それはさておき、まずは死刑執行から。
PS 今回は章の締めくくりと言うことで長いです。
地下牢には見張りは誰もおらず、扉の鍵も開いたままだった。
ランプの薄明かりのみを頼りに、その影は足早に向かう、
国事犯のみが収容されるという地下牢のさらに最深部へと、
そして最深部の突き当りの大牢の前に、いよいよ差し掛かった時だった。
「やっぱり来たか」
「考えることは同じみたいだね」
ハジメとジータの声が、その影の主、天之河光輝の背中へと掛けられる。
「お前ら……」
そう、彼らは三者三様の思いはあれど、
図らずも朝を待たずに檜山を処断するという結論に達したのだった。
何より、このまま檜山を刑場に送れば、結果的に彼の処刑に、
命を奪うことに関してクラス全員が関与したこととなってしまう。
戦いに関わるべき者は、痛みを知るべき者は、穢れを負うべき者は、
出来る限り少なくなければならない、その思いは三人とも同じなのだから。
例えそのことによって、帰還が叶ったとしても、日本での平和な日々を謳歌出来たとしても、
自分たちがそれを心から喜ぶことが叶わなくなったとしても。
ともかく二人の姿に一瞬言葉を詰まらせる光輝だが、
すぐにその表情は引き締まった物へと戻る。
「待っていてくれたのなら、せめて話だけでも……させて欲しい」
少なくとも檜山の監督責任の一端は、自分にもあった筈なのだから、
それに確かめたかった、本当に檜山大介は極刑に相応しき外道へと堕ちてしまっているのかを、
自分自身で、それが……あの日、例えどんな半端な気持ちであったとしても、
多くの運命を背負うことを宣言した者の義務だと光輝は思っていた。
「出来るのか?」
命を奪うことについて、光輝が未だに強い禁忌を抱いていることはハジメも承知している、
ましてや罪人とはいえ級友の命だ。
万一逃がす……などと口にしようものなら。
だが、ハジメの不安など承知の上なのだろう、光輝は案ずるなとばかりに静かに頭を振る。
「俺の判断に不満があるならその時は止めてくれて構わない」
そして意を決し、光輝は檜山の牢へと足を踏み入れ……眼前の異様な物体を、
目の当たりにすると思わず目を背けてしまう。
そこには幾本もの生命維持装置のチューブに繋がれ、
カプセルの中でごぼごぼと不気味な呼吸音を響かせる檜山の姿があった。
牢内は思った以上に広い、表に出すわけにはいかない極重悪人への、
簡易法廷としての役割もあるのだろう。
「よぉ……天之河ぁ」
どんな仕組みなのかは分からないが、透明の液体に満たされたカプセルの中で、
檜山は歯茎を剥き出し、光輝へと笑いかける。
その笑顔は人が浮かべていいものではなく、獣の笑みだと光輝は直感した。
「助けに来てくれたんだろ、なぁ……俺は無実なんだ、全部南雲のせいなんだ
あんなにたくさん人が死んだのも、無能な南雲が生きているからなんだ、
俺は無能を懲らしめてやりたいだけなんだ、分かるだろ?」
気安い口調で呼びかける檜山、彼の中にある光輝はきっとあの教室での姿のままなのだろう。
「それにいい事教えてやるぜ、こ、この戦争はなぁ……」
口内から気泡を吹き出しつつも、檜山は光輝へと"世界の真実"を捲し立てる。
もっともそれは檜山の知る範囲の物でしかなく、
その上過剰なまでの脚色や、自身にとっての言い訳に満ちていた。
もとより光輝にとっても、もう聞いたよという物でしかない、
だが、檜山としても必死なのだ、だから蜘蛛の糸に縋る罪人の如き形相で捲し立てる。
「神様に逆らってる南雲を殺したら、きっと皆日本に帰れる、
南雲さえ殺したら皆ハッピーになれるんだ、お前勇者だろう?
勇者なら皆のためになることをしなきゃならねぇよなあ、だから俺と一緒に南雲を殺そう、な
南雲を殺して皆を幸せにしよう、南雲を殺して世界を平和にしよう、
アイツの連れてる女は、全部お前と坂上で半分こしていいからよぉ、お前だって
香織と蒼野を南雲に取られて悔しいんだろう?」
現実から目を背け、ただ憎しみに縋る、そんな檜山の姿を、
悲しげな目で見つめつつ、光輝はようやく口を開く。
「ああ、それについてなんだが」
「え!南雲を殺してくれるのか?」
一瞬、その顔に喜色を浮かべる檜山だが、それには構わず光輝は続ける。
「実はさ……お前が殺したがってる南雲が、皆を日本へと連れて帰れる船を造ってくれたんだ」
その言葉に牢の外のハジメとジータは互いに顔を見合わせる、
光輝は一体何をしようとしている?
「もう、俺たちは戦争に関わることも、神々の争いに巻き込まれることもない、
だから今夜はお別れを言いに……来たんだ、残念だよ……こんなことになってしまって」
淡々としているようで、その語尾には光輝の逡巡を現すかのような震えが聞き取れる。
それでも彼は檜山の顔からは視線を逸らさない。
「う……うそだ……南雲に」
無能にそんなもん作れていい筈がない、嘘だ、お前は嘘を吐いている、
そう言い返そうとした檜山だが、そこに光輝の言葉が重なる。
「嘘の筈がないだろう……」
上着のポケットに突っ込んだ拳を握りしめつつ、光輝は続ける、
ぬるりとした感触が伝わる、握りしめすぎて掌の皮が破れたようだ。
「この俺が、勇者の俺が言うんだから」
檜山大介は知っている、目の前の男が、天之河光輝が、
何よりも嘘と卑怯を嫌っているということを、その筈の男が、勇者が放ったその言葉は、
どんな刃や銃弾よりも鋭く、檜山の心を貫き、そしてその心に最後に纏った、
虚勢の鎧を完膚なきまでに打ち砕いた。
「あ……あ……あああああ」
喘ぐような檜山の声と共に、
ごぼごぼごぼごぼとカプセルの中の気泡の量と音が激しくなっていく、
そしてその目が大きく見開かれ、こうしてついに檜山大介は悟った、
己を支え続けた憎しみが、全て無為な物になってしまったことを、
そして自分が、"無能"以下の"外道"に堕ちてしまったことを。
「あ…ああ……ああ……ああっ…いっいやだああああああっ!
死にたくねぇ~~~頼む、助けてくれぇ~~~~俺も連れて帰ってくれえええええっ!」
「お……おい!」
檜山の絶叫にハジメとジータが牢内に飛び込むが、もう檜山には彼らの姿は映らない。
ただあらん限りの声で泣き叫び続けるのみだ。
「オヤジィ、かーちゃーん~~~うわああああああっ~~助けてくれぇ~~~
帰りてぇ~~~家に帰りてぇ~~~わああああああ~~死にたくねぇよぉおおおお
俺が悪かったよぉおおおお!だからよぉ~~~!」
そんな檜山の姿を目の当たりにし、流石に堪えきれなくなったか、
俯き視線を床に落とす光輝、その顔は憤怒と悲嘆に満ち、
固く握りしめられた拳からは血が滴り落ちている。
「死なせるわけにはいかない!罪を犯すことが当然の魔物として!
罪を顧みる事の出来ない獣として!……死なせたくはなかった」
迷いを断ち切るかのように頭を振り、光輝は震えながらも聖剣を抜き放ち、檜山へと構える。
「せめて人間らしく、己の罪を悔やみながら死すべきだ!
それがお前が奪った多くの命への償いだから」
だが、断罪の刃を握るその手はハジメによって止められる。
「これが俺の責務だ、二人とも止めないでくれっ」
「止めても構わないってさっきは言ったくせにっ!」
言った傍からと思いつつも、それでもハジメと共にジータも光輝を止めに入る。
「こんな奴の命なんぞ、お前に背負わすわけにはいかねぇよ!」
「違う!こんな奴だからこそなんだ!檜山をこんな奴にしてしまったのも
元はといえば優しさと無関心を履き違えた俺の責任なんだっ!」
「そうやって何もかもしょいこむことないから!まったく極端過ぎ……」
そこでジータはカプセルの中の檜山が、白目を剥いていることに気が付く、
と、同時に、生命維持装置から警報音がけたたましく鳴り響き出し、
その音を聞きつけたか、カリオストロと愛子が息せき切って牢内に入ってくる。
やけにタイミングがいいなと、ふと思ったハジメたちだったが、
もしかすると、彼女らもすぐ近くにいて様子を伺っていたのかもしれない。
ともかく、カリオストロは自身の作った生命維持装置のチェックを行っていたが、
やがて溜息と共にスイッチを落とす。
「檜山は……」
ジータの問いに無言で首を横に振るカリオストロ。
「誰のせいでもねぇよ……平たくいうとな……寿命だ、
朝を待たずに、こいつは勝手にくたばりやがった」
寿命、という漠然とした言葉に拍子抜けしつつも、納得のいかない思いを抱える、
ハジメらへとカリオストロは続ける。
「元々生きてるのが不思議だったんだ、ここまでよく保ったと言うべきだな」
「ですがっ!」
それでも不満気な光輝に向け、愛子は諭すようにその肩にそっと手を置く。
「受け入れて下さい……あとはこちらでやって置きます」
口調こそ静かではあったが、これ以上は何も聞くなと言う雰囲気に、
大人しく引き下がる三人、その背中を眺めつつ、カリオストロもまた口の中で
静かに呟いた。
「背負うのはな……まずは大人の役目、なんだぜ」
こうして、小刻みに背中を震わせる愛子の後姿を見やりつつも、
やりきれない徒労感と無常感に支配された身体を引きずるように、
ハジメたちはその場を去るしかなかった、しかしながら……。
いかに外道に堕ちたとはいえ、
級友の命を断たずに済んだという安堵感が無かったかといえば、
嘘になるだろう。
……ただ、どうにも腑に落ちぬ疑問も残ってはいたが。
「なぁ……どうしてあいつは……檜山はお前をそこまで憎んでいたんだろうな?」
「「……」」
そんな疑問を口にした光輝へと沈黙で応じるハジメとジータ、
本当に彼らにはそれが分からなかった、最後まで。
こうして檜山の死は、近藤同様に一先ず公式には秘匿されることとなった、
いずれ折を見てもっともらしい理由で公表はされるだろうが。
それから数日、ハジメたちは旅立ちの準備を終えようとしていた。
「食料とか多すぎやしませんかぁ」
「いいんだ、天之河たちの分もあるからな」
シアの指摘に、さも当然とばかりに答えるハジメ。
「来るの……でしょうか?」
大迷宮の過酷さ、危険さは十二分に伝えたという自覚はある、
志だけでは攻略など決してままならぬことも、きっと承知しているだろう。
それでも。
「来るさ、必ず」
また確信めいた言葉を口にしたハジメの耳に、複数の足音が届く。
言わずもがな、光輝ら勇者パーティ一同とさらに愛子とカリオストロの姿もある。
な、と、ハジメはシアに目配せするが、
シアはその中に本来いるべき存在が欠けていることに気が付く。
「姫様はどうしたですか?」
「今日は早めに下がられました、明日も早いとのことですから」
今回はリリアーナも同行することになっている、といっても、
もちろん大迷宮に連れて行くわけではなく、
先の王都侵攻の見舞いということで、帝国からも使者が出ており、
その返礼としてリリアーナが直接帝国に向かう必要が出て来たため、
ついでという話である。
もっともその帝国もまた魔人族の手により大きな被害を被ったとの話も届いている、
どこもお互い様といったところか。
「こんなものまで作れるようになったのか」
「すげぇな、これなら確かに帝国だろうが何処だろうがひとっ飛びだぜ」
光輝たちは、ハジメが造り上げた大航海時代の帆船と産業革命期の飛行船を思わせる、
優美にしてクラシカルな外観の飛空艇、いや世界によっては騎空挺と呼ばれる――――の、
威容を一瞥するや、驚きの声を隠そうともともしない。
だが、ハジメに取ってはこれはあくまでも通過点と言う思いがある、
だからまだこの船には名前を付けない、そう、自分が目指すべきは……。
頷きつつも、駆動機関を個人の能力に頼るようじゃまだまだだなと、
神妙にエンジン回りに注目しつつ、辛辣な指摘を口にするカリオストロへと、
ハジメが視線を移したところに光輝の声が届く。
「で、ひとっ飛びついでになんだけど……」
来たか、最終的には同行を承諾するにしても、多少は勿体ぶった方がいいかなと、
そんな考えが頭に浮かんだハジメだったが、光輝からの申し出はハジメに取っては
やや意外なものだった。
「その……ライセン大峡谷は通るのか?」
大峡谷は樹海と帝国と王国のちょうど中間にある、むしろ通り道と言った方がいい。
立ち寄ることについても別段問題はない、だが、ということは。
「お前……まさか」
「ああ、俺はライセン大迷宮に挑まないとならない」
先の言葉通り、光輝らが自分たちの探索に付いてくるであろうことは、
すでに織り込み済みであったし、その準備も整っている、しかし……。
「どうしてライセンなんだ?」
ハルツィナ樹海に氷雪洞窟、未攻略の大迷宮なら他にもある、
それにライセン大迷宮は光輝のようなタイプを振るい落とすための迷宮だ。
「正直に言う、お前とは相性最悪の迷宮だぞ」
「それについても聞いてるさ……本人から」
先だって何か生徒たちに一言と愛子に言われ、
質問攻めは苦手なんだと、軽く挨拶だけを澄まして、
そそくさと自分の大迷宮へと帰って行ったミレディの姿をハジメたちは思い出す。
「それでも俺はどうしてもかつて神と戦った生き証人の言葉を聞きたい、
そして伝えないと、届けないといけない、俺の意志を……そのためには」
その力を示し、攻略者として認められなければならない、しかしそのためには……。
光輝は去り際に交わしたミレディの言葉を思い出す。
『ライセン大迷宮はね、キミみたいなやる気だけで何でもできるって思ってる
力任せの無策なバカを振るい落とすための迷宮!キミじゃ百万回やっても無理だよ!
キミ一人だけじゃね!これがヒント!』
自身が向こう見ずで前のめりだということくらい、すでに承知している。
そして今、その欠点を補い、力を与えてくれる存在は、彼の知る限り一人だけだった。
その存在へと、まるで告白でもするかのごとく、光輝は頭を下げる。
「お願いします、カリオストロさん、俺と一緒にライセン大迷宮に向かって下さい!
俺に古の賢者の罠を噛み破る知恵を貸して下さい!」
「ほう……口の利き方も、人への頼り方も心得るようになったな」
犬歯を剥き出し笑いつつも、カリオストロは我が意を得たりとばかりに頷いた。
「ま、オレ様もあいつにゃ色々まだ言い足りないこともあるしな、いいぜ、ということで」
少し溜めを作ってそれからカリオストロは勢いよく振り返る。
「コースケお兄ちゃんも一緒だよっ!」
「……すいません、俺、ここです」
ぶりっ子ポーズを決めるカリオストロとは反対側の位置で、
申し訳さなそうに佇む遠藤、まことに遺憾ではあるが、
これもまたいつもの風景なので、もはや誰も突っ込みは入れない。
ただ、その遠藤の顔に殴られたような跡があることについては、少し気にはなったが。
「よし、じゃあ後は俺と雫の五人でかかりゃ……」
「いや、今回は俺とカリオストロさん、そして遠藤の三人で挑む」
勢いづく龍太郎だったが、そこで光輝が待ったを掛ける。
「え……でも」
余りに意外な言葉に目を丸くする雫、そんな彼女を見、
無理も無いかと、光輝は少し気まずそうに坊主頭を掻く。
「思ったんだ、俺たちはさ……孤立、いや自立すべきなんだって」
余りにも自分たちはこれまで互いに寄りかかり過ぎていた、
そんな思いが今の光輝にはあった。
それが自分の甘えを呼び、そして龍太郎に思わぬ災難を招かせてしまったのだという。
「雫も言ってた……だろ?変わらない物なんて無いんだって、
だったら変わるべきはきっと今なんだ」
「光輝……あなたそこまで」
「だから……皆がそう言ってくれるのは嬉しいことだと思うけど、
でも、だからこそ、俺は皆とは一緒に行けない、分かってくれ」
親友たちの優しさの傘から一歩を踏み出すために、
そして親友たちに傘を畳ませ、自分の道を歩んで貰うために。
そんな決意に満ちた光輝の言葉に、思わず口元を押さえる雫。
その目には光るものが浮かび始め、それを隠すかのように、
雫はただ頷くと、出ていくタイミングを逃したか、
物陰で話を聞いていたジータの元へと静かに後退る。
「男の子って急に大きくなるもんなんだって……思うと、少し」
「分かるよ、雫ちゃん」
ハジメちゃんもそうだったから……そう思いつつ、
涙ぐむ雫の背中をジータは優しくさすってやる。
そんな彼女の目には、やはり納得いかないのか、
光輝に食い下がる龍太郎の姿が映る。
「で、でもよ……」
龍太郎が、光輝と、自分の一番の親友と共に轡を並べ戦いたいが故に、
奈落に向かったことをジータは知っている。
だが、それをここで口にするわけにはいかない。
「分かってくれ、龍太郎……これは暫しの別れだ、次に会う時は
互いにもっとでっかい男になろうじゃないか」
「う……ううっ」
感極まり光輝に抱き着く龍太郎、光輝も親友の熱い思いを応えるかのごとく、
その背に手を回し、強くその身体を抱きしめる。
そう……あくまでもこれは男と男の清き友情の為せる行為である。
しかし片や丸坊主のイケメン、片や絶世の美女(ただし中身は男)という、
極めて異質な図式ゆえに、その抱擁は見る者に複雑な気分を抱かせてしまうのであった。
ともかく、そんな複雑な気分を覚えつつもハジメは考えを巡らす。
今の光輝の実力、そしてカリオストロがいれば、
単純な戦闘に関しては、まず苦戦することはないだろうが……。
しかしあそこは普通の迷宮ではない。
とはいえ、幸い攻略経験者にして、心強い助っ人を用意することは出来る。
「なぁ、だったらこっちから一人貸すけど、どうする?」
「それなんだけど、シルヴァって人だけは絶対に連れてこないでって……
もし連れてきたらその場で舌を噛み切って死んでやるって」
あの身体に舌はあるのかと思いつつも、
散々してやられたのが、よほどトラウマになっているのだろう、
無理もないなと納得するハジメ、
まぁ、ミレディが待つであろう最深部に辿りつくだけならば、
この三人でも問題はないだろう。
「ま、そういうことだ、男がいつまでも泣くな」
女の外見の龍太郎の背中を、カリオストロがバシと叩く。
「それにオレ様が抜ける分、愛子の護衛に人を入れなきゃならねぇ
と、いうことで龍太郎、お前はここでジャンヌや優花たちと協力して愛子と、
そして残りの皆を、この街の人々を守れ」
「うん!それがいいよ」
ようやく会話に加わる切っ掛けが出来たと思いつつ、場に姿を見せるジータ、
龍太郎もジータもそう言うならと、少し目を泳がせながらも頷く。
「いいか、オレ様たちが戻るまでにせめて空くらいは飛べるようになっておけ!
飛べねぇ龍なんぞオレ様にしてみりゃ只のトカゲだ!だから今のお前は龍太郎じゃねぇ!
トカゲ太郎だ!」
「トカゲってひでーよ、センセェ」
「ぷぷっ」
「ふふふ」
「ああーっ、お前らまで笑うことねーだろ!」
トカゲ太郎という響きに、思わず吹き出してしまった光輝と雫に、
頬を膨らませ抗議する龍太郎。
悪い悪いと口元を綻ばせつつも、光輝はハジメとジータへと向き直る。
「南雲、ジータ……香織と雫と鈴をよろしく頼む」
「でも……いいの?」
魔人族もまた神代魔法を求めている、
従って恵里が自分たちの行く手に立ち塞がることは、ほぼ確実である。
そして彼が向かうライセンは魔人領より最も遠い。
「そうだよ……だって、エリリンは……」
今にも泣き出しそうな鈴に、皆まで言うなとばかりに、
苦渋と悔恨に満ちた表情で目を向ける光輝。
「もしも俺に討たれることを恵里が……いや、中村が望んでいるのなら、
尚のこと、俺は行くわけにはいかない!」
それは、個人の願いと勇者の責務を天秤にかけた果てに選び、決断した、
喉の奥から搾り出されるような、まさに悲痛な叫びだった。
「それが眼前の小さな悲鳴を聞き逃していた俺への罰、
そして悲鳴が届かないことをいいことに悪の華を咲かせ、
多くの命を奪ったあいつへの……罰だから……」
光輝はハジメたちに懇願する、使命にかこつけた体のいい責任逃れと自分でも思いつつ、
それでも蚊の鳴くようなか細い声で……。
「だから……あいつを……"救ってくれ"……俺の代わりに」
「以上だ、下がるがいい、フリード」
「はっ」
ここは魔国ガーランド、その玉座の間にて、
魔王より労いの言葉を賜ったものの、一礼し踵を返すフリードの表情は暗い。
本来の目的こそ達成出来なかったものの、難攻不落、神聖不可侵を誇る王都の何割かを
灰燼に帰しめたことは大きく、これにより人間族全体に動揺が走ることは確実であり、
また魔人軍の戦力の中枢を担う、魔物軍団も健在といってもよく、
これは十分な戦功を挙げたと、評価こそされてはいるのだが、
もとより個人的な武勲を求めての作戦ではない。
魔人軍全体を統括する総司令官としては、
あの侵攻作戦は失敗以外の、敗北以外の何物でもなく
何より魔物を率いることが出来る人材の多くを無為に失なわせてしまったという、
事実がフリードの心を深く苛んでいた。
もう一つ懸念すべきはあの光だ、一瞬で魔物軍団の何割かを焼き尽くし、そして、
大地に大穴を穿ったあの光、忌々しくも人間どもが断罪の光などと呼ぶ……が、
いつ我が王城に炸裂するのかという不安がある以上、もはや
迂闊な動きは出来ない。
そのため今は攻勢よりも再編成を重視し、また機を伺うのがセオリーと言ったところなのだが。
と、思案を巡らせている最中、自分を呼ぶ部下の声にフリードは気が付く。
「何だ?」
「はっ、実は"使徒"様がお呼びです」
「……わかった」
その声には明確なまでの忌々しさが籠っていた。
「いいロケーションじゃないか、うんうん打ってつけだよ」
採石場めいた周囲の風景に、どういうわけか懐かしがるようなそぶりを見せる恵里、
もちろんフリードにとっては、ただの殺風景な荒野にしか思えない、
これから行うことは外じゃ危ないからと言われ、連れてきてやったのだが。
一体何を……?と、フリードが訝し気に思う中、恵理は自分に伴わせていた、
屍人兵を荒野の中央へと移動させる。
「まぁ見てなよ」
と、恵里がフリードに促した時だった。
屍人兵はその瞬間、木っ端微塵に爆発した、周囲に大量の炎と爆風を撒き散らしながら。
「あのスライムを……死体に仕込んだのか」
「これを人間たちの住んでいる街中でやるんだよ、そしたらどうなるかなあ」
「……」
確かに有効な作戦であることは間違いない、自分たちがアンカジで行ったことを鑑みれば、
非道と詰るわけにもいかない、しかし……。
それ以上の得体のしれない闇をフリードは恵里から感じ取っていた。
そう、有用さ以上の危険さを。
檜山の顔が頭に浮かぶ、同じ轍を踏む気はない、排除するのならば……。
フリードの手が腰に下げた剣へと伸び。
「だからさ、あの可燃性スライムをもっと作って欲しいんだよ、君ならさ出来る筈だろ」
満足げに自分へと話しかける恵里の背中へとフリードは刃を突きつける。
「何のつもりかな?」
「お前は我ら魔人族を滅びへと導く女だ、ここで死んで貰うぞ」
「……甘く見られたもんだね」
恵里の言葉には一切応じず、フリードは剣を握る手に力を込め、
その瞬間、彼の視界が紅く染まる、しかしそれは恵里の血ではなく、
自らの血によって……。
「滅ぼすのは魔人族だけじゃない、何もかも全てさ」
頸動脈を背後から断たれたにも関わらず、何とか振り向くことが出来たのは、
戦士として、将としての意地か、
そして自分を背後から斬った者の正体を知った時、彼もまた気が付いた、
自分たちが神々の駒に過ぎなかったということを、
「……き…さま…」
ごぼごぼと口から血泡を溢れさせながら、
フリードは尚も恵里へと刃を向けようとする、が、大量の血を失った身体は、
急速に萎え、彼は自らの血で赤く染まった大地へ頽れてしまう。
それでも視線だけは恵里から、己が民族を内側から食い破らんとしている、
獅子身中の虫から決して離さない。
フリードの目から無念の涙が溢れ出す、民族の危機を目の前にしておきながら、
志半ばで斃れる無念さもだが、何よりも口惜しかったのは、
今まで信じ崇めて来た神に駒にすらなれぬとばかりに、
切り捨てられたことと、そしてこれから自分が辿る運命を察知したことだった。
そう、自らの手で魔人族を……同胞を。
「大丈夫さ、君は死んでからが本番なんだ」
そしてその声と、自らの愛騎たる白竜の視線を遠くに感じたのを最後に、
フリード・バウアーの意識は途切れた。
「スピーカーは感度の良い方がいいに決まってるよね、
ああこんなこと君に言っても分からないか」
傍らの使徒、エーアストへと話しかける恵里、
その傍らには縛魂によって今まさにゆらりと起き上がろうとしている、
フリードの姿がある。
「……ちゃんと君が勇者になれるように、今度こそちゃんと僕を憎めるように、
たくさん殺してあげるからさぁ」
空を見上げ、ぼんやりと呟く恵里。
この世界がどうなろうとも、そして自分がどうなろうとも、もはや興味など無い。
もう、欲しい物なんてないのだから、いや……望みはある、一つだけ。
「だから早く僕を止めに来てよ殺しに来てよ、光輝くぅん、でないと皆死んじゃうよ」
ということで、ようやく檜山君ともお別れです。
単なる敵キャラではなく、ちょっと探せばいそうなリアルさを感じさせるやな奴なので、
書いていて結構辛いものがありました。
自分の中の嫌な部分と向き合わないといけなかったので……。
恵里くらい突き抜けてくれると、冷静に書けるのですが。
その檜山ですが、当初はドクターマシリトみたいに、ハジメたちに敗れる度に、
どんどん異形の姿へと変じていくという構想があったのですが、
結果的にはしぶとさばかりが目立つ存在としてしか、書けなかった感があります。
フレイザードや尸良のような一流の悪として書いてあげたかったのですが……。
そしてそんな彼に引導を渡すのは光輝ないしは愛子の手でということは、
初期から決めていました。
ハジメやジータの手でそれを行ってしまうと、
結局、復讐じみた私刑に過ぎなくなってしまうのではないかなと思ったのもあって。
あくまでも正当な制裁という形を通すのであれば、
やはりリーダーであり、大人である光輝と愛子を何らかの形で介在させるのが
筋ではないのかなと考えた結果です。
それにハジメ相手だと絶対に反省も後悔もしないと思ったのもあるので。
但し、檜山の死因につきましてはあくまでも病死であり、
それ以上につきましては藪の中とさせて頂きます。
答えは皆様の心の中にということで、ご了承下さい。
結局、檜山にしろ、恵里にせよ、(原作の光輝もですが)
自身が変わることを拒絶し、変わっていく世界や他人にも目を背けた結果、
ああなったのはむべなるかなと思うのです。
それから心身共に原作とは大きく変わったスタンスとなった光輝君についてもですが、
彼は清水同様、自分の中では異世界召喚に翻弄された被害者枠なんですよね。
それにここハーメルンにおいては、色々と酷い目にあってることが多いというのもありまして、
じゃあ…と言った次第。
確かに正義の失墜、勇者の挫折というのは書く側にとっては、
実に書き甲斐があるテーマだと思います。
実際書いてて楽しかったことは否定しません、ですが、失墜を書くのならば、
そこからの再起も書かないとならないのではないかと思うのです。
だからこそ、原作における氷雪洞窟の試練は、しょうがねぇ奴だなと思いつつも、
何とか乗り越えて欲しかったのですが……。
但し自分の初見でも光輝の印象は、
某パーフェクトハーモニーな人や某北の勇者に近いものがあったことは、否定はしません。
今後ですが、本編でも書いた通り彼にはカリオストロと遠藤と共に、
ライセン大迷宮に挑んで貰います。
原作とは違い、人手も増えてることですし、
神と戦うのなら、神と戦った者の言葉をやはり聞かねばならないでしょうと、
それに今の彼ならハルツィナや氷雪洞窟の試練も乗り越えられる筈なので、
ならば別ルートを歩ませるのもまたアリと考えました。
今章において光輝のシーンに多く尺を取ったのも、今後出番が少なくなるのを想定しての事です。
(最終決戦前くらいでしょうか、合流するのは)
とりあえずハジメについては八割、光輝については九割は書けたかなと思っています、
そんな彼らの原作とは一味違う、辛いだけではなく、硬軟織り交ぜたハジメの姿について、
甘えから脱却し、自立した光輝の姿についても、御意見、ご感想を頂ければ幸いです。
ということでしばらくまたお休みを頂くつもりです。
新訳Zならぬ、自分なりの新訳ありふれ、気分だけはそんな風に書いているつもりですので、
どうか今後ともお付き合い頂ければ幸いです。