ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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古戦場ボーダーが凄いことになってて、やや現実逃避気味です。
HELL100からは、水着アンチラちゃんの出番かな。


ジーク・ハウリアⅡ 兎・戦士編

 

陽動も一段落し、恥ずかしさと憤りに肩を怒らせつつも、

雫らに慰められつつゲートをくぐり、

ハウリアたちが潜んでいる岩石地帯へと転移するハジメ。

 

ゲートをくぐるや否や、熱狂的な歓声がハジメたちの身体を包んでいく。

 

「カムたちは?」

「傷は治したけど、まだ起こさない方がいいかなーって思って」

 

香織の示す先には、敷かれた毛布の上でカーカーと高いびきを掻く、

カムたちの寝姿がある。

どうやら亜人族全般に言える事だが、彼らは総じてバフやデバフの影響を受けやすいようだ。

 

「たく……手間かけさせやがって」

 

先に香織に聞いた通り、傷こそ癒えている、今すぐ叩き起こしても構わないのだが、

やはり獄中で厳しい拷問に日々耐えていたことは間違いないのだ、

だからあと少しくらいは……と、ハジメが思った刹那。

 

「今は耐えるのだッ!生きてこそ得る事の出来る、真の栄光をこの手に掴むその日まで!」

「おおうっ!」

 

目を閉じたままで、いきなり跳ね起き拳を震わせ叫び始めたカムに慄くハジメ。

 

「父様……寝相が悪くって、そういう所はああ、まだ変わってないんですね」

 

在りし頃を思い出し、涙ぐむシア……本来ならば何か言葉を掛けるべきなのだろうが、

しかし彼女の父親含む一族をこんな風にしてしまった責任の一端は、

自分にもあるという自覚がハジメにはあり、だから迂闊に言葉は掛けられない。

 

……しかし、これだけ元気ならもう起こしても問題ない気もするが。

 

「生き恥を晒してでも我々は捲土重来の時を待たねばならんッ!

だが決して屈しはしないッ!」

 

そんなハジメやシアの思いを知ってかと知らずか、寝言を止めないカム、

これでは起きていようが寝ていようが、さしたる違いはないようにハジメには思えた。

 

 

「御大将、先程はお恥ずかしいところを……ん?」

 

表情こそ、若干寝ぼけ眼のままだが、それでもピシ!と、

ハジメの前に直立不動で畏まるカム、

だが……ハジメを見つめるその目が、やや不思議気な物へと変わっていく。

 

「どうした?俺の顔に何か?」

「いえ……御大将も少し御変わりになられたようだと、思いまして」

「変わった?俺が」

「ええ、以前の滲み出るような猛々しさが影を潜めたといいますか……

一言で言えば、落ち着いたといいますか……」

「……」

 

確かにあの奈落から脱出した頃は、解放感も手伝い、

自分の力をとにかく試してみたかった事は否定できない。

だが、それが影を潜めていると言われたことは、

自分が良い方向に向かっている証だと、ハジメは思うことにした。

 

「まぁな」

 

ともかく話を進めていくハジメとカムたち。

 

「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、

我々は少々やり過ぎたようです……」

 

カムの話によると、魔人族と帝国兵、そして自分らを中心とした亜人族、

三つ巴の乱戦が続く中、ハウリア族は暗殺に近い形で、

次々と両者を討ち取っていったのだという。

 

「魔人族と帝国兵が激突し、消耗したところを……と、まぁ、漁夫の利狙いですな」

 

しかし、相手もやられっぱなしではない、ほぼ撤退していた魔人族はともかく、

少なくとも帝国側の方は一計を案じていた、捕獲した亜人を餌に帝都に誘い込むという。

後から思えば、かなりあからさまなやり口ではあったが、

魔人族の爆撃により、森を焼かれていた事や、

看過出来ない程の大量の亜人を捕獲された事による、焦りがあったと振り返るカムたち。

 

「しかし我々を見た時の帝国の連中の顔」

「御大将にもお見せしたかった」

 

無理もないなと思うハジメ、何せ兎人族は基本的には温厚で、

争い事とは無縁の愛玩奴隷というのがこの世界の常識なのだから。

 

「で、それが帝国の上層部の興味を引いたと」

「はい、御大将の言う通り、我等は生け捕りにされ連日、取り調べを受けていたわけです

どうも我々がこういう風になってしまった事については、かなり興味津々だったようで」

 

こういう風という言葉に、自覚あるんだ、と、シアが小声ではあったが、

恨めし気なツッコミを入れる。

 

「ある時など皇帝陛下直々に尋問を見に来てましたからな」

「だがあの男、相当出来るぞ……と、いうことで、つまり我々の今後の方針についてですが」

 

カムの、そして周囲の幹部たちの眼差しが鋭い物へと変わる。

 

「我々ハウリア族は帝国に戦争を仕掛けます」

 

その宣言が放たれると同時に、時が止まったかのような沈黙が、

その場を支配していく、暫しの後、正気か?そう聞き返そうとしたハジメよりも先に、

 

「正気ですかっ!」

 

シアが沈黙を破る。

 

「何を、何を言っているんですか、父様?私の聞き間違いでしょうか?

今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……」

「シア、聞き間違いではない。我らハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける

確かにそう言った……よく聞け」

 

カムの眼差し、そして言葉は伊達や酔狂とは無縁の、そう、明確な覚悟を帯びている。

 

「確かにたった百人とちょっとで帝国と戦争など、血迷ったとしか思えぬだろう、

だが……」

「同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」

 

しかし興奮状態のシアには届いてないようだ。

ドリュッケンを構えると、カムの眼前へと突きつける。

 

「だったら、今すぐ武器を手に取って下さい!帝国の前に私が相手になります、

その伸びきった鼻っ柱を叩き折って……」

「ふうっ!」

 

しかし、その時絶妙のタイミングで、これまで沈黙を保って来たジータが、

シアの耳に吐息を吹きかけ、

 

「はにゃあん~~」

 

さらに尻尾をモフモフと弄ぶ。

 

「だめぇ、しょこはだめですぅ~!ジータしゃん、やめれぇ~」

 

頬を紅潮させ、口から涎を垂らし、シアはドリュッケンを取り落とし、

その場に崩れ落ちる。

瞳を潤ませ、ハァハァと熱い吐息を漏らす姿は実に煽情的だが、

見ちゃダメとばかりに、ユエがハジメの目を両掌で塞ぐ。

 

「シアちゃんは、みんなのことが心配なんだよね」

 

へたり込んだままのシアへと、目線を合わせるかのように屈みこんで、

ジータは優しく諭していく、だが何故かその姿は見る者に威圧感を覚えさせた。

 

「でも、お父さんの話も、ちゃんと最後まで聞いてあげて」

「うっ……そうですね……すいません、ちょっと頭に血が上りました

もう大丈夫です……父様もごめんなさい」

 

項垂れつつも、謝罪の言葉を素直に口にするシア、そんな愛娘の姿に、

そっと目頭を拭うカム。

 

「かつて忌み子と呼ばれたお前が……こんなにたくさんのお友達に囲まれて」

「……父様」

 

感無量といった顔で、カムはハジメの手を握りしめる。

 

「御大将、どうか今後ともシアを、娘を宜しくお願い致します」

「……」

 

任せて欲しいと素直に口にしようとして、一瞬口元を強張らせてしまうハジメ、

ここで迂闊に返事をすると、大変なことになりそうな予感が、

電流の如く、自分の身体を走るのを自覚したからだ。

 

「任せてくださいっ!シアちゃんは私たちの大切な友達、家族ですから」

 

そこで頼れるパートナーが、すかさずハジメに代わってカムに答え、

それを受けたカムがチッ!と、一言小声で漏らしたのを聞き逃さなかった二人。

やはりこの機に乗じて何やら言質を取ろうとしていたのだろう、

父娘共々、油断もスキもない。

 

(貸しだからね)

(分かってるよ)

 

「で、改めて理由を聞こうか」

「先程も言った通り、我ら兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました、

帝国皇帝ガハルドは貪欲飽く事なき男です、弱肉強食、実力至上主義を大義名分として掲げ、

この世界の全てを平らげんとする野心に満ちた」

 

まだ皇帝を知らぬ、ハジメとジータにとっては、いささか過剰な表現のように思えたが、

直接顔を合わせたことのある、香織たちは、特に雫はしきりにうんうんと頷いている。

 

「そんな皇帝が、ある日我らに直接言いました、"飼ってやる"

全ての兎人族を捕らえて調教してやると……あの顔は本気でした」

「なるほど……」

 

カムたちの実力から見て、自分ら一族だけが生き残るのは難しくはないだろう、

しかしそれは同族を生贄に差し出しての生である、許容出来る筈がない。

 

「で、どうやって戦う?オマエらは百人ちょいしかいないのだろう?……暗殺か?」

 

何故か手にマイクのような物を持ったシャレムの言葉に頷くカム、

しかしシャレムはそれを見て、あからさまに呆れた表情を見せる。

 

「ばかちんどもが……古来より暗殺によって得られた平和など無いぞ」

「しかしっ!我らにはこれより他に戦う術がないのです!我らに牙を剥けば、

気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……昨日、今日、親しくしていた人間が、

一人、また一人と消えていく……それを実践し、奴らに恐怖と危機感を植え付け、

兎人族を明確な脅威として認識させるより他にっ!」

「それがばかちんだと言っている、まぁいい、そこから先はわたちよりこいつに聞け、

準備オッケーだそうだ」

 

シャレムの言葉を受け、ハジメがスマホを操作すると、

その傍らの空間に、リリアーナの姿が映し出され、

未知のテクノロジーを目の当たりにした、ハウリア族たちがおおと感嘆の声を上げる。

 

「ハウリア族の皆さま、改めまして、私がハイリヒ王国第一王女にして摂政

リリアーナ・SH・ハイリヒです」

「……父様」

 

突然のことに、暫し固まった状態のカムの脇腹をシアが肘で衝き、

我に返ったカムも挨拶を返す。

 

「あ……ハウリア族族長、カームバンティス・エルファ……あ、いえ、カムで結構です」

 

最後の方は言葉が小さくなっていた、例えリモートであっても、

成り上がりの皇帝とは物が違う、本物の王族のオーラを受け、

少し恥ずかしかったのだろう。

 

「先程のお話、全て聞かせて頂きました……ですが、非礼を承知で申し上げさせて頂きます、

このままではやはり兎人族、いいえ亜人族に未来はないでしょう」

 

いきなりカムへと厳しい言葉を浴びせかけるリリアーナ。

 

「分の悪い賭けである事は承知しております……」

 

カムの言葉にリリアーナは静かに首を横に振る、賭けにすらならないと言わんばかりに。

 

「もしも、皆さまがその暗殺作戦を実行した場合、帝国だけではなく、

全ての人間族が亜人族そのものを脅威とみなし、根絶やしにすべく、

樹海を焼き払い、絶滅戦争に討って出るはずです」

 

その言葉は衝撃を以って、ハウリア族たちの胸に突き刺さった。

無理もない、人間族最大の版図を誇る王国の、それも政務の中枢を担う摂政の言葉である。

 

「全てを敵に回し……たった百人足らずで同胞を守り切ることが出来ますか?

それとも樹海を捨て、大峡谷で同胞たちと共に隠れ潜むように生きていきますか?」

 

それも手の一つかもしれない、皮肉にも大峡谷の環境は、

兎人族の生態に合っているように、ハジメには思えた。

 

「パルくん、でしたか?」

 

続いてリリアーナはにこやかに、この場で最も年若いハウリアの少年に語り掛ける。

 

「君もいずれは恋をし、親となり、子を育むことでしょう……

ですが、その子供たちに峡谷の奥底に隠れ潜み、細々と生きる、

そんな生を、未来を望むのでしょうか?」

 

そこで焦れたようにカムが叫びを上げる。

 

「我々に……何を望むのですか?さっきから勿体ぶった言い回しで!

はっきりとおっしゃって頂きたいっ!」

「皆さんが求めなければならないのは、単なる一時の勝利であってはならないのです」

 

カムの叫びにも一切動じないリリアーナ、

画面越しであっても格の違いを見せつけていた。

 

「亜人族と人間族が対等の立場として共に、この世界で手を携えあう為の第一歩を、

皆さんは記さねばならないのです、その覚悟がおありでしょうか?」

 

対等の立場?第一歩?何の事だと困惑するハウリア族たちへと、

リリアーナは一枚の書面を見せる、そこには亜人解放に関する盟約と、

そしてアルフレリックとリリアーナの血判が押されていた。

 

王国が俺たちを……亜人を?ハウリア族の間で動揺が走りだす。

 

「ただし、御承知の通り、亜人奴隷の大半は帝国に存在しております、

つまりここに」

 

リリアーナは強調するかのように、書面の一番下の余白を指す。

 

「皇帝の血判を押させない限り、この盟は有名無実と化すことでしょう、

そして勝負は一度だけ、そのたった一度でハウリア族の強さを示し、

皇帝に膝を衝かせ、衆人環視の中で盟約を結ばせる、それ以外に皆さんの……いいえ、

亜人族に生き残る術はありません」

「しかし……我らは」

 

元より追放された身、同族・同胞の為ならばいざ知らず、

今更、フェアベルゲンそのものの為に戦う道理は……

まして亜人族全体の運命を背負うといっても、という、

困惑の空気が今度は広がり始める。

 

それもまた予測の範囲内だったのだろう、

リリアーナは、アルフレリックからの、亜人国フェアベルゲン族長として、

対帝国に関しては、あらゆる全てをハウリア族に託すという全面的な委任状を、

彼らの前に示す。

 

ハウリア族たちの視線がカムの顔へ集まって来る。

 

「族長自らの……たっての頼みならば断るわけにもいかない」

「大佐……」

 

何人かが不満めいた囁きを漏らすが、カムは皆まで言うなとばかりに、

はっきりと宣言する。

 

「亜人族全ての未来という、大儀を生まんとする時に、小事にこだわってはならん

何より我らは義によって立っているのだからな、そして……」

 

カムの目がキュピーンと効果音が出そうな、危険な光を放ち始める。

 

「もはや、我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者はおらんっ!そうだな!」

 

カムの言葉に、残りのハウリア族が一斉に、一糸乱れぬ直立不動の姿勢となる。

 

「も……もう一度言います、勝負は一度きりです、その機会は近く訪れます、

そして、ハウリア族の勝利の暁には、その生き証人となることも約束致します」

 

これには流石に気圧されたか、やや言葉を詰まらせるリリアーナ。

 

「聞いたか、暗殺なんぞ下らん手は使うな、オマエらの流儀で堂々と帝城を制圧し、

直接、皇帝の首にその刃を突き付け、真の弱肉強食を、

奴らが言う実力主義とやらを叩き込んでやれ、天下にハウリアここにありと知らしめてやれ」

 

シャレムの言葉に、ニィと不敵な笑みを浮かべるカム。

目を爛々と光らせているため、かなり怖い、思わずジータの背中に隠れる鈴。

 

「事を成し遂げてこそ、我々の後に続く者が生まれる!

我々は、亜人族の真の解放を掴み取るのだ!

そして古よりの悪しき呪縛を、我らが正義の剣によって断ち切るのだっ!」

 

感極まったカムは、拳を振り上げ感涙に咽びながら咆哮を上げる。

 

「ジィィィィィィク!ハウリアッ!」

 

そして残りのハウリア族たちも、それに呼応し怒涛の如く咆哮する。

やはり歓喜の涙を流しながら。

 

「「「「「ジーク・ハウリア!ジーク・ハウリア!ジーク・ハウリア!」」」」

 

そんな興奮の渦の中にのめり込んでいくハウリア族をげんなりとした目で、

見つめつつ、ジータは雫へとそっと耳打ちする。

 

「ねぇ……香織ちゃんともね、話したんだけど……姫様、やっぱりちょっと変じゃない?」

「うん……」

 

心配げに頷く雫、帝国に近づくにつれ、

それこそ、付き合いの短いジータでも分かるくらいなまでに、

外交交渉のプレッシャーという一言では、済ませるわけにはいかないほどの、

ますます固く憂いを込めた表情を、リリアーナが密かにではあったが、

浮かべるようになっていったのだ。

 

もしも、その原因が帝国にあるというのならば、

今、リリアーナはどれほど心細い思いをしているのだろうか?

 

「光輝が何か知ってたみたいだけど……教えてくれなかったの」




作者の趣味により、どんどんおかしくなっていくハウリア族……。
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