そして可哀想な目にあうキャラが一人。
「ジータちゃん!南雲君、皆を……皆を助けて!」
二人の姿を見るや、自身もすでに傷だらけだというのに、鈴は気丈に叫ぶ。
その腕の中には血に濡れたジャンヌの姿がある。
「……こう…き、逃げて……どうか……君の…から」
とうに息絶えてなければならぬ傷だというのに、まだ息はあるようだ、
か細い呼吸の中に、そんな呟きも漏れ聞こえてくる。
(ジャンヌ……さん、その姿は……)
しかしジータは、その惨状以上に、ジャンヌの姿に息を詰まらせる、
そう、今のジャンヌの姿はあの日別れた、まさに聖女と呼ぶに相応しき、
美しき金髪と純白のドレス姿などではなく、
血に染まっていても分かるほどに変わり果てた、
まさに魔女、いや堕乙女と呼ぶに相応しい姿となっていたからだ。
ジータは、雫たちにポーションを手渡すと、
ジャンヌの口には、神水の瓶をあてがってやる、が、
ジャンヌの口元から神水が漏れていく、それを飲むことを拒絶するかのように……。
「どうして?ジャンヌさん飲んでくれないと死んでしまうよ!」
「お願い……ジャンヌさん、生きることを諦めないで、あなたは……、
光輝がきっと初めて心から守りたいと思った人だから……」
雫の言葉に、ジャンヌは一瞬迷うような表情を見せたが、
喉を鳴らし神水を飲み込んでゆく、
すると、ジャンヌの姿がまた、傷が回復すると同時に、
ジータの知る、元の美しき聖少女の姿へと戻って行く。
光輝の姿はそこには無く、彼の勇者であるところの象徴である聖剣が残されているのみだ。
その聖剣が、まるで墓標のように地に突き立っている様は、
言い様のない不安を二人に感じさせた。
「で……だから一体、どうなってるんだ?」
ジータたちをその背に守るようにしつつ、ハジメは鈴を問いただす、
渡されたポーションを頭から被りながら、鈴が口を開こうとするが。
「それは、そこにいる売女に聞けばいいだろ」
嘲り口調で、かつ憎悪と殺意の籠った眼でジャンヌを睨みつける恵里、
その姿は、教室で、そしてこの地に於いても変わることのなかった、
控えめでかつ、大人しい、そんな中村恵里の姿とは大きく異なっていた。
「なぁ、中村ってあんな挑戦的な態度取る奴だったか?」
「……香織ちゃんや雫ちゃんの方が詳しいんじゃないかな?」
光輝たちと幼馴染といっても、別の学校に通っていたこともあり、
ジータと鈴や恵里は高校に入ってからの付き合いだ。
「……それに」
ジータは怯えているとも、驚いているともつかぬ鈴の顔をチラと見つめる。
恵里とは自他共に認める親友である彼女ですらそうなのだ、自分に分かる筈がない。
「アランさんたち……操られているのかな?」
だとすれば厄介極まりないが……しかしジータはハジメの問いに悲し気に首を振る。
「セレストが教えてくれた、この人たち……もう、皆死んでいるって」
ジータの中に宿る、災厄を司る喪服の貴婦人の姿をハジメは思い出す。
さらに確認の意味を込めてジータは雫と鈴の顔を伺う、二人の顔に答えは描かれていた。
そして傀儡と化した騎士たちを、自らを守らせるように囲ませる恵里。
ともかくまずは傷つき拘束されているクラスメイトを何とかしないとならない、
ジータは水属性を思わせる青い水晶玉、ブルースフィアを天へと掲げる。
その姿はいつぞやのオルクスで披露した、愛らしいバニースーツに包まれている。
炎の戦場にバニーガール姿は少し浮いてるなと思いつつも、
今は皆との合流よりも人々の救助を優先したいと、そう口にした香織に代わり、
回復役を受け持った以上は仕方がない。
ハジメがいつもこの姿で自分を連れ回しているのではないかと、
誤解されやしないかとは思ったが。
(ドクターの方にしておけば良かったかも……)
オールポーションをクラスメイトの頭上に投げ、
矢継ぎ早に回復アビリティを行使するのも、あの時と同じ。
『ヒールオールⅢ』
『クリアオール』
香織には及ばないが、それでも再生魔法をミックスさせたヒールオールや、
クリアオールはクラスメイトらの傷をみるみると癒していく、さらに。
『レイジⅢ』
ジータの手の水晶が回復の光とはまた違う輝きを放つ。
すると、クラスメイトらの身体に生命力とはまた違う活力が満ちてくる。
そう、身体が燃えるような……。
このアビリティはその場にいる者たちの攻撃力を増す効果があるのだ。
ジータのヒールと、そしてバフを受けたクラスメイトらは、
次々と傀儡たちの拘束から逃れてゆく。
「みんな、こっちだよっ」
鈴が自身の結界の中にクラスメイトらを収容すべく声を上げる。
雫も戦線に復帰し、傀儡兵相手に太刀を振るって行き、
クラスメイトらも、傀儡兵たちの手を逃れ、鈴の作った結界の中へと
何とか逃れようとしている、しかし一部戦い慣れない者がいる上に、
光輝も龍太郎も欠く陣容では戦力不足が否めない、
しかも彼らに剣を向けるは、つい先日までの仲間であるのだ。
誰かが間の抜けた悲鳴を上げてへたり込む、そこに傀儡の刃が迫る。
が、次の瞬間、傀儡の腕はハジメの放った弾丸により弾け飛ぶ。
「ひぃ」
短い悲鳴を上げると、そのまま彼はまた一刻でも早く戦場から遠ざかろうと、
這いずる様にクラスメイトらの方へと向かう。
その悲鳴は傀儡よりも、自分に向けられていたようにハジメには思えた。
そんな慌ただしい乱戦の様を横目で見つつ、雫は叫ぶ。
「そこっ、フォローお願い……光っ……き」
そこで雫は光輝はこの場にはいないということに改めて気が付く、
いや、光輝だけではない、香織も龍太郎も……自分の傍で時に支え、
また支えられて来た友は、今、自分の周りには……。
その事を悟った途端に、己の身体に心細さが覆い被さるような感覚が走り、
その太刀筋が鈍っていく、さらにはそんな自分の姿と、
全ての支えを失い、泣き叫び逃げ惑う先程の光輝の姿が重なる。
(私だって……)
「雫ちゃん!手がお留守だよっ」
そこでジータの叱咤が飛び、危険な思考へと引き摺られつつあった雫の心は、
なんとか現実へと戻る。
(そうね……ジータだって私の)
「今は余計な事考えちゃダメ……そりゃ私だって心配だよ、けど……」
ジータとて光輝の事は心配である、あの天之河光輝が、
自身の正義の象徴たる聖剣を捨てて逃げ出すというのは、
余程の事があったに違いないのだから。
しかし、今は目の前の状況を打開しなければどうにもならない。
次いでジータは恵里の方へと顔を向ける。
騎士たちを壁にしているからか、頭頂部がチラと人垣の中から覗くだけの、
その姿からは当然表情は伺い知れない。
(……どうして)
ジータと恵里は鈴や雫を通じての交流しかなかったが、
それでもそれなりの関係は築けていたと思っていた、だから二人と同様に、
どうして?という思いが胸の奥から湧き上がってくる、だが、それ以上に湧き上がるのは……。
ジータはブンブンと頭を振り、迷いを心の中から振り払う。
そして、クラスメイトらが、鈴の展開した結界の中に入ったことを確認すると、
ハジメは宝物庫からメツェライを取り出した。
いきなり虚空から現れた凶悪なフォルムの重兵器に、その場の全員が息を呑む。
が、その銃口は僅かではあったが、震えているかの様に見える。
(あの人は……)
傀儡と化した騎士たち、兵士たちらの中に自分と見知った顔があることに、
ハジメもまた少なからず衝撃を受けていた。
(頼れる人も殆どいなかった中で、工房の使用の許可をメルドさんたちと一緒に、
掛け合ってくれた人、ああ、あの人は工房にやって来ては、
俺たちの世界の技術や文化について、耳を傾けてくれた人……)
それら人間であらんとしたが故に、切り捨てずに、切り捨てられずにいた物が、
ハジメの腕をほんの数瞬であったが鈍らせる、だが、この躊躇は、
覚悟と決意を今一度刻むための物だ……悲しみの中であっても。
メツェライの銃口の震えが止まる、しかしさらに試練は続く。
今度は銃口の前に巨体が立ち塞がる、ハジメに取ってもよく知る人物の。
「そこをどけ、永山」
「た、頼む……この子は、この子だけは……教室での事とか全部謝るから……」
永山の腕の中には、その巨体に埋まる様に抱きかかえられてるメイド服の少女がいる。
しかし、その首筋には明らかに致命の傷がある、もう傀儡と化しているのだ。
「愛しているんだ……だからっ、ぐふっ!」
永山の太腿にメイドの握ったナイフが突き刺さる、激痛に身体をぐらつかせた、
その巨体の鳩尾にもさらに刃が突き立てられる。
未だ人垣の中で姿は見えないが、その中で恵里が笑ったようにハジメには思えた。
「せめ……て、撃つなら……俺ごと……」
口角から血を、目からは涙を溢れさせながらハジメへと懇願する永山、
堅く閉じられたハジメの口から空気が漏れるような音が発せられたその時だった。
文字通り何処からともなく現れた遠藤が永山に足払いを掛け、
転倒したその身体を自分ごとワイヤーで地面に固定する。
それでも巨体を生かしたパワーで拘束を逃れようとする永山だが、
さらに雫が飛び掛かり、上四方にその身体を固める。
「撃ちなさい!南雲君っ!お願いっ!」
「撃てぇ、撃ってくれぇ~南雲ォ、頼むっ!」
背負わせることしか出来ない自分たちの無力さに悲痛な思いを抱きながら、
それでも二人は叫ぶ。
「う」
そしてハジメの口から今度は固唾を飲むような音が漏れ……。
「うおおおおおおおおおおっ!」
独特の回転音と射撃音を響かせながら、破壊の権化がついに咆哮をあげ、
薬莢の雨が雫や遠藤の身体へと降り注いでいき、電磁加速された弾丸が、
傀儡たちを型を留めない、ただの肉塊へと変えていく。
いや、咆哮を上げているのはマシンのみではない、
ハジメの心もまた叫んでいるのをジータははっきりと感じ取っていた。
そして破壊の嵐が止み、傀儡たちの残骸の中にポツンと身を隠すことも無く、
一人佇む恵里、その表情に一切の変化はない、まるで自身の生死すらどうでもいいという、
どこか諦めたような雰囲気が身体全体から漂っていた。
そんな恵里の元へとハジメを制し、足早に歩み寄るジータ、
その姿を捉えた恵里の目に、また憎悪の光が宿り始める。
「よくも……ハジメちゃんに」
例え、もうそれが死体であったとしても……、
何ら無意味な破壊をハジメに敢行させたことへの怒りと、
そしてハジメの心の叫びを代弁するかのようなジータの平手が恵里の頬を打つ。
しかし負けじと恵里もまたジータの頬を平手で打ち、さらに血の混じった唾を、
ジータの顔に吐きかける。
「よくも?よくも何だい?その姿でさ、どうせ毎晩南雲に可愛がって貰ってるんだろ?」
この殺戮の地に於いて、あまりに不釣り合いなジータの姿を恵里は睨みつけつつ、
せせら笑う。
「……忘れものだよ、恵里ちゃん」
それには一切応じる事なくジータはポツリと呟くと、
血に染まったストラップを恵里の足下へと投げて渡す。
「それは捨てたやつさ、落としたわけでも忘れたわけでもないさ、
ホントに君ってば余計なことばかりしてくれるね、いつもいつも……、
煩わしくって仕方がないよ」
恵里はストラップを、いや決別した想いの象徴をゴリゴリと足で踏みつぶす、
しかしその仕草は自暴自棄かつ、どこか虚勢を張っているだけのようにも見えた。
だから、その様子を遠目で見ながら雫はつい呟いてしまう。
「いくじなし……」
人間は永遠に勝利し続けることなど出来ない。
敗けを味わうことで、痛みを知り現実を受け入れて"次こそは"と前に進んで行く、
きっとそんな生き物なのだ。
胸を押さえる雫、去来するはあの冬の日の失恋の痛み。
だが、その痛みがあったから、痛みを覚悟で進んだからこそ、
今の自分があるんだと雫は心からそう思う。
「振られるくらい……何よ」
そんなに自分たちが頼りなかったのか?支えになるには足りなかったのか?
頼りなかったのだろう、実際光輝を御すことがまるで出来てなかったのだから。
そんな後悔も確かにある、だが、それでも……。
雫にとって恵里は、痛みを恐れるあまりに都合のいい幻へと浸り、
現実から目を背け続けた、そんな人間の末路のように思えた。
中村恵里の抱えている事情を、闇を知れば、知っていれば、
雫はまた違う思いを抱いたに違いないのだが、
残念ながら彼女のみならず、この場にいる者は全てを見通す瞳などは持ち合わせてはいない。
「銃振り回して、コスプレしてさ、随分と異世界をエンジョイしてるみたいだね、
南雲や可愛いお仲間と一緒にさ」
「おあいにく様、楽しいと思ったことなんて」
ねっとりとした口調の恵里へと、苛立ちを隠さず言い返すジータ、
一度もないとは言えないが、しなくてもいい苦労と綱渡りの連続であることは確かだ、
誰が好き好んで戦う道を選ぶというのか?
「なぁ……」
そこでハジメが口を挟もうとするが。
「ハジメちゃんは黙ってて」
「南雲は黙ってろよ」
「……ハイ」
二人に言い返されスゴスゴと引き下がる、その傍らで遠藤が溜息を付くが、
もちろん気が付かれることはない。
「……どうせ誰も助かりやしないのに……」
その諦観が混じった恵里の口調にジータは疑問を抱く、
この世界の裏を、カラクリを知らねば……出て来ないような言葉に思えたからだ。
「ねぇ……恵里ちゃん?もしかして……知ってるの?」
恵里もまた檜山同様に、神と……エヒトの存在を知り、その走狗となったのか?
いや、考えるまでも無い話だ、でなければ一個人の力で魔人族と取引など出来る筈がない。
「だったらさ、わかるだろ?僕たちはゲームの駒なんだよ、
駒が差し手に、ルールに逆らえるわけないだろ?」
ゲームの駒?ルール?……そんなクラスメイトらからの囁きを聞き流しつつ、
何をいまさらとばかりに、恵里は心底小馬鹿にしたような顔を見せる。
「檜山は神様のご機嫌を取って、自分だけ生き残ろうとしていたみたいだけど」
檜山の名が出たことでまたざわめきが大きくなる。
「僕は自分の望みをトコトンまでに叶えさせて貰おうと思ったのさ……けど、
全部台無しになっちゃった、だからさ、もう全部壊してしまおうかなってね
ま、それもこれも全部君たちのせいでもあるんだけど」
「……」
「言ってたよね?この世界の住人は、"顔も知らない誰か"なんだろ?」
無言のジータに畳みかける恵里。
「だったら核ミサイルでも作ってさ、さっさと魔人族を皆殺しにすりゃ良かったんだよ、
顔も知らない誰かが何千何万と死のうが、別に知ったことじゃないんだろう!
そしたらめでたくミッションクリア、それからゆっくりと帰る手段を探しゃ良かったのさ」
「そんなっ……」
恵里の口調は、お前たちも自分と同じだと責めているかの様だった。
「私たちはただ故郷に帰りたいだけでしょ?それだけの為に……」
危害を加えられたわけでも、ましてや敵でもない誰かを一方的に踏みにじる事など出来ない、
それこそが、まさに神の思惑そのものではないか。
「じゃあ君たちは今まで何人殺した?一人殺すのも一億人殺すのも、
殺された人間にとっては変わりゃしないさ、むしろ喜ぶんじゃないかなあ、
道連れが増えたって……見なよ、この街の有様を!僕が教えたのさ!
君よりも僕の方がずっと戦争の役に立ってるさ!」
その余りにも黒すぎる、まさに死に憑りつかれた思考に息を呑むクラスメイトたち。
「人間じゃない……」
そんな誰かの呟きが漏れる。
「……そんな君たちの半端さが僕や檜山を、そしてこの地獄を産んだのさ」
「御託はそれだけ?」
内心の動揺を隠すかのように、あくまでも静かにジータは言い返す、
そういう所に関しては彼女の方が堂に入っている。
「どんなに言葉を重ねても、恵里ちゃんのやった事は、ただの人殺しだよ、
誰にも誇れない」
殺しが誉れであっていいものか。
「そして一切必要のない、ね」
「下の名前で呼ぶなっ!親ガチャに成功したくらいで偉そうにっ!」
やや脈絡のない叫びを上げる恵里、結局はそういう所が本音なのかもしれない。
それについて言い返そうとしたジータだったが、上空の気配に気が付き、
クラスメイトらを庇うために一旦後ろへと下がる。
「そこまでだ……その娘は我ら陣営への亡命を希望している、手出しは困るな」
空から白竜に騎乗したフリードの声がする。
「外壁の外には十万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に百万の魔物が控えている、
これ以上無辜の民とやらは巻き込みたくはなかろう……大人しくして貰おうか、
お前たちがいかに強くとも、これらの魔物全ては屠れまい」
明らかに挑発の気が混じるフリードの言葉に、今度はハジメが反応する。
「だったら……試して見るか?」
「ほう?出来るとでもいいたいのか?」
女同士の口喧嘩に置いてけぼりを喰った鬱憤を晴らさんとばかりに、
ハジメの目が光る……その言葉聞いたぞと。
無言でハジメは自身のスマートフォンを取り出し、操作を始める。
「お……おい、待て……」
猛烈に嫌な予感がしたフリードは慌てて制止の声を上げ、
白竜に命じ、極光を放たせようとしたが……遅い。
その瞬間、天空から降り注ぎ突き立った光の柱が王都外の魔物たちの
ど真ん中にて炸裂し、その光を浴びた魔物たちは一瞬で蒸発し、
凄絶な衝撃と熱波が周囲に破壊と焼滅を撒き散らす。
対大軍用殲滅兵器"ヒュベリオン"簡単に言えば太陽光収束レーザーである。
そのメカニズムは、巨大な機体の中で太陽光をレンズで収束し、
その熱量を設置された"宝物庫"にチャージする。
そして地上に向けて発射する際は、重力魔法が付加された発射口を通して、
再び収束させるという仕組みとなっている。
放射時間は僅か数秒、しかしその後には、
破壊力の凄まじさを立証するかの如き、焼き爛れて白煙を上げる大地と、
強大なクレーターが穿かれている。
「で、ゲートの向こうに百万……だったか」
あくまでも静かな口調でハジメはまたスマホを操作する。
すると空中に映像が……フリードら魔人族の本拠地、
魔国ガーランドの『現在』の様子が映し出される。
絶句するフリード、次はあの光を自分たちの母国の頭上に放つ、と、
目の前の白髪の少年は無言の圧を加えているのだ。
(ジータの発案で作った情報収集衛星カノープス……こんな所で役に立つとはな)
「核ミサイルでも作って、さっさと魔人族を皆殺しにしろ?だっけ」
皆殺しというジータの言葉に、フリードの恵里を見る目が険しくなり、
ジータを睨む恵里の口元からギリッ!と歯軋りの音が鳴る。
ハジメはともかく、この女ならやりかねない、やらせかねない。
もしも必要とあれば、本当に核ミサイルでも何でも作って容赦なく撃ち込むに違いない。
恵里は自分が読み間違えていたことを、ここでようやく理解する。
この忌々しい女は、"できない"のではなく、"やらない"のだと。
一方のジータもまたフリードと、恵里の出方を慎重に伺う、
一連のこれはもちろんブラフである……ただし。
『さっきのはまだ一発しか撃てないんだぞ……』
『だったら撃たずに落とせばいいでしょ、もちろん人のいない所にね』
念話に即答するジータ、ここで退くわけにはいかない、もし退いてしまえば……、
いずれ本当に彼らの国へと太陽光レーザーを発射する事にもなり兼ねないのだから、
それはジータに取っても"絶対にやりたくない""絶対にやらせたくない"事なのだから。
(お願い……分かって)
「いいだろう……」
やがて、フリードの口から血を吐くような怨嗟の呻きが漏れる。
それは千歳一隅の機会を失ったという事、乾坤一擲の義挙に敗れたという事を、
認めた証だった。
「ただし我らの撤収が終るまで一切の手出しは無用だ、
その約が守れぬのならば、我ら全て死兵となりて貴様らと刺し違えてくれるわ」
フリードは震える口調でそれだけを言うと、まずは上空へと光弾を放つ。
おそらくこれが撤退命令なのだろう、そして自身は白竜を地に下ろすと、
恵里に乗るよう目で促す。
「このままで済むと思うなよ……もう君たちに取って戦争は他人事じゃ無くなったんだ」
クラスメイトらを見回し一言凄むと、恵里はそのままジータへと駆け寄り、
まるで唇と唇が触れ合う程に顔を寄せて囁きかける。
「これでもう、すんなりとは帰れなくなっちゃったね」
「ッ!」
それだけを口にし、恵里は踵を返すと、もうジータには構うことなく、
フリードの白竜の背に飛び乗る。
そして自分が確認出来うる限りの全ての軍勢が撤収したことを確認し、
最後にフリードがゲートに入る。
「……この借りは必ず返すっ……魔人族の栄光!この私のプライド!
この次こそはっ!こうも容易くっ……やらせはせん!やらせはせん!やらせはせんぞ!!」
恨み……というよりは口惜しさの混じった捨て台詞を残し、
フリードと恵里はゲートの向こうへと消え、こうして王都の戦いは一先ず終焉を迎える。
しかし、彼らにはまだやるべき事が残っている。
級友の裏切り、勇者の失墜、それらを越えて未だ炎の中に取り残されているであろう、
多くの人々を救うという事が。
そしてそんな中、地面にへたり込み、血に濡れたヘッドドレスを握りしめる永山の目が、
ハジメへと煙った光を放つのであった。
恵里のジータへの屈折した思いは、最終局面で明かされる予定です、
と、言いましても今からそんな事書いちゃうと鬼が笑いますね。
永山君に関しても少しやって欲しい役目があるので、
申し訳ないのですが、悲しい思いをさせてしまうことになってしまいました。