ついに100話到達、まさかここまで続けることが出来たなんて、
自分でも思いも寄らなかったです。
で、コミケ→帰省というのが、ここ数年の年末のルーチンでしたが、
どうやら今年は自宅で小説を書きながらの年越しになりそうです。
「で……一体、どうなってるんだ?」
そんなハジメの言葉をぼんやりと耳にしつつ、雫はこれまでの事を思い出していく。
あの後、光輝らは恵里に釘を刺された通り、
まずは緊急時に指定されている集合場所へと向かっていた。
とはいえど、人々の救助や魔物の迎撃を優先しつつの行動なので、
その足取りは遅々として進まず。
「勇者だな!その命貰い受ける!」
「カトレアの仇ィ!」
さらには灰竜に跨った魔人族までもが、時折ではあるが斬り込みを仕掛けてくる。
それに応じ、ジャンヌが剣を構えるが、その前に光輝がずいと身を乗り出して行く。
あのオルクスでの、魔人族の女を斬ることに躊躇した光輝の姿が、
一瞬、後に従う者たちの脳裏に甦る、だが、一閃された聖剣の刃は、
まごうことなく魔人族の身体を捉えていた。
灰竜から振り落とされる魔人族の姿を確認しつつ、光輝はやや言い訳めいた口調で、
隣で驚きの表情を見せる雫らへと一言入れる。
「峰打ち……みたいなものさ」
今までの光輝は八重樫流のベースはあれど、
持ち前の高スペックに任せた戦い方が、ほぼ中心であったと言っても良かった。
だが、あの敗戦、ジャンヌの指導、そして様々な文献に当たることにより、
刃に光の魔力を宿し覆い、相手に致命傷は与えずショックのみを与える技を、
光輝は自ら編み出していた。
「今では使う者もない技だって、本には書いてたけど……」
無理もない、相手に応じ、常に魔力のオンオフを操作せねばならぬこの技は、
極めて効率が悪く、高い魔力量とそれに準じた操作能力を有する光輝でなければ、
使い熟すことは難しい技である。
それに光輝も理解していた、これは一種の逃げに他ならないと、
殺さずに済む技を会得した所で、自身の抱える問題を、
根本から解決出来るものではないのだと。
殺さぬ者と殺せぬ者との隔たりは、海より広く深いのだということを。
「光輝!命を奪うことなくとも人を導く術は、道はあります!、だからここは」
「自分が半端なことをしていることは理解しています、けれどっ!」
例え半端者の誹りを受けても、それでも先頭に立つべきは、
危険を背負うのは、自らでなければならないと考えているのだろう、
それが級友たちを望まぬ戦いに巻き込んでしまった自分の責務だと、
せめてもの償いだと言わんばかりに。
ましてそんな光輝の気持ちを理解出来ぬジャンヌではなく、
だから歴戦の聖女と言えど、それ以上は言葉が続けることが出来ず、
そんな光輝のすぐ後ろで、ただ雫と顔を見合わせた時だった。
ドドゥ。
そんな地響きと同時に民家の塀を突き破り、
ヘラジカと猪を合わせたような姿をした魔物が鼻息も荒く、
体高数メートルはあろうかという巨体を現し、光輝らの最後尾にいた、
何となくは付いてきたが、戦いにはまだ慣れていない、クラスメイトらから悲鳴が漏れる。
猪鹿のその牙はすでに血に塗れ、そして見る者を威嚇するかの如く、
大きく広がった角には、降り重なるように人々の亡骸が突き刺さっており、
その無惨な有様は、これは、ここで今起きていることは、単なる戦いではなく、
戦争なのだということを否応なしに彼らに突きつけるかの様だった。
届かない救いを求めながら、魔物の手に掛かり散っていたであろう人々の無念の表情が、
光輝の、いやこの場全ての人々の心を締め付ける。
「……光輝、ジャンヌさん、ここは私に任せて」
すかさず聖剣を構え直す光輝を制し、今度は雫が前に出る、その手に太刀を、
八命切を握りしめて。
太刀を構え、ずいと前に押し出す雫、そんな彼女の姿を猪鹿の方もロックオンしたか、
その鼻息が一層荒くなる、一気に勝負を着けんとばかりに、
鼻息に混じり、後足の蹄が焦れる様に地を蹴る音が響き渡る。
「こっちも時間がないの、むしろ急いでくれるなら好都合よ」
雫は八名切を鞘から抜くと、そのまま自身の眼前へと刀身を寝かせて、
掲げ持つかの様な構えを見せる。
(何だあの構えは?)
緊張の中にもやや腑に落ちぬ表情を見せる光輝、今の雫の見せる構えは、
彼女が扱う八重樫流には存在しない構えだからだ。
だが、そんな光輝の疑問には構うことなく猪鹿は地を蹴り、
速度と質量の赴くままの突撃を、雫に対して敢行する。
その勢いはまさに暴走トラックのそれを見る者に思い起こさせたが、
雫はただ軽く、とん、と地を蹴り上空へと舞い上がる。
鋭さは一切ない、優雅にふわりと夜空に浮かび上がる姿は、
例えるならば、まさしく胡蝶の舞いを連想させ、
そしてその足下を地響き立てて、猪鹿が通過する。
しかし、その通過の瞬間、雫の手の太刀が閃いたのを光輝の目は見逃さなかった。
そして、踵を返そうとした猪鹿の姿が僅かにブレたように見えた数瞬後には、
その巨体はまるで干物の開きのように、真っ二つになっていた。
「八重樫流改……ううん雫流、猪鹿蝶、なんてね」
会心の一撃に、雫と言えどもつい口が軽くなるのも無理はない。
あの夢の中でオクトーによって手解きを受けた刀術に、
自身の血肉たる八重樫の技を加えたそれは、まさに雫流を銘じるに、
相応しいと、今この瞬間に於いて雫は確信していた。
「あんなデカイのが……」
「八重樫さん、凄い」
そしてそんな声が自身の背後から聞こえる中、
ただ光輝は言葉もなく、その身を震わせていた。
(雫……いつの間に、そこまで)
雫の動きは、一切の無駄を省かれ、恐ろしいまでに最適化されていた、
魔力や武器のサポートもあるのかもしれないが、いわばあの魔物は最短距離で放たれた、
いや設置された斬撃の中へと、自分から全力で飛び込んだような物だと光輝は解釈していた。
相手の勢いを完全に利用し、必要最小限の力でもって、最大の威力を発揮する。
それは、武術を学ぶ者にとっての到達点の一つと言ってもいい。
その理想を自らの力でこじ開けつつある友の姿を、眩しい思いで見つめる光輝。
だからこそ今ここにいない、自分の一番の親友のことを、彼は思い起こさずには、
いられなかった。
(俺も雫もなんとかやってる、だから龍太郎、早く帰って来てくれ、
お前がいてこその俺たちなんだから)
こうして、予定から大幅に遅れたものの、
光輝らは何とか緊急時に指定されている集合場所へと辿り着く。
既にそこには多くの兵士と騎士が整然と並び、そして、メルド不在時には、
指揮を引き継ぐこととなっている、ハイリヒ王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが、
光輝らを手招きする。
「……よく来てくれた、状況は理解しているか?」
「はい、遅れてしまって申し訳ありません、ですが、
メルドさんがいない時に限って……こんなことになるなんて」
光輝とホセの会話を聞きながら、雫は兵士たちの中に混じってニアの姿があることを確認し、
一先ず安堵の息を吐くが、しかし、兵士たちの姿にまるで覇気が籠ってないことに、
彼女は僅かな疑問を抱く、確かに王都が奇襲されるという、本来ならばあり得ない事態に、
混乱するのは無理もない話だ、だが、兵隊という物は有事の時に動けてこそではないのか?
いや……それ以上に……決定的な違和感がある、何か重要なことを見落としているような。
「さぁ、我らの中心へ、諸君らが我らのリーダーなのだから……」
ホセに促されるように、光輝らは整列する兵士達の中央へと進み出る。」
やはりおかしい、兵士たち騎士たちはこの期に及んでも、
ホセ以外は無言で、表情もまるで変わらない。
雫が光輝へとそっと注意を促そうとした時だった。
「失礼……副団長殿、宜しいか」
「……」
ジャンヌの凛とした声が人垣の中で響く。
「この至急時に於いて、揃いも揃って煤はおろか、泥撥ね一つない、
その小奇麗な鎧の理由についてお聞かせ願いたい」
ジャンヌの疑問に、あ……と、雫は小さく声を上げる。
確かにそうだ、自分たちの到着が遅れたのは言うまでもなく、
人々の救助と魔物との戦闘に奔走していたからであり、然るに自分も含め、
光輝ら一行の中に、煤と泥で汚れてない者は誰一人としていない。
しかし、本来この場において、まず先頭に立って国民を守るべき騎士や兵士たちには、
全くその形跡がないのだ、まるでただ自分らの到着を呆然と待っていたとしか思えない。
「一体あなた方はこれまで何をしていたのです?」
「……」
「ジャンヌさん、ホセさんたちにもきっと事情が……」
光輝が窘めるような声を発するが、ジャンヌの舌鋒と眦はますます鋭くなるばかりだ。
「キミのような勘のいい人は嫌いだな」
ちなみにそんな呟きを彼らから少し離れた場所で発した人物がいたのだが、
もちろん気が付く者はいない。
「……」
「お答えいただけ無いのですか?」
自分たちを囲むように兵士が、騎士が、一斉に剣を抜刀し掲げる。
それをジャンヌは回答だと解釈した、すなわち……。
「皆、注意をっ!」
ジャンヌの叫びと同時に、ホセの手から何かが放たれようとしたが、
その前にジャンヌがホセの手首ごとその何かを斬り落とす、
しかし僅かに遅く、その何かは地表で炸裂し、
ハジメの閃光弾もかくやという強烈な光を周囲へと放った。
それでもジャンヌの警告を受け止めていれば、まだ彼らは動けていたかもしれない。
しかし、その叫びに反応出来たのはごく少数だった。
無理もない、まさかつい先日までの味方が、裏切りの牙を剥くことなど、
誰が想像出来ようか。
ズブリッ
閃光の中で、刃が肉に突き立てられる音が無数に鳴り、
次いであちこちからくぐもった悲鳴と、ドサドサと人が倒れる音が上がった。
「くっ……無事ですか、光輝、雫」
「ええ、何とか」
そして閃光が収まり、回復しだした視力で周囲を見渡した彼らが見たのは、
自分たちを除く、クラスメイト達が全員、背後から兵士や騎士たちの剣に貫かれた挙句、
地面に組み伏せられている姿だった。
「これは……一体」
どうやら難を逃れたのは自分ら三人だけのようだ、クラスメイトたちも傷こそ受けたが
まだ全員生きているようだ、しかしそのことに安堵する暇もなく、
騎士たちが次々と光輝らに剣を向けて殺到する。
「皆さん、どうしたって言うんですかっ!俺です、光輝ですっ!」
自らに向け振るわれる刃を辛うじて避けて行く光輝、しかしながらやはり動揺は隠せず、
その動きには切れがまるでない。
「ジャンヌさんっ!」
ジャンヌの背中へと突き出された剣先を、叫びと共に光輝は叩き落とすのだが、
そこで光輝は、ジャンヌの身体が小刻みに震えていることに気が付く。
「同じだ……あの時と……また……」
「大丈夫です、俺がいます」
ジャンヌを庇うように半身の構えを取る光輝、しかし肝心のジャンヌは、
やはりどことなく上の空だ、何よりその表情は、内面の葛藤を、
怖れを隠せないかの如くに険しい。
(……いつものジャンヌさんじゃない)
そんな中、雫はこの地で出来た、自分の親友をニアの姿を探す。
「ニアっ!無事っ?無事なら返事してお願いっ!」
「し……ずく……さま」
微かな声が届く、そこには騎士に押し倒され馬乗りの状態から、
今まさに剣を突き立てられようとしているニアの姿があった。
雫は剣撃をかいくぐると、一瞬でニアのもとへ到達し、
彼女に馬乗りになっている騎士に鞘を叩きつけてニアの上から吹き飛ばし、
その腕にニアを掻き抱く。
「ニア、無事?」
しかしそこで雫は目の前の少女から放たれる違和感に気が付く、その違和感は
兵士や騎士たちから放たれていたのと同じ……。
しかしそれに気が付くよりも僅かに早く、雫の背中に激痛が走った。
「あぐっ!?ニ、ニア?ど、どうして……」
「……」
地に頽れながら雫はニアの顔を見上げる、しかしニアは、
雫の知る、普段の親しみのこもった眼差しも快活な表情もなく、
ただ無表情に雫を見返すだけだった。
そしてほぼ全ての生徒たちに魔力封じの枷を取り付け終わった騎士や兵士たちは、
最後に残った二人、光輝とジャンヌへとその包囲の輪を縮めていく。
「ジャンヌさん……しっかり」
「分かってます、光輝」
互いの背を預けあう二人だったが、
それ故に光輝はジャンヌの震えだけでなく、不安が籠った荒い息遣いにも気が付いてしまう。
(やはり……今のジャンヌさんはどこか変だ)
その時、二人の耳に声が届く、それはか細かったが、光輝にとって聞きなれた声だった。
「二人とも……ごめん……ね」
その声の源へと光輝は眼を向ける……、そこにはアランに小さな身体を抱えられ、
喉元に刃を突きつけられた中村恵里の姿があった。
本編を通じた上での私にとっての天之河光輝のイメージは、
ダメな奴だが悪い奴じゃなく、困った奴だが憎めない(仕方ない)奴という感じです。
身近にいるとちょっとな……と、思うのも事実ではありますけどね。