剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ   作:炎の剣製

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030話 修学旅行編 最終日 修学旅行の終わり

日差しが顔に当たり俺はゆっくりと目を開けた。

そこは昨日の湖の風景ではなく年季が入っている天井が見えた。

……俺は…生きているのか? 昨日の受けた傷は致死にも相当するものだった。

まぁ、俺の場合アヴァロンが自動修復してくれると思うからそう簡単に死なないと思うが…。

そこで、ある結論が浮かび上がった。

きっと、姉さんが俺の体内にあるアヴァロンに魔力を注ぐことによって今の俺は生きているのだと。

腹部にも今はもう痛みは感じられないからな。

同時に化け物じみた回復速度の光景をみんなに見られたわけだ。

…なにを、今更。そんなものを見られたからといって俺の信念は変わらない。

そう自身に納得させ起き上がったら予想斜め上の状況になっていた。

なぜか俺は大部屋の中心に寝かされており昨日の当事者は何名かいないが全員俺を囲むように雑魚寝をしている。…なんでさ?

俺の混乱をよそに姉さんがいち早く起きたのか俺のほうを見て泣き出しそうな顔になった。

俺は姉さんの泣き顔が一番苦手なのでどう落ち着かせるか思案―――……する間もなく姉さんに抱きつかれていた。

 

「よかった……シロウが起きてくれて。昨日傷が治ったのに一向に目を覚まさないからどうしようかと思ったんだから!」

「すまない…また悲しませてしまった」

「いいのよ……シロウが無事なら私はそれだけで…」

「ありがとう、姉さん。それより傷がないということはアヴァロンによる修復をしてみんなにも見られてしまったのだろう?」

 

姉さんは一回きょとんとした顔になったがすぐに違うと否定した。

では、どうやってあの傷を治したのだろうか? エヴァはまずありえないだろうし……不死だから。

他にも検索してみるがほとんどが使えないものばかり。ネギ君も癒す程度らしいからあれはさすがに無理。

 

「どう、やったんだ? アヴァロン以外に思いつく点が見つからないのだが……」

「それはコノカがシロウと仮契約(パクティオー)をしてコノカに眠っていた潜在能力を開花させたからよ」

「は……?」

 

少し、いやかなり状況がわからない。それじゃなにか? 俺はこのかとキスをしたことになるということか?

また混乱しているところで誰かが雑魚寝の中にいないことを確認した。

 

「そういえば姉さん。刹那はどうした? まさか本当にでていってしまったのか?」

「ああ。それならまだ外の庭にいるはずよ? エヴァ達もそこにいるわ」

「そうか。では顔出しだけでもしておこう」

「その様子だと引き止めるつもりはないの……?」

「いや。だが確認しておきたいことがあるから」

 

それで俺は着替えさせられていた寝巻き姿のまま部屋を出て行った。

後ろから「ちゃんと引き止めてあげるのよ?」と聞こえてきたが聞こえない振りをしておいた。

 

 

 

そして庭に出るとエヴァと話をしている刹那の姿がうつった。

 

「っ……士郎さん!」

「起きたか士郎」

「体調がよろしいようでよかったです、衛宮先生」

 

刹那は俺の顔を見た瞬間、泣き出しそうな顔になったが他二名はいつもどおりだった。

 

「刹那…やはりでていくのか?」

「はい。あの姿を見られたからには一族の掟ですから出て行かなければいけません」

「そうか」

「なんだ、士郎? 意外に冷たいんだな?」

「いや。ただ俺は知人や家族のような人たちの手を振り払ってまで姉さんとともに家を飛び出して色々なものを今まで失ってきたから刹那の気持ちはわからなくもない」

「なるほど。つまり“言う資格がない”というわけだな」

「そうともいうのだろうな。だがな刹那、これだけは言わせてもらう。お前はそれが本当に最善だと思っているのか?」

「しかたが、ないのです。掟は絶対なのですから……」

「なら……その掟どおりお前がここから立ち去ったとして残されたこのかはどうなるんだ?」

「っ!? それは…士郎さんに守っていただければ安心です」

「ああ……確かに守ってやれないことはない。だが命は守れても心までは守ることは俺でも不可能だ。このかはきっとお前がいなければ塞ぎこんでしまうかもしれない。……前に言ったな? これで三度目かもしれない。刹那、関係はまだやり直せる。俺と姉さんとは違い引き返すことは何度でもできるのだからそれを大事にしろ」

「士郎さん……ですが!」

 

刹那は今にも泣きそうになりながらも後ろを向き、走り出そうとした。

だが突如として俺たちがいる後ろの障子が思いきり開かれそこからこのかが刹那に向かって飛び出してきた。

 

「嫌や、せっちゃん! せっかく仲直りできたのにまた離れ離れになるやなんてウチもう嫌や!」

「お、お嬢様……!」

 

このかは刹那を行かせないようにぎゅっと力を両手にこめて押さえつけている。

だから俺は最後に一言、「刹那、その手を振り払うことができるか……?」と言ってあげた。

 

「……私は、ここにいてもよろしいのでしょうか?」

「それは刹那自身が決めることだ。このかの事を守ると誓ったのだろう? ならば中途半端に信念を捨てずにずっと抱えていろ。これ以上は俺はなにもいえないからな」

 

刹那は涙を流しながら「はい、はい……」と何度もお辞儀をしてきている。

後ろからなにやらニマニマと含みのある笑みを浮かべているエヴァがいるが今は無視をしておく。

それから他のみんなも飛び出してきてなんのわだかまりもない表情をした刹那とともに旅館へと帰っていった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

そして旅館に戻って、詠春さんとまた会う時間まで暇だったのでふと疑問があったことがあるのでロビーで今現在、茶々丸が買ってきたのだろう八橋をそれはとてもおいしそうに食べているエヴァに姉さんと一緒に聞いてみることにした。

 

「なぁ、エヴァ? 一つずっと気になっていたんだが登校地獄の呪いはどうしたんだ……? 今は見たところ解けているようだが……」

「ああ。お前には話してなかったな。今回の報酬として今頃はじじぃが私をこちらによこす為に呪いの精霊をだまし続ける用紙に5秒に一回は判子を押し続けているだろう」

「それは……今日も含まれているわけだな? ならば昨日からずっとなのか? 学園長、さすがに死ぬのではないだろうか?」

「大丈夫じゃないの、シロウ? コノエモン、あの頭からしてもう人間やめてそうな感じだし…」

「ありえていそうでそれはそれで怖いな…」

「それより私からも一ついいか?」

「なんだ、エヴァ? 昨日も言ったがそうやすやすと俺の秘密を教える気はないぞ?」

「ちっ…じゃ一つだけだ。あの時、ぼーやの石化を解いた歪な短剣はなんなんだ?」

「っ!?」

「む? やはりなにか後ろめたい事を隠しているな?」

 

まさか、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を使う光景まで見ていたのか? 言い訳が思いつかないぞ!?

姉さん、ヘルプ! 緊急事態だ! エマージェンシーだ!! 呪いが解けている今のエヴァでは力ずくで聞き出してきそうだ!!!

その意が伝わったのか姉さんは笑顔を浮かべた。…その笑みがギンノアクマ降臨の笑みでないことを切に願う。

 

「ねぇエヴァ? もしそれが呪いを解くものだったらどうする気なの?」

 

うおぉぉぉい!!? いきなり煽る発言は禁止だ、姉さん!!

 

「当然使わせてもらう。出さなければ力ずくでも出してもらう」

「そう。それじゃもしそうだったとして、もしネギがいっていたことが本当でナギさんが生きていて迎えにきてくれたらそのときはどうするの?」

「ぐっ!?」

「せっかくいつか解いてあげるっていってるのに、エヴァはそれを裏切っちゃうんだー?」

「そ、それは……! しかしだな!?」

「ナギさんへの想いはそんな安っぽいものだったのね~?」

「っ!!?」

 

……まさに決定打の一撃だった。そしてエヴァは負けたような悔しそうな顔をしながら、

 

「……わかった。私も永遠の命があるのだ。ナギが生きているというのならいつまでも待っていてやる。だが、それは今置いておいて呪いの解呪はあきらめるとしても本当かどうかだけは教えろ……」

「それは本当……?」

「私は貴様らよりも何十倍も生きているのだぞ? そのくらい耐える器量がなければ今頃は生きておらん」

「どうやら嘘じゃなさそうね? 一応いっておくけどシロウに強要するのだけはよしなさいよ?」

「あーあー、わかっている! だからさっさと教えろ!」

「と、いうわけよ。シロウ」

「さすが姉さんだな…まさかエヴァを説き伏せるとは。では教えていいんだな? できればこれはネギ君達には内密にお願いしたいところだが…」

「わかっている。ぼーやも私の呪いを解こうとしているのだから教えたら落ち込むだろうからな」

「わかってるじゃない! さすが真祖ね!」

「……なぜか貴様にそう言われても嬉しくもなんともないな…」

 

その気持ちはなんとなくわかるぞ、エヴァ。

とりあえず誰かに聞こえないように小声で、

 

「(では、教えよう。あの歪な短剣は神代の裏切りの魔女とまで言われたコルキスの皇女メディアを象徴する短剣、名を『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。すべての魔術…魔法ともいえるな? それらを完全に否定して破戒しリセットする宝具だ)」

「(なにぃぃぃぃいっ!!? 士郎、貴様そんなものまで出せるのか!?)」

「(ああ。今だから話せることなのだが前に一度そのことを教えてやろうとしたこともある)」

「(なぜ、言わなかった!?)」

「(いや、言おうとした瞬間ネギ君からナギさんが生きているという話が出て、それなら口出しは野暮だな、とその時は身を引いたんだ)」

「(修学旅行の少し前のあの時か!?)」

 

その瞬間、エヴァは今部屋でアスナ達と仮眠をとっていてこの場にはいないはずのネギ君に向かって殺気を飛ばしていた。あれは相当なものだろう。わかるものは何事かと振り向くぐらいの殺気を駄々漏らしているのだから…。

ちなみに気づいたものは偶然居合わせた龍宮、古菲、楓とまた昨日居合わせた三人だったとか。

とりあえず茶々丸と姉さんと一緒に三人でエヴァを羽交い絞めにした。だがあまりにも抵抗が凄かったので仕方なく俺はマグダラの聖骸布を投影してさらに強化の魔術を施してエヴァを完全とはいかずとも拘束して無力化に成功した。

後に楓に聞いた話だがその時の俺達の動きは物凄いものだったそうだ。

 

「…ぜぇ、はぁ…とりあえず、だ。もしナギさんが見つからなかったりネギ君でも無理だと判明したときは学園長の判断のもとで解いてやるから。いざというときの保険とでも思っておいてくれ…」

「むー、むー…!」

 

口まで拘束されながらもエヴァは、それはもう嬉しそうに頷いていたのがとても印象に残った。

そしてもう暴れないのを確認した後、マグダラを解いてやると、

 

「はっはっは! そのときはよろしく頼むぞ、士郎。しかし……本当にお前は人間なのか?」

「今のところはまだ人間のつもりだ」

「今のところは、か……それは昨日の傷の修復の早さも関係しているのか? 近衛木乃香の膨大な魔力とアーティファクトの力でもあんなすぐに傷口が塞がるわけでもなし。それになにやら私には傷口を塞ぐときに剣同士が擦れあうようにも見えたぞ?」

「え、そんなものまで見えていたの……?」

「ああ。私以外は気づかなかったみたいだが生憎と私は耳がいいほうなんでな。キィキィとやかましかったぞ」

「さすがにそこまでは秘密だ。破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を話した時点でもう意味ないような気がするが時が来るまで俺と姉さんの体の秘密は隠しておきたい」

「わかった。今回はその宝具の存在だけでも聞けて私は今えらく寛大だ。詮索はもうなしにしよう。さて、ではさっさとぼーや達を起こして時間まで京都巡りへと赴くぞ!」

 

ハイテンション吸血鬼はそのままネギ君達のいる部屋まで走っていった。

…しかし本当にテンション高いな。

そんなことを思っているとエヴァの殺気に気づいてこちらを傍観していた三人のうち古菲がなにか包みを持って近寄ってきた。

 

「士郎老師!」

「その呼び方は……はぁ、もう突っ込むのも疲れたからそれでもいい。で? どうした古菲…?」

「昨日貸してくれたこの干将莫耶アルが返そうと思って来たアルよ」

「ああ…そういえば昨日渡したんだったな」

「もう最高だったアル! 切れ味もさることながら使えただけでも感激アルよ! それとあの鬼や狐、鴉の人達から伝言アルが『お前となら何度でも戦ってもいいぜ』らしいアルよ?」

「そ、そうか…」

「シロウって本当に変な奴らに好かれるわね?」

「それはもういい。それより古菲、そんなに感動したのなら持っていても構わんぞ?」

「いいアルか!?」

「ああ。ちなみにセットで対魔力と対物理が向上するから持っているだけでも効果があるから覚えておいて損はないぞ」

「はいアル!」

 

 

 

 

 

 

古菲とわかれた俺と姉さんは少し遅れてネギ君達がいる部屋へと向かうとそこはすでに死屍累々…いやいや、エヴァによって叩き起こされてだるそうな面々がいた。

それから午前中はエヴァの観光巡りを存分につき合わされた。確か、以前に「修学旅行? はっ、そんなだるい行事に参加することも…」とか抜かしていたのは誰だったかと言いそうになったが後が怖いので言うことを止めた。

しばらくして詠春さんと合流してナギさんの別荘だという場所に案内された。

前を歩く一同をよそに俺達はあれから首謀者達はどうなったかなど大人の会話をしていた。

 

「スクナの件ですが、消滅したことが確認されました…」

「うむ、ご苦労。近衛詠春。面倒を押しつけて悪いな」

「いえ、ですが…ネギ君達の話を聞いても正直理解が難しかったのですが本当にどうやって封印するしかなかったあのスクナを消滅させることができたのですか?」

「それは…詠春さんは学園長から俺は投影の魔術師だということは聞いていますか?」

「はい。なんでも元ですが私の夕凪も投影したとか聞きましたから…」

「はぁ…まったくコノエモンはこれ以上シロウの秘密を他人に話さないでほしいわね」

 

だが、そこでエヴァが驚きの声を上げた。

 

「…投影? なに? それではあの魔槍ゲイボルグもその他今までお前が出してきた武具もすべて一の魔力から作り上げたというのかお前は!?」

「まぁ隠してもしかたがない。学園長やタカミチさん、刹那には話したが俺は解析の魔術で一度見たものはある場所に登録できて何度も複製できる能力を持っている」

「それで、お前は宝具級のものも投影できるというのか!? いくらなんでもでたらめすぎるぞ!」

「ははっ、お前に似た俺の師匠にもよく言われたよ。まぁその話は置いておいてそれでスクナはゲイボルグに秘められている心臓は絶対に外さないという概念武装…つまりそれで魂魄レベルまで心臓を破壊してやったから消滅したわけだ」

「まさか、それほどとは…お義父さんにもそんな話は聞いていませんでしたよ」

「当然ですよ。今初めて他人に話したのですから。宝具投影と真名開放の件は…」

「話したらまたシロウの能力目当てに追っ手が出されるかわからないからね。後でコノエモンにはもう誰にも話さないように地獄を見せておくわ」

 

追われるという単語にエヴァや詠春さんは一瞬ピクッと眉を動かせたが俺は気にしていませんからとここで話は終わりにした。

エヴァは「では、お前も…」という、かすれるような呟きが聞こえてきたがその続きは聞こえてこなかった。

…だから、俺も何も聞かなかったことにした。

 

「それで、今回事件に関わったもの達はどうなりましたか?」

「犬上小太郎の件についてはネギ君にはもう話しましたがそれほど重くはないですがなにかしら処罰は与えられるでしょう……」

 

天ヶ崎千草と月詠の件についてはこちらで処理させておきますと言われたので相槌を打っておいた。

そして別荘のある場所に着くとそこには天文台があった。木が生い茂ってほとんど隠れがいった感じになっているがそれでも中に入らせてもらったらそこには清潔感溢れる空間が広がっていた。

本もたくさん保管されていてよく見れば魔力がこもっている魔道書もいくつか伺える。

それから自由時間となりネギ君達は各自自由に別荘の中を探検中だ。

俺と姉さんはとくにやることもないので詠春さんとともに話をしながら歩いていた。

手ごろのテーブルに座ると、

 

「…ところで、あなた方の元の世界と、こちらの世界を比べて見ましてどう感じましたか?」

「突然ですね……?」

「ええ……」

「大丈夫です。認識阻害の術は張っておりますのでエヴァンジェリンもそうやすやすとは気づかないでしょう」

「そうですか。なら、そうですね……しいていうならこちらの世界はとても優しいと感じました」

「優しい、とは……?」

「学園長が詠春さんにどこまで話しているのかはわかりませんが……学園長をはじめネギ君や刹那、タカミチさん。みな俺の魔術の異常性を知ってもなお俺と姉さんに居場所を作ってくれる。

だが、もとの世界では俺の魔術は異端の扱いを受け、いつかは知らないが魔術協会という魔術師の総本山である時計塔の者に知られてしまい魔術師にとって最高級の名誉であると同時に厄介事でもある封印指定という称号をかけられてしまった」

「封印指定、とは一体どういう意味なんですか?」

「私が説明するわ。封印指定っていうのはこちらではとても正気とは思えないでしょうけど、稀少な能力を持った魔術師…ただの魔術も知らない人間でも構わない。その人達を保護という名目で拘束・拿捕してサンプルとして一生幽閉し、最悪の場合脳と魔術師の体に流れる魔術回路や一族に代々伝えられる魔術刻印と呼ばれるものさえ残ればいいという考えの下、魔術協会の魔術師や聖堂教会という場所から代行者と呼ばれる執行者が派遣され抹殺指定までされてしまう厄介なものよ」

「そんな非人道的な組織が、そちらの世界にはあるというのですか!?」

「…ええ。こちらは人々の幸せのために魔法を使うというけど、こちらでは非人道的と言われても構わない、研究さえできればいいという考えを持った奴らが大半を占めているから人助けなんて本当に二の次の世界ね。だからシロウと私は追われたわ…」

 

そこで姉さんはとても悲しそうな表情になり俺は姉さんを落ち着かせるために手を握ってやった。

それで姉さんも少しは和らいだようで話を進めよとしたとき、第三者の声が聞こえてきた。その声はエヴァだった。

 

「…なるほど。これでお前達の足取りが掴めなかった理由がわかった。まさか異世界から来たとはさすがに私も思いつかなかったぞ」

「エヴァンジェリン…この件については…」

「安心しろ、近衛詠春。私はじじぃと違い口は軽くないから話す気はない。それに士郎にはいずれ大きな借りができてしまうのだから尚更だ。しかし、確かにお前達の世界はどう非人道的であれ魔術を保管、管理するというところは納得できてしまうな」

 

そのエヴァの言葉に詠春さんは少し怒気を孕んだが俺達がどうにか落ち着かせた。

そう、世界が違うとはいえそういう組織はどの世界にも必ず存在するのだから。

 

「それを考えれば宝具投影などという化け物じみた力を持ったお前はその魔術協会にとっては単純に口から手が出るほど欲しがったサンプルなのだろうな?」

「そうだな。エヴァの言うとおりだ。神秘に近すぎ過ぎたものや漏洩したものにも封印指定はかけられる。そのどちらも俺は、手を出しすぎた…」

「出しすぎたか…おおかたお前は人助けのために力を行使し続けたのだろう?」

「確かにそうだ…だから俺は自己のためより他人のために一つの手段として魔術を使うから魔術師ではなくどこまでも魔術使いだったんだ」

「…お前は、生まれる世界を間違えたのかもしれないな。その思考はもう私達の世界の魔法使いの常識に近いものがある」

「ええ、エヴァンジェリンの言うとおりですね」

「「…………」」

 

…俺と姉さんはもう声を出すことが出来ないでいた。

本当にもとの世界の常識が違いすぎるから。

 

「お前達は、もう帰ろうという気はないのだろう?」

「ええ…もとより片道切符みたいなものだし、それに今戻れたとしてもどうせ表裏どちらにも居場所なんてもう存在していないから」

「ああ…家族と呼べる者達もいるにはいるが、もし匿えばともども殺されてしまうのが目に見えているからな。だからあっちで実現できなかったことを今度はこちらで目指そうと思っている」

「お前の言う正義の味方という理想か。だがな、こちらでもそれが実現できるほど世の中は甘くはないぞ?」

「それは百も承知だ。しかし、俺は挫折するわけにはいかない。それが養父との誓いでもあり、ある男への挑戦状でもあるからな」

「む? ある男とは…?」

「それは…」

 

そこでネギ君達の声が聞こえてきたので話はここまでになった。

エヴァがなにやら不満そうだったがさすがにこれ以上は話さない。

暗い雰囲気はすべて心にしまいこみ俺達はみんなのところに向かった。

なにやら同伴していた朝倉が記念写真を撮るというので俺が一番背は高いので一番後ろに並んだが、なぜか不平不満の声が朝倉他他所から聞こえていつの間にかこのかの隣に並ばされていた。

それによってこのかは顔が真っ赤になり、そこをタイミングよく(悪く?)朝倉に撮られてしまい表面上は普通にしていたが恥ずかしい目にあった。

…詠春さんには後にマジな顔で「娘をお願いします」と言われた時は本気で焦った。

 

他に特記する点といえばネギ君の方は詠春さんになにやらナギさんの手がかりをもらったようで嬉しがっていたこと。

姉さんがエヴァになにか相談を持ちかけていたこと。

なにより、刹那も心を開きこのかと仲直りできたというのが大きいな。

 

 

 

 

………そういえば、昔の写真にあいつ(・・・)の顔があったが、なにやら関係がありそうだな?

それだけを懸念に思いながらも、回りのどたばたのうちに修学旅行は幕を閉じたのだった。

 

 




次回から学園に戻ります。

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