ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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お待たせしました、再開です。
今回はちょっと中の人ネタ多めです。


帝国~ハルツィナ
Destination


 

 

心地よい微風にトレードマークのポニーテールを泳がせながら、

雫は自身へと燦々と降り注ぐ陽光に目を細める、ここは飛空艇の甲板の上。

その眼下には、草原や雑木林そして酪農を行う小さな村といった風に、

ファンタジックにして牧歌的な風景が広がっている。

 

先程まではその優雅かつクラシカルな外観からは、想像も出来ない

まさに雲が流れるがごとくの高速で空を駆けていた飛空艇であったが、

現在は遊覧と言ってもいい速度で巡航しており、

したがって、こうして周囲の景色をのんびりと楽しむ余裕もある。

 

「知らなかったな……」

 

思わずそんな言葉が口をついて出る。

この世界がこれほどまでに広く、美しい物であったとは……、

あのままダンジョンと王宮の往復を続けていたままならば、

決して知る事は出来なかっただろう。

 

「なんかソロキャンプとかしたくなっちゃった」

 

現在飛空艇は、やや大回りのルートを取り大峡谷経由で一路樹海、

フェアベルゲンへと向かっている。

それはライセン大迷宮へと光輝らを送り届けるためだけではない、

リリアーナは愛子との約束通り、亜人族解放に向けて着々と準備を整えている。

フェアベルゲンへと船の針路を向けているのも、

帝国に入る前に亜人族の長であるアルフレリックとの交渉を行うためだ。

 

「雫……ここにいたのか」

「光輝……」

 

声の方へと雫が顔を向けると、ハッチから光輝が顔をのぞかせているところだった。

流石に坊主頭だと冷えるのか、今の彼はニット帽を被っている。

光輝はそのまま雫の隣に来ると、手すりに両腕を乗せ遠くの雲を眺め始める。

 

「これ、凄いわね」

「ああ、造っただけでも凄いのに、操縦まで南雲が一人でこなしてるって話だ……たく」

 

素直に感嘆の言葉を口にする光輝だが、語尾にやや口惜しさが籠っていることを、

聞き逃す雫ではない。

 

「やっぱり悔しい?もしかして」

「ああ……けど雫が考えるような意味じゃなくてさ、南雲も、アイツも……

せめてもう少しさ、教室でそういう片鱗を見せてくれていたなら」

 

自分だけではなく、きっと他の皆とも、もっと違った関係にもなれていた筈だと、

言い訳を承知でボヤく光輝。

 

「能ある鷹は何とやら……かしら」

「それにしたって隠し過ぎだ、あれじゃ殆ど誰も気が付かない」

「あら?香織やジータはちゃんと気が付いていたわよ」

「だから殆どって言ってるだろ」

 

ややムスッとした表情を見せる光輝、それは雫の知る、まだ幼かった頃の彼の姿と、

何ら変わりはせず、そういう所はきっといつまでも変わらない、

変わって欲しくないと、雫は思わずにはいられなかった。

これから互いの身に降りかかるであろう、過酷な戦いを経た後であっても……。

 

「悔しいって言えばさ……」

「うん?」

「あ……いや、何でもない」

 

言いかけて口を噤む光輝、確かにこれは雫に言っても仕方のない事だと、

思いながら。

 

「南雲君ばかりモテて羨ましいって?」

「そういうんじゃない」

 

ムッとした口調で言い返す光輝、そういう気持ちもあるにはあるのだろうが、

こういう時の彼は本当の事を言っていると、付き合いの長い雫には分かるので、

だからきっとそうではないのだろう。

 

「南雲君や……龍太郎が落ちた場所、見せて貰いに行ったんですって?」

 

頷く光輝、どうしても知って置く必要があると思ったのだ、二人の地獄を。

 

「……南雲は片腕を斬られて、龍太郎は生きたまま蛆虫に食べられそうになってさ」

 

ここに落ちてたら、俺もジータも……生きちゃいられなかったなと、

蛆虫の湧く泉へと恐る恐る目を向けるハジメの姿や、

あのウサギ、すげぇ蹴りだなと蹴り兎のキックに目を丸くする龍太郎の姿を光輝は思い出す。

 

「それで……光輝はどう思ったの」

「どう思った?って言わなきゃだめか……比べるものじゃないだろ?

あいつらも、そんな中を生き延びたって自信にはなってても、

それを自慢したりなんか一切してないんだから」

 

その言葉が答えを如実に言い表している、そう雫には思えた。

そして二人の会話は、ジータが呼び出した新しい仲間の事にも触れていく。

 

「国庫を解放するってリリィが言った時のジータの顔、見た?」

「ああ……」

 

二人はいっぱいいっぱい回すのぉ~と狂喜するジータの姿と、

天井だの、招待券だの、人権キター!だのといった叫び声を思い出す。

 

「そういや南雲の奴、ホラ新しく入った……かなり面食らってたぞ」

「きっとああいう子とは付き合った事がないのね」

 

と、そこでジータのアナウンスが船内に響き渡る。

 

『ご乗船の皆さま、下をご覧くださいませ、まもなくこの船は

ライセン大峡谷を通過いたします』

 

「ジータったら、まるで修学旅行みたい」

 

ジータの声に合わせるかのように、飛空艇はさらに高度を下げ、

大陸を二つに別つ、広大な峡谷の中へとまるで自ら飲み込まれるかのように、

その船体を沈ませていく。

 

「ええと……この船、神代魔法だっけ?重力か何かので動かして、凄いわよね」

「けど……これほどの力の持ち主たちでも、神には、エヒトには勝てなかった」

 

甲板に描かれた、船出の祝福と旅の無事を祈願した、

級友たちの寄せ書きを見ながら、デッキの手すりを握る手に自然に力が入って行くのを、

光輝は確かに感じていた。

 

(そうだ……これはあくまでも俺の我儘……)

 

もうこれ以上誰も欠ける事なく、級友たちを戦乱の地から、

平和な故郷へと送り届ける事、それがハジメのみならず、

自分が優先せねばならない本来の目的であり

神と戦うというのは、いわば必要ない事なのだ。

 

戦うべきはただいまを言った後、迎えてくれた家族や友の手を振り払い、

行ってきますを、口に出来る者たちだけでいい……。

 

だからその我儘に、危険に、進んで巻き込まれてくれたハジメたちへと、

感謝の気持ちを抱くのと同時に、申し訳なさを光輝は未だに感じ続けていた。

 

「ところで」

 

しかし自分が揺れてしまっては、皆も安心して前に進めない、

どれほど辛くても、勇者は涙を見せず、

常に笑顔であるべき存在でなければならないのだから。

 

と、そんな葛藤を抱えたままの、光輝の耳に雫の問いかけが届く。

 

「リリィと何かあったんじゃないの?」

「え……あ?どうして?」

「ねぇ光輝、話聞いてた?リリィのことよ」

 

この船に乗り込んでからというもの、雫にはリリアーナを見つめる光輝の表情が、

まるで何かを必死で堪えているかのような、悲痛なものに思えて仕方がなかった。

だから思い切って尋ねてみることにしたのだ。

事実、リリアーナの名を聞いた光輝の表情がまた沈んだものへと変わっていく、

やはり二人の間には何かがあったのだろう、力になれることがあるのなら……だが。

 

「リリィが何も言わないのなら……俺が口を出していい事じゃない」

 

声を震わせ、堪え難き何かに必死で抗っているかのような、

光輝の声が耳に入ると、それ以上話を聞くことは雫には出来ず、

そんな彼女の心境を知ってか知らずか、

きっとこれが正しい事なんだ、と自らに言い聞かせるようにも呟く光輝だが、

その声については雫の耳には届くことはなかった。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ、降りる準備をしないと」

 

ポン、と雫の肩を叩く光輝、そう、彼の行き先はハジメや雫らとは違うのだ。

その選択は決して後ろ向きな理由ではなく、

より信頼を、友情を深め、これまで以上に成熟した関係となるための別れ、

いや、巣立ちだと雫も理解はしてはいるが、

それでも一抹の寂しさと不安は、彼女に取っても隠し得ない。

 

(でも……私が揺れてちゃダメだよね)

 

「無事でいてね、遠藤君やカリオストロちゃんに迷惑をかけちゃだめよ」

 

努めていつも通りの口調で返す雫、それは光輝に対してよりも、

自分に言い聞かせるかのような響きが含まれていた。

 

「雫こそ俺や龍太郎の分まで皆を頼む……あと……鈴には特に気を配ってくれ

きっと俺よりもずっと辛い筈なんだから」

 

光輝の言葉に雫が頷くと、そこで今度はハジメの声が船内に響く。

 

「ちょっと妙な事が起きた、天之河も八重樫もブリッジに来てくれ」

 

 

二人がブリッジに入ると、中央に置かれている水晶のようなものを

ぐるりと囲む仲間たちの姿がある。

 

「何があったの?」

 

雫の問いに香織が無言で水晶型のモニターを見るように促す、

そこには、数十人の死体が折り重なるように転がっている光景が映し出されていた。

その装備から見るに帝国兵と魔人族だろう。

 

「……酷いな」

 

光輝に言われるまでもなく、その惨状もだが、何より死体の損壊が酷い、

おそらく魔物に襲われたのだろう、薙ぎ倒された木々、焼け焦げた草原、複数の足跡、

かなりの乱戦が展開されたようだ。

 

「互いにやりあってる最中に横槍が入って来たんだろうよ」

「横槍って誰が?」

 

遠藤の問いに、ハジメは峡谷の奥へと向かっている、

いくつかの足跡をモニターへと映し出す、その時であった。

 

「空中に魔物反応!これは……大きいぞ」

 

哨戒を担当していたシルヴァの叫びと同時に警報音がけたたましく船内に鳴り響く。

反応の方向へとカメラを切り替えると、そこに映っていたのは、

複数の灰竜を従えた、エイと人骨を組み合わせたかのような醜悪かつ巨大な魔物だった。

 

「あいつがやったのかなぁ?」

「いや、違うな……たく、もう少し大迷宮寄りの場所に降ろして貰いたかったが……」

 

地上からも、複数の魔物の存在を示す反応が返って来ているのを確認し、

隣の鈴へと、やや不満気な呟きを漏らすカリオストロではあったが、

みるみるとその表情が、むしろいい機会だと云わんばかりの凶悪な笑顔へと変わっていく。

 

「空のデカブツはお前らに任せた!地上の奴らはオレ様たちで引き受ける!

行くぞ!光輝、コースケ!」

 

カリオストロの言葉に待っていたとばかりに光輝はしゃんと立ち上がるのだが、

片や遠藤は、それとは対照的にシア手作りの焼き菓子を、

食べ納めとばかりに、慌てて口一杯に頬張った挙句、げほげほとむせる始末だ。

 

「え、ちょ……俺準備が…まて…水……」

「準備を待ってくれるお優しい敵なんぞ、何処にもいねぇぞ!オイハジメ

ハッチ開け!」

 

遠藤の首根っこを掴み、船尾の格納庫へと引き摺って行くカリオストロ、

そこにはすでに準備万端とばかりに、やや装飾過多のバイク、

いや、バイクにあらずカリオストロ制作のケッタギア、

空の世界に於ける電動、いや魔動自転車式バイクに跨る光輝の姿があった。

 

二人の姿を確認した光輝がケッタギアのペダルを踏み込み始めると、

光輝の魔力を受けた後輪に装備されたリアクターが魔力光を放ち、

竹槍マフラーから駆動音、いやフカシ音が鳴り響き出す。

 

そんなゴテゴテとした後部とは対照的に、車体全部はライトと、

本来装着されている筈のカウルの代わりにチャイルドシートが付いているのみだ、

そのチャイルドシートにカリオストロはどっかと座り込むと、

そのまま後手でハンドルを握る。

 

「操作はオレ様が引き受ける、お前らは迎撃とペダル漕ぎに専念しろ、オイ早く乗れコースケ」

 

え?二人?いや三人乗りするの?と、キョロキョロと遠藤は周囲を見回している。

 

「未知の土地でお前に迷子にでもなられたら困るだろうが」

「全くだ、オルクスでもそうだったが、練習走行で何度お前の姿を見失ったと思ってる」

「俺、隣で一緒に走ってただけなのに……畜生、次に生まれ変わる時はもっとマシな……、

例えば貴族の八男あたりになって、気楽な生涯を過ごしてやるんだ」

 

自身の体質と、背後のけたたましいフカシ音に辟易しつつ、

不精不精、遠藤は光輝の背中にしがみ付く。

 

「うう、どうせならシアさんかティオさんの背中に抱き付きたかった」

「俺だってお前じゃなく、香織や雫を後ろに乗せたかったよ」

「ふぅ~ん、コースケお兄ちゃんはカリオストロちゃんとじゃあ不満なんだぁ、

カリオストロ悲しいなぁ」

「もう今更でしょう……それ」

「チッ、どいつもこいつも可愛げが無くなりやがったな」

 

悪態を吐きつつもどこか懐かし気な表情を見せる、遠藤とカリオストロ。

あの風変わりな出会いを、もしかすると互いに思い出しているのかもしれない。

 

ともかく、三人のスタンバイが完了したのと同時に、

ハジメは飛空艇の高度を地表スレスレへと一気に下げると、

それに誘われるかのように魔物たちが姿を現す。

その魔物たちの姿はどこか不自然な、生物でありつつも人工的なフォルムを、

見る者に感じさせてならなかった。

 

「まずは目指すはブルックとかいう街だ!行くぞ!」

 

光輝の気合いの入った叫びと共に、

勢い良く三人の乗るケッタギアが飛空艇から飛び出し、

同時に光輝の手に握られた聖剣が閃くと、魔物たちが音もなく両断されていく。

 

しかしハジメらにとっては、その勇姿にばかり気を取られるわけにはいかない、

今度は、自身らに迫る頭上の敵へと対処せねばならないのだから。

 

だから彼らは気が付かなかった、光輝らを追うように飛び出していった、

もう一台のケッタギアの存在を。

 

「……今度はこっちの番」

「ハジメちゃんは操縦に専念してて!あっちは私たちが引き受けたから」

 

そんな声を上げるジータの姿は、シャープかつ豪奢な黄金の鎧に包まれている。

しかしながらも鎧の合間のビスチェから覗く胸の谷間や、ミニスカから生えた太腿は

勇猛さに加えて、どこか煽情的なものをも感じさせてならない。

 

彼女の現在のジョブはクリュサオル、

単純な破壊力ではウォーロックをも凌ぐ、超攻撃型のジョブである。

その右手には自身の身長に届こうかという長剣、ヴァッサーシュバイアーが、

そして左手には炎を纏いし刀、極マリシ烈火ノ太刀が握られている。

このクリュサオルは、二刀流を扱うジョブなのである。

 

ブリッジにハジメとリリアーナを残すと、

ジータを先頭に、ユエや雫たちが次々とデッキへと上がり、

迎撃の体勢を整え始める。

 

「少し飛ばすぞ!何とか振り切ってみる!」





次回は空中戦です。
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