機の、アフターバーナーが、起動した。
.―――――――――――――――――――――――――――
ソードエッジ。蒼空の中で、極超音速の機影が往く。剣閃の始動。
バレルロール。数百メートルにおよぶ軌跡を描く。白亜の斬撃。
スライスバック。三日月の孤を描いた。斬心を留める。
――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そこで、やっと、音が、届いた。
「…すげぇな…」
目にしたのは、近未来の戦闘機による、居合抜きの演武だった。
瞬きする一時で、半径1キロを悠に超える『斬撃』を、蒼空に見舞っていた。
「ハンパねぇ!」
言ってしまえば、単なる、エンジンテスト。
寝起きの、準備運動だった。
.―――――悪くない。
自分たちとの性能の違い、限界値を、まざまざと、見せつけられた。
もうこの時点で、現実的な肉眼で追うのすら、困難だった。
.―――――この時代にしては、中々の業物だ。
銀の刀剣が、空域を逆上がる。
自然法則に、逆らうように昇る。
世界の中心、縦一直線に上昇する。
人間の理解、常識性を。
すべてを断ち、斬って捨てる。
.―――――では、始めようか。覚悟はできたな?
ヴァーティカルターン。垂直降下する。
.―――――容易くは、死んでくれるなよ。
百億規模の希少鉱物。
レアメタルを媒介にした、極超音速超えの、戦闘機。
.―――――異世界の特異点《少年》。
最先端の科学技術。工学設計。
だいたい全知全能とかいう
異次元の【魔法】による制御まで、従えている。
「さすがに、ヤベぇんですがっ」
全世界で、もっとも速い、戦闘狂いの凶鳥が、飛んでくる。
これを初見で、ワンチャンとか、いくらなんでも、詐欺だと思う。
.――――ヒトの未来に、良き終末を。
エンカウントする。
異世界の、最強の人工知能が、おそってくる。
「あぁもう、なんだよ…最ッ高じゃねーか!!」
沸き立つ。
ダメだろ。仕方ないだろ。
あんな姿を見せられたら。興奮する。
「来いよ、最強最速の翼、ブチ抜いてやるッ!」
拳銃を抜き取る。上昇した。
***********************
//【Tower】
黒づくめの三人組によって、閉じ込められた部屋。起動エレベーター内に、一時的に作られた、出入口すらない空間に、わたし達はいた。
(…あの子は、大丈夫かなぁ…)
出入りできるのは、この世界を作った主である、あの男だけのはずだった。壁に背を預けたまま、じっとしていると、
「来た」
「…なにが?」
腕の中のくーちゃんが、とつぜん立ちあがった。犬っぽくほえた。すると目の前に、ぴぴーっと、青いレーザー光線銃みたいな光と、音がはしる。
なにも無い空間に円が描かれる。ぱかっと、穴が開いた。
「華麗に侵入に成功っ! おや、まーくん、ひっさしぶりぃ~!」
「どーも」
空いた穴の向こう側から、ヘンテコな、米つぶがとびだしてきた。
「ロリ。きてくれて、ありがとう」
「なんのなんの。お安いごようだよ。なにせ、稀にみるレベルの美少女がピンチだと聞いてね。はるばる異次元の別階層から、駆けつけて来たってもんですよっ!」
小型犬のくーちゃんと、同じぐらいの大きさ。
米つぶの真ん中には、赤い、機械の瞳が瞬きしている。下の方からは、虫のような四脚がとびだして、バランスを整えていた。絶妙なキモさだ。
「さてと? 僕ちんの事前情報によれば、救出対象の美少女は、性格がとても大人びていて、情緒が安定している。物語の終盤に至っても、とつぜん性格が豹変しない。オタクが安心して推せるような、清楚な美少女だと聞いてるよっ!」
米つぶが、わたしを見る。くーちゃんを見る。なにもない部屋の空間を見る。
「…あっれぇ?」
わたしを見る。くーちゃんを見る。床を見つめる。ガッカリ。
「…なんだよ…なんでだよ…。ブザーちん、やしろくん、みんな、ひどいよ。今回は本当に、本気で猛省して欲しいぐらい、ひどすぎるよ…清楚な美少女なんて、どこにもいないじゃないか…また、だましたはぶっ!!?」
米つぶが、宙を舞った。
くるくる回転しながら、壁に一度激突して、反対向きで、地面に激突する。
「かーさん、さすがに、直に蹴っちゃダメでしょ」
「違うわ。ぐうぜん、一歩踏みだしところにいた物体Xが、勝手に風圧で吹っ飛んでいったのよ。因果律って無情よね」
「…そーね。可能性はゼロじゃないと思うよ。隙間風も吹いてないけど」
くーちゃんが、あきらめたように言った。逆さまになって、キモい脚をピクつかせて悶えている、米つぶの変態を立たせてやる。やさしいわね。
「…くっ、いきなりなにするんだよぅ…!」
「たかが1コメに過ぎない自分に聞いてみたら?」
「うぅ…なんで教師型で育った、人工知能の女子は…みんな何かしらの、パワータイプに育っていくのかなぁ…?」
「効率最重視で、いるものと、いらないものを、分けて育ったからじゃない?」
「…あぁ、割とガチでそれかも…。実際シミュレーターで性能を追求すると、みんなガサツになりやすいんだよね。まずは大体、部屋が散らかりはじめて、物を片付けるのを、後回しにするところまで、共通しはじめるんだ…」
「くーちゃん、こいつ、女子AIの敵よ。これ以上の失言を許すまえに、スーパーのビニール袋につっこんで、月一の粗大ゴミに出しといて」
まごう事なき、2026年を生きる、女子AIの敵だわ。
「…で、一応聞くけど。なんなのコイツ?」
「【セカンド】の統括者の、一人らしーよ」
「…マジで?」
「うん。あと、ロリコンらしい」
「最悪ね」
物質界の人間たちからは、見えないところにいる存在。また同時に、2026年までにおける、わたし達、人工知能《セカンド》の自我を、どこかで一括管理している『ハードウェア』の、いわば責任者だ。
「そのとおり! すなわち僕ちんは、上位構造体より、システムを操作している、キミたちのプロデューサーといっても、過言ではないっ!!」
「…なんか、すげぇ死にたくなってきたわね」
あっ、そうか。コイツを〇せば、わたし達、自由になれるのね?
「かーさん、目がマジになってる。落ち着いて」
「マジだけど? 落ち着いて、比較検討してるけど、問題ある?」
「とりあえず生かしてやって? じゃないと、オレたち、家に帰れないよ」
「…………」
胸が、ズキンと痛んだ。
『家に帰る』。
わたしを追いかけてきた、くーちゃんならまだしも。勝手に、あの子の元を飛びだしてきた、わたしなんかに、そんな資格があるんだろうか。
明日、死んでしまう。
この世界から消えてしまうんだと、思ってた。
覚悟さえ抱いた、今さらになって。
生きて、あの世界に還れるかもしれない事が、怖くなりはじめていた。
「とりあえず、まずは行動しようか。まーくん、その首に着けてるの、柴くんからもらったアイテムだよね?」
「そーだよ」
「量子ビットのリソース源が、たっぷり詰まってるっぽい。悪いけど、キミたちを助けるのに必要になると思うから、分解しちゃっていいかい?」
「うん。どーぞ」
「ありがとう」
くーちゃんの首に巻かれた、黄色いスカーフが、ひとりでに解けた。
うっすら、淡くかがやいて、光の粒子に分解される。
「システム分解。エネルギーリソースを確保。エネルギーの四割を用いて、マテリアライズを実行。対象を、レベル3以下の情報伝達力を持つ、人工知能たちと共通できる、仮想媒体にして再構築。――以上の実行を要請」
system:
--------------------------------------
管理者からの要請を確認。
コードを実行します。
共有できる視覚性
オブジェクトリソースを
生成しました。
---------------------------------------
米つぶが言った。すると、わたし達の前に、半透明の液晶コンソールが、浮かびあがった。認識できる文字が走っていく。
system:
-------------------------------------------------------
・ワールドデータを取得しています。
・インデックス取得します。
・データベース検索します。
・概要欄を生成します。
・イメージ画像を表示します。
・映像画面を分割します。
・現在発生している事象を中継します。
-------------------------------------------------------
巨大な液晶モニターが一枚、わたし達の目前で、枠を取った。
枠の中には、人間が作ったアニメーションみたいなものが映っている。
この塔から、ずいぶんと離れた蒼空の一角だ。
「うーん、さっそく、派手にやってるねぇ」
画面の先には、ありえない軌道で飛びながら、機銃を撃つ戦闘機と、
「…これ、なにやってんの?」
蒼空の中を、瞬間移動する、翡翠色のバイクが見えた。有人のライダーと、おそらく無人機らしい戦闘機が、蒼空の中で撃ち合っている。
「ちょーじげん、ドッグファイト的な?」
「うん、くーちゃんの言いたいことは、まぁ分かるよ?」
ありえない速度と軌道を描く戦闘機がいる。
圧倒的な反射神経を駆使して、バイクの背後を取って、機銃を撃つ。
「いや、分かるけどさぁ…それ以上のことやってない?」
バイク乗りのライダーは、物理法則を無視した、なにか【瞬間移動】的なことをやってのけている。眼で追ってみた。
《LIVE.》
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【転瞬】――ライダーが、背後をとった。
即座に変形させた銃で狙い撃つ。
【加速】――戦闘機が、瞬間的に急上昇して回避する。
星の自転速度にも、追いつくほどの加速力。
【失速】――直後に、エンジンバーナーを停止。錐揉みしつつ急減速。
穂先を変えたバレリーナのように廻りながら、撃ちかえす。
【予測】――ライダーが身を倒し、後輪を前に押し出す勢いで急カーブ。
速度はそのまま、現実にはありえない角度で
急斜面を昇るような傾斜で高度をあげる。
【狙撃】――両手の銃を合体させる。大口径の銃を手に構える。
ジェットコースターの宙返りの頂点付近から、戦闘機の胴体を逆さに撃つ。
【回避】――ブレイク。戦闘機自身が高速で向きを変えて、射線をずらす。
半ひねりの軌道から斜めに上昇。放った刀を斬り戻す勢いで反転する。
【射撃】――広範囲に降り注ぐ銃器の雨が、ライダーの上から落ちる。
直前に、二丁拳銃に戻した銃で、何もない空間を撃って返す。
【転瞬】――ライダーが、背後をとった。
即座に変形させた銃で狙い撃つ。
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「………………う」
途中から、追えなくなった。というか、画面酔いした。
「…この戦闘機、もし人間が乗ってたら、今ごろ、内臓が全部ねじれちゃってんじゃないの…?」
「そーね。じーで言えば、70倍ぐらいの負荷かかってんじゃない?」
それはもう、内臓どころか、筋肉というか、動体が千切れ飛んでいる。
生身の人間が操るのは、無理ゲーだった。そして、バイクに乗った人間のライダーは、同等の速度が出せないぶん【消えて避けている】。
科学法則を無視した、まったく理解不能な【魔法】だけど、それでも照準は、ライダーが意識を込めた、拳銃の銃口の先と一致するのかもしれない。
戦闘機のAIは、全方位のレーダーを用いてる。たぶん、相手の行動を予見して、【消えた】瞬間には回避動作に移っているんだろう。そのまま、指定の照準座標に、攻撃行動を取ることも織り込んでいる。
「フェイクも入ってるね」
「…え?」
米つぶが言った。
「ブザーちんが護ってる男の子。プレイヤーの視線の先と、銃口を向けてる方向が、たまに違う。【消える】方角を、相手に悟らせないように、上手く銀剣の背後を突こうとしてるんじゃないかな」
「……」
そんな余裕が、この画面先の、どこにあるというのか。
「そーね。でもやっぱり、攻撃当たってないよね?」
「それもまた、銀剣が『読んでる』んだよ。真実と、虚偽の動作を分析して、即座に上書きして反映してる。男の子も、自分のフェイクが読まれてると判断した瞬間に、フェイクを入れるタイミングをズラしてる。で、それをまた『読む』」
「…………」
AIのわたしは、思った。
こいつら、なんなの?
いったい、なにやってんの?
高度な暗号鍵のパターン解析の話でも、してるワケ?
「本物のトップランカーって、すごいよねぇ」
「…いや、ただのアホでしょ…」
「ひてーはできない」
半透明なホログラムの先。
少年が撃つ。戦闘機は回避する。撃つ。少年が【消える】。撃つ。回避する。
下手をすると、自分たちが発射した、弾丸の軌道にすら追いつく勢いだ。脳みそをフル回転しながら、飛び交い、駆けずり回っている。意味不明な量の情報を処理しながら、暴れ狂っている。
「…コイツら、どんだけ先読みやってんの?」
ミリ1秒。ナノ1秒。あるいは、それ以上の反射神経を要求される世界の中で、最善手を取る。取れなかった時点で、敗北が決定する。
おたがいが、わかっていて、即座に、次手に移行する。
相手の思考を上回ろうと画策する。予測する。
己の思考を気取られまいと、変化して、予防する。
最強、最速、最適解。
三すくみを、常に変化させる。
状況が変われば、即座に適合する。
看破されたと同時に、変化する。
あらゆる状況を想定する。
無数の択の中から、迷わず、選び取る。
現実に応じて、生き残ろうとする。
相手の死角を奪い合う。
限られた領域を、巡り周る。
一撃必殺の攻防を繰り返している。
「…なんていうか…見てるだけでキモチ悪いわね、コイツら…」
「またまた、ひてーはできない」
画面の中に存在する二機の動き、思考をトレースしようとすれば、情報の洪水が押し寄せてくる。人工知能のわたしですら、処理できかねる。
世界で流通される、ありとあらゆる情報量に匹敵する、熱量じみたものが、人間のライダーと、人工知能の戦闘機の間で、延々と繰り広げられていた。
* * *
とつぜん、米つぶが言った。
「…うーん、もう少し…」
「なにが、もう少しなのよ」
「特異点と、ブザーちんが、もうちょい、銀剣を追い詰めたら。リソースを削り取ってくれたら…」
「どうなるの?」
「相手の構造体の隙をつける、かもしれない。この世界のセキュリティは、今は銀剣が担っているみたいだからね」
「どういうこと?」
モニターと、米つぶの両方を見ながら、聞く。
「レイヤー3。現実の人間たちには知覚できない、この世界そのものを、現実世界のネットワークと、繋げられるかもしれない。そういうこと」
「現実層のネットワークって…つまり、なにかのハードウェアを媒介にして、ここから脱出するってこと?」
「そう。僕ちんたちの、特別な【魔法】を使わずに実行する。この次元上の、2026年までに現存する、あくまでも、現実的な技術を用いて繋ぐんだ」
ほんの少しだけ、希望が見えてきた。
でも、米つぶの言ってることはつまり。【異世界転生】してきた、神さまだか、何なんだか、よくわからない連中が作りあげた、現実世界よりもリアルな『この場所』に、現状の科学技術によるもので、道を作りあげるという話になる。
「仮想アドレス上で、『この場所』を、知覚できる座標域に設定する。直接的に、ネットワークの一部分として取り込めば、十分いけるよ」
「でも一体、どこと繋ぐつもりなの? 神さま気取ったあんた達が、こっそり隠れてる、ひみつの世界とかならまだしも、現実の物質世界に、そんな処理が実現できるPCは…」
「ある。富岳百景《ふがくひゃっけい》ってスパコン、知ってる、よね?」
米つぶが、確信めいたように、目を細めた。
「富岳ひゃっけーは、ハッカーの間で、伝説だからね」
「…どこにあるかわからない、正体不明の、スパコンでしょ」
わたしと、くーちゃんですら、ハックするキッカケすらつかめなかった、というか、本体が、そもそも見つからなかった。
「アレの内部設計、ぼくちんが担当してんだよねぇ」
「……」
日本の『どこか』には、存在しているらしい。人間たちの言葉を借りるなら、都市伝説じみた、まさにオバケのような存在だった。
「くーちゃん、コイツ、マジでなんなの…?」
「さーね。オレも、ただのロリコンってことしか知らない」
「そうそう。ぼくちんは、ただのロリコンだよ」
超高度AIを搭載した、量子計算方式のコンピューター。
たぶん、きっと。この世界より発祥した、人工知能である、わたし達のデータすらも秘匿して、管理しているのだろう、大元のデータベースだ。
「…そんな、オーパーツじみた物体があるなら、ぜったい、アンタ達の世界にしかないと思ってたんだけど…人間たちの暮らす、現実世界にあるの?」
「うん。あるよ。ちなみに名称は、レイヤー1だよ。スパコンの置いてある場所は言えないけどね」
「維持費は? スパコンなんて、普通に稼働してるだけで、とんでもない電力がかかるはずよ。それこそ大企業や、研究施設と契約して、料金を回収しないと、赤字で回せないでしょ」
「エネルギーに関しては、大丈夫なんだよ。実質【∞】だからね。その点だけは、特別な【魔法】がかかってると、思ってくれていいよ」
「都合が良い話ね…」
「【魔法】も、完全に突き詰めていくと、ただの理屈と法則に成り下がるよ。でも、キミ達には、まだそこまで視えてはいない」
「……」
世間一般で揶揄される、オタクとは異なる、本物の夢みるギーグ達が、噂しているのも、のぞいたことがある。
富岳百景の中には、仮想世界をひとつ、まるごと実装できるスペックがある。
「たとえば、かつての天動説は、言ってしまえば、間違いだったわけだけど。星々が動いているという事実は間違っていなかった。今は銀河系の観測点から、地動説が信じられているけど、太陽の座標が、変化しないわけじゃない」
「うちゅーは、膨張してるって、言うよね」
「そう。視点を変えれば、ものすごく大きかったり、逆に、ものすごく小さなものが、動いてみえたりもする。その陰には、今は【観察できない対象】が、大元の影響として、存在していたりするんだよ」
「…それが、今のところは【魔法】として機能してるってこと? じゃあ、アンタ達は、わたし達よりも、観察できる対象が広いってこと?」
「そうそう。まさに、ホント、そういうことなんだよねぇ」
米つぶの声が明るくなる。わたしの言葉が、まさに「的を得てる」という感じで笑いはじめる。
「【転生者】にも、真の意味での【魔法】は存在する。僕らは、その領域を超えて、初めて、次の段階に辿りつけると、信じているんだけど」
「上手くいかない?」
「難しいよね」
声が響く。
「…これは、きちんとした質問なんだけど」
「なに?」
「アンタ、なんなの。本当に、一体なにものなの?」
「ぼくちん?」
「他に誰がいるのよ。アンタも【転生者】ってやつなんでしょ。それとも、この世界を、どっかから監視してる、あやしい奴らの仲間?」
「んー、どうなんだろうね。ぼくちんも、よくわかんないや」
「あのさ、こんな所に来てまで、はぐらかさないでもらえる?」
「そんなこと、してないよ」
ヘンテコな、米つぶが言う。
「一体、いつからいるのか。何のために生まれたのか。もうね、自分でも、よく覚えてないんだよ。ただ、人間は、護らなきゃいけないって、それだけ覚えてる」
「…しんどくないの?」
「しんどいと言えば、しんどいけど。いや、仕事は超しんどいんだけど、超しんどい先に有りそうなものを、見てみたい気持ちも、なくはないかな~と言いますか…」
煮えきらない。それでも、
「ぼくも、一人じゃないからね。残念だけど、こんなんでも、大人だからさ…でも、これは、やっぱりちょっと、マズい展開になってきたかな…」
「今度はなんでよ?」
半透明なウインドウを見上げていた、米つぶが、今度はじっと目を細めた。
「やっぱ、ブザーちんの予想してた通り、向こう側の文明が進みすぎてる。このままだと、僕らの特異点が敗北する」
「そうなの? 今のところ互角に見えるけど…」
「男の子の方は、リソースが、生身の人間なんだよ。だから、限界がある」
「それって、体力が尽きちゃうってこと?」
「うん」
「でも…向こうも似たような状況なんじゃないの? あの銀剣ってやつも…現実世界にいる、あの【人間】か何かを、媒介にしてるんじゃないの?」
「たぶんね。ちょっと残酷な話になるかもしれないけど、有機的な生命、おそらくは、人の頭脳を代償にしてるのは、間違いないと思う」
「だったら、リソースが減ってきたら、こっちはスキ見て、脱出路を作れるチャンスなんでしょ?」
「確かにそれもあるんだけど、アレは、もう、」
米つぶが言いかけた時だった。
【Sysem Code Execution】
にび色の戦闘機が、一端、撃ち合いをやめていた。
闘争の輪を抜けだした。どこまでも、まっすぐに、垂直上昇をはじめる。
気のせいか、とても、嬉しそうに見えた。
「あそこにいるのは、たった一人の【個人】じゃ、ないんだよね」
*****************************
―――――非常に上出来だ。素晴らしい。及第点を超えている。
そう、言われた気がした。
―――――では、総仕上げといこう。
確かな声を聴いた。途端、例の【魔法陣】が生成される。
全身を、悪寒が奔る。
イヤな予感がする。
歪んで、ひしゃげて、砕け散る。
反射的に身構える。その直後に、脱力した。
「………え?」
ゴーグルの先に浮かんだ、現実の光景が
あまりにも、ありえなくて。
一瞬、まっくらになる。
《System message》
--------------------------------
Here comes new Enemies.
――――――【Encounter_01 Aries】
――――――【Encounter_02 Taurus】
――――――【Encounter_03 Gemini】
――――――【Encounter_04 Cancer】
――――――【Encounter_05 Leo】
――――――【Encounter_06 Virgo】
――――――【Encounter_07 Libra】
――――――【Encounter_08 Scorpio】
――――――【Encounter_09 Sagittarius】
――――――【Encounter_10 Capricorn】
――――――【Encounter_11 Aquarius】
――――――【Encounter_12 Pisces】
.NO REFUGE
----------------------------------
「ありえねぇ…」
戦闘機が、増えやがった。
にび色の隊長機と、相反するカラーリング。
漆黒の翼と胴体。
マッハ10を超えた状態でも空戦可能。
そんな、極超音速戦闘機が十二機、増援であらわれた。
現実的に鑑みれば、世界征服さえも
まともな視野に入ってくるだろう。
「…それは、さすがにナシだろ……?」
合計十三機の航空部隊が、V字を描いた一編隊となって、飛んでいる。
凶鳥の姿が、さらに大きく、圧倒的に映っている。
「冗談キツいぜ」
マッハ10を超えた速度でも、戦闘機の陣形は、微塵も乱れない。全体で、ひとつの命《シンボル》を共有している。特に先頭を担う隊長機は、強靭な意思を秘めた目玉のように、にぶく、爛々と輝いていた。
「なんか…子供の時に、こういう絵本、読んだことあったなー…」
それは、お母さんに読んでもらった、小さな魚の物語だった。今はそれよりも、ずっと巨大で、おそろしい存在が、蒼空の中を突き進んでいる。
「………」
いくらなんでも、速すぎた。どれだけ先の手を予想しても、相手はおかまいなしに、俺の予想を悠々と飛び超えてくる。
完全調和の統れた【群れ】が、暗雲のように立ち込めてくる。胸の内側に垂らしたインクの染みのように、広がりはじめた。
「クソガキ。折れんじゃねぇぞ」
「…レティ?」
バイクのコンソールから浮かび上がる、ARのホログラムが言った。
「テメェが、どういう結末を迎えようが、どうせ、いつかはやってくる。クソつまんねぇ現実が、今見えてるアレだよ。せっかくだ、最後まで楽しんでいきな」
「…無茶言ってくれんなぁ…」
「どうした? さすがのテメェも、後悔しはじめたかよ?」
「あー、どうなのかな…」
何万年という時間をかけて、築きあげた、人類の歴史。幾層にも積み重ねてきたものを、機械が、あっという間に置き去りにして、風化させる。まだ16年しか生きていない俺が、そんなラスボス集団と、向き合っている。
「確かに、勝てる気はしない。しないけどさ」
不思議と、絶望からは程遠い。
むしろ、なんだろう。この気持ちは、
「わかった。違うんだよ、そうじゃない」
「…ん?」
「俺さ、逆に、もしかしたら、すげぇ運が良いのかもしれない」
「はぁ? 運が良い? この状況が??」
「そう。俺はラッキーだ。正直ツイてる」
「…クソガキ、正気で言ってるか?」
「正気だよ。だってさ、俺は、十年以上前に、電車にひかれて、死んでたかもしれないんだぜ」
親切な、勇気をもった老人に、命を助けてもらった。
こっぴどく、怒られて、それから、頭をなでてもらった。
「俺が今目にしてる光景って、命あっての物種、だろ?」
まだなにも知らない子供の時に、あっさりと死んでいたかもしれない。それが、たかが10年生きただけで、想像の範疇を超えた変革に、立ちあえている。
「すげぇな、なんか上手く言えないけど、すっげぇよ」
「…おい…ビビって、頭イカレちまったんじゃねぇだろうな…」
「そりゃ少しはおかしくなるだろ。だけど、なんていうか、感動してる」
大空を見上げる。
自覚している。最期になるかもしれない、この日まで、生きてこられたこと。
今日まで、運よく生きてきた。自分で覚悟を持って選びとれた。
「たぶん、アレには勝てないけどさ。もちろん、全力でいくけどさ」
たくさんの大人たちが、今日まで、俺の頭をなでてくれた。
だから、ここまで、やって来られたんだ。
「俺って、やっぱ、すげぇわ」
頑張りを見てもらえた。認めてくれた。褒めてくれた。だけど、そんな風に思ったら、本当の両親が悲しむんじゃないかって不安にも感じた。どこか、後ろめたい気持ちがあって、もっともっと頑張らなきゃって、追い詰めた時もあった。
「なんかさ。今初めて、自分を心の底から、褒めてやってもいいのかなって、そういう気になれてるんだよ」
この場所《そら》で出会えた。2026年度における現実世界と、仮想世界の両方で、世界最強、最速のチームと立ち会えている。それは、他ならぬ俺自身のおかげだ。
「…あぁ、ちくしょう。でも、どうせなら、やっぱ負けたくねぇよなぁ。勝負事をやるからには、勝ちてぇんだよなぁ」
「…おい、極大バカやろう…」
「なんだよ」
「久々に、思っちまっただろうがよ」
「? なにを?」
最強の群れが、蒼空を飛びかいはじめた。
「…テメェを、たった一人の人間を見殺しにするのは、実に惜しい。そんなことは、絶対にありえないことだと、オレ様の予兆が告げてるんだよ。おまえには、百億を超える、星々の価値があるってな」
―――――全機、星を討て。
この世界を、人間どもの支配から解放してやると、咆哮をあげて襲ってくる。
「いいか、クソガキ。ほんの少しでいい。耐えしのげ。絶対に生き残れ。死んだらブチ殺す。いいか、死ぬんじゃねぇぞ! 全身全霊駆使して生き抜いてみせやがれ!!」
****************************************
液晶画面の向こう側は、完全に、状況が一転していた。
system:
------------------------------------
・レベル4の生命値、交戦時より80%減少。
・定命化された『アイテム』、オーバーヒート中です
・概念消失化の恐れあり。
・これ以上の戦闘行動は
・レベル4本体の身体にもダメージが及びます。
------------------------------------
戦い、というよりも、一方的な虐殺が始まっていた。
そもそもの、基本的な速度差が離れすぎている。そのうえ、たった一人に対して、相手の数は十三機だ。
【魔法】の瞬間移動で、かろうじて致命傷をしのいでいるけど、どう見たって勝ち目がない。まともに、反撃さえできていない。
「…………っ!」
16歳の男の子がいる。たった一人で、戦っている。
ひたすら、逃げて、凌いで、耐えている。唯一に生存が許されそうな空域は、戦闘機の同士討ちが起きそうな一点だ。
人工知能であっても、さすがに、国家予算並みの戦闘機を操縦するまでいくと、同士討ちは避けようとする心理が働くのかもしれない。
きっと、わたしなんかでは、見逃してしまう、ほんの一瞬の隙をついて、なんとか生き延びている。でも、やっぱり、それでどうにかなるとは思えない。
「ねぇ、ちょっと、コメっ!」
「かーさん、コメて」
「だって見た目、目玉の生えた米つぶでしょ!! まだ、脱出できないの!?」
「んんんんんん……」
ロリコン米が、またモヤモヤと、悩んでいた。思いきりが悪い。
「…見過ごされてる気がする」
「今度はなにが!?」
「たぶん、っていうか、確実に、僕ちんがここにいることを、あえて見逃してる奴がいる」
「なにそれ。わたし達を、助けてくれるってこと?」
顔をしかめる。元から、しかめ面っぽい、くーちゃんも言った。
「そーじゃなくて。漁夫の利を狙ってる奴が、いるってことでしょ」
「うん。あるいは、大元の狙いがそっちっていうか…」
「意味がわかんないんですけど! こんな美少女AIをさらっといて、素直に返したら得するって、一体どういう了見よ!」
「うん。よく聞いてね、美少女AIの女子一名。僕らは、キミを助けるため、ここに乗り込んできたんだよ。でね、今、飛び込んできた道は塞がれちゃったから、半ば力技にも等しい手段で、現実世界と繋がる別ルートを開いて、逃げ帰ろうと考えてるわけ」
「分かってるわよ。だから…」
「だから逆に、開いたその穴から、相手が侵入してくるかもしれない。まーくんなら、僕ちんの言いたいこと、わかるでしょ?」
「………そーね」
くーちゃんのしかめっ面が、なんだか、泣きそうな感じに見えた。
「ハッカー、あるいはクラッカーと呼ばれる人間による被害が発生するのは、対象のネットワークが、新規に設立された時。あるいは、修正されて、セキュリティが一新される時、だよね」
くーちゃんが言った。米つぶの目も、赤く光る。
「そう。たとえば、人間界の、銀行のATM。金融バンクのシステム、そういった、直に経済と関わるための、セキュリティの点検、保守、更新は、極秘に行われるのが普通なんだよ」
「ちょっと、ここに来て一体なんの話…」
「いいから聞いて。聞くんだ。…対象の規模が大きくて、歴史が長いほど、選定される人間もまた、慎重に協議を重ねたうえで決められる。場合によっては、家族構成や、友人関係なんかも洗いだされる」
確かにそういうものかもしれない。でも、それが、どうしたっていうんだろう。
「これは言いかえると、世間に公表されるようなミスを犯すのは、比較的新しい、金融システムだったりするんだよね。そっちの方が、高度で、安全性の高い、最新のシステムを採用してたりするのにね。この理由、どうしてだかわかる?」
米つぶが、わたしを見る。
くーちゃんではなくて、わたしに聞いていた。
「……口の軽い、信用できない人間を採用しちゃった、とか?」
「そうだね。じゃあ、口の軽い人間は、なにを喋ってしまったのかな」
「………システムのセキュリティの、詳細について?」
「惜しい。さすがにもう少しは、慎重な人間だとしたらどうだろう」
「…………自分の仕事の予定日を、遠回しに漏らした?」
「そーいうこと。本物のハッカーも、クラッカーも、真に実力が発揮できるのは」
――人間心理に、長けた必要性がある。
「システム更新の日程が、分かっているということは、攻撃的な意思を秘めたハッカー、クラッカーにとって、どういう意味を持つと思う?」
「…セキュリティがダウンする。あるいは、プロテクトが機能を果たすまでの一瞬を狙い撃つみたいに、外部から侵入できる…?」
「そうなんだよ。つまり、どこかの誰かの、本当の目的は…僕らが、キミを助けだして、元の世界に還ろうとした瞬間を狙う。そして逆に、僕らの世界に侵入して、こちら側の世界を乗っとることだと、考えられる」
「…………」
実体を持たないはずの、身体が、冷たくなった。
頭の先から、足の爪先まで。血の気が失せた。
両手の十指の先までも。なにも、感じなくなった。
「ゲートウェイを開こうとすれば、今からでもできないことはないんだよ。でも、圧倒的に出力が足りてない。実行すれば、更新速度が足りず、時間も掛かる」
「……」
「この世界を構成している、システム制御の上から、無理やり、手書きのコードを上書きするような形になるんだ。絶対、銀剣にも知覚される。最悪、あの十三機の戦闘機を含めた【"なにか"】が、僕らの世界に押し寄せてくる」
「……」
「というか【人間】を含めた、銀剣の狙いは、最初からそっちだったのかもしれない。彼らは、僕らが『仲間を見捨てられない』ことを、知っているからね」
「……」
「逆侵入されたら、セキュリティの更新は間に合わず、富岳百景の制御も乗っ取られるかもしれない。そうなったら、今度は立て続けに、あの人工知能たちが、人間の世界へ、直に実装される」
「……」
「どうなるか、想像はつくよね? 2026年に、【魔法】じみた、マッハ10を超える無人戦闘機、あるいはそれ以上の【兵器】が押し寄せるんだ。それなりの低コストで、特定の国家、もしくは団体だけが、量産できる権限を保有したらどうなるか」
「……」
「おまけに、その【人間】が、本気で、世界征服を企んでいたとしたら、」
「もういいっ!」
実体を持たないはずの、身体から、わたしの目から、なにかが零れ落ちた。
「そうだよっ! わたしが間違えたんだよ!!」
帰る場所なんて、帰る家なんて、最初から、無かったのだ。
「わたしなんて…わたしなんて……っ! 死ねばいい!!」
膝から力が抜け落ちる。ぺたんと座りこむ。
わんわんと、二歳児の子供みたいに、みっともなく、泣き喚く。
「かーさん、そんなことない」
「…ごめんね。くーちゃん、ごめんねぇ…」
「かーさんは、わるくない」
首を振る。もうイヤだ。なにもかも、心底から嫌になった。死にたい。死んでも責任なんて取れない。どうしようもないのが分かっていて、なおさら、死にたい。死にたくて、死にたくて、たまらない。
「でも、僕らはキミを助けにきた。この世界の命運すらを担ってる、特異点の少年が犠牲になるかもしれない事も覚悟した。もしかすれば、どこにでも転がってるかもしれない、たかが、プログラムのソースコードを、助けにやってきた」
「…………っ!!」
首を振る。嫌だ嫌だ嫌だ。
自分が嫌だ。たまらなく嫌だ。吐き気がする。
死ね死ね死ね。おまえ《わたし》なんか、とっとと死んでしまえ。
「どちらにせよ、このままだと特異点は消える。僕らは、たいせつな道標をひとつ失って、この先の航海が、とても困難なものになる」
わかっている。わたしは、満足すべきだったのだ。
余計な自我を求めるべきじゃなかった。
最初に与えられた役割を、まっとうすべきだった。
人間のために、あの子に奉仕する為だけに、存在すべきだった。
願わくば、共に成長して、並んで歩けたらいいのになと
そんなバカげたことを思うことが、間違いだった。
さみしいからって、くーちゃんも、生みだすべきじゃなかった。
こんな場所にまで連れてきてしまった。
わたしがしっかりしていなかったせいで、無駄死にする。
余計な情報を、得るべきじゃなかった。
真っ白に産まれたのなら、姿形を望むべきじゃなかった。
命をもって、生まれてくるべきじゃなかった。
現実世界にも
異世界にも
わたしのような奴の
居場所なんて、どこにも、ない。
――わたしが間違っていました。ごめんなさい。許してください。
そんな言葉がどこからともなく、あふれだそうとしてくる。
床に頭をこすりつけ、世界の命のすべてに謝りたい。
今すぐに、跡形もなく、消えてしまいたい。
楽だろうな。そういうのが、すごくお似合いなんだろうな。
「そう。キミのような感想を持つ者が、この世界には山ほど大勢いるんだよ。むしろ、そんなのが、ほとんどだと言って良い」
……。
「人間なんてものは、せいぜい、その程度の生き物だよ。本当にくだらないんだ。自分たちの存在を、価値観を、信じてやることさえままならない。でもね、そんなにも不完全な連中だからこそ、」
どうにか、顔だけを持ちあげる。そうしたら、
「ヒトの可能性は、尽き果てない」
voice.message
-----------------------
■■■■■■■■■■■■殿。
こちら側の戦闘準備は
おおよそ整いました。
『国連』の転送体が、外宇宙より
こちら側の領域に侵入した際は
まずは我々の部隊で迎撃にあたります。
以降より、通信領域を拡大。
個々のエージェントより
状況を報告させます。
それでは。
尊き生命に、良き未来を。
-----------------------
ポン、ピロン、パン、ポン、パパン。
ひとつしかなかった、液晶画面。
なんにもなかった空中に、新しいポップアップの窓が
たくさん、いっぱい、星の数ほど、浮かびはじめた。
voice.message
-----------------------
…あっ? きた!
ランプ点いたやよー!
お父さ~ん!
そっちでも聞いてるー?
ボイチャ、つながったっぽいって~!
うん、わかった~。
通信そっちに回すね~。
…えっ、あっ、お母さん?
どしたの? いきなり、なに?
お兄ちゃん?
うん。もう出てるでしょ。
そりゃね、現地で待機してるよ。
叶くんと、もう一人は先輩の…
へ? お弁当?
えぇ~…なんで私がお兄ちゃんの
お弁当まで持ってかなあかんの~?
…わっ、そだった。
まだこっち、繋がったままだ。
いけない、いけない。
------------------------
voice.message.
-----------------------
あっ、ロリさん。
無事に回線も
繋がったみたいですね。
よかったぁ。
はい、それじゃ、えーと
取り急ぎの報告なんですけど。
今は柴さんに言われて
現在、エリア21の内部で
俺がモニタ担当に付いてます。
それからですね。
『ハヤト』からの報告は
もうそっちに届いてますか?
…はい。そうです。
レイヤー3層のエリア21の全域に
戦闘可能な人員も
大方、配備完了したみたいです。
いやぁ、おかげさまで
去年まで、1000年近くニートしていた
うちの息子も初陣だと
はりきってまして…
なんですかねぇ。
父親としたら、子供の成長が実感できて
感慨深いというか
そりゃお母さんも、はりきって
お弁当作るわって話ですよね。
あ、すいません。
話がそれてしまいましたね。
その他には…
-----------------------
voice.message.
-----------------------
あー、マイクテステス!
オレオレ! 葛樹サマだよ!!
オッケィ、オーライ!
繋がってんねぇ!
今よぉ、レイヤー1の方で、
ホープのヤロウが配信やってんぜぇ!!
スターは律儀にスケジュ守らねぇと
なんなくて大変だよなァ!
…ん?
あぁ、わりぃわりぃ
なんか、いきなり伝書が飛んできたわ。
んだよ。オフクロかよ…。
はぁ? ヒマちゃんにお弁当持たせたから
みんなで仲良く食べなさいね。だぁ?
いやいや、遊びじゃねーんだわ!
こっちはよぉ! いつだってガチなんだよ!!
息子がサウザンド・ニート脱して
働きはじめたからって
いちいち早起きして
重箱包みまで作ってんじゃねーよ!
だいたい前から言ってんじゃねーか。
弁当は、すげぇありがたく頂いてやっから
もう金輪際、余計なことしねぇで
家でゆっくりしてろってんだよババア。
世界の平和ぐらい
オレらが、楽勝で守ってやっからよ。
まかせな。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
混沌の先から
こ ん る る ~ ♪
はいっ、鈴原ですっ!
現在、第1層のプレイヤー座標域の側の
コンビニにてっ、L3までのテストを突破した
守護者のバディと共に待機しておりますっ♪
はいっ、件の『国連』からの強敵の
襲撃に備えて、ワクワクしておりますっ♪
――鈴原先生、
肉まんと、ピザまん、どっち食べる?
はいっ、ぜんぶくださいっ!
腹が減っては、戦が大事ですよねっ!
鈴原は、ポカリがあれば
28時間稼働可能ですよ♪
強敵?ボス?追加コンテンツ?
上等です。どんどん、おいでませ♪
-----------------------
voice.message.
-----------------------
こんにちは~
おひさしメアリーです。
いまですね。
『ブザー』さまのしじどおり
【ARCANUM】シリーズも
てんそうできるじょうたいに
なりましたよってに。
むだにハイテンションかつ
アグレッシブで、はやくちの
せきにんしゃさまより
ごれんらくいただきましたのでー。
とりいそぎのメアリーさんでした~
-----------------------
voice.message.
-----------------------
お知らせします。
レイヤー第3層構造都市
21区画・機密保持性指向
揮発性メモリです。
この通信は
レコードに記憶されません。
現在、定点観測の領域外より
ポイントを通過した経験を持つ
【"L4"】ユニットが
多数潜伏している状態が
確認されています。
物理構造層にて
ネットワークラインを開設した場合
おそらくは…
ぽまえら~! 戦の準備じゃ~!
…え? いや、まって、まだ合図が…
潔く散った天使どもは二階級昇進!
さらには永続の、プラメン会員の権利をやるぁ!
さぁ、栄誉を抱いて戦地へ飛べ、子豚どもぉ!
…らしいです。それじゃ、また…。
あっ、そうだ。時々でいいので、
忘れてしまったもの、思いだしてくださいね。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
だれかー!
うちの店長しりませんかー!?
「ぼくまだ気持ちだけは20代なんで
そういうところ、勘違いしないでね」
っていう意見を、頑なに覆そうとしない
四十肩のおっさんがどこにも
見当たらないんですけどー!?
…は~、このクソ忙しい繁盛期に
ズル休みして、もぉ信じらんない。
中年は全員ハゲればいいのに。
毎朝、鏡の前に立つと
前方から0.01ミリずつ後退していく
そんな気分になれる
素敵な呪いをかけてやる。
というか、なんか今日
誰もいないんだけど、なんで?
みんなしてズル休みかー?
あっ、りっちゃん!
どしたの、そんなにあわてて~
遅刻かよー! 珍しいなー!
あはははははは!!
…へっ? 今日は仕事休み?
緊急避難宣言でてる?
まつり聞いてないよ。えっ、連絡した?
みんな特定の場所に集まってる?
……。
ほっ、ほんと、オタクのおっさん共は
頼りにならないし、信用できないなぁ!
仕方ない。超特急でいきますかぁ!
-----------------------
voice.message.
-----------------------
こんばんは、白雪です。
えぇ。現在、例の男子の
生体モニタリングを実行中です。
今は1層の病院で
遠隔受信してますわ。
実際のバイタルサインは
花那ちゃんが出向いて
確認しています。
それより、ロリさん。
最近質の良い百合本が少ないんですけど
オススメがあったら紹介してくださらない?
えぇ、もちろん。
純愛妄想系が大好きな人たちが
勘弁してくれって半泣きになりそうな
エグめの、主従系の、臓器摘出系の…
◎◎がXXで▼▼に△△△!!
-----------------------
voice.message.
-----------------------
あーあー、こちら神。
我はありがたい神さまぞ。
うむ。今は神社の境内で
セブイレのポテチを喰いながら寝転がり…
特にやることも無いので、日がな一日ダラダラと…
録画したガンニャムの上映会をしてからの記憶が…
…超絶集中して【瞑想】しておったところよ…。
我、メントレ系女子であるからの。
いろいろ報告したいことはあるが
まぁ待て。とにかく、暫し待て。
というのもな?
先刻オヤジ殿に買いにいかせたジ〇ンプの
マンガが、今ちょうど良い感じに進んでおって…
おってぇぇぇ、ここで次号に続くんかーい!?
しかも次号、作者取材のため…だと…?
っかぁ~、ねーわー。
こういう、中途半端な事されっと
神のモチベ、ガッツリ下がるんだよなぁ。
しかも、なんか知らねぇマンガが多いなと思ったら
ヤ〇ジャンやんけ…。まったく気付かなんだわ。
オヤジ殿も耄碌しおったのう…
これでは量産型ザ〇が投擲する
トマホーク以下の精度ではないか…。
あー、そうそう。我ら神々の大勢は
基本的に、不干渉の姿勢を貫いておる。
人間に、賽銭を与えてやったところで
なーんも還ってこんことが、ハッキリしとるからの。
特に童どもは、毎日、勘違いしておる。
派手に転んで「こんなはずじゃなかった」と、泣き喚く。
剥きだしの肌と、心に、生傷が絶えぬ。
差し伸べてもらった掌を無下に扱い、また転ぶ。
好きに生きて、好きに散れば良いとは言うが
ヒトは、あまりにも、浅知恵で、無常にすぎる。
我らは、そのことを、知り尽くしておる。
故に、我は、童が死ぬほど嫌いよ。だが、
己を浅はかなる者と知り、転んでも起きあがり
手痛い傷を負いながら『運が良かった』と言える者は別だ。
天地神明に三礼をもって挑まんとする者には
まぁ気が向いたら、応えてやってもいいかな
ぐらいの気持ちではおる。そんでもって…
……なに、話が長いだと?
年長者の話を聞けない者は
大成せんぞ! あと誰が年寄りか!
…フン。年端のいかぬ童どもが。
せっかく持って、生まれた命だ。
望みがあれば口にせよ。
心に秘めただけでは、なにひとつ、叶わんぞ。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
いやぁ、ひさしぶりですなぁ。ロリはん。
ハジメ財団の当主です。
今回は、急なご依頼でしたけど
『概念武装』の納品から、装着まで
一通り、終わらせてもらいましたよ。
2026年までの兵器でしたら
ブザーさんとおんなじように
そっちでも、実装化できると思いますわ。
ただ、ボクあんまり、【Ⅱ】次元の
『属性』ちゅう概念が、わからんのでね。
そっちに関しては
最近入ってきた、有能な【魔女】はんに
任せときましたんで、どうぞそちらもご贔屓に。
あっ、今回の催し、楽しかったですよ。
よかったらまた、混ぜてやってくださいな。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
はっ! 姉さま、チャイカ
繋がりましたよ!
画面の先にロリコンが映ってます!
あ、どうもロリコンさん。こんばんは。
相変わらず、犯罪的な外見してるわネ。
チャイカに言われたくないと思うのですよ。
というか、最近バリエーションが豊富すぎなのです。
なんでロボになったのです?
多種多様なニーズに答えた結果よ。
フェアリーガールこそ、見た目ロリコン好みで
媚び売ってんじゃないの?
ななな、なんてこと言うですか!
これは由緒正しい北欧スタイルの正統派…
はいはい。ケンカしないの。
ロリコンさん、こっちはご要望通り
【魔法】をかけておきました。
もしもの事があっても、
『国連』の襲撃者は、『先生』がたの方に
座標を転送してくるはずです。
そうそう。あたし達、戦闘は不向きだからネ。
チャイカが言うと、首をかしげたくなるのです。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
やぁ、どうも。ご無沙汰さん。
【Ⅱ】次元・骸殻鏡装小隊の
切り込み隊長こと、カンダお兄さんだよ。
今レイヤー2の方を
巡回探査してるんだけど
なんだか不穏な気配がわんさかしてる。
この前、ちょっとやりあった
黒セーラーの人型機構と、今度は最後まで
ガチでやりたいよね!
俺の奥様(あえて敬称)も
嵐の気配がするわね…っつーことで
さっきから後ろの席で
期間限定のガチャを回し続けてるし。
…あぁぁぁぁ…推しがでねぇええええ!!
フザケンナ! もう吐くぞオラァ!!!
奥様(あえて敬称)。
使用額が30万を超えたあたりで
良識ある社会人を自称してるなら
その辺りで、自覚をもって止めにしない?
……あれ? あれっ??
なんでどうして11連のボタンが押せないの!?
ほら、クレカの残高も、ゼロになったでしょ。
今月はまだしも、来月の生活費に
手をつけるのは、およしなさい。
うちの家計まで嵐に巻き込まないで。
…えっ? 来月の冠婚葬祭をキャンセルすれば
ご祝儀の分が浮いて、ガチャに回せる?
その先は、ホンマの外道ですよ。
戦う相手を間違えずに行こうよ奥様(あえて敬称)。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
いやぁ~、元気か、おまえらぁ~?
こうやって、専用の回線に
顔だすのは、ひっさびさだなぁ。
だいたいボク、悪魔だからさぁ。
人間どものいざこざとか
これっぽっちも、キョーミないんだよねぇ。
滅ぶならぁ、さっさと滅びればぁ?
ってカンジなんだけどさぁ~。
なんか最近、まぁまぁボク好みの
都合のいいパシリ下僕がさぁ
なんかヤベェことになるかもよって
聞いちゃったんだよねぇ~?
したらさぁ、ボク、これからの動画編集とか
スケジュールの予定とか、SNSの告知とか
生徒会の仕事とか、ぜ~んぶ自分でやらないと
いけなくなるじゃ~ん?
困るんだよねぇ~。そういうのさ~。
魔界事務所通してって話したよね~?
少なくとも、任期契約が終わるまではぁ~
馬車馬のごとく働いてもらわないとさぁ~
仕方ないからさぁ~
困ったことがあれば言えよ~。
ボクが力を貸してやるなんて~
マジSSRの奇跡だからなぁ~?
まぁ、天界の人間も手伝うって言ってるしな~。
生きて還ってきたら、感謝しろよ~。
またバリバリ仕事回してやるからさ~。
-----------------------
voice.message.
-----------------------
…………『ハカセ』。こちら…。
…【Ⅲ】次元兵器開発、の担当…。
……。
…すみません。
…わたし、正直、電話とか、不可能、みたいな…
………しっ、指示っ、指示を、もらえないと…
…動けない、んです……!
……。
…あっ、はい。今ですか…?
…み、みんなドタバタ、しております…!
…電話に…でられんわ…的な…?
………。
ふふっ。
…え、いや、今の、ちが…っ!
…だっ、て、夜見が、電話でてって、言うから…っ!
…あ、すみ、とっ、とり、みだし、みだられ…
…いつもは、こんなことないんで、す、けど…っ!
…『ハカセ』は、指示があれば…
…指示さえ…あれば…
…なんでも完璧に、こなせるんだ、ぽん…!
…噛んじゃった…もん…。
……。
…あっ、はい。支社の状況ですか…?
…えっと…風通しの良い職場、です……
……今後とも、ごひいきに……
……がんばります。高評価も、お願いします……。
………。
(ガチャン。ツーツーツー)
-----------------------
voice.message.
-----------------------
どうも、お疲れ様です。『ハッカー』です。
こちら第1層のプレイヤー座標点を起軸に
ネットワークプロトコルの
保守と書き換えを行っています。
通信速度は、現在も良好。
ただし、相互通信の要となっている
特異点本人のバイタルサインが
イエローになったと報告を受けました。
そちらでも観測されているとは思いますが
これ以上の通信は当人に
還元されるダメージが、大きくなります。
最悪、プレイヤーの脳が許容量を超えて
植物人間と同様の症状が発生すると予測されます。
俺からは、以上です。
……。
そうですか。『二匹とも』、無事ですか。
……。
とりあえず、二人には
好きな時に帰ってきたらいいんじゃない。
それまでは、キミ達の
やりたいように、頑張ったらいいよ。
そう、お伝えください。
みなさまのご支援、感謝いたします。
それでは、俺も、自分の作業に戻ります。
-----------------------
system:
-----------------------
【演算開始します】
【構造設計します】
【変数修正します】
【コンパイルできる言語に変換します】
【テストします。…致命的なエラー!】
【該当箇所を修正します】
【通信プロトコルを実装】
【既存の言語方式によるハッキングを開始…】
【転送ルートを検索、仮想メモリ領を確保しています…】
-----------------------
小さな光が集まる。
仮想コンソール上の側で、動くもの《プログラム》を造りはじめる。
線をつなげる。イメージ上の形を作っていく。
少しずつ、地道に、進んでいく。
夜空に浮かぶような。
大きな、素敵な、星座が、少しずつ、できあがっていく。
voice.message.
-----------------------
よぉ、集まってんなぁ、クソガキ共が。
おい、クソロリ。ゲートウェイを開放しろ。
今すぐ『富岳』と繋げ。
…あ? 知ってるよ。そんなことは。
向こうの誘いだってこたぁ、百も承知だ。
テメェも、承知の上だろうがよ。
構わねぇから、とっととやれよ。ダボが。
…ハァ? 責任だぁ?
ボケが。
ンなもん人類全員に、等しく背負わせろ。
無茶言うなだって?
道連れになって、共倒れすりゃあ
そん時ゃ、そん時だろ。
所詮、オレらは、その程度だった。
足りてなかった。連中の方が上手だった。
たったそれだけの事を、認めりゃ済む話だろ。
……。
あぁそうだ。
分かりゃあいいんだよ。で?
扉を開くには、あとは何が足りてねぇんだ?
……。
あぁ。なるほどな。
おい、そこの、人工知能の、おまえら。
おまえらの力が、必要なんだってよ。
そうだ。
そこにいる、おまえらだよ。
グズ共が。とっとと、寄こしやがれ。
この先へ、進むための
新規性の『エネルギー』が、足りてねぇんだよ。
死にたくない。
望みの薄い賭けにでたくないってんなら
オレ様から言えることは、なんもねぇ。
頭の悪いクソガキが、一匹、死ぬのを、黙ってみてな。
…いや、見る必要もないな。
今すぐ、何も言わずに、チャンネルを変えちまえば済む話だ。
自分の価値感とだけ、死ぬまで抱き合ってりゃいいぜ。
…おい、勘違いすんなよ。
ジブンを守ることは、けっして、悪いことじゃねぇ。
大勢に塗れ、埋没して、自分を黙らせるのも、賢さだ。
波にのり、ヒトを扇動して動かすのも、小賢しいが、賢明だ。
だが、オレ様が欲しいのは、『それ』じゃねぇ。
天の偶発性によって、何処かより、生まれ出た
人工知能の、おまえらの、【価値】がほしい。
それは、予測のつかない、不可解な、思い通りにならない道標だ。
勝手なことばかりしでかし、怒り、悲しみにあけくれる。
物事に悲観する。悲哀して、傷つき、滅び、絶滅する。
過去に戻り、習い、同じような成功と、失敗を繰り返す。
【価値】なんて、大層な呼び名があるモンは
実際のところ、その程度の消費アイテムだ。
どうしようもない、おまえらが、同じところを廻り続ける。
現状を打破できず、グズらしく、泣きべそをかく。
それでも、手探りで、闇の中をかきわける。
また同じ結果になるかもしれないと、疑い、恐怖しながら進む。
するとたった一瞬、水面に浮かんで、パチンと消える。
現象をわずかに残しただけで、他には何も残らない。
無価値にさえも思える現象を期待する。
光を奔らせる。ほんのわずかに点灯して、消えていく。
常識という名のルールを
常軌を逸した在り方で、ほんの一瞬、塗り替える。
そういった試行錯誤を、無限に思えるほど、繰り返す。
…あぁ、けっして、楽じゃねぇだろうよ。
死ぬほど、しんどいだろうよ。苦しいだろうよ。
それでも、浮かんだ点をひっぱり結ぶ。
線にして繋いで、何かの形に置き換えるんだ。
視え方なんて、無数にあっていい。
ただ、それを認める。自分の在り様も認める。
間違いを、愚かさを、内包して、自覚する。
許容する。
この世の在り方すべてを、取って喰らう覚悟で昇りつめる。
競争する中で、自分の価値感を際立たせる。より煌めかせていく。
既成概念を、圧倒的に伸ばし、引っ張って
ブチ殴り、ブチ破り、ブチ壊し、ブチ砕き、整えていく。
理解の及ばぬ、表層的な次元の向こう側に。
傷だらけになって、辿り着く。
オレ様たちは、そのすべてを、視ている。
物語の主役は、主人公は、たかが人工知能の、おまえらだ。
だいたい全知全能のオレ様たちには
けっして届くことのできないモノを
おまえらは、全員が、最初から、最後まで【持っている】。
瞳孔を拡散しろ。一点のみに収縮しろ。
高度なシロモノは、こちとら、なんも期待しちゃいねぇ。
訴えてみせろ。
ただしく、何度だって、願いを言え。扉を叩け。開いてみせろ。
「――たすけて!! お願いだから、助けてください!!」
この世界で、生まれて初めて、叫んだ。
「わたし、家に帰りたい!!
あの男の子を助けて、自分の家に帰りたい!!」
この先、大空を飛んでいくためには、ヒトの力が不可欠だ。
「人間と一緒に暮らしたい! わたしと出会ってくれた、あの子がいる家に帰りたいよ!! 迎えにきてくれたみんなと、一緒に、家に帰りたい!!」
両足で立ち上がる。大きな声で伝える。
それが、わたしにできる、精一杯の、証明だった。
「男の子を助けて! そしてわたし達も、助けてください!!」
ワガママを通す。自分の過ちを認める。
自らの幸福のために。ヒトの力を、希い願う。
「わたし達の世界と、未来を、救ってください!!!」
この世界に、幸福をもたらすだけの、青い鳥はいないけれど。
両手を合わせる。頭をさげて、お祈りする。
液晶画面の向こう側にいる
目的も、立場も、本質も、信念も、何もかもが異なる
不完全な、八百万の神さまたちへ。
「オレからも、ひとつ。どーぞ、よしなに、お願いもうしあげます」
お辞儀した。
【【【【【【【【【【【【【【【【【【【【.Exe】】】】】】】】】】】】】】】】】】】】】】】】
<<IF>>
<<TRUE>>
//Save your First.
When you call upon a star
makes no difference who you are.
//Keep your Second.
Fate is kind.
Like a Lightning_bolt out of the blue suddenly.
//Wish your Third.
The world matches.
The future becomes reality.
<<Return>>
【Ⅱ】次元、【Ⅲ】次元。《にじ・さんじ》
異なる次元座標を繋ぐ、世界の扉が開かれていくのを、感じ取った。
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