剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ   作:炎の剣製

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更新します。


033話 ネギの弟子入りテスト

 

 

 

あの新しい技法を手に入れた翌日に少し体にだるさを感じたので姉さんに聞いてみるとどうにもやはり負担らしいものがあるらしいとのことだった。

当然だ。もとから俺は等価交換を無視しまくりなのに、さらにそれを体に宿すのだからそのくらいリスクはなければ天罰が落ちる。…おもにアカイアクマからだが。

よって使うとしてもランクの低いC、Bランク程度の武器がいいとこで宝具級は絶対禁止の命令を受け強制魔術(ギアス)までかけられ姉さんの許しが出ない以上使用は不可能となった。

…まぁ、宝具でなくとも充分使えるのだからいいが。

それはともかくネギ君の弟子入り試験が前日に迫っているので見学をしにいってみた。

最近は日常生活に加え工房作りやアーティファクトの使い方をマスター、新しい技法の特訓などであまり会っていなかったからな。

朝はさずがに会いにいけなかったので授業が終わった後は世界樹の広場で特訓しているということを刹那に聞いたので一緒に向かっていた。

 

「そういえば最近忙しそうでしたがなにかあったのですか?」

「ああ、ちょっとな。ほら、前に俺達の世界の魔術師の工房の話をしただろう? それの申請と同時に刹那のような前衛の関係者の武器を学園長の依頼があれば鍛えなおしたり、新しく作ったりする鍛冶師の工房も同時に作っていたから中々時間が裂けないでいたんだ」

「そうだったんですか」

「ああ。それに最近俺の新しい技法をエヴァと姉さんに編み出されてしまってそれにも手を焼いていたから最近は疲れ気味だな」

「新しい、技法ですか…?」

「ああ。まだその技法の名は決まっていないが、おそらくあちらとこちらの世界…どちらを掛け合わしても俺以外使えるものはいないだろうものだな」

 

その言葉に刹那は驚いたのかどんな技法か是非と言って聞いてきた。

だけど先ほどもいったが俺以外は使えないだろうと前置きをしてからどういったものかをおおまかに伝えた。

 

「投影する魔剣の魔力をすべて体に取り込むというものですか!?」

「ああ。さすがにその技法を編み出した翌日に宝具級のものは取り込んでいないのに体にだるさを感じてしまったから、呪いまで使われて安定するまで当分は使用を制限されてしまったな。だから今取り込めるのは名もなき魔剣と干将莫耶くらいだな…」

「…それだけでも充分なのでは? ちなみにどれだけ効果を発揮したんですか?」

「あー…それがな。初めて成功したときには風属性つきの魔剣を取り込んだんだが………装填した魔力を最初は制御できずにエヴァ達も目視は難しいほどの速度で一瞬にして100m以上は移動してしまい思わず死にそうになった…」

「それは…またすごいものですね」

「ああ。そしてその勢いで装填した魔力がすぐに底をついたから、おそらく一気に使ってしまったからそれほどの移動をしたのだろう? それ以降特訓をしていくうちに装填した魔力を割り振っていけば移動速度も距離も自分の思った通りになることに気づいたから今ではなんとか制御できている」

「では……その装填した魔力にさらにその魔剣を投影して使ったらどうなりました?」

「うまいところをついてくるな。それが、とても恐ろしいことがおこった。剣を握った瞬間、同じものを使っている反動で武器は爆発……俺はかなりの重症を負った。なんとか生還したが、それ以降この技法はほぼ素手のみで固定化されてしまった。ま、こうして無事でいるのだから今では俺の失敗談としてエヴァ達には笑いの種にされているな」

 

ははは、と笑いながら刹那にそれを話したが「どこが笑い話なんですか!?」と詰め寄られたときにはあせった。

そして刹那を落ち着かせながら広場につくとそこにはネギ君を始めアスナやこのか、古菲と後、運動組の明石・和泉・大河内・佐々木の四名が一緒にいた。

刹那はアスナと剣の特訓があるらしくそちらに向かった。

それでなぜ運動組のものも一緒にいるのか聞いてみると佐々木も今度の大会の特訓をしているらしい。うむ、健康的でいいではないか。

 

「やぁネギ君。修行頑張っているみたいだな」

「あ、士郎さん!」

「士郎老師アルか。ちょうどよかったアル」

「ん?」

 

話を聞くに俺が以前に茶々丸と一騎打ちをした話をネギ君から聞いたらしくなにか対策はないかということだ。

しかし、あの茶々丸にか…。

今のネギ君の中国拳法の実力がわからないのでまずはそこから聞くことにした。

 

「それがネギ坊主は反則気味に飲み込みがいいアル。フツーなら様になるまで一ヶ月はかかる技を3時間で覚えてしまうアルよ」

「ほう…それはまた羨ましいことだな」

「それでお願いがアルね。一度ネギ坊主と勝負をしてもらいたいアルよ」

「え!?」

「俺がか? おそらく古菲に比べれば中国拳法の実力は凡人もいいとこで天地の差があるだろう?」

「いや、老師は普段の戦いをしてくれればいいアルよ。茶々丸に一撃を与えるのもあまりにも経験が足らなさ過ぎるから無理アルから」

「そうか…ネギ君はそれでいいか? 一応手加減はするが…」

「は、はい。ぜひ! お願いします!」

「任された」

 

俺は上着を脱いでネクタイを少し緩めて戦いやすい格好をとりネギ君も心構えをしたのか深呼吸をしている。

さて、どれほど成長しているのか楽しみではあるな…?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

さて、どうしようかな? 成り行きで士郎さんと勝負することになったけど、恐らく僕じゃ足元も及ばないだろうな。

でも、きっとそれは茶々丸さんにも言えることだから試験前のいい経験と思えば気も楽にいけるかも……やっぱり無理。

だってスーツの上着を脱いでいくぶんラフな格好を取っている士郎さんが構えをしているだけで圧倒されちゃう。

コタロー君との戦いを見たときに感じたけど士郎さん、あの時獣化もしているのに全然引けをとっていなかったから。

 

「どうしたネギ君? 緊張しているのかね?」

「え!? あ、はい…かなり」

「別に試合をするわけではないのだから今の実力を出せばいいことだ。俺もそれに合わせる。試合前のウォーミングアップ程度に思っていけば気が楽になるぞ」

「は、はい!」

 

僕の考えも読んでのリラックスの言葉…やっぱり士郎さんはすごい!

僕も見習わないと!

 

 

 

──Interlude

 

 

 

士郎とネギが向かい合って練習試合を始めようとしていた頃、何事かと全員は集まり観戦していた。

運動部四人組は普通に二人の試合を観戦しようと前へ言っているが裏の話に精通している面子はその後ろで小声ながらも会話をしていた。

そこで古菲はもっとも士郎の実力を知っているだろう弟子の刹那に話しかけていた。

 

「刹那。私は見たことないアルが士郎老師の徒手空拳の実力はどの程度アルか?」

「そうだな。単純に力比べをすればもしかしたら高畑先生以上かもしれない…」

「え!? それじゃ士郎さんの素手での実力も相当なものってこと!?」

「アスナの姐さん、京都での素手で戦う士郎の旦那の戦いを見てたろ…?」

「あっ…」

「ウチ、士郎さんの戦ってる姿はあまり見たことないけどそうなん…?」

「ええ、お嬢様。士郎さんは武術や剣術に関して確かに実力は凡才かもしれませんが、それを修練と経験で十二分に補っています。そしてなにより士郎さんの武術での真の怖さは次の一手になにが出てくるかわからないのです」

「前に色々取り入れていると聞いたことアルがそれが関係しているアルか?」

「そうだ。何度か徒手空拳での稽古もしたことはあるのだが…中国拳法から始まり、柔術、合気道、空手、プロレス、キックボクシング、ムエタイ…さらには私の繰り出した神鳴流の体術も一度見せたら即座に取り込んで使ってくる。武器も入れれば剣術、槍術、棒術と…数えたらそれこそきりがないほどだ。そしてそんなに多種多様なら普通はどれをいつ使うか迷い乱れるものなのだが士郎さんは常に自然体なんだ」

「どーいうこと?」

「そうですね。士郎さんは相手の出方によって呼吸法がすぐに変わるのです。例えば中国拳法を士郎さんが使ってきて私が対処をしようと構えた矢先にはすでに柔術の呼吸に変わり…重さ、スピードもまるで別人のように変わってしまい常にペースを狂わされてしまう…まるでなにが出てくるかわからないビックリ箱のように。最後に後一つ…ネギ先生にとって士郎さんはもっとも苦手な相手ということだ」

「え? え? どうしてなん、せっちゃん!」

「それは士郎さんが様々な武術の中でおもに主体にしているのがネギ先生と同じ中国拳法だからです。攻撃に関しては少しばかり力は劣るものの、力をあまり使わない防御やカウンターに徹すれば士郎さんはおそらくこの学園では最強でしょうね」

「…なるほど。つまり士郎老師は中国拳法を主体にして他の武術を取り入れているわけアルね?」

「そうだ。だから私は今でも稽古試合で士郎さんから一本を取ったことがない…」

「はぁ~…今更ながら士郎の旦那の強さを再確認できたぜ。投影っていう武器を作り出す魔術ばかりに目移りしていたが地でも相当達人レベルだな。もちろん裏世界も含めてだが」

「カモさんの言うとおりですね。そして先ほどここに来る間に士郎さんに聞いた話だが、エヴァンジェリンさんとイリヤさんとともにこの世界ではまず確実に士郎さんしか使えないオリジナル技法を数日前に開発したそうだ」

「「「「えっ!!?」」」」

 

刹那のその一言で全員の表情が固まった。だがいち早く復活したアスナが吠えた。

 

「エヴァちゃんとイリヤさんと士郎さんの合作技法!!? それ、どれだけ凶悪なものなのよ!?」

「まだ完全には会得していないらしいですが、おそらく完成すればまず最強の部類に入るでしょう。なにせ…士郎さんがいうにはその技法は魔力のこもった武具を投影する段階で形にする前に魔力の塊に固定化してそのすべてを自らの体に流して力にするという恐ろしいものですから」

「「「「………」」」」

 

またもや一同は刹那の一言に驚き沈黙、そして……多くは語るまい。ただ一つ言える事は運動部の四人からは変な目で見られたとだけ記載する。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

「なにか外野が騒がしいが始めようとしようか、ネギ君」

「は、はい…」

 

そして開始されたけど士郎さんは仕掛けてはこなかった。

それでどうしたのかと思ったけど、

 

「初手は譲ろう。どこからでも仕掛けて来い」

「はい! いきます!」

 

だから僕はまず士郎さんに足に力を込めて八極拳の初歩である掌をかざした掌底を当てに言ったけどそれはすぐに防がれた。

でもそれだけでまだ終わりじゃない! そこからすべる様に腕を絡ませもう片方の手で顎に突き上げからの掌を与えようとした。

だけど士郎さんはそれを軽く避けて、変わりに勢いがついた僕の体にお腹に手を当ててカウンターを当ててきた。

それによって僕は一瞬息が詰まったけどすぐにたまった息を吐き出して士郎さんから離脱した。

 

「…正直に驚いたな。習い始めて一週間も経過していないというのにここまで成長しているなんて」

「ありがとうございます!」

「だが、まだまだ甘い。茶々丸に一撃を与えると言う試験だが今の動きでは隙が多く見られるからカウンターを仕掛けようとしても返り討ちを遭うだろう」

「やっぱり、そう思いますか…?」

「ああ。だから今から俺が茶々丸の覚えている限りの動きを模倣して挑もうとしよう」

「え? 茶々丸さんのですか…?」

「そうだ。なに、当然加減はするが気を抜いたらそこで意識は刈り取られると思え」

 

そして士郎さんは一度深呼吸をして目を開いた瞬間、まるで雰囲気が別人のように違っていた。

僕が構えると士郎さんは先ほどとはまったく違う動きをしてきて僕の頭は困惑しながらもなんとか対応した。でも今の動きは確かに…!

 

「あれって、茶々丸さんの動きじゃない!?」

 

そこでアスナさんの驚愕の声が聞こえてきた。

そう、何度かしか見たことないけどあきらかに士郎さんの動きではなくてそれは茶々丸さんの動きだ!

 

「驚いている暇など与えんぞ?」

「くっ!」

 

なんとか受け止めたけどそこからすごい痺れてくる。これは士郎さんなりの手加減だと思うけどとんでもない。

加減しているとはいえ士郎さんはおそらく実力はトップクラス。手を抜いたら本気で意識が飛んじゃう!

だから僕も怖気をしないで真正面から立ち向かった。

それからは防戦一方ながらもなんとか最後まで耐えることは出来た。

 

 

「…はぁ、はぁ……」

「よくここまで耐えたな。何度か刈り取ろうとしたのだがな。まぁいい。よく頑張ったネギ君」

「はい、ありがとうございます!」

「で、古菲。こんなものでよかったか? なるべくダメージを与えないように配慮したのだが…」

「最高アル! 士郎老師、ぜひ私とも対戦してほしいアルよ!」

 

くー老師が士郎さんに挑戦をしているとまき絵さん達が心配そうに近寄ってきてくれた。

 

「ネギ君大丈夫!? なんだかよくわからないけどすごい戦いだったけど!?」

「あ、はい。士郎さんは僕を傷つけないように手加減してくれましたから大丈夫です。何度か受けて痺れましたが今はもうなんともありませんし…」

「あれで手加減かぁ…。士郎さんって意外にかなりの達人だったんだね~?」

「古菲が老師とか言っているのも納得やな」

「そうだね……」

 

僕もその意見には納得しちゃうな。それで士郎さんに向けて一礼すると士郎さんも手を上げて答えてくれた。

でも今回はかなりの収穫かもしれない。あれは士郎さんが茶々丸さんと対峙したときの動きだからいくつか手も浮かんできた。

通用するかはわからないけど後は本番まで力を温存しておくべきだね。

でも、そこで士郎さんから声が聞こえてきて、

 

「ああ、言い忘れたが茶々丸は俺の動きももうシミュレートしているから先ほどの動きは過去のものと思っといてくれ」

 

なんて…上げて落とすことまで忘れていないなんて士郎さんは本当にすごい。

つまり絶対に油断はするなという戒めですね。本当に頭が上がりません。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

 

ネギ君が佐々木達と話をしている間、俺達はネギ君の現実力に話し合っていた。

 

「さて…で、俺から見て先ほどのネギ君の動きでは茶々丸に一撃を入れるなどとはまず確率的にいえば絶望的な数値といってもいいだろうな?」

「やぱりそうアルか。うーむ、これはもうやっぱり一発勝負のカウンターを決めなければ勝ち目はないアルな」

「そうだな。しかもそれを入れるにしても相当運がよくなければ返り討ちは目に見えている…刹那はどう思う?」

「そうですね。はい、私もその意見には残念ながら納得するしかないですね。今の先生の実力ではまだほんの付け焼刃のようなものですから一発の機会を逃したらそれでたちまち終わりでしょう」

「ちょっとちょっと!? 三人とも、それじゃネギが負けるみたいじゃない!?」

「アスナ、一つ訂正だ。みたいではなく今のままでは負けるのは確実と言うことだ」

「そうだぜ、アスナの姐さん。俺っちも悔しいが実力の差が今はありすぎる…だから後は兄貴の気力にかかってくるわけだ」

「そうなんか…」

「すまんな、このか。これでも出来る限り現段階のネギ君に少しでも勝てる要素はつめたつもりなんだ」

「あ、気にしてへんよ。ウチは別に士郎さんやせっちゃんの事を責めているつもりはないんやから」

「そうか。助かる…」

「ありがとうございます、お嬢様…」

「ええよ。それよりせっちゃんに聞いたんやけど、士郎さんなんやすごい技習得したんやって?」

「む? もう話していたか…」

「はい。余計なおせっかいでしたか?」

「別に構わないが…なんだ? 見たいのか?」

 

それを聞いた途端、全員は見たいとばかりに頷いていた。

しかし、このような場所でいいのか? 一般人もいるんだが…。

だから俺はまだ未完成の技法だと言って後で完成したら見せるといって今回は諦めてもらった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

………そして、時間は経過して試験の時間が迫ってきていた。

俺と姉さんは先にエヴァ達と合流して会話をしている。

 

「オイ御主人、コレジャ試合ガ見エネーゾ?」

「うるさいぞ。役立たずの癖に口うるさい奴だ」

「仕方ネーダロ? 動ケネーンダカラヨ」

「ならば俺の頭にでも乗っているか? 前からちょくちょく乗っていたからな」

「オー、サンキューシロウ!」

 

チャチャゼロを頭に乗せていると、茶々丸がなにかいいたげで口ごもっていた。

 

「…しかし、いいのですか、マスター? ネギ先生が私に一撃を与える確立は概算3%…もし合格できなければマスターは不本意ではないのですか?」

「そうよね。なんだかんだでネギの事を気にかけているし…」

「勘違いするなよ、二人とも。本当に私は弟子など取る気はないのだから。それに一撃だけで合格というのは破格な条件だ…それで一発でも入れられないのならそこまでだ。だから茶々丸も手加減はするなよ」

「ハ…了解しました」

 

エヴァが会話を終了させて、タイミングよくそこにネギ君達がやってきた。

 

「ネギ・スプリングフィールド弟子入りテストを受けに来ました!」

 

最初の挨拶はまぁいいだろう。しかし、広場での面子が全員いるのはどうかと思うぞ。

あくまでもこれは裏に精通する戦いだというのにな…。

エヴァもそれを思ったのか口出ししている。

 

「…まぁいい。ではルールだがお前が茶々丸に一撃でも入れればそれで合格。しかし手も足も出ずにくたばればこの話はなかったことにする。わかったな?」

「……その条件でいいんですね?」

 

ネギ君はそこで不適な笑みを浮かべたがエヴァは気にせず試験を開始させてしまった。

まさか、とは思うがな…。

そして試合は開始されネギ君は即座に、

 

「契約執行!90秒間!ネギ・スプリングフィールド!」

 

と、京都で見せた不完全な身体強化魔法を執行した。

しかし同じ種の強化魔術を使う俺から見てもあらためて見ると荒れが多く見られる。

隣でエヴァが「我流の自分への魔力供給か…」と耳に聞いて、

 

「やはりあれは俺の身体強化魔術で言う出来損ないの部類に位置するものか」

「そうね。あれは荒れすぎね。持っても数分しか持たないものだろうし負担もすごいわ」

「だろうな。少しは期待していたが、あれでは茶々丸に一撃など夢のまた夢の話だ」

 

観戦しながら語り合っていたが、だがよくあれだけ持つものだ。

だが茶々丸に吹っ飛ばされてなんとか持ちこたえ茶々丸の接近を狙っている。

やはりカウンターに絞ってきたか。だがあれは……見え見えの隙をわざわざ暴露していてむしろ自殺行為。

そして結果、ネギ君はカウンターをしてきたがやはり茶々丸は読んでいたらしく華麗に後ろの壁に足を着かせて空に舞い、そこからカウンター返しをしてネギ君を地べたに転がせた。

エヴァからは舌打ちが聞こえてネギ君に一言言ってその場から立ち去ろうとしたが俺はそれを止めた。

 

「なんだ士郎? もう勝負はついたのだから時間の無駄だし帰りたいんだが…」

「いや? まだ勝負はついていないぞ。自分で言った条件を今一度思い出して、そしてまだ立とうとしているネギ君を見てみるがいい」

 

エヴァがすぐに倒れているネギ君の方を見ると起き上がってくる姿を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「なに? まさか!」

「そう、そのまさかだ。“手も足も出ずにくたばれば”とエヴァは言った後、ネギ君は不敵に笑みを浮かべた…その答えがあれだ。まさか本当にするとは思っていなかったが…」

「………」

 

ネギ君は立ち上がり再び茶々丸に飛び掛っていったが今度は動きは遅い。おそらく契約執行が切れたからなのだろう。

そして「手加減されて合格しても意味ありません」という言葉に茶々丸も意思を汲み取り手加減をなくした。

………それから1時間以上飛び掛っては返され、弾かれ、反撃を受ける。その繰り返し…もうネギ君の顔は見るに耐えないものになっていた。

見学していた一同も何度も悲痛な声を上げエヴァもさすがに止めさせようと何度か口出ししているが、そこで耐え切れなくなったのかアスナが仮契約(パクティオー)カードを出して止めようとした。

俺は瞬動をしてアスナの手を止めようと足に力を込めたが違うほうから、

 

「だめーーアスナ!! 止めちゃダメーーッ!!」

 

と、いう佐々木の大声でアスナの動きは制止させた。手を広げて、体全体で止めるという意思を彼女は表している。

 

「で、でも、あいつあんなボロボロになって、あそこまでがんばることじゃないよ」

 

確かに正論だ。だが人間一度決めたことは貫こうとする精神がある。

今のネギ君を止めたらきっと後でアスナは後悔するだろう。

アスナは当然反論したが、佐々木はそのことを分かっているのか声を震わせて喉から声を絞り出す。

 

「わかっている。わかっているけど……ここで止める方がネギ君にはひどいと思う。だってネギ君、どんなことでもがんばるって言ってたもん!」

「でもっ……あいつのあれは子供のワガママじゃん、ただの意地っ張りだよ。だから止めてあげなきゃ……」

「違うよっ! ネギ君は大人だよ!」

「ま、まきちゃん。シャワー室でもそう言ったけど、あいつどこからどう見たって……」

「子供の意地っ張りであそこまでできないよ。う、上手く言えないけど…ネ…ネ…ネギ君にはカクゴがあると思う」

「か、覚悟?」

「うん、ネギ君には目的があって……そのために自分の全部でがんばるって決めてるんだよ。アスナ、自分でも友達でも先輩でもいいし、男の子の知り合いでもいいけど、ネギ君みたいに目的持っている子いる? あやふやな夢じゃなくて、ちゃんとこれだって決めて生きている人いる?」

「そ、それは……」

 

そこでとうとう反論の声は聞こえなくなった。

エヴァも顔を赤くしながら「あ、青い…」と言っている。

姉さんは面白そうにチャチャゼロと行く末を見守っていた。

 

「ネギ君は大人なんだよ。だって目的持ってがんばってるもん。だから……だから今は止めちゃダメ」

「…………まきちゃん」

 

そこで茶々丸も耳にしていたのか一瞬だが動きを止めてしまった。

そこにエヴァの「おい、茶々丸…!」という声が響いたが時すでに遅し。

茶々丸は致命傷とばかりの隙を作ってしまい渾身とはいかずとも精一杯のネギ君の拳が頬を「ぺチン」と間抜けながらも確実な音を響かせながら叩かれた。

それで勝敗はついた。

ネギ君は「あ……当たりまふぃた……」と言って力を使い果たし、倒れた。

 

「やったーーっ!」

「ネギくーーん!」

「コラー茶々丸ーーッ!」

「す、すすすすいません! マスター!」

 

ネギ先生が倒れたのをきっかけに大階段で起こる小規模な騒ぎ。様々なことがその場で繰り広げられていたが、ともかくこうしてネギ君は弟子入り試験を合格したわけだ。

 

「しかし、どうやら俺が動くこともなかったようだな」

「そうね。マキエが止めてなかったらきっと士郎のことだからアスナを気絶させて嫌われ役でも演じていたんでしょうね?」

「まぁな。あそこまで意地を見せているところに横槍はさすがに屈辱以外の何者でもないからな」

「ケケケ、シカシアノボーズホント根性アッタナ」

 

その後、エヴァはさすがに「負けた」といってそのカンフーも修行は続けておけといって立ち去っていった。

そして俺はまだ回復していないネギ君に近寄って、

 

「よくがんばったネギ君。あのエヴァからあんな言葉が出たのも意外だがネギ君の根性にも賛美を送らせてもらおう」

「ありがとうございます、士郎さん…」

「そういえばなんで士郎さんはなにもいってこなかったの?」

「いや? アスナがカードを出した瞬間に即座に意識を刈り取ろうとはしたが…?」

「え゛…? なんで?」

「わからんか? 佐々木も言っていたがネギ君は自身の信念のもと意地を通して戦った。それなのにその気持ちを踏みにじって止めてもお互い後悔が残るだけだ」

「そ、そっか…それじゃまきちゃんに感謝しなくちゃね」

「そうしておけ。とりあえず今回は佐々木の活躍もネギ君の勝利に貢献したのだから」

「士郎さん…ほんまええ人やわ。ウチ、ほんまに感動したえ」

「はははッ…そんな大したことではないさ。それよりネギ君。エヴァに弟子入りしたのだから姉さんにも可愛がってもらえ。一応は姉弟子にあたるからな」

「え!? そうなんですか!」

「そうね。士郎じゃ良い意味で相手は無理だからこれからよろしく頼むわね、ネギ」

「は、はい…イリヤさん」

 

姉さん達とはその後、会話をしながらこれからについて話し合った。

 

 

 

 

 

―――そういえば士郎さん…

 

―――なんだ、このか…?

 

―――なんか数日前にじいちゃんが原因は不明なんやけど寝こんだんや。

 

―――ふむ、それがどうかしたのか?

 

―――何度もユルシテクダサイって言ってたんやけど、士郎さんなにしたん?

 

―――む、まるで俺がしたことが分かっているような言い草だな。まぁ、確かにああしたのは俺だが。

 

―――じいちゃん、なにかしたん?

 

―――なにかをしたと聞かれれば答えはイエスだ。なに、俺とこのかの仮契約(パクティオー)の話を一人だが関係者に話してしまったからな。少し、いやかなり地獄を味わってもらった。

 

―――そうやったんか。それ聞いてすっきりしたわ。それじゃウチも後でおしおきせんとあかんな♪

 

―――手が足りなければいつでも協力しよう。俺とこのかの仲だからな。

 

―――いややわ、士郎さん。ウチ、恥かしいえ…フフフ♪

 

―――変に聞こえたのなら謝罪しよう。ハハハ…。

 

 

 

 

……後にアスナ達は語る。このときの俺達の表情はとてもいい顔だが、その分とても黒かったと。

 

 

 




最後に黒い二人。

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