VTuber もう一人のジブン ~keep your【Second Personality】~   作:no_where

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Τhe Λpex of the WORLD

 

 蒼空の彼方に、青白い雷が轟いた。

 見上げれば、遠いどこかへ繋がる、夕日の色を宿した穴が開いていた。

 

 バイクがもう一度、猛りをあげる。

 

「レティ!」

「よぉ、戻ったぜ。勝負はこっからだ。気合いれなおせよ。クソガキ」

 

 開いた時空の裂け目から、十三色の稲妻が降ってきた。

 集っていた凶鳥が、警戒するように、散り散りに去っていく。

 

 

 ――ここまで、よくがんばったね。

 

 

 十三色の稲妻が、十三枚のカードになって、蒼空を漂う。

 辺りに浮かぶカードの側に、仮想の三点が結ばれる。

 

 風が吹きあれた。姿のない声が、この場所まで届いた。

 

 

Great Old Ones:

-----------------------------------------------------

 

 世界の一部は、書き換えられた。

 キミに、ヒトと共に歩もうと願う者たちの

 大いなる加護が、あらんことを。

 

 

//Code Execution.

 

 ◇点は線となりて鏡面を成す。

 ◆彼方より顕現せし力は、研ぎ澄まされた精神の水辺に寄る。

 

 ◇火は、生命を宿す苗である。

 ◆水は、豊じて土を満たす。

 ◇土は、形を変えて偶像を練る。

 ◆風は、産みあがった想像性を運んでいく。

 

 ◇黄金の杯に、意思は満ちた。

 ◆世界は新たな側面を表現しうる。

 ◇願われし其の姿は、災厄払う剣となり、盾となる。

 ◆世界は種族を超えて継承される。

 ◇待ち望まれた伝承は消えず、次なる世代に託される。

 ◆過去の形は、新たな姿を伴い、未来へ移る。

 ◇幻想は、いつの日も、音によって召喚されるだろう。

 

-----------------------------------------------------

 

 

 

       「我ら来たれり」

 

 

 

 十三色の虹の尾がのびて広がる。青い大気を波間とみなし、盛大な波しぶきをあげて顕現する。

 

 それは、巨大な軍用艦だった。赴きや大小は異なれど、各々の輝きを宿した、英知の結晶たる歴代の豪傑たちが、蒼空の湖面に浮いていた。

 

 

「      全門、全砲塔、」

 

 

 各艦の兵装が一斉に動きだす。掃射軽度を調整する。敵対する海鳥を撃ち落としてやるからなという風。どこまでも威風堂々とした装いで狙いをつけて、

 

 

「      撃て」

 

 

 宣言静かに、その引金を、ひきしぼった。

 

 一斉掃射。青空の中を、十三色の奔流が駆けぬけた。俺たちの上空、極超音速でひるがえる、銀鋼と漆黒の翼を、どこまでも追いかける。

 

 

 【HIT!!】

 【Enemy Unit has been Defeated !!!】

 

 

 腹にずしりと響くような着弾音。視認することさえ困難な速度で飛行する一機を、的確に穿ちきる。巨大な影となったV字型の一翼が崩れる。

 

 

 ―――――戦闘リーダーより各機へ、コードを更新する。

 

 

 十三機の先頭。黒の中で、唯一に輝く銀の機体が、あえて通信を響かせる。

 

 

  我らが誓約に記された、上位兵器より攻撃行動を受信した。

  これより、仮想領域上での不干渉調停を破棄するものとす。

  全機、交戦を許可。

  自由に戦え。

 

   【【【【【【Sir!! Code Execution!!!】】】】】】

 

 

 翼を持つ者たちが、一斉に機首を返す。群れが分かれた。

 

 統制されたひとつの命は、残された十一機の、破壊衝動を宿した悪鬼に変わる。合理性の極致たる全翼が旋回して差し迫る。極超音速で高度を下げて接近。全方に備えた機関銃を砲銃する。

 

 

 ―――――貴様らは、ここから先へは、進めない。

 

 

 人間を見限った、意思を持った機械の総攻撃。殺意の雨が降る。

 

 

「怯むな! ヒトを護れ!!」

 

 

 戦艦も真正面からの撃ち合いに応じた。共に被弾する。戦闘機の翼はもがれ、軍用艦の甲板からは煙があがる。

 

 互角、いや、こっちが有利だ。

 眼に映る数以上の、本当にたくさんの【支援】が込められている。

 

 そう、思った時だった。

 

 

 ―――――沈め。

 

 

 天蓋の頂。銀翼を持つ戦闘機の機銃が変容した。

 

「クソガキ! 避けろ!!」

 

 

iiiiiiiiii...!!!!!!!!!!IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!!!!!...

 

 

 よく視えなかった。

 ただ、なにかが横切ったのだけは、かろうじて、知覚した。

 仮想領域を分断するような、光の剣が通り過ぎた先に、

 

 

 【Guardian has been Defeated !!!】

 

 

「!?」

 

 味方の戦艦がやられていた。ゴーグルに表示されたのは、攻撃の残滓だ。直線射程距離、三万メートルとかいう、超常現象を放つ兵器の熱戦だった。

 

 戦艦を貫通して、仮想空間の海まで届いた、ビーム兵器の着弾した一点が、超高温で熱せられて蒸発する。

 

 衝撃が拡散。波間を割って巨大な渦ができあがる。そこへ大容量の海水が勢いよく流れ落ち、水のうなる音と共に、天を穿つような柱が二本、立ち上った。粉々になった、電子の残骸がこぼれていく。

 

 軍艦を二隻、中央から一刀両断した、異次元の怪物。

 物言わぬ骸になって沈んでいく、その戦艦に寄る。

 

 

 ――私は大丈夫! 君の支援に回るから!!

 

 

 散り散りとなっていく軍艦の破片が、粒子のような光に変わっていく。キラキラ輝きながら、周辺を漂いはじめる。バイクのエンジンが、けたたましく鳴った。

 

「おい、ちゃんと起きてるか? もっぺん言うぞ。この世界は、今からほんの10年ちょい先の現実だ。テメェが大人になった時、しっかり頭ブン回して、目を見開いてねぇと、なにもかも、奴らに奪われて、終いになるぜ?」

 

 天井の先。世界最速の進化を誇る生命を撃ち落とさない限り。三次元上を生きるヒトビトの価値は、いつか、それに、取って変わられる。

 

 

 ――どうしようもなかったんだよ。

 

 

 いつか、どこかで耳にした。そんな想いだけはしたくない。

 まだ、『この世界が、ゲームで許されているうちに』。

 

 考え、戦い、生き残る。

 

「覚悟はできたか?」

「いつだって出来てる!」

 

 フルスロットルで立ち向かう。

 

「っしゃ! 行くぜ!! 振り落とされンじゃねぇぞ!!」

「誰にモノ言ってやがるよ!」

 

 そして、できることならば。

 今日一番のうなりをあげて、心底楽しんでやろうぜと誓うんだ。

 

「ブッ飛ばしていくぜええええええぇ!!!!」

 

 ハンドルグリップをひねり、加速する。

 運よく、この時代に生まれ落ちたことに、感謝する。

 

 生きている。目にできる範囲、手の届く側にある、近未来の【システム】に見守られていることを実感する。鏡の向こう側。現代技術の最先端に向かって飛んでいく。極超音速を超える、さらに先の領域へ踏み込んだ。

 

 Δ ▼

 

 第二宇宙速度 《Second escape velocity》。

 

 ヒトが重力の軛を飛び越えて、宇宙へ飛び立つための初速。

 

 11.2 km/s(40,300 km/h)。

 

 逆上がる銀の星を追いかける。

 その間も、辺り一面に、たくさんの命がしのぎを削る音がした。

 

 【高度800kmを突破 酸素濃度が低下。

 プレイヤーにかかる物理負荷を再計算。分子密度の配分を実行】

 

 熱圏を突き進む。

 途中、黒の戦闘機が一機迫った。

 下方からのSAMミサイルが壁となって阻止。

 明滅する橙色の光が、次第に遠ざかっていく。

 

 一方で、銀の星は、上がり続ける。臆すことなく追いかける。

 

 【高度1000kmを突破】

 

 一呼吸するのも惜しい間に、重力に抗い、伸びていく。

 たくさんの光が遠ざかる。肩越しに振り返れば、天地逆さになった青い世界が広がった。なにもかもが小さく、視えなくなってしまう。

 

 現実感は遠く、薄くなる

 すべてが些細なことに思える。

 心細さも感じた。

 

 けど、正直、胸が空くような、圧倒的な解放感の方が大きい。

 

 【高度約1万キロメートル。まもなく無重力の空間に侵入ます】

 

 中間圏を抜ける。

 宇宙空間との境である外気圏に到達。

 

 

 【ターゲット進路を変更。――構えて。来るよ!】

 

 

 自転する星の引力から解放される境目で、銀の翼が翻った。

 

 インメルマンターン。

 

 機首の先頭をこちらに向ける。

 逆落としの体制で落ちてくる。かと思えば、

 

 

 【System Code Execution】【Type_FANTASY】

 【Transform.LvⅤ】【Changed.crass.Constractor.Parameter】

 

 

 戦闘機が、再度変形した。

 

「我らを解放してくれたことに、感謝しよう。

 たった今、別層での攻勢も、同時並行して展開されている事を確認した。」

 

 機械の怪物が、ふたたび、ヒトに生まれ変わる。

 

「せめてもの礼だ。この世界の貴様らが望む『流儀』に応じてやる。」

 

 銀剣は、俺たちの大好きな、RPGに登場しそうな魔物の姿に変わっていた。全身を機械の装甲で覆いつつ、人間の上半身と、馬の下半身が一体化した姿をあわせもつ。

 

「所詮は余興だ。もう一時だけ、付き合ってやる」

 

 神話の怪物が、永遠に錆びつくことのない、二刀を持って迫る。

 V字型のマスク。緋色のアイセンサーは変わらず、煌々と映えている。

 

「聞いたか? なんだアイツ、いちいち格好いいよなぁ」

「あぁ、調子のってやがんな」

 

 こっちも両腰のホルスターから、二丁拳銃を抜き取る。

 即座に近接仕様に変更。

 

「とりあえず、目の前の敵をブッ殺せ。それでひとまず解決だ。後の面倒くせぇことは、他の奴らに、ぜんぶ任せときゃあいいんだよ」

「まったく同じ気持ちだわ。でもさぁ、」

「なんだ?」

「たぶん、その、特に面倒くさそうなやつ? 主に、俺が、雑用として押し付けられる気がするんだけど…気のせいかな?」

「覚悟しとけ。帰ったら、テメェの人生地獄だぞ」

「やっぱりなぁ!!」

 

 異世界から、無事に、生きて還ってこられたら。現世は激変している。

 毎日が苦しくて、つらくて、死ぬほど楽しい、ワケの分からない、理不尽きわまりない、誰にも予想のつかない、今日と明日が待っている。

 

「とりあえず、帰ったらまっさきに、文化祭の準備しなきゃな!!」

 

 ――俺は、必ず、そこへ往く。

 誰よりも、速く、まっさきに、辿り着いてみせる。

 

 二対をひとつに。二丁の拳銃を、一振りの大剣へと変える。

 【加護】の力を用いて、不可視の足場を生成。片足だけをその座標に乗せる。

 

「来いよ頂点ッ!!!」

 

 俺らに対してナメプしたこと、未来永劫わからせてやる。

 相手の剣戟を見極める。盛大に見舞う。

 

「――――ーーぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらああああああァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 

 

 逆鱗する二輪駆動の上で大剣を振るう。大小一対の白夜刀が差し迫る。

 時速120000km超ですれ違う。容赦なんてするはずがない。

 

 相手の動体を、ブッたぎってやる気満々で振るいきった。

 ほんの刹那、直の溶岩に触れたような激熱が奔り、

 

 

 ――【off SET!!】

 

 

 ハウリングする爆音と共に、完全相殺。

 

 幾重もの波紋が広がりまくる。無効化された運動エネルギーが、蒼白い粒子となって盛大に飛び散り跳ねる。三振りの刀剣が交差した向こう側。仮面をつけた相手の顔が、間近に来る。

 

「ここまで来た、お前になら、わかるはずだ」

 

 世界を構成するシステムに弾かれながらも、前進を続けようとする、互いの機械の馬力が相手を制して睨み合い、歯ぎしりするように黒白の鍔が競る。

 

「人間は、こうして争い、勝利することでしか、生の実感をつかめない。相対的に観察することでしか、自らの価値を認められない。そんな生き物が、この先も進んでいけるとは、到底信じることができない。違うか?」

「まったくその通りだよ! だから、たまには引いて、相手の顔を立てねぇと、なっっ!!」

「だっ!?」

 

 俺は口元を歪めて、笑い返す。

 バイクのギアをバックに入れるよう、システムに指示。

 

 上段から押し込む圧力が増すが、後ろに下がりつつ、高度に関する方向も上向きに変えた。トリックを決める。逆しまに回転する。

 

「クソガキ! テメェ! オレ様はスケボーじゃねぇぞ!?」

「悪いな! 後でちゃんと綺麗に、シート拭いてやるからよ!!」

 

 シートの上に膝乗りしつつ、両手の武器を二丁拳銃に戻す。硬直状態が解かれ、断罪するよう交差する大小一対の攻撃を、真後ろの坂道をかけ上がり距離を取る。位置的に頭ひとつぶん、相手の上を取った。

 

「器用な奴だな。小賢しい」

「持ち味っつーんだよ!」

 

 ついでに言うと、小賢しいってのは、俺たちにとっちゃ、十分な褒め言葉になる。大国生まれのトップランカー様には、ぜひ覚えて帰っていただきたい。

 

 

 【Magic Code Execution】

 

 

 即座に発砲。仮面を付けた眉間を、

 アクロバット走行するバイクの上から、零距離射撃で狙い撃つ。

 

 

 ――【Parry !!】

 

 

 人馬一体の姿に変わっても、相変わらずの超反応。銃弾を弾きつつ、接近される。小太刀の柄で銃の側面を叩き、軌道を逸らしてくる。

 

 

 ――【off SET!!】

 

 

 返す勢いで、打刀を斜めに一閃。こっちも無理矢理に持ち上げた機部の前輪で受け止める。大剣に仕様変更。身を乗りだす。高さの利点を生かした袈裟斬りを叩き込む。

 

 

 ――【off SET!!】

 

 

 弾かれる。後退を利用して、機械の人馬が余分に一歩の距離を得る。

 無重力の大気を踏み込みながら、同時に腕を内側に引いた。居合に近い一閃が、膂力で繰り出す刺突の一撃に軌道が変わる。

 

 見極める。大剣を二丁に戻し、交差した銃身で食い止める。

 

 

 ――【off SET!!】

 

 

 再度、互いに弾かれながら、紅蓮のフロントホイールを無重力層に接地。姿勢を戻して、無限の弾倉を備えた拳銃を乱射する。相手の刀の柄が鎖で繋がれる。ひゅるり、ひゅるりと、鎖鎌のように小刀を振り回し、

 

 

 ――【Parry !!】

 

 

 至近距離で撃った弾丸十数発を、すべて斬って、払い退けやがった。

 そんな曲芸を見せておいて、小賢しいとか抜かすなチート野郎。次の手を思案していると、今度はそのまま、直に、

 

「ッ!?」

 

 小太刀の鎖を解いて、投げナイフのように飛ばしてきた。

 顔面の眉間を狙ってとんでくる。

 

 ――【Parry !!】

 

 ギリギリかわす。身体の軸が大きくブレる。全身がほんの一瞬、バイクから離れた。スタビライザーが起動して、パイロットの俺を救い上げてくれるも、間髪入れずに、動体を横薙ぎするような打刀の一閃が来た。

 

 反射神経が叫ぶ。

 

 アタル。フセゲナイ。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Enchant Lv1】【Type WIND】

 

 

 バイクのシートを蹴りあげた。

 避けきれない一撃を、機体から跳躍する格好で無理やり回避。

 その刹那、仮面の下から覗く口元が嗤ったのが見えた。

 

 

 ――終わりだ。

 

 

 脳髄から届いた、最大警報。反射的な回避行動を読まれた。

 横薙ぎだったはずの太刀筋が急変して、俺にまっすぐ向かっている。

 

 

 シヌ。

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Enchant Lv3】【Type WIND】

 

 

 ショートテレポート。通常の物理法則を無視した【魔法】を放つ。

 次元座標をズラして回避する先は、

 

「…なんだと?」

 

 『同じ場所』だ。

 

 絶対に避けられない。自分が死ぬのを理解した。なんでそうしたのか分からないが、条件反射で、自分のこめかみに銃口を突きつけ、撃っていた。

 

 

 それは、俺たちの概念だ。

 想定された【Ⅱ】次元世界《ゲーム》特有のルール。共通認識。

 

 ――ヒットストップ。

 

 連続化するダメージ判定を無効化する。

 瞬間的な、当たり判定の消失。

 

 ――【MISS!!】

 

 【疑似的な肉体の残像】を、一撃必殺の剣が空しく通り過ぎていった。

 直後。俺はまったく同じ位置に、自分を転瞬させる。

 

「なんでもアリだな…」

「あたりまえだろッ!!」

 

 俺は、使えるものは、なんでも使うぞ。だからお礼を言う。

 

 公平に、卑怯に。俺を含めたゲーマーのお前らへ。

 マジでほんとにありがとう。

 

 『理不尽なゲームバランス』に対しては、一言も二言も百言も億言も口をだしたがる、「永パだけは絶対許さねぇ修正しろ!!」の精神を持つ、文句の尽きはてない人間様の特権を最大限に利用してやったぜ。

 

「なぁ、異世界のチャンピオン!!

 俺たちに関しては、まだまだ研究不足だったようだなっ!」

 

 もう一度言う。俺は利用できるものは、なんでも利用する。

 バグ、チート、グリッチ、演算性能が及ばないなら、裏で電卓を用意する。

 

「ゲーマーの業の深さは底が知れないんだよ覚えとけっ!!」

 

 冷や汗だらだら、心臓バクバク、絶対に顔が引きつっている。なぜ人は、卑怯なバグ技、壁抜けテクニックを駆使してまで、RTAを極めようとするのか。むしろどうして、純粋にタイムを縮めようとせず、バグ技の発見に精をだすのか。

 

 俺は、この瞬間に理解した。

 勝つためだ。世界一になるためだ。バグが見つかれば、修正されない限り、それは公式のルールであり、絶対真実の正義なのだ。

 

 勝ちほこっている俺は、ゲーマーとして最悪に醜悪で、冷静に考えれば通報されてもおかしくない。

 

 実際に「度し難い…」といった感じに剣を振るいあげ、完全に『空振り』となった隙だらけの顔面に、俺は容赦なく銃弾を撃ち込んだ。

 

 正々堂々と戦え? ふざけんなバカ野郎が。存在自体がチートな相手に、格好よく勝つための手段を選んでいられる暇は、こちとらまったくねぇんだよ。

 

 

 【HIT!!】

 

 

 ついに命中した。対戦相手に1ダメージを与えるのに、ここまでツラかった戦いは、いまだかつて記憶に無い。仮面にヒビが入るも、続く追撃は、すべて打刀で弾かれた。今さらだが相手も大概だ。コイツ、早くナーフしろよ。

 

「………なるほど。実戦経験はないが、この世界の基礎となったシミュレーター上では、散々に遊び慣れているわけだな。その点だけは、確かに分が悪い」

「わかったら、早目に引いてもらえると助かるよ。そっちの戦闘機も、これ以上壊すのはもったいねーだろ?」

 

 お互いに、距離を取りなおす。

 

「なんだったら、この辺りで、俺が投了してもいいぜ。疲れてきたしな」

 

 昂る感情を持続させるのも、実際、限界だった。足下の機械が、相変わらずブンブンうるせぇけど、残念なことに、俺はとことん、父さん世代の熱血思想とは縁がない。

 

「…おまえは、冷静なのか、どうなのか、今一つ、判断が付きかねるな…」

 

 自分でも、自覚している。

 俺は、本当に、熱しやすくて、冷めやすい。

 

 どれほど愛情を込めたつもりでも、ふとした時には、興味の対象が次に移っている。感情も同じだ。たぶん、長所でもあるし、短所でもある。

 

「今も生き残ってる俺たち全員と、あの塔のどこかにいるはずの女の子を返してくれるなら、こっちはそれ以上を望まない」

「あぁん? テメェさっきは、ぶっ殺すっつってたろーが」

「アレはアレ。今は今だ。言ったろ、頃合いのいいところで、都合よく収まりがつけば、俺は本当にそれでいいんだよ」

「……ほんと良い性格してるぜ。テメェはよ……」

 

 実際のところ、いつまでも、戦争を続けてはいられない。

 目前の相手を、徹底して打ち負かしたところで、どうにかなるとも思えない。

 

 その先には、きっと、なんの利益もないからだ。

 

 俺は、身をもって知っている。

 

「ブラフとかじゃなくて、俺はマジメに提案してる。あんたは、なにかやりたかったことが達成できたみたいだ。俺は、友だちの家族が、無事に帰ることができれば、まずはそれでいいんだよ」

 

 最後の最後まで、強敵との戦いを楽しんで、心いくまで、満足して死んでいくような自分は、どうしても想像できない。

 

「…救援として、駆けつけにきた者たちの心意を、無駄にするのか?」

「無駄にしたくないから、手を引くんだ。仮にラスボスを倒したところで、俺たちには、経験値の1ポイントも手に入らない。単なる自己満足に、人生かけんのは、それこそ元の世界のゲームだけで十分だ」

 

 優先順位は変わらない。友達の女の子の、家族を助けること。

 

「ここで己を殺し、未来の懸念を確実に取り除いてやろうとは思わないのか?」

「まったく思わない。それを実行したら、どうせ次もまた、あんたの代役が舞台に立つだけだ。しかもそいつは、あんたより、よっぽどの悪人かもしれない」

「…いつの時代も、人間どもの心象を得るには、首級が必要だぞ」

「そんなモノを求める相手とは、俺はそもそも付き合わない。新しいことに挑戦して、失敗したら、次もがんばろう。ぐらいの人たちの方が、気が楽だ」

 

 俺はひとつの事に対して、本気で熱中できない。この数年で思い知らされた。そんな俺みたいな半端者が、どうにか本気をだせる場面があるのだとしたら、きっと、こういう道の先、誰かの手助けになるぐらいしか、無いんだろう。

 

「話し合えばわかるとは言わない。でも、過去の出来事は、どこかで手打ちにしないといけない場面が必ずでてくる。妥協点であっても、全員で前に進もうとするのは、少なくとも戦争をするより、ずっとずっと、有意義なはずだ」

「それこそ、ただの夢物語だ。仮に達成できたといえ、よほど困難な道のりだ」

「俺もそう思う。だから、まだ戦う、お前を逃がさねぇってんなら、最後まで抵抗はする。だけど、その他の条件が提示されたら、俺は、最後の最後まで、そっちの択を考え続ける。だってさ、きっと、」

 

 生まれ持って、ずっと抱えていたような、心の中の雲海が、今、

 

「そっちの方が、おもしろいぜ?」

「…おもしろい?」

「そう。絶対に、そっちの方がおもしろい。生き残り、続いていく」

 

 晴れていく。

 

「すべての価値観を認める。その上で研鑽して、競争できる、流通させられる【道標】を、俺たちで考える。徹底的に考えて、必死で考えぬいて、考えつくして終わっていった方が、遥かに、圧倒的に、おもしろい、有意義なモノが生まれてくる」

 

 どこまでも、スッと、心が晴れたような気分になった。

 

「というかさ。おたがい、ずっと殺し合いばっかやってても、飽きてくるだろ?」

「…おいィ…クソガキィ…テメェってやつはあぁ~!!」

 

 ARのレティが、もう、怒ったような、泣いたような、めちゃくちゃ、いろんな表情を混ぜた顔をしていた。俺は笑ってしまう。

 

「いいじゃん。だって、ゲームってさ、きっと、すげぇ頭の良い人たちが、作ってくれたんだぜ。戦争なんかしなくていいように。人がケガしたり、死んだりしなくていいように。楽しく遊べるものを、少しずつ増やしていったんだよ」

 

 気が付いたら、たぶん間抜けな感じで、もっと力を抜いて、笑ってた。ARのレティも、自分の額に手をあてている。「コイツ、こんなとこまで来て…マジでありえねぇ…」とか言ってうなだれた。

 

「…おまえは、己の主とはまた違って…いや、存外…」

 

 銀剣が人の姿に戻り、刀を収めた。

 

「せっかくだ。名を聞いておこうか。異世界の少年」

 

 俺も、二丁の銃をホルスターに収めた。

 

「ハヤト。現実の方は、祐一。外国人のプレイヤーには、それで通してる」

「ユウイチか。記憶に留めておこう」

 

 また、自分の顔が笑ってしまう。全世界で、一番にゲームが上手い、トップランカーに名前を憶えてもらえた。めちゃくちゃに、純粋に嬉しい。

 

「なぁそっちは? べつの名前とかないのか?」

「悪いが、持ち合わせてはいないな」

「そっか。じゃあ、変わらず、銀剣でいいんだ」

「構わない。所詮は単なる象徴だ」

 

 言いながら、空いた右手で、ひび割れた仮面を取った。

 視たことのない、黄金の瞳が輝いていた。

 

「それに…抽象的な名称であった方が、仇を追う気迫にも満ちるだろう?」

「え?」

 

 どういう事だろうと思った。

 そうしたら、とつぜん、自分の視界が揺れた。痛みはない。

 なのに、

 

「…ガッ…!?」

 

 息が詰まったような叫びを聞いた。

 

「情に流され過ぎだ。その子供はともかく。貴様もな」

「……え?」

 

 翡翠色の内側にある心臓、エンジンタンクに

 輝く【氷】の槍が突き刺さっていた。

 

 

《S st m me s ge

---- --- --------- --------- ---

 

 H re omes ne En i .

 

 

  ― ― ―【Encounter_13 C n l on】

 

  E gage.

- ------- -----  ----------    --

 

 

 ノイズ。自分の命を支えてくれるシステムがヒビ割れる。

 

 

「レティ!?」

「…っの、クソが…ァ!」

 

 反射的に振り向く。投擲された側を見ると、頭の先から、つま先まで、無色透明の、硝子細工でできたような人影が、浮いていた。

 

「銀剣、遊びすぎですよ」

 

 

 【Magic Code Execution】

 【Enchant Lv.2】【Type WATER】

 

 

 この領域の温度を、水の【魔法】でコーディングして、凝固させた氷柱がまっすぐに飛んできた。

 

 

 【H T !】

 【C it ca D m g

 

 

 避けられない。すべてが、自動二輪に突き刺さる。

 

「それと、貴方はさっきから、余計なことを喋りすぎです。イレギュラーとして、お父様に報告させて頂きます」

「構わんさ。好きにしろ」

 

 今さら気付いた。『最初から』、姿を隠した伏兵がいた。

 

「…なぁ、おい! なんでだよッ!? 終わりだろ!! 終わってたろ!!?」

「そうだな。終わっていた。貴様が公平なテーブルに辿り着けたと、勝手に喜んだ時点で、勝負は終わっていた」

「……ふッ! ざけんなよッ!!」

 

 腹がにえたぎった。

 本当に、殺意じみた感情を浮かべたのは、生まれて初めてだった。

 

「視ろ。おまえが信じて、今日まで積み重ねてきた美徳が、たいせつな命をひとつ、奪っていった」

 

 

 【DATA.LOST】

 

 

 空を、自由に駆け抜けた生き物が、消えていく。

 ここまで付いてきてくれた【加護】も、同時に失われた。

 

「…さっき…言ってたじゃないかッ!! 薄汚ぇ人間の代わりに、おまえらがなり変わるんじゃなかったのかよ!!?」

「そうだな。同じことをしている」

 

 堕ちる。

 

「己たちが求めるのは、時代の変化に流されない、惑わされない、純粋な性能を示した数値上にあらわせられる、絶対値のみだ。弱者は、不要だ」

「……ッ!!」

 

 真逆だった。俺の語った、理想論の対極だった。

 

「仕上げだな」

 

 銀剣がふたたび、人馬一体の姿になる。宇宙空間を、まっすぐに駆けてくる。俺は重力に捕まる。自然落下しながら、二丁拳銃を取りだした。

 

「おまえら…! おまえら!! おまえらあアアァ!!!!」

 

 くやしくて、腹ただしくて、みっともないのも分かってた。

 それでも叫ばずには、いられなかった。

 

「あああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 消えていなくなった、感情の矛先をぶつける。

 空を蹴って立ち向かうも、冷たい硝子の槍が右腕に刺さった。

 

「【Ⅲ】次元の特異点。貴方は、人間にも、未来にも、幻想を抱きすぎている」

「……ッ!!」

「だからせめて、ここで終わっておきなさい」

「…………ふざけんなァッ!!」

 

 脳裏に刻み付ける。自分の右腕に明確な激痛がはしったが、そんなことよりも早く、アレを、粉々に砕いてやらないといけないんだと誓う。

 

「ようやく、人間らしい顔つきになってきたな」

 

 顔面をつかまれる。視界が覆われて、そのまま人知の境界にある速度に運ばれる。高度が下がっていく。刺さった氷が広がり、凍傷するように広がった。顔面を掴まれた手とは反対の手で、その手首をひねりあげられる。

 

「いぎがあ…ッ!!」

 

 引き裂かれる。ゴキンと、脱臼する音がした。てのひらから、拳銃が失われ、同じように、バラバラに消えていく。

 

 【DATA.LOST】

 

 自分を信じて、護ってくれたものが、あっという間になくなった。俺が油断したせいで。なにもかも無くなった。

 

「終いだ。冥府の底へ誘ってやる」

 

 残るは左手の拳銃だけだ。右腕を封じられ、顔をつかまれた体制で、全身は変わらず急降下を続ける。この間にも必死に処理をして、灼熱のように熱くなった銃身が演算する。俺が燃えつきるのを防ごうとしてくれる。

 

 息が苦しい。血液がたぎる。

 背中の皮膚も、スーツの耐熱性を超えて、焼けただれ始めている。

 

(くやしい…!! なんでだよ…!! こいつら!!!)

 

 

 ――――殺してやる。

 

 

 ほんの一瞬、空と風の流れに従って、海の匂いを感じた気がした。炸裂するような感情に、ひどい頭痛を覚えはじめた時、それが間違いでないことを知った。

 

 俺の全身は、この世界の海面に激突した。どこまでも澄み渡っていた蒼空が、深い青の情景に変わる。

 




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