ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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マイシェラ、ヘルエス、シルヴァで女神三姉妹PTが組めるぞと
ピックアップ見てて思ってしまった。


勇者 in ブルック

 

ケッタギアを宝物庫に収納し、ブルックの門へと向かう光輝ら一行。

門番の姿を遠目にしつつ、光輝は、愛子との定期連絡で交わした話を思い出していた。

 

 

「そうですか、帝国も奴隷を解放することになりましたか」

「はい、これでこの世界は……確実に人々の意思による変革の第一歩を……

神の馘から離れる道を示したことになります」

「それで……ジータや南雲たちは何て?」

「自分たちは大したことはしていない、この世界に住む、

多くの人たちの尽力があったからこそだと、南雲君は言ってました」

「らしくないことを……」

 

愛子の言葉に笑顔ではあるが、少し本音を漏らしてしまう光輝、

もちろん今、この地にいることは自分自身の選択であるが、

それでも勇者として歴史的な瞬間に立ち会えなかったという口惜しさは、

やはり隠せないのか、いや、これは自分の中のそういう心情を、

素直に認めることが出来つつある証と取るべきだろう。

 

そして本来喜ぶべきことであるにも関わらず、愛子の声もまた少し暗い。

奴隷解放、差別撤廃、無論実情が伴うのには長い年月が必要であることは、

承知の上であるし、それは自分たちではなく、この世界の人々が行わねばならぬことで

あることも承知している、しかしそれを差し引いても愛子の声には、

何か怖れのような物が籠っているように、光輝らには聞こえてならなかった。

 

「先生も……怖いんですね」

「……はい」

 

この一連の出来事は愛子の一言から始まっている。

自分の言葉で世界が、しかも本来自分たちに取っては関わり合うべくもないはずの、

世界の流れを変えてしまった、その事実は重荷となって愛子の肩にのしかかっていた。

 

「あまり気に病まないで下さい、確かに先生の懸念していることは……俺にだって分かります、

ですが、それでも先生のお陰で多くの亜人たちが救われたのですから」

「南雲君や蒼野さんにも同じことを言われましたよ」

 

光輝の言葉で少し気が楽になったのか、愛子の声に張りが戻る。

 

「あ、それと蒼野さんから伝言です……ふふ、何だと思います」

「……何ですか?」

 

ハジメら一行と光輝らの一行との間での直接の交信は、

基本行わなず、双方から送られた情報を愛子やメルド、ジャンヌらが把握した上で、

それぞれに伝えていくという形式となっている。

少々回りくどくはあるが、これは愛子が強く望んだことでもある。

自身の管理が行き届かなかったがゆえに、犠牲者や裏切者を出してしまったのだという、

責任感と、教師としての自覚がそうさせているのだろう。

 

「姫様の婚約の件は白紙になったそうです」

「あいつらは一体何をっ!」

 

思わず声を荒げる光輝……何分ジータのやることである。

彼女が時として破天荒な振る舞いを見せる少女だということは、

光輝も承知している、そしてそれがまた結果として上手く嵌ってしまうのが、

かつての自分の苛立ちを誘っていたことも。

 

しかも今のジータの傍には、教室でののらりくらりとした姿とは打って変って、

目的の為ならば荒事も辞さぬようになった、南雲ハジメが付いているのである。

まさか帝国を相手に大立ち回りでも……そんな不安が頭を過りつつも、

それはそれで痛快だな、やっぱり俺もと一瞬思ってしまい、ブンブンと頭を振り、

勇者にあるまじき不埒な考えを頭の中から振り払う。

 

「それがですね、先方の……帝国の方から取り下げてくれたそうです」

「そうですか」

 

愛子の口調からして、きっとその過程の中で何かはあったんだろうなと察する光輝だが、

それ以上を愛子が伝えない以上、自分が根掘り葉掘り聞くべきではないだろうと、

喉から出掛かった言葉を光輝は飲み込んでいく。

 

「でも良かったじゃないか、天之河」

「ああ」

 

横から口を挟んで来た遠藤へと、素直に安堵の声を漏らす光輝だったが、

しかしその後の遠藤の言葉については苦笑しながら否定する。

 

「姫様はお前のことが……さ」

「ああ、いや……リリィが本当に思いを寄せているのはメルドさんだよ」

「「え!」」

 

これには遠藤のみならず、カリオストロも驚きの声を上げるのだが、

当の光輝は、何を今更といった感じで涼しい顔である。

 

「……むしろ分からなかったのか?皆」

「お前時々妙に鋭いな」

 

どこか呆れたように呟くカリオストロ。

勇者という役目柄、二人と接する機会が多かったのもあるのだろうが……。

 

「え、でも……歳とか」

 

リリアーナは確か十四歳、対するメルドは……幾つだったかと、

記憶を探る遠藤で、その一方でやけに楽しそうにファラが大声で叫びを上げる。

 

「歳の差カップル萌えっすよ!」

「南雲君たちも驚いてましたよ、ちなみにあちらで気が付いていたのは、

白崎さんだけだったみたいです、それも薄々程度だったみたいですけど」

 

愛子の笑い声もスピーカーから漏れ聞こえる。

どうやら愛子もまた、リリアーナの想い人については気が付いていたらしい。

が、和やかな雰囲気の中で、カリオストロだけがスピーカーの向こうの愛子へと、

鋭い視線を向ける。

 

「愛子……声に張りがないぞ、ちゃんと寝ているか?」

「……」

 

言葉を詰まらせる愛子、どうやら図星のようだ。

 

「少し休め、上に立つ者が焦っていたんじゃ、皆言いたいことも言えなくなるぞ」

「わかってます、ですが……永山君や坂上君も本当に頑張ってくれていて……」

「重吾にあんまり無理……いや、なんでもありません」

 

親友の気質を熟知しているがゆえに、無理はしないようにとの言葉を、

途中で止めざるを得ない遠藤、そしてそんな彼の心中には構うことなく、

光輝らは、あくまでも事務的に連絡事項の数々を口にしていくのであった。

 

 

「やっぱり……声だけでも見抜きますね、さすが……」

 

連絡を終えると同時に、溜息交じりで机に突っ伏す愛子、

まさにカリオストロの危惧した通り、その顔には疲労の色が濃い。

 

伝えた通り永山が頑張っているのは確かだ、だが元来大人しく口数が少ない彼には、

やはりクラスの纏め役は、荷が重く思えてならない。

その分優花や龍太郎が何とか動いてはいるものの、

龍太郎に関しては、見た目が本来のそれとは完全に変わってしまっているために、

彼を知る者に取っては、どうしても先に違和感を覚えてしまう。

 

それでも今のところ、大きな問題は起こってはおらず、

不穏分子の筆頭格と思われる斎藤と中野の二人も、

今のところは大人しく諸作業に従事はしているようには思える。

 

だが結局、纏まっているように見えるのは、

未だ幾人かに燻る、ハジメやジータへのうまくやりやがって的な反感、

期待を裏切った光輝への失望と、

それでもそんな彼らに自身の運命を託すしかないという罪悪感、

そして親友の裏切りを見抜けなかった鈴や、

未だその死を伏せざるを得ない、檜山と近藤の件といった、

それら諸々の当事者たちが、揃って不在であるがゆえの小康状態に過ぎない。

 

だからといって、生徒一人一人の腹の内まで把握は出来ない。

何より傲慢な考えではないかと思いつつ、

愛子は手帳にぎっしりと記された予定に目をやる……この後もまだ仕事は山積みだ……。

正直な所、かなりしんどい、だが……、と、そこへ奈々と妙子がお茶を持ってやって来る。

 

この時間は皆さん他の作業の筈……と、

尋ねる前に、ついカップのお茶を飲み干す愛子だったが……。

胃の中に液体を流し込んだ刹那、急激な眠気が自身の身体を包んでいく。

 

「み……なさ……ん」

 

心から申し訳なさそうな顔を見せる、奈々と妙子の姿を視界に収めつつも、

生徒にそんな顔をさせるだなんて、やっぱり自分は教師としてまだまだだとの、

思いを抱きながら、愛子の意識は暗転した。

 

「ごめんなさい、愛ちゃん……私たちのために」

「けれど愛ちゃん護衛隊として、今の先生は見てられなかったの……このままじゃ……」

 

奈々と妙子が合図をすると、明人と昇が担架を持って部屋へと現れ、

姿に似合わぬ大いびきを立て始めた愛子の身体を担架へと乗せ、寝室へと運んでいく。

寝室の扉の前にはすでにデビットらが待機していた。

 

「じゃあ……後はお願いします」

 

ベッドに愛子を寝かせ、寝室に鍵を掛けながら妙子はデビットへと頭を下げ、

デビットも我が意を得たりとばかりに頷く。

 

「約束する、明日の朝まで愛子は寝室から出さない、例え何があってもな」

 

 

そしてまた舞台はブルックへと戻り。

 

「オイ、ステータスプレート」

 

カリオストロの指摘に、ああそうだったなと思い出す光輝。

勇者は名目上、魔人族追撃の遠征に出ていることになっている。

つまり自分たちは、こんな田舎町にいてはいけないのである。

光輝は王国から支給された、偽のデータが入ったステータスプレートを各自に渡し、

自身が先頭となって詰所へと向かう。

 

「ふ~~ん、王国の……で、ここへは?」

 

弛緩した雰囲気を漂わせる門番の男へと光輝は如才なく、

つらつらと、あらかじめ用意しておいた文句を口にしていく。

 

「はい、さる貴族の依頼で、この地方の動植物の調査を行っております」

「王都があんな事になったってのに、貴族様っての余裕だねぇ、で、この子が」

 

門番の視線がカリオストロへと向けられる。

 

「その貴族のご令嬢です、そして以下三名は我々の護衛を勤めております」

「三名?二名しかおらんぞ、残りはどうした?」

 

その残り一名が目の前にいるにも関わらず、キョロキョロと周囲を見回す門番。

どうせ俺は……と、その様をまさに目の当たりにしながらも、

一連のやり取りに、なんだかスパイ映画みたいだな、と、

遠藤はこれまでまさにスパイ紛いの行為を、王宮で繰り返していたにも関わらず、

少しワクワクを覚えていた。

 

「よし通っていいぞ、町についての詳しいことは冒険者ギルドで聞け」

 

纏った雰囲気同様の弛緩した声に従い、一礼すると光輝らは、門を潜り街へと入る。

言わずもがな王都や、大迷宮という一種の産業があったホルアドの雰囲気に慣れた、

光輝や遠藤にしてみればこのブルックは、余りにも小じんまりとし過ぎているように思えたが、

それでも露店の呼び込みや、生活の喧騒は、やはり彼らの心を高揚させる。

 

そんな光輝らの気持ちを察したか、先頭を歩いていたカリオストロが、

くるりと彼らへと向き直る。

 

「今日はやることやったら一日自由だ、金はたんまり貰ってるし、

お前ら思いっきり羽を伸ばせ、まぁ、こんな片田舎じゃ、たかが知れてるがな」

「で、ですが……」

 

ここはあくまでも補給で立ち寄っただけ、そんな余裕は……と、

口にしようとした光輝の眼前へと、カリオストロは手を翳して制する。

 

「理想が大きいなら、その分学ばなきゃならねぇことは多くなる、当たり前だな……

世界を、その世界で生きる人々の営みを味合わずにして、何を、誰を救うつもりなんだ?」

 

もっと視野を広げろよと、活気に満ちた街並みを光輝のみならず、

遠藤とユーリにも指し示すカリオストロ、

その隣ではファラがうんうんとしきりに頷いている。

 

「書を捨てよ、街へ出よって奴だ、それにどんなにぃ~~偉い人だってぇ~

三百六十五日二十四時間、常に立派な事を考えてるわけじゃあないと、

カリオストロぉ思うなぁ~~♪」

「どうする?雫、りゅうた……」

 

そこまで口にしておいてから、ここには阿吽の呼吸で動いてくれる幼馴染たちは、

いないことを光輝は思い出す。

そう、ここでは何もかも自分で決断しないとならないのだ、本当の意味で。

 

「じゃ……じゃあ、まずは冒険者ギルドに顔を出してみるか」

「決まりすっね!センパイっ!」

「光輝殿の判断に従います!」

「情報収集は基本だしな」

 

自分に従う新たな仲間たちへと、その笑顔の下に心細さを隠しつつも、

光輝は努めていつも通りの笑顔を見せる。

 

(みんながいないだけで……こんなに不安になるなんてな……)

 

やはり自分は守っているつもりで、守られていたんだなと光輝は再認識し、

そして、その事を理解出来ただけでも大した成長だと、彼の内面を察したか、

クククと含み笑いを漏らすカリオストロ、そして、

自分が思っている程ではなくても、雫や香織、龍太郎たちも、

多少なりとも自分の事を案じてくれていたら嬉しいなと思いながら、

光輝は仲間たちを率い、冒険者ギルドへと向かうのであった。

 

 

「南雲たちもこの街に来たんだったら、もっと色々教えてくれても良かったのにな」

「慌ただしい出発だったからな」

 

やや疲労の色を濃くして、ギルドを後にする光輝たち、

例によって彼らは、キャサリンおばちゃんに気に入られてしまい、

予定を越えて、長居することとなってしまった。

挙句にファラはすっかり意気投合し、お茶して来るっす~~と、

休憩に入ったキャサリンとフードコートに場所を移し、未だ話を止めようとはしない。

そんな彼女らには付き合ってられないと、

光輝らは先に諸々の用事を済ませることにしたのであった。

 

「食料はファラに任せればいいとして……日用品だな」

 

カリオストロはチラと光輝の姿を見る。

 

「お忍び旅なんだから、もう少しマトモな私服はなかったのか?」

「しょうがないでしょう……」

 

聖鎧こそ流石に着用してはいないが、王宮で用意された服は、

いかにもな貴族趣味が、ふんだんに取り入れられており、

こういう田舎町では目立って仕方がない。

 

「ではまずは服ですね……ここから近いのは……」

 

ユーリがキャサリンに貰った地図を広げる。

 

「ここなんかどうだ?冒険者向けでありつつ普段着も取り扱ってるみたいだ」

「俺たちの世界で言うワー〇マンみたいな店かな」

「ほう……子供服、婦人衣類も多数、オーダーメイドも取り扱いってなってるな、

ならここに行ってみるか、と、オレ様は少しつまんでから合流させて貰うぜ」

 

クイと手に杯を造って飲むような仕草を見せ、

カリオストロは雑踏の中へと消えていく。

売ってくれるんですか?と聞いた遠藤へと、オフクロに頼まれたとでも言や、

それで終わると言い残して。

 

そして光輝らは、何ら警戒することなく、その店へと足を運ぶ、

そこに何が待ち受けているかも知らず……。




次回、邂逅。
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