今回につきましては、大幅に変更しようかなと思ったのですが……、
あくまでも夢の世界ですので、辻褄合わせは置いといて、
少しクラシカルな学園ストーリーを楽しんで頂ければ幸いです。
チュンチュンと、朝を知らせる鳥のさえずりが、
カーテンの隙間から陽の光と共に薄暗い部屋の中へと侵入するが、
ベッドの主は一向に深い眠りから醒めようとはしない。
やがて朝の光は時間と共に増し、窓の外からは行き交う人々の挨拶も聞こえてくるが、
それでもベッドの主は未だに微睡みの中にいる。
すると、一階の玄関が開いたような気配がしたと思うと、階段を駆け上がる音、そして。
「いい加減起きなさい!何時だと思ってんのよ!」
布団を一息に剥ぎ取られ、晩秋の朝の冷気が途端にベッドの主を、
微睡から一気に現実へと覚醒させる。
「あ……あれ?」
ベットの主を決め込んでいた少年、南雲ハジメは何が起こったのか分からない風に、
きょろきょろと部屋を見回し、そして自身の眼前に仁王立ちになっている、
金髪ハーフの幼馴染へと、抗議の視線を送る。
「いや、まだ早いって……ホラ!」
午前五時を表示した目覚まし時計を示すハジメだったが。
すぐに秒針が動いてないことに気が付いてしまう。
「あ……電池切れてる」
「ボンヤリしてる間があるなら、早く朝の準備!」
腰に手をやりプンプン顔の幼馴染、蒼野ジータに促され、
ハジメはベッドからようやく重い腰を上げる。
現在、南雲家には両親がいない、いわゆる海外赴任というよくあるやつ、
つまり"親は元気で留守がいい"状態である。
とはいえ、この広い家に一人暮らしというわけではない。
階段を降りると、キッチンでは、海外からホームステイしているもう一人の住人が、
朝食の準備を整えている。
「ユエちゃんも変だと思ったら、起こしてよね」
「……ジータの仕事、取っちゃいけないって思った」
「そういう思いやりはいりません!ハジメちゃんも早く顔洗って!」
詳しい事情は知らないが、半ば押しかけ女房同然でやって来た、
南雲家のもう一人の住人、ユエがフライパンに少し危なっかしい手つきで卵を落とす間に、
ハジメは洗面所へと向かうのである、と、そういう訳で、
ジータとユエの二人は、ハジメの両親が留守の間、
その面倒を一手に引き受けているのであった。
「全く!私たちがいなかったら毎日遅刻だよ、ハジメちゃん」
「……んっ、ハジメは一人で起きられるようになるべき」
「だから、今日は仕方ないっていうかさ」
そんな事を言い合いながら通学路を歩く、ハジメたちだったが。
と、その足下に苦無が突き立ち、
さらに風を纏った斬撃が、三人の行く手を阻むかの様に通り過ぎていく。
見ると黒づくめの少年と、ポニテ少女が、
チャンチャンバラバラと往来で争う姿が目に入る。
「我が遠藤流隠形術と八重樫流剣術は古くからの敵同士!」
「ゆえに例え登校時であっても、相まみえないわけにはいかないのよ!」
「……浩介も雫も朝からご苦労」
「二人とも遅刻しないようにね」
遠藤と雫にそれだけを口にし、ハジメたちは先を急ぐ、
そう、これはまるで変わり映えしない朝の日常の一つに過ぎないのだから
学校に到着したハジメが下駄箱で上履きに履き替えていると、
突如、背中に柔らかな、それでいて男に取っては実に幸せな衝撃が伝わる。
「ハジメさ~ん!おはようございますぅ!」
「お、シアおはよう」
ハジメは特に動じることもなく、少し惜しいなと思いつつ、
ジアを背中から引っぺがす、これもまた毎朝の光景である。
「ジータさんもユエさんも、おはようございます」
「あ、私たちは後回しなんだ、ふ~ん」
ジト目でジータは目の前の留学生、 淡い青色がかった白髪にトレードマークである、
カチューシャを身に着け、ブレザーの上からも分かる程の自慢のバストを、
たゆんと揺らすシアを見つめ、私だってと胸を突き出し強調しようとする。
そんな彼らに生徒らの声がかかる。
「仲いいなお前ら!」
「全員嫁に貰っちまえ!南雲!」
やっかみこそあるが、悪意なき囃し立てに苦笑するハジメだが。
やはりというか鋭い叱責の声も当然のことながら飛ぶ。
「校内での不純異性交遊は校則違反だっ!」
ハジメらが声の主へと目を向けると、そこには我らが生徒会副会長にして、
風紀委員長を兼務するイケメン、天之河光輝の姿があった。
「学園とは神聖な学びの場だ!さぁ南雲!今から道場で共に清き汗を流そうじゃないか!」
光輝は間髪入れずにハジメの手を取り、さらに熱弁を振るう。
「剣道部はいつでも……あぎゃああああ!」
話の途中で悲鳴を上げる光輝、どうやら彼の態度に苛立ちを覚えたか、
ユエが背後から光輝に電撃を喰らわせたのだ、
どうもこの二人、初対面から相性が極めて悪いようだ。
「こ……校内での攻撃魔法の使用も校則違反だっ!」
ユエの電撃を受け、全身黒こげのアフロ状態になりつつも、
光輝は気丈に職務を果たそうとする、ただし、平常心とまではいかないようだが。
「ユエ……君が現れてから南雲はおかしくなった!」
光輝は背中の剣を抜き放ち、ユエへと突き付ける、
武器の類は校門で預ける決まりなのだが、
副会長の特例だか何だかで、特別に武装を許可されているらしい。
「俺の大切な級友をこれ以上色香で惑わさせるわけには行かないっ!
いざ尋常にっ……ぐふっ!」
今度は首筋に手刀を受けて昏倒する光輝、
音もなく武術の達人である彼の背後を取ったのは、
生徒会長にして、学園一の美少女である白崎香織だ。
「ハジメくんたちごめんね、光輝がいつも迷惑かけちゃって」
四十五度の角度がコツだからね、と周囲に教えつつ、
豊かな黒髪と、憂いを込めたような大きな瞳を揺らしながら、
香織はハジメたちへとペコリと頭を下げる。
「で、でも光輝さんも、ハジメさんのことを心配して、
毎朝ああやってるんだと思うんです、ですから……」
「シアちゃんありがとう、光輝もそういってくれると喜ぶと思うわ」
だが、何故かシアはそんな香織の姿に恐怖を覚えているようにハジメには見えた。
「で、さ……今度ハジメくんの家に……私も行っていいかなぁ」
「え?」
「ハジメくんの食べてる弁当見たんだけど、ジータちゃんも、ユエちゃんも
ボリューム中心で、栄養バランスとか二の次っぽいから……」
確かにここ最近は揚げ物中心で、弁当箱の色合いが非常によろしくないと、
内心思っていただけに、香織に上手く言い返せないハジメ、
そしてそれを良い事に、香織はグイグイとハジメへとさらなる攻勢をかける。
「だから、日々の食生活から見直した方がいいんじゃないかって、うん!
決めた!毎日私がハジメくんの家にお料理作りに行ってあげるよ」
「間に合ってます!」
勝手に話を進めてくる香織に、たまらずジータが反駁する。
「……うんっ、ハジメは今が成長期、バランスよりもたくさん食べて大きくなるのが先」
「ユエちゃん、そんなこと言ってると、すぐにハジメくん太っちゃうよ」
確かに……と、こっそりと脇腹の肉を摘まもうとしたハジメだったが……。
「お前ら!もう始業のベルは鳴ってるんだぞ!」
不意に掛けられた怒声に振り向くと、そこにはクラスの副担任である愛子先生と、
そして一限目を受け持つカリオストロ先生の姿があった。
「文系だからって物理舐めんじゃねぇーぞ!お前ら!とっとと教室に入れ!
おい、お前と光輝は別のクラスだろうが!」
しれっとハジメらに続いて、教室に入ろうとした香織はバレたかと舌を出し、
未だ気を失ったままの光輝を引きずって、自分のクラスへと戻っていく、
去り際にジータの耳元に何やら囁いた後に。
「……ジータ、香織になんて言われたの?」
「今は預けといてあげる……って」
そう、これもまたいつもの日常。
そして放課後。
「保健室行かなくっていいの?」
「いいんだ……」
ジータたちへと俯き加減に呟くハジメ。
保険医のティオ先生に用事があったのは確かに事実だが、
悪い予感がしたので、ドアの隙間から様子を伺うと、
そのティオが自分で深爪して、その感触を楽しんでる姿を目の当たりにしてしまい。
用事どころの気分ではなくなってしまったのだ。
ちなみにハジメがドアから飛びのいた直後、センセ―湿布お願いしまーすと、
ハジメを押しのけるように、龍太郎が保健室に入っていったのだが、
今頃どんな事になっているのやら。
「お兄ちゃん、元気出して」
そんなハジメの顔を見上げながら、元気づけるのはミュウ、
ハジメの家の近所の魚屋の娘だ。
母親であるレミアが魚屋を女手一つで切り盛りしている関係上、
幼稚園のお迎えはハジメが行うことになっている。
「ミュウは……いいよな」
不意に口を衝いて出た言葉に、はっとするハジメ、
目を剥くジータとユエ。
「ハジメちゃん……まさか」
「……もしかして、これってチャンス?」
若干コンプレックスだった、ジータに比べると明らかに薄い胸に、
希望が灯っていくのをユエは自覚していた。
小さいのが好きならば、勝機は十分にあると。
「いや違う!違うんだ!」
ジータからは疑惑の、ユエからは期待の籠った、そんな目で見つめられ、
たまらず誤解を何とか解こうと、必死で叫ぶハジメ、
その様をきょとんとした仕草で、やはり見つめるミュウ。
「大きいとか小さいとか?何?」
「ミュウ……ミュウはまっすぐちゃんと育ってくれるよな?」
思わずミュウを抱きしめるハジメ、少し父親っぽい気分を覚えつつ……。
これもまたいつもの日常だった。
そして夜。
夕食を済ませ、リビングで机で輪になり互いに勉強を教え合うハジメたち。
ふと時計を見ると、もう夜の11時だ。
「ジータはそろそろ帰らないといけないんじゃないのか?」
しかしジータは、ハジメの言葉にはみかみながらも首を横に振る。
「今夜は……泊まるって言ってるから」
「と、泊まるって……それは」
確かに彼女一家とは親戚同然の付き合いだ、互いの家に泊まりに行ったことも、
一度や二度ではない、だが……今回のそれはいつもと違う響きを含んでいた。
ジータのただならぬ雰囲気に、後ずさるハジメだが、それを阻むかのように、
ユエの薄い胸が彼の背中に触れる。
「……ちゃんと受け止めてあげて、でないと私、ジータのライバルになれない」
泡を喰ったような表情で、ジータとユエの顔を交互に見回すハジメ、
その時であった、けたたましいサイレンと共に、玄関が蹴破られ、
ライフルを構えた美貌の警官が、リビングへと侵入してくる。
「南雲ハジメを含む三名!不純異性交遊により確保だ!」
「シ、シルヴァさん……夜勤っすか」
近所の派出所で日がな一日お茶を飲んだり、武器の手入れに勤しむ、
果たして仕事熱心と言っていいのかよくわからない、婦警さんの姿が、
何故か救いの神に思えてくるハジメと、片やお邪魔虫にしか思えない、ジータとユエ。
「……年増」
睦事に入ろうとする度に邪魔をされていることが、ユエの堪忍袋の緒を切れさせたのか、
彼女はとうとう言ってはならない一言を口にしてしまう。
「いい度胸をしているな、それは私が二十七歳だからという当てつけか何かか!」
シルヴァは明らかに支給品とは程遠い、凶悪なフォルムのライフルをハジメたちへと構える。
「私は君の両親から君の生活が乱れていないかを、常時チェックしてくれないかと、
個人的に依頼を受けている、ゆえにいかなる場合でも、令状なしに君を逮捕することができる!
そして!」
マトモなようでマトモじゃない理屈を宣うと同時に、
ライフルの銃口がユエの心臓に付きつけられる。
「この私に年齢を意識させ、その心を傷つけた罪は特に重い、
……場合によっては抹殺することも許され……るふっ!」
シルヴァの背後の窓が蹴破られ、そこから風呂敷包みを担いだ香織が姿を現す。
「ハジメくん!もう我慢できないから勝手に押しかけることにしたよ!」
突っ伏したシルヴァの後頭部を踏みつけたまま、
堂々と押し掛け女房となることを宣言する香織、さらに天井に穴が開いたかと思うと。
そこから聖剣を構えた光輝が、ハジメを庇うように床へと降り立つ。
「南雲!今ならまだ間に合う!誘惑を振り切り共に青春の汗を流そう!」
と、こんな風に一日は更けていくのである、
そしてまた明日、何も変わらないいつもの日常が始まるのである。
そう……何もかもいつも通り……。
「じゃねぇ!」
「じゃない!」
そんなハジメとジータの一言と同時に、周囲の喧騒は一気に消え。
そして何もない空間が広がっていく。
「中々てんこ盛りの理想世界だったじゃないか、もう少しくらい遊んで行っても
良かったんじゃないのかい?」
「練り込みが甘いな……」
将来のクリエイターは、どこか不思議な、中性的な響きを感じる声に向かって、
容赦ないダメ出しを送る。
「二人分の理想を、ムリヤリ一つに纏めちゃったからね、
生命や魂を共有しあってる存在なんて初めて見たよ……それに」
「今の俺の理想は……」
「こんなもんじゃない、そう言いたいんだろ」
「ああ……ああいうマンガみたいな世界も悪くはなかったけどな」
声の主は、今度はジータへと呼びかける、ただしハジメには聞こえないように小声で。
「彼の理想は……或る意味ではとても危険な理想になるかもしれないよ」
声の問いかけに、ジータは力強く否定の意味を込めて、首を横に振る。
「私の理想は殉ずることではないですから、それに今は……私だけではないですから」
自分が導くなどと思い上がるわけではないが、
それでも愛する者が誤った理想を抱くのならば、その手を引いて戒めねばならない、
今、ハジメの傍にある皆もそうであって欲しいと、心からジータは願い、
同時に皆もそうであるからこそという確信もまた抱いていた。
そして二人の意識はまた霧のような靄に包まれ途切れていく、
その刹那の中で、ハジメは師の言葉と同時に、朧気ではあるが自身の理想を思い描いていた。
『誰かの背中だけを見ている奴は二流で終わるぞ!オレ様に憧れるのは当然としても、
オレ様を目指すんじゃない、自分の夢を理想を持て、ハジメ』
(数ある世界の真理を探究し、そしていつの日か、
最強の存在と最強の武器が合わさった姿を……究極の一をこの目に……、
それが俺の……目指す……)
ハジメもようやく自分の道を意識し始めました。
どうせならば夢は大きく、目指すはロン・ベルクorドクター・バランシェと言った所でしょうか?
従って戦闘よりも開発や研究に軸足を置くようになります。
で、ロン・ベルク側ならいいのですが、バランシェ側へと進んだ場合、
つまり最強の武器よりも最強の存在を造り出す方向を選んだ場合は、
もしかすると魔王よりヤバいかもなんて……。
ともかく、これにより最終局面におけるエヒトとの問答も、
また原作とは違った物になるかもしれません。