ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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長くなりそうだったので分割。

まずは話をしないと始まらないですよね、
原作でも今に至るハジメと光輝の確執はそういう部分が、
未だ曖昧なままになってるところもあるのかなと思うわけなので。



Try to Understand

 

「……まさかこんな話になってしまうなんてな」

「ああ、とんだタヌキだよ、あの姫さん」

「それもまた、国を……人々を背負うってことなんだろうな」

 

訓練場の片隅で塀にもたれ掛かり、

ハジメと光輝はややボヤキめいた言葉を口にしつつも額の汗を拭う。

二人が思い受かべるのは、あの決闘宣言の直後のことだ。

 

 

「ならば、その勝負、この王国摂政リリアーナ・S・B・ハイリヒに、

預からせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

男と男が静かにではあるが視線をぶつけ合う中に割って入る唐突な声に、

ハジメたちのみならず、クラスメイトたちも思わずリリアーナへと、

視線を集中させる。

 

「ハジメさん、如何でしょうか?」

「……俺は別に」

 

やや戸惑いつつも応じるハジメ、問題はむしろコイツだろと、

云わんばかりのその視線の先には、やはり光輝の姿がある。

 

「あ、もちろん勇者様には何の異存も無い筈ですよ、そうですよね!」

「……はい、リリ……いえ、摂政様」

 

予想に反して素直に頷く光輝、彼に取っては、自分が今こうしてここにいること自体が、

様々な人間たちの厚意に基づくものであることを十二分に理解している。

だから、もとより異論など口にしていい立場ではないことくらいは弁えている。

ただどうしてここで口を挟んでくるのかという疑問は、ハジメ共々持ってはいたが。

 

一方のリリアーナではあるが、

彼女とて男と男の戦いに口を挟むべきではないことくらい承知している。

それでも二人は今や王国の、ひいては人間族の貴重な戦力である、

万一のことがあってはならない。

それに彼らが協力者でいてくれる間は、戦力として計算出来る間は、

自身の良心の許す限り使い倒すという、いわば為政者としての考えもそこにはあった。

 

ただしそういう計算高さだけでは決してなく、

名目を、制約を与えれば、この二人も無茶はしないだろうという思いが、

先にあったことも確かである。

 

ともかく、こうして話はとんとん拍子に進み、

互いの決意と覚悟を確かめ合う、そんなささやかな決闘は、

何時の間にやら王国復興と人間族の不屈を示すべく行われる、

壮行試合にして御前試合へとその目的をすり替えられてしまっていたのであった。

 

「さて、また練習するか」

 

休憩を終え、人払いをした訓練場の中央へと戻るハジメと光輝。

自分たちが行うのは、あくまでも内外に王国健在、勇者ありを示すための試合だ、

ゆえに血で穢すことは許されず、どこぞのレスラーとボクサーとの試合の如き、

塩展開も決して許されない。

 

従って彼らが行うことはいわばプロレスであり、

今のところはブックの確認中といったところであろうか?

 

「最終的には引き分けにすりゃいいんだよな」

「すまない、と、いうか、お前もまずは入場の動きくらいは覚えてくれ、

でないと先に進めない」

 

謝意を示しつつも、チクリと反撃を始める光輝。

 

「ええと、まずは……」

「違う、足が先だ」

 

もともと八重樫道場で儀礼的な構えや所作の数々を学んでおり、

そしてこの地に於いても、そういった行事に参加することが多かった光輝とは違い。

実戦叩き上げのハジメには、決まり事や制約の多いこれらの動きは、

窮屈にして面倒くさいの一言に尽きる。

 

それにもとより互いの得物が剣と銃である、噛み合う筈もなく、

メルドらの指導を受けつつも、二人の動きは未だぎくしゃくとしたままであった。

 

しかしそれにしてもメルドもだが、ジータたちは一体何をしているのか?

早く来てくれないとこのままでは間が持たない。

 

ちなみにそのジータと、それから雫だが、

実は案外近くで息を潜め、二人の会話に聞き耳を立てていたりする。

 

 

「いいんですか?二人だけにしておいて」

「いいんだ、あいつらは互いの事を知らなさすぎる」

 

ジータと雫はメルドの言葉を思い出す、彼はあえて二人きりの状況にするように、

心配気なジータと雫に事前に指示を出していたのだった。

 

「何かしこりを抱えているのなら、早めに出し切った方がいい、とは言うけれど」

「しこり……と、言えるほどの関係も無かったと思うんだよね」

 

教室での二人の関係はといえば、例によって勝手な思い込みに躍らされた、

光輝がハジメに喰ってかかっていた程度のもので、それすらも、

自分や香織を介してのものであり、それはここトータスに於いてもほぼ変わることはなく、

だから二人はいわば関係云々以前の問題だと、ジータには思えてならない。

 

「ですが、お二人とも変わられました、ならばきっと新しい関係を築ける筈、

いえ、そうでなくてはならない筈です」

 

リリアーナもメルドの意見に賛成の意を示し、

その言葉にメルドも我が意を得たとばかりに頷いたのをジータたちは思い出す。

 

「お前さんたちも武術を齧っていたのなら、演武の一つもやったことがあるだろう?

心がけるべきものは何だ?」

「それはもちろん互いの呼吸に合わせて……あ!」

 

もしかして唐突に御前試合などと言いだしたのは、

それを期待してのことだったのかもしれないと雫は思った。

 

 

しかしこうして見てる分には、どうにもじれったくてならない。

二人の気分はまるで"はじめてのおつかい"を見守る母親の心境だった。

 

「な…なぁ」

 

ここでようやく光輝が、ハジメへとたどたどしい口調ではあったが話しかける。

光輝にとって友人とは向こうからやって来るものであって、

自分から求めるものではなかった、少なくともこれまでは。

 

「なぁ……南雲が、初めて人を殺したのは、いつだ?」

 

間の保たなさに少し焦れたとはいえ、

本来聞くべきではないことを、ハジメへとストレートに尋ねてしまい、

言ってからしまったという表情を見せる光輝、

やはりそういう気配りが、何処か自分には欠けているようだなと、

つくづくこれからを我ながら思いやらずにはいられず。

それは物陰で聞き耳を立てるジータと雫にとっても同様であった。

 

((いきなりそういうこと聞くんだ……))

 

そんな光輝らの内心を知ってか知らずか、ハジメは淡々と自身が初めて人を撃った日、

大峡谷での帝国兵との一件を語って聞かせる。

 

「そうか、奴隷狩りか……」

 

かつて自分に一杯喰わせた帝国皇帝ガハルドの顔を思い出す光輝、

あの男の麾下ならやりかねないとも。

 

「言い訳をするつもりはない……けど」

「気にするな、そんな連中なら、南雲がどんな宝物を持っていても同じことになってたさ」

 

そう言いつつも、自分ならどうしただろうかと光輝は思う。

 

「後悔しているわけじゃない、あの時は……ああするより他に思いつかなかった」

 

遠い目を見せるハジメ。

確かに戦いはきれいごとではない。

生き残るためならばいかなる汚い手も使うし、事実そうしてきたという自覚もハジメにはある。

だが、それを免罪符として好き勝手に振る舞うのは何か違うし、

そんな生き方が他人から尊敬されるとは思えない、精々が動物園の猛獣扱いが関の山だ。

 

「けど、他にやり方は無かったのか?ってことだけはいつも考えることにはしている」

 

避けられない争いがあるからこそ、避けられる争いは避けねばならない。

救えない命があるからこそ、救える命は救わねばならない。

そのことに依って殊更尊敬されたいとも感謝されたいとも、

英雄や勇者になりたいわけでもない。

だが少なくとも自分を愛し慕ってくれる女の子たちを、

己の行動で恥ずかしい思いをさせたくはない。

そんなささやかな羞恥心を抱き続けることが出来たからこそ、

今の自分があるのだとハジメは思う。

 

「じゃあ、今度は俺が聞く番だ」

 

光輝を見るハジメの瞳がやや意地悪く光る。

 

「結局、どうやって許して貰えたんだ?頭を丸めるだけじゃ済まない話だぞ、本来なら」

 

いかな理由があれど、職場放棄、まして敵前逃亡など以っての他である、

本来ならば重罪の筈だ。

 

「……許して貰えたわけじゃ決してない」

 

確かにメルドらからかなり厳しい叱責を受けたのも事実だし、

あの日以来、顔を合わせ辛く、仕事を理由にジャンヌから逃げ回っているのも、

また事実である。

しかし、むしろ償いはこれからなのだという思いが光輝にはある、

だからこそ個人的な私闘を見世物にされるという違和感を内心抱えつつ、

リリアーナの提案に乗ったのもその一つだ。

 

「……ただ」

「ただ?」

 

光輝はつい先日のリリアーナの言葉を思い出していた。

 

 

「以前のあなたには、まるで人形のような頑なさがありました」

 

ひたすらに平身低頭し許しを乞う光輝へと話しかけるリリアーナ、

王族として幼少時から様々な人物と接して来た彼女にとって、

光輝の笑顔はまるで造り物の様に、最初からそうするように仕組まれた、

浮世離れした舞台の演者のような何かにしか見えなかった。

 

「でも……安心しました、あなたは確かに失敗したのかもしれません」

 

リリアーナは力づけるかのように、項垂れる光輝の肩へと手をやり、言葉を続ける。

 

「ですが、その胸の中には私たちと変わらぬ物が宿っているということを知ることが出来て」

 

勇者ではなく一人の人間として自身を思いやってくれる、リリアーナの、

いや……多くの仲間たちの言葉に、光輝は自身の視界が歪んでいくのを感じていた。

 

「だからこそ、今度こそあなたは答えを示さねばなりません、勇者である前に、

人間としての答えを」

 

 

不思議な物だ、あれほどまでに特別であることを欲していた自分が、

今では普通であることを願い、喜びを感じるようになるとはと、

光輝は思わずにはいられなかった。

 

「ただ何だよ?」

「何でもない……けどお前の話を聞いてて思ったんだ」

 

口籠りつつも光輝はポツリと呟く。

 

「これから俺たちが戦うであろう敵にだってきっと……会いたい家族があって

帰りたい家があるってことは忘れるべきじゃないよな」

 

それでも刃を向け合い血を流し合うのが戦争の罪悪なんだろうなと、

二人は顔を見合わせる。

 

「とっ……ところでだな」

「な、南雲ってマンガとか……詳しいんだよな?」

 

((うーん、そこでそういう話に戻すかなぁ))

 

何とか歩み寄ろうとしている努力は認めるが……。

しかし今の自分たちの姿は、おつかいを見守る母親を通り越し、

何とかお見合いが纏まるようにと願う仲人のようだなと、

ジータたちとしては思わざるを得ない。

 

「い、妹が読んでるマンガで……ウチの道場の女子とかも読んでてて……その、

それでだな、ご…〇等分の花嫁って……知ってるか?」

「……まぁ、読んでるけど」

 

困惑を隠さず言葉を濁すハジメだったが、一応本来の得意分野なので、

先程よりは楽な気分で会話に乗ることが出来る。

 

「主人公の花嫁は誰だと思うってか?もしかして」

「あ……ああ」

 

ハジメが会話に乗って来たことで、光輝も少し気が楽になったのか、

先程よりは声に弾みが出て来ている。

と、未だギクシャクとしつつも、何とか歩み寄ろうとしている、

そんな二人の様子に耳をそばだてつつ、ふと、空を見上げた雫の目に、

何やら黒い点のような物が降り重なるようにこちらに近づく、いや落ちてくるのが映る。

どうやらハジメらもそれに気が付いているようだ。

 

「ねぇ、あれ?」

「な……なにかなぁ?」

 

まだ何も聞かれていないのに口籠るジータ、その態度を受けて、

雫が隣に座るジータの顔を訝し気に覗き込む、

考えてみれば香織共々、先だってからどうも様子がおかしかったのだ。

 

「ねぇ?ジータ……何か知ってるんでしょ?」

「知ってるっていうか……その……ちゃんと止めたんだよ、私」

「止めた?止めたって何よ!答えなさいよ!」

 

聞き捨てならぬ言葉を耳にし、思わず語気を荒くする雫、

その時であった、複数の黒点の中の一つだけが、

地上へと急スピードで迫っている姿を捉えたのは。

 

 

「先に行かせて良かったのかなぁ」

「あのままじゃ何時までたっても顔を合わせようとしねぇからな」

「……あはは」

 

一方、上空でウロボロスに乗り、悲鳴を上げながら落ちていく何かを見下ろすのは、

香織とカリオストロだ。

 

「しかしアイツのあの不器用さは何だ、折角のスペシャルボディが宝の持ち腐れだぞ」

 

 

「おい!」

「ああ……上から何か来るな」

 

頷きあうと互いの得物をその手に握る、ハジメと光輝。

最初は黒い点だったその物体は、今やぐんぐんとその姿を露にしつつ、

地上へと迫って来ていた。

 

「うわああああああっ!光輝ぃ!うっ受け止めてくれぇえええっ!」

 

そんな悲鳴が聞こえたかと思うと、その物体は吸い込まれるように地面に激突する。

そして舞い上がった砂煙が晴れると、そこには美しき銀髪碧眼の美女が、

頭を振りながら立ち上がる姿があった。

 

「てめぇ……」

 

ハジメはすかさず状況が今一つ飲み込めていない光輝へと、警告の叫びを飛ばす。

 

「離れろ天之河!こいつは神の手先だ!」

「なるほど……そうか、お前が」

 

光輝の瞳が鋭さを増していき、その声が怒りに震える。

 

「ま!待ってくれ!お……俺、俺だって!なぁ光輝ぃ!」

「貴様の様な奴に気安く下の名前を呼んでもらいたくはない!

神の走狗め!覚悟しろ!」

「ホ、ホント!ホントに俺だって!なぁ俺!俺だよっ!」

 

必死で泣き叫ぶノイントだったが、

その様はハジメらにとってはまるで詐欺師のようにしか見えず、

怒りに声を震わせながら光輝は聖剣を構え、

ハジメもまたドンナーを銀髪碧眼の美女―――ノイントへと突きつけたその時。

 

「ま、待って!タンマっ、タンマだよ!」

 

息を切らせてジータが彼らの間へと駆け込んで来たのであった。




ノイント……一体何者なんだ。
ちなみに五等分の花嫁はこの世界ではまだ完結していません。

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