剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ   作:炎の剣製

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070話 文化祭編・開催3日目(05) ネギの思い至った答え

side ネギ・スプリングフィールド

 

 

「のどかさん!」

「のどか!」

 

僕達の目の前でのどかさんが時間跳躍弾を僕の代わりに食らってしまい、重力の膜のような物がのどかさんを包み込みます。

 

 

「あの、その……ッ! 今回は私はネギせんせーの助けにならないと思います。でも―――……!」

 

最後にのどかさんは一言『がんばってくだ―――……』と言って消えてしまいました。

くっ!

僕が提案した事とはいえ、こうにも悔しい思いに晒されるなんて!

のどかさんの為にも、僕は超さんを……! でも、まだ踏ん切りが……もう、こんな時にまだ決断ができていないなんて!

そんな時に夕映さんが一言、

 

「そうですネギ先生。ここまでみんなを巻き込んでおいて引き下がるなんてもう許されません! いきましょう。超さんを止めるです!」

 

そう、僕に発破をかけてくれて、僕はなんとか立ち上がって世界樹前広場までの道を走りました。

そしてどこかの家の屋上にまでやってきて、夕映さんが息切れを起こしていて手を差し出す。

夕映さんは、そこで一回深呼吸をして夕映さんの気持ちを僕に伝えてくれます。

 

「のどかの言う通りです…。私達はネギ先生の助けにならないと思います…」

「そんな事…ッ!」

「…………さきほど、まだネギ先生が寝込んでいる時に超さんについてどうすべきか悩んでいたんですよね、分かります。私ですらネギ先生の立場に立たされれば同じ思いになると思うです……」

「夕映さん……」

 

夕映さんは「でも……」と言って言葉を紡ぎ、

 

「もうネギ先生は迷いを吹っ切っているようで安心しました」

 

どこかホッとしたような顔つきの夕映さん。

いえ、そんなことはないんです。

まだ僕は迷っている…。

超さんの正義に対して僕の志す正義は果たして対抗できるほどの想いを秘めているのかを……。

 

「超さんの野望は止めます。でも、僕はまだ…」

「ネギ先生…?」

「迷っています。このまま超さんの事を止めてもいいのか……? それが僕自身正しい事なのかも……」

「…………」

 

夕映さんは僕の語りを無言で聞いてくれるようです。

だから僕も続きを言います。

 

「だから、夕映さん。あなたの気持ちを教えてください……。僕はこれからどうするべきなのか……」

「ネギ先生……わかりました。私の持論を述べさせていただきます」

 

それで夕映さんは語り出しました。

もしかしたら僕は超さんに協力する未来もあったかもしれないと…。

だからそれでタカミチも判断を誤って負けてしまった事も。

 

「超さんはこの世界にありふれている悲劇を回避しようとしている……ここまではいいですね?」

「…………」

 

それで頷く僕。

 

「ですが、タイムマシンを持っている超さんはなぜその時代……もしくはさらにその悲劇に関連する歴史の時空に行かなかったのか…? いままで超さんの未来まで人類が築き上げてきたすべてを否定して無かったことにしてしまおうとすることが、果たして本当にこれからの私達の未来にとって最良なのか……。私には分かりかねます…」

 

夕映さんはそれで一回目を瞑って、その後になにかの写真を開いて見ていました。

 

「ここで士郎さんならもっと正しい事をネギ先生に助言できたと思うです。おそらくですが、士郎さんは話によるとこの世界にくるまでに様々な困難な出来事を体験したと思います…」

 

ここで士郎さんの話が出てくるなんて思っていなくて、僕は胸が締め付けられる思いに晒されました。

おそらく麻帆良祭後に見せてくれるといった士郎さんの過去…。

そこには僕の今欲しい答えもきっとあると思いますから。

 

「……以前にエヴァさんの別荘で少しですが見させていただいた士郎さんの上半身に刻まれていた数々の傷の痕…。

そして私の荒唐無稽な妄想として流してもらっても構いませんが、そこから連想できることは、士郎さんは自身の正義を正しい事だと信じてひたすら走ってきましたけど、それでも士郎さんの住んでいた世界は士郎さんの行いを否定して、追い詰めて、追いやって……ボロボロにされて、イリヤさんとともになんとか麻帆良に逃げてきた超さんとは違いますが、どこからかやってきた異世界人なのではないでしょうか…?」

 

夕映さんは「私の推測にすぎませんが…」と継ぎ足しの言葉を述べていました。

確かにそうだ。なにも最初から士郎さんは強かったわけではない。

おそらく仕方がなく力を付けてきたのだ。

正義を行うにはまず自身も鍛えないといけない…。

そして、夕映さんの話もあながち間違いじゃないかもしれない。

士郎さんやイリヤさんはこの世界にはない術を使う。

だから異世界人というのは、合っているかもしれない。

 

「士郎さんの話は今は頭の片隅に置いておいてください…。話は戻りますが、嬉しい事、哀しい事…、受け入れがたい悲劇…起こってしまった後はもうすでに過ぎ去ってしまった過去になります。受け入れなければ先にも進めません…。ひとは誰しもそんな過去の痛みを乗り越えて、それでも最良な未来を突き進んでいるです」

 

それで僕は自身の過去を思い浮かべる。

悪魔に襲われてしまった村。石化されてしまった人々。

僕はそれを振り払うかのように、魔法の勉強に没頭して怖さから逃げて、それでもここまで突き進んできました。

その痛みは忘れられません。忘れようがありません。

 

「そして、超さんは未来でとてつもない悲劇に襲われたのではないか、と…。ですが、それでもそれは“超さんにとっての悲劇”であるには変わりありません。それを理由に過去を改変してしまおうというのは間違っていると思います…こう言ってはなんですが、超さんのそれはただのエゴとして切り捨てなければいけません」

 

超さんのエゴ……。

確かにそれは正しいと思う。

でも、そんな言葉で簡単に片づけてしまってもいいものなのか…?

確かに僕もそこまでは夕映さんと同じく考えています。

分かっている…。いや、分かっていた。

だから僕は溢れてしまう涙を止めようともせずに、僕の想いを夕映さんに伝えました。

もしかしたら超さんの計画が成功すれば、そのわずかな犠牲になるであろう人達も救えるのかもしれないと…。

これだけはどう考えても間違いなのではないと…。

 

「それに、過去を変えるというならば、一週間後から戻った僕達も同じことです」

「ッ!?」

 

それで夕映さんの表情が引き攣ります。

でも、僕は続けます。超さんはわざわざ未来人だと教えてくれた、もしそれを知らなかったら果たして僕達は超さんの事をかたくなに否定できていたのだろうかと……。

五月さんからも言われました。

動機はどうあれ、それでも今までネギ先生が培ってきたものは間違いなのではないと、立派な力なのだと…。

そして、もし超さんの計画が成功しても罰を受けるのは僕達魔法使いだけで一般の人達には被害は表向きは出ないだろうとも…。

 

「そんな! それではネギ先生は超さんに協力するというのですか!? おとなしくこの学園から去ってしまい、のどかへの返事もうやむやにしてしまうつもりなのですか!?」

「夕映さん……」

「そ、それに、未来でのイリヤさんの士郎さんに対する想いも無駄にするつもりなのですか!? 未来のイリヤさんは士郎さんの死という悲劇を回避するようにと私達を手助けしてくれました…。そんな、イリヤさんの願いもネギ先生は否定してしまうのですか!!?」

 

それから夕映さんの必死の説得を受け、胸が痛む思いをしながらも、僕はおそらくそこで夕映さんにも看過できない一言を言ってしまったのでしょう…。

 

「僕が……みんなと一緒にいたいという思いも……それも僕の我儘だとは言えないでしょうか……?」

「ッッッ!! ネギ先生!!」

 

次の瞬間には僕は夕映さんに頬を叩かれてしまいました…。

こうなるのは薄っすらと分かっていた。

こうなる事も僕はある意味期待していたのかもしれない。

誰かに叱ってほしい…。

もう正義だけでは先に進めないという事も…。

士郎さん、あなただったらこんな僕の考えも分かってくれるんでしょうか…?

もう、僕は僕自身の正義だけでは先に進めません!

 

「ありがとうございます……」

「い、いえ…私とした事がなんてアホで無体な事を…」

「いえ、おそらく僕は夕映さんに殴ってほしかったのかもしれません」

「先生…」

「兄貴…」

 

夕映さんとカモ君がそれで神妙な顔になっています。

だから今の僕の想いも伝えます。

 

「分かっていました。もう本当はすべて分かっていたんです。それでいま、夕映さんに頬を叩かれて決心がつきました」

「ネギ先生……」

「未来でのイリヤさんの想いや士郎さんの死……他にもたくさんのものを抱えて僕達は過去に戻ってきました。だからこそ、思うんです」

 

僕は涙をぬぐいながらも夕映さんに伝えます。

 

「そう簡単に世界は救えない…。それは先達の人々が成し遂げようとして、結局果たすことができなかった過去からの積み重ね、想いのすべて……。だからこそ、僕は超さんを止めなければいけないのだと…。タカミチや龍宮さんは僕なんかよりも倍か、いや……推し量るだなんて思えないほどの辛い思いを経験してきて、結果、龍宮さんは超さん側について…タカミチは迷ってやられてしまった……。超さんもそんな中の一人なんだと」

「……ッ!!」

 

そう告げると夕映さんはなにかに思い至ったような顔になってなにかしらの後悔の感情を抱いたみたいです。

それを僕は理解できるとは言えません。そこまでは夕映さんの気持ちで踏み込むことも許されません。でも!

 

「夕映さんを困らせてしまい、すみません…。でも、これ以上は超さんが間違っている理由を挙げても意味がないんです。僕はもうどんな理由があっても先に進めません…」

「…………」

「夕映さんの本当の言葉を僕に言ってください。超さんの事は止めるべきなのは自明の理です。でも、それ以上に僕は―――!」

 

息を思いっきり吸い込んで、

 

「僕は…僕達は今この尊い日常を守るために、士郎さんも死なせないために、悪を行う……! それから逃れる事は許されないのだと、逃げてはダメなんだと……ッ!!」

 

夕映さんはそれで少し黙り込んでいましたが、少しして、

 

「…………その通りです。ですが、ネギ先生が言う悪とはネギ先生だけが背負うものではありません。背負うのに辛いというのなら、私達も一緒に背負ってあげます。それが責任というものですよ」

 

そして夕映さんが一週間後のタカミチから聞いたという話を話してくれました。

 

『もし君が失敗したとしても、世界が終わるわけじゃない。君一人が責任を感じることはない。一人ですべてを背負おうとするんじゃないぞ? そして頑張れ!』と…。

 

そのタカミチの言葉でさらに僕の想いは固まりました。

それで夕映さんに感謝の言葉を述べました。

 

「あ、ありがとうございます! 行ってきます!!」

「はい。頑張ってきてくださいです!」

 

それで僕はもう迷いもない顔で超さんのもとへと向かって旅立ちました。

まずは世界樹前広場に向かってまだ占拠されていない巨人を止めないとだよね!

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

……もうすでに世界樹前広場以外の起点はスクナもどきに占領されてしまった。

そして世界樹前広場も今か今かとスクナもどきが迫ってきていた。

士郎の『巨人殺し』で串刺しにされてしまっていたが、それでもそれを力づくで時間をかけてへし折って、胸に剣を生えさせながらも世界樹前広場まで動きは遅くても、しかししっかりと歩いてくる。

 

『ま、マズい! これは非常なマズい展開です! ここ世界樹前広場を除く5つの防衛ポイントは敵の巨人に占領されてしまいました!』

 

朝倉の必死な、それでも的確な実況が響いてくる。

 

『あとは残るこの場を占領されれば全て終わってしまいます! となれば我々の負け! ジ・エンドです!! バットエンドです!!』

 

そういう実況が響いてくる中で、まだ生き残っている裕奈や他の生徒達が立ち向かっていた。

 

「何言ってんの、朝倉! ここのロボ達はあらかた制圧したっての!」

 

裕奈の言葉に他の生徒も「応ッ!!」と返事をする。

それを朝倉も感じ取ったのか、

 

『ですが、まだ希望は残されています! この状況を挽回するチャンスはあるのです! 世界前広場を占領される前に敵の首領、超 鈴音を発見して捕獲するのです! それがこの絶望的な状況を挽回する最後の手とも言えます!』

 

朝倉自身、このピンチに、そして未来の情報で時間が限られている事もあり、手段を選んでいられなかった。

出来る事はすべてする。

そうしなければこの日常も守れない。

使うものはすべてを使って見せると!

そしてなにかの映像を空に投影する。そこには魔法陣が描かれていた。

 

『ラスボス超はゲームエリア内のどこかの屋外に直径30mほどのこの映像のような地上絵の上で待っているとの事です! 発見者、捕獲者それぞれに例年以上の特別褒章金が授与されます! みなさんは奮ってご参加ください! というかしてください!! でないと結構大変な事になるかも!!?』

 

最後はもう本音が出てしまっていてなりふり構わないという感じが板についてきた朝倉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんななかで、天文部所属の千鶴はというと、望遠鏡を覗き込んでいて、

 

「あれはなにかしら……?」

 

と、空高くに浮いている飛行船の上に先ほど朝倉が示した魔法陣が浮かんでいるという事に気づいて、

 

「…………夏美ちゃん。見つけちゃったかも」

「へ……? なにを?ちず姉…」

 

という感じですぐに情報が朝倉へと伝わっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして世界樹前広場へと場面を戻して、胸を剣で貫かれながらも口で攻撃してくるスクナもどきに裕奈達は勢いを止める事が出来ずに少し諦めの気持ちを抱いた瞬間だった。

まるで暴風が雷を帯びたかのような渦がそのスクナもどきを貫いた。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

身体を真っ二つにされながらも地面に落下していくスクナもどきを横目に、全員がその方へと顔を向ける。

そこには、杖に跨って空を飛んでいるネギの姿があったのだ。

 

「ネギ君!?」

 

裕奈が驚いている中で、朝倉がマイクを使わないで大声で叫ぶ。

 

「ネギ君! 超は世界樹直上、4000mの飛行船の上にいるって!」

「わかりました、朝倉さん!」

 

そこで朝倉が真剣な顔になって、

 

「ネギ君。君が今何をしようとしているのか、理解しているの?」

「そのつもりです!」

「それならよし! 行ってきな!」

「はい!!」

 

と、そこに遅れてやってくる赤い男。

 

「ネギ君!!」

「ッ! 士郎さん、ご無事ですか!?」

「ああ。それより…その顔はもう覚悟は完了しているという事かね?」

「はい! 僕は悪になろうとも超さんの悪事を止めます!」

「わかった。ならば俺もそんなネギくんの助けになろう!」

「ありがとうございます!!」

 

二人のそんな短い会話。

それでももうお互いにこれ以上は話すことはないとばかりに顔を空に向ける。

そんな時に裕奈が叫んでくる。

 

「ネギ君! さっきのはなに!? それに士郎さんも……どうやって空に飛んでいるの!?」

 

そんな裕奈の叫びにネギと士郎は顔を見合わせて一言。

 

「……CGです」

「……CGさ」

 

と、あくまで演出であるという趣旨を盛り込んだ言葉を発したのであった。

そして、

 

「行くぞ、ネギ君!」

「はい! 士郎さん!!」

 

二人は空へと向かって飛び立っていったのであった。

 

 

こうして超との最終決戦がいよいよ始まろうとしていた……。

 

 

 




オリジナルも交えた原作のネギによる答えを書きました。
こうして書いてみましたが、これが終わった上で士郎の過去を見るって、それどんだけーな感じですね。覚悟は決まった後ですから大丈夫だとは思いますけどね。



追記

士郎たちの件はゆえのあながち間違っていない妄想にしました。

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