「さて」
一息ついたところでカリオストロがおもむろに要件を口にする、
ここにやって来たのは、少年少女の保護者としてだけではない。
「この大迷宮も異変が起きてるって聞いたが……」
「うん、それなんだけど……見てよこれ」
ミレディが何かを操作するような仕草を見せると、
彼らの足下のブロックがせり上がり、天井を越え迷宮の最上部へと運んでいく。
そして幾重にも重なった、荊で縫い付けられたかのようなブロックの封を
ロゼッタが解くと、そこには……。
「空だ」
「すげぇ」
不意に言葉が光輝と遠藤の口を衝いて出る、ブロックから覗く僅かな裂け目、
そこには何処までも続く、果て無き蒼穹の空に浮かぶ島々があった。
その雄大な眺めに心奪われる間もなく、
次は最新科学とファンタジーが融合したかのような都市が、
そして、空に浮かぶ大陸ほどもある島々を行き交う飛空艇が彼らの前に現れる。
そんな万華鏡のごとく目まぐるしく変わる未知の光景に、夢中になる光輝たち。
魅せられるように遠藤は空間の裂け目へと手を伸ばすが、
何かに弾かれ裂け目に触れることは叶わない。
「お前らもまた召喚に縛られているからな……ま、そのあたりは、
ハジメに何とかしてもらえ、が、差し当ってはだな」
カリオストロが促す様に視線を向けると、ロゼッタがそっと裂け目へと手を伸ばす、
すると遠藤の時とは違い、スススと無抵抗に手は空間の先へと進んでいく。
「帰るだけなら帰れたのよ、けれど流石に放っておいて帰れないでしょ、
何処に繋がるかもわからないし」
「誰がやって来るかもわからねぇよな」
光輝は堕天司や幽世の徒の姿を思い起こす、
確かにあんな奴らが、またこの世界に大挙して押し寄せれば、
エヒトと戦うどころではない。
「なぁ……」
何かを問うような遠藤の声が光輝の耳に届く、彼が言わんとしていることは光輝にも分かる。
ロゼッタがもしも自分たちに協力してくれれば、
きっとエヒトとの戦いに於いて、大きな力となってくれるであろうことも、
そして恐らく自分が一声掛ければ、彼女はきっと協力を快諾してくれる筈だということも、
だが、光輝は遠藤へとそっと首を横に振る。
それは決して行ってはならないと、今の光輝はそう己を戒めていた。
召喚と言う正規のプロセスを踏んだわけでもなく、
あくまでも心ならず巻き込まれただけのロゼッタに、そこまで求めてはならない、
例え、彼女自身がそれを望んでいたとしても。
そんな光輝へと微笑むロゼッタ、その心中も決意もお見通しなのだろう。
「不器用ね……つくづくあなたって」
「俺にはこんなやり方しか出来ませんし、するつもりもないですから」
思えば、色々ともっともらしい理屈を口にしつつも、
結局のところ何でも当たって砕けろの精神で、ここまでやって来た、
やって来れてしまった。
そしてそれがたまたま今まで成功を収めていたに過ぎないことを、
今の光輝ははっきりと理解していた。
その成功にしても、陰で友人たちが尽力していたであろうということにも。
「なら……私も何も言わないわ、きっと私の言うべきことは……」
ロゼッタの瞳がミレディを静かに、試す様に射すくめる、
ここから先は任せたと言っているかのように。
「たく、本来ならね、私の方が君たちより年上なんだよ、そこんとこ分ってる?」
年上の威厳を示さんと、ニコチャン顔を何とかそれっぽく顰めようとするミレディだったが、
却ってユーモラスな仕草となってしまい、威厳も何もあったものではない。
「ま、帰れる内に大人しく帰っておけ、喚ばれたオレ様たちとは
そもそものプロセスが違うんだ」
「あら酷いわ、私は蚊帳の外ってわけかしら?」
「お前はメドゥーサよりは強い力があるが、かといってシャレムには及ばねぇ
もしも、機会を見送りズルズル留まりゃ、最悪、何処の世界にも居場所のない、
漂流者のような存在に成り果てるかもしれないからな」
「それは怖いわねぇ、ふふっ」
ジャンヌとはまた違う、ロゼッタの蠱惑的な笑みに光輝のみならず、
遠藤もユーリも一瞬見惚れてしまう。
その横でミレディとファラは、たく、これだから……と、呆れ顔である。
「と、そろそろ帰らせて貰うわね、ここまで来て長居は野暮の極みだし」
濃緑の密林に包まれた島、ロゼッタの故郷であるルーマシー群島の風景が裂け目に映る。
「そのまま飛び込んで大丈夫か?」
「ユグドラシルが何とかしてくれると思うわ」
島の守護を担う、大地の星晶獣の名をロゼッタは口にする。
「お元気で……と、言えるほどの付き合いでもないですが、それでもお元気で」
ごく自然にロゼッタに握手を求める光輝、そういう所は何というか心得てるなあと、
その隣で顔を見合わせる遠藤とユーリ。
「ファラとユーリも後でお土産話を聞かせてちょうだい」
ロゼッタが差し出された光輝の手を、優しく包むように握りつつ、
その仕草同様の柔らかな口調で放った言葉であるにも関わらず、
身の引き締まる思いで頷くファラとユーリ、つまりそれは必ず生き残れと言うことだ。
そしてロゼッタはそっとミレディにも耳打ちする。
「いつまで貴方はこんな所に籠ったままでいるのかしら?」
「……」
「感じているのでしょう、新しい風を」
ミレディはただ沈黙で応じるのみだ、だが、そんな頑なな態度に見えて、
その内心は揺れていることをロゼッタは見抜いていた。
だが、これ以上はこの世界を去る自分の役目ではない、
ここから先は貴方の仕事よと言わんばかりに、ロゼッタはカリオストロへと視線を投げ、
カリオストロもしっかりとその視線を受け止める。
「そんなんだから、そんなになっちゃうのよ」
と、それだけを口にし、ロゼッタは最後に遠藤へと顔を向ける。
「え……あ?」
しかしそこは突然の、しかもこんな美女に顔を向けられる経験など、
ほぼ皆無(カリオストロは除外)の遠藤君である、思わず面食らい後退ってしまう、が、
そこで光輝とユーリが遠慮するなよと、その背中を押す、しかし少し強すぎたようだ、
勢い余った遠藤の顔は、なんとすっぽりとロゼッタの胸の谷間へと収まってしまっていた。
しかし、そんなことで動じるロゼッタではない、むしろ大人の貫録と、
包容力をもってして、遠藤を優しく受け止め、包み込んでやる、
よく頑張りましたと言わんばかりに。
「君の諦めない実直さが勝利を引き寄せたの、もっと胸を張りなさい」
(む……胸は……もう……)
さらに言葉に出来ない何かを堪能するかのように、
身体を震わせる遠藤の頭を、そっとロゼッタは撫でてやるのであった。
(若い男の子って可愛いわ、やっぱり)
かくしてロゼッタは空の世界へと帰還し、カリオストロが後始末を終えた後、
ミレディは光輝たちに重力魔法を伝授すべく、自身の住居へと彼らを導く。
未だ薔薇の女王の温もり冷めやらぬ……夢見心地の遠藤を残したままで。
「うんうん、見込んだ通りキミいい線いってるよ」
神代魔法習得の儀式を滞りなく終え、
まずは遠藤へと満足げな声でしきりに頷くミレディ、そしてさらに。
「それにキミ!キミも凄い!」
ミレディは光輝に向かい声を弾ませる。
「君は重力魔法を操るために生まれたとしか思えないよ、バッチグーさ」
やはり天職"勇者"は伊達ではないなと思いつつ、
光輝を見つめるミレディとカリオストロの視線が交錯する。
巨大な才あれど、それを扱う資質に欠けている……カリオストロのみならず、
やはりミレディの目にも光輝はそう映っていた。
ミレディは大迷宮で見せた、全てをかなぐり捨てた光輝の姿を改めて思い起こす。
あんな前のめりな男である、放置しておけばどこまでも突き進んで、
挙句、破滅まっしぐらだ。
当の本人も完全にわかってやっているんだから、なおの事始末に悪い。
そして何よりも怖いのは…
「約束は約束、だけどね正直……君に力を授けて良かったのか、今でも迷ってるんだ」
「ミレディさん……」
それはどういう?と光輝は続けようとしたが、
ミレディの声……そして何より全身から漂う沈痛な雰囲気に口を噤む。、
「君のその歩もうとしている道は……尊いけれど、尊いだけの悲しい道だよ
君を大切に想う人たちを悲しませる道なんだよ」
その言葉もまた光輝の胸に深く突き刺さった、
それもまた彼の抱えるジレンマの一つだったからである。
困難に手を差し伸べてくれる友の存在に、背中を押され手を引かれ、
何とかここまでやって来た、決してただ一人で辿り着けたわけではないことを、
今の光輝は心得ている、いやようやく気が付いた、だがそれは逆を言えば……。
先だっての死闘を、血に塗れ戦う遠藤の、ファラの、ユーリの姿を光輝は思い起こす、
その友たちを死地へと追いやることでもあるのだから。
それを防ぐ道は二つ……だがその内一つは決して選べない、選ぶわけにはいかない。
光輝は腰に携えた聖剣へと視線を落とす、
これは捨てられない、捨ててはならない物なのだから。
ならば大切な存在であるがこそ、困難に手を差し伸べてくれる友だからこそあえて遠ざける。
でなければ、純粋な正義を遂行する存在になれない……その覚悟がなかったから、
自分は、自分を慕う少女に拭い難き罪を犯させてしまったのだから。
「俺が死ぬときは、誰にも思い出して欲しくない……そして俺も
誰の顔も思い出さずに……」
無意識に口を衝いたそれも、また彼の心の奥底の願望であった、
そしてその瞬間、光輝の頬に痛みが走る、ミレディが彼の頬を打ったのだ。
「全てを一人で背負い込もうだなんてただの自惚れだ!現実逃避だ!
自己満足だ!未来ある若者が今から楽な生き方を選ぶな!」
一人で勝手に抱えて勝手に悩んで勝手に苦しんで、その挙句勝手に死んでいく、
それは苦しいようでいて、その実、自分自身にしか責任を負わずに済む、
身勝手かつ楽な生き方……そうとしかミレディには思えなかった。
「なにが誰にも思い出して欲しくないだ!
しがらめっ!しがらんでしがらんでしがらみ抜くんだ!
関わって関わって関わり抜くんだ!」
大切な者を悲しませないようにと選んだ道が、
結果としてその大切な人々を悲しませることとなるのならば、
それこそまさに本末転倒である。
「君はまだ若いんだ!今からそんなでどうする!
これから先、君は何度もきっと失敗を犯す筈さ、けれどね、
迷って悩んで躓いてでも、それでも君は進まないと行けない、
そしてその度、泣いて起き上がって振り返って省みるんだ!」
光輝へと渾身の声で叫ぶミレディ、例え涙は流せずとも、
その姿は泣いているように遠藤には思えた。
「そこまで言うのなら、このガキを焚き付けちまった責任を取って貰わねぇとな
なんだかんだっても転ばないに越したことはねぇ」
ククク……と、笑みを浮かべるカリオストロ、どうやらここまでの展開、
全てこの自称天才美少女錬金術師の掌の中だったようだ。
「オレ様の本当の目的はな、ミレディ……お前をこの穴倉から解放しに来たんだ」
「それは……」
俯くミレディ、まんまと上手く乗せられてしまったという思いゆえか、
反論しようにも言葉が何故か出てこない。
「お前さんにとってのオスカー・オルクスがどれほどご立派で大切な奴だったかなんて、
オレ様は一切知らねぇが、例えヤツが束縛系のやな野郎だったとしても
数千年縛りゃ満足してるだろうさ」
ミレディのオスカーへの想いを承知の上でカリオストロは煽る、
王都に滞在していた僅かな間で、オスカーとミレディの関係を、
カリオストロは察していたのである。
「あの工房の設備を見ただけでもオスカー・オルクスが、
大した奴だったことくらいは分かるってもんだ、そんな奴が」
あれ程の力を誇る錬成師ならば、いや全ての創造に携わる者ならば、
未知なる真理を解き明かそうとせずにはいられない筈なのだから、
新しい世界へと羽ばたく者をどうして止めようか。
「どうせ誰もがいつかはあの世へ行くんだ、
だったら新しい世界ってやつを見届けてからでも遅くはねぇよ、何より」
カリオストロは親指で自身の背後に立つ光輝を指し示す。
「老いたる者はな、若人の糧にならなきゃな、しかもコイツは知っての通り、
若者長じて馬鹿者に成り兼ねねぇ、いや、すでに片足を突っ込んでいやがる」
一切オブラートに包まないその物言いに反論したげな光輝には構わず、
カリオストロはさらに続ける。
「何より不公平だろうが、ハジメにはあんだけ沢山付いているんだぞ、それに……」
ここから先は声を潜め、そっとカリオストロはミレディへと耳打ちする。
「仕返ししたいんだろ?ハジメとジータによ、散々してやられたんだろ?」
ギクリとした風に肩をすくめるミレディ、住居を破壊されたのもそうだが、
含み針を使った不意討ちに失敗し、小動物たちの慰み物になってしまった屈辱の記憶が、
まざまざと甦る。
「お前がそういうタイプだってのは先刻承知だ、ならなおの事ってやつだ
このバカをけしかけちまえよ、お前が育てた上でな」
「悪い冗談だよ、それは」
それでもしてやられたままというのは、やはり解放者の沽券に関わると思ってしまうのも、
また事実である、それに何より。
(放っとけないなあ、やっぱり)
溜息交じりで光輝を見やるミレディ、ここまで関わっておきながら、
このまま放って置けば必ず転ぶと分かっている者を、
そのままにして置く手は無いように思えた……問題があるとすれば。
(私の残り時間で……足りるかな)
「ということでぇ、あとは光輝お兄ちゃん次第だよっ♪」
口調こそ軽いが、カリオストロが自分を試していることを、光輝は悟っていた。
勇者ならば、目の前の解放者を動かしてみせろと、
この人も通わぬ大峡谷から連れ出してみせろ、それはお前の役目だと。
「俺は……あなたの人生に……これまでについて何も語る権利はありません」
どんなに言葉を飾っても、たかが自分が、幾千の時を経てなお、
同志たちとの誓いを守り続ける解放者へ語るべき言葉などあっていい筈がない。
それはあまりに烏滸がましいことではないか?
だから光輝はただ素直に心情を吐露することにした。
「だから……あなたの中に今も住まう、オスカー・オルクスや、ナイズ・グリューエン、
メイル・メルジーネ、ラウス・バーン、リューティリス・ハルツィナ、
ヴァンドゥル・シュネー、彼らの声に、まずは耳を傾けて下さい……、
そしてもしも皆さんが許してくれるというのなら」
「俺と共に新しい世界を、未来を歩んで欲しい」
言い終えてから自身の言葉を反芻し赤面する光輝、これではまるでプロポーズではないか。
「ぷぷぷ……そこで、そういうふーに言う?普通」
もちろん光輝が必死になって考えた言葉であることは理解は出来るのだ、
だがそれでも笑いを禁じ得ないミレディ。
(素直なのはいいけど……芸が無いのも困りものだなあ)
そこは自分が後から仕込んでいけばいいかと思い直す、得意分野だ。
「でも、いいのかい?ホントに……私たちはね、エヒトに一度負けたんだよ」
「でも諦めきれなかった、だから大迷宮を作った、違いますか、
それに起き上がって振り返って省みろって、俺に言ってくれたじゃないですか、なら……」
「……オーくんたちには、後で謝ることにするよ」
死せる者たちへの誓いを守ることと、今を生きる者たちを導くこと、
どちらが尊いかは、一概に答えを出していい筈がない。
だが、とりあえずは生者と共に止まっていた時間をまた動かす道を、
ミレディは選んだのであった。
「けど、こんなユカイな姿を衆目の元に晒すのは……私だってね女の子なんだよ、元は」
そこで待ってましたとばかりにカリオストロが高らかに宣言する。
「安心しろ!お前の身体も魂もオレ様が完全にオーバーホールしてやる」
ミレディの魂魄、そしてその仮初の肉体も明らかにガタが来ている、
このままでは早晩保たないことも、承知の上である。
「出来ればお前さんの遺体か遺骨が……いや、せめて遺灰か埋葬した墓土でもありゃ、
ベストなんだが、それと生前の写真も頼む」
そしてカリオストロに取ってはミレディの新たな肉体の生成、
光輝らに取っては死闘の骨休みということで、彼らはライセンから、
ここオスカーの工房に移動し、数日滞在していたのであった。
しかしながら休息もまた戦士に取って必要なこと、そういい聞かされてはいるのだが、
何もしていないというのは正直性に合わない。
それに、ついに待望の神代魔法を得たという充実感に身体が、心が疼くのを、
光輝は自覚していた。
徒に敵を求めること、まして力を弄ぶのは勇者にあるまじきこと、
そうは思っても、やはり新しく得た力を早く試したいと思うのは、ごく自然なことだろう。
(南雲たちは今はハルツィナだったか?で、次はシュネー雪原……か)
客間から複数の気配を感じる、恐らく遠藤たちも目が醒めたのだろう。
あとは……光輝は数日前から固く閉じられた工房の扉を、
少し不安げに見つめたその時であった。
「わぁ!」
「ぶっ!」
いきなり耳元で叫ばれた大声に仰け反る光輝、慌てて声のした方向、
自身の肩の上へと視線を移すと、
そこにはニコちゃんゴーレムではなく生前の美しき金髪少女の姿を模してはいたものの、
"ぷちりっつ"サイズにまで、スケールダウンされたミレディの姿があった。
「やっぱり人間はな、生まれた時の姿が一番なんだよ」
我ながら白々しいなと、自分の言葉を皮肉気に思いつつカリオストロが姿を見せる。
「ナリはこんなだがな、肉体の強度も魂魄の維持についても、
かなりのレベルの物が出来たとオレ様は自負している、
ま、年齢を考えて動きゃ、長持ちは保証するぜ」
「へへ……ねぇ、ところでさっきの驚いた?驚いた?」
「……っ」
反論しようとして、そういえばこの人はこういう人だったと思い返す光輝、
こんな人騒がせな人とこれからやっていけるのかと、一瞬不安も過るが。
「年齢って……さ、実際の所どれくらい……」
ミレディの神妙な声音に、カリオストロはそっと耳打ちする。
「そう……それだけあれば、何とかなるかな」
ミレディの言葉に身が引き締まる思いを覚える光輝、そう、彼女は、
恐らく残り僅かであろう自身の時間を自分に預けてくれているのだ……だから。
「そんな貴重な時間を……俺のために」
「ふうっ」
「わぁ!」
今度は耳に息を吹き替えられまたまた仰け反る光輝……まるで台無しだ。
しかしこういうしょうもない悪戯の一つや二つ……気にしてはならない筈だ、
そう、きっと。
「ま、いいじゃねぇか、発展途上の未熟者と全力を出せない半端者、
二人合わせて一人前だ、それに人生張りがありゃ、そうそうくたばりゃしねぇよ」
カリオストロのその言葉は、二人のこれからを暗示しているかのようでもあった。
「それにね、君のそのひたむきさは、一途さは諸刃の剣なんだ、
一歩間違えれば容易く悪に、正確には悪い大人に騙されて利用されかねないんだよ」
光輝の長所であると同時に、欠点である一途さ、
悪く言うなら思い込みの激しさについては、恐らく生まれつきの物で、
根本からどうこうするのは難しいと、ミレディは判断せざるを得なかった。
いわゆる"資質に欠ける"とはそういうことなのだ。
だから自分が動く、この巨大な才が人々に災いをもたらさぬ為にも。
(そういう私も……君に取っては悪い大人の一人なのかもしれないけど)
そう、天之河光輝にとって、いや彼だけではなく、
全ての若者にとってふさわしき道は、ミレディにとって一つだけであり、
その先にあるゴールへと彼を導くことが、自分の使命と彼女は心得ていた。
(いつか君をその剣から、勇者の責務から解放してあげるために……、
世界を使命を引き換えにしてでも守りたい、そんな誰かを見つけてあげるために
ありふれた普通の幸せを与えてあげるために)
かくして勇者と言う名の諸刃の刃は、解放者と言う鞘の中へと、
一先ず納まることが出来たのであった。
次回からはまたハジメのターンにもどります、
ということで勇者のオーバーホールはこれにて一段落です。
書いていて思ったのは彼はもちろん善人ではあるんですけど、
お祖父さんの善を信奉し、それを実現しようとする純粋(単純)な人という印象が強くなりました。
つまり自分自身の経験により培われた善ではないので、応用が利かないんですね。
何といいますか、導いて貰うことを心の奥底で欲していた男が、
導く側に回ってしまったというのも、原作での不幸の遠因だったと思うのですよ。
そして雫や龍太郎といった周囲の存在も、光輝に導きを求めて期待はしても、
理解してくれているとは、言い難い状況だったわけなので、
これでは上手く行く筈もないんですよね。
その導く存在にしても、どこまで行ってもこの男は、
お祖父さんの言葉にしか耳を貸さないのではないのかな?と、思わざるを得ず。
(光輝がシャアならば、完治お祖父さんはダイクンみたいな物でしょうか
カロッゾとマイッツァーじゃなくって良かったといいますか……
何でもガンダムに例えて申し訳ない)
実際、それで破滅一歩手前まで追い詰められたわけですから、
だからお祖父さんに匹敵する存在を与える必要があると思ったんですね。
メルドさんはあくまでもいい人、兄貴どまりだと思うので。
従ってジャンヌダルクと言う歴史上の偉人の名を冠する自分の鏡とも言える少女を、
ミレディ・ライセンと言う、かつて神に立ち向かった解放者を、
つまりお祖父さんと同等と思ってくれるであろう存在を彼に与えたわけです。
そして言い訳がましくはありますが、そんな男が他者の話を受け入れるための土壌として、
やはり挫折は必須であったかとも思います、少々過酷過ぎたとは思いますが。
純粋さからくるであろう一種の排他性と、濁を一切許せない狭量っぷりを何とかしない限り、
誰の話にも耳を貸さないだろうという思いが拭えなかったわけなのです。
ともかく最終章は彼らの見せ場もちゃんと用意してありますので、
(ハジメたちへの『仕返し』も、二人でちゃんと行う予定)
今暫くハジメたち共々この作品込みで見守って下されば幸いです。
それとタグ追加しました、覚醒という言葉はなんか違う気がしたのと、
時間がかなりかかったこともありますので、覚醒ではなく晩成という言葉を使うことにしました。