ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ベリアルHL、実装直後に不具合が連発したのはやはり狡知ゆえでしょうか?


勇者であるために

 

 

「薔薇の香水はお好きかしら!」

 

赤白黒紫、まずはそんなロゼッタの言葉と共に無数の花弁が舞い散り、

鼻腔を擽る芳香が空間を満たしていく。

 

「吸い込むな!毒だぞ!」

 

カリオストロの鋭い声に慌てて距離を取ろうとする光輝たち、

しかしそれを追うかのように、やはり毒棘を生やした蔦が四方から取り囲むように、

彼らへと迫って来るので、距離を取ることもままならないまま、

応戦に追われる一方である。

 

「これでは埒があかないねっ、お兄ちゃんたちっ」

 

蔦を切り払いつつも何処か楽し気な、

いや、これでいいのかお前ら?という含みが込められたカリオストロの声に、

光輝は何とか考えを巡らせ始める。

確かにこの状況では距離を取ることこそ、セオリーのように思える、

しかしそれこそ相手の思惑そのものでは……。

 

(ロゼッタさんは接近戦を嫌がってるのか、だったら)

 

「カリオストロさん、皆を頼みますっ!」

 

そう言うなり、光輝は聖剣の切っ先をロゼッタへと向ける。

 

「天落流雨!」

 

叫びと共に聖剣から放たれた光が拡散し、花弁を次々と焼いていき、

光を帯びた炎が空間の毒気を中和していく。

道が開けたことを確認すると、光輝は自身に続くユーリの気配を背中に感じつつ、

あら?と言った風な表情を浮かべるロゼッタへと斬り込んでいく、が。

 

空中から袈裟懸けに放たれた光輝の一撃を、手にした短剣で軽々とロゼッタは受け止める。

 

「いい一撃だけど、少し迷っちゃったわね」

「……」

 

図星を突かれ、光輝は唇を噛みしめる。

理屈では解っていても、見目麗しき美女へと刃を向けるは忍びないと思うのは、

やはり男の性であろう。

 

しかしそんな無意識化での僅かな手加減があったとはいえ、

易々と自身の一撃を受け止めた目の前の美女が、戦士としても格上であることを痛感する光輝。

だとすれば、自分の行った行為は非礼そのものではないかとの思いも、同時に彼の胸を打つ。

 

「でもお姉さんは手加減なんかしてあげないわよ」

 

そんな光輝の心中を見透かしたかのようなロゼッタその目が、

光輝を捉えたまま妖しく光る。

 

「自分も加勢するッ!行きますよ!」

 

そこでユーリが援護の斬撃を放とうとするが、あろうことかその剣は、

味方である筈の光輝の手によって妨げられる。

 

「ユーリ!ロゼッタさんになんてことをするんだ!」

「光輝殿……まさか魅了を」

 

ユーリの言葉通り、ロゼッタの魅了の魔眼の術中に嵌った光輝は、

タクトを振るうかの如きロゼッタの指先に操られるがままに、

怒りを漲らせた表情でユーリへと聖剣を振りかざす。

 

「見損なったぞ、君とは友達になれたって信じていたのに!」

「光輝殿!正気に戻って下さいッ!」

「俺は十分に正気だ!君こそ正気に戻れ!ロゼッタさんに謝れ!」

 

正気を半ば失っているがゆえに、明らかにリミッターが外れた、

それでいて狙いは正確という、厄介極まりない光輝の斬撃をすんでの所で、

なんとか交わして行くユーリ、だが……。

 

(避けられな……)

 

蔦に足を取られ、一瞬ではあったが僅かに隙を作ってしまう、

そこを逃さぬとばかりに、聖剣が眼前へと迫る、が、ユーリの鼻先数ミリのところで、

聖剣はピタリと動きを止める。

 

「ユーリ……どうした、あ……」

 

そこで自分がロゼッタに操られていたことを思い出し、

怒りと、そして何より戸惑いに満ちた眼差しで光輝はロゼッタを睨む。

 

「ひ、卑怯ですっ!」

「そうよ、敵ってのは大人ってのは卑怯なことをやってくるものなのよ」

 

光輝の非難に、むしろ我が意を得たりと微笑むロゼッタ。

 

「ですがっ……」

「言い訳無用だよ!コーくん」

 

コーくんと呼ばれ、思わずロゼッタの背後のミレディへと視線を移す光輝。

 

「ミレディの言う通りよね、相手に勝手な期待や幻想を抱いちゃダメ、

もちろん、私の美しさになら幾らでも見惚れてくれてもいいんだけど」

 

(この人は……今までの誰とも違う)

 

龍太郎や雫は言わずもがな、この地で出会ったメルド、ジャンヌ、そしてハジメ、

全員が格上でありつつも、こと戦いとなれば、真っ向勝負を好む傾向のある者たちであった。

だが目の前の美女は、そんな真っ向勝負とはかけ離れた、まさに翻弄するかの如くに、

自分たちを揺さぶってくる、こちらが尋常な勝負を求めれば求めるほどに。

 

にも関わらず、ロゼッタの言葉や態度には悪意は一切感じられない、

それはまるで幼子を諭す母親の言葉であり、仕草であるように光輝には思えてならず、

つまり自分は一人前の相手としても認めて貰えていない……。

その事実を光輝は何よりも恥じていた。

 

「このままじゃ……」

 

自分を信じて送り出してくれた仲間たちに、

そして今も付き従ってくれる仲間たちに申し訳が立たない、

脳裏に雫が香織が龍太郎が、そしてジャンヌやメルド、リリアーナ、

もちろんハジメとジータの姿も過る。

何よりこれまで多くの人々に師事しておきながら、

未だそれを生かすことが出来たと言いきれない、自分の情けなさを晴らさねばならない。

 

ロゼッタをそしてミレディを睨みつける光輝、

これまでのどこか遠慮がちな、胸を借りるという甘えは

その眼差しからはすでに消え失せていた。

 

「手ぶらで帰るわけにも、だからといって……」

 

『いいよ、重力魔法、欲しかったらあげるよ』

 

そんなミレディの言葉もまた光輝の頭の中を過る、確かに頑張りを成長を示せば、

例え戦いに敗れても、目の前の解放者は神代魔法を授けてくれるのかもしれない。

だが、それでいいのか?

 

「違う……ここまで来ておいて、ただ施して貰うわけだけじゃだめなんだ!」

 

光輝は吼える、相手がどれほど偉大で、かつ尊敬に値する存在であったとしても、

今は全力で越えねばならぬ、倒さねばならぬ敵なのだと自らに言い聞かせるが如く。

 

「俺は……いや、俺たちはミレディさん、あなたから必ず重力魔法を勝ち取って見せる

そしてロゼッタさん、あなたも必ず超えてみせる!」

 

多くの人々の支えがあったからこそ、今もまだ自分はここに立っていられるのだから、

その支えには応じねばならない。

 

「って、言ってるわよミレディ?どうするのかしら?」

「大きく出たねぇ~~そういう解りやすい男の子は大好物だよ、でもね!」

 

それとこれとは別!と言わんばかりに、ミレディが指を鳴らす仕草を見せると、

その合図に従い、騎士ゴーレムの一団が花園へと姿を現す。

 

「近くしか見えてないのに声ばっかりが遠く届く人間は、こうして痛い目を見るものだよ」

 

美しさの中にも威圧感を感じさせる薔薇の園に加え、

さらに自分たちへと迫る騎士ゴーレムを前にし、流石に狼狽の色を隠せず、

思わず遠藤は光輝へと問いかける。

 

「どうすんだよ、怒らせてしまったぞ」

「遠藤……よく聞いてくれ」

 

乱戦になろうとしている中で、仲間の名を呼ぶ光輝、

もうその姿を目で追う事すらしない、そんな事をしても無意味だし、余裕もない。

ともかく光輝は手短に遠藤へと要件を伝えていく。

 

「頼んだぞ、お前が鍵だ」

「けど……そんなで、本当に」

「やってみなけりゃ答えはゼロだ、それに南雲たちよりも戦力が劣る俺たちに、

考えつく勝ち筋は多分、これくらいだ」

 

(……そうだな)

 

自分のやれることをやる、それはかつて他ならぬ自分が光輝へと言ったことではないか。

 

「分かった、やってみる」

 

そう一言だけ告げると、スゥと見る見る間に、

自身の傍にあった気配が薄くなっていくのを感じる光輝。

 

(見事なもんだな……)

 

当人にしてみれば、複雑な思いも抱えてはいるのだろうが、

今となってはその力に頼るしかない。

 

「何か考えがあるみてぇだな」

「上手くいくかはわかりませんが……」

「ま、何事にも力任せだった頃よりゃマシになったようだな」

 

犬歯を剥き出し頷くと、カリオストロもまたゴーレムを迎え撃って行き、

光輝もまたユーリらと連携し、ゴーレムを自身の射界と誘導していく、

そしてゴーレムの一団とロゼッタとが一直線に並んだ時だった。

 

「神威!」

 

裂帛の気合と共に、光輝は高く掲げた聖剣を力強く振り下ろす。

 

「次は大技ってわけ?けど甘いわね」

 

ゴーレムもろとも、ロゼッタを守るように囲う薔薇の結界を除去すべく、

自身の決め技の一つである神威を放つ光輝、だが聖剣から放たれた白色光線は、

自身の眼前に展開するゴーレムたちこそ粉砕せしめたが、

ロゼッタの展開する茨の結界を突破することは叶わず、

あろうことか逆に光輝の背後に人の顔程もある、大輪の薔薇が花開いたと思った瞬間、

結界が吸収した、自身の攻撃のエネルギーがそのまま光輝本人へと弾き返される。

 

「ここはアタシに任せるっす!」

 

予想外の、しかも技の硬直のため回避も防御も出来ず、息を呑むしかなかった光輝だが、

咄嗟にカバーに入ったファラがそのカウンターの一撃を受け止める。

 

「ファラ、なんてことを!」

「持ちつ持たれつっすよ、一人で戦ってるわけじゃないんすから、先輩」

 

事前に障壁こそ張っていたのだろうが、それでも決して無傷とはいえない様で、

フラフラとファラは立ち上がり、戦列にまた戻ろうとし、少し休んで……、と、

思わす口にしようとした光輝に、今度はユーリの声が飛ぶ。

 

「光輝殿!お気になさらず、ファラは自分の役目を果たしただけです!」

 

ユーリの言葉に、また自分は誤ろうとしていたことを認識する光輝、

仲間を労わるのはもちろん大事なことだが、

それも戦いに勝利するためという大前提があってのこと、

ミレディの言う、声は遠くに届くのに近くしか見ていない……、

今の自分はまさにその通りではないか。

 

「ありがとう、二人とも後ろは任せた」

 

光輝は聖剣を握りなおすと、自らが切り開いた道を辿り、再びロゼッタへと吶喊する、

まるで自分にはこれしかないのだと言わんばかりに。

 

「そうよ、男の子は元気が一番よ!四の五の考えずにそうでなくっちゃ」

「そうやって人をいつまでも子供扱いしないでくれ!

あんたたちにとっては俺たちは相手にもならない、

ちっぽけな未熟者でしかないのかもしれない!けれど……っ!」

 

声を詰まらせ、視界を歪ませながらも、自身に迫る毒棘を生やした蔦を切り払い、

光輝は確実にロゼッタへと肉薄していく。

 

「君の気持ちがわからないわけじゃないのよ」

 

ロゼッタのその声には寂しげな……まるで長い時を生きる中で通り過ぎて行った若者たちを、

偲ぶような響きがあった。

 

「でもね、本気だから、真剣だから……ただそれだけでは届かない物もあるの、

そしてそれを分からせるのが大人の役目なの」

 

ロゼッタが指を鳴らすと、光輝の行く手を阻むように何かが落ちてくる。

そこにあったのは茨の蔦に全身を絡め取られた遠藤の無残な姿だった。

 

「人や機械は欺けても……植物には通用しなかったみたいね、忍者くん」

「くっ……すまねぇ……」

「乱戦に紛れて何か悪さをしようとしてたみたいだけど、残念だったねぇ~~」

 

合わせる顔がないとばかりに俯く遠藤、それとは対照的に、

別に自分が何かをしたわけではないのに、誇らしげに煽るミレディ。

そんな彼女に向って、ぐぬぬと歯噛みする光輝。

遠藤の隠密行動が通じない、それは完全に手詰まりになったことを意味していた。

だが……それでも遠藤の、いや、光輝たちの目は諦めた者のそれではない。

 

「それじゃ終わりにしましょ、おいたが過ぎる子たちにはお仕置きよ」

『アイアン・メイデン』

 

未だ衰えぬ光輝らの闘志、それを察してか、それとも察せざるのか、

ともかくロゼッタの指が優雅なタクトを振るうと、

茨の森が巨大なトラバサミとなって、そのまま光輝らを圧殺しようとする。

が、しかしその寸前、巨大な石壁が床から生えて光輝らを守る壁となる。

 

「そう簡単にやらせるわけにはいかねぇんだよ、引率者としてな」

「意外ね、無頼で知られる貴方がそこまで肩入れするなんて」

「ガキのお守もそれはそれで面白いもんだぜ、特にコイツはな、飽きさせねぇ」

 

光輝へとチラと視線を向け、それから豊かな金髪を掻き上げながら、

ロゼッタへと嘯くカリオストロ、いや、その言葉はロゼッタではなく、

むしろその背後のミレディに向けているかの様に聞こえた。

 

「また!往生際が悪いわね」

 

そんな中、スキを見てまた何かを仕掛けようとしたのか、

またしても茨に捕われ、床へと叩きつけられる遠藤、

茨の棘が全身に突き立ち、その黒装束が鮮血で湿っているのがまざまざと見え、

 

『リアンプルーヴ』

 

慌ててファラが回復アビリティを遠藤へと使用する。

 

「だ、大丈夫っすか?」

「そこは根性っす、だろ……ファラ」

 

俺だって少しはいい格好したいんだとばかりに、強がる遠藤、

まして、自分も召喚されて以来、それなりに酷い目にもあっているんだからと。

 

「よくも遠藤をっ!行くぞユーリ!」

「はい!相手の陣形を崩しますっ!」

 

奇襲が通じないのならば、やはり正面からの正攻法しかない、

そう作戦を切り替えたのか、光輝とユーリは茨とゴーレムが溢れる通路へと剣を構え。

 

「所詮小細工なんぞ、お前らにはどだい無理ってことか、チッ」

 

呆れ顔でカリオストロもまた二人へと続く、その間にも。

 

「いい加減になさい、私はともかくこの子たちを欺くのは並大抵の隠形じゃ無理よ」

 

これで幾度目だろうか?懲りずにまた何かを仕掛けようとしたのか、

茨に絡めとられ、棘に刺され、床に叩きつけられる遠藤、ファラが心配げにその顔を覗き込む。

 

「そんな顔すんなって……つか並大抵の……隠形な」

 

激痛に息を詰まらせ、のたうちながらも、

そんな呟きを漏らす遠藤のその目は、決して諦めた者の瞳ではなかった。




勝利のカギを握るのは?
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