剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ   作:炎の剣製

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002話 始まりはお空の上…?なんでさ!

 

 

 

遠坂の宝石剣(試作品)により並行世界に飛ばされた俺とイリヤの視界が戻った最初の感情は確かに凄いという感動だった。

そして次に沸いてきた感情は、もし自分達にも素質があるのなら宝石剣を投影して一度もとの世界に戻って遠坂に真名開放でもなんでも喰らわしてやりたいという恨みだった。

え?なんでそんなことを思うかって? 当然だ。

なんせ今、俺とイリヤは月が輝く夜空のもと、地上から約100mくらいある上空にいるのだから。

しかも下を見たら見回すだけみてすべて森、森、森。かなり遠くに光が見えるくらいだ。

……俺の強化された目で見た限りでだが。

 

「あのっ…………うっかり娘め――――!!」

「こんなときにうっかりのスキルなんて発動させてんじゃないわよ――――! リンのバカァァァァ―――!!」

 

叫んでいる間にもどんどん俺とイリヤは地面へと落下していく。

 

「くっ! しかたがない。イリヤ、しっかり掴まっていろ!」

「うん!」

 

―――同調開始(トレース・オン)

 

とりあえず身体と衣服をすべて強化して自身の体に縛り付けていたイリヤの聖骸布を瞬時にして解き、また瞬時にしてイリヤを外敵から守るように覆って、真下に存在する落ちるのに邪魔になる木々は次々とイリヤを抱えていない右手に投影した干将で切り裂いていった。

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

「カカカ! さすがの神鳴流の剣士とてこれだけの数に囲まれてしまえば手出しができまい!」

「くっ!」

 

とある森の中、1人の肩くらいまでの髪を左に方結びをした容姿はまだ中学生くらいの少女……桜咲刹那は、鬼や鴉、狐といった面相をした人外である日本特有の妖怪に囲まれて焦りを必死に隠しながら次々と襲い掛かってくる異形の衆を切り伏せていた。

だが、やはり先ほどの一匹の鬼の発言どおり苦戦を強いられて八方塞りの状態にあり神鳴流の技を放つ隙すらも与えてもらえずに悪戦苦闘していた。

 

(……どうする? 三下のやつらが召喚したもの達と思い侮っていた。

このままでは遅かれ早かれやつらを潰しきる前にこちらが力尽きるのは目に見えている。

高畑先生はまだ合流できる距離にはいない……どうすればこの窮地を切り抜けられる…………ん? なんだ……上からすごい音が……)

 

私はその枝を何度もへし折るような音が聞こえてきて一瞬だけ上を見るとなんと人二人が降ってきていた。

 

「なっ!?」

 

そして二人のうちの赤い服装をした褐色の肌に白髪の男性の人が、一匹の鬼を踏み潰し、たちまち鬼は重力だけで押し潰され煙になって還されてしまった。

……その光景を見て私はなんて理不尽な、と潰されてしまった鬼に一瞬同情してしまった。

だが、気を持ち直していると先ほどの男性は銀髪の綺麗な女性の人を地面に降ろすと、

 

「女の子一人に対してこの物量は多勢に無勢……いささか反則気味だ。君、状況はわからないが倒してしまって構わないのなら加勢しようか?」

 

と、言ってきた。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

俺とイリヤはなんとか無事地面に降りようとしている寸前のこと、イリヤが「下から“下級な”幻想種の気配がする」と言ってきて、

 

「本当か、イリヤ?」

「ええ」

 

俺はあえてイリヤが微妙にそこだけ意識して言った“下級な”という単語には触れないことにした。

 

「……そうか。まったく遠坂のやつ、いきなりデンジャーな場所に飛ばしてくれるものだな」

「まったくね。後、一人だけ人間なのかよく分からないけど、とりあえず人の気配がするみたいよ? かなり苦戦をしているようね。それで、どうするの、シロウ?」

 

イリヤが俺にとっては当たり前のことを聞いてきたので、

 

「当然助けるさ!」

 

と、いったら「やっぱりね」とため息をつかれてしまった。

ま、もうイリヤも慣れているらしく反論はしないで変わりに、

 

「それじゃまずはその人間に戦っている理由を聞くのよ?」

「わかっているさ。ま、ちょうどいいクッション(?)があるからそいつには心の中で謝罪をしておこう」

 

考えがまとまった俺は一匹の幻想種に強化をかけた足で勢いのついたまま踏み潰した。

そして一人で戦っていた少女と、まわりすべての幻想種にも語りかけるように、

 

「女の子一人に対してこの物量は多勢に無勢……いささか反則気味だ。君、状況はわからないが倒してしまって構わないのなら加勢しようか?」

 

語りかけた少女はやはり、というべきか状況についてこれていないみたいで唖然としていたが俺の語りに反応したのか、

 

「え? あ、はい! このモノ達は関西呪術協会のものが送り込んできた刺客です。

それと倒してしまっても死なずに故郷に還るだけですから安心してください。それより、あなた達は……」

「それだけ分かれば十分だ。俺達のことについては終わったら話す。それでイリヤ、彼女を守っていてくれないか?」

「わかったわ、シロウ」

 

イリヤが結界魔術を発動するのを確認するとまわりの幻想種達が話しかけてきた。

 

「なんだ、兄ちゃん? いきなり現れて……一人でワシ達の相手をするというのか?」

「そのつもりだが? そちらになにか不都合でもあるというのかね?」

 

自然に返事を返してやった。当然皮肉も含んでだ。

 

「そんなことはねぇさ……召喚され役目を果たすのがワシ達の契約だからな。敵対するなら兄ちゃんでもそれ相応の覚悟をしてもらうぞ?」

「……ふ、そうか。ならばこちらも手加減無用といくとしよう。ああ、一つ言っておくが……そちらも最悪消滅する覚悟は持って挑んでくるがいい」

「言ったな小僧? 野郎ども、こいつにワシらの恐ろしさを死を持って刻んでやるぞい!」

 

そして幻想種の異形の衆は雄叫びを上げながら一気に士郎に飛び掛って言った。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

「あの! 加勢してやらなくてよろしいのですか!? あなたのお仲間なのでしょう?」

 

一人であの数を相手にするにはさすがに無理だろうと私は思い、パートナーらしきイリヤさんという名の女性に問いかけてみた。

真名のように遠距離からすべて撃ちぬき撃退させるというならば安心だろうが、今のあの人の行動は無謀と言ってもいい。

 

「問題ないわよ。あんな低級の幻想種ごとき、私が加勢したら逆にシロウの邪魔になるだけよ。見なさい?」

 

だが、イリヤさんは余裕の表情でそんなことを言っていた。逆に邪魔になる……?

イリヤさんの言うことを確かめる為にシロウと呼ばれる男性の方を見ると私はその動きにたちまち目を疑った。

ある鬼が二mはあるであろう金棒をその巨体な体で振り下ろしてきたが、いとも容易く右手の白い中華刀で受け流し左手の黒い亀甲紋様が描かれているもう片方の中華刀で切り伏せる。

または黒い中華刀を回転をかけながら左方向に投擲し遅れて白い中華刀も同じように右方向に投擲して、「なぜ武器を投擲するのだろう?」と思ったが、すぐにその意味がわかった。

その二刀はなんらかの効果で引き合う性質があるらしく次々と幻想種を切り裂いていき、

2本の中華刀がシロウさんのもとに戻ってくる前に仕掛けてきた幻想種は、いつの間にかシロウさんの手にあった先ほど投擲したものと同じ中華刀を握っていてそれに驚いたのか幻想種の動きが一瞬止まりその隙に切り裂かれてしまっていた。

そしてまた接近戦に持ち込み見た目殺傷能力は低そうな中華刀なのに簡単に敵の得物ごと切り裂いて還してしまっていた。

 

「すごい……」

 

私はその光景を見てまるで剣舞を見ているかのような感動を覚えた。

だけど一つ不思議な点があった。だから私はイリヤさんに疑問点を聞いてみた。

 

「すみません。あのシロウさんという方ですが、どこか戦い方に違和感があるのですが。

技術は確かに凄いですが失礼だとは思うのですが剣を嗜んでいる私から見ても一流とは思えないんです」

「そのことね。やっぱりわかる人にはわかるものね。それは当然のことよ。シロウには剣の才能なんてないんだから。せいぜい鍛えても二流止まり。

シロウ自身も「一流になれないなら二流を極限まで鍛えてやる」って自身で認めていたから。

だからあるのは今までの必死の修行と戦闘経験から瞬時に自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、活路を見出す“戦闘論理”、つまりその場その場で臨機応変に対応していくっていうのがシロウの戦闘スタイルなのよ」

 

……なるほど。イリヤさんの言っていることは確かに理にかなっている。

だがそれを差し引いてもあの戦闘力は凄まじいものがある。

手加減無用と言っていたがきっと実力の一部も出していなかったのだろう……。

殺気や闘気といったものもほとんど感じられなかったことですし、もしかしたら本気を出したら学園一の実力者である高畑先生とも互角の戦いができるのではないか?

いや、それ以前に才能が無いのだとしたらどれほどの血の滲む努力をしたらあれほどの力を得られるのだろうか?

私には、とうてい想像できない。

 

「終わったぞ」

 

私が考えに耽っていたときに、シロウさんは「終わった」と言った。

あれだけの数を? 私ですら苦戦を強いられたと言うのにシロウさんはものの数分で終わらせてしまった。

 

「ご苦労様、シロウ」

「ああ」

 

シロウさんは息切れもしないでこちらに戻ってきた。

すると突然、シロウさんが持っていた武器が幻想のごとく消え去った。

アーティファクト!? いや、でもそれならカードが出てくるはず……いったい何者なんだ?

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

《さて、厄介事はひとまず終わったからこの少女に色々聞きたいことは聞いておきたいがどうする、イリヤ?》

《そうね。ひとまずこちらの世界の状況を把握しなければいけないわ。トウコとリンの餞別があるけどいつまで持つか分からないことだしね》

《そうだな。じゃ取り敢えずまずはこの少女と……もう一人(・・・・)の人間と交渉といこうか》

《そうね》

 

イリヤとのレイラインでの会話を終了させてまずは状況説明と交渉をしようとしたが、うん、やっぱりそううまくいかないね。

やっぱりいきなり現れた俺達に対して警戒心を抱いているようだ。

どうしたものか? とりあえずは語りかけは大切だよな?

 

「さて、すまないが話をしたいのだがまずは警戒を解いてくれるとありがたい」

「……助けて頂いた事には感謝します。ですが、私はまだあなた達を信用したわけではありません。できれば投降してこの敷地に侵入した理由は聞かせてくれませんか?」

「やはりそうなるよな。できれば穏便に話を終わらせたいのだが……そうは思わないか? そこの木の陰で気配を消して俺達の様子を伺っているこの少女となにかしら関係があるらしい人物さん?」

 

とりあえず今いる人物は全員あぶりだしておく必要があるよな。

今の言葉で動揺したのが目に見えるようだ。

少女も今気づいたみたいで驚きの表情をしているようだった。

するとしばらくして一人の見た目三十歳くらいの眼鏡をかけている男性が木の陰から出てきた。

 

「いや~、完全に気配を消していたつもりなんだけどね」

 

男性はハハハと笑いながらこちらに歩いてくる。

一見軽そうに見えるが歩法に隙がない。

そしてポケットに手を入れて油断を装っているがあれもなにかの仕様かなにかだろう。

相当の実力者のようだ。こちらも警戒はしたほうがいいだろう。

とりあえずすぐに戦闘できるように設計図は用意しとくか。

 

「高畑先生? いつからいらしたんですか?」

「ついさっきからだよ。加勢しようとしたら……」

 

少女に高畑と名乗られたものはこちらを向いて、

 

「突然君達が現れて一掃してしまったのでね。出るタイミングを逃してしまったんだよ」

「余計なお世話でしたか?」

「そんな事はないよ。むしろ教え子を助けてくれたことには感謝しているんだよ。

それで折りいった話なんだけどね、君達の素性が分からない以上は拘束しなければいけないんでね。

僕としては助けてくれた恩人にそんなことはしたくないんだ。できればそちらの事情を聞かせていただけないかな?」

 

くっ……完全に後手に回ってしまったな。

イリヤの顔を窺うがどうやらイリヤもお手上げのようだ。

しかたがないか。

 

「……分かりました。事情は説明します。ですがまずはちゃんとした自己紹介をしてくださればこちらとしては助かるのですが」

「そうだね。でも……」

「分かっていますよ。俺の名は衛宮士郎。こんななりだが一応日本人で年は23だ」

「私はイリヤ。イリヤスフィール……いえ、衛宮イリヤよ。これでもシロウの一つ上の姉です」

 

《イリヤ、本名は名乗らないのか?》

《ええ、私はもうアインツベルンとは縁を切ってるし、それにもう異世界で名乗っても意味無いことだわ》

《そうか。イリヤがそれでいいなら俺も何も言わないよ》

《ありがとシロウ……》

 

「衛宮士郎君に衛宮イリヤ君か。わかったよ。それじゃ次はこちらの紹介をしようか。

僕の名前はタカミチ・T・高畑っていうんだ。

タカミチでかまわないよ。それと後別に敬語は使わなくて結構だ。

そして先ほども言ったけどこの子は僕の教え子の……」

「桜咲刹那です」

「了解した。ではさっそくなんだが、大変申し訳ないのだがここは日本のようだが地理的にどこなんだ?」

「「は?」」

 

 

それからというもの念入りに理由を聞かれたが俺達はできれば裏の世界に通じていてそしてなるべく偉い地位についている人に会わせてくれないか?

と相談したらさらに桜咲という少女は警戒を強めてしまった。

そりゃ当然の反応だが……なんでさ?

イリヤからもいきなりそれは早すぎよ? とダメだしをされてしまった。

それで絶対になにもしないと何度も説得してなんとか了承を得られた。

そして現在、夜間の電車に揺さぶられながら俺達は話をしていた。

 

 

「それにしても、本当に士郎君達はここがどんな場所か知らないのかい?」

「ああ。それについてはその人物に会うまで黙秘させていただけると助かる」

「本当ですか? もしその言葉が嘘だとしたら……」

 

なおも警戒を解いていない桜咲はどうしたものか?

するとイリヤが桜咲に、

 

「本当よ。でなけば先ほどシロウは低級の幻想種ともどもあなた達を本気で潰しにかかったでしょうね。

一応言っておくけどシロウはかなり強いわよ? なんでもありならきっとあなた達二人がかりで束になっても負けるかもね」

「イリヤ、あまり挑発的なことは言わないでくれ。余計警戒されたらこちらの立場がさらに危うくなる」

「あら、いいじゃない。本当に嘘はついていないんだから」

「だからさ……はぁ、すまないタカミチさん」

「別にかまわないよ。本当に嘘はついていないようだしね。それじゃ一応説明をしてあげようか。

今僕達が向かっているのは埼玉県の麻帆良学園という場所で小・中・高・大学までエスカレーター形式で、幅広くいろんな施設もたくさんあり別名学園都市とも言われているんだよ」

「……とりあえず凄い場所ということだけは分かったよ」

「今はそれだけで構わないよ。そして麻帆良学園の校長だが、会ったら紹介するとしよう」

「了解だ」

「それで刹那君はどうするんだい? もう仕事も終わったことだし寮に帰ってもかまわないよ?」

「いえ、お供します。まだ信用に足る人達なのか見切れていませんから」

「さすがにそこまで信用されないというのも堪えるものだな……」

「あ、いえ……そんなことはないのですが念の為です。気分を損ねたのなら謝罪します」

「いや別に構わない。疑われて当然の立場なのは俺もイリヤも承諾ずみだからな」

「すみません……」

「だからいいといっただろうに……」

「ふふふ、シロウが久しぶりに狼狽えているわ。面白いわね?」

「ははは、まだ若いってところだろうねぇ。あ、そろそろ着くみたいだよ」

 

 

 




今回はここまでですね。なにかむず痒い。

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