ということで説明回です。
(カーディガンとネグリジェ一枚で男の子の…しかもハジメちゃんの部屋に行くなんて…)
(わお、香織ちゃん大胆すぎ…)
ハジメの部屋へと招き入れられた香織の後姿をサムズアップで見送ったジータ。
足早に歩くその姿を見かけた時にはいくら何でも急すぎぃと止めようと思ったのだが、
いや、むしろこれくらいの大胆さで迫れば。
(きっとハジメちゃんでも香織ちゃんの気持ち分かるよね)
と、思い直し静かに見守る方向に切り替えたのだった。
(あ、いけないいけない、日課忘れてた)
ジータは中庭で召喚の術式を用いスマホを喚び出す。
「ログインボーナスまであるなんてね」
多少面倒だが僅かずつでもリソースが貯まるのはありがたい。
ちなみにあれ以来何回かガチャをやってみたが、使えるものは出なかった。ちょっと渋くない?
それにしても…ジータは出発前、偶然顔を合わせた龍太郎とのやりとりを思い出す。
「な、なぁ戻ってこいよ!またあの頃のように皆でやろう!」
「光輝だってきっと謝れば許してくれるって」
そう呼びかける龍太郎にジータは冷たい眼差しで無言の返答を行う。
何故悪くもないことで謝らないといけないのか?
光輝光輝と連呼するしかあの男には何もないのか?
「何があの頃よ…何が俺たち…よ」
ジータは光輝との亀裂が決定的になったあの冬の出来事を思い出していた。
まだ、光輝、龍太郎、雫、香織、ジータ、そして彼女の兄グラン
彼らが揃っての友人でいられた頃、ただし。
「あいつの!グランの剣は邪道です!真剣勝負でなら、俺は必ず勝てます!」
もうすでにグランとジータの兄妹と光輝との間にはすき間風が吹きつつあった。
そんな中二の冬のある日。
「私、あなたのお兄さんが…グランが好き」
そんな風にジータは雫に打ち明けられた。
(香織ちゃんといい、雫ちゃんといい…どうして私に相談するのよ)
当時を思いため息をつくジータ。
しかも揃いも揃って自分の身内ばかり好きになってるのはどういうことか。
(でも兄さんにはすでに最愛の…将来を誓った恋人がいた────海外で療養生活を送っている)
恥ずかしいから皆には教えるなよ、ハジメくんにもな、と釘を差されていたが、
それでもジータは頬を染め瞳を輝かせる雫の顔を見ると耐えられなかった。
「あのね…兄さんには~」
(その時の雫ちゃんの顔はきっと一生忘れられない)
それからまた季節が流れ────。
受験も近くなった中三の冬。
グランが海外に留学する、という話が持ち上がった。
高校のみならずそのまま海外の大学に入学し、就職も現地でという方向で。
「決めたわ…私、グランに告白する」
「…でも、いいの?」
ジータの言葉にいいのと雫は応じる。
「グランはきっともう帰って来ない、海の向こうで愛する人と添い遂げる筈よ…だから」
そして冬の日の昼下がりの公園で己の想いに終止符を打つため、悔やまないため
雫はグランに己の想いのたけを全て伝えた。
「ゴメン」
雫は泣いた、おそらくこれまで生きていた中で最も涙を流したであろう程に。
勿論、想いが届かなかったという悲しみもあるが、
だがそれは自分の愛した人が自分の思っていた通りの…
愛したことに後悔はなかったと、
心から思える人間だったという喜びの涙に近かった。
しかし…折り悪くその一部始終を見ていた者がいた、そう天之河光輝だ。
自分の大切な幼馴染(自分に花を添えるべき存在)の一人である雫を奪われそうになった。
それも自分がどうしても勝てない目の上のたん瘤に。
しかもアイツは雫を振った、アイツのクセに…この俺の雫を大切な雫を俺の自慢の…。
彼は憤りのままグランに決闘を申し込んだ。
雫を傷つける者は俺が許さない覚悟しろこのまま海外になど逃がさない真の正義を見せてやる決着を~
などと、句続点も改行もなしのヒートアップしまくりのDMで。
(けど兄さんはもうそれどころじゃなかった)
その日、件の恋人の容態が急変したとの連絡が入ったのだ。
両親があらゆる伝手を使ってチケットを確保し、
グランが日本から愛する少女の待つ海の向こうへ飛び立った頃、
光輝と龍太郎はそんな事も知らずに律儀にも公園で待ち続けていた…。
雪がチラつく冬の夜にしかも夜明けまで。
当然のことながら彼らは体調を崩してしまう、この大事な時期に。
龍太郎こそ持ち前のバカ体力で数日で回復したが、
光輝は彼よりは繊細だったのだろう、風邪を拗らせ肺炎を起こしてしまう。
ようやく回復した頃には受験シーズンは、ほぼ幕を下ろしており
ほぼ手中にしていた名門校への推薦も、
地元一の進学校への入試機会もすべてフイにし
今の高校の二次募集にギリギリ間に合ったという次第だ。
そしてそれ以来。
アイツは卑怯者だ、雫を泣かせただけではなく男同士の決闘の約束も破り
親の力で海外に逃げた、と
光輝は声高に叫ぶ、いや嘆くようになったのである。
ジータは思う。今回の件…光輝自身はどこまで気がついているのか不明だが
彼は勇者として救済を成し遂げることで間接的に己の正当性を…
即ち兄に…グランに勝つことを望んでいるのだろうと。
香織が自室から去った後、ハジメはベッドに横になりながら思いを馳せていた、
『私が南雲くんを守るよ』
香織の言葉が何度も何度も脳内でリフレインする。
「これじゃヒロインだよね…でも僕だって」
ヒーローになりたい、そう、誰かを…
いつもそばで励ましてくれる姉同然の幼馴染。
「ジータちゃん」
自分には無限の可能性があると言ってくれた謎の天才錬金術師。
「カリオストロさん」
手伝うのは脅されてるからだと文句を言いつつも、自分を守って盾にまでなってくれた。
「遠藤君」
そして…。
「白崎さん」
ベッドから腕を宙に伸ばし、そして掌をギュッ!と握りしめるハジメ。
(あの薬だってカリオストロさんの力がなければ出来なかった、本当なら)
なんとしても自分に出来ることを自分だけの何かを見つけ出したい。
未だ燻る無能の汚名を返上しなければならない。
それが自分を守ると、そして期待してくれている人々に報いる道なのだと。
そう、ハジメは決意を新たにし眠りにつくのであった。
「クソッ!クソッ!」
宿屋の壁を蹴りつけ、廊下のカーペットに唾を吐く檜山、
勇者としてはあるまじき行為だが気にもならない。
「あのガキはここにはいねぇ、しかもアイツは一人部屋、チャンスなんだぜ!」
ハジメへの再度の襲撃を近藤らに持ち掛けた檜山。
治癒術と例の忌々しいハジメ謹製薬によって
数日前に受けた傷はほぼ回復していたが、
それでもまだ身体には傷跡が残っている。
やっぱりというか特に檜山の傷が酷いのは言うまでもない。
「……」
だが檜山を除く三人は明らかに乗り気ではない。
「なぁ信治、良樹ぃ」
「……」
「礼一、お前だって蒼野のことがよ…」
近藤の肩に手を回す檜山だったが。
「るせえよ」
だが、そんな檜山に不快感を隠しもせずその腕を振り払う近藤。
「…おい」
まさかの拒絶に目を剥く檜山、見ると中野と斉藤も同じような顔をしている。
「そんなに南雲をやりたきゃテメェ一人でやれや!
天之河に泣き入れたくせしやがって、うるせぇぞ!」
(アイツのせいだ…アイツさえ…)
あの日以来、周囲の自分への視線が微妙に変化していることに、
檜山は気が付いていた、このままだと…俺が。
そんな檜山の目に映ったのは、ネグリジェ姿の香織がハジメの部屋を出て
自室に戻っていくその背中…こんな深夜に!
檜山の中から何かがプツン…と切れた。
結局古戦場までにオルクスに辿り着けませんでした。
ある意味よかった…キャラもいるんじゃないかと思いますが。