ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ニーアのキャラソンだと!


最終試練はドーピングで(前)

 

 

機神のレンズがジータに次いでシアを捉える。

だが、シアは未だ絶句し、呆けたように立ち尽くすのみだ。

いや、呆けているのはシアだけではない、ユエも、ティオも、香織も、雫も、鈴も、

ありえない、あってはならぬ光景に絶句したままだ。

 

「カチスキイカ リラソノラミ」

 

無機質な音声と同時に機神の腕の銃口がシアへと向けられる。

だが、それでもシアは動けない……ただ、嘘です、どうしてと……

血の海に沈んだ、愛する少年と親友の姿を、ただぼんやりと見つめながら呟くのみだ。

 

「何をしているッ!」

 

だが、未だ呆けた状態のシアを横からシルヴァが蹴り飛ばす、と、同時に、

さっきまでシアが立っていた足下に弾痕が穿かれる。

その銃声と、シルヴァの鋭い声でようやく彼らは現実へと覚醒する。

 

「は……ハジメさんがっ、ジータさんがっ!」

「慌てるな……慌てればその分勝機は薄くなるぞ」

 

厳しいが、それ以上の温かさが籠ったシルヴァの声に、

シアの瞳に意思の光が戻り始める。

 

「君たちもだ!今ここで奮起せずしてどうする!君たちのこれまでは、

今、この時の為にあったのではないのか!」

 

その声に、ティオが、香織が、雫が、鈴が顔を上げる。

そう、ハジメとジータというパーティーの柱を失ったとはいえど、

彼女らも、また修羅場を潜り抜けては来ているのだ。

それに何より、敵がこちらの事情を忖度してくれる筈など無いのだ。

 

「そうよね、守って貰うために、私たちはここまで来たわけじゃない」

「光輝くんに怒られちゃうよ」

 

まずは雫と鈴が立ち上がる。

 

「お主らには悪いが、妾たちの方が付き合いは長いからの、後ろに下がっておれ」

「でも、私たちだってティオさんの知らない南雲くんとジータちゃんの事知ってるし!」

「ならばおあいこじゃの、行くぞ鈴!」

 

追撃の弾丸が、シアを抱き抱えたまま走るシルヴァを狙うが、

 

「させんっ!ご主人様たちは妾が守るっ」

「妾じゃない!妾たち、だよっ!」

「そうじゃの」

 

竜化したティオがカバーに入り、さらに鈴も障壁でそのフォローに入る。

 

「シルヴァさん、武器っ!」

「分かっている」

 

シルヴァは空中で切り返すような動作を見せると、着地と同時に、

シアの武器、ドリュッケンを回収へと向かう。

先程、機神の弾丸が背中を掠めた際、

ライフルの銃身に看過出来ぬダメージを負ったのを自覚しながら……。

 

「あ、私……もう動けます、シルヴァさんはハジメさんたちを」

「心得た」

 

シアはシルヴァの腕の中から自ら脱し、迷いなく地を駆けていく。

そしてそんな中、ジータは自らの血潮の中から、ようやくよろよろと立ち上がる。

『ライフセービング』、ドクターのサポートアビリティであり、

瀕死状態になった際、自動的に対象を回復させる―――が、発動したのだ。

 

「ハ……ジメちゃん……立てる」

 

だが、返事は微かな息遣いのみだ。

しかし、それでもまだこの時は余裕であった、

例え瀕死であっても、神水さえ飲めば回復出来ると、

ジータはよろよろとハジメの肩を担ぐと、そのまま引き摺る様に後方へと下がっていく。

自身らの迂闊さを呪いながら。

 

大迷宮の最深部には何らかの異変が発生している。

そう事前にガブリエルから聞かされていたにも関わらず……。

 

確かにオルクス大迷宮は、さらなる異世界、アーカルムの地へと繋がっていたし、

メルジーネの深部には堕天司がいた。

だが、まさか戦闘用ロボットの存在は余りにも予想外過ぎた。

 

後方では香織がすでに治療の準備を整えている。

しかし、ユエだけは香織の傍らで未だへたり込み、ふるふると頭を振るのみだった。

 

「嘘……嘘……ハジメ……ジータ」

 

そのユエの様子を見て、香織が何かを言おうとしたが、

それよりもハジメたちの治療が先だと思いなおす。

 

ようやく香織が待つ後方まで下がったジータは、もう案ずるなと、

神水をハジメの口へと流し込む。

 

神水の効果はやはり劇的だ、みるみる間にハジメの傷は塞がり、

それに対応してジータの傷も塞がっていく……だが。

 

傷の回復に従い、全身を包む痛みは収まるどころか、

何故かより強烈な物となって、二人を苛み始める、そして。

 

「ぐわあああああああっ!」

「ぎゃあああああああっ!」

 

傷が全快するのと、ほぼ同時に二人はその身を貫く激痛に悲鳴をあげ、

その絶叫に、ユエが思わず耳を塞ぐ、顔を涙で濡らしながら。

 

「どうして?……傷は塞がった筈なのに」

 

ジータですら悲鳴を上げのたうつ激痛なのだ、今、ハジメは、

果たしてどれ程の苦痛を受けているのか。

香織は砂漠でも使った"浸透看破"で、ハジメの全身をスキャンし、

その結果を自らのステータスプレートに表示する。

 

「血液中に大量の異物あり、異物は患者の身体の活性化に比例し増殖、

それに伴う拒否反応……」

 

原因が血液と分かった時点で、次いで香織はハジメの耳たぶを切り、

そこから流れた血液に、直接回復魔法を行使する。

 

「血液その物から異物を取り除くことは可能……なら」

 

輸血……いや、そんな時間的余裕はない、やるのならば……。

 

「ハジメくん……私の血をあげるね」

 

血液交換……ハジメの血液を自身の身体の中に取り込み、

異物を除去し、再びハジメの体内に戻す、その際に自身の浄化の魔力を込めた、

血液をも流し込む、この方法なら極めて短時間で治療を終える事が出来る筈、

しかし……。

 

「そ……んな、こと……したら」

 

ハジメの血液を取り込んだ香織自身も、激痛に苛まれる事になる、

だが、ジータの危惧にも、香織は身じろぎもしない。

 

「大丈夫、もう、この身体は魔物の身体だから」

 

そして香織は医療器具の準備をしつつ、

未だ自分の傍らで俯いたままのユエへと優しく話しかける。

 

「ユエちゃんも……自分の仕事をしよ」

 

だが……ユエはうううと唸り声を上げ、香織の問いかけにもいやいやと首を振るのみだ。

自分を、あの暗闇から救い出してくれた二人が……大切な家族が、

いや、もはや半身とも言っていい二人が、血の海に沈み、

そして地獄の苦痛に身を焼かれている。

 

そんな今こそ、立ち上がらねばならない時なのは、ユエとて理解している、

だが、自身の思いとは裏腹に、どうしても身体が、心が動いてくれない。

 

(……どうして)

 

そしてユエは気が付いてしまう。

ああ……どうして自分があんなにも強く戦えたのか。

それは二人がいつも傍にいたからなのだ、守ると誓っておきながら、

あの部屋からずっと自分は守られていた、失うことなんて無いと思い込んでいた。

自分とハジメとジータ、この三人ならきっと無敵だと、どんな敵でも倒せると。

そんな自らの甘えを思い知ってしまったことが、ユエの身体を固く縛り付けていた。

 

自身の傍らの香織はすでに治療の準備を整えている。

ティオもシアも雫も、鈴も誰もユエの事は気にも留めていない、

ただ自分のすべき事を懸命に行っている、守るために救うために。

 

「いいの?ユエちゃん……このままで甘えん坊のままで」

 

「治療はどれくらいで終わるのじゃ!」

「三……二分ちょうだい!そしたら……」

「二分か……ぐうっ!」

 

治療に専念するために、ティオらを再生魔法でサポートすることは、

ここから先、暫く不可能になる。

鈴の障壁の効果が切れた途端、機神のワイヤーがティオの、

ハジメの銃弾すら防いだ竜鱗を易々と切り裂き、鮮血が飛び散る。

 

自身の視界を染める朱に鈴は一瞬身じろぐが、それでも気丈に再び障壁を展開する。

もちろん頑張っているのは二人だけではない。

 

「左後方脚部の障壁が薄い!まずはそこを衝け!」

 

シルヴァの鋭い声が飛ぶと、それに従いシアと雫が動く。

例え銃が使えずとも、狙撃手としての観察眼は健在である。

その鷹の如き眼光『アクーメン』が、機神の弱点を看破する。

 

「今、ここでユエちゃんが立ち上がらなかったら、ハジメくんとジータちゃんは……

ううん、シアちゃんもティオさんも、雫ちゃんも鈴ちゃんもシルヴァさんも、私も

多分助からない、また一人ぼっちに戻りたいの?」

 

あくまでも静かに香織はユエに過酷な未来を告げていく、

もちろん、過酷なだけではない、もう一つの未来も。

 

「大丈夫……私がハジメくんとジータちゃんを必ず助けるよ、だから……

ハジメくんたちだけじゃなくって、私たちも信じて欲しい……ううん」

 

香織はトン!とユエの胸を拳で叩く。

 

「ユエちゃんは私に変わる事への勇気を与えてくれた」

 

それが人を捨てるという事に繋がったとしても……。

 

「だから今の私には出来る事がある、ここに立っていられる

だからユエちゃんも、自分の中にある勇気を信じて欲しい」

「ゆう……き」

 

たどたどしい口調ながら、香織の言葉を繰り返すユエ。

それを見て香織は微笑む、これから愛する者を救うため、

命を賭そうとは思えぬ程の爽やかさで……それがその笑顔こそが、

香織の言う勇気なのだと、ユエははっきりと直感する。

 

「私の言葉を少しでも信じられたなら、きっと大丈夫だよ」

 

ほんの数瞬にも満たぬ僅かな逡巡、だが、その数瞬で全てを強引に飲み込み、

涙を拭いてユエは立ち上がる、その瞳にはもう迷いも恐れもなかった。

 

「……この場所は狭い、私の魔法は不向き、今は防御に回る

だから信じさせて、香織」

「そうだよ、それがいつものユエちゃんだよ」

 

そして激痛に堪えながらも、ジータがここで動く。

 

「行くよ……今はこれが精一杯だけど」

 

ジータは手に握った注射器を、仲間たちへと投擲する。

『マッドバイタリティ』投与した者の身体能力を飛躍的に向上させる薬品だ。

 

「おおおおっ、なんじゃ湧き上がるこの力は!」

「凄い…何だか全部止まって見えるよぉ」

「父様たちは、この領域で戦っていたんですね!なんだかみなぎってきましたぁ!」

 

薬の効果はどうやら十二分に発揮出来ている様だ。

但し全員が全員、目がガンギマッてるので、傍から見るとかなり怖いが。

 

「シアさんは脚を狙って!」

「雫さんはどうするですか!」

「私はあの厄介なワイヤーを斬るわ!」

 

攻防一体のあのワイヤーを封じなければ、マトモに本体に近づけない。

雫は身を屈め、地を這うように機神へと接近する。

 

「見えるわ!私にも敵が見える!」

 

極限まで上昇し、研ぎ澄まされた雫の動体視力は、

自身に迫る、肉眼ではほぼ不可視の筈の単分子ワイヤーをはっきりと捉えていた。

単分子ワイヤーの硬度は、並みの金属を遙かに上回る。

しかし、それこそミリ単位の精密な動作を繰り返しながら、

雫が振るう八命切は、火花を散らしながら次々とワイヤーを切断していく。

それは人為的ではあったが、ハジメたちが使う"瞬光"の効果と酷似していた。

 

「守りが薄くなれば此方の物じゃ!」

 

ティオの爪が横殴りで機神を捉えようとするが、

その前に機神は障壁を張り、爪をガードする。

だが、ティオの攻撃はあくまでも誘い、本命は。

 

「貰ったです!」

 

シアのドリュッケンが弱点とされる左脚部を狙う。

だが、機神はその瞬間、四脚をたわませたかと思うと、

そのまま一足飛びで宙を舞い、ティオらを飛び越え、

ハジメらの目前へと着地しようとする。

 

が、ユエの障壁がそれを受け止め、

 

「"絶禍"」

 

さらにカウンターで放たれた重力魔法が機神を拘束し、

庭園の端へと吹き飛ばす。

 

「任せよっ!」

 

身動きが取れない機神へとティオは勝利を確信し、ブレスを放つ。

しかし機神は身じろぎするような動きを見せると、

あろうことがユエの"絶禍"を強引に振り切り、ティオのブレスを回避する、

もっとも無傷とは行かず、ブレスが掠めた箇所が黒く焦げてはいたが。

 

「……"絶禍"を振り切る……凄いパワー」

 

悔し気に呟くユエ、と、そんな彼女の耳に香織の悲鳴が届く、

どうやら治療を開始したようだ。

 

気にはなる……が、振り向かない。

心配するのは、もう自分の仕事ではないのだから。

 

(……香織は香織の、私は私のやるべき事を)

 

ユエの背後ではハジメの血液を浄化すべく、その血を自身に取り込む、

香織の姿があった。

全身を貫く激痛に悲鳴を上げながらも、それでも香織は魔法の行使を止めはしない。

その表情は激痛に対する苦悶のそれではなく、仲間を救える喜びに、

そして何より、愛する者に殉ずる悦びと、

 

(あ……あ、ああああああっ、私の中にハジメくんが入っていくう、私たち一つになって行くぅ)

 

愛する人に"初めて"を捧げる乙女のそれそのものだった。

 

(……私、ハジメくんと同じになれて……バケモノになれて……良かったよ)

 




長くなったので分割しました、後編も出来るだけ早くお届け出来ればと思います。

原作はワンサイドな展開が後半になるほど目立つようになるので、
たまにはハジメたち抜きで頑張って貰おうということで、こういう展開を用意しました。

それから香織の描写が少し際どいですが、そういう房中術めいたことは一切行っておりません。
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