剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ   作:炎の剣製

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049話 幕間1 従者達の修行(前編)

 

 

…これは衛宮士郎と衛宮イリヤことイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの半生とも呼べる記憶を垣間見た後、ヘルマン卿による襲撃を受けて己の無力さを思い知った桜咲刹那と近衛木乃香、二人の物語である。

二人はタカミチの相談のもとウェールズに発った衛宮士郎がいない間、中間テストも終わり落ち着いたところで、イリヤ、ランサーの案内のもとにエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルの弟子であるネギ・スプリングフィールドがいない間を見計らってある相談を彼女に申し出た。

 

「…なに? 本格的に魔法を習いたいだと?」

「はいな…」

「そして刹那の方も己の力が未熟だからと師事を仰ぎたいと…」

「はい」

「どういった理由かは……聞くまでもないな」

「ええ。二人とも士郎と一緒に歩みたいと必死なのよ」

 

イリヤの言葉に二人は頬を少し赤らめるがすぐに真剣な顔つきになりエヴァを見た。

するとエヴァは面倒くさい顔をするかと思いきやニヤニヤと笑みを浮かべ静かに哂いだした。

それにはさすがにイリヤも驚きの表情を禁じえなかったらしく、

 

「ど、どうしたのよ、エヴァ? 私はてっきりネギの時のように「面倒だ!」と言い放つかと思ったわよ?」

「なに、私とてそこまで薄情ではないぞ、イリヤ? それにな、士郎とお前の記憶を聖杯戦争までとはいえ最後まで目を背けずに耐え切ったこの二人には賞賛を贈りたいほどだ。

して、お前達二人に聞く。士郎とイリヤの茨とも言える道を最後まで着いていくと言ったお前達の覚悟は本物か? それともその場限りの勢いだけか?ん?」

 

エヴァのまわりくどい発言に、しかし二人は先ほどの表情を変えずにキッと真剣にエヴァの目に食い入った。

それを見てエヴァはやはりというべきかさらに笑みを深める。

そして目の矛をなぜかイリヤに向けて何事かという感じにイリヤは首を傾げた。

 

「…イリヤ。確か士郎の師匠に当たるそちらの魔法使いにもっとも近いと言われる魔術師、名を遠坂凛といったな?そいつがこちらの世界に来る前に『正義の味方もいいけどまず自分の幸せも考えなさい。最後の師匠命令よ!』と言ったらしいな?」

「ええ。でもそれがなに…?」

「いや、お前に関してはもう士郎からは一生離れないと私は思っているから別に気にしてはいない。

だがな、この二人は本当の幸せをもうその手にしていながらにして士郎に着いて行くという。

つまりは仮初めでもいい、ネギの坊ややクラスの能天気な連中とともにこれからも楽しく平和に暮らしていける生活を切り捨てる覚悟はあるのかということだ」

 

その問いにイリヤは「ああ、なるほどね…」と相槌を打ち暗い雰囲気を醸し出した。

当然のことだ。士郎とイリヤは皆の反対を押し切って世界に旅立ったのだから。

そこにランサーも実体化し、

 

「確かになぁ…真祖のお嬢ちゃんの言うとおりだぜ。強くなりたいといった願望は、まぁ悪くねぇ…俺も人の事言えた義理じゃねぇからな。

だがな、この学園にいる限りは二人は絶対的とはいかねぇがここのトップの後ろ盾もあるから早々危険な目に遭遇することはねぇしな」

「その通りだ。さすがだなランサーのサーヴァント。いや、クー・フーリン」

 

エヴァの真名ばらし発言にランサーはムッとしたがマスターの手前、手は出さず一瞬殺気を放出しすぐに冷静を取り戻した。

それでもエヴァとイリヤはともかくとして近衛木乃香と桜咲刹那はその殺気に恐怖した。

そこで畳み掛けるように、

 

「お前達にとって今ある幸せは簡単に切り捨てられるほど容易いものか?」

「それは…」

「そら、言わんことない。口篭る時点でまだ覚悟が足りない証拠だ。

特に刹那、貴様は近衛木乃香と和解し、神楽坂明日菜やネギの坊や、イリヤ、その他のもの…そして士郎。

これだけ周りに自身を理解してくれるものがいる。以前の貴様には自身の生まれと鬱屈した立場から来る、触れれば切れる抜き身の刀のような佇まいがあった。

だが今は人並みの幸せに浸り以前の様な姿はなりを潜めてきた。平和ボケとでもいうのか? お前は今確かに幸せを感じているはずだ」

「それは…いえ、言い訳はいたしません。はい、確かにその通りです。ですが…幸せになってはいけないのでしょうか?」

「いかんとは言わん。だがその様では士郎に着いていくどころかさらに置いていかれるぞ? それを言わせてもらえば近衛木乃香、お前もそうだ」

「………!」

 

自分に話が回ってきたことによりコノカは極度に緊張をした。

だがそんなことは知ったことではないという風にエヴァは話を続けた。

 

「近衛木乃香。私は以前に言ったな?お前にその気があればネギの坊やと同じ偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)を目指す事ができると…」

 

その言葉にコノカはただただ頷いた。

 

「刹那にも同様に聞くが士郎の記憶を見て近衛木乃香、貴様はなにを思った?」

「…ウチは、とても酷い現実やと思った。なんで士郎さんがこんなに酷い目に会わなければいけないんやと」

「…感想はまぁ悪くは無い。刹那も同様なのだろう?」

「………」

 

刹那も同様の解だった為に無言ながらもその意思は伝わったようだ。エヴァはフッと笑みを浮かべた。

だが次の瞬間、底冷えするような声で「甘ったれるな…」と呟いた。

それには殺気も含まれていたために刹那はとっさに体勢を取っていた。

しかしエヴァは臆することなく、

 

「貴様達の言葉はただの偽善に過ぎん。ここは確かに平和だが今もなお裏社会では戦争(ピン)から殺し(キリ)まで数え切れないほどの殺意が渦巻いている。

士郎のも確かに不幸な事故として言葉だけなら簡単に片付けられるが、本人からしてみればいい迷惑だ。

現実に味わった苦しみをただの言葉だけで片付けられてしまうのだからな」

 

その言葉に二人は深い衝撃を受けた。

そう、確かにエヴァの言うとおりだったのだから。記憶を見たからといって実際に体験したわけではない。

士郎の苦しみは癒す術は無い。士郎以外は誰も生き残っていないのだから理解してもらえる人もいない。

ただ同情されるだけ。それ以上は他人事として踏み込んでくるものは少なくただただ一人で苦しみを背負っていくことだけ。

士郎はそうやって今まで生きてきたのだ。すぐに理解しろというのも酷だが軽率だったと感じざるえない。

 

「…話が逸れたな。して刹那。貴様に問う。貴様は幸せになれると思うか? 私と同じ人外の身の上で…」

「!?」

「ッ! エヴァちゃん!」

「コノカ! 今は黙っていなさい!」

「せやかて……ッ!?」

 

そこでこのかは気づいた。いや、もう知っていた。

イリヤも刹那と同様に人外の生まれだということに…。

それで黙ることしか、出来なかった。

エヴァの問いはイリヤにも向けられているようなものなのだから。

しかしそこでエヴァの雰囲気が少し和らいだ。

 

「イリヤもそうだが、生まれた時から不幸を背負っているお前には共感を覚える…」

「え? それはどういう…」

「以前に聞いた真祖になったのは先天的ではなくて後天的っていう話に関係しているのかしら?」

「イリヤ、覚えていたか…」

「まぁね」

「え、エヴァンジェリンさんは最初から真祖ではなかったのですか!?」

「そうだ。だから言える。そしてもう一度聞こう。貴様等二人は今有り触れている幸せを捨ててでも士郎に着いて行くと胸を張って言えるか!?」

「「………」」

「答えられまい? 当然「ですが…!」だ、ってなんだいきなり?」

 

刹那に言葉を遮られて幾分エヴァは機嫌を悪くしたが、しかし刹那の言葉を聞くことにした。

 

「修羅の道…そして幸せな道…どちらも私は捨てることはしません」

「なんだと…?」

「ウチもや。確かに士郎さんとイリヤさんの進む道は険しいものかもしれへん。やけど士郎さん達は自身の進む道と一緒に幸せの道も探そうとしてるんや!」

「コノカ…」

「だから、ウチは…」

「私は…」

「「士郎さん達の進む道に着いて行くと同時に、幸せの道も一緒に探す手助けがしたい!」」

 

同時に二人は言い切った。

それに端で聞いていたランサーは「ヒュ~♪」と喉を鳴らして思わず拍手でもしてやろうとしていた。

だがエヴァは怒りを顕わにして、

 

 

 

 

「ほざけガキ共が! 甘ったれの貴様等にそれができると本気で思っているのか!?

さらに言わせてもらうが士郎とイリヤとランサーにとって貴様等はただのお荷物になるかもしれないのだぞ!!?

足枷もいいところだ!! 人質にされるか殺されるかが目に見えているぞ!!」

 

 

 

 

エヴァの咆哮ともとれる凄まじい叫びに、だが木乃香と刹那は一切臆せずして、

 

「できます! その為にも今は少しでも強くなりたいと私は感じています! そして士郎さんだけではなくイリヤさん、お嬢様も守れるような立派な従者に!」

「ウチもや! 今は碌に魔法も使えへんけど、…ううん。たとえ魔法が使えなくとも心の支えになってあげたいんや!」

「……………、その言葉に二言はないか!?」

「「はい(な)!」」

 

なおも続くと思われたエヴァの怒声はしだいに薄れていき、最後の二人の返事に完全に怒りは霧散した。

そして変わりに湧き上がった感情は『面白い!』の一言であった。

 

「ふっ…では貴様等二人は士郎が進むと決めた道にありえんとは思うがネギの坊や達が立ち塞がったらどうするのだ?」

「…殺しはしません。ですがもし立ち塞がったなら説得…最悪は押し通らせていただきます」

「アスナ達と戦うのは気が引けるんやけど、もうウチ等は士郎さんに着いて行く気持ちに心変わりはあらへん」

 

二人の言葉に一瞬エヴァは唖然としたがとうとう耐え切れなくなり大笑いを上げだした。

 

「はっはっはっはっ! 実に愉快だ! ならば貴様等二人は状況によっては悪にも正義にもなるというのだな!?」

「極論ですが確かにそうなりますね? できればアスナさん達とは争いたくは無いのが本心ですが…」

「いや、貴様等にはそのくらいがちょうどいいだろう。クックック…。

それと最後に一つ教えておく。士郎の過去を見たお前達ならもう理解していると思うが自身の心に正義、あるいは譲れないものがあるとしても、それは相手とて同じことだ。

ならば時には正義ではなく悪になることも考えておけ。後の歴史でどう評価されようと自身の信じた道を突き進んだならそれが真実なのだからな」

「お! なかなかうまいこというじゃねーか? その物言い、なかなか気に入ったぜ!」

「…ああ、そういえば貴様は今言ったいい例だったな。やはり歴史は奥深いものだな…」

 

ランサーは機嫌がいいのか大笑いをし、エヴァも案外すっきりしたのか微笑を浮かべている。

イリヤも話が落ち着いたのが分かったらしくうんうんと頷いている。

そこでエヴァは二人に声をかけた。

 

「おい、近衛木乃香…それに桜咲刹那」

「なに? エヴァちゃん?」

「なんでしょうか、エヴァンジェリンさん?」

「別荘にお前達二人の部屋を用意してやる」

「「…はい?」」

「最初は近衛詠春の頼みで少しは鍛えてやろうと思っていたが気分が変わった。刹那はともかく木乃香、貴様はネギの坊や以上に魔法の修行を手伝ってやろう。

分からんところは姉弟子であるイリヤにでも聞け。イリヤの部屋もここには用意されているからな。当然士郎もすでに鍛冶の仕事でほとんど入り浸っているから存在する。

用事があればすぐにでも相談できるだろう。そしてここには英霊という規格外の奴もいる。士郎の手が空いていないときは変わりに鍛えてもらえ」

「おいおい…。俺の承諾なしかよ?」

「いいじゃない? どうせ大抵は釣りか小太郎と組み手をするくらいでしょうし…」

「ま、別にかまわねーが…なら、士郎と違い俺は本格的にやるからそこんとこは覚悟しておけよ?」

「は、はい…」

 

少し怖気づきながらも刹那は返事を返した。

後に刹那は語る。「ランサーさんのあの目は新しいエモノを見つけた猛禽類のものだった」と…。

 

「よし、では茶々丸や姉妹達に手配させるとしよう。言っておくが私も手加減はせぬぞ? 覚悟しておけ近衛木乃香…」

「は、はいな!」

 

そうしてエヴァは高笑いを上げながら別荘に入っていった。

呆然としている木乃香にイリヤが肩を叩いて、

 

「それじゃこれからよろしく頼むわね、コノカ?」

「はい」

「それじゃ早速逝きましょうか♪」

「「イリヤさん! 言葉のニュアンスが違います!」」

「気にしない気にしない♪」

 

 

そうして士郎がいない間、ギンイロノアクマとキンノコアクマが二人を魔改造なみに戦力アップさせるのは余談である。

 

 




魔改造計画、開始……。
麻帆良武闘会でのエヴァと刹那のやり取りも回収しておきます。

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