ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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今回初めて歌詞使用してみたのですが、コード登録とかこれで大丈夫でしょうか?
何かミスってましたら、ご一報ください。


ジーク・ハウリアⅢ なぐりあい帝都

「なんだ!?なにが起こった!?」

「いやぁ!なに、なんなのぉ!?」

 

一瞬で視界を闇で閉ざされた帝国貴族たちが、混乱と動揺に声を震わせながら、

怒声を上げる、何人かが魔法で明りを灯そうとしたが、

その直後には悲鳴と共に倒れ込む音が響き、それがまた貴族らの混乱を招く。

 

「落ち着けぇ! 貴様らそれでも帝国の軍人かぁ!」

 

暗闇の中でガハルドは叫ぶが、そんな彼も四方八方から放たれる矢を、

撃ち落とす事に精一杯で、とてもではないが全体の指揮を執る余裕はない。

 

ちなみにではあるが、トラップ解除のついでに会場の床に魔法封じの結界を、

ハジメは密かに仕込んでいた。

もちろん大規模な物を仕込めば、流石にバレるが、発動させれば……。

 

この通り、比較的冷静な者が魔法で明りを灯そうとしたのだが、

その程度の初級魔法なら、即座に無効化されてしまう。

 

泡を喰った誰かが狙いも付けずに、攻撃魔法を放とうとするが。

 

「撃つな!来賓に当たるぞ!」

 

その叫びに詠唱を止めてしまい、次の瞬間、後頭部を殴りつけられ意識を失ってしまう。

 

だが、それでもここに集うのは、かつて武器一本で成り上がった戦闘者たちである。

何とか襲撃を凌いだ者たちが、陣形を組むと天井目掛け火球を造り出す。

 

払われた闇の中にいたのは、黒装束の襲撃者たち、その足下には、

昏倒し、拘束され呻き声を上げている者たちの姿がある。

しかし、何より彼らが驚いたのは、襲撃者たちは例外なく、己を誇示するかの如くに、

ピンと伸ばしたウサミミを、頭から生やしている事だった。

 

ここ最近のハウリア族の跳梁跋扈を知らぬ大半の者は、一瞬意識を奪われる。

兎人族?どうして……?と、それが致命的な隙となる。

 

「呆けるな!コイツらはただのウサギじゃねぇ!」

 

ガハルドは、自身に迫る何十という数の矢を叩き落としながら叫ぶが、

足下に転がる金属塊にまでは、注意が回らなかったようだ。

 

完全に不意を討たれた形で、閃光手榴弾が炸裂し、光と音で、

彼らは視覚と聴覚を失ってしまう。

 

その隙に、ハウリアたちは次々と標的を昏倒させ、ある者には手足に枷を、

そしてある者には麻痺毒を注入し、身体の自由を奪って行く。

そんな大混乱の中でも、ガハルドだけは襲撃者、言わずと知れたハウリア族たちの、

猛攻を凌ぎきっている……。

視覚・聴覚を奪われた中でも、風魔法を駆使し、その肌に触れる風の流れを、

気配探知の代用としている様だ。

 

そして何よりも驚くべきなのは、これだけのハンデを背負っているにも関わらず、

あろうことか、守勢に回る事なく、攻勢にすら出ようとしている事だ。

正しくその威容、気概は、皇帝を名乗るに相応しいと、

ハウリアたちは刃を交えつつも、思わざるを得ず、そしてまたこうも思う、

だからこそ面白い、と。

 

「そうそう当たるもんじゃねぇ!ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか!

なぁ、ハウリアぁ!」

 

だがハウリアたちは、ガハルドの軽口には一切応じず、

貴様と話す舌などもたん!とばかりに無言で斬撃を放つのみである。

しかしその四方八方からの連携攻撃を、正しく闇に生きる忍者を思わせるそれを、

ガハルドは笑みすら漏らし、弾いていく、

メルドをして戦いたくないと言わしめた、我流の剣で。

 

しかしその時、床に撒かれた撒菱がガハルドの足裏を突き差す、

それくらいならばどうということはないが、と、ほぼ、時を同じくして、

自身の身体の自由が奪われていくことに、彼は気が付く。

 

(毒か!神経性の)

 

感覚を失いつつある、自身の足元に一瞬意識を奪われたその時、

ボウガンの矢が、ガハルドの身体に突き刺さる、隠密性と命中率を向上させた分、

殺傷力は低いが、もちろん矢にも、神経性の痺れ薬が塗ってある。

 

それでも只では終わらぬと、道連れ覚悟で魔法を発動しようとしたガハルドだが、

ハウリア族がそれよりも早く、彼が隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを、

破壊または弾き飛ばし、その手足に戒めの枷を取り付けていく。

 

その姿に、一部で続いていた抵抗の音も止み、静まり返るパーティー会場。

最強にして、絶対者にして、自分たちが掲げる皇帝……そんな男が、

ついに一敗地に塗れたのだ。

それも、亜人族の中でも取るに足らない存在であった兎人族の手によって。

 

「大事なのはここからです……」

 

ハジメへと小声で呟くリリアーナ、彼らはハウリアたちの邪魔にならないように、

大人しく来賓席に座っていた、もちろん、各国の使者・大使たちが、

巻き添えを喰わぬようにするためでもあるが。

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ」

「ふん、要求があるんだろ?言ってみろ、聞いてやる」

 

痺れる舌の感覚に、顔を顰めつつもカムに応じるガハルド。

 

「慌てるな、その前に周りを見て貰おう、皇帝のみならず、参加者の諸君らも」

 

暫しの困惑の後……ガハルドが、いや全ての参加者が息を呑む、

それは単に、精強を誇る帝国の本拠が、完全に制圧された光景に驚いただけではない。

あれ程の激戦であったにも関わらず、

誰一人として、命を失った者が見当たらないという事に彼らは驚愕していた。

 

「これは我らの善意と受け取って頂きたい」

「善意?」

「そうだ、我らは戦争は決して望まない、ただ望むは平和と安寧……これが証拠だ

この義挙が単なる復讐に非ずという」

 

殺せない者の不殺は単なるお題目、ともすれば怯懦とすら捉えられても仕方がないが、

殺せる者の不殺は、時に殺す以上の絶大な効果を与える事が出来る。

それに今、天下に示さねばならないのは、ハウリア族の強さであり、怖さではない。

 

もちろん、善意と口にこそしつつも、これは決して慈悲ではない、

この場に於いては、殺すよりも殺さぬ事が、戦略上、最も有効な手段と判断したまでの事、

もしも殺戮以外に選択肢が無いと判断したのならば、

彼らは躊躇うことなく、帝城を血の海としていただろう。

 

そしてそれが分からぬ帝国皇帝ではない。

いつでも彼らは自分たちを殺せた、いや殺せるのだという事を、

つまり自分たちは善意と称する情けを掛けられ、見逃されているのだという……。

 

ガハルドはもう一度周囲を見渡していく、居並ぶ貴族・高官らは手傷こそ負わされ、

手足を封じられている者が多いが、確かに、誰も殺されてはいない、

恐らく外の警備兵も拘束こそされてはいるが、命を奪われた者はいないのだろう、

例え……ガハルドの目がハジメを捉える。

奴の手を借りたとしても、ここまでの完封を見せつけられて、

どうして抗弁する事が出来ようか……。

 

(俺は……恥を知っている)

 

「で、要求は何だ……察するに亜人奴隷共の解放か」

「その通りだ、で、単刀直入に聞こう、回答は?」

「逆に聞こう、俺たち帝国がお前ら亜人たちにしてきた事を承知で、

お前たちは俺たちに信義を問うのか?」

 

ガハルド個人としては兜を脱いだ心境だが、

皇帝としては、おいそれと首を縦には振れない。

現実的な話として帝国の産業は、奴隷の労働力に頼っている部分が多く、

それを失えば、屋台骨が一気に揺らぐ危険性がある。

 

「……我らも人、人で在りたいと思っているからな」

「笑わせやがる」

 

そこで扉が開き、ハウリア族に連れられた一人の文官が入って来る。

確か外交部の……どうしてここに連れて来た?と、ガハルドが思うよりも早く、

文官は上ずった声で、報告を読み上げる。

 

「し……新教皇シモン・リベラールがっ……」

 

続けろと、ハウリア族が文官の脇腹を肘で打つ。

 

「今後聖光教会は亜人たちを人間と同等の存在として扱うとし、

そしてこれより、亜人たちへの迫害を公然と行う国家・集団については、

教皇庁による制裁も辞さぬとの声明を発表致しました!」

 

その声に居並ぶ人々からどよめきが起きる。

頑なに盟約を拒んでいた、アルフレリックの首をついに縦に振らせた、

リリアーナの隠し玉、聖光教会教皇直々の亜人解放宣言が、ここで公になったのである。

これで帝国は、いや諸国は奴隷制の大義名分をほぼ失う事になる。

 

ガハルドに神についての真実を伏せていたのはこの為だ。

実際にしゃしゃり出られると迷惑この上無いが、

統治上のシステムとして神の、エヒトの名は絶大な利用価値がある。

つまりゆくゆくは空位となった神の座を、人々は拝み奉ることになるのだろう。

 

「アンカジ公国は、どうやら支持の方向に回る模様!」

 

アンカジ大使が香織へと微笑みかける。

そこでガハルドは、はっ!とした目でリリアーナの顔を見、

そしてリリアーナは、にこやかに応じる。

 

「もちろん、我がハイリヒ王国もです、皇帝陛下」

「は、謀ったな!リリアーナ!」

「貴方の御子息がいけないのです」

 

制裁、すなわち異端認定と言うカードを握られてしまった以上、もはや成す術は無い。

異端国家と国交を結ぶ国など、このトータスには存在せず、

何よりそれを名目とした経済制裁が発動されれば、さしたる産業を持たぬ、

国民皆戦士のヘルシャー帝国は、たちまちにして干上がる事となる、

腹が減っては戦は出来ないのだ。

 

リリアーナは傍らに控える文官に命じ、

亜人解放に関しての盟約が記された紙をガハルドへと示す。

この四面楚歌の状況の中、彼が取れる道は二つ。

帝国の面子を優先し、この場で亜人相手に宣戦を布告すること、

そしてもう一つは……。

 

「いいだろう……俺たちの負けだ」

 

ここで条件を全て飲もう、などと迂闊に口にしないあたり、まだ冷静さが残っているようだ。

ともかく、地獄の底から聞こえてくるかの様な声で、ガハルドは呻き、天を仰ぐ。

 

「聞こえなかったのか!俺の、帝国の負けだ!」

 

ガハルドの宣言に、毒の効果が薄れつつあるのか、

正気ですか?だの、どうかお考え直しを……だのと、貴族たちの声が漏れ聞こえ始める。

 

「見て分からんのか!こいつらは俺が築き上げた天下のヘルシャー帝国帝城を陥しやがった!

しかも誰も殺さずにだ!お前らにそれが出来るか!ここまでの実力を見せつけられて、

諸国の来賓を前に恥を晒して言い訳など出来ん!認めるしかないだろう!

それに我ら帝国は強さこそが至上!ゆえに俺は皇帝として……」

 

流石に言葉を詰まらせながらであったが、ガハルドはカラ元気を振り絞って宣言する。

 

「この盟約に調印する!文句あっか!」

 

いずれにせよ、これだけの衆人環視の中で盟約を結ぶのである、

もしもこの期に及んで約定を破れば、今度こそ帝国の評判は地に堕ち。

帝国人は人間社会に於いて、魔人族以下の……信義を知らぬ獣として扱われる事となるだろう。

それはこのプライド高き皇帝には、亜人の前に屈するよりも、

耐え難き屈辱に思えた。

 

「だが……諸侯及び各国の来賓たちにこれだけは申し置く!」

 

カムを、そして諸国の来賓らをガハルドは睨みつける。

 

「俺はお前たちハウリア族が強さを示したからこそ、帝国の国是に則り!

膝を屈して、盟を受け入れたのだという事を!」

 

帝国はハウリア族に敗れたのであって、お前らに敗れたわけではない、

彼は暗にそう言っているのだ、だから舐めた真似はするなよと。

 

「ほう、流石だな、僅かでも傷を少なくする道を選んだか」

 

王とはそうではなくてはと、頷くシャレム。

 

ガハルドは宰相を呼ぶことをカムに要請し、呼ばれた宰相は刃を突きつけられつつも、

ガハルドに言われた通りに、盟約の各事項を確認する。

 

納得、というよりも書面に嘘が無い事を確認できたのか、

ガハルドは、リリアーナとアルフレリックの名前と血判が押されたすぐ下に、

自身の名を書き、そして指を噛んで血判を押す。

その紙からは、かなりの魔力を感じる、何らかの強制力があるアーティファクトなのだろう。

少なくともこれで、昨日の敵は今日の他人となった、

明日は敵か友かは知らないが、それは明日を生きる者が考えるべき事だ。

 

で、その帝国の明日を担うバイアス君が拘束を解かれるなり、やはり喚き始める。

 

「ざけんじゃねぇ!戦争だ!まずはこの帝国に存在する亜人奴隷どもを、

一匹残らずブチ殺す!そして国民全員に武器を持たせて、樹海に総攻撃だ!特攻だ!」

「お前は……そんなことを本気で考えているのか?」

「親父ィ!勝ち負けの問題じゃねぇだろ!人間としての尊厳の問題だ!」

 

尊厳という言葉も随分軽々しくなったものである。

 

「一人一殺だ!俺たちが全滅する時には亜人共も全滅だぜ!」

 

物騒極まりない言葉だが、ハウリア族は動かない、ここから先は帝国の、

いや、家庭の問題だろと言わんばかりに。

 

「そうか……ならばバイアスよ、まずはお前が先頭に立ち、国民を代表して、

真っ先に死んでくれると言うんだな?」

「え……あ、俺は……その、皇太子だし……親父に万一のことがあるとよ…お、おい

ベスタ!お前親父と付き合い長いだろ、お前行け」

「わ、私は……副官の立場が……あああ、き、君だ、君が行け」

「実は樹海の戦には慣れてはおらず……ここは老将軍に」

「ワシはもう戦列から離れて長く……」

 

責任のなすり合いが始まった挙句、彼らはガハルドへと一斉に頭を下げた。

 

「と、いうことで陛下には国民総特攻の先駆けとなって頂きたく……」

「もういいわ!」

 

ガバルドは眩暈を覚えていた、自身の強さに安住し、

弱肉強食を弱者への蹂躙の口実としてしか、考えていなかった、

考える事が出来なくなっていた、息子や臣下たちの姿に、

そして何よりそれを、何時の間にか当たり前の事としか思えなくなっていた、

自分自身の姿に。

 

『おいおい、俺は"帝国"の頭だぞ?強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?』

 

(我ながら呆れて物も言えねぇ……)

 

「なんか可哀想になって来ちゃったね……」

 

しょんぼりと肩を落とすガハルドの姿に、ポツリと呟くジータ、

そうだ、大事な目的を忘れていた……追い討ちをかけるようで何だが。

しかしジータが動く前に、ガハルドが動き、意外な言葉を口にした。

 

「リリアーナ姫……我が息子バイアスとの婚約の件、こちらから辞退させて貰う」

「オイ!親父……!」

「いい加減に察しろ、バイアス」

 

それは皇帝の言葉であると同時に、父の言葉であった。

 

「お前は王の器じゃねぇ、野盗の頭すらも務まらん男という事がはっきり分かった、

……一国の姫を娶らせるわけにはいかん」

 

それにガハルドはリリアーナの強かさに、内心舌を巻いていた。

今は小娘に過ぎないが、長じれば、単に粗暴なだけのバイアスに御せる様な女では、

なくなるだろうと、下手をすると帝国を乗っ取られるとさえも。

 

「認めねぇ……認めねぇぞ、親父ィ!腑抜けに成り下がりやがって!」

 

わなわなと拳を震わせるバイアス、と、そこに、話終わっちゃったと踵を返す、

ジータの姿が目に入る……彼女の名誉の為に書いておく、決して誘ったわけではない、

少なくともジータとしては、だが、バイアスの方は、それを挑発と受け取った。

 

「お前がっ!お前が絵を描いたんだな!この疫病神が!」

 

そう一言吠えるや否や、未だ毒が残る身体であるにも関わらず、

一足飛びで跳躍し、ジータへと襲い掛かる。

賓客に、まして背を向けた相手に殴りかかる、凡そ皇太子の振る舞いではない。

しかも外したギブスの中の右手には、暗器が握られている。

 

顔見たくないから振り向かなくてもいいか、などと、ものぐさな事を思うジータだったが、

ジータが動かないならと、割り込みをかけた香織の右腕が一瞬、

刃のような形になったかと思うと、そのままバイアスの右腕の肘から先が斬り落とされた。

 

飛び散る鮮血、そして悲鳴。

 

「いでぇ!いでぇよぉ!いでででぇ~~」

 

切断面を押さえつけ泣き叫ぶバイアス、その傍らでは暗器の爪が毒煙を噴いており、

その様にガハルドは思わず目を伏せてしまう。

 

「ああああっ!助けてくれぇ~~~」

 

しかし、バイアスのこの痛がり様は尋常ではない。

どうやら香織は悟られぬように、感覚を鋭敏にする魔法を使用したようだ。

 

「婚約、解消してくれるよね?」

「るせ……ぇ」

 

香織は、斬り飛ばしたバイアスの右腕を、これ見よがしに彼の眼前でチラ付かせる。

 

「早くしないとつながんなくなるよーほーらほーら、ほら」

 

その凄惨な光景は、ガハルド始め、歴戦の帝国の面々のみならず、

ハジメたちやハウリア族ですら引いていた……それでも何故かアンカジ公国の大使だけは、

頬を染めていたが。

 

「するっ、するっ、するっ、しましゅ~うっ!ヘルシャー帝国皇太子バイアスは、

リリアーナ姫との婚約の件をっ、辞退いたしましゅ~~っ!

だから早くこの痛みを止めてくれぇええええ~~~」

 

自らの血溜まりの中でのたうち、涙と鼻水に塗れた顔で叫ぶバイアス。

そんな彼に、よくできましたと言わんばかりに笑顔で頷き、

香織はようやくバイアスの腕を繋ぎ、痛みを止めてやる。

 

そしてガハルドは自身の麾下たちを見回しつつ、大音声で宣言する。

 

「諸君!今宵の敗北を機に、もう一度帝国を立て直すぞ!今度は真っ当な国家としてな!

只のお題目の弱肉強食なんぞ捨てて、一から出直しだ!

文句あるなら、何時でも相手になってやる!」

 

そして未だにベソを掻いたままのバイアスにも、ガハルドは話しかける。

 

「……そしてお前にも皇族としての教育を施し直す、手遅れとは……言わせねぇ、

言わせてくれるな」

「お……親父ィ……」

「親父ではなく、公の場では陛下と呼べ……まずはそういう所からだな」

 

ガハルドのその言葉は皇帝ではなく紛れもなく父親としてのそれであり、

そんな二人の姿を、複雑な思いで見やるリリアーナ。

 

これはこの世界に生きる一人の人間としては、喜ぶべきことなのかもしれない。

だが、生まれ変わった帝国は間違いなく、これまで以上の強国となり、

我が王国と凌ぎを削る事となるだろうと考えると、

為政者としては手放しで喜ぶわけにはいかないのが、複雑なところだ。

 

(全く、皆さんは帰る場所があるんでしょうけど……)

 

ハジメらの顔を見、苦笑するリリアーナ、

よくも将来の仕事を増やしてくれたなという気持ちと、

それについて、大いなるやり甲斐を感じている自分を意識しながら。

 

……どうやらこのお姫様、ワーカホリックの気があるようだ。

 

 

そして翌日、ガハルドの命により即時解放された亜人奴隷たちは、

ハジメの飛空艇に取り付けられた、ゴンドラ状の籠に乗り込み、

故郷、フェアベルゲンの帰還をついに果たそうとしていた。

 

「なぁ……シア」

「……なんでしょう?」

 

燃え尽きた遠い目をしてカムは娘へと呟く、

その姿は一言で言えば、まさに"老後"と呼ぶに相応しかった。

 

「時が未来に進むと……誰が決めたんだろうな?」

 

その隣ではパルが、やはり予選で散った高校球児のような目で、

床の模様を見つめている。

 

「……人は悲しみ重ねて大人に……なるんでさぁ……」

 

……薬の副作用で見事に虚脱状態となったハウリア族と共に。

 

 

そして彼らを見送る地上では。

 

「畜生ッ!納得いかねぇ!潔くサインなんかすんじゃなかったぜ!」

 

自身の判断の迂闊さを悔やみ、地団駄を踏むガハルドの姿があった。

(皆もハンコやサインには気を付けようね)

 




ちょっとハウリア族をアレンジし過ぎた感もありますが、
これにて帝国編は終了です。
基本的にハジメたちを無用な血に染めさせない、というのも、
この作品のコンセプトの一つなので、
原作よりもかなりソフトな結末とさせて頂きました。

次回は勇者サイドの予定。
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