響き渡り消えゆくベヒモスの断末魔。
ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。
そして……瓦礫と共に折り重なるように奈落へと姿を消していく、ハジメとジータ。
(届いた…筈、なのに)
あの時、香織もまたハジメと共に落ちる覚悟だった、だが…。
飛ぼうとした瞬間、何者かに足首を掴まれそれは叶わなかったのである
「良かった…香織、ジータ…は?」
安堵の微笑を浮かべる光輝、気分はまさに勇者である。
自分の足首を掴む光輝の手を恨めし気に睨む香織。
「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」
なおも飛び出そうとする香織を光輝と、さらに雫が覆い被さり必死に抑え込む。
細い体のどこにそんな力があるのかと、疑問に思うほど
香織は尋常ではない力で引き剥がそうとする。
このままでは香織の体の方が壊れるかもしれない。
しかし、だからといって、断じて離すわけにはいかない。
今の香織を離せば、そのまま暗闇の中へ飛び降りるだろう。
それくらい、普段の穏やかさが見る影もないほど必死の形相だった。
いや、悲痛というべきかもしれない。
「このままじゃジータちゃんに取られる!ジータちゃんに負ける!離してっ!はなせーっ!」
その叫びはいつの間にか別の意味を帯びていた。
光輝に罵声を浴びせ、雫の顔を引っ掻く香織
そんな騒ぎの中、異様な興奮の中。
「なぁ…蒼野があの時」
「ひ…やま、檜山って言ってたよな」
誰かの言葉に一同は一斉に檜山の方を見る。
恐らくジータが…学園のアイドルの一人である彼女が、
ハジメの盾にならなければ見落としていた筈だ。
それ故に彼らは明らかに誘導されたとしか思えない軌道でハジメ、
ひいてはジータに火球が直撃するのを見ていたのである。
「ち、ちが…俺っ火属性の魔法なんて」
誰も聞いてないことを口走る檜山。
「おい」
龍太郎が檜山の顔を睨む、その迫力に気押された彼は、
「あ、蒼野があんな…俺は南雲を…」
決定的な、致命的な一言を口にしてしまった。
その瞬間、憤怒の形相で龍太郎が跳躍する。
そして空中からの踵の一撃が治ったばかりの檜山の鎖骨をまた砕いた。
「ぐいぎゃあーっ!」
さらに隣にいた近藤の拳も生えたばかりの檜山の前歯を砕く。
その悲鳴で生徒たちの緊張の糸がプツン…と切れた。
そしてこの一戦でのストレスを晴らさんとばかりに、
生徒たちの何人かが一斉に檜山へと襲い掛かる。
当たり前だが元々良くは思われてはなかったのだ、その上。
いつもつるんでいた仲間を見捨てて逃げ出したこと、
光輝に縋りつき泣きを入れたこと、そして仲間殺しという、
明確な排除への大義名分を彼自ら作ってしまったのだ。
こうなるともう騎士たちや光輝らの制止の声も届かない。
先日までの仲間たちまで加わった凄惨なリンチを受けながら、
檜山は香織へと手を伸ばす…。
「た…たす」
だが僅かに反応した香織の目を見て檜山は絶句する。
その目には虚ろとしか表現出来ないほどの闇と、
汚物を見るかの如き冷たさが映っているだけだったのだから。
「~~~~~~ッ!」
その絶叫は傷の痛みか、己が手を汚してまで手に入れたかったモノの、
正体を悟ったがゆえか。
そしてメルドが尚も泣き叫ぶ香織の首筋に手刀を入れ意識を刈り取ると
ようやく事態は沈静化に向かったのであった。
「と、いうワケ…だよ」
「……」
途切れ途切れながらもどうにか語り終わった遠藤、その正面には渋面のカリオストロ、
うなだれた愛子の表情は彼からは見えない。
「気を落とすな、オレ様がまだここに存在出来てるってことは多分アイツらも無事だから」
本当にそうなのかは分からないが…今はそう言って安心させるのが先決だろう
と、愛子に言い聞かせようとしたカリオストロだが、その愛子の反応が無い。
「?」
愛子の顔を覗き込んで、一瞬飛び退くカリオストロ。
あまりのことに精神が耐えられなかったのだろう、愛子は座ったまま気絶していた。
その頬を涙で濡らして。
「そういや、やけに静かだなーって思ってたんだよな」
「どっから気絶してたんだろ?」
「途中で泣き喚いても面倒だったからな…って、テメェ愛子の前で
何ショッキングな事言ってるんだ!」
遠藤の襟首をつかみチョークスリーパーをかけるカリオストロ。
「あんたがここで話せって言ったんじゃないかよおぉ」
ぱんぱんぱんとギブアップのサインを必死で送る遠藤。
「じゃあ…あのミイラみてぇなのは」
檜山だよと遠藤は答える。
当然の報いなので互いにそれ以上は気にしない。
とりあえず二人でのびたままの愛子をベッドに運んでやる。
「あとは慈愛の天司様に頼るしかないだろうな」
「あんたでも…神頼みなのか」
「あれでなかなか頼りになるんだぜ」
まるでかつて共に戦ったことがあるかのような口調で、
ククク…とカリオストロは笑う。
それは相も変わらずの邪悪な笑みだったが、
遠藤にはそれがいつも以上に、不思議に頼もしく見えたのだった。
そして舞台はまた移る、いよいよ地の底へと。
ザァーと水の流れる音がする。
冷たい微風が頬を撫て、時折ポタポタと雫が落ちる、が、それにしては後頭部がやけに暖かい。
その温もりはどこか懐かしい感じがした。
薄目を開けるハジメ、そこには。
「ハジメちゃん…よかった。」
泣き笑いの幼馴染の顔があった。
「ジータ…ちゃん、どうして」
未だはっきりしない頭、ズキズキと痛む全身に眉根を寄せながらも、
両腕に力を入れて上体を起こす。
「痛っ~ここは……僕は確か……」
ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回す。
周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。
視線の先には幅五メートル程の川がある。
「そうだ……確か、橋が壊れて落ちたんだ。……それで……」
ジータの説明によると、二人が奈落に落ちていながら助かったのは
全くの幸運だったのだという。
落下途中の崖の壁に穴があいており、
そこから鉄砲水の如く水が噴き出していて、
「ウォータースライダーみたいに流されたみたい…」
そこから先は私も覚えてないけどね、と、ジータは付け加える。
「奇跡…だよね」
確かにとてつもない奇跡だ。
「でも良かった、頭も打ってなさそうだったし、ここで温まりながら今後の事を考えよ」
彼らの傍らにはジータがあらかじめ起こしていたのだろう、ささやかながらも火種があり
その周りには自分の服が全てロープで近くにぶら下げられている。
ん?って…つまりそこから導き出される結論は…。
そこで初めて自分が今、全裸だということに気が付くハジメ。
「あの…その…」
もじもじと俯き加減のハジメに。
「気にしなくっていいよ、あのままじゃ風邪ひいちゃうし」
ジータはちょっと意地悪い笑顔で答える。
「それに六つの時まで一緒にお風呂入ってたじゃない」
「ああああああっ!」
赤面し頭を抱えるハジメちゃんなのであった。
(ちなみにジータはジョブを一度解除することで着替えてます!残念)
未だもじもじと赤面しているハジメ、ジータの顔を上手く見ることが出来ない。
「ねぇ…ガチャやってみる?リソースも大分貯まってるんでしょ」
絞りだすように声を出してから、やっと話しかけることが出来たとホッとする。
「じゃ…じゃあ…久々に10連行く?」
やっと話しかけてくれたと、ちょっとドキドキしながらも応じるジータ。
(そーゆー態度取るから…こっちまで)
こういう時に団員を…仲間を呼べればいいのだが、団員Lvは未だ1のままだ。
たまには10連やってみるか。
10連はリソースは喰うが、その代わりSR以上が最低一つは確定で登場することになっている。
やはりこういう時にこそリソースは費やすべきだ。
ジータはスマホを召び出し、コンソールを開き召喚石ガチャを選択し。
一つ深呼吸してから10連のボタンを押す…と。
「あ…ああっ!」
二人の眼前に虹色のクリスタルが出現する、あの日以来の久々のSSRだ!
「き…来たっ!来たよハジメちゃん!」
「やったね、ジータちゃん!」
手に手を取り合いぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる二人
だが、あまりに喜び虹を凝視し過ぎたか、
弾ける際の閃光をモロに目に入れてしまい、彼らは思わず目を逸らす。
(あれ?今…)
閃光が晴れると黒い輝きを放つ石が一つだけ残っている。
魅入られるようにハジメが手を伸ばすと、
石はそのままハジメの身体に吸い込まれていった。
「あ…いいのかな?」
「いいよ、二つ目はハジメちゃんにあげようと思ってたから」
(そのまま身体の中に入っていくとは思ってなかったけどね)
戻ったら香織ちゃんや雫ちゃんにも出来るか、試してみよう、
そんなことを考えながら火種に向かい身体を丸めるジータ。
一方のハジメは期待に胸を膨らませつつ、
いそいそとステータスプレートを確認している。
加護:黒麒麟 全属性攻撃力50%UP/アビリティダメージ50%UP/アビリティダメージ上限25%UP
頬が緩むのを感じながら何度も何度も見返す、
いわゆるソシャゲは殆ど手を出さないハジメだが
ガチャにハマる人間の気持ちが少しだけ理解出来た気がした。
あ、そういえば虹が弾ける時に…とハジメが尋ねようとした時だった。
「ハジメちゃんもあったまろー」
ジータに促されハジメもまた再び火種に手をかざす。
「…ま、いいか」
一瞬だがハジメには見えたのだ、石の他に何かカードのような物が、
闇に消えていったのを、しかしささやかな温もりの前に、
その疑問は気のせいということで終わってしまった。
グラブルにはフレ石召喚というものがございまして…
そして災厄がひっそりと解き放たれてもいます。