白い部屋の中で私は目覚めた。
「あれ?」
(確か姉さんのソシャゲを見せて貰ってると突然轟音が響いて…)
「やっと死にましたか!」
いきなりの失礼な発言に顔を上げると、彼女の目の前には眼鏡をかけた妙齢の女性がいた。
女神を称するこの女性いわく。
「称しているのではありません、本物です」
失礼、なんでも私たち家族のいたビルがテロリストに爆破されたらしい
「ご家族含む他の死亡者はもう転生の手続きを終えられました、残りはあなただけです」
改めて聞くと私は植物状態で2ヶ月過ごし、つい先ほど息を引き取ったのだという。
「では早速手続きに入りましょうか?」
女神は事務的な口調で各種事項を読み上げていく。
なんでも不慮の事故で死んだ者にはささやかな特典が与えられるらしい。
美形に生まれたり勉強や仕事で成功したりといった感じの、
しかしいきなり決めろと言われても困る、何より言葉で説明されただけで、
ハイそーですかと死を受け入れるほど、こちとら人間出来てない。
「はやく決めていただけませんか?後が詰まっていて」
「まったくこの私がどうしてこんな閑職に追いやられてしまったのか」
イラついた口調でせかす女神。
「だからでしょ」
「何か言いましたか?」
「…いえ」
「どうせここでのことは忘れるんだからちゃっちゃと決めなさいよ」
顔だけは優秀そうな雰囲気を漂わせている女神はずいと私の方へと身を乗り出す。
「アドバイスしとくと女はお金や勉強や仕事よりも結局顔よ」
このご時世に言ってはならないことを平然と口にする女神。
「その方が処理が楽…」
「え?」
もういい…これは夢だと思うことにした。
どうせ忘れるって言ってるんだから、じゃあ手っ取り早く決めて早く目覚めよう。
どうか朝起きたら自分の部屋のベッドの上でありますように…私はスマホのバナーを思い出した。
「ええと…スマホありますか?…出来れば姉さんの」
女神はポイとスマホを投げ渡す、ケースに見覚えのあるキズがある…姉さんのだ。
私は渡されたスマホを操作して件の画像を表示させる。
「この絵の(みたいな)女の子にしてください」
「それでいいのね」
「じゃあ、あっち行って、次の人生の幸福を祈ってるわ」
書類か何かをガサコソと探しながら事務的な口調で幸福を祈られる。
全然ありがたくないし、幸せになれるとも思えなかった。
そして別に返せとも何とも言われなかったので姉さんのスマホを握ったまま、私は転生者用のゲートをくぐるのであった。
「ええと…この絵の女の子にして欲しいだっけ」
女神は金髪と青髪の少女のイラストを見て少しだけ頭を悩ませる。
「まぁいいや、両方イイとこ取りでどっちも可愛いからオッケーだよね」
「ええと決済用紙は…これしかないならこれね」
明らかに違うだろ?って言いたくなるやけに豪華な用紙に女神は決済事項を書き込んでいくのであった。
「顔を可愛くするだけなのに書き込むところ多いわねぇ」
月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。
きっと大多数の人がこれからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまうだろう
もっとも廊下で軽く背中を伸ばす金髪の少女、蒼野ジータにとっては他に切実な問題がある様子だった。
「何がここでの事は忘れる…よ」
ここんところ毎日のように鮮明に甦る白い部屋での記憶を反芻しながらため息をつくジータ。
勿論幼い頃はキレイさっぱり忘れていたのだが…
これも年齢を経て精神が成長した証なのだろうか?
(とりあえず無事日本に生まれてよかったとは思う、ワケのわからない異世界じゃなくって)
とはいえど自分の前世の日本とは微妙に違うらしい。
その証拠にかつて住んでいた街は聞いたこともない地名の工業団地になっており。
この姿のモデルとなったキャラの登場するグラなんとかというゲームも影も形もなかった。
こんなことならもう少しマシなお願いをしておけばよかった。
ロクに確かめもせずにこれは夢だと死を認めず現実逃避した自分も悪いが…。
「これも悪くないけどね」
窓ガラスに自分の姿を写すジータ。
ふわりと風に舞う軽やかな金髪、青く大きな瞳、整った鼻筋、白い肌、
柔らかさを感じさせる肉体。
学園の三大女神に数えられるほどの美貌の金髪美少女の姿がそこにはあった。
(美人になって言うほど得をした経験もないけど…むしろ)
残りの二人が美しい、凛々しいという言葉が似うタイプなのに対して
ジータは近所の幼馴染といった感のある親しみやすい、頑張ればもしかして…
と思わせる容貌をしており、
さらに金髪ハーフの外見も手伝って愛らしさに満ちた、
まさしく妖精のような雰囲気を醸し出している。
そのため人気では残りの二人には及ばないものの、
告白される回数は二人より多かったりする。
(ま、兄さんに勝る男なんてきっとこの世界にはいないけどね)
ジータは今は飛び級で海外に留学している双子の兄、グランに思いを馳せる。
ともかくショートボブに整えられた豊かな髪を揺らしながらジータは教室へと急ぐ 。
すでに始業ベルまで数分を切っている。急がねば
スピードを上げて多角形コーナリング!てなノリで、廊下を曲がると、
まるで目覚めたてのゾンビのような雰囲気でフラフラ歩く一人の生徒に追突しそうになる。
「ととと…」
たたらを踏んで回避しようとするジータ、振り向いた男子生徒も身をよじり避けようとする、が…
踵を踏んで履いていたジータの上履きがするりと足からすっぽ抜ける。
「わぁ!」
バランスを崩し背中から廊下へと転倒しようとするジータ。
「危ない!」
男子生徒が慌ててジータの手を掴んでなんとか転倒を防ごうとするが
いかんせん小柄で非力ゆえにそれは叶わない。
勢いは殺せたもののジータは廊下に盛大に尻もちをついてしまう。
そして…ジータのめくれ上がったスカートの中に、男子生徒の頭がすっぽりと入っていた。
「白…あ…ごめんね」
数瞬だけ絶景を味わい、そこから慌ててスカートから頭を出す男子生徒。
「もーハジメちゃんったら、どこのラノベ主人公よ…」
「ゴメン、ジータちゃん」
ハジメちゃんと呼ばれた男子、
南雲ハジメは思わぬラッキースケベに照れながら指で頬を掻く。
ジータも窘めてはいるが、その口調に怒気はない。
そう、南雲ハジメと蒼野ジータは両親の仕事の関係で幼いころから家族ぐるみの付き合いを続けている。
その関係性は幼馴染というよりは親戚に近い感覚だ。
事実、ジータにとってハジメは弟のような存在だったし、ハジメもまたジータを姉のように慕っていた。
小学校低学年以来、久々に同じ学校に入れたことを知った時には、
二人は大いに喜び合ったものだ。
「お尻…大丈夫?」
申し訳なさそうにジータの顔を覗き込むハジメ。
「大丈夫大丈夫、ホラ早く行きなさい」
腰をさすりつつ乱れた髪を整えながらジータはハジメに先を急ぐように促すのだった。