ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ハウリア・スーパーモード突入


ヘルシャー帝国に栄光あれ

そして、そんなこんながありつつも、時間は経過し、

広大にして豪華絢爛な帝城大広間にて、煌びやかなパーティーは開幕しようとしていた。

 

帝国の貴族・高官ばかりではなく、各国の大使も招かれている様だ。

アンカジ公国の大使と、シンプルなチャイナドレスを纏った香織が、

レセプションで談笑している姿が目に入る。

 

他の女性陣はといえば、シアは、ムーンライト色のミニスカートドレスで、

健康的なお色気をアピールし、対するティオは黒のロングドレス姿で、

大人の魅力を演出しようとしている。

 

だがやはり、人々の目を惹くのは、胸元と背中が大きく開いた青のカクテルドレスを、

身に着けたシルヴァだろう。

 

「……華々しい格好は少し苦手なんだ、狙撃手は目立つべきではないしね、

とはいえ、場に合わせるのも大人の仕事……そう心得ている」

 

「あんな事サラリと言ってますよ、ティオさん聞きました?」

「悔しいが、まったく嫌味に思えんな、ま……世の中にああいう存在はそう多くはいるまい」

 

シルヴァが姿を現すや否や、その一瞬で場の注目を持って行かれた、

シアとティオが、悔し気な表情で囁きあう。

 

「たく、主役はあくまで姫さんと……だってのにな」

 

そんな事をつい口にするハジメの姿は、タキシード……ではなく、

五つ紋の黒紋付羽織袴である。

しかし白髪と相まってその姿は、成人式で騒ぐバカその物にしか見えず、

ハジメ自身も意識しているのか、その表情には忸怩たるものがある。

 

「ニュースでよく見るバカみたい……」

「分かってるよ……けどなぁ、あんな事言われてタキシード着て行けるか!

って撮るな!お前は!七五三みたいな恰好しやがって!」

 

懐からスマホを取り出した鈴を止めつつ、なんか服装に関しての受難が多いぞコラと、

天井に向かって睨みを効かせるハジメだった。

(ごめんな)

 

「まぁまぁ、南雲君が目立ち過ぎないように、私たちも合わせてあげたんだし」

「久々に感じるよ日本を!作ってくれてありがとう」

 

普段のポニテを日本髪に結い、鶴の柄も鮮やかな振袖姿の雫が、

ハジメの肩をポンと叩き、パーティーというよりも、

七五三……いやいや卒業式を思わせる袴姿の鈴が、くるりとその身を翻させる。

 

「デザインしたのはジータだ、お礼はあいつにも言ってやってくれ」

 

そういえばそのジータの姿が見えない、それからユエも、

ユエがまだ姿を見せない理由は、何となく察しはつくが……。

 

「で、入らないのか?オマエは」

「ああ、ジータがまだ準備を終えてないんだ、でももうすぐってさ」

 

テーブルの料理に興味津々のシャレムに向かって、

溜息交じりでクイクイと注射を打つような仕草を見せるハジメ。

それを横目で見ながら、またロクでもない事をしでかしているんだろうなあと、

思わずにはいられない雫だった。

 

 

その頃、西日差す岩石地帯では、

白衣姿の"ドクター"に扮したジータがハウリア族へと"薬"を投与していた。

『アドレナリンラッシュ』『マッドバイタリティ』強烈なバフ効果がある、

これらの薬は、魔力を持たぬ亜人たちには、自分ら人間が使用する以上の劇的な効果を与える。

ただし副作用も強烈なため、こういう正念場でなければ、もちろん投与などする筈もない。

 

(正直、使いたくはないんだけど……)

 

案の定、黒装束を纏ったハウリア族の目が輝き始める、

例によってキュピーン!と、何かを感知しそうな危険な色へ……いや。

 

「燃えあがれ闘志!忌まわしき宿命を越えて!」

 

キュピーンを通り越して、スーパーモードに突入しつつあった。

 

「待ちに待ったときが来たのだ、多くの亜人たちの犠牲が無駄ではなかったことの、

証のために!再びハウリアの理想を掲げるために!我らは一日!一日待ったのだ!

ハウリアの大義の成就のために!帝都よ!我らは帰ってきた!」

「大佐!大佐殿ォ!」

 

カムの演説に感極まったハウリア族たちが感涙にむせぶ、

ちなみに背中に長刀を背負ったカムの黒装束は他の者たちとは異なり、

何故かトレンチコート状になっており、しかも目出し覆面の額の箇所に、

V字状のアンテナめいた飾りを着けていた。

 

そしてカムが俺のこの手が光って唸るとばかりに拳を天高く掲げ、渾身の声で雄叫びを上げる。

 

「帝国に兵無し!見よ!帝城は赤く燃えているぅぅぅぅッ!」

 

確かに西日に照らされた城はそう見えない事もない。

そして族長、いや大佐の激に、ハウリア族全体が帝国倒せと輝き叫ぶ。

 

「「「「「シャアァァイニングッ・ハウリアァァァァッ!!」」」」」

 

「じゃ……じゃあ、私、先に会場行ってるから」

 

冷や汗を掻きながらゲートをくぐるジータ。

彼らハウリア族をこんな風にしてしまった責任は、間違いなく自分にある、

だが、それを棚に上げ、ジータは思わずにはいられなかった。

帝国とハウリア、どっちもどっちだなぁと。

 

 

宴が始まってから、暫く経って後。

 

ジョブチェンジならぬ、お色直しを終えたジータと、

それに合わせて衣装を選んだユエを従えて、ハジメはようやく会場に入る。

 

三人の姿におおと、会場にどよめきが自然と湧く。

 

"勇者"である光輝が不在である以上、ハジメは、"神の使徒"にして、

王都防衛の立役者として扱われる、まして皇帝からの光輝評が未だ、

(笑)の域を出ていない事もあり、早速、武官たちらが中心となって、

ハジメの周囲に人盛りの輪が出来る。

 

もちろん、ハジメばかりが注目されているわけではない。

ハジメにエスコートされる、美しき二輪の華に関しても、彼らは興味津々のようだった。

 

まずはジータだが、まずは豊かな金髪を花とレースでもって纏め上げ、

そして胸元に薄手の生地をあしらい、その谷間を大きくアピールするかのようなデザインの

紫のモダンドレスを身に着けている。

その、やや露出度が高い上半身のデザインと相反するように、

ふわりと翻るスカートは、幾重にも布地が重なっており、

その配色は見る者に紫陽花のイメージを与えた。

 

もちろん、ただドレスで着飾っているだけではない、

今の彼女のジョブは"マスカレード"しなやかなステップで敵を討つ、

連続攻撃に長けたジョブである。

 

そして一方のユエは、なんとウェディングドレスを意識したかのような、

純白のドレスを纏っている、そのデザインもフリルやリボンが、

これでもかとばかりに、ふんだんに飾られた、

やや装飾過多を思わせる物であり、片やシンプル、片や豪奢。

少なくともユエの方は、明らかにジータへの対抗意識が見て取れる。

普段はジータを立てて止まないユエだが、

今夜に関してだけは、いざ尋常にという心境なのかもしれない。

 

そんな二人の視線がハジメを挟んで交錯し、頷きあうと、

彼女らはダンスホールへと向かう、その姿に楽士たちが慌ててスコアの確認を始める。

 

そして多くの人々の注目を集める中、ホールの中心にて、

ユエは古典的かつ優雅な円舞を舞い、ジータは現代的で躍動感あるステップを踏んで行く。

その情熱的な舞踏は、剣なき武闘にも思えた。

 

そしてその勝者に与えられるべきもの、欲するものは……。

 

「全く、果報者だなオマエは」

「……なんて勝手な男なんだって、自分でも思うよ」

 

漆黒のドレス姿のシャレムへと、やや苦い表情で応じるハジメ。

 

「今のオマエにはこっちの方が気楽なようだが」

 

そんなハジメへと、スコスコと右手で何かをしごくような仕草を見せるシャレム。

祝いの席で何て真似をと鼻白むハジメであったが、

と、そこにユエとジータが連れ立って現れ、

そのままハジメの両手を引いてホールへと誘う。

 

「お……俺、ダンスは」

「大丈夫!"プリンシパル・クラシック"!」

 

ぱちんとジータが指を鳴らし、アビリティを発動させると、

ハジメの身体がジータに合わせ、自然とステップを刻みだす。

このアビリティの効果は、自身の後に続く者に、同じ行動を取らせるという物だ。

 

アメリカンスクールのプロムナードの様に、互いにステップを踏みながらも、

念話を交わし合う二人。

 

『どうなの?ハウリアの人たちは』

『ああ、万事順調なようだ』

 

そんなハジメたちの姿を眺めつつも、テーブルの料理に手を伸ばすシャレム。

 

「ばかちんどもが、男という生き物は追わせるのがセオリーだぞ……

たく、追えば追う程、男は逃げるのが常だというのに」

 

おしゃぶりを咥えたまま、エビの揚げ物に齧り付くシャレム、

その様を見ながら、どうやって食べてるんだろうと、

同じく食い気優先の鈴が疑問に思った時だった。

 

会場の入口がにわかに騒がしくなる、

どうやら、主役であるリリアーナ姫とバイアス殿下のご登場らしい。

文官風の男が二人の登場を伝えると同時に、場が一気に静粛なものとなる。

 

大仰に開けられた扉から現れたリリアーナは、

華やかな桃色のドレスに身を包み、かつ、自信たっぷりの表情に満ちていた、

もはや恐れる物など何もないと言わんばかり、ぶっちゃけ居直って開き直っていた、

もうなるようになれと。

 

一方のバイアス君は、それとは正反対の、

明らかにリリアーナに気圧されたかのような、鼻白んだ表情を見せている。

一応ジータにしてやられた傷は、治療済みのようだが、

右腕にだけはギブスを嵌めたままだ。

 

そのアンバランスな図式に、招待客はやや微妙な感じを覚えつつも、

とりあえず二人を拍手で迎え入れ、そしてガハルドのシンプルな言葉が終ると、

リリアーナたちは挨拶回りを始めて行く。

 

「お前、神の使徒の一人だったのか……」

 

ジータを見つけるや否や、つかつかと歩み寄り、憎々し気に睨みつけるバイアス、

どうやら護衛の一人程度にしか思ってなかったのだろう。

 

「先程はどうも」

 

そんな憎悪の籠った視線をやはり平然と受け流し、澄まし顔で挨拶を交わすジータ。

 

「くっ……」

 

ただの護衛ならばも扱いようもあったが、だが……神の使徒ならば賓客である。

つまり手を出せば……その非は自分にある。

悔しさを隠さずにその場を後にするバイアス、それでも薄手の布地が貼り付いた、

ジータのタイトな上半身を、舐める様に一瞥する事は忘れない。

 

「……あの皇子様、ギブスの中に暗器握ってやがる」

 

それが本当ならば、皇族にあるまじき振る舞いである。

ハジメの言葉に、狙い通りとはいえ、随分と恨まれたものだなあと溜息を付くジータ。

 

ハジメはジータを伴うと、一先ず宴の輪からは外れ、広間の壁へともたれ掛かる。

もちろん、ただ単に壁の花になっているわけではない。

二人の耳にはハウリア族からの通信がひっきりなしに届いている。

 

「すでに要所の制圧は終わったようだ」

「もうすぐだね……」

 

ジータはカムとの会話を思い出しながら、遠目にご機嫌なガハルドの姿を捉える。

 

『で、どうなの?勝てそう?皇帝に』

『正直これでも五分五分でしょうな……あれは人間の強さではないので』

 

念のために、王都のメルドにも聞いてみたのだが。

 

『あれは俺でも無理……とは言わんが、進んで戦う気にはなれんな』

 

メルドがそこまでの評価を与えるのならば、やはり只者ではないのだろう。

一応、ハウリア族も手は打ってはいるようだが。

 

「皇帝は皇帝で……ガチガチに魔法陣やアーティファクトで防御を固めてやがるな」

「どうする?」

 

もう一押し、何かゲタを履かせるか……だが、ハジメはジータの言葉に、

首を横に振る。

 

「正直、"薬"の投与もギリギリだと俺は思ってるんだがな、いや……何というか、

この期に及んで綺麗事かもしれないけど、やっぱり俺は見たいんだよ、

出来ればアイツらが、アイツらだけの力で、成し遂げる姿を……」

 

まぁ、万が一の時は助けてやるけどな、と、ハジメが口にしたのと同じくして、

ガハルドが壇上に上り、御来賓の方々は席にお戻り下さいとの声がかかる。

アナウンスに従いいそいそと会場を行き交う人々、こういう立場ある方々は、

手近な空いている席に座るなどという、無作法は決してしないのだ。

 

それはハジメたちに取っても好都合である、この戦いは、

帝国関係者以外にはかすり傷一つ、与えてはならないのだから。

 

全員が着席したのを、壇上から見下ろした後、

ガハルドは、ご満悦な表情でスピーチを始める。

 

「さて、まずは、リリアーナ姫の我が国訪問と、我が息子バイアスとの、

正式な婚約を祝うパーティーに集まってもらった事を感謝させてもらおう、

色々とサプライズがあって、実に面白い催しとなった」

 

ハジメとガハルドの視線が交錯する、それが興に入ったのか、

ふくれっ面のハジメとは対照的に、益々面白げな表情になるガハルド。

 

「パーティーはまだまだ始まったばかりだ、今宵は、大いに食べ、大いに飲み、

大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ、それが、息子と義理の娘の門出に対する、

何よりの祝福となる、さぁ、杯を掲げろ!」

 

ガハルドは会場の全員が杯を掲げるのを確認すると、

自らもワインがなみなみと注がれた杯を掲げ、一呼吸を置いた所で、

リリアーナが来賓席から彼に呼びかける。

 

「ここからは私が音頭を取りたく存じ上げます……陛下、いえ、義父様」

「義父様か……少々気が早いが、その言葉、悪くはないぞ」

「皆様……杯を」

 

リリアーナへと人々の視線が集まる、ハジメたちは頷き合い、備えを始める。

すでにハウリアたちもスタンバイOKの様だ。

作戦開始を告げるコードは、リリアーナの言葉、それは……。

 

「人間族の結束をより強固な物にする為に!この地上に生きる者たちの全ての為に!

我らに栄光を!そして」 

 

一泊置いて、リリアーナは決意と共に、作戦開始のトリガーを引いた。

 

「ヘルシャー帝国に栄光あれ!」

 

その瞬間、全ての光が消え失せ、会場は闇に呑み込まれた。

 




次回、ハウリアファイト・レディーゴー!
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