ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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今回はいわゆる繋ぎ回です。


奈落Ⅱ

二十分ほど暖を取った後、二人は出発した。

どこにいるのかは分からないが、動き出さなければ何も始まらないだろうと。

 

「やるしかない、なんとか地上に戻ろう」

「うん!大丈夫、きっと大丈夫だよ」

 

それは自分に、お互いに言い聞かせるような響きがあった。

 

慎重に慎重を重ねて奥へと続く巨大な通路に歩を進める。

彼らが進む通路は正しく洞窟といった感じだった。

低層のついこの前まで自分たちが進んでいたいかにもな四角い通路ではなく

岩や壁があちこちからせり出している。

 

通路の幅は優に二十メートルはあり、

狭い所でも十メートル程はあるのだから相当な大きさだ。

歩き難くはあるが、逆に言えば隠れる場所も豊富であり、

彼らは物陰から物陰に隠れつつ慎重に進んでいった。

 

そうやってどれくらい歩いただろうか。

ハジメが肩で息を始めたのをジータが感づいた頃

ようやく巨大な四辻に差し掛かる、初めての分かれ道である。

 

「ここでちょっと休も、ね」

 

二人は岩陰に隠れひとまず腰を下ろし、

どの道に進むべきかを小声で相談しあう。

 

「せっかくだから赤の…」

扉を~とジータが冗談めかした事を口にしようとした時、

視界の端で何かが動いた気がして慌てて岩陰に身を潜める。

 

そっと顔だけ出して様子を窺うと正面の方向に

白い毛玉と長い耳が動いているのが見える。

見た目はまんまウサギだった……のだが、

 

しかしその大きさは中型犬サイズにも及び、

後ろ足もそれに比例し大きく発達しており、

そして何より赤黒いラインがまるで血管のように

幾本も体を走っており、しかも心臓のように脈打っている。

その禍々しさといったらない。

 

(あれ…やばいよね)

(クリティカルしそう…)

 

ハジメとジータはコクリと頷くと、直進は避けて右か左の道に進もうと決める。

ウサギの位置からして右の通路に入るほうが安全か?

 

ウサギが後ろを向き地面に鼻を付けてフンフンと嗅ぎ出す。

 

(行くよ)

 

ジータがハジメを促した時だった。

 

その瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスクリと立ち上がった。

耳が忙しなくあちこちに向いている、その仕草はまさしく警戒そのものだった。

 

(やばい! み、見つかった?)

(だ、大丈夫だよね?)

 

だが、ウサギが警戒したのは彼らではなく、別の理由だったことが

すぐに分かった。

 

 

「グルゥア!!」

 

 

獣の唸り声と共に、これまた白い狼のような魔物が

ウサギ目掛けて岩陰から飛び出してきた。

その白い狼はウサギよりも大きく、大型犬くらいに見え、

また尻尾が二本あり、やはりウサギと同じように赤黒い線が

体に走って脈打っている。

 

さらに一体目が飛びかかった瞬間、

別の岩陰からそれに呼応するかのように二体の二尾狼が飛び出す。

その様子を岩陰で観察しながら、

色は違うけどジェットストリームアタックみたいだとジータは思った。

 

ともかく二人はこのドサクサに紛れて移動しようと頷きあう。

捕食されるであろう哀れなウサギのことは一先ず置いといて。

 

だがしかし……

 

二尾狼よりもウサギの方が速い。

 

ウサギは飛び上がるや否や、その太く長い足で一体目の二尾狼に空中回し蹴りを炸裂させ。

狼の首をゴギャ!と一撃でへし折ってしまう。

ドバンッ!という衝撃波と同時にキュウ!と可愛らしい鳴き声も聞こえたが、

そのギャップがまたハジメたちの恐怖を煽る。

 

さらに二匹、三匹と次々とウサギのブレイクダンスのごとき、

高速回転キックの犠牲となっていく狼たち。

その惨劇に……二人は逃げることも忘れ、ただ硬直するしかなかった

 

と、二尾狼の最後の生き残りが唸りをあげて尻尾を逆立てると

なにやら尻尾の周囲にバチバチと火花が散り始める。どうやら二尾狼の固有魔法のようだ。

 

ジータは固有魔法についての説明を思い出す。

固有魔法とは詠唱や魔法陣を使えないため

魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。

一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。

魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

「グルゥア!!」

 

咆哮と共に電撃がウサギ目掛けて放たれる。

しかし、高速で迫る雷撃をウサギは軽やかなステップで右に左にと回避し、そして電撃が途切れた瞬間、回転蹴りを叩き込まれ、

やはり一撃で首をへし折られる二尾狼……。

 

(うっそおぉぉぉぉ!)

 

蹴りウサギは、

 

「キュ!」

 

と、そんな二人の内心での恐怖の叫びには一切構うことなく、

と、勝利の雄叫び? を上げつつ、耳をファサと前足で払い

勝利のポーズを決める。

 

(……嘘だと言ってよママン……)

(リ…リアルポーパルバニー)

 

顔に貼りついたような乾いた笑みを浮かべ未だ硬直が解けないハジメとジータ。

ヤバイ……これはヤバイ。

散々苦労したトラウムソルジャーは一体何だったのか?

もしかしたら力押ししかしてこなかったベヒモスよりも、ずっと強いかもしれない。

 

 

彼らは、「気がつかれたら絶対に死ぬ」と、

震えを止めることも出来ずとにかく後退る。

それが失敗だった。

 

カラン

 

 

あまりにベタなミスだが、彼らは下がった拍子に足元の小石を蹴ってしまったのだ。痛恨のミスである。互いの額から冷や汗が噴き出る。

祈るような気分で振り返り……蹴りウサギを確認する。

 

案の定、蹴りウサギの赤黒いルビーのような瞳が細められている。

二人を、獲物を捉えたという証である。

しかし、全力で逃げねばならないと分かっていても、

二人の身体は神経が切れたように動かない。

 

蛇に睨まれたカエル……その例えを否応なしに思い知る二人。

 

そしてついに蹴りウサギは体ごと彼らへと向き直る、その足に力を溜めて。

 

(来る!)

 

ハジメの本能が危機を悟った瞬間、蹴りウサギの足元が爆発し。

後ろに残像を纏わせ、信じられない速度で突撃してくる。

ハジメは、全力で横っ飛びをしてかろうじて回避するが。

今しがた自分が立っていた場所の陥没した地面の有様に顔面が蒼白になる。

そして蹴りウサギは、まさしく余裕といった風に再度ハジメに突撃する。

 

(間に合わない!)

 

ハジメは咄嗟に地面を錬成して石壁を構築する。

 

『ファランクス!』

 

ジータの叫びと共に石壁に障壁が展開される。

さらに、

 

『かばう』

 

自身へも障壁が展開される。

しかしその幾重もの守りを貫いて蹴りウサギの蹴りがジータへ炸裂する。

大きく後方に吹き飛ばされ外壁に叩き付けられるジータ。

石壁とファランクスで相殺してなおこの威力、直撃していれば今頃粉々だろう。

 

「ぐっ…は」

 

衝撃に一瞬意識を刈り取られたが、

内臓や骨に異常はないようだ。

それでもフラフラと起き上がるジータ、ハジメの姿を探す。

 

と…いた。自分の前方で呆然と明後日の方向を見ている。

 

「早く~」

 

逃げて、と言おうとしてジータもただ呆然と絶句する。

 

二人の視線のその先には巨大な魔物がいた。

その巨躯は二メートルはあるだろう、白い毛皮に赤黒い線を幾本も体を走らせた熊。

その足元まで伸びた太く長い腕には、三十センチはありそうな

鋭い爪が三本生えている。

 

その爪熊がただの一撃で蹴りウサギを粉砕していた。

 

(何…あれ)

 

ガタガタと歯の根を震わせるジータ。

いかに時折見せる強靭な精神を以てしても、

この光景は受け入れ難いものがあった。

爪熊はのしのしと悠然と蹴りウサギの死骸に歩み寄ると、

その鋭い爪で死骸を突き刺しバリッボリッグチャと音を立てながら喰らってゆく。

 

ハジメもジータも動けなかった。あまりの連続した恐怖に、

何より蹴りウサギだったものを咀嚼しながらも、

爪熊の鋭い瞳はずっと彼らを見据えていたのだから。

 

爪熊は三口ほどで蹴りウサギを全て腹に収め、

グルッと唸りながらハジメの方へ、次の食料へと体を向けた。

捕食者の目を向けながら。

 

恐怖に藻掻きながらも、叫び声を上げながらも

ハジメはなんとか捕食者から逃げようとする、だが…。

 

"無能"が、爪熊の斬撃からは逃れうる筈がない。

風がうなる音が聞こえると同時に強烈な衝撃がハジメの左側面を襲った。

そして、そのまま壁に叩きつけられ…なかった。

 

間一髪で気を取り直したジータが空中でハジメの身体をキャッチしたのだ。

その様はバレーボールみたいだなとジータは自分でふと思った。

だが勢い余ってジータもまた壁に衝突する。

 

「てっ」

 

頭を振りながらもハジメを抱えたまま立ち上がるジータ。

爪熊は…追ってはこない、何かを食べている。

なにあれ?人の腕みたい…。

 

チラリと視線を下に向けると…ハジメの左腕の肘から先が無くなっていた。

 

そして激痛とそれ以上の恐怖と現実に絶叫する二人

 

「「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」」

「僕の腕をたべたああああああ!」

「ハジメちゃんの腕をたべてるううううう!」

 

さらにジータの左腕に紫色の痣が走る。

それは寸分違わずハジメの切断された個所と一致していた。

 

「な、なんでなんでなの!」

「知らないっ!しらないよぉ!…あああああああっ!」

 

自分のモノでありながら自分のモノではない

そんな痛みに悲鳴を上げ、自分からハジメに抱きつきのたうち回るジータ。

 

やっぱりもっと早くカリオストロさんに聞いておくべきだったと

ジータは後悔したがもう遅い。

ハジメの腕を咀嚼し終わった爪熊が悠然と二人に歩み寄る。

その目には彼らは食料としか映ってないのだろう。

自分たちが食物連鎖の最下層に落ちてしまったことを恐怖を以って認識する二人。

 

「あ、あ、ぐぅうう、れ、錬成ぇ!」

 

己がただ一つ使える武器をハジメは無意識に頼り、それ故に活路が開けた。

 

背後の壁に穴が空く。

ハジメは爪熊の前足が届くという間一髪のところで、

ジータに抱き付かれた状態のまま穴の中へ体を潜り込ませた。

爪熊は咆哮を上げながら二人が潜り込んだ穴目掛けて爪を振るう。

凄まじい破壊音を響かせながら壁がガリガリと削られていく。

 

「うぁあああーー!錬成!錬成!錬成ぇ!」

 

自分にしがみつくジータを引きずりながらひたすら穴を掘り進むハジメ。

爪熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら

ハジメは少しでもあの化け物から離れようと連続して錬成を行い

奥へ奥へと進んでいく。

 

後ろは振り返らない。ただがむしゃらに錬成を繰り返しす。

地面を這いずっていく。

既に左腕の痛みのことは頭から消え去り、

生存本能の命ずるままに唯一の力を振るい続ける。

 

 

どれくらいそうやって進んだのか。

彼らにはわからなかったが、破壊音も咆哮ももう聞こえなかった。

 

「もう…大丈夫、大丈夫だから…これ以上は…」

 

そこでジータはハジメがすでに意識を失っていることに気が付く。

 

「~~」

 

しかしまた"ガリッ"と爪熊が壁を引っ掻いたような音がしたような気がして

ジータは口を塞ぎ身を竦めた。

叫ぶことすら、嘆くことすらままならない…。

まだ彼らの地獄は始まったばかりだった。

 

 




今回は叫んでばかりのジータちゃんでした。
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