6月14日付けの日間ランキング24位!
皆様ありがとうございます。
ということでまずは勇者のターンです。
ライセン大迷宮再攻略戦
ここはライセン大峡谷、かつては不浄の流刑地、処刑場とされ、
好んで分け入る者も無き魔境、それゆえに普段は静寂に包まれ、
せいぜい聞こえるのは風に揺れる樹々の騒めきと、
獣たちの遠吠え程度のものでしかないのだが……。
ここ数日は少々趣が違っていた。
突如夕日に照らされた赤銅色の岩肌が割れたかと思うと、
そこからまるで滝の如く、大量の水が放出される。
「「「「うわああああっ!」」」」」
そしてその水音と共に、岩肌から強制排出され泥を撥ねながら、
地面に叩きつけられバウンドする光輝たち。
それは彼らがまた大迷宮攻略に失敗し、振り出しへと戻されたことを、
意味していた。
「畜生……これで何度目だ」
「これで合計二十二回目のアタック中、六度目の強制排出だな」
ずぶ濡れになった黒衣を両手で絞りながらボヤく遠藤へと、
光輝が冷静な口調で指摘する。
「意外と落ち着いてるじゃねぇか」
「ここまでしてやられると流石に慣れてくるといいますか……」
そうカリオストロに言い返しつつも、光輝とて、かなり頭に来ているのは事実だ、
実際努めて冷静にあらんとしても、ツボを心得たミレディの挑発に、
何度も頭に血が上っては、子供だましに近いトラップの数々に引っかかり続けているのだ。
「南雲の言う通り、俺にとっては相性最悪の迷宮ですよ、それは間違いない…けれど」
「けれど何だ?」
「ミレディさんの……何より解放者の事を思うと、どうにも……」
幾千の時を経て、ひたすらに後継者を待ち続けていたミレディの気持ちは、
光輝にも十分に理解出来たし、何より僅かではあるが、王都で直接言葉を交わしてもいる。
それ故に彼は、ここまで散々な目に合わされているにも関わらず、
未だ冷静さを保ち続けてはいた……もっとも主だった理由は他にある。
「光輝殿!このままやられっぱなしになってはいけません!」
「そうっすよ!あれだけバカにされて黙ってる手は無いっす!光輝先輩!」
「待て!二人とももう日暮れだ、折角外に出れたんだと思ってだな、ここは」
自分の眼前で、ユーリとファラが青筋を立ていきり立ち、
また再び迷宮へと乗り込もうとするのを、制止しようとする光輝。
このかつての自分以上に直情的な二人の面倒を、事実上一人で見なければならないのだ、
自然、慎重にも冷静にもなろうというものだ。
「ですがっ……」
「ユーリ、堪えてくれ、勝負を急ぐなと俺に教えてくれたのは君じゃないか」
ユーリを宥めつつも、そんな彼の姿に光輝はかつての自分を重ね、
そしてそんな自分を見ていた、雫や龍太郎の心情を思いやらずにはいられなかった。
(心配かけてたんだな……やっぱり)
「ま、迷宮の中じゃ昼も夜もねぇわな」
例のククク笑いを浮かべながら、ここでカリオストロが動く、
どうやら若者たちの奮闘をただ見守るだけというのにも飽きたようだ。
ちなみに風に翻るそのエプロンドレスは、一切濡れてはおらず泥撥ね一つない、
一人だけちゃっかりと難を逃れていたようだ。
「お兄ちゃんたちっ!ここからはこのカリオストロちゃんにお任せだよっ!
れっつごうだよっ♪」
光輝らを促すかのように、クルリと擬態に満ちたポーズを取りながら、
ここでカリオストロは自ら先頭に立ち、岩壁に偽装された大迷宮の入り口を、
蹴り開けると、意気揚々と乗り込んだ、いや、乗り込もうとしたのだが……。
「真の天才の御業ってのを見せて……」
その言葉を最後に、カリオストロの姿が光輝らの前から掻き消え、
下から上へと頬を撫で上げる特有の風に気が付いた遠藤が、
慌てて後に続く光輝らを押し止める。
「うわ、落とし穴だよ、これ」
入口ブロックにぽっかり開いた穴を覗き込む遠藤。
「油断大敵を教える為ってのは分かるけどさ……」
「つくづく悪質っすよねぇ」
疲れ果てた表情で顔を見合わせる光輝とファラ、そして暫くすると背後に轟音が轟き、
大量の水と共に、カリオストロが迷宮から峡谷へと排出される。
「あんのアマァ!オレ様が下手に出ていると思ってナメやがって!」
先程までの余裕は何処へやら、血走った目で叫ぶカリオストロ、
ぐしょ濡れになった身体からは、怒りのあまりか湯気が立っているようにすら見える。
光輝らの苦闘については、涼しい顔で見ていた割りに、
我が身に災難が降りかかるとまた別の様だ。
「いい度胸だ、逆さ吊りにしてやるぜ」
「ちょ……カリオストロさんが術中に嵌ってどうするんですか」
今度は遠藤がカリオストロを止めに入り、そんな二人の姿に、
光輝たちも苦笑しつつ落ち着きを取り戻していく。
「いずれにせよ、こんな濡れたまんまじゃ風邪引くっすよね」
「健康管理も戦士の条件の内の一つ、これもガルストン隊長の教えであります」
「それに腹も減ったしな」
光輝の言葉を耳にすると同時に、タイミング良くカリオストロのお腹が鳴る。
「たく……しまらねぇ、で、どうすんだ?」
促すような視線をカリオストロは光輝へと向ける。
数々の助言こそしているものの、大迷宮に挑み始めて以降は、
全ての決定権をカリオストロは光輝に委ねていた。
例え彼本来の頼れる友がいなくとも、
チームのリーダーはお前なのだ、進むも退くもすべてお前次第なのだと。
「じゃあ、今日はここまでにして食事にしよう、それでいいな、皆も」
光輝の言葉に全員が頷き、こうしてライセン大迷宮へのアタックは、
一先ずお開きとなるのであった。
「ファラさんの作る食事はやっぱり美味しいな」
「言える、これが今じゃ楽しみだもんな」
お風呂に入り、服を着替えて、さっぱりとした気分でファラの作る夕餉に舌鼓を打つ、
光輝たち、やはり気分の切り替えには風呂と食事が一番である。
「へへーん、キャサリンさんとただ遊んでいたわけじゃないっすから」
どんなもんだいと胸を張るファラ、
彼女はただキャサリンと世間話をしていたわけでは決してなく、
大峡谷内で食用になる動植物の情報や、気候などについても、
ちゃんとリサーチをしていたのだ。
和やかな団欒が続く中、日本で食べたらきっと高いだろうなと、
やや小市民な感想を漏らしつつ、香草でソテーした小鳥の肉の味を楽しみながら、
遠藤がふと空を見上げると、日本では……少なくとも自分が住んでいる街では、
決してお目にかかれない、満天の星のカーテンがある。
「こんな状況じゃなきゃな……」
その呟きには、どこか自分を戒めるかのような響きがあった。
自分たちはキャンプに来てるわけでは決してないと、
そんな遠藤の心境を察したのか、光輝がその横顔に声を掛ける。
「全てが終わったら、皆でこの世界をちゃんと巡ろう、
戦いだけじゃない思い出を作るためにも」
そんなことを口にしつつも、檜山、近藤、そして恵里、
もうその思い出を作ることが許されない者たちの顔が、
光輝の頭の中に不意に過った。
そして翌日、鋭気を養った彼らは、またライセン大迷宮へのアタックを開始する。
一晩落ち着いて頭を冷やすことが出来たからか、今度は彼らにも策があった。
「浩介殿、大丈夫だと思ったらロープを引っ張ってくださーい」
「思ったらじゃねぇ!確実に大丈夫だと判断してからだ!
罠の傾向はオレ様のメモに書いた通りだ、いいか、お前に掛かってるんだからな」
「へいへい……」
ボヤキつつも、そろりそろりと一歩を踏み出していく遠藤、
その腰にはロープが括り付けられており、その先端は、
物陰に潜むカリオストロらの手に握られている。
これまでの失敗例について話し合った結果、彼らはある事に気が付いた、
遠藤だけ、何故か罠を受けたり、発動させた回数が異常に少ないということに。
そう、天之河光輝に取って、ここライセン大迷宮が相性最悪の場所なら、
遠藤浩介に取っては相性最高の場所であった。
そうなると話は早い、当人の複雑な思いは半ば無視され、
彼らは殆ど躊躇うことなく、遠藤を先導として大迷宮に挑むことを決定したのであった。
「うれしいけど……」
大迷宮攻略という大一番で、多少不本意な思いはあれど、
仲間の役に立てるというのは嬉しいことであるが。
「やっぱ素直に喜びたくないな」
腰のロープを忌々し気に見つめる遠藤、
これではまるで鵜飼いの鵜か、トリュフ探しの豚ではないか。
ましてや、この状況は自分が機械にすら見捨てられつつあるという証でもあるのだから。
そんなもやもやを抱えつつも、遠藤は床を這うように視線を凝らし、
罠の痕跡をカリオストロが記したマニュアルを元に探し始める。
『罠ってのはな解除されるためにあるんだ、特にこの迷宮の主の性格からして
必ずヒントは隠されている、傾向はメモの通りだ』
見つけさえすりゃオレ様が責任をもって解除してやると、
ドン!と薄い胸を自信ありげに叩く、カリオストロの姿を思い起こしながら。
(ええと……この場所には無さそうだな)
周囲の状況とメモを照らし合わせ、確実ではないにせよ、
ほぼ安全であろうという判断の元、遠藤は腰のロープを引っ張る。
と、物陰からカリオストロがまずは顔を出し、続けて光輝らも姿を現す。
「チェックする場所は全部見たんだけど、多分安全だと思う」
遠藤の言葉を受け、カリオストロも周囲を一瞥する。
「ま、オレ様の見た感じでも大丈夫そうだな、行くぞ」
ここからは一団となって進む光輝たち、そしてブロックの半ばまで進んだ時だった。
突如として周囲の光景が歪み始める。
「くっ!転移かっ」
カリオストロの声と同時に分断を警戒し、素早く一か所に固まる光輝ら、
そして光が一瞬走ったかと思うと、打ちっぱなしコンクリ住宅を思わせる
先程のまでの無機質な光景とは一変し、
まるで王宮を思わせるクラシカルな大広間が彼らの前に広がっていた。
「一定以上の人数がブロック内に入ると発動する仕掛け、
いやこれはワープゾーンだったんだな、やってくれるぜ」
一筋縄ではいかない厄介さに忌々しさを覚えつつも、どこか楽し気なカリオストロ、
もちろん項垂れる遠藤へのフォローも忘れない。
「今のはお前のせいじゃねぇ、オレ様が大丈夫だって言ったんだから、
オレ様のせいだ、そう思えばいい、と」
「どうやら我々は招かれざる客のようですよ」
剣を抜き放つユーリ、見ると大広間をずらりと固める騎士鎧が蠢動を始めている。
この大迷宮に挑戦して以来、何度も見慣れたシチュエーションだ。
「チッ!招いたのはそっちだろうが」
「ここからは俺たちの出番です」
「やるっすよ!」
ユーリに続いて光輝とファラも剣を構える。
「ガス欠にはなるなよ」
「分かってます」
ここライセン大峡谷、そして大迷宮は魔力の分解が極めて速く、
戦技、魔法の殆どを自身の魔力に依存している、
この世界の人間にとってはまさに忌むべき死地であり、
それが流刑の地と言われる由縁である。
事実、無尽蔵と言っていい魔力量を誇るユエですら、
大規模魔法の行使は、ほぼ不可能だったのである。
天翔閃、あるいは神威といった、勇者お得意の自身の大技で道を切り開き、
その後を仲間たちが続くというオルクスで培ったパターンは、
半ば封じられていると言ってもいい。
だが、勇者たる者、戦場を選ぶわけにはいかない。
むしろ過酷であればあるほど、不利であればあるほど、
勇者の存在が必要となるのだから。
その心意気を感じたか、カリオストロが指を鳴らすと、
光輝らの身体が力強くも淡い光に包まれる。
「ありがとうございます」
身体に漲る力を感じつつ、お礼の一言と共に、
光輝は先陣を切って突っ込んで来たゴーレム騎士の一団を、
纏めて真っ二つにする、しかしその背後から、今度はボウガンを構えた騎士が、
隊列を組んで一斉射撃を行う、その密度の高さに一瞬声を失う光輝、
避けられたとしても無傷と言うわけには……しかし。
「ここはアタシに任せるっす!」
ファラの叫びと共に、彼らの眼前に障壁が張られると、
放たれたボウガンの矢が勢いを失い、易々と光輝らの手により切り払われていく。
「解ってるとは思うが」
「こいつら再生しますからね……早くここから脱出しないと、頼む遠藤」
光輝の指示に応じ、遠藤が脱出口の捜索を開始する。
(やるようになったじゃねぇか)
そんな彼らの様子を見て、ほくそ笑むカリオストロ、
実はカリオストロに取っては、この大迷宮攻略の道筋は、
ほぼ解明されていると言ってもいい。
だが、あえてカリオストロは自身の役割を、ここまで助言、助攻のみに留めている。
この大迷宮を攻略するのは、自分ではなく、
あくまでも天之河光輝と、その仲間たちでなければ意味はないからだ。
(ちったあ試行錯誤してくれんとな)
何より相手が仮にも神を称するのであるのならば、
どれ程鍛えても、鍛えすぎるということは無いのだから。
もっとも、後にそれがある意味、過大評価であったことを、
カリオストロは知ることになるのだが、それは今のところは、
まだ別の話と言っていいだろう。
ハジメの原作中での悪手の一つとして、光輝の同行を許したことというのが、
自分の中ではあるんですよね。
原作の……互いにとかくイニシアチブを取りたがる二人が四六時中顔を合わせれば、
衝突するのは当たり前で、読んでるこちらもイライラしてしまうんですよ……。
ともかく、二人とも原作とはそれなりに違った姿を見せてはおりますが。
そういう思いもあって、今作では別行動を取らせています。