剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ   作:炎の剣製

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003話 麻帆良の仙人

 

 

 

到着した場所はまだ夜中の為、暗くてまだ場所は把握できないが確かに広かった。

確かに学園都市という言葉にも頷ける。

しかし、それでも気になるものは気になってしまう。

なんだ……あの巨大な大樹は?

 

「なあタカミチさん、あの木はいったい何なんだ? 見た限りでは齢三百から四百はあると思うのだが」

「まるで御伽噺の世界樹よね」

 

イリヤと俺は冗談交じりにそんな話をしていたが、なにかおかしかったか?

普通なら笑い飛ばされるところだろう会話をなぜタカミチさんは神妙な顔をしているのか?

 

「一つ確認を。もしかしなくてもあの木は世界樹なんてことはありませんよね?」

「実はそのとおりなんだよ。まあ驚くのも仕方がないよね」

「驚きね。ほんとに実物をこの目で見るときがくるなんて。リンが見たらどんな反応見せるかしら? 見た限りあれ大聖杯の数十倍以上の力を秘めているわ」

「なに!? それじゃあの木は神秘の塊っていうのかイリヤ?」

「そうね。そこのところの詳しい事情はやっぱりその学園長とあって聞くのが得策よ、シロウ」

「だな」

「話はまとまったかい? それじゃ行こうか」

 

タカミチさんが話の区切りがついたことを確認するように道を進んでいった。

それでまだどういった世界か把握はできてないがとりあえずはついていくことにした。

 

 

 

 

 

「ここが麻帆良学園の学園長室だよ。さっき連絡はしておいたからいると思うから入るとしようか」

「そうですね《じゃ、いくかイリヤ》」

《そうね。私達の世界の協会の連中みたいな人物ではないことをせつに祈るだけ》

 

そして意を決して俺達は中に入っていくとそこには……仙人がいた。

いや妖怪か? なんだ、あの頭は? まるで崑崙の仙人じゃないか。

 

「フォフォフォ、待っておったぞ。案内ご苦労じゃったなタカミチ君に刹那君。

それで君達が先ほどタカミチ君から報告があった衛宮士郎君と衛宮イリヤ君じゃな?

ワシの名は近衛近右衛門。私立麻帆良学園の理事長と、関東魔法協会の理事も兼任しておるものじゃ」

「関東魔法協会? 魔術ではないんですか……?」

 

何かが引っかかってつい聞いてみてしまった。

イリヤもさすがに驚いているようだ。

魔術ではなく魔法。これは一体?

 

「ふぉ? 魔術とな、君たちが使うものは魔法じゃないのかね……?」

「それは……」

「シロウ、どうやらここはまだ私も早計だとは思うけれど真実を話して納得してもらうしかないわ。かみ合わないんじゃ話も一向に進展しないわ」

「そうだな。だけどいいのか?」

「ええ。この世界では私達は異物かなにかに過ぎないんだから、だから早いうちに信用できる人物は確保しておいたほうが得策よ」

「なにやら込み入った話がそちらにあるようじゃな? できれば話してくれればこちらとしても君達を信用できることができるんじゃが、どうじゃろう?」

「そうですね。では話す前にいくつか約束を守っていただけませんか?」

「かまわんよ」

「そうですか。ではまず一つ目は自分達が使う魔術、こちらでは魔法ですね。その事をここにいるもの以外にはできるだけ秘密にしていただけると助かります」

「それはどうしてなんじゃ……?」

「その理由が二つ目になりますが自分とイリヤは、多次元世界―――……簡単に言えばいわゆる平行世界、もしくは異世界の人間だからです」

「え!?」

「なっ!?」

 

それで驚きの声をあげるタカミチさんと桜咲。

 

「む? それは本当のことなのかね?」

「はい。自分達は事情は話せませんが世界に居場所を無くして、自分達の世界に唯一存在する五つの魔法のうちの一つ『第二魔法である平行世界への移動』を限定的にですが使える師匠とも言える友人の助けでこの世界に飛ばされてきました」

「シロウ、そこまでしゃべる事はないんじゃないのかしら?」

「いや、できる限り信じてもらわなきゃいけないからな」

「そう」

「ごめん、イリヤ。また悲しそうな顔をさせてしまったな」

「ううん、気にしてないよ」

 

やっぱり女性のこんな顔は見ていたくないからなにかできないかと思ったがなにも思いつかなかったのでとりあえず頭を優しく撫でてやると幾分イリヤの表情が戻った。

 

「……そうじゃったんか。すまんのぅ、つらい話を聞いてしまって」

「こんな突拍子もない話を信じてくれるんですか……?」

「うむ。普通ならそんなほら話など信じないだろうしな。じゃが、儂とて今までいろいろな者の目を見てきたからじゃが、君達の目は嘘をついてないと確信を持ったからの」

 

こんな、まだ顔をあわせて数分の関係なのに受け入れてくれるのは嬉しいものだな。

つい涙腺が緩みそうになってしまった。

 

「ありがとうございます」

 

だからできるだけ感謝の気持ちを込めてその言葉を俺は言った。

するとタカミチさんと桜咲も事情を理解してくれたのか、

 

「疑ってすみませんでした、士郎さん」

「僕も謝るよ。すまなかったね。事情も知らず一方的に警戒してしまって」

「いえ、その気持ちだけで十分ですよ。それで話の続きをしたいんですがよろしいですか?」

「うむ。かまわんよ。今ならなんでも君たちの力になってやろうと思っているからのぅ」

「度々すみません。それでさっきの二つ目の理由ですが自分達が使う魔術はこの世界ではどうかはわかりませんが体系がまったく違うと思うんです」

「ふむ。確かにそうかもしれんな」

「それに加えイリヤはともかく自分の使う魔術ははっきり言って異端ですから口外は避けたいんですよ。

自分達の世界では魔術の存在を隠匿し『 』を目指す為に工房に篭って研究をしているものがほとんどです。

ですが根源に近づきすぎた者や異端の魔術師には封印指定というありがた迷惑な称号のレッテルを貼られてしまうんです」

「封印指定? いったいどういったものなんだい?」

「そうね。封印指定を受けた魔術師は捕まったが最後、一生幽閉されて最悪脳だけホルマリン漬けにされて研究の対象にされてしまうわ。

そしてもっとも最悪のケースは、封印指定魔術師や死徒といった吸血鬼やその死徒に噛まれて同じく死者と化した人間の皮を被った化け物を、神の名の下に狩る為だけの代行者という人間離れした集団に抹殺指定されて殺されてしまうわ」

 

イリヤが俺の変わりにタカミチさんに俺達の世界の真実を説明してくれた。

するとやはりというべきか学園長をはじめタカミチさんや桜咲の息を呑む声が聞こえてきた。

それで一つ分かったことはこの世界はそんなに厳しくはないのだろう。

 

「それでは士郎君はその封印指定とやらを受けておったんかの?」

「ええ。俺の魔術は本来ありえないものなんですよ」

「それは……先ほどの中華刀のことも含まれているんですか?」

 

そこで桜咲がそう聞いてきた。よく見ているな。

 

「ほう? よく分かったな、桜咲。俺の魔術は一点特化型で身体や物の強化、物質の解析、物質の変化、そして投影というものなんだ」

「他はなんとなくわかりますが投影とはなんですか?」

「投影というのは別名グラデーション・エア。

ランクは落ちるがものを本物と一寸違わず複製する能力のことだ。大抵効果は数分と持たないものだがね。

だから本来は一時的な触媒にしか使われない低ランクの魔術のことだ」

「私が試しにやってみるわね」

 

するとイリヤが一本のナイフを投影してあろうことか学園長に向かって投げた。

さすがにそれはまずいだろ、イリヤ?

 

「なっ!?」

 

当然桜咲は瞬時に学園長を守ろうと動こうとしたが、タカミチさんは桜咲の肩を掴んで平然としていた。

投げつけられた学園長も表情一つ崩すことなく椅子に座り込んだままだ。

そして当のナイフは学園長に当たる前に幻想のごとく崩れ去ってその姿を消した。

 

「えっ?」

 

突然消えたナイフに桜咲は唖然としていた。

 

「だから言ったでしょ? 魔力を少ししか込めてないからすぐに消えたけど全魔力を行使しても持って数十分がいいとこね?」

「なるほどのぅ。では士郎君が使うとそれはどう違うんじゃ?」

「今から見せますよ。桜咲、君の刀を見せてくれないか? 悪いようにはしない」

「あ、はいわかりました」

「では、やるとしようか」

 

俺はすぐさま魔術回路を開き桜咲の持つ刀の解析をするために俺の始動キーを紡ぐ。

 

「――投影開始(トレース・オン)

 

――創造の理念を鑑定

――基本となる骨子を想定

――構成された材質を複製

――制作に及ぶ技術を模倣

――成長に至る経験に共感

――蓄積された年月を再現

――全ての工程を凌駕して幻想を結び剣と成す。

 

「――投影完了(トレース・オフ)

 

そして俺の手には桜咲が持つ刀と寸分違わぬ刀が握られている。

 

「この刀の名は『夕凪』というのか。どうやらかなりの年期が入っているようだな。主に幻想種を滅ぼす為に年代を越え桜咲に受け継がれてきたのだろう」

「そんなっ!? それはまさしく夕凪! しかし名も教えていないというのに…それにどういったものかも見抜くなんて」

「持って見比べてみるがいい」

「は、はい……」

 

桜咲は恐る恐る『偽・夕凪』と自身の夕凪を見比べて、そして驚愕した。

 

「た、確かに……少し精度が落ちるようですがそれでも夕凪と同じ力を感じます」

「そう。これが俺の投影。作られた工程、技術、経験、年月を解析し幻想を現実のものとして、やはり1ランクは落ちるが物の経験に最大限共感すれば担い手には及ばないが動きを模倣することもできる。

担い手本人が持てば本物と違わず操ることが可能の代物だ」

「さらにシロウの投影の非常識さはさっきの私のナイフと違って、一度投影してしまえば壊れるか消そうと思わない限り“幻想は所詮幻想”という道理又は摂理に逆らって現実にいつまでも存在し続けるのよ」

 

「そう、こんなふうに―――

 

俺は指をパチンッと鳴らした。そして桜咲に渡した夕凪の贋作はたちまち幻想となって消え去った。

 

―――俺が消えろと思えば存在が気薄になって幻のように消滅する」

 

「すごいなぁ」

「はい」

「ふむ。確かにこれは異端な魔法…いや魔術じゃな」

「やっぱりこの世界でも異端ですか?」

「そうじゃな、確かにこのような魔法はこちらの世界にもあるかどうかの不確かなものじゃ、じゃが安心せい」

 

学園長は長い髭をいじりながらフォフォフォと笑い出し、

 

「確かにこの世界も異端を嫌うものはいるが大抵は大丈夫じゃろ。

それにじゃ、アポーツ……いわゆる物質引き寄せの魔法だとごまかして言わせておけば大丈夫じゃろ?

じゃが、当然こちらにも魔法の隠匿が存在しておる。

ばれれば本国に強制連行で移送されて数年オコジョ姿にされてしまう。じゃから一般人の前では目立つ行動は控えることじゃな」

「そこら辺は大丈夫よ。私が認識阻害の魔術を行使すれば大抵はばれないから」

「それに俺自身それは直に何度も味わってきましたから心の隅に留めときますよ。しかし、それにしてもこちらの世界は罰がずいぶんと優しいんですね」

「そうね、確かに生ぬるいわ。私達の世界じゃ会った瞬間即どちらかが死ぬか撤退するまで戦う羽目になっていたからね~…」

「ふむ。その考えは捨てておいたほうがいいの。もう君達は帰ることはできんのじゃろ?」

「そうですね」

「で、じゃ。これからどうするんじゃ?」

「どうする、とは?」

「戸籍とかのことじゃ。これからこの世界で生きていくにはさすがになにもないのじゃどうしようもないしのぅ」

 

確かにそうだ。あっちとは勝手が違うからどこになにがあるのかすらわかっていない。

そうなれば海外に行くにもそれなりに密入国も考えなければいけないしな。

働くにもやっぱり戸籍が必要だし、橙子さんや遠坂からもらったものだけじゃ数ヶ月と持たない。

……これはいきなりピンチ到来といったところか?

 

「ふむふむ、やっぱり悩んでいるようじゃな。それでワシからの提案なんじゃがここ麻帆良学園で教職と一緒に警備員をやってみるのはどうじゃ?」

「は?」

 

俺はそのことに反応できなかった。

だけどイリヤは考えがすぐついたらしく、

 

「それじゃ私達の戸籍を偽造していただけるのかしら? コノエモン?」

「確かに、って! イリヤ、学園長を名前で呼び捨てにするのは失礼だろ!?」

「いやかまわんよ。最近は誰もワシのことを名前で呼んでくれんからの。いつでもそう呼んで構わんぞ、イリヤ君」

「ありがとーコノエモン!」

 

………なんかもう親しげな関係を構築できそうだな。

そういえばイリヤは雷画じーさんの事をライガと呼び捨てにしていたしなぁ。

 

 

閑話休題

 

 

「それより教員って、自分は教員免許なんて持っていませんよ?」

「うむ、そのことなんじゃが、士郎君は英語は得意かの……?」

「英語ですか? 読み書きは大丈夫ですよ。それにこれでも世界をまわっていましたから大抵の言葉くらいは書きは無理ですが話すことならできますよ」

「ほう、それは心強いの」

「ですがそれならイリヤのほうが適任では? イリヤのほうが経験は豊富ですし」

「イリヤ君には刹那君達が暮らしておる女子寮の寮長をしてもらいたいんじゃ。

それと今、教員棟はいっぱいじゃから士郎君もイリヤ君と同じ部屋で一緒に寮長として暮らしてもらうことになるが、まぁ姉弟じゃから問題はないじゃろ。

士郎君は誠実そうじゃから問題は起こさんじゃろうしな」

「はぁ……?まぁ……」

「それでの、理由は明後日から刹那君のクラスにしょっちゅう海外に出張しているタカミチ君の代わりに一人の魔法使い見習いの先生がやってくるんじゃ。

その子は男の子でまわりが女の子だけじゃ不安じゃろうから士郎君には副担任として私生活の指導や魔法関連の補佐をしてもらいたいんじゃ」

「そうですか、それじゃ心細いですね。女子寮でしかもイリヤと同じ部屋でというのはかなり作為的なもの感じますが、わかりました、引き受けましょう」

「学園長? 私は初耳だったんですが?」

 

そこにどうやら事情を知らないらしかった桜咲が学園長を問い詰めていた。

 

「ふぉ? タカミチ君まだ伝えてなかったのかの?」

「すみません。うっかり忘れていましたよ」

 

タカミチさんはハハハと笑いながら答えていた。……意外に大物かもしれない。

 

「それでその方の名前はなんていうんですか?」

「ネギ・スプリングフィールド君というんじゃ。この世界には魔法使いを育てる学校があってのう、そこで卒業時に卒業証書に書いてある修行内容をこなすことになっておるんじゃが、修行内容が『日本で先生をやること』らしいのじゃ。

だから今年で数えて“十歳”じゃからいろいろと手助けを頼むぞ」

「はい。…………はい? 学園長、今なんと……?」

「ごめんなさい私もよく聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえるかしら、コノエモン?」

「私もです」

「じゃから十歳じゃと―――……」

「はい!?」

 

思わず大声を上げてしまった。イリヤと桜咲も同様のようだ。

 

「労働基準法違反ではないですか、さすがに?」

「そこは大丈夫じゃ、手回しはしてあるしの。それに彼自身学力は大学生クラスはある天才じゃからの」

 

なにやら犯罪チックな言葉が聞こえてきたがそれは戸籍を作ってもらう自分達も言えることなので反論はしないことにした。

 

「はぁ……わかりましたよ。ならばその任がんばって果たすとしましょうか」

「うむ。承諾してくれてうれしいぞい。それでは明日は前準備として衣服や食事関係など揃えてきたほうがいいじゃろ。これが前金じゃ」

 

学園長に封筒を渡されて中身を見ると中には諭吉さんが10枚ほど入っていた。

 

「って、こんなにいいんですか!? 言ってはなんですがまだ初対面に等しいんですよ!?」

「構わんよ。それは働きで返してくれれば構わんしの。それで刹那君、これもなにかの縁じゃ。明日は二人を案内してやってもらっても構わんかの?」

「はい、わかりました。それでは士郎さんにイリヤさん。明日になりましたら寮長室に迎えにいきますよ。あ、それと今日は寮までご案内します」

「すまんな、桜咲」

「ありがと、セツナ」

「いえ、助けてもらったお礼ですから気にしないでください」

 

 

 

──Interlude

 

 

 

……刹那君が士郎君達を連れて学園長室から出て行った後のこと、

 

 

「しかし、世界に居場所を無くしたとは……悲しいことじゃな」

「そうですね。まだあんなに若いというのにどれだけの修羅場を掻い潜ってきたんでしょうね? 想像することも難しいですね。できればいつまでも平和に過ごしてもらいたいですね」

「そうじゃな……だがそれは難しいじゃろう。イリヤ君と士郎君には内緒で小声で聞いた話なんじゃが、士郎君は正義の味方を目指していると聞いたんじゃ」

「それは……では彼は、もとの世界ではイリヤ君を守りながら一人世界と戦っていたということですか!?」

「そういう事になるんじゃろ。彼らの裏の世界の話でおおよそ見当はつくんじゃが、たった一人の立派な魔法使い(マギステル・マギ)……いや、立派な魔術使い(マギステル・マギ)だったんじゃろうな」

「世界は、不公平ですね。あんな真っ直ぐな青年に死に急ぐことをさせるなんて」

「そうじゃな。だからできる限り手助けをしてやろうと思うんじゃよ、ワシは」

「僕もその意見には同感ですよ」

 

 

 

ここにもとの世界では決して報われないであろう青年に対しての二人の決心がついたのだった。

 

 

 

Interlude out──

 




うーん……内容が若いな。

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